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マスター:漆原カイナ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/03/13


みんなの思い出



オープニング


 ―― 2013年 2月某日 06:07 都内 某埠頭付近 ――
 
「あ、俺っすか? ちょうど夜勤が終わったところなもんで」
 ベンチで隣りあわせた男に、俺はそう答えた。
 話は数分前にさかのぼる。

 まだ明けたばかりの空の下、俺はバス停のベンチに腰をおろしていた。
 手にはすぐ目の前に立つ自販機で買った、ホットの茶の缶がある。
 プルタブを上げようとした時、俺の隣に一人の男が座ってきたのだ。
 
 その男の見た目は若く、たぶん二十代あたりだろう。
 肌に直接羽織ったワイシャツにレザーパンツという服装に、闇色をしたストレートロングの髪。
 一見するとほっそりしているように見えても、実は結構な筋肉質であることがわかる。
 特に俺はかつての職魚柄、その点に関しては並の人間よりも敏感だった。
 
 その男は俺の隣に座ると、何をしているところなのかを問いかけたのだ。
 
「夜勤か。となると、この先の埠頭か」
 俺が夜勤明けであることを答えると、彼はバス停の更に先を見やる。
「おお。よくわかったっすね……っつっても、この時間にこの辺りにいるんだから当然か」
 彼の言う通り、俺の今の仕事場はあの埠頭。
 正確にはその中にある倉庫だ。
 
「その仕事は長いのか?」
 彼は更に話を振ってきた。
「いえ、まだそれほどってほどでもないっすよ」
 とりあえず俺は答えておくことにした。
 
「前にやってた仕事は……いろいろあって……。で、今はここで夜勤っす」
 俺が空を見上げると、先ほどよりも明るくなっていた。
「前の仕事?」
 案の定、彼は聞き返してきた。
 どうせ見ず知らずの男だ。
 俺は別に話してもいいと思っていた。
 もしかすると、誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
 
「前は……プロレスをやってたんすよ」
「プロレスか」
「ええ。プロレスは見る人っすか?」
「いや。すまんな」
「いえ……別にそんな。じゃあ、ウルフマスクって言ってもわからないっすか……?」
 
 ――ウルフマスク。
 俺がかつてプロレスラーとして活動していた頃の名前だ。
 
 登場した当初は『血に飢えた狼男』という設定の悪役レスラー。
 だが、ある時、所属する団体がとあるプロダクションとのコラボを行ったことが転機になった。
 そのプロダクションの女性アイドルと共演した俺――ウルフマスクは『少女と出会って愛を知り、守るべき者の為に戦うことを決意した』という設定でヒーロー側に転向。
 それ以来、人気はじょじょに上がっていき、一時期はプロレス以外の番組にも出ていたこともある。
 
 しかし、その活動が続くにつれ、俺はコラボしたアイドルとの仲を疑われ出した。
 はっきり言ってまったくの事実無根だ。
 確かに、仲が良かったのは間違いない。
 だがそれは、あくまで一緒に興行を盛り上げた仲間として連帯感を感じていただけだ。
 
 それに、俺も彼女も自分の仕事を愛していた。
 だからこそ、自分の仕事に影響が出るようなことは互いに慎んできた。
 
 それでもアイドルにとって恋愛沙汰は御法度。
 たとえそれが根も葉もない噂であっても、だ。
 そして彼女の事務所は、強引な手段でその問題を解決しようとした。
 
 息のかかった週刊誌に裏で手を回し、俺が傷害事件を起こしたというデマを流させたのだ。
 それによりイメージダウンしてからというもの、俺の露出は制限されるようになった。
 やがて俺はメディアから消されてしまい、ウルフマスクも姿を消した。
 裏で行われた工作の真相を知ったのは、結局、俺が消されてしまってからだった。
 
 団体の代表は最後まで俺に味方してくれたそうだ。
 だが、俺の団体と彼女のプロダクションの力関係から、強引に押し切られてしまったらしい。
 ともあれ、マスクを脱いだ俺は、あてもなく彷徨った末に、この埠頭へと行き着いた。
 
 幸い、人並み以上に体力のある俺は、そのおかげで稼ぎには困らなかった。
 高給だがハードな仕事を人並み以上にこなし続けられるおかげで、周囲からも頼りにされている。
 
 だが……俺は満たされないものを感じていた。
 
「――そうか」
 俺の話を聞き終えると、彼はただそれだけ言った。
 そして彼は、俺に向き直った。
 
「憎くはないか? お前からウルフマスクという仕事を奪った連中が――」
 その問いかけに俺は押し黙ってしまう。
 本音を言えば……今でも憎いのは変わらない。
 だが、どうしろというのだ。
 
 相手はメディアにある程度の影響力を持っている。
 その上、俺は個人で相手は組織だ。
 戦いを挑んだ所で、どうしようもない。
 
 彼は俺が押し黙ったのを肯定ととったのか、更に口を開いた。
「お前の強さを見せつけてやれ」
 言うなり彼は立ち上がると、俺の肩を掴む。
 信じられないことに彼は、俺の巨体を片手一本で軽々と持ち上げている。
 そして彼は、俺に向けてささやいた。
 
「お前はウルフマスクなんだろう?」


 闇色の髪の男は青年の肩を掴んだまま、彼から魂を吸い取る。
 魂を抜かれ、抜け殻となった身体を、闇色の髪の男は肩に担ぐ。
 そして男は、どこかへと去って行った。
 

 ―― 同日 07:30 都内某所――
 
 とあるアイドルプロダクションが所有するビル。
 始業に備えて解錠するべく、とある警備員は入口に立った。
「……!?」
 そこで警備員は、ビル前に人が倒れているのを発見する。
「大丈夫ですか!? ……あなたは!?」
 倒れている人物に駆け寄る警備員。
 そこで彼は、倒れているのが、かつてこのビルに出入りしていた青年――ウルフマスクとして活動していたレスラーだと気付いた。
 
 彼が助け起こそうとした時、青年の身体は異音を立てて異形へと変異していく。
 たちまち青年は、銀色に光る西洋鎧の胸当てに半袖の腕甲、そして同色の脚甲を纏う狼男へと変貌した。
 
「う……うわああああ!」
 変異が完了した直後、警備員は慌てて全速力で逃げ出した。
 

 ―― 同日 09:30 都内某所――
 
「ディアボロが出現したんだっ!」
 久遠ヶ原学園の教室。
 既に撃退士たちが集まった教室で、大山恵(jz0002)は教卓に立った。
 
 急いで現場の映像を出す恵。
 それを見た撃退士の一人が思わず声を上げる。
 きっと、このディアボロの姿に見憶えがあったのだろう。
「ウルフマスク!?」
 
 それに恵は頷いた。
「うん……! ウルフマスクそっくりの姿をしてるんだ。しかも、動きまでそっくりなんだよっ! それもきっと――」
 恵は端末を操作し、画面に青年の写真を出す。

「通報した警備員さんが言うには、ビルの前に倒れてた人がディアボロになったらしくて。その倒れてた人っていうのはがウルフマスクとして活動してたレスラーさんらしいんだ……。学園の方で、当時の所属団体の方に連絡して確認も取れたって……」
 辛そうに言う恵。
「周辺の避難は完了してるみたいなんだけど、プロダクションのビルの中にはアイドルとマネージャーさんが取り残されてるらしいんだ。深夜ラジオに生で出た後、終電がなかったからプロダクションの仮眠室にいたんだ、って聞いてる」
 
 そして恵は撃退士たちを見つめる。
「ウルフマスクは打撃、投げ、極め――その三つを兼ね揃えたレスラーだったんだ。だから、きっと強敵だと思う……でも、アイドルとマネージャーの二人はもちろん、ウルフマスクも救ってあげてほしいんだ。だからお願いだよ。ディアボロを……ウルフマスクを止めに行って」


リプレイ本文


「ウルフマスク殿の過去を考えるとかわいそうで御座るが、ディアボロとなってしまっては仕方なしで御座る……全力をもって撃破させて頂くで御座るよ!」
 現場であるビルの前で暴れるウルフマスクを見据え、静馬 源一(jb2368)は気合いを入れた。
 阻霊符を展開する源一。
 彼は更にスマートフォンを取り出す。
 スクリーン上に指を走らせ、源一は事前に検索しておいたウルフマスクの入場曲を再生する。
 大音量で流れ出す入場曲。
 ウルフマスクはそれに反応し、一瞬、動きを止めた。
 
「止まった……!」
 入場曲を流した源一以上に驚いたのは、與那城 麻耶(ja0250)だ。
「やっぱりウルフマスクにはまだ、レスラーとしての魂が残ってるんですばい」
 真摯な声で阿岳 恭司(ja6451)が麻耶に言う。
「自分の入場曲はレスラーにとって大切なものの一つだもんね……」
 やはりレスラーである彼等にしてみれば、ウルフマスクの気持ちがわかるのだろう。
 この依頼に臨むにあたって、二人はリングコスチュームを纏っている。
 麻耶は青と黒のツートンカラーで統一されたタンクトップとミニスカート、そしてリングシューズ。
 恭司は正義のヒーロー『チャンコマン』のコスチュームだ。

「んー……拘り過ぎるのも良くないんだけど、仕方ないかなぁ……」
 冴島 悠騎(ja0302)は麻耶と恭司の二人をじっと見つめる。
「今回ばかりは、撃退士としてというよりも、レスラーとして戦いなよ」
 二人に向けて頷いてみせる悠騎。
「だから今回は、私が二人を援護するよ」
 再び頷いてみせる悠騎。
 彼女に続き、陽波 透次(ja0280)も言った。
「僕も協力しますよ」
 今度は透次を見つめる麻耶と恭司。
「悠騎さん……透次くん……」
「その気持ち……無駄にはしないたい……!」
 麻耶と恭司は感謝で声を震わせる。
 
 一方、ウルフマスクは入場曲の流れる方へと向き直った。
 その視線を真っ直ぐに受け止め、源一は自作の『わんこマスク』を取り出す。
 マスクを被ると、源一は高らかに宣言した。
「ウルフマスク殿! いざ尋常に勝負で御座る!」

 その宣言に呼応し、麻耶は部室から持って来たゴングを取り出した。
「彼にはレスラーとして闘い、そして……誇りと共にその時を迎えて欲しいから……」
 静かに呟き、麻耶はハンマーを握る。
 そして麻耶は、ありったけの気持ちを込めてゴングを鳴らす。
 この瞬間、ウルフマスクVS撃退士の戦いのゴングが響き渡った。
 

 まず最初に仕掛けたのは源一だ。
 長所である素早さを活かした軽快な動きで、源一はウルフマスクの周囲を走り回る。
 ウルフマスクも巨体に似合わぬ俊敏な動きで源一を追跡するが、やはり素早さでは源一が勝るようだ。
 機を見ては源一を掴もうとするが、寸前の所で源一は彼の手をすり抜けていく。
 源一はもう一段階スピードを上げると、守勢から攻勢へと一機に転じた。
 一瞬の隙を突いて源一は垂直に飛び上がり、ウルフマスクの頭上を取る。

「渾身の一撃を受けるで御座るよ! 必殺! ソル・デ・レイ・ケブラーダ!!」
 跳躍状態から両刃の剣を大上段に振り下ろす源一。
 一方のウルフマスクはそれを咄嗟に避けようとする。
 そのせいか、剣はウルフマスクの頭部を捉えることはなかった。
 とはいえ、長大な刃は鎖骨部分に直撃し、甲高い音を立てて鎧をへこませる。

 決して小さくないダメージ。
 源一がそう思った瞬間、信じられないことにウルフマスクは少しも怯まずに源一を掴みにかかった。
 大きな攻撃の直後を狙われたとあって源一は避けられない。
 恐るべき耐久力にあかして源一を掴むと、ウルフマスクは源一を逆さまに抱え上げる。
「「あれは……!」」
 何かに気付いたように麻耶と恭司が叫ぶ。
「まさか何が起こるか……」
「……知っているのですか?」
 悠騎と透次が驚いて問いかけると、麻耶と恭司は大きく頷く。
「あれは派手さも説得力も申し分ない、最も有名なフィニッシュムーブの一つ――」
「そして、ウルフマスクが最も得意とする技――」
 互い違いに語る麻耶と恭司。
 そして二人は声を揃えてその名を告げる。
「「――垂直落下式ブレーンバスター!」」
 二人が告げると同時、源一は脳天から路面へと叩きつけられる。
 大技は見事に決まり、源一はダウンしたまま動けない。
 
 しかし、ウルフマスクはそれ以上追撃することをせず、源一には目もくれない。
「二人とも、源一君をお願いします」
「次は俺たちが行きますたい」
 麻耶たちに頷くと、悠騎と透次は源一を助けに向かう。
 既に興味が麻耶たちに移ったのか、それとも他の理由か、ウルフマスクは源一を救出する邪魔をしない。

 次の瞬間、麻耶と恭司は走り出した。
「いっくよー!」
 ダッシュからのドロップキックを放つ麻耶。
 彼女と同時に恭司もダッシュからドロップキックを繰り出す。
「私も全身全霊のプロレスでお相手する!」
 二人のドロップキックはウルフマスクへと炸裂し、鎧の胸部にクレーターを穿つ。
 だが、ウルフマスクは倒れない。
 ノーガードで攻撃を受けるのも構わず、ウルフマスクは上体を大きく捻り、豪腕を振るった。
 カウンターでウエスタンラリアットを受け、麻耶と恭司はその場に倒れ込む。

 次いで、ウルフマスクは悠騎と透次に向き直った。
「もう倒すしか……」
 ウルフマスクと対峙した透次が呟くと、悠騎もそれに頷く。
「いくよ。レスラーじゃないけど、私達も戦おう」
 悠騎に頷き返すと、透次はウルフマスクをしっかりと見据える。
「……ウルフマスクさん。せめてその腕前に敬意を払って」
 透次は白色の大鎌――ウォフ・マナフの力で金色の刃を形成し、距離を取って攻撃する。
 それに合わせ、悠騎も魔力で生み出した電撃を放つ。
 金色の刃も電撃も、ともにウルフマスクへと命中。
 だが、またもウルフマスクはダメージを厭わずに正面から反撃を仕掛けてくる。
(パワーじゃ勝てない……掴まれるとアウト。だから……多少卑怯でも、それが僕の全力)
 素手の相手に遠距離から攻撃することに多少の後ろめたさを感じながら、透次は姿勢を低くしてラリアットの回避を試みる。
 距離を取って攻撃していたことが功を奏し、透次は直撃を避けることができた。
 一方、悠騎は横方向に飛び退いてラリアットを避けようとする。
 やはり距離を取って攻撃していたことが幸いしてか、悠騎もまた、直撃を避けることに成功する。
 とはいえ、ウルフマスクのラリアットの威力は凄まじく、一部が当たっただけでも激しい衝撃が二人の身体に走る。
「なんて威力……」
 衝撃に耐えて立ちながら、悠騎は呟いた。
 

 その頃。
 千葉 真一(ja0070)、楊 礼信(jb3855)、城戸 新(jb4519)の三人は仲間達がウルフマスクを食い止めている間に、ビルへと潜入していた。
「……考えてみりゃ初陣だよな、気合入れねーと」
 新は入口にある見取り図をてきぱきと紙に描き写していく。
「……ともかく取り残されたと言う二人が心配です。心苦しいですけど、戦闘は皆さん達にお任せして僕達は救出の方を優先しましょう」
 二人の言葉に頷く真一。
 真一は先頭に立って正面に見える階段を上ろうとする。
 その時、新が声をかけた。
「待ってください。その階段よりも、あっちの非常階段の方が近道です。上がりきって出ればすぐ前が仮眠室なもんで」
 写した見取り図で把握したのだろう。
 新の特技に感心したように礼信は言う。
「すごいですね」
「任しといてくれよ、俺ぁこういうもん覚えんのは得意なんで」

 新の言葉に従い、真一と礼信は進路を変更。
 建物の裏手近くにある非常階段を駆け上がる。
 重たい鉄扉を押し開けて廊下に出ると、新の言う通り、仮眠室はすぐ前だ。
「本当だ。流石です、城戸さん」
「伊達や酔狂で地図書いてるわけじゃねえからな」
 言葉を交わす礼信と新。
 その横で素早くドアを叩くと、真一は仮眠室へと飛び込む。

「救助に来たぜ。怪我はないか?」
 状況を確認する真一。
 情報通り、中にいたのはアイドルとマネージャーの二人だ。
 二人は救助が来たと知ってか、すぐに飛び出そうとする。
「焦らないでくれ。今下で仲間たちが敵を食い止めてる。慌てて飛び出して鉢合わせしたくはないだろ?」
 その言葉で足を止める二人。
 彼女達に真一は水を向ける。
「……あのディアボロ。ウルフマスクそっくりだな」
 真一の言葉で二人は明らかにうろたえた。
「ウルフマスクさんの事は覚えてるのか?」
 その問いにアイドルの女性はすぐに頷く。
「彼がここにやって来る心当たりでも?」
 真一が問いかけると、アイドルの女性が口を開いた。
「もう、話した方がいいかもしれませんね」
 するとマネージャーの男性は彼女を制止する。
「待つんだ……これは天魔による事件だ。あの事とは何の関係も――」
「でも、あの天魔はウルフマスクさんなんでしょう」
 彼女の目を見て、決意が固いことを察したマネージャーはゆっくりと頷くと、もう何も言わない。
 改めて真一へと向き直った彼女はゆっくりと語り始めた。

 ――プロダクションの社長が、裏で手を回して偽情報を流した事。
 ――そして、それによってウルフマスクをメディアから消そうとした事。
 ――自分とマネージャーが事実を知ったのは、既に偽情報が流された後だった事を。
 
「彼がどんな人だったかを聞かせてくれ」
 語りながら涙を流し始めた彼女に、真一は優しく問いかける。
 彼女は泣きながらも微笑むと、再び語り出した。

「あの人は自分の仕事を……プロレスを本当に愛している人でした――」
 当時のことを思い出したのか、彼女はどこか楽しそうに語る。
 すべてを聴き終えた真一はスマートフォンを取り出した。
「貴方が今でも彼を信頼してくれているなら、その声を彼に聞かせたい。頼む」


「透次、そっちは大丈夫?」
 少しずつ蓄積したダメージで身体が悲鳴を上げるのに耐え、悠騎は気丈に問う。
「ええ……ですが、このまま二人でとなると……」
 透次の状態も似たようなものだ。
 次の攻撃は避けられるかわからない。
 そして、直撃すれば終わりだろう。
 
 ラリアットの予備動作に入るウルフマスク。
 その時、影手裏剣がウルフマスクに命中する。
「礼信、今のうちにみんなの怪我を治すんだ」
 手裏剣を投じたのは既に二人を避難させ終えた新だ。
「了解しました。助かります」
 その隙に礼信がダウンした面々をアウルの力で癒していく。
 礼信を攻撃させぬよう、新は更に手裏剣を投げつけて牽制する。
 治療を終えた後、礼信はウルフマスクを見つめた。
「……あなたにどのような理由があったかは僕には分かりません。ですが、ひとたび人々の敵に回った以上その存在を許すわけにはいきません」
 標的を礼信へと変更したのか、ウルフマスクは彼を睨みつける。
 だが、その間に真一が割って入った。
 睨む視線を受け止めながら、真一はスマートフォンを突き出す。
「聞こえるか。ウルフマスク、あなたを信じている人の声だ」
 真一が画面をタッチすると、アイドルの声が流れ出す。
『貴方が私を恨む気持ちはわかりますし、私が言えた義理ではないこともわかります……でも、もう止めて。これ以上、誰かを傷つけないで。だって……』
 声を聞いた途端、ウルフマスクは動きをピタリと止めた。
 しかし、すぐに怒りに任せたように激しく動き出す。
 まるでその声を振り払おうとするように。
 
 ラリアットを繰り出すウルフマスク。
 それを迎え討つべく、再び立ち上がった麻耶と恭司が動く。
「もう止めて、ウルフマスク」
 語りかける麻耶。
 奇しくもその声は、再生中のアイドルの声と重なり、更には告げる言葉も同じだ。
「『だって貴方は愛を知って、大切なものを守る為に戦うことを決意した正義のヒーロー……ウルフマスクなんだから』」
 重なり合う二人の声。
 それと同時に麻耶はドロップキックを繰り出し、恭司もそれに続く。
 先程と同じく、ダメージ覚悟でラリアットを放とうとするウルフマスク。
 だが、先程とは違い、麻耶と恭司の攻撃はここで終わりではない。
「先輩!」
「ブチョー!」
 麻耶はウルフマスクの左膝を、恭司は右膝を足場にして飛び膝蹴りを放つ。
「「Wウィザード!」」
 流石に効いたのか、怯むウルフマスク。
「手羽先フェイスロック! からの――ちゃんこ式ぃ……ブレーン! バスターッ!」
 更に、恭司が彼の背後から腕を極めて肩と首を同時に締めた後、渾身の力で彼を持ち上げ、落とす直前に強烈な回転を加えるブレーンバスターを叩き込む。
「俺は傷害事件起こしたなんてこれっぽっちも思ってないし! ディアボロになったとか今の俺には関係なか! 俺は今!一人のプロレスラーとして! ウルフマスクと同じリングでプロレスしてる! それだけで充分じゃ! プロレスやめて撃退士になった俺が、今またプロレスラーやって、
プロレスを続けてたあんたが、プロレスどころか人間やめてもうて……」
 恭司の万感の思いを受け止めつつ、まだ立ち上がるウルフマスク。
 彼の前に麻耶が立つ。
「やっぱプロレスって良いよね。やってやられて耐え抜いて。そして満身創痍でのフィニッシュムーブ……。さぁ……いっちゃうよー!」
 麻耶はウルフマスクの首、腕、脚を極めた状態で抱え上げた。
 そのまま飛び上がり、彼の頭を地面に叩き付ける麻耶。
 ――シャイニング・オーシャン・クインビーボム。
 麻耶のフィニッシュムーブが見事に決まり、ウルフマスクは動かなくなる。
 
 麻耶はそのまま彼をフォールし、待っていたかのように仲間たちもそれに加わる。
 恭司が加わり、源一が加わり、更に残る仲間達も次々とフォールにかかる。
 そして、全員での3カウントが始まった。
「3!」
「2!」
「1!」
 静かになった戦場に響き渡る『1』のカウント。
 ――そして麻耶は弔いの10カウントゴングを鳴らした。
(決して忘れないよ……ウルフマスク)


 数日後。
 ウルフマスクの汚名を晴らすべく頑張っていた源一にアイドルから連絡があり、彼は仲間と共に都内のビルに呼ばれていた。
「天魔は近くにいる人間を無差別に襲うだけです。悪意を持って誰かを狙ったとかじゃありません。強いて言うなら彼をディアボロにしてここに放置した悪魔。その悪意があったってだけです。彼は最後まで誇り高きプロレスラーウルフマスクでした。真実はそれだけで十分ですよね……僕は忘れない」
 透次の言葉に頷くと、アイドルはウルフマスクの覆面を麻耶と恭司に差し出した。
「これは……」
「一緒に仕事をした時、彼から貰ったものです。同じレスラーとして貴方たちが持っていた方がいいと思って」
 大切そうに覆面を受け取る麻耶。
 それをじっと見つめ、恭司は寂しそうに呟いた。
「あんたがいれば……プロレス界はもっと面白くなると思ってたんに……アディオス……ウルフマスク……」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 天拳絶闘ゴウライガ・千葉 真一(ja0070)
 バカとゲームと・與那城 麻耶(ja0250)
 チャンコマン・阿岳 恭司(ja6451)
重体: −
面白かった!:7人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
バカとゲームと・
與那城 麻耶(ja0250)

大学部3年2組 女 鬼道忍軍
未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
紫電一閃・
冴島 悠騎(ja0302)

大学部7年180組 女 ダアト
チャンコマン・
阿岳 恭司(ja6451)

卒業 男 阿修羅
正義の忍者・
静馬 源一(jb2368)

高等部2年30組 男 鬼道忍軍
闇を解き放つ者・
楊 礼信(jb3855)

中等部3年4組 男 アストラルヴァンガード
『九魔侵攻』参加撃退士・
城戸 新(jb4519)

大学部3年155組 男 鬼道忍軍