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マスター:漆原カイナ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/12/14


みんなの思い出



オープニング



 ―― 十一月某日 PM22:54 都内某所 住宅街 ――

 夕暮れ時を過ぎた住宅街。
 街灯が僅かに照らすだけの道に人影はほとんどなく、スーツ姿の男――俺が一人歩いているだけだ。
 割と若いサラリーマンみたいな格好をした俺は、玩具店のチラシを見ながらほくそ笑んでいた。
 その姿は自分の子供におもちゃをプレゼントするのを考えて、自然と笑みがこぼれてしまったようにも見えるだろう。
 だが、俺の実態はそんな微笑ましいものじゃあない。

 ――転売屋。
 俺は俗にそう呼ばれる類の人種だ。
 人気で品薄の玩具を買い占め、プレゼントする為に欲しがっている親といった連中に暴利で売りつける。

 ――子供の夢や親の愛情を喰い物にする奴。
 そんな言われ方をしていることは自覚している。
 だが、それが何だというのだ。
 メーカーも正規の販売店も、本質的には俺とやっていることに変わりはないんだからな。

「やっぱり、定番の『味』っていうのもイイわねぇ。ねぇ、そこのお兄さん――」
 チラシを見ながら次の獲物を物色していた俺は突然声をかけられた。
 俺が振り返ると、その先には一人の少女が立っている。
 学校や塾の帰りにも見えず、年端もいかない少女がこんな時間に一人歩きしているのは違和感を覚えた。
 
「こっちの世界には変わった『感情』がやたら沢山あるけどぉ、たまには定番――『お金欲しさの欲望』の味も欲しくなるわぁ」
 そんな意味不明なことを言った直後、少女は人間離れした身のこなしで一気に距離を詰めてきた。
 まるで瞬間移動したかのように俺へと接近した少女は、信じられないほどの怪力で俺を押し倒す。
 そして、少女はそのぽってりとした唇を俺の唇と重ねる。
 唇が重なり合った瞬間、俺の意識は遠のいて行った――。



「んっ……! ぷはぁ……!」
 たっぷり数秒間、獲物と唇を重ねた少女はようやく唇を離すと、満足げに息を吐いた。
「さてと、どんなのができるかしらねぇ」
 少女が既に動かなくなった獲物――スーツ姿の男に触れると、その身体は音を立てて変異していく。
 やがて彼の身体は一頭のハイエナを思わせる生物へと変化した。
「行きなさい。後はあなたの好きにするといいわぁ。汝の欲するところを成せ――だったかしらぁ?」
 少女がそう告げると、一頭のハイエナはどこかへと走り去っていった。



 ―― 十一月某日 12:24 久遠ヶ原学園 教室 ――

「……頼みたい……ことが……ある……」
 来栖美里(jz0075)は休み時間の教室でそう切り出した。
 学友とともに昼食を摂りながら、美里はタブレット端末を取り出す。
 興味を引かれた学友たちが画面を覗き込むと、ほどなくして映像の再生が始まる。

 始まったのは特撮ヒーロー番組だった。
 ――『無尽光闘士ギガブレイカー』。
 それがこの番組のタイトルだ。
 
 ストーリーは撃退士をモチーフにしたものであり、実際の撃退士への取材を基に練られているという。
 物語そのものは新型のV兵器を手に入れた主人公が天魔を倒していくという分かり易い展開だ。

 主人公が使う新型のV兵器は魔具と魔装の両方の性質を持つという設定であり、ネフィリム鉱製のパワードスーツという形で表現されている。
 そのV兵器はメカニカルなデザインのブレスレッドの形をしたヒヒイロカネに収納されており、戦闘時に瞬間武装するのが番組の見せ場の一つだ。
 
 更にはこのヒーローは複数の戦闘スタイルを持ち、各々のジョブに対応したスタイルに変化することで様々な戦い方が可能だという。
 各ジョブに対応したエンブレムが存在し、それをブレスレッドにかざすことによって戦闘スタイルをチェンジする演出も人気の理由だった。

 そして、劇中のヒヒイロカネ製ブレスレッドを再現した玩具が発売された所、狭い範囲ではあるが密かな人気を呼び、品薄になっているらしい。
 一説には、エンブレムに内蔵されたICチップを読み込み、それぞれ対応したスタイルの名前を発声するギミックがウケたというが。

 そんな中、タブレット端末で再生されていた番組はAパートを終え、CMに突入していた。
 数々のタイアップ商品のCMが流れていく中、変身アイテムの玩具のCMも流れる。
 そのCMが終わるのに合わせて映像を一時停止すると、美里は画面を指差す。
「……このおもちゃ……明日……都内の量販店に入荷する……。……自分で買いに行きたいけど……ちょうど明日の朝は……斡旋所の仕事が入ってる……だから……代わりに並んでくれる人……探してる……」
 
 そこまで聞き、学友たちは美里の言わんとしていることを察した。
 この玩具は狭い範囲とはいえ密かな人気がある。
 逆に言えば、狭い範囲の密かな人気である以上、入荷数は少ない。
 ゆえに開店前から並び、抽選券を受け取らなければ到底購入できないだろう。
 しかも、抽選券である以上、ある程度の確率を確保する為に、列に並ぶ人員はそれなりの数を揃えていかなければならない。
 それを理解しているからか、頼み込む美里は申し訳なさそうな所作だ。
「……もちろん……お礼は……出す……。……だから……お願いしてもいい……?」
 


 ―― 翌日 07:36 都内某所 某量販店前 ――

 翌日。
 都内の某量販店前には抽選券待ちの列ができていた。
 昨日の昼休みに美里から頼まれた学友たちや、彼等に声をかけられて同行していた学園生たちもその列に加わっている。
 朝早くから並んでいた彼等が待っていると、朝八時になると同時、いつもより早く量販店のシャッターが開いた。
 開いたシャッターから現れたのは量販店の店員だった。
 手には何枚もの紙片を握っており、列を作っている客の視線を自然と集めている。
 予想よりも伸びた行列に一瞬驚きながらも、定員が抽選券を配ろうとした時だった。

 人影もまばらな早朝の市街地で悲鳴が上がる。
 驚いて客や店員が一斉に振り返ると、そこにはハイエナに似た姿をしたディアボロがいたのだ。
 そして、どこからか現れた一頭のディアボロは量販店に向けて襲いかかってきたのだった――。


リプレイ本文


「ここは俺が引き受ける。その間に一般市民を避難させてくれ」
 率先して前に出ると、敵の正面へと立ったリョウ(ja0563)はヒヒイロカネから槍を取り出した。
「アクセス――我が【シン】」
 キーワードを用いた自己暗示を行うリョウ。
 それに呼応し、彼自身を中心に黒い光の柱が立ち昇る。
「止まれハイエナ。お前の獲物は俺だ。こっちへ来い!」
 眼前へと立ち、派手な現象を起こしたせいか、敵の注目はリョウただ一人へと集中していた。
 もはや一瞬の躊躇もなく、敵は唸り声を上げてリョウへと跳びかかってくる。
 俊敏な動きでリョウへと肉薄した敵は、彼が避けるよりも速く肩口に鋭い爪を喰い込ませる。
「くっ……!」
 強靭な前脚の力で爪を立てられた痛みに、押し殺した呻き声を漏らすリョウ。
 それでも倒れるわけにはいかないリョウは手首の動作だけで器用に槍を回転させると、下に向けた穂先をアスファルトへと突き立てる。
 深々と突き立った槍を支えにして、リョウは肩口にかかる痛みと重みに歯を食いしばって耐え、何とかその場に踏みとどまる。
「そのまま動くなよ」
 冷静な声でそれだけ言うと、影野 恭弥(ja0018)は両目にアウルを集中しながら銀色の拳銃をヒヒイロカネから顕現させた。
 アウルの力で金色に発光した目で敵を見据えると、恭弥はろくに狙いもつけずにトリガーを引く。
 にも関わらず、発射された数発の銃弾はリョウの身体ギリギリをかすめ――それでいてただの一発として彼を傷つけることなく、彼と密着した敵へと命中する。
 しかし、敵は敵で銃弾に気付き、ある程度の回避行動を取り始めていたのか、被弾したものの致命傷ではない。
 何発か銃弾を受け、敵はひとまずリョウから距離を取る。
 
 リョウと恭弥が敵を喰いとめている隙を逃さず、桜花(jb0392)は泡を喰って棒立ちの一般市民たちに呼びかけた。
「ディアボロです、私達が戦います。皆さんは周囲の屋内に避難してください!」
 桜花が避難を呼びかけるも、恐慌状態で右往左往する者はもちろん、野次馬根性丸出しで撃退士とディアボロの戦いの見物を間近で決め込もうとしている者も少なくない。
 
 野次馬たちが携帯電話のカメラやデジカメを取り出し、今まさに店の前で相対するリョウとディアボロに向けた瞬間、天険 突破(jb0947)は強烈な叫び声を発した。
「死にたくねぇ奴は逃げろ!」
 突破の叱咤に乗っかる形でアーデルベルト・シュルツ(jb2334)も一般市民たちを叱咤する。
「消えろ、邪魔だ役立たず共!!」
 叱咤しながらアーデルベルトは光纏と同時に瞑想し、呪文の詠唱を開始した。
「祝福あれ宿り木よ、神聖なる子種にして槍よ、我は汝を生かすもの也。然れば宿り木、その力もて我が身を害するものを悉く祓い給え!」
 召喚呪文を言い終えると同時、アーデルベルトの傍らにヤドリギが絡み合ったような外見の竜が現れる。
「Scheisse!ボロい仕事だと思ったのによ」
 吐き捨てるように言いながらも、召喚したばかりの竜を一般市民の前に立たせ、少しでも彼等を庇おうとするアーデルベルト。
 そのあたり、何だかんだ言いながらも、彼は面倒見が良いのかもしれない。
 二人の叱咤のおかげで一般市民たちは、戦いを見物していこうなどという気がすっかり失せたようだ。
 だが、その一方で二人の剣幕による恐怖のあまり、滅茶苦茶に逃げ出そうとし、また別のパニックを生み出しかけている。
 
 それを見かねてベルメイル(jb2483)はすかさずアシストに入った。
 二人とは対照的に穏やかな声音と口調で一般市民たちへと語りかける。
 落ち着いてゆっくりはっきり、冷静に喋る事で一般人が恐慌に陥る事を避けるのが彼の狙いだ。
「いいかい落ち着いて。ここに居るのはギガブレイカーにも勝るとも劣らない歴戦の撃退士さ。俺達にとってはこの程度、危機の内にも入らない。だから俺らを信じて、店の中で待っていてくれ――」
 凄まじい剣幕で叱咤されていたおかげか、よりベルメイルの言葉が耳に入りやすかったのだろう。
 一般市民たちは幾らか落ち着きを取り戻す。
 それでもまだ恐怖や焦燥が完全になくなっていないのを察したベルメイルは、もうひと押しとばかりに、とある言葉をかけた。
「大丈夫。『天使でも悪魔でもない――お前の願いを聞き届けた俺を信じろ』」
 しっかりと立てた親指で堂々と自分を指さしながら言うベルメイル。彼が口にしたのは、他ならぬギガブレイカーの決め台詞である。
 作中何度もこうしたシチュエーション――天魔の出現で恐慌状態に陥った一般人を安心させてきたこの台詞を咄嗟に引用できるほどには、彼はあの番組を見ているのだった。
 
 朝早くから行列に並ぶだけあって、ここに集まっていた一般市民たちは皆、ギガブレイカーのファンだったのだろう。
 ベルメイルが引用した決め台詞が決め手となり、一応の落ち着きを取り戻した一般市民たちは慌てることなく量販店から離れていく。
「そのまま落ち着いて、焦らずにゆっくりと避難してください」
 先程、ベルメイルがしたのと同じように蒼蛇(jb2480)が蒼蛇(jb2480)が穏やかな声で一般市民を誘導していく。
 穏やかで常に微笑んでいる印象の彼がするとより一層効果があるのか、反応の遅れていた一部の市民たちも取り乱すことなく量販店から距離を取りはじめた。
 
 一般市民たちが皆量販店から離れていくのを見ながら、紫音・C・三途川(jb2606)はベルメイルに水を向けた。
「あの番組、あんたも見てたのか。あの状況でパッとあの台詞が出てくるあたり、相当じっくりと見てるみたいだな」
 ついさっきベルメイルが口にした言葉が、作中の決め台詞の引用であることに、紫音は気付いていたのだ。
「あの手の作品は俺も好きだからね。それにあの状況で言うべき言葉はあれしかないよ。あの状況で撃退士があの台詞を言う――これほどの勝ちフラグもないからね。更に欲を言えば、その後で挿入歌が処刑用BGMとして流れれば完璧なんだけど」
 冗談めかしたように言いながら、敵へと向き直るベルメイル。
 そんな彼に向けて、紫音も大きく頷く。
「だな。せっかくだからこれもおまけで見せてやろうぜ?」
 どうやら二人の会話を聞いていた突破も、紫音の意図を理解した様子で近付いてくる。
 今度は三人で頷きを交わし、互いの意志を確かめ合うと、ベルメイル、紫音、突破は横一列に並ぶ。
 そして、避難しながら遠巻きに戦況を見つめている一般市民たちに向けて、突破は豪快に言い放った。
「サービスで見せてやるぜ、これが本物だ!」
 突破の宣言を合図に、三人は光纏を行う。
「「「天界の眷属は空の上、冥魔の眷属は地の底に叩き返してやる――さあ、お前の世界を答えな!」」」
 ギガブレイカーの変身後決め台詞を高らかに言う三人。
 朗々と響く堂々とした声に、光纏の光景が合わさり、その迫力は凄まじい。
 一連の光景を見た一般市民たちは歓声を上げ、大いに勇気づけられたようだ。
 そのおかげか、既に恐慌状態にある者は殆どおらず、安心したように安全圏へと避難していく。
 
 避難誘導も終わり、全員が敵と相対する。
 一方、敵はというと、先程とは打って変わってリョウたちに襲いかかることはしない。
 そればかりか、彼等には目もくれず、違う方向へと走り出した。
 敵はそのままリョウたちが並んでいた量販店の壁へと走り寄ると、透過能力を利用して内部へと入っていった。
「まだ中に店員さんがいるかもっ!」
 焦った様子で言う桜花に対し、応えたのは蒼蛇だ。
「先程、抽選券を配りに出ていらした店員の方も、避難していった方々の中にいらっしゃいました。その時にお聞きしたのですが、今日は特別に早く開店したそうで、来ていたのは玩具売り場担当のあの方だけだったそうです」
 その説明を聞いていたリョウもすかさず相槌を打った。
「なるほど。今ならば店内は無人ということか――それなら好都合だ。奴が外に出る前に仕留めるぞ」
 その提案に頷いた仲間たちとともに、リョウは店内へと突入していった。
 

「おのれちょこまかと……!」
 店内を駆けまわる敵を追って商品棚を迂回しながら、桜花は苛立ちを顕わにした。
「確かに。もしこれを意図したのだとしたら、敵は優秀な戦術家なのかもしれないな」
 鬼道忍軍特有の身軽さを活かし、大型冷蔵庫と天井の間を飛び越えながらリョウは桜花に応えた。
 びっしりと陳列された冷蔵庫や、所狭しと並べられた商品棚など、店内にある物がどれもこれも障害物となって立ちはだかる中、敵は野生動物特有の身のこなしで易々と進んでいく。
 阻霊符により透過は防がれているが、敵は特に困った様子もないようだ。
 その一方、桜花たちにしてみれば、それらの障害物を迂回するか飛び越えねばならず、ただでさえ屋外のようには動けない状態にあってか、追跡に苦戦を強いられていた。
 もっとも、リョウや桜花はまだましな方だ。
 アーデルベルトに至っては店の前で召喚した竜を一度帰還させるのを余儀なくされ、今は彼一人で店内を走っている。
「Scheisse! 野郎! このまま最上階まで行くつもりか!」
 彼が桜花以上の苛立ちをあらわにした直後、突破がふと何かに気付いたように呟く。
「そういやこの上の階っておもちゃ売り場だよな。こいつも変身アイテムを狙ってるのか? ってそんなわけないよな」
 上の階へと足を踏み入れた突破たちは慎重な足取りで進み始めた。
 この階には敵が先に辿りついており、どこに潜んでいるかもわからないのだ。
 案の定、この階に潜んでいた敵は、棚の間から飛び出すと、そのまま突破へと跳びかかろうとする。
 だがその直前、突如出現した召喚獣の竜が突破の前に立ちはだかり、身体を張って敵の体当たりを止めたのだ。
「今度は随分積極的に攻撃してきやがった――まぁいい……よぉし、ストレス開放ォ!!」
 
 竜を召喚したのはもちろんアーデルベルトだ。
 彼は素早く竜に指示を出し、溜めた力を解放させる。
 竜からの反撃を受け、敵は退避も兼ねて別の相手に跳びかかろうとする。
 そうはさせまいと紫音が動き、天使の羽根を広げて天井付近まで飛び上がった彼は、空中で盾を構えた。
「こっから先は一方通行だ」
 敵の跳躍軌道に先回りした紫音は渾身のアウルを盾に込め、敵の体当たりに耐えきる。
「攻撃するときは無防備にもなりやすい、ってか」
 紫音の言葉通り、一瞬動きの止まった敵に向け、リョウは影を伸ばす。
「――影よ、蝕み足を引け」
 リョウの影に縛られ、敵が動きを封じられた隙を逃さず、仲間たちは一斉に攻撃を仕掛けた。
「まずは私たちから行きましょう」
「おう!」
 手始めに大鎌を構えた蒼蛇と、大剣を振りかぶった突破が敵に突撃をかける。
 左から蒼蛇、右から突破が敵を斬りつけ、クロスする軌道で敵を斬り裂いていく。
「影野さん、ベルメイルさん、ここで一気に決めましょう!」
 二人を振り返って合図すると、桜花は手にした拳銃にアウルを込める。
 桜花からそれぞれ左右の斜め後ろに立つ恭弥とベルメイルも同様にアウルを武器に込めていく。
「……二人とも、行きますよっ!」
 再び桜花が合図したのに合わせ、三人は同時に射撃を放った。
 桜花の放った銃弾とベルメイルの放った矢が敵を貫き、最後に恭弥が銀色の拳銃のトリガーを引いた。
「運が悪かったよお前」
 ただ一言、恭弥が冷静にそう告げた直後、銃弾に撃ち抜かれて敵は絶命した。


「これ、あのディアボロがやったのか? でもどうして……?」
 怪我した仲間を術で回復していた紫音は、戦場となった区画から棚一つ隔てた隣の区画に大量の玩具が山と積まれているのを発見した。
「ギガブレイカーと同じく特撮の玩具に、こっちは少女向けアニメの玩具、そんでもってこのゲームソフトは初回限定版……どれもこれも品薄がちなものばかりだね」
 積み上げられた商品を一つ一つ検分したベルメイルがそう言うと、突破はふと呟いた。
「もしかして……このディアボロの素体になった人間って転売屋だったんじゃ……?」
「なるほど。断言はできませんが、もしかすると……人間だった時の記憶がかすかに残っていたのかもしれませんね」
 蒼蛇が言うと、今度はリョウが誰にともなく言う。
「だから本能的にこの階へと向かい、高く転売できそうな玩具を集めたのか。そして突如として攻勢に出たのも、これを守ろうとしたのだろう……なんにせよ敵は倒され、安全は確保された。そして、俺たちにはまだ本来の目的が残っている――」


 その後、並んでいた客が全員逃げてしまった為、リョウたちは購入券を、必要な一枚に加えて余分に手に入れた。
 最初から実は欲しがっていたベルメイルと紫音。
 なんとなく呼ばれて最初は気乗りしていなかったが、売場で販促用に流されていた映像を見て気が変わった突破。
 その三人も無事、目的の玩具を手に入れることができたのだった。
(劇場版とかでたら来栖と行こうかな……)
 帰り道、プレゼント用に包装してもらった玩具を抱え、リョウは胸中に一人ごちた。
 その横ではベルメイルと紫音が興奮気味にまくし立てている。
「玩具とは言え随分と力が入っているね。来栖君といったか、彼女が欲しがるのも分かるよ」
「変身アイテムは心くすぐる夢の玩具! だって男子だもの欲しくなるさ! 変身アイテムは幾つになっても心を躍らせるんだきっと」
 二人の様子を横目に見ているアーデルベルトも、どこか興味をひかれたようだった。
「トクサツーとやらは知らねえけどよ……しかしよくもまああんだけ大人がいたもんだ。子供番組じゃねーのか? 今度見てみっか」
 解決後の現場を見に来た野次馬の第二陣で辺りはにわかに騒がしい、その人波を彼等が通り過ぎようとした時だった。
「たしかに『汝の欲するところを成せ』とは言ったけどぉ、まさかここまでとはねぇ。やっぱり、欲望って面白いわぁ」
 アーデルベルトとすれ違い様、年端もいかない少女が妖艶な声で小さく呟く。
 はっとなってアーデルベルトは振り向くが、その時既に少女は人波に消えていた。
「――そこに一節付け加えときな。“何故なら、抑圧に歪められることなく真なる高潔を見出す為に”ってな。秩序の意味も知らねえクソブタ野郎が、気軽にヒトの聖典引用してんじゃねえよ。半可通」
 後はただ、押し殺した怒りに満ちた彼の声が残るだけだった。
 

 後日、美里はリョウたちから受けとった玩具の箱を大事そうに抱きしめた。
「……ありがとう……ずっと……大切にする……」
 それだけではなく、美里が好きそうなゲームやアニメのDVDなども買っていき一緒に渡したリョウ。
 彼は皆には聞こえないように小声で美里に言った。
「今度は二人で行けると良いな?」


 更に後日。
 学園某所には、変身アイテムを装着してポーズを決めるベルメイルの姿があったが、それはまた別の話。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 約束を刻む者・リョウ(ja0563)
 フラグの立たない天使・ベルメイル(jb2483)
 撃退士・紫音・C・三途川(jb2606)
重体: −
面白かった!:5人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
約束を刻む者・
リョウ(ja0563)

大学部8年175組 男 鬼道忍軍
肉欲の虜・
桜花(jb0392)

大学部2年129組 女 インフィルトレイター
久遠ヶ原から愛をこめて・
天険 突破(jb0947)

卒業 男 阿修羅
能力者・
アーデルベルト・シュルツ(jb2334)

大学部1年75組 男 バハムートテイマー
撃退士・
蒼蛇(jb2480)

大学部6年244組 男 阿修羅
フラグの立たない天使・
ベルメイル(jb2483)

大学部8年227組 男 インフィルトレイター
撃退士・
紫音・C・三途川(jb2606)

大学部5年264組 男 アストラルヴァンガード