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マスター:漆原カイナ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:10人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/10/28


みんなの思い出



オープニング



 ――某日 21:18 東京都 世田谷区某所――

 夜も更けてきた頃。
 世田谷区内の住宅街に設けられた公園では一人の青年が激しく動き回っていた。
 青年の右手には包帯が巻かれており、左手には一本の糸が結ばれている。
 そして、結ばれた糸の先にはヨーヨーが回転しており、小気味の良い音をたて続けていた。

「もしかして、それはヨーヨーかな?」
 彼が声をかけられて振り返ると、その先に立っていたのは一人の美青年だった。
 どこの国籍や民族とも言えない無国籍な顔立ち、金糸のような長髪という中性的な美貌はどこか人間離れしている。
 その美青年は彼の手をじっと見つめたまま、透き通るような美声で問いかけた。
「そうだが――って、アンタ……まさかこれみたいなヨーヨーも見たことないのか?」
「初めて見たよ。なるほど、この世界のヨーヨーはそうした形をしているのか。おぼえたよ」

 興味津々といった様子でヨーヨーを見つめ続ける美青年を見て、彼は何かを察したのか、合点がいったように頷く。
「ああ、なるほど。アンタ、外国の人だろ? 見た所西洋の人みたいだけど、このタイプのヨーヨーが無い国っつーとどこだ? アメリカは間違いなく違うだろうし……つーか日本語上手すぎじゃねえか」
 一人呟きながら考え込み始めた彼に、美青年は静かに答える。
「外国――『この国の外から来た』、という意味では間違ってはいないよ」
 
 そう答えると、美青年は視線をヨーヨーから視線を彼に移した。
「それにしても、さっきの技――実に見事だったよ」
 賞賛の言葉を述べながら、美青年は拍手を送る。
「全然……そんなことねえよ。本調子が出せてれば、もっとすげえ技を見せてやれんのによ……」
 呟きながら彼は包帯が巻かれた右腕に目を落とす。
「ふむ――利き腕を怪我した、というところかな」
「ああ……数日前に事故でな。明日が大会だってのに、情けねえ話だぜ……」
 
 うなだれながら言う彼は、今度は左手に目を落として呟く。
「左手でも練習はしてみたが……やっぱ本調子が出ねえ……これはもう……」
 彼が辛そうに言うと、それを見ていた美青年が唐突に彼の右腕を掴み、包帯が巻かれた手先を引き寄せる。
 いつの間にか美青年の左手には小瓶が握られており、それを傾け中に入っていた水を彼の右手にかける。
 
「いきなり何すん……あれ?」
 彼は困惑の声を上げた。
 なんと、怪我した右手の痛みが嘘のように消えていたのだ。
「動かしてみるといいよ」
 まだ困惑したままの顔で、彼は恐る恐る濡れた右手を動かす。
「すげえ……! 何でだか知らねえけど、すっかり治ってるぜ!」
 嬉しそうに右手を動かしながら包帯をとると、彼は早速右手にヨーヨーの糸を結ぶ。

「なら見せてよ。もっと凄い技ができるんだよね?」
「おうよ! しっかり見ててくれな!」
 そう前置きすると、彼は本調子になった右手でヨーヨーの技を次々と繰り出していく。
 まずは回転するヨーヨーを地面に走らせ、次いで前方や上方に向けてヨーヨーを放り投げ、回転の力で戻ってきたヨーヨーをキャッチし、再度それを繰りかえす。
 仕上げに頭上でヘリコプターのようにヨーヨーを振り回し、勢いをつけた状態で足元に向けてスイングさせ、それを飛び越えてみせる。
 繰り出された技の数々は実に見事だ。
 やがてすべての技が終わると、美青年は再び拍手を送る。

「ありがとよ……アンタのおかげだ」
 すべての技を終えた彼は近くに置いたバッグからヨーヨーを一つ取り出すと、それを美青年に差し出す。
「お礼と言っては何だけど……よ、受け取ってくれ。本当はもっとちゃんとしたお礼をしないといけないんだろうけど、俺……そんなに金持ってなくて……だから、俺の大事なこれを――」
 真剣な顔でそう告げる彼に向けて美青年は微笑むと、ヨーヨーを受け取る。
「別に気にしなくてもいいよ。見事な技を見せてくれただけで十分だしね。でも、くれるというなら貰っておこう。ありがとう」
 美青年がヨーヨーを受け取ると、彼は手を振って去っていく。
 彼が去り、自分以外は完全に無人になった公園で、美青年はヨーヨーを手に一人呟いた。

「これは随分といいものを貰ったね。ならば早速、『あげる』としよう。出ておいで――僕の可愛いサーバント」
 美青年が手をかざすと水瓶らしき形が具現化し始める。
 具現化した水瓶の中に満たされた水はひとりでに溢れ出すと、美青年の前に水たまりを作った。
 そして、『水たまり』はまるで生きているように動き出した。
 美青年は手にしたヨーヨーを『水たまり』の中に落とすと、眩い光を放ち『水たまり』が発光する。
 やがて発光が収まると、既にそこに『水たまり』はなく、あったのは一体の彫像だ。
 彫像は『古代帝国の戦士』を思わせる男の姿をしており、手には円形の盾を二枚貼り合わせたような武器を持っている。
 満足そうな顔で彫像を見ると、美青年は言った。
「さあ、君の『技』を見せてよ――」



 ――翌日 9:05 東京都港区 オフィス街――

「なんとしても……ここで食い止めるんだからっ!」
 愛用のハルバードで敵の武器――『ワイヤーに繋がれた数十センチはあろうかという、高速で回転する巨大な金属盤』を受け止めながら、大山恵(jz0002)は叫んだ。
 恵が戦っているのは、身長2mを超える彫像の姿で、右手から伸びたワイヤーに繋がれた巨大な金属盤を自在に操るサーバント。
 オフィス街に突如出現したサーバントが暴れている所に偶然通りがかった恵は咄嗟に応戦し、一般市民が避難するまでの時間を稼いでいた。
 現場となったオフィス街100m四方の圏内は、恵からの通報によって既に撃退庁の指示で封鎖されている。
 恵の奮闘の甲斐あって多くの市民が避難できたが、サーバントが暴れている場所がとある4階建ビルの前にある広場だった為、そのビルにいた人々は外に出られず、已む無く五人が最上階である4Fの部屋に待機しているのだ。
 彼等の緊張は極限に達し、いつパニックを起こしても不思議ではない。
 そして奇妙なことに、サーバントには特に何か破壊目的があるわけではないらしく、その動きはまるで技を披露しているようにも見えるのだった。
 現に、金属盤を回転させて地面を走らせたり、前方や頭上に向けて放った金属盤がワイヤーの巻き取り効果によって戻ってきたのキャッチしまた放つのを繰り返したり、更には頭上で振り回した金属盤を足元にスイングして飛び越している。

「きゃっ……あぁっ!」
 敵が放った金属盤を受け止めた恵だったが、高速で回転する金属盤によってそのまま押し出すようにして吹っ飛ばされる。
 金属盤は敵の腕と15mはあるワイヤーで繋がっており、恵はハルバードの射程外から一方的に攻撃されていた。
 地面に転がった恵を追撃するように、回転する金属盤が高速で路面を突き進んでくる。
 間一髪、横方向に転がってそれを避ける恵。その背後で金属盤の直撃を受けた自動車が大破する。
 その破壊力に驚く暇も与えず、素早く引き戻された金属盤が再び恵へと襲い掛かる。
 咄嗟にハルバードで受け流したものの、威力を完全に削ぎきれなかった恵は後方へと吹っ飛ばされて再び地面を転がった。
「もう少し……みんなが来てくれるまで……耐え抜けばっ!」
 立ち上がり、恵は愛用のハルバードを構え直す。
 撃退士の仲間たちが来てくれるその時まで、あともうひと踏ん張りだ。


リプレイ本文


「お待たせさん、戦力の速達で御座いってな」
「大山先輩、無事ですか!? 下がってください!」
 ピンチに陥っていた恵のもとへ急行した麻生 遊夜(ja1838)と御守 陸(ja6074)は、恵を下がらせた。
「取りあえず怪我を直してもらった後は、できるだけで良いんで、救助を手伝ってほしいのさ。それじゃ、俺は一足先に行ってるのぜ」 
 ビルへと駆けていく遊夜を見送り、陸は軽く眼を閉じる。
 再び眼を開いた時には、陸の表情からは機械の様に感情が消えていた。
「……どこでどう覚えたか分からないが、厄介そうな敵だな。ともかく全力を尽くすこととしよう」
 陸と並び、榊 十朗太(ja0984)は愛用の槍を構える。
「石像のよう姿ですが、アレも生きているんですよね……」
 佐藤 七佳(ja0030)も、彫像をじっと見詰めつつ、パイルバンカーの安全装置を外す。

「ほらほら、もっと一芸見せて見せて!」
 レン・ラーグトス(ja8199)は彫像に向けて、手を叩きながら煽るような言葉を飛ばす。
 敵はパフォーマー精神に基づいて動いているという推察に則り、敵を煽る為の作戦だ。
「え、えと……私……あなたの事、キライですぅ〜!」
 水葉さくら(ja9860)も負けじと彫像を挑発しにかかる。
「あの武器、重そうだけどかっけーよなー」
 彫像が操る金属盤を見つつ、七水 散華(ja9239)は拳銃を発砲して更に挑発する。
「姓は七水、名は散華。さァ、告悔室の解放だ!」
 
「大丈夫か?」
 その一方で宇高 大智(ja4262)は恵へと駆け寄り、その傷を癒そうとする。
「だ……大丈夫です……っ……それよりも――」
 恵はハルバードを杖にして最前線へ出ようとするが、無理しているのは明らかだ。
 足腰に力が入らなかったようで、案の定、恵は前のめりに倒れ込む。
「おっと!」
 大智は恵を抱き留めると、そっと座らせてからアウルの力で傷を癒していく。
 ややあって恵はある程度回復したようだ。
「ここは俺たちに任せて、救助の方を手伝ってくれ。頼りにしてるよ」
 頷き、ビルへと歩いて行く恵を見送った大智は彫像へと向き直る。
「ヨーヨーか、得意な友達がいて、一緒に遊んだっけ……思い出まで壊されるみたいだ」


「逃げ遅れた人々はこの階にいる筈だ」
 スキルの力で十数メートルを一気に屋上へと跳躍し、そこから四階に侵入した鳳 静矢(ja3856)は鎖鎌を伝って外壁を登ってくる遊夜を引き揚げた。
「よっこいっと。早いとこ助け出してやらないとであるな」
 登り切った遊夜はポケットから見取り図を取り出す。
「さてどの部屋から行くかだやな。この状況で空振りは避けたい所なのぜ」
 その時、遊夜のポケットで携帯電話が振動する。
「はいよ。おお。ありがとさんよー」
「どうした?」
「天月さんからなのさ。スキルの力で確かめた結果、人の動く音がするのはこの会議室らしいのぜ」
「空振りの危険性がなくなったのは大きいな。行くぞ――」
「あいよ」
 頷き合い、二人は廊下を全速力で駆けていく。
「逃げ遅れた方、居ませんか!」
 走りながら静矢が叫ぶと、すぐに返事がくる。
 更に速度を上げた二人は会議室にたどり着くと、躊躇なくドアを開けた。
「待たせて悪いね、さぁ逃げようか!」
 部屋に飛び込む遊夜。
 中にいたのは管理職風の男が一人と、若い男性社員が二人、そしてOLと思しき女性が二人だ。
 ひとまず五人に怪我がないのを確認すると、遊夜は会議室の窓を開けた。
 窓の向こうには別のビルの窓が見える。
「このビルが壁になる後方に行くのが妥当か。降りる時間も惜しい、突っ切るべきだな」
「ああ。荒っぽいように思えるが、ヨーヨーのとばっちりが来るかもしれないことを考えれば、むしろ安全かもしれない」
 冷静に分析する遊夜と静矢。
 二人はすぐに要救助者を運び出す手はずを整え始めた。
 管理職風の男を背負い、男性社員二人を小脇に抱えた静矢は、OL二人をそれぞれ腹と背中にロープで括り付けた遊夜を見て呟く。
「跳躍力を考えれば私が重い三人を引き受けるのは当然だが――遊夜は些か役得という気もしないでもないな。両手に……ではないが両方に花はある」
「既婚者が何を言ってるのさ。知っての通りあの人一筋な俺からすれば、別に役得でも何でもないのぜ」
 軽口を叩き合いながらも、二人は無駄のない動作で脱出準備を終えると、一気に実行へと移した。
「まずは俺から行くのさ。道は開いておくのぜ」
 窓際に立った遊夜は、要救助者を縛ることで空けておいた両手に、ヒヒイロカネから拳銃を呼び出す。
 そして、全身からかき集めたアウルを両の銃に込めると、惜しげもなくトリガーを引き続ける。
 強力な銃撃の乱射を受け、隣り合ったビルの壁は盛大にぶち抜かれた。
 間髪入れず、遊夜は二人を抱えたまま隣のビルの穴へと飛び込む。
 その一連の動きはまるでアクション映画のようだ。
 どうやらダイナミックエントリーした先は社長室だったようで、高級そうな調度品やガラスケース等が片端から大破している。
「緊急避難ってことで、勘弁な」
 無事に着地した遊夜の腹部と背中からその光景を見たOLが絶句するのが伝わってくると、遊夜は良い笑顔を浮かべた。
「しっかり掴まって……いくぞ!」
 ほどなくして静矢の声が聞こえたかと思うと、彼もすぐに三人を連れて穴から飛び込んでくる。
「おし、それじゃ安全第一で降りるのぜ」


 約十分前。
 遊夜と静矢のコンビとは別に天月 楪(ja4449)は要救助者の取り残されたビルに一階から突入しようとして、一人の若者を見つけていた。
 ビルの前に立つその若者はかなりの美青年で、今も暴れ続けている彫像をじっと見つめている。
「おにぃさん、ここはあぶないから避難しなくちゃだめだよー」
 美青年は楪を振り返ると、頭を撫でる。
「可愛い坊やだね。名前は何でいうのかな?」
「なまえ? ゆずはねー、天月 楪っていうんだよー。おにぃさんはー?」
「僕かい? 僕はサキ――」
 クスリと笑って美青年が答えるのと同時、彫像の金属盤が何かを破壊する音が響き渡り、そのせいで彼の声は途中でかきけされてしまう。
 しかし、彼はそれを気にした風もなく、もう一度クスリと笑うと、小さな水瓶のペンダントを楪に握らせた。
「これも何かの縁だね――そうだ、これをあげるよ。ああそれと……逃げ遅れた人は四階の中央付近にいるみたいだよ」
 楪がつい水瓶を受け取った瞬間、またも破砕音が響く。
 はっとなって音のした方を見る楪。
 そして、楪が視線を戻した時には、既に美青年は影も形もなかった。
 釈然としないものを感じながらも、楪は頭を切り替えて薬……もといラムネ菓子を口に入れる。
 飲めば聴力が強化されるというプラシーボ効果を思考トリガーとしてスキルを発動した楪は視神経を研ぎ澄ましていく。
 見取り図を見ながら、人の動いた音と思しき物音を感知した楪は、その音が四階の中央付近――会議室からすることを突き止める。
 そして楪は遊夜へと電話をかけた。
「もしもし? 麻生おにぃさん? 逃げおくれたひとがどこにいるかわかったよー」


 救助から数分後。
「うげぇ……マジ鬼畜な威力ー」
 金属盤を避けながら、散華は木刀をワイヤーに絡めてヨーヨーの回転を阻害することが出来るか試みた。
 一瞬、回転は止まったものの、巻き取る力のあまりの強さゆえ、木刀は締め付けによってへし折られ、回転もすぐに復調する。
「散華ちゃん、たった今、遊夜君から連絡があってね。あっちの方は無事完了。今は確実な安全圏まで護送中――ってことで、とっととこっちも片付けちまおうか」
 散華が僅かながら金属盤の動きを止めた隙を突き、レンは力を込めて大太刀を振るい、その一振りで斬撃を飛ばす。
 放たれた斬撃は金属盤の側面へと正確に炸裂し、わずかではあるが軌道を変える。
「完璧にトリックを決めるのであれば……いつも同じ軌道を描くはず」
 何かに気付いた様子で陸は彫像に向けて銃を構え、動きの少ない肩などを中心に銃撃を加え、更には手元にも銃弾を撃ち込む。
 キャッチミスによる隙が作れれば――その程度に考えていた陸だったが、この作戦は思っていた以上に功を奏した。
 レンの攻撃によって金属盤の軌道が狂った上、文字通り手元を狂わされた彫像は凄まじい速度で戻ってくる武器のキャッチに失敗。
 彫像の肩に激突した金属盤は、その硬い身体をもろともせずに削り取った。
「なるほど。少し軌道が乱れただけで相当な狂いが発生するようですね。ならこれを応用してあの武器を逆に叩きつけてやれば――」
「何か策があるのか? 大山さんが苦戦してる相手だ。簡単に勝てるとは思わないけど、協力して攻略しよう」
 声をかけてきた大智に、陸は向き直った。
「まずはあのヨーヨーの少しの間でも良いので止めてください。その隙にヨーヨーを側面から叩いて乱すとともに、彫像本体を攻撃して手元を狂わせましょう」
 二人が話していると、丁度良いことに金属盤が飛んでくる。
 高速回転する金属盤が地面を車輪のように転がってくる技――ウォーク・ザ・ドッグだ。
「止めるっ!」
 陸を庇うように前に出て大智は盾を構え、金属盤を正面から受け止める。
「くっ……!」
 かろうじて盾を破壊されるまではいかないものの、凄まじい運動エネルギーで大智はじりじりと後方へと押されていく。
 少しでも気を抜けば盾を吹っ飛ばされ、大智本人も真っ二つにされてしまいそうだ。
 盾の表面におびだたしい火花を散らして大智が攻撃を受け止めていると、横合いからさくらが大剣を突き出して一緒に受け止めにかかる。
 さくらは更にアウルの防壁を展開して防御力を高める。
「助かった……!」
「いえいえ……その……当然のことをしたまで、です」
 男性が少し苦手で恥ずかしがり屋なさくらは、大智への言葉を言い淀むも、すぐに金属盤へと向き直る。
「今のうちだ! 思いっきりぶっ叩いてやってくれ!」
 大智の合図を受け、十朗太とレン、散華の三人が高速回転する金属盤の側面に殺到した。
「俺から行かせてもらおう――!」
 十朗太は深く腰を落とし、渾身の力で十字槍を突き出した。
 堅牢な金属盤は穴こそ開かないものの大きく傾く。
 それでも凄まじいジャイロ効果のおかげで倒れない金属盤の側面に、散華とレンが次々と攻撃を繰り出す。
「くかかっ、飼い犬に手を噛まれちまえ!」
 散華は1.2m程の両手持ちの戦槌――スタンプハンマーのフルスイング金属盤側面に叩き込んだ。
 更にはここぞとばかり、散華はシルバーレガースを鎧った脚で金属盤に蹴りを入れる。
 その一撃がきっかけとなったのか、回転が一定数に達したのかは定かではないが、金属盤は彫像の手元へと戻っていく。
 ワイヤーが巻き取られていくのに従い、高速で宙を舞う金属盤を目で追いながら、レンは大太刀を振り抜く体勢に入る。
「あたしも一発、芸を見せてやろうかな」
 大太刀を振り抜き、レンは再び斬撃を飛ばす。
 驚くべきことに、空中を銃弾並みの速度で飛行する金属盤の側面へと、レンは斬撃を当ててのけた。
「ダメ押しの一発ってやつだね」
 クリーンヒットにレンが会心の笑みを浮かべるのと同時、地面を蹴る足音が後方から響き渡る。
 金属盤のワイヤーが巻き取られ始めたのに合わせて、七佳が走り出したのだ。
「スピードだけなら自信がありますッ!」
 彫像が金属盤を戻す動きに並走する形で動き、迎撃の危険度を減らす――その作戦を成功させるべく、七佳は全力で道路上を疾走する。
「……全力で行きます、態勢が崩れたら続いてくださいッ!」
 後ろに立つ仲間たちに告げながら、全速力で駆け抜けた七佳は、彫像の手元に金属盤が戻るのとほぼ同時に、相手の頭上へと跳び上がった。
「誤差修正右十度――ファイア」
 確認するように言い、陸は機械のような冷静さと正確さでスナイパーライフルのトリガーを引いた。
 放たれた弾丸は狙い過たず七佳の足首から数ミリ横を通過し、彫像の手元へと直撃する。
 度重なる側面への衝撃によって金属盤が横向きの放物線を描く変則的な軌道で戻り、あまつさえ直前で手元を狂わされたせいで彫像は盛大にキャッチミスを犯す。
 横殴りに飛ぶようにして戻ってきた金属盤が側頭部を痛打し、彫像は大きくよろめいた。
 その隙を逃す七佳ではなかった。
 疾走による速度エネルギーを跳躍による位置エネルギーに変換、更に加速する事で攻撃の威力を引き上げた七佳は、ガードががら空きになった彫像の胸板にパイルバンカーを撃ち込んだ。
「ごめんなさい……せめて苦しまずに」
 罪悪感に七佳が唇を噛みながらも、彼女の放ったパイルバンカーは彫像の硬い胸板を貫通する。
 破片を飛び散らせながら、それでも彫像は立ち続けた。
 反射的に七佳は杭を引き抜き、素早くバックステップするも、そんな彼女に向けて彫像は金属盤を投げ放とうとする。
「ヨーヨーが止められないのでしたら、本体を止めればいい……ですよね」
 しかし、その投擲は七佳に続いて一気に肉薄してきたさくらの攻撃によって阻止される。
 七佳の攻撃によって破損した部位を狙い、さくらは大剣を大振りに横薙ぎし、その長大な刃を叩きつける。
「ごめんなさい……遊びに付き合える暇はありません、ので……」
 さくらが大剣を引くと、入れ替わりに戦槌を大きく振りかぶった散華が突撃してきた。
「くかかっ、月までぶっ飛べ!」
 破損した胸板に戦槌のフルスイングを叩き込む散華。
 そして、攻撃はまだ終わらない。
 散華が横っ飛びで退くと、今度は長物を突き出した十朗太と大智が突っ込んでくる。
「俺達も行くぞ」
「ああ。頼む」
 どこかぶっきらぼうな会話ながらも、二人の息はぴったりだ。 
 十朗太が十字槍を、大智が薙刀をそれぞれ全力疾走の勢いを乗せて彫像の胸へと突き立てる。
「さて、最後の一発……これで決まりにするよ!」
 十朗太と大智が左右にどいた直後、レンは残ったアウルすべてを大太刀へと注ぎ込み、全身全霊で振り抜いた。
 風を切る音とともに斬撃が飛び、度重なる攻撃で壊れかかった彫像の胸板に炸裂する。
 その一撃によって彫像は身体を中心から砕かれ、遂に動きを止めた。


「うむ。もう済んだのか――流石だな」
「すごい! 佐藤おねぃさんたちすごい!」
 要救助者たちを確実に安全な場所――戦闘区域から十分に離れた場所まで護送し終え、戻ってきた静矢と楪が感想を述べる横で、遊夜は倒れた彫像に黙祷を捧げる。
「お休みなさい、安らかに」
 激戦の末、撃退士たちは一人の犠牲者も出すことなく依頼を終えたのだった。


 数日後。
 救助に行ったビルはカード会社のビルだったようで、救助の活躍を伝え聞いた社長から謝礼とともに、『映画のようなアクションで天魔を倒して市民を救った後、已む無く壊した物品の弁済をカードで申し出る』というCMへの出演を打診された遊夜と静矢だったが、それはまた別の話。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: Defender of the Society・佐藤 七佳(ja0030)
 駆け抜ける風・宇高 大智(ja4262)
 アンチスピナー・レン・ラーグトス(ja8199)
 告解聴者・七水 散華(ja9239)
重体: −
面白かった!:8人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
『榊』を継ぐ者・
榊 十朗太(ja0984)

大学部6年225組 男 阿修羅
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
駆け抜ける風・
宇高 大智(ja4262)

大学部6年42組 男 アストラルヴァンガード
うさ耳はんたー・
天月 楪(ja4449)

中等部1年7組 男 インフィルトレイター
冷徹に撃ち抜く・
御守 陸(ja6074)

大学部1年132組 男 インフィルトレイター
アンチスピナー・
レン・ラーグトス(ja8199)

大学部7年163組 女 阿修羅
告解聴者・
七水 散華(ja9239)

大学部2年116組 男 阿修羅
エレメントマスター・
水葉さくら(ja9860)

大学部2年297組 女 ディバインナイト