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マスター:漆原カイナ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/02/18


みんなの思い出



オープニング



 ――2013年 2月某日 22:15 都内某所――
 
 私の乗った高級車が高級マンションの前で停まる。
 すぐに専属の運転手が降りると、私の座る後部座席のドアを開けた。
 
 車を降りながら、私は埃一つなく磨き上げられた車体と窓ガラスに映る自分の姿に目をやる。
 そこに映っているのは、思しきスーツ姿にハイヒールという格好の四十前後と思しき女だ。
 着ている服や履いている靴は一見するとシンプルだが、そのいずれもが高級品。
 服や靴だけではない。
 身につけているアクセサリの数々も、それらに劣らず高級品だ。
 私が全身に身に付けているものは、すべてがブランド品と呼ばれるもの。
 
 身につけるものに限らず、私が所有しているものはいずれもが高額のものに他ならない。
 車、住居、美術品――ぱっと思いつく高級品はあらかた集めてきた。
 
 そして、それを実行する為に汚い手も数多く使ってきた。
 自分が表ではやり手の女社長ともてはやされていても、裏では欲の塊や人でなしなどと罵られていることも知っている。
 そんなもの、私にとっては瑣末なことだ。
 
 自らの欲望を追求し、それを満たす為に汚い手を使って何が悪い。
 私に言わせれば、欲望を満たす為の手段を選ぶ方が馬鹿なのだ。
 
 私は手段を選ぶような馬鹿とは違う。
 だからこそすべてを手に入れた。
 しかし、そこで天狗になる私ではない。
 
 私は自分を妬み、恨む者が多い事も自覚している。
 ゆえに、そうした連中が私の資産をかすめ取ろうとしてくることには人一倍の注意を払っていた。
 ――誰一人として、ビタ一文たりとも渡さない。
 思えば、その執念こそが、私がこれだけの資産を得られた理由なのかもしれない。
 
 私の住居たる905号室には選りすぐりの貴金属や美術品が並んでいる。
 あえて銀行の金庫等に預けず、自宅で保管しているお気に入りの数々だ。
 防犯の観点から考えれば、そこよりもセキュリティの高い場所に預けた方が安全と言う者も少なくはない。
 はっきり言って、そうした連中は何もわかっていない。
 自宅に満たした金品の数々を見ながら高級酒を飲む。
 それがどれほどの快感であるかなど、所詮小市民には理解できないのだ。
 
 運転手を帰らせた私は、厳重なセキュリティがかけられた正面入り口へ向けて歩いていく。
 私が正面入り口の自動ドア前に立とうとした、まさにその時だった。
 
 郵便受けが立ち並ぶスペースから、一人の少女がひょっこりと出てきたのだ。
 もしかすると、まだ中学生にもなっていない年頃の少女。
 こんな時間に一人でいるのは些か不審だが、大方、マンションの住人か何かだろう。
 
 その少女は、前髪だけを上げてヘアピンで留めたセミショートの髪に小さな肩掛けポーチという格好だ。
 良く言えばあどけない、率直に言ってしまえば色気も何もない、まさに子供っぽい格好だ。
 しかし、私と目が合った瞬間にその少女が浮かべた笑みは、とても子供とは思えない底知れぬ何かを感じる。
 
「ねぇ、お姉さん。随分とお金持ちみたいねぇ」
 少女の形の良い唇から漏れだした声は、やたらと艶めかしかった。
 先程浮かべた笑みと同様、とても子供とは思えない。
 
 それでも私は大人の余裕をたたえた笑みを浮かべてみせる。
「あら、良い子ね。おばさんじゃなくてお姉さんっていうなんて――」
 ゆっくり近寄ると、私は少女の頭を撫でた。
 頭を撫でられて笑みを浮かべる少女の顔は、歳相応の子供らしいものだ。
 
 さっきのは私の気のせい――そう思った瞬間だ。
 少女は私を見上げると、底知れぬ何かを感じさせるあの笑みを再び浮かべる。
「――だって、あんたみたいな小娘、あたしにとって、おばさんなわけないものぉ」
 やおら少女は頭を撫でていた私の手を掴む。
 掴まれたと思った時には既に、私の視界は回転していた。
 
 凄まじい力で引きずり倒した私の身体にのしかかる件の少女。
 そのまま彼女は私の唇に、あの形の良い唇を重ねる。
 唇が触れたと感じた直後、私の意識は霞んでいった。
 

「んっ……! ぷはぁ……!」
 たっぷり数秒間、少女は獲物と唇を重ねる。
 ようやく唇を離し、彼女は満足げに息を吐いた。
「やっぱり物欲の味は安心定番だわぁ。さてと、今回はどんなのかしらねぇ」
 少女が既に動かなくなった獲物――資産家の女性に触れると、その身体は音を立てて変異していく。
 やがて彼女の身体は八面体をした等身大の結晶へと変化した。
「行きなさい。後はあなたの好きにするといいわぁ。汝の欲するところを成せ――だったかしらぁ?」
 少女がそう告げると、八面体の結晶は宙へと浮き上がる。
 やがて結晶はマンションの最上階付近まで来ると、そのまま周回し続けるのだった。
 


 ――翌日 08:10 久遠ヶ原学園 教室――

「緊急事態っス!」
 如月佳耶(jz0057)は教室に集まった撃退士たちに映像を見せる。
 今、画面に映っているのは、巨大な宝石とその真下に見えるマンションの一部だ。
「昨日の夜から朝方にかけて出現したらしいこのディアボロは、真下にあるマンションから出入りする人に襲いかかってるっス!」
 佳耶の操作により、別の映像が再生される。
 今度の映像は、巨大な宝石が結晶の欠片をミサイルのように撃ち出して一般人を攻撃している映像だ。
 
「ディアボロの出現に気付いて逃げだそうとした人が、この敵に狙い撃ちされたっス。幸い、重傷は負ったものの、命には別条はないみたいっスけど……」
 痛ましげな表情で佳耶は次の映像を再生する。
 すると今度は、撃たれた人を助けに向かった救急隊員が攻撃されている映像だ。
 これも幸いな事に、撃たれたのがマンションの入り口から少し離れた所だったおかげで、彼は何とか救助された。
 とはいえ、救助に向かった救急隊員たちも全員が軽くはない怪我を負っており、被害は決して小さくない。
 
「今の所、マンションの部屋から一歩も出なければ標的にされることはないみたいっスけど……逆に言えば、廊下を歩いただけでも標的にされる危険性があるっス」
 また新たな映像が画面に映し出される。
 すると今度は最上階の廊下に出た住人が、おそるおそる上を見上げようとした所に、結晶の弾丸が飛んできた映像だ。
 上手い具合に狙いが逸れたおかげで助かった彼は、大慌てで部屋へと戻っていく。
 
「救急隊員の人たちや映像を撮った人たちはもちろん、住人の人たちから電話で聞いた証言も踏まえて先生たちが仮説を立てたっス。それによれば、この敵の攻撃には法則性のようなものがあって、どうやら、最上階の905号室に近ければ近いほど、攻撃が激しくなるみたいっスね」
 
 続いて映し出されたのはマンションの見取り図だ。
 
「本来ならばじっくりと作戦を練って慎重にいきたい所っスけど、そうもいかないっス――」
 続く言葉を待ち、撃退士たちが息を呑む。
「最上階に住んでる女のコに持病の発作がでたらしくて……すぐにでも病院に搬送しないといけないって連絡が入ったっスよ。しかも……そのコが住んでる部屋は905号室の隣――906号室っス」

 努めて落ち着きながら、佳耶はマウスポインタを見取り図に描かれた906号室に重ねる。
「ヘリはもってのほか、救急車もうかつには近付けないっス。この状況を何とかできるとしたら、撃退士のみんなしかいないっス――!」
 佳耶の言葉を受け、撃退士たちは立ち上がった。


リプレイ本文


 ――2013年 2月某日 09:00 都内某所――

 現場であるマンション。
 その横から裏手にかけての位置には四人の撃退士たちが集まっていた。
「安全確保のためにも速攻でしょうね。例え硬くとも打ち砕くのみ……それが人を救うためならね」
 戸次 隆道(ja0550)は仲間達に目配せする。

 隆道に頷き返した後、天羽 伊都(jb2199)は上空を周回する敵に目を向けた。
「宝石っていうか砲台っていうか……」
 伊都に続き、仁良井 叶伊(ja0618)も頭上を見上げる。
「まあ……どこぞの映画で見た様なディアポロですが…… やはり、トンデモナイ火力の持ち主らしく、下手な戦い方をするとマンションはともかく、周囲の市街地が壊滅しかねないので、そこら辺は注意したいですね」

 叶伊の言葉にフィオナ・ボールドウィン(ja2611)がゆっくりと頷く。
「我等の目的は救助を最優先だ。倒せてもそれが成せねば意味は無い。救助の為にも、マンションに流れ弾が行き過ぎるのも防がねばな」
「まずは囮の私達が動かねば、本命の方も動けませんからね」
 別行動しているであろう仲間を思い、隆道はマンションの方へと目を向ける。
 緊張の面持ちで突入の時を待つ仲間たちに、伊都が問いかける。

「最終確認です、僕達の目指すべき所は905室――ですね」
 それに答えたのはフィオナだ。
「うむ、その通りだ。それと少し気になることがあってな。ここに到着した直後、管理人に話を聞いておいた」
「気になること?」
 伊都が聞き返す。

「何故敵が905号室に近い標的から優先的に攻撃するのか……言い換えれば『905号室にこだわっている』ようにも思えたのでな。あの部屋の住人が一体どんな人物なのかを聞いたのだ」
 あくまで淡々と語るフィオナ。
「あの部屋の住人は企業の長たる役目に就く女だそうだ。立派な立場にいるにはいるが、その為には手段を選ばない者としても知られていたようだ。そして、かなりの強欲者でもあったようだ。あくまで噂だがな」
 語りながらフィオナは頭上を見上げる。
 ちょうど上空を巨大な宝石が通り過ぎていく。

「これもあくまで噂だが、その女は清濁問わずに様々な手段で集めた財をあの部屋に溜め込んでいたそうだ。いわゆる成金趣味の一つという奴だろうな。もしあのディアボロの材料となった人間があの部屋の住人ならば、あの姿はさしずめ欲望の発露といったところか。だとすれば、あの部屋に近付く者を優先的に襲うという行動にも一応納得がいく」
 全員の準備が完了したのを確かめると、叶伊は四人に向けて頷いた。

「では、そろそろ行きましょう」
 叶伊に頷き返す隆道。
 彼はそのまま外側階段のドアを開けると、階段に足を一歩かけた。
 静かに隆道が上を向くと、上空には巨大な宝石が見える。
 そのまま見張っていると、宝石はゆっくりと周回していき、やがてマンションの陰に隠れた。

「今です――!」
 声を上げると同時、隆道は足を駆けていた階段を一気に駆け上り始める。
「目標は905号室。作戦開始です!」
 振り返らずに言う隆道。
 彼が最初の一階部分を上りきった時だった。
「……ッ!」
 二階部分へと続く階段に足をかけようとしていた隆道は咄嗟にその場に伏せた。
 直後、一瞬前まで彼の頭があった位置を水晶が飛んでいく。
 飛来した水晶は階段の壁に突き刺さると、まるで薄い紙を突いたように易々と穴を開けてしまった。
 それだけではない、続いてもう一発の水晶がすぐに撃ち込まれる。
「始まりましたね……!」
 階段の途中にいては危険と判断した叶伊は咄嗟の判断で階段を駆け上る。
 そのまま転がるようにして踊り場に飛び込むと、間一髪の所で水晶が空を切って飛んでいった。
 
 隆道と叶伊を追ってフィオナと伊都も全力で階段を駆け上がる。
 顔のすぐ横を水晶のミサイルが飛んでいく状況は危険極まりない。
 まかり間違えば被弾しかねない状況だが、四人は速度を落とす事無く階段を駆け上げっていく。
「なんとしても我等を9階まで行かせぬつもりか!」
 直剣を振るって水晶を叩き落としつつ、フィオナも叫ぶ。
 剣を振るって時に水晶を叩き落とし、時に剣の腹を盾のように使って水晶を防ぐフィオナ。
 防戦一方になりながらではあるが、隆道と叶伊に続き彼女も六階の踊り場に到達する。

「とんだ砲台だよっ……!」
 ぼやきながら伊都も、階段を駆け上がって六階の踊り場に向かおうとする。
 上りきったフィオナに続いて伊都も六階に到達しようかという時だった。
「おわっ!?」
 しかし、その進路上に水晶のミサイルが何発も降り注ぐ。
 偶然とはいえ、その砲撃は功を奏した。
 伊都が途中まで進んだまま、階段はミサイルのダメージに耐えかねて崩落する。

「こんなのあり……!?」
 再びぼやくと、伊都は全力で階段を蹴って跳躍した。
 撃退士である彼の脚力は決して低くはない。
 だが、跳躍した足場そのものが落下していく状況。
 後もう少しと言う所で距離が足りず、伊都は六階の高さを落下していき――。

「この手を掴め!」
 伊都が落下するよりも一瞬早く、フィオナが手を伸ばす。
 咄嗟にそのフィオナの手を掴む伊都。
 六階の高さに宙吊りになったものの、何とか落下は防がれた。
「助かった……」
 ほっと胸を撫で下ろす伊都。
 すぐさま隆道と叶伊も伊都を引き上げにかかる。

「危ない所でし――」
 言いかけて伊都は慌てて言い直した。
「――いえ、まだ危ない所です……!」
 はっとなって仲間達が、伊都の視線の先を振り返る。
 その先には宝石が来ており、結晶の内部が眩く輝き始めていた。
(撃たれる……!)

 伊都が焦った瞬間、銃声が響き渡った。
 そう遠くない所から放たれた銃弾は宝石を直撃する。
 破壊こそしなかったものの、レーザーの射線を逸らすことには成功したようだ。
 狙いの逸れたレーザーはマンション近くの路面を、線を引くように削り取っていく。
『危機一髪だったわね』
 直後、伊都たちが持っている無線機から月丘 結希(jb1914)の声が流れ出す。
『少しの間、こっちで受け持つわ――その間に早く905号室に行って』
 

 ――09:13 某ビル屋上――
 
 件のマンションの隣に立つ四階建てのビル。
 その屋上に結希は陣取っていた。
 次弾を装填すると、結希は再びスナイパーライフルで宝石を撃つ。
 再び甲高い音を立てて宝石が揺れる。

 次いでもう一発を撃ち込んだ後、結希は本能的な判断でその場から飛び退いた。
 その判断は正解だった。
 一瞬前まで結希がいた場所に、大量の水晶が撃ち込まれたのだから。
 水晶の乱射により、屋上の床は穴だらけだ。

「保障は出るとはいえ……ビルのダメージは出来る限り抑えたいけど、壊されないってのは多分無理よね」
 その言葉を裏付けるかのように、宝石からの攻撃は更に苛烈さを増していく。
 無数の水晶に撃たれて給水タンクが残骸と化した。
 もはやフェンスも残っていない。
 それでも結希は僅かなチャンスを見つけてはトリガーを引き、果敢に攻撃をしかけていく。
 宝石がマンションの裏側に行っている間を利用して再装填する結希。
 ライフルを構えながら、結希は宝石の現在位置をシュミレーションする。

「敵の周回速度は一定よ、今の位置は……」
 チャンスを待って、結希はトリガーを引いた。
 絶妙のタイミングで放たれた銃弾は、ちょうど宝石が現れた所に命中する。
 その時、結希は宝石の結晶内部が光っていることに気付いた。
 どうやら、タイミングを合わせて攻撃しようとしたの敵も同じらしい。
 だが、銃撃を受けて傾いたせいでレーザーは外れた……かに思えたが、レーザーは結希のすぐ横にあった水晶――先程の乱射の際に刺さったクリスタルミサイルに反射して結希に襲いかかる。

「……くっ!」
 幸い、狙って反射させたわけではなかったからか、直撃はしなかった。
 ただし、かすっただけでもダメージは小さくない。
 抉られたような傷口は即座に焼かれており、そのせいで流血がないほどだ。
 仕方なく結希はドアへと駆け込み、一度ビルの中に引っ込む。
 最上階の階段に座り込むと、結希はスマートフォンを起動した。
 アプリの一つを起動し、結希は自らの傷を癒し始める。
「そう長くはもたないわね……救助に行った面々は、そろそろ目的を果たしてくれないと――」


 ――09:06 マンション内 メインエントランス――

「あの姿、まるで宝石だな。さぞお高い趣味をお持ちの様だ」
 囮班が敵の注意を引いている間にエントランスへと潜入した救助班の三人。
 その先頭を行くクライシュ・アラフマン(ja0515)は潜入の際に見えた敵の姿を思い出して呟いた。
 クライシュの言葉に頷きながら、森浦 萌々佳(ja0835)はエレベーターの昇降ボタンを押す。
 しかし、何度押しても反応はない。

「あれ……やっぱり止まってるんですかね……」
 萌々佳の横を抜けてクライシュはエレベーターのドア前まで来る。
「この非常時だ。それも不思議ではないか」
 落ち着き払った様子でクライシュはドアの隙間に手をかけて力を込める。
 それほど苦労せずに扉は開いた。
 ちょうど一階に来ていたらしく、ドアを開けるとケージの内部が広がっている。

「好都合だな」
 ケージの中に入ると、クライシュは躊躇なく天井の整備用ハッチに手をかける。
 それと同時に外から何かが破砕する音が聞こえてくる。
「戦闘となれば時間も稼げるじゃろう」
 音のした方を見ながらクラウディア フレイム(jb2621)が言う。
「急がねばな。彼等が後れを取るとも思えんが、長期戦にもつれ込めばそれだけ不利だ」
 クラウディアに頷くと、クライシュは開けたハッチからケージの上に出る。

「俺が先に行った方が良いだろう。色々な意味でな――」
 萌々佳とクラウディアの服装を一瞥するクライシュ。
 そのままワイヤーを伝って彼はエレベーターシャフトを上り始める。
 撃退士の身体能力ということもあって、三人は程なくして九階まで到達する。
 先頭を行くクライシュがドアをこじ開けると、三人は九階の廊下に出た。
 囮班が頑張ってくれているおかげで、三人は無事に906号室へと辿り着く。
 撃退士たちが助けに来ることが連絡されていたおかげか、住人はすぐに三人を迎え入れた。
 三人はすぐに少女の元へと向かう。

「応急処置をしておけば……少しは違うはず……!」
 事前に応急処置できる知識を叩き込み、必要そうな道具を準備してきた萌々佳は応急処置に取りかかる。
 医者ではない為に本格的な処置はできないが、いくらかの処置を施す萌々佳。
 それが終わると、クラウディアが少女を抱きかかえる。
「わたくしたちが必ず送り届けます」
 両親に向けて萌々佳が言うと、三人は廊下へと出た。

 直後、ちょうど周回してきた宝石が三人を認識したようだ。
 即座に何発もの水晶を発射してくる。
「悪いが、我が盾は宝石よりも硬いのでな」
「ここはあたしたちがっ!」
 クライシュが盾で庇い、防ぎきれない流れ弾を萌々佳が鉄球で叩き落とす。

 二人に頷くと、クラウディアは開けっぱなしだったエレベーターに飛び込んだ。
「少々強引じゃが、何、最短ルートじゃ。すぐに医者に引き渡すのじゃ」
 天使の翼を広げ、そのまま安全に一階まで降りたクラウディアは一気に外へと飛び出す。
 それを察知した宝石が上空から水晶を撃ってくるも、彼女は少女片手で支えつつ、もう一方の手に盾を顕現させて防ぐ。
「何のための楯持ちか。見よ! 我が妙技を!」
 クラウディアはそのまま全速力で走り、少し離れた場所に待機していた救急車へと少女を引き渡した。
 

 ――09:06 マンション屋上――

「了解! 例の作戦に移りましょう!」
 少女が無事に引き渡されたとの連絡を受けた伊都は囮班の仲間に目配せする。
 萌々佳が廊下で宝石と戦っている一瞬の隙を突き、伊都は作戦前に借りていたマスターキーで905号室に突入した。
 そこから大量の金品を持ち出し、更にはそれを身につけて屋上を走り回っていたのだ。
 効果は抜群のようで、宝石は伊都をどこまでも追ってくる。

 動き続けていた伊都はとある位置まで来ると、そこで止まる。
 それを逃さず、宝石は水晶とレーザーをありったけ放った。
 しかし、発射の予兆を既に見ている伊都はそれを間一髪で避けることに成功し、屋上に穴が開いただけだ。
 それこそが彼等の狙いだった。
 伊都が立っていたのは905号室の真上。
 開いた穴から囮班四人は905号室へと入る。
 
 すぐに宝石は追ってきたが、ベランダのガラス戸の外に対空するだけで何もしてこない。
「やはりな。こうなっては攻撃できまい――水晶にしろ光条にしろ、撃てば大事な金品を傷つけることになる」
 作戦の成功を確信しつつフィオナは言う。
「愚かな……欲に溺れた末路がそれか。欲望そのものは肯定しよう……だが、今の貴様の存在は否定する」
 撃つ気があるのかは不明だが、宝石の内部が光り始める。

「嘗めるな。チャージなどさせるものか」
 淡々と言い、フィオナは淡く光る魔力の塊を矢として放つ。
 それと同時に伊都も武器を振り抜き、黒い光の衝撃波を撃ち放った。
 更には叶伊が自動拳銃を抜き放ち、銃弾を連射する。
 三人の一斉攻撃を受け、宝石の内外には白い線が何本も走り、表面も所々が欠ける。
 
 半ばやけになったのだろうか。
 宝石は破れたガラス戸から内部へと突っ込んでくる。
 咄嗟に飛び退く三人。
 その後方には脚甲にアウルを充填し、その時を待っていた隆道がいる。
 突っ込んできた宝石に向けて、隆道は胴回し回転蹴りをカウンターで叩き込んだ。
 その一撃がとどめとなり、宝石は粉々に砕け散ったのだった。
「例えどれだけ硬くとも、打ち砕くのみ……それが人を救うためならね」
 破砕の音の残響も収まった頃、静かに言う隆道。
 静かになった部屋で、フィオナも呟いた。
「己の欲の形のままに逝けるのだ。案外、悪い最期ではないのかもしれんな」
 

 後日。
 萌々佳とクラウディアは少女の見舞いに訪れていた。
「そういえば905号室の住人は贅沢な奴じゃった。部屋にあったのは銘酒ばかり。銀河酒造の雷電と士魂にチリ産メルスメスの高級ワイン、アルバトロス。英国のナイチンゲールにロビン。一品、五万久遠は確実じゃて」
 戦闘後、あの部屋の内部を見たクラウディアは興奮しっぱなしだった。
 酒好きの彼女ならば当然だが。

 そんな話をしていると、元気になった少女が両親とともに病室から出てくる。
 両親は深々と頭を下げ、少女は一目散にかけてくる。
 走ってきた少女を抱きとめる萌々佳。
「たすけてくれてありがとう。おねえちゃんは、どうしてたすけてくれたの?」
 問いかけに対し、萌々佳は微笑みとともに答えた。

「ヒーローへの道だから」
「ヒーローへのみち?」
 聞き返す少女に、萌々佳はもう一度微笑む。
「助られる未来は必ず助けたい。それがヒーローへの道だから」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 『天』盟約の王・フィオナ・ボールドウィン(ja2611)
 こんな事もあろうかと・月丘 結希(jb1914)
 黒焔の牙爪・天羽 伊都(jb2199)
重体: −
面白かった!:6人

アトラクトシールド・
クライシュ・アラフマン(ja0515)

大学部6年202組 男 ディバインナイト
修羅・
戸次 隆道(ja0550)

大学部9年274組 男 阿修羅
撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
仁義なき天使の微笑み・
森浦 萌々佳(ja0835)

卒業 女 ディバインナイト
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
こんな事もあろうかと・
月丘 結希(jb1914)

高等部3年10組 女 陰陽師
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
獅子と禿鷹の狩り手・
クラウディア フレイム(jb2621)

高等部1年28組 女 アストラルヴァンガード