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マスター:漆原カイナ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/02/23


みんなの思い出



オープニング


 ―― 2013年 2月某日 12:15 都内 某公園 ――
 
「おじさんの会社はね、なくなってしまったんだよ。だから、することもなくて歩いていたんだ」
 昼前の公園でベンチに座った私は、偶然隣に座った少女にそう答えた。

 ついさっき、私はとある事件に巻き込まれたのだ。
 結局、私は怪我らしい怪我をすることもなく助かった。
 取りあえず通報した私だが、特にすることもない。
 
 二人ともしばらく無言だったが、その沈黙を破ったのは彼女からだった。
 なぜ、こんな時間にここにいるのかを私に聞いてきたのだ。
 そして、私はさっきまでのことを話し始めた。


 ―― 同日 11:20 東京都某所 ――
 
 話は約一時間前にさかのぼる。
 通勤ラッシュの時間帯からも外れ、人通りのすっかり少なくなったオフィス街。
 その一角を歩いていた私は突如として怪物に出くわした。
 二メートル半は優に超えていそうな身長と大の大人が子供に見えるほどの肩幅という巨体。
 肌の色は赤錆たような色をしていて、筋骨は隆々。
 額には円錐形の一本角、口元には乱杭歯、目つきは鋭く瞳は白一色。
 服装らしい服装は纏っておらず、幌を巻き付けているだけ。
 極めつけは、長大な上に打撃部分に無数の粒がついた、鉄柱のような金棒を肩に担いでいることだ。 
 ――絵に描いたような典型的な人喰い鬼がそこにいた。

「ビビレコラァ!」
 私と出くわすなり、人喰い鬼は開口一番にそう叫んだ。
 叫ぶなり人喰い鬼は金棒を私のすぐ横に叩き付ける。
 巻き起こった風と靴裏を伝う衝撃、そして、巻き上げられた土くれが私に触れる。
 しかし、私は不思議と恐怖は感じなかった。
 
「泣ケコラァ!」
 私が驚かないと知ると、人喰い鬼は再び地面に金棒を叩き付ける。
 すると衝撃が伝導したのだろうか、私の背後に路上駐車されていた自動車が飛び上がってひっくり返る。
 だが、私はまたも恐怖を感じなかった。
 
「喚ケコラァ!」
 まだ驚かない私に向けて、今度は人喰い鬼が金棒を放り投げた。
 ブーメランのように回転する金棒は私のすぐ前の路面に深々とめり込む。
 それでもまだ、私は恐怖を感じなかった。
 
「叫ベコラァ!」
 人喰い鬼は私に向けて近付くと、放り投げた金棒を引き抜きがてら私を近くのブロック塀に押し付けた。
 左手で私を押しつけ、右手で私の顔のすぐ横を殴りつける人喰い鬼。
 私の背後でブロック塀が砕けるが、そこまでされても私はまだ恐怖を感じない。
 
「次コソ、ビビラスゾコラァ!」
 遂に観念したのか、人喰い鬼は私を乱雑に放すと、そのままどこかへと去って行った。
 きっとあれも天魔の一種だろう。
 そう判断した私は、落ち着いた所作で携帯電話を取り出すと、撃退士たちの組織へと通報する。
 
 襲われたことや、鬼の捨て台詞が怖かったわけではない。
 単に市民の義務として、この件を通報しただけだ。
 
 むしろ、私はあの人喰い鬼に叩き潰されるのを望んでいた。
 今の私には、怖れるものなど……もとい、この世に執着などないのだから。

 私――秋山友洋は、一言で言えば会社人間だ。
 大学を卒業後にとある小さな企業に入って以来、ひたすら会社に尽くしてきた。
 会社もそれに応えてくれたのか、平社員から始まった私もいつの間にか会社で二番目の立場になっていた。
 社長とも付き合いが長かったおかげか、会社が倒産する最後の瞬間まで、私は社員でいさせてもらった。
 その上、社長は私に退職金までくれて、次の職場を探してくれとまで言ってくれた。
 
 だが、私は次を探す気にはなれなかった。
 最も大切なものだったあの会社がなくなってからというもの、私には何もかもがどうでも良くなってしまったような気がするのだ。
 若い頃に一度結婚はしたが、ひたすら仕事一辺倒だった私は数年後に別れた。
 そして子供もいない。
 
 なら、今更何を恐れろというのだ?
 そんなことを考えながら歩いていた私は、あの公園とベンチを見つけたというわけだ。
 

 ―― 同日 12:40 都内 某公園 ――
 
「というわけなんだ」
 隣に座る少女に先程の事件について語り終えた私は、疲れたように息を吐いた。
「本当に大切なものはないのぉ?」
 少女は私の顔を上目遣いで見上げながら聞いてくる。
 彼女に問いかけられたからだろうか。
 私はしばし考え込んだ後、手帳に挟んでいた写真を見せる。
 社員全員……といっても数人だが、みんなで社屋前に並んで撮った写真だ。
 そこに写っている若い事務員の女性を私は指さす。
「そうだな……強いて言えば、この子のことは少し気がかりかな」
 少女は私の隣で写真を覗き込む。
「この子は私と同郷で、とにかく生真面目なところが若い頃の私にそっくりでね。なにかと仕事で面倒を見ているうちに、子供のような気がして」
 もしかすると、語る私の顔はほころんでいるのかもしれない。
 それを確かめる術はないが。
「このお姉さん、名前はなんていうのぉ?」
「ああ、名前か。工藤梨々というんだ。そういえば今は、この公園のすぐ近くのコンビニで働いているんだったかな」
 ふと思い出し、私はここから見えるコンビニを指さす。
 それからしばらく話した後、少女はどこかへと去っていった。
 大方、家にでも帰ったのだろう。
 しばらく一人でいると、特徴的な制服姿の少年少女が現れる。
 あの制服は確か……久遠ヶ原学園のもの。
 どうやら、撃退士たちが来たようだ。
 

 ―― 同日 12:45 東京都某所 ――
 
 公園からそう遠くない所にある、どこかの会社が保有する倉庫と思しき場所。
 無人の状態であるそこに一人で入ってきたのは、友洋と話していた少女だった。
「――そこにいるんでしょ? 出てきなさいよぉ」
 少女が呼ぶと、積み上げられたコンテナが力任せにどけられる音とともに人喰い鬼が現れる。
「呼ンダカコラァ!」
 自分を見下ろしてくる人喰い鬼に向けて、少女は僅かな隙をついて友洋からすり盗った写真を差し出す。
「ちょっと手間はかかったけど、ちゃんと必要なことはわかったわぁ。今からあんたに入れ知恵してあげるからぁ、よく聞きなさいよぉ」
 少女は前髪をヘアピンで留め直しながら、友洋から聞いた先程の話を人喰い鬼に説明していく。
「きちんとあの男を恐怖させなさいよぉ。何度も言うけど、恐怖に染まった魂の味は格別なんだからぁ。その為に、あんたに『味付け』させてるのよぉ、わかったぁ?」
 説明が終わると、人喰い鬼は金棒を担ぎ直す。
「マカセトケコラァ!」
 それだけ言うと、人喰い鬼は踵を返してどこかへと去っていったのだった。
 

 ―― 同日 12:55 都内 某公園 ――
 
 私の所に駆けつけたものの、天魔がいないと知って撃退士たちは肩透かしをくらったようだった。
「せっかく来てくれたのにすまないね」
 私がそう言った時だ。
 そう遠くない所で轟音と地響きがした。
 はっとなって私は顔を上げる。
 音のした方に目を向けると、この公園の近くにあるコンビニを、あの人喰い鬼が襲っているのが見えた。
「どうしてだ……!? 私が標的のはずじゃなかったのか……!?」
 困惑しながらも私は、気が付くと件のコンビニに向けて走り出していた。


リプレイ本文


「秋山さん。いくらなんでも危険だ」
 コンビニに向けて走り出した友洋に追い付き、銅月 零瞑(ja7779)は彼の肩を掴んで制止しした。
「でも……あのコンビニには私の知己が……!」
 零瞑の制止にも関わらず、友洋は焦ったままだ。
 うっかり手を離せば、また走り出してしまいそうなほどに。
「大丈夫。既に俺達の仲間が二人、避難誘導に向かっている。ひとまず天魔はここにいないというのに、秋山さんが自ら飛び込んでどうする。慌てる気持ちもわかるが、今は冷静になってくれ」
 友洋をなだめる零瞑。
 すると友洋は、何とかわかってくれたようだ。
 ゆっくり頷くと、ひとまず足を止める。

「そうだな。君の言う通りだ。すまない……」
「いや、知人が襲われそうになっているなら、当然のことだからな」
 友洋に向けて手を振る零瞑。
 その横でリョウ(ja0563)は考え込んでいた。
「しかし妙だな――」
「妙……?」
 友洋が聞き返す。
「先程の話では、あの天魔は秋山氏を標的として狙ってきた。なのに、襲ったものの、結局傷の一つもつけていない。その気になれば傷の一つどころか殺害することも可能なのに――だ」
 リョウと同じく、釈然としないものを感じていたマーシー(jb2391)はすかさず友洋に問いかけた。
「あの鬼に、どんなことされましたー?」
「私の目の前にいきなり現れて言葉で恫喝しつつ、撲殺しようと金棒で殴りかかってくるといったところかな。他には金棒を投げつけてきたりもしたよ」
「随分と乱暴な攻撃ですねー。でも、そんな攻撃の中、よくぞご無事でー」
 称賛半分、疑問半分の感情を込めて言うマーシー。

「あの天魔の攻撃はすべて、ギリギリで外れていくようになっていてね。変に動かなかったおかげで無傷で済んだみたいだ」
「随分冷静ですね、怖くはないのですー? 普通の人だったら、思わず逃げ出そうとして走ったりするから、一歩間違えれば向こうが外す気でも、攻撃に当たってしまうのではー?」
 すると友洋は不思議なほど落ち着き払ったような顔になる。
「ああ。私は既にこの世に執着などなくてね。別にあの天魔に叩き潰されるのも悪くはないかと思ったんだよ。だから、あの瞬間、変に逃げたりせず、ひと思いにあの金棒の一撃に当たろうと思った。でも……」
「でも……?」
 鸚鵡返しするマーシーに、友洋は何の気なしに言った。

「……あの天魔はそれに困惑していたようだけど」
「困惑ぅ? 天魔が?」
 再び鸚鵡返しするマーシー。
 その時、リョウが再び口を開いた。
「やはりおかしい――」
 零瞑にマーシー、そして友洋がリョウの方を向く。
 三人に向き直るリョウ。
「秋山氏、さっき貴方は『言葉で恫喝しつつ』……と言いましたね?」
 確認を取るリョウに友洋は即座に頷く。
「そして、どの攻撃も『ギリギリで外れて』いる」
 言いながらリョウは、何かを掴みつつあるようだった。
「もう一点、あの天魔は貴方に何度も攻撃を行いましたか? もしそうなら、どんな風に?」
「どうって……」

 友洋は少し考え込む。
 そして、リョウのすぐ前に立つと、金棒を振る真似をしてみせた。
「こんな風に、金棒を叩きつけてきたよ。他には、地面を凄い勢いで叩いたりもしたし、さっきも言ったが金棒を投げつけてもきた」
 やがてリョウは頷いたまま考え込み始める。
「何か心当たりでもあるのかい?」
 リチャード エドワーズ(ja0951)がリョウに問いかけた時だった。

 やおら、楊 礼信(jb3855)が声を上げたのだ。
「敵の意図がよく分かりませんけれど、ともかく、ディアボロが襲っているあのコンビニの安全を確保するのが先決でしょう。 考えるより、今は行動でしょう!」
 それに真っ先に同意したのは千葉 真一(ja0070)だ。
「目的は今イチ判らねぇけど、人々が襲われてるってなら、まずはそれを止めねえと!」
 リョウは顔を上げて二人に向き直ると、素早く頷く。
「その通りだ。だが、この謎は解明しておかなければならない気がする」
 二人の目を真っ直ぐに見つめたまま、リョウは言った。
「済まない……」

 リョウが申し訳なさそうに言うと、マーシーが取り成すように持ちかける。
「なら、ここには僕とリョウさんが残りましょー。常に秋山さんを護衛する人が必要ですしねー。伏兵がいない、とは言えないし。新しく敵の情報が分かればすぐにお知らせしますよー」
 その提案にはリチャードもすぐに頷いた。
「なるほど。ならば僕も行こう。きみの言う通り、天魔は彼を標的にしている可能性がある以上、護衛も必要だからね」
 リチャードは礼信、真一と頷き合う。
 そして、三人はコンビニの方へと駆け出して行った。
「さて、こちらの方も早く解明しちゃいましょー」
 リョウを促すマーシー。

「ああ。秋山氏、あの天魔は貴方を恫喝する際、なんと言ったのですか?」
「『ビビレコラァ!』……そう言ったよ、他にも泣き叫べだとか喚けとか」
 それを聞いた途端、リョウは何かを確信したようだった。
「やはりか。奴の狙いは秋山氏に恐怖を味あわせることだ。以前、とある依頼で同じような目的で動く天魔と戦ったことがある。最初は秋山氏を直接『殺そうとする』ことで恐怖させようとしたのだろう。だが、秋山氏が恐怖しなかったゆえに、違う方法に切り替えたのだろうな」
 マーシーも事情を理解したのか、すかさず友洋に問いかける。

「あのコンビニに、なくなって嫌な物か人、あります?」
 友洋ははっとなった後、二人へと語り始めた。
 会社人間だった自分が勤めていた会社がなくなってしまったこと。
 そして、梨々のことを。
「私が死ぬのは構わない。だが……」
 友洋が言うと、マーシーは呟いた。

「……死ぬのが恐くない、ですかー」
「君達、撃退士は怖くないのか? 確かに、それを恐れていてはやっていけない仕事だが……」
 友洋の問いに対し、マーシーは平然と答える。
「僕は恐いですよ、凡人ですから」


「ここはうちらに任せて、裏口から逃げるといいのさね」
 コンビニの店内で、九十九(ja1149)は店員や客たちを促した。
 急行した九十九とソーニャ(jb2649)たちによる陽動で、鬼がコンビニから少し離れた今がチャンスだ。
「さあ、こっちです。落ち着いて」
 九十九と一緒に店内に残ったソーニャも店員や客たちを誘導する。
 抜かりなく避難誘導しながらも、九十九は釈然としないものを感じていた。
(秋山さんを狙ってきたはずなのに、急に標的を変えた……? ディアボロが危害を加えないで脅すだけ……? しかも目標を放置して別を襲撃……?  ……この不可思議さ。上位の存在が居るのかもねぇ……)

 二人が避難誘導をしていると、正面入り口に向けて鬼が歩いてきた。
「邪魔スルナコラァ!」
 店内にまでよく聞こえる声で叫ぶと、鬼は金棒を振り上げた。
 どうやら、金棒を店内に放り込むつもりのようだ。
 咄嗟に九十九とソーニャは店員と客を庇おうとする。
 だが、それよりも早く、駆けつけたリチャードが全力で鬼へと体当たりした。

「……ッ!?」
 不意をつかれたせいか、鬼の投擲フォームは派手に崩れる。
 そのせいで投げるというよりは目の前に叩き付けるような格好となり、結果として金棒を投擲する攻撃は未遂に終わった。
「何ダコラァ!」
 鬼は素早く金棒を拾い、構え直す。
 その間にリチャードと礼信、そして零瞑はコンビニの前に立った。
 武器を構えるリチャード零瞑、盾を構える礼信。

「二人とも大丈夫かい?」
 店内へと問いかけるリチャード。
 一方、零瞑と礼信は敵をしっかりと見据える。
「ここを襲わせはしない」
「その間に市民の方を!」
 三人が壁となってコンビニを守る一方、鬼の背に真一が声をかけた。

「お前の相手は俺だ!」
 振り返る鬼と正対する真一。
「目的は今イチ判らねぇけど、人々を襲おうって事ならそうはさせないぜ! さぁ、節分にはちと遅いが鬼退治と行こうか!」
 覚悟と気合を込め光纏した後、真一は叫んだ。

「変身っ! 天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!!」
 叫びとともに真一のヒヒイロカネに収納された防具、そしてゴウライガのマスクが顕現。
 真一はゴウライガへと変身を遂げる。
「何ガ、ゴウライガダ、コラァ!」
 鬼は怒りに任せて金棒を叩きつけてくる。
 それを避けつつ、真一は跳び上がった。

「ゴウライ、反転キィィック!」
 必殺技名を叫びながら飛び蹴りを放つ真一。
 キックは見事に決まり、鬼はあわや転倒しかけたのだった。
 

「うん。わかった。梨々って人はまかせて」
「彼女は秋山さんのいる公園に連れていくのさね」
 避難民を連れてコンビニから随分と離れた九十九とソーニャ。
 仲間全員への無線通信でリョウから事情を聞いた九十九とソーニャは避難民たちに向き直った。
 そして、ソーニャが若い女性の定員へと歩み寄る。
「きみが、工藤梨々さん、ですか?」
 ソーニャが問うと、梨々は小刻みに頷く。
「きみが一番、狙われる危険がある。だから、一緒に来て」

 残りの避難民を九十九が受け持つと、ソーニャは梨々に背中から抱きついた。
 そのまま光の翼を広げるソーニャ。
「はたからは梨々が天使に見えるかもね」
 小さく笑い、浮上を始めるソーニャ。
「だ、大丈夫? 私、見た目よりも重いよ?」
 自分の足が地上から離れたせいか、梨々は落ち着かないようだ。
「これでも撃退士だよ。ふつうの人より力はあるよ」
 梨々を落ち着かせるように言い、ソーニャは空高くへと舞い上がる。
 舞い上がったソーニャは友洋の待つ公園を目指して飛び始めた。
 

「見ツケタゾコラァ!」
 コンビニが無人となった上、頭上を飛んでいく梨々を見つけた鬼は公園へと走り出した。
「マトメテビビラスゾコラァ!」
 公園に降り立ったソーニャと梨々だけでなく、その近くに友洋の姿を見つけ、鬼は金棒を担ぎ上げた。
 その時、リョウとマーシーの二人がその前に立ちはだかる。

「――確かにそこにある日常を。奪わせない堕とさせない。そして何より壊させはしない――!」
 一気に距離を詰め、リョウは槍を鬼へと槍の連撃を高速で叩き込む。
「――重ね四連。貴様程度が凌げる疾さではないぞ」
 鬼がひるんだ隙を逃さず、マーシーも銃を構えた。
「僕は凡人でして、撃つことしかできないんですよー」
 トリガーを引くマーシー。
 その銃撃は的確で、鬼に更にダメージを与えていく。
「凡人でも、これぐらいできます」
 事も無げに言うマーシーに向けて、鬼は金棒を投げつけようとする。
 あわよくば、後ろにいる梨々も巻き込むつもりのようだ。
 だが、鬼は背中へと漆黒の大鎌を突き立てられる。
 思わず怯み、鬼の投擲はまたも未遂に終わる。
「そうはさせない」
 追い付いてきた零瞑は大鎌を抜くと、素早く身を引く。
 入れ替わりに、リチャードが両手剣を振り下ろした。

「随分と悪趣味な天魔だ」
 鬼はそれを金棒で受け止めにかかる。
 しかし、度重なるダメージを受けた身体では受け止めきれない。
 鬼は手から金棒を叩き落とされる。

「そろそろ退治させてもらうのさね」
 そのチャンスを見逃す九十九ではない。
 蒼い光を宿した矢を弓に番え、鬼に向けて放つ。
「今だ……!」
 鬼がうずくまった隙を突き、礼信は鉄棒――アイアンシャフトでの打突を叩き込む。
「ソーニャさん!」
 振り返る礼信。

「鬼の動きを、止めます」
 ソーニャは梨々を庇うように立ち、ライフルを構える。
 彼女が放った銃弾は鬼の両脚を撃ち抜いた。
「今です――」

 ソーニャからの合図を受けて、真一が鬼の前へと躍り出る。
「秋山さんも、工藤さんも、やらせはしないっ!」
 再び鬼と正対する真一。
「お前が喚いて暴れて人々を恐怖に陥れようと言うのなら、俺が、俺たちがそれを打ち払うだけだ!」
 真一の宣言とともに、どこからか、技の発動を告げる音声が響く。
『IGNITION!』
 それに呼応し、真一の臍下丹田へとアウルが収束され、活性化されていく。
 アウルは太陽の輝きを放ち、真一の脚へと流れ込んだ。

「ゴウライ、反転ドリルキィィィック!!」
 跳躍する真一。
 空中できりもみ回転しながら、真一はキックを繰り出した。
 キックは鬼の胸板に炸裂する。
 相当なダメージだったのか、鬼は大きな呻き声を上げる。
「ガ……アアアッ!」
 そして、真一の着地と同時に、鬼の内部に叩き込まれたアウルが爆発。
 こうして鬼は倒されたのだった。
 

「すまない……誰かに工藤くんのことを話したのは覚えているのだが……。それがどんな相手だったかは、どうしても思い出せないんだ……まるで、記憶にフィルターが掛かってしまったみたいに……」
 戦いが終わり、改めて事情を聴かれたものの、友洋は肝心なことが思い出せないようだ。
「いえ……相手が天魔ならなんらかの術を用いても不思議ではありませんし、貴方の責任ではありませんよ。それよりも――」
 そこでリョウはふっと笑みを浮かべる。
「秋山氏。貴方に何も無いなんて事は無いですよ。そこまで大切に思える想いがあるのなら、それを胸にまだ歩いて行けるはずです」

 躊躇いがちではあるが、零瞑も友洋に言う。
「大切なものに気づけるかどうかで、人生は変わる気がする。少なくとも俺は、自分が生きる意味のひとつを手に入れた気がしている。小さくつまらないことかもしれないが、人が人として生きていくには、その積み重ねが大きな力になると思う」
 礼信も友洋に声をかけた。
「……自分にはなにもないと言われましたけど、工藤さんの事を自分の身も顧みずに救いに行こうとしたじゃありませんか? その気持ちがあるのなら、きっともう一度何か自分を打ち込めるものが見つけると思いますよ」
 次は九十九が言葉をかける番だ。
「秋山さんには、偉大先人の詩を贈るのさね――採菊東籬下、悠然見南山。心の探しものは意外とすぐ傍にあるのかもしれない、という意味さね。」

 その詩に感動して頷きながら、リチャードとマーシーは友洋に問いかけた。
「きみは自分にとって大切なものを思い出せたかい? 自分が生きるための目的を失うのは寂しいからね。お節介とも思うが…どうせならよく生きて欲しいものさ」
「命が助かったんです、おもいっきり生きないと損ですよ。じゃないと、僕らが助けた意味がないです。もう一度、トライしてみません?」
 そして友洋は一度、梨々を見た後、顔を上げて晴れやかな表情で言った。
「ああ――そうするよ」


 後日。
 学園に戻ったリョウと九十九の二人は、とあるビルの壁によりかかって言葉を交わしていた。
「あの天魔、どうやら明確な意図を持った上位者が後ろにいるようなのさね」
「どうやら九十九も俺と同じ考えに至っていたらしいな」
「これからも奴と戦うなら、うちも可能な限り力を貸すよ」
「すまないが、よろしく頼む」
 そしてリョウは決意をこめて言った。
「俺はなんとしても上位者に辿り着くつもりだ。たとえ時間をかけてもな」


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
約束を刻む者・
リョウ(ja0563)

大学部8年175組 男 鬼道忍軍
鉄壁の騎士・
リチャード エドワーズ(ja0951)

大学部6年205組 男 ディバインナイト
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
大地の守護者・
銅月 零瞑(ja7779)

大学部4年184組 男 ルインズブレイド
非凡な凡人・
間下 慈(jb2391)

大学部3年7組 男 インフィルトレイター
カリスマ猫・
ソーニャ(jb2649)

大学部3年129組 女 インフィルトレイター
闇を解き放つ者・
楊 礼信(jb3855)

中等部3年4組 男 アストラルヴァンガード