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「人界で広告に出演してTVに出演出来ると聞いて来たが、やはり緊張するのぅ」
美具 フランカー 29世(
jb3882)は興奮気味に周囲を見回す。
「おぉ! 本物のテレビカメラにガンマイクじゃ! やはりプロ用の機材はすんごいのぅ! これは気合いが入るというものじゃ!」
大道具や、撮影機材や、スタッフにいちいち感動する美具。
そんなわけでいつものシニカルでストイックな天使は姿を消し、撮影に一生懸命な役者が誕生していた。
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「崖上シーンTAKE1 よーい……アクション!」
好乃がカチンコで合図を出すと同時にカメラが回る。
緊迫した表情で崖上を走ると来崎 麻夜(
jb0905)と麻生 遊夜(
ja1838)。
カメラはその背後から追っていく。
緊迫した表情を見せるよう、ちらりと振り返る麻夜。
直後、麻夜はコンテにあった高所からのジャンプを行うとする。
だが、その前に麻夜の足元が大きく揺れた。
(えっ……!?)
まるで強力な打撃を与えられたかのように揺れる崖上。
その衝撃で足元の土が崩れ、あわや麻夜は落下しかける。
「おおっと!」
すかさず手を伸ばした遊夜が麻夜の腕を掴む。
しかし、二人分の体重がかかった遊夜の足元もまた、土がボロボロと崩れる。
(いくらなんでも脆すぎなのぜ……!)
焦る遊夜。
その時、ミハイル・エッカート(
jb0544)が遊夜に手を差し伸べる。
咄嗟にその手を掴む遊夜。
遊夜の手を掴み返し、ミハイルは叫んだ。
「げんきぃぃぃぃ!」
そのまま軸足を固めて遊夜を引き上げにかかるミハイル。
彼に続いて、遊夜も叫ぶ。
「ばぁくれつぅぅぅ!」
叫んだと同時に麻夜を崖に手が届く位置へと引き上げる遊夜。
そこからミハイルが麻夜を完全に引っ張り上げ、救助を果たす。
そして、ミハイルと麻夜によって遊夜も無事に引き上げられ、事無きを得た。
無事、崖上へと戻り、固い握手を交わす三人。
三人はポケットからミナギルンΩを美味そうに飲み干す。
直後、三人はビンをカメラに向け、いい笑顔で言った。
「「「元気爆裂ミナギルンΩ!!」」」
数秒後、好乃の声が響き渡る。
「カット! OKです! すっごい良い画が撮れましたよ! いや〜、まるで本当に焦ったみたいな表情! 実に迫真の演技でした!」
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「岩石シーンTAKE1 よーい……アクション!」
好乃がカチンコで合図を出すと同時にカメラが回る。
崖上を見上げるリョウ(
ja0563)と紅鬼 姫乃(
jb3683)の二人。
ややあって、二人は崖を登り始める
しばらく登った頃、大量の岩が一斉に転がってくる。
コンテでは一個ずつ転がってくることになっていた。
その上、どうやら岩の総数も予定より多いようだ。
(仕掛けの誤作動か!? だとしたら――)
焦りかけるも、すぐに冷静さを取り戻すリョウ。
「紅鬼、回避できないなら破壊するんだ!」
姫乃に言うと、リョウはミナギルンΩを一気にあおる。
空になった瓶をポケットにしまうと同時、リョウはアウルを足裏へと収束。
崖をまるで平地のように易々と駆け上がる。
凄まじい速度で転がる岩が次々に襲い来るが、リョウはそれを紙一重でことごとく避けていく。
しかし、さしものリョウもすべて避けきるのは難しいようだ。
避け損ねた岩がすぐ前に迫る。
「くっ……!」
咄嗟にリョウはアウルの炎を槍の形に収束し、眼前の岩へと放つ。
炎の槍が直撃し、岩は粉々に砕ける。
一方、姫乃は転がってくる岩を避けずに待ち構えていた。
「うずうずするぅ……あぁ、早くめちゃめちゃにしたいの……」
ここで姫乃もミナギルンΩをあおる。
直後、闇のオーラを脚に纏う姫乃。
そのまま姫乃は転がってくる岩へと蹴りを叩き込んだ。
スタッフに当たりそうなものを優先的に狙い、姫乃は次々に岩を蹴り砕いていく。
ややあってすべての岩を砕き終えた姫乃は、悠々と崖上へと登っていった。
崖上で合流した二人は瓶をカメラに向け、やはり良い笑顔で言う。
「「元気爆裂ミナギルンΩ!!」」
ややあって、好乃の声とカチンコの音が聞こえてくる。
「カット! 一発OK! これも良い画が撮れましたっ! 予定よりも派手な演出にするアドリブも良かったですね!」
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「……確かに撃退士なら特撮や編集の技術なくてもあーゆー映像取れると思うけど……人助けになるならやりたいよな、うん」
仲間達の撮影風景を見守りつつ、礼野 智美(
ja3600)は折りたたみ椅子に座ってコンテをチェックしていた。
コンテを見ていた智美はそこで何かに気付き、首をかしげつつコンテと撮影場所を見比べる。
智美の見ているコンテによれば、次のシーンは、『滝のでっぱりに引っかかった登山リュックをロープ伝って降りて取る』というものだ。
しかし――。
「滝に中洲らしいもの、無いですよね」
もう一度コンテと現場を見比べる智美。
(色々妨害はあったらしいけど……ここまで念入りな妨害、普通するか……? ……天魔絡みじゃないだろうな……)
その時、智美は視界の端にある坂道で起きた異変に気付いた。
「て……あの。機材積んだトラック……何か、動いてないか……!?」
気付くが早いか、智美は即座に全身の筋肉へとアウルを流し込んだ。
弾かれたようにトラックの前へと飛び出すと、智美は目にもとまらぬ速度で両手を前に突き出す。
坂道を走ってくるトラックのバンパーに両手を叩き付ける智美。
そのまま智美はトラックを止めにかかる。
流石に走ってくるトラックが相手では簡単にいかない。
靴裏で轍を引きながら、智美は後方へと押されていく。
だが、智美は両脚を踏ん張ると、更なるアウルを全身の筋肉に循環させる。
「はぁぁ……せいっ!」
裂帛の気合とともに、渾身の力をぶつける智美。
そして、驚くべきことが起きた。
なんと、トラックが止まったのだ。
「ふぅ……」
安堵の息を吐く智美だが、好乃の声ではっとなって顔を上げる。
「カット! 素晴らしいスペクタクルシーンです!」
いつの間にか撮影されていた事に智美は驚く。
「あの……元気爆裂の部分は……?」
「あ、それは別撮りするんで大丈夫ですよ」
「……はい、了解しました」
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休憩時間。
雁鉄 静寂(
jb3365)ともに崖上に来たリョウは、先程の撮影に使った岩を調整する仕掛けを確認していた。
「――雁鉄、これをどう見る? そう簡単に壊れる仕掛けではないのだがな」
仕掛けは破損しており、そのせいで岩が一斉に転がってきたようだ。
「やはり意図的な妨害でしょうね」
静寂も破損した仕掛けをじっと見つめる。
既に二人は仲間達にも確認を取っていた。
崖崩れにトラックの発進、どちらにもこの岩と仕掛けと同じく不自然な点がある。
妨害者の存在を二人が考察し始めた時だった。
「……!」
リョウは遠く離れた岩陰を一瞬だけ通り過ぎて行ったものに気付いた。
通り過ぎたのは黒い身体をした悪鬼だ。
それを見て、リョウは確信したようだった。
「あれは先日の依頼で交戦したのと同型の個体。なるほど、井上女史の大切なものをぶち壊す為の妨害――というわけか」
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一方その頃。
撮影に参加予定のスーツアクターである青年は現場に向けて歩いていた。
その前に、一人の少女が横道からひょっこりと現れる。
少女は青年を見上げ、彼の目を見つめた。
「アンタは無事撮影を終えた。いいわねぇ?」
妖艶な声を聞いた直後、青年は虚ろな目をして復唱する。
「俺は無事……撮影を……終えた」
そして、青年は踵を返して去っていく。
彼の背を見つつ、少女はヘアピンで留めた前髪を直す。
「こっちは済んだわねぇ。後は――」
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その後、次のシーンの準備があるという美具と静寂を除いたメンバーで撃退士たちは対策を話し合った。
結果、スタッフには知らせず撮影を続行。
並行してスタッフを密かに護衛するということになった。
そして、撮影を再開しようと佳乃が立ち上がった時だった。
黒い悪鬼が全速力で走り、現場へと乱入してきたのだ。
「え? アクターさんってもう入りしてたの? まぁいいや……カメラさん! お願いします!」
戸惑いつつも撮影を開始する佳乃。
そんな彼女に向けて、悪鬼は拳を振り上げた。
「え……!?」
豪腕が佳乃に振り下ろされる寸前、悪鬼の胸板に何発もの銃弾が炸裂する。
そのダメージで悪鬼は思わず膝をついた。
「やれやれ、不安的中ってか?」
遊夜の声で振り返る佳乃。
見れば、遊夜とミハイルが硝煙をたなびかせる銃を構えている。
「こ、これって……」
驚く佳乃に、ミハイルは冷静に言う。
「ああ。本物の天魔だ。どうやらさっきからのスペクタクルな演出は全部こいつの仕業だったらしいな」
撃退士であるミハイルの口からその事実を聞かされたことも手伝って、佳乃は途端に震え出す。
「す、すぐに撮影を中――」
佳乃が言いかけたのをすかさず遊夜が遮る。
「中止はマズインだよな?ま、このくらいなら問題ないさ。キッチリ守るから、良いシーン逃さないでくれよ?」
ケラケラと笑う遊夜。
その隣でミハイルも力強く頷く。
「こんな絵はなかなか撮れないぜ。社運がかかっているんだろ、俺達に任せろ。大スペクタクルを期待しておけ」
中止――という言葉を呑み込んだ佳乃。
その瞳をリョウはじっと見つめる。
「……撮影は続けましょう。諦めず希望を捨てない。それが奴らへの何よりの対抗策です。大丈夫、貴女は俺達が護ります」
一方、悪鬼は銃撃のダメージから立ち上がり、再び佳乃へと襲いかかる。
ミハイルは即座に佳乃を庇うように立つと、ちらりと振り返ってウィンクする。
「よし来たか。ちゃんと撮っておけよ?」
多めにアウルを充填し、銃弾を放つミハイル。
いわば強装弾と化したアウルの銃弾を腹部に受けて、悪鬼は後方へと吹っ飛ばされる。
すかさず遊夜たちも動いた。
「わぁ、本物みたいだー」
「わー、最近の着ぐるみってまるで本物みたいだねぇ」
棒読み口調で言いつつ、遊夜と麻夜は悪鬼に銃口を向ける。
直後、二人は躊躇なく銃弾を悪鬼へと叩き込んだ。
「ガ……ァッ!」
呻き声を上げる悪鬼。
彼は悪鬼は焦っていた。
主は言っていた。
敵は着ぐるみだと思って油断している――と。
だが、実際はどうだ。
敵の攻撃は本気そのもの。
使ってくる武器も技も本物ばかりだ。
悪鬼は手の平を前に突き出した。
「マ、待テ……!」
すると遊夜と麻夜は再び棒読み口調で言う。
「まるで本気の命乞いだー」
「なんてリアルな演技なんだろー。きっと、仕事熱心なアクターさんなんだねー」
再び銃撃を開始する二人。
たまらず悪鬼は全力疾走で逃げ出す。
しかしその先にはリョウと智美が先回りしている。
「何処かで見た事があると思ったら……。相変わらず品の無い眷属だ。主の程度が知れるぞ」
「一体ならここにいる皆と協力したら、佳乃さん達に傷なんてつけさせずに倒せる!」
凄まじい気迫とともに、二人は槍の一撃を悪鬼へと叩き込む。
リョウに至っては、スキル発動に際して、映像映えするように通常よりも派手に光柱を立てている。
更にそのまま、リョウは槍の形にしたアウルを悪鬼へと投げつける。
それが直撃し、更なるダメージを受ける悪鬼。
二人との交戦は危険と判断し、再び逃走へと入る悪鬼。
悪鬼は走りながら腕を振るい、進路上にいた姫乃を弾き飛ばす。
「ドケ!」
その攻撃によって吹き飛ばされ、足で着地するも土煙を上げつつ後ろへ滑っていく姫乃。
姫乃はミナギルンを一口飲むと、翼を羽ばたかせて砂埃を払いながら空へと舞い上がる。
それに伴い、姫乃の髪が紅く染まり、オーラの火の粉が散る。
戦闘態勢に入った姫乃が危険だと判断したのか、悪鬼は飛んで逃げようとする。
だが、離陸した直後に、姫乃によって蹴り落とされた。
「あら? 飛ぶ許可は与えていないでしょう? 出直してきなさ、い!」
墜落して地面に激突する悪鬼。
もはやなりふり構わず、悪鬼がそのまま這って逃げようとした時だった。
「暴れ馬じゃ〜! 誰か止めてたもれ!」
少女の叫び声と激しい蹄のような音が聞こえてくる。
慌てて振り返る悪鬼。
声のした方からは暴れ馬、もといそれに見たてた馬型の召喚獣が走ってくる。
召喚獣の背には美具が乗っており、その様子はさながらロデオだ。
何を隠そう、美具は次のシーンである『暴れ馬編』の撮影の為に、少し離れた所で準備していた。
だが、リハーサルの最中、召喚獣も張り切りすぎていつもり大目に暴走してしまったのだ。
その結果、この場に突っ込んできてしまったのだった。
暴走する召喚獣はそのまま悪鬼の方へと一目散に突っ込み――。
「グェ……!」
そして召喚獣は悪鬼を見事なまでに踏みつけていった。
ロデオをしながら撮影場所を大暴走する召喚獣と美具。
その前に颯爽と静寂が現れる。
「お任せを!」
静寂は冷静に馬の轡を押さえる。
「どうどうどう」
馬をなだめる静寂。
「大人しくせい!」
美具も馬上から手綱を捕える。
二人の尽力によって、何とか召喚獣は大人しくなる。
馬上から降りた美具は静寂と並び立つ。
そこでカメラに気付いた美具は静寂とともに、笑顔で瓶を向ける。
「「元気爆裂ミナギルンΩ!」」
倒れた悪鬼を背にしてキャッチコピーを言い終えると、美具は悪鬼へと駆け寄った。
気絶している悪鬼を助け起こし、すぐさま平身低頭する。
「すまぬ! 大丈夫か! 撮影に張り切り過ぎてしまってな! ……しかし、まっこと精巧な着ぐるみじゃのう……はっ! いかん、それよりもこの演者の身体の心配じゃ! 気を確かに持て、傷は浅いぞ!」
その後、美具へはちゃんと事情説明がなされた。
また悪鬼も完全に退治され、スタッフの安全も確保された。
撮影は無事終わり、最後に全員で美味そうに飲み干す集合絵を撮ることになったのだ。
「俺達が戦えるのはミナルギンのおかげだ!」
並んだ撃退士を代表して、ミハイルがカメラ目線で言う。
「元気爆裂ミナギルンΩは平和を守る撃退士の俺達も飲んでるぜ」
その後、八人全員が瓶をカメラに向け、良い笑顔で唱和する。
「「「「「「「「元気爆発ミナギルンΩ!」」」」」」」」
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数日後。
CMは完成し、無事放送された。
放送されるなり、CMは全パターンが『まるで本物のようなスペクタクルさ』と話題になった。
そのおかげか、ミナギルンΩは当初の予想を上回る売り上げを出したという。
そして――。
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休日に東京を訪れたミハイル。
道行く彼に気付いた小学生がやおら彼の前に飛び出してくる。
「元気爆裂ミナギルンΩ!」
手に持っていたミナギルンΩの瓶を前に突き出して言うと、小学生は走り去っていく。
「まだ午前中だってのに、今日だけで三度目だぜ」
苦笑するミハイル。
聞く所によれば、他のメンバーもこんな調子らしいということだった。