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マスター:漆原カイナ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/12/24


みんなの思い出



オープニング



 ―― 十一月某日 10:07 久遠ヶ原学園 教室――

「今日はみんなにお願いがあるんだよ〜」
 教室に集まった撃退士たちに向けて、速水風子(jz0143)は切り出した。
 撃退士たちが次の言葉を待つ中、風子は教室のスクリーンに地図を映し出す。
 地図が映し出されるなり、撃退士たちの間から次々に声が上がる。
 なにせ、その地図は撃退士なら誰しもが知っている場所の地図だったのだ。

「地図にある寮まで行って、そこに住んでいるとある学園生を迎えに行ってもらいたいの〜」
 久遠ヶ原島の突端に表示されたマーカーの赤い点を指さす風子。
 
 風子の説明を聞いていた一人の撃退士が、キリの良い所を見計らって手を挙げる。
「せんせー! やっぱり今回迎えに行く『とある学園生』っていうのも天魔なんですかー?」
 すると風子はしごくゆっくりな動作で頷いた。
「うん。その通り〜」
 その答えを聞いても、撃退士たちはそれほどざわめかない。
 直接質問した彼以外の撃退士も、薄々これを予想していたのだろう。

「今回迎えに行ってもらうのは、“魔界の格闘家”アルテ=マッツィアーレっていう学園生〜」
 自分の話を聞く撃退士たちの目から、その学園生はどんな人物なのかを知りたがっているかを察し、風子はすぐさま説明を始めた。
「生まれとしては下級の方の悪魔なんだけど、中級や上級の悪魔を倒して、いずれは上位に君臨するっていうのが目的らしくてね〜」
 相変わらずのゆっくりとした喋り方で風子は説明を続けていく。

「ほら、上級の天魔ともなれば単純なパワーやスピードだけじゃなくて、不思議な事象――それこそ超自然的な現象を起こせるような“術”も持ってるから〜。いずれはそうした“術”を使う天魔相手に戦うであろうことを想定して、それに対抗する為の手段を得る為に彼は人間の使う格闘技を学んでいる悪魔なんだよ〜。そもそも、人間界に帰属したのだって格闘技を学ぶ為だしね〜」
 風子による紹介を聞き、何人かの撃退士が感心したように声を上げ、あるいは頷く。
 
「その生き様を慕う後輩も少なくないらしくて、今じゃ熱心な後輩たちの取り巻きが『アルテ四天王』なんて呼ばれてるらしいよ〜」
 紹介を聞く度、撃退士たちは更に感心した様子になる。
 しかしその一方で、風子は困ったような顔をしていた。
「ただ、そうした性格だから彼は『自分より強いと認めた相手』の言う事しか聞かなくてぇ……。今の所、彼が言う事を聞くのは人間界に来たばかりの時に彼と勝負で負かした、とある拳法使いの撃退士の人だけらしいんだけど……今、その人は重大な任務の最中らしくて、手が離せないそうなのぅ……」

 困った顔で風子がリモコンを操作すると、今まで地図とマーカーが映写されていたスクリーンの画面が切り替わる。
 地図に代わって現れたのは、乱雑に切った髪と細めながらも引き締まった体躯に鋭い目つきが印象的な青年だった。
 日常のワンシーンを撮影したものらしく、写っているのは、右手に巻いたバンデージの端を口でくわえて引っ張って引き締めている姿だ。
「この子がその学園生……アルテ=マッツィアーレ。ズバリ今回、キミたちには彼を倒してほしいの」
 
 見るからに強そうな見た目に圧倒された撃退士がいるものの、その一方で、興奮を隠せない様子の学園生たちもいる。
 そして、後者は風子から言われたことに更なる興奮を禁じえなかった。

「でも、こうした性格だからこそ、強者と認めた相手には敬意を払うし、言う事も聞く筈――だから、彼と勝負して、その上で彼を負かしてきて――これが今回の依頼よ」
 いつの間にか、まるで別人のような風格で言う風子に、撃退士の顔も自然と引き締まる。

「聖槍アドヴェンティ――あの神器を巡る三つ巴の争いは今後も更に激化する。もはや、大激突が起こっても不思議ではない状況――だから、学園、ひいては人類は少しでも戦力を結集しなければならないの。そして、人間界に帰属する天魔が重要な戦力となるのは考えるまでもないこと」
 風子の雰囲気、そして話の内容に撃退士たちは固唾を呑んだ。

「わたし達、人類が生きる……この世界の為に頑張って。お願いね」
 風子が話を締めくくると、瞬き一つせず聞き入っていた撃退士たちは一斉に立ち上がった。



 ―― 十一月某日 10:37 久遠ヶ原島 某所――

「――なるほど。話はわかった」
 倉庫を改造した住居の一階。
 撃退士たちの話を聞き終えた、鋭い目つきの青年――アルテはゆっくりとソファから立ち上がった。
「俺に勝ったら云々に関してはこちらから言おうと思っていたが、既に承知のようで手間が省けた」
 アルテが言ったのに合わせ、同じ部屋にいた四人の学園生たちも立ち上がる。
「なら、詳細はこちらで決めさせてもらおう。お前等八人と俺等五人はこれからバトルロイヤル――即ち乱戦で戦う」
 自分達はそれに異論が無いことを示すかのように、アルテの仲間である四人は彼の横へと並ぶように歩み出た。
「戦いが終わった時、立っている人数が多い方のチームが勝利。お前等のチームが勝てば――後は判るな?」
 ルールを説明し終えたアルテは両開きの扉をスライドさせ、倉庫の前へと歩み出た。
 彼に続くようにして四人の仲間たちも表へと出て、やはりアルテの周囲に立つ。
 そして撃退士たちを振り返ると、アルテは威風堂々と言い放った。
「以上だ。わかったなら表へ出ろ――正々堂々の真剣勝負で相手になってやる」


リプレイ本文


「本当は同じ足技使い同士、舞岡さんにお手合わせ願いたかったんですけど……」
 両手両足と片目を包帯ぐるぐる巻きという姿で道明寺 詩愛(ja3388)はマイをちらりと見た。
「せめて合図だけでもやらせてください」
 両軍中央に進み、詩愛は怪我した手に乗せた硬貨を全員に見せる。
「このコインが地面に落ちたら戦闘開始です」
 そして詩愛はコインを放り投げた。
 同時に自らの能力――桜六花でアルテたちの能力を封じにかかる。
(このための両軍中央でのコイントス――本調子ならともかく、今の状態でどれだけ通用するか……攻撃はしないと提案した直後なら多少の油断があるはず)
 だが、アルテたちは平然としている。
「――姑息な手を」
 詩愛の意図を理解したアルテは彼女へと歩み寄った。
 思わず身構える詩愛だが、アルテは詩愛をそっと抱き上げると、リングである広場の外まで運び、そっと下ろす。
「死に体の者をいたぶった所で意味はない。貴様はそこで観戦でもしていろ」
 リングへと戻り、アルテは再び構えを取る。
 こうして戦いの火ぶたは切って落とされた。
 

 ヴァルディア(jb2575)と風鳥 暦(ja1672)はケンに対して魔法と銃撃の集中砲火を放っていた。
「このまま一気に封殺といきてえところだ。接近戦バカに接近戦挑むようなことはしねぇ。自分の得意分野で得意に勝つってのがベストだ。どんな場合も勝てるが良いんだろうがそんなに器用じゃないんでね」
「……ええ」

 その様子を遠くから見ていたエイルズレトラ マステリオ(ja2224)はアウルでカードを作り出しながら呟いた。
「このままでは箱崎さんがパンチ力を発揮できないまま封殺――は、あり得ませんね。ボクサーの武器はそのパンチ力だけではない。巧みなフットワークと正確な動体視力、そして反射神経と勘――それら全て」
 エイルズレトラの独白を裏付けるように、ケンは卓越した足捌きで遠距離攻撃を次々と避け、一気にヴァルディアへと肉迫する。
 その間に暦が割って入った。
「……あなたの相手は私」
 槍を顕現させた暦はそのまま相手の背後に回り、穂先を薙ぎ払う。
「遅い――」
 しかし、ケンは紙一重で槍を避けると同時、拳打を放った。
 暦の勢いを逆利用して威力を上げたクロスカウンターを受け、暦は派手に吹っ飛ばされる。
 更にケンは流れるような動作でヴァルディアにも肉迫、ダッシュストレートを叩き込む。
「一撃でダウンか。無理もない」
 倒れた暦とヴァルディアを尻目に、次なる相手を探すケン。
 直後、彼の身体に鈍痛が走った。
 驚いて背後を見やると、そこには平然と立つ暦の姿。
 暦は槍の石突でケンの背を痛打していたのだ。
「お手ご覧ください」
 未だ驚いているケンに、エイルズレトラがカードを弄びながら言う。
 見ればケンの拳にはいつの間にかカードがまとわりついていた。
「インパクトの瞬間、あなたの拳を『縛らせて』もらいました。前もって縛ろうものなら流石に気付かれてしまうので。あなたは全力で殴ったつもりでも、勢いは随分と削がれていたようですね」
 背中のダメージで動けないケンに向けて、立ち上がったヴァルディアが精製した火球を見せる。
「格闘ってのも面白そうじゃあるが、俺はあまり接近戦は得意じゃねぇんだよな。ま、後ろからポンポン撃っていくが文句言うなよ?」
 そして放たれる火球。
「こそこそ忍んで……!」
 火球炸裂の直前、思わず叫ぶケン。
 彼に対してエイルズレトラはしれっと言い放つ。
「忍者がこそこそ忍んで、何が悪いんです?」
 そして火球は直撃し、ケンは吹っ飛んで昏倒した。
 

「そんな激しく大きな動きでは、私は倒せない――」
 長い黒髪を優雅に払うと、マイは首を刈るような上段回し蹴りを放つ。
 対する雫(ja1894)は、自身の低身長を生かし、蹴りを避けつつマイの懐に潜り込む様に近付いた。
「柔よく剛を制すと良く言われますが、剛よく柔を断つと続くのですよ」
 剣を下から打ち上げる軌道で振るう雫。
 マイは舞踊の如し動きで剣を避け、そればかりか刃の上に乗ってみせる。
「その動き……まるでダンスですね」
 絶妙なバランス感覚で大剣の腹に乗るマイを見上げ、雫は言う。
「ありがと。カポエイラの技とは『武闘』であり『舞踏』だもの。そういうキミは随分と激しい武術ね。流派は何かしら?」
「流派等は有りませんが、生きる為に磨いた私の武。何処まで通じるか試させて貰います」
 言葉を交わしながら雫は次々に斬撃を繰り出すも、やはり舞踊の如し動きですべて避けられてしまう。
「気を付けてください、雫さん」
 観戦していた詩愛は咄嗟に雫に警告を発した。
「舞岡さんの言う通り、カポエイラは舞踏でもある武術。その思想は、『芸術的な動きによって見る者を楽しませる』というもので、打撃の応酬が主たる目的ではありません――ですが、ひとたび攻撃に転ずればその強さは決して他の武術に劣らない。このままでは危険です。きっと、雫さんが技を出して消耗した時を狙い、相手は一気に攻めに転じてきます」
 雫より先にマイが詩愛に言葉を返した。
「お詳しいのね」
「ええ。私も足技を使う者ですから」
 マイは詩愛と会話しながらも、余裕で雫の攻撃を避け続ける。
 ややあって詩愛の言葉通り、マイは攻勢に転じた。
 攻撃を避けつつ繰り出されるマイの蹴り技を次々ともらって雫はグロッキー寸前に追い込まれる。
「キミの『剛』は見事。でも、私の『柔』には勝てない」
 雫が力を振り絞って振るう斬撃も、ジャンプで避けられてしまう。
「生きる為に磨いた私の武。それが『剛』なら、それが何処まで通じるか試させて貰うだけです――」
 決然と呟いた雫は気絶寸前の意識で大上段に刃を振り下ろす。
 だが、その刃も空を切る。
「外したっ! いえ……これはっ!」
 詩愛は何かに気付いた様子で叫んだ。
 それと同時、マイが着地する。
 その瞬間、大剣を叩きつけられた地面は衝撃で局所的に揺れ、土砂を撒き散した。
「まさか……これを狙って!?」
 マイが狙いに気付いた時にはもう遅い。
 揺れと土砂に足を取られたマイは着地に失敗して尻餅をつく。
 間髪入れず、雫は剣の斬っ先をマイに寸止めした。
「完敗ね。私はリタイアするわ。カポエイラでは相手を制する寸止めこそが上等とされるの。だから、私の流儀では正真正銘キミの一本勝ち――見事な『剛』だったわ」


「降参をお勧めしますよ」
 メガネを直しながら、タクミは眼前の日谷 月彦(ja5877)に告げた。
 既に月彦は立っているのがやっとの状態だ。
 腕を取られた時、相手を斬るために仕込んだ内ポケットのナイフ。
 それを用い、致命傷を避けようとしたものの、月彦は何発もの関節技をくらっていた。
 もはや各所の関節を痛めつけられ、月彦の身体はろくに動かない。
「貴方の策は立派でした。ですが、既に僕はそれを予測しており、対処法も知っていた。もっとも――撃退士たる僕の身体はV兵器でもない通常のナイフで傷つきませんから、心配無用ですが」
 淡々と言うタクミに対し、月彦は精一杯の皮肉を込めて笑う。
「お見通しというわけか」
「お褒め頂きどうも。関節技対策はもちろん、貴方の介する斧術や槍術、魔術に弓術――そのすべてに関する情報は既に僕の頭の中にあります。ですから、貴方が手足や武器を掴まれまいと気を付けた所で、その対処法も僕の頭にある。貴方だけではない、様々な学園生のデータや様々な流派が僕の頭にはありますから」
「いいのか、呑気に話しかけていても?」
「勿論。今の貴方は文字通り手も足も出ない状態ですからね」
 両手をだらりと垂らし、笑う両膝でやっと立つ月彦。
 その背後へとタクミが回り込む。
「終わりです」
 とどめの関節技をかけようと、タクミが背中から身体を密着させた瞬間。
 月彦は最後の隠し玉――背中に貼り付けた陰陽護符を発動させた。
 眩い発光とともに、白と黒の光球が零距離からタクミへと炸裂する。
 だが、そんな攻撃の仕方をしては月彦もただでは済まない。
 零距離炸裂でのとばっちりをもろに受けて、月彦の背中は創傷と流血で大惨事だ。
「がはっ……! 自分の背中ごと撃つなんて……正気の沙汰じゃない……!」
 月彦以上に怪我のひどい脇腹を押さえて呻きながら、タクミが絶叫する。
「何をその程度で驚いている。この学園には、負けられない勝負の為には自分の左腕を……他ならぬ自分自身で木っ端微塵にすることも厭わないような気骨ある奴もいるぞ」
 更に驚くタクミ。
 彼に向けて月彦は素早く向き直る。
「知らなかったのか。様々な学園生のデータが頭にあるが聞いて呆れる」
 言い捨てると、月彦は全体重をかけて倒れ込むのを利用した頭突きをタクミに叩き込む。
「なんて無茶な攻撃……そんな攻撃をする流派……聞いたこともない」
 困惑の声とともに気絶したタクミに向け、月彦は言い放った。
「流派なんてない。強いて言えば、ただの喧嘩――とある宿敵の、流派だ」


「命を賭けない試合はワクワクするね……負ける気はないよ!」
 ルーネ(ja3012)は、螺旋状に絡まる白い闇と黒い光の短剣――『螺子れ狂う剣』をゴウに向けて放つ。
 だが、ゴウはそれを正面からガードして耐えつつ突進する。
 咄嗟にルーネが回避するよりも速く、ゴウは彼女の身体を掴んだ。
 そのままゴウはルーネの背後に回り、そのまま腕を腰に回す。
「サブミッションマスター、だと!?」
「それはタクミの専門だ。俺の専門は投げ技でな」
 低く渋い声で答えると、ゴウはルーネの腰を掴んだまま大きく身体を反り曲げた。
 ゴウはブリッジ姿勢でルーネを地面へと叩きつけるが、彼女は頭を振りつつなんとか立ち上がる。
「いきなりジャーマン・スープレックスなんて……っ、キッツー。パワーファイターは伊達じゃない、か」
 するとゴウは感心したようにルーネを見る。
「ほう。随分と詳しいな」
「有名な大技だし、それぐらい知ってるよ」
 ルーネがダメージから回復するよりも早く、ゴウは再び彼女に肉迫する。
 素早く彼女を抱え上げたゴウは、そのまま身体を捻りつつ倒れ込む勢いを利用して、彼女を地面に叩きつけた。
「ならこの技――ノーザンライト・ボムは知っているか?」
「どうも。勉強になったわよ……!」
 気丈に言い返すルーネだが、もはや立つことすらままならない様子だ。
 一度ならず二度までも強烈な投げ技を受けたのだから無理もない。
「次で終わりにするか。安心しろ、ひどい怪我はさせんし、後で保健室にも運んでやる」
 ろくに動けない様子のルーネを軽々と掴みあげると、ゴウは彼女を逆さ吊り状態にして保持する。
「気絶する前に覚えておけ。この技はパイルドライバーとい――」
 そこまで言いかけ、ゴウは呻いて言葉を中断した。
 突如脇腹に走った激痛に驚き、ゴウが咄嗟に目を落とすと、そこには脇腹に触れたルーネの手があった。
「油断大敵、がら空きよん♪」
 そう言うルーネは意識もはっきりしているようで、グロッキー寸前だったようには見えない。
「どういう……ことだ……?」
「まあ、こうした演技でもしないと無防備な懐を晒してくれそうになかったしね」
 ゴウの脇腹に触れ、ルーネは『螺子れ狂う剣』は撃ったのだ。
 不意打ち、零距離、そしてクリーンヒットという条件が重なり、さしものゴウも大きく怯む。
「確かにキッツイ投げ技だったけど……前に風速140mで吹っ飛ばされて叩きつけられた時に比べれば痛みも少ないし、受け身も楽だったよ」
 その隙を逃さずルーネは逆さ吊りの状態から両脚でゴウの首を挟む。
「足腰には自信があるんだ……こいつでどーよ!」
 更にルーネは身体を激しく捻ってゴウの巨体を薙ぎ倒した。
 そのままゴウを地面に叩き付けたルーネは素早く立ち上がり、大剣を顕現させる。
 だが、既にゴウは気絶しており、勝負は決していた。
 

 アルテと相対し、マキナ・ベルヴェルク(ja0067)は静かに宣言する。
「貴方との一対一を希望します。既に仲間には回復や貴方への状態異常を控えるよう、お願いしてありますので――『正々堂々』とした『真剣勝負』とは、他の手を借りて成す様な物ではないが故に」
「その意気や良し。ならば、俺の最大限の礼を以てそれに応じよう」
 先に仕掛けたのはマキナだった。
「――鎖せ」
 マキナの術に応じ、黒焔の鎖が現れてアルテへと巻き付く。
 しかしアルテはそれを難なく引きちぎる。
「俺にこんな児戯は通じない」
 一方、マキナは特に焦る素振りもない。
「ならば、真正面より挑むのみです」
 そして彼女は偽腕の拳を握り締める。
「現状での私の全力――受け止めて貰えますか?」
 マキナは渾身の力で拳を繰り出し、アルテも握り締めた拳を打ち出す。
 正面からぶつかり合う拳と拳。
 一瞬の静寂の後、鈍い音を立てたのはマキナの身体だった。
 砕かれてこそいないが、伝導した衝撃によって、偽腕をはじめとするマキナの身体はそこかしこが破壊されている。
「これが悪魔の使う魔界の術……」
「違うな。俺の介する骨法は遥か戦国の世において、堅い鎧を貫き、武装した相手を倒す為に生み出されたもの――紛う事無き、人間の術だ」
 思わず膝をつきかけるマキナだが、その瞳に宿る闘志は衰えていない。
 アルテは感心したようにそれを見ていたが、突然腕を押さえてもがき出す。
「師より賜った『秘術』――どうやら貴方にも通じたようです」
 しっかりと立ち上がりながらマキナが告げた意味を理解したのか、アルテは得心した様子で息を吐き出す。
「成程。お前の技も俺の『徹し』と同質のものか」
「はい。そして互いに身体も拳も傷つき、握るも振るうもままならない」
「ならば、これにて引き分けとするか――冗談を」
「ええ。とんだ諧謔ですね」
 言葉を交わし、同時に二人は傷ついた身体で構えをとる。
「――ならば、すべきは一つ」
「倒れるその瞬間まで真っ向勝負――!」
 互いの意図を自然と理解し、二人はまたも同時かつ同様の動きをとった。
 体内に過量のアウルを流し込み、痛覚を遮断。
 そして、二人は防御も回避も捨てて、ただただ全力で殴り合う。
 一撃必倒の大技を正面から何発もぶつけ合い、それでも二人は倒れない。
 ほんの一分にも満たない時間が何時間にも感じられる中、一心不乱に殴り合った二人の意識はやがて、どちらからともなく薄れて行った。
 

「……!」
 はっとなってマキナは起き上がった。
「気が付いたか」
 すぐ近くに立っていたアルテから声をかけられ、マキナは困惑した顔で彼を見る。
「既に勝負は決した。今はあの詩愛という娘と暦という娘の二人が皆の傷を癒し終えた所だ」
 見れば、自分を含めた全員が治療を施されており、全員が普通に立って互いに握手を交わしているのが見える。
 ほっと息を吐くマキナに向け、アルテは告げた。
「この勝負、お前達の勝ちだ。約束通り、お前達に力を貸すとしよう――」


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
撃退士・
風鳥 暦(ja1672)

大学部6年317組 女 阿修羅
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
誠士郎の花嫁・
青戸ルーネ(ja3012)

大学部4年21組 女 ルインズブレイド
悪戯☆ホラーシスターズ・
道明寺 詩愛(ja3388)

大学部5年169組 女 アストラルヴァンガード
人形遣い・
日谷 月彦(ja5877)

大学部7年195組 男 阿修羅
撃退士・
ヴァルディア (jb2575)

大学部5年252組 男 陰陽師