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「よ〜♪ アンタと一緒になるなんてなっと♪」
現場である公園に到着し、黒鎖・鴉(
ja6331)は今回一緒に戦うジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)に声をかけた。
「知ってる人が一緒で心強いよ。よろしくね」
「楽しみだな〜戦うジェラルド♪」
「そう言われるとプレッシャーだね」
笑みとともに鴉が言うと、ジェラルドも笑みを返す。
軽口を交わす二人の間には確かな信頼が感じられた。
「今回は仲良しディンゴが相手かっと――考えたくもないな〜、『元』は何だったのか……なんてなっと♪」
相変わらず軽口を叩きながら鴉はリボルバーを構えた。
「んじゃ、ヤるかなっと♪」
そして慣れた手つきで狙いをつける鴉。
鴉は『白犬』を狙い撃つ。
鴉の銃撃は一発一発が的確だ。
だが、『白犬』は 抜群の敏捷性を活かして跳びまわり、六発すべてを避けきってしまう。
それでも鴉に焦りはなかった。
なぜなら、六発を避けきった直後にジェラルドが投擲した戦輪が『白犬』の胴体を鮮やかに斬り裂いたのだから。
「やってくれると思ってたぜ、っと」
「楽しみにされちゃったからね。これくらいは」
抜群の連携で早くも有効打を入れた二人は笑みを交わす。
二人が合図一つなく抜群の連携をやってのけたのだ。
直後、更にアレクシア・エンフィールド(
ja3291)とレイル=ティアリー(
ja9968)も続く。
「白と黒の番(つがい)か。面白い能力を持っている様だが――」
油断なく『白犬』を観察しながらアレクシアは相手の強さを量るように呟く。
「死が2人を別つまで、とはよく言いますが。まさか死んでも別れようとしないとは。そこまで行くと、もう情緒のカケラもありませんね」
それに対してレイルが苦笑しつつ相槌を打つ。
先に仕掛けたのはアレクシアだ。
彼女は鋼糸を振るって『白犬』を斬り裂きにかかった。
アレクシアの絶妙な指捌きによって操られる鋼糸が変幻自在の軌道で迫る。
野犬特有の反射神経と身軽さをフルに活かし紙一重で鋼糸を避け避けた『白犬』だったが、その先に回り込むようにして飛んできた剣の一撃で胴体を斬り裂かれる。
剣を振るったのはアレクシアど同じタイミングで動いていたレイルだ。
「ほう。汝は騎士に恥じぬ剣技を身に着けているようだな。中々に良い腕前だ」
「お褒めに預かり光栄です。エンフィールド殿も結構な御手前で」
武器を振るいながら、騎士同士として互いに賞賛の言葉を交わす二人。
そんな二人にもう一体の敵――『黒犬』が襲い掛かる。
敵が横から飛びかかってきたのは、ちょうど二人が『白犬』に追撃をかけようとしている瞬間だ。
意識を『白犬』に向けていたせいで、相棒を助けようと襲い掛かってきた『黒犬』への反応が遅れた二人。
だが、仲間を助けに飛び込んできたのは『黒犬』だけではなかった。
「仲がよさそうで羨ましいなぁ。君らはボクを愛してくれるかな?」
なんと、二人を庇うようにシャルロット・ムスペルヘイム(
jb0623)が『黒犬』との間に割って入ったのだ。
身を挺して二人を庇い、『黒犬』の噛み付きをもろに受けるシャルロット。
ディンゴ特有の鋭い牙と強靭な顎で深々と噛みつかれて盛大に流血するも、シャルロットは恍惚の表情で笑っていた。
「つーかまーえた」
シャルロットは『黒犬』の首根っこを掴むと、地面に押し付けて拘束した。
対する『黒犬』は必死にもがいて拘束を振りほどき、強引に脱出する。
それと同時に先程『黒犬』に救われた『白犬』が、今度は逆に相棒を救うべくシャルロットへと飛びかかった。
「やらせませんよ」
ただ一言、手短な言葉とともに銃声が響き渡った。
声の主は自分が放った銃撃で、シャルロットへ向けた『白犬』の攻撃を阻止する。
ジャンプ中だったせいか、『白犬』銃弾を避けられない。
声の主――レイヴン・ゴースト(
ja6986)は、撃ち落としたばかりの『白犬』にすかさず銃を向けた。
すぐさま二射目を放つレイヴン。
だが、『白犬』はいつまでも的ではいてくれない。
墜落のダメージを押して間髪入れず立ち上がると、『白犬』は斜め前に跳ぶようにして銃弾を避ける。
あっという間に『白犬』はあっという間にレイヴンの懐へと入り込んだ。
懐に入られたレイヴンは咄嗟に至近距離の相手を想定した戦技に則って銃口を向ける。
だがそれよりも『白犬』が牙を剥く方が一瞬速い。
鋭利な牙と強靭な顎がレイヴンの喉笛を噛みちぎろうとしたまさにその瞬間、白刃が閃いた。
「武士の心得ひとつ、武士は弱き者を助けねばならない!」
振るわれた白刃は抜群の斬れ味をもって『白犬』の鼻先から首筋にかけてを斬りつけ、血の花を咲かせる。
カウンター気味に炸裂したこともあって、白刃の斬撃はかなりの威力を発揮したようだ。『白犬』の身体を斬り裂くと同時に後方へと吹っ飛ばしたことからも、その威力のほどが窺えた。
「ありがとうございます」
先程と同じく手短な言葉でレイヴンが感謝の念を伝える。
「礼など無用。武士として当然のことをしたまで。それより今は奴を討つ方が先だ。武士として撃退士として、人に害を及ぼす妖は退治せねばならん」
白刃を振るって彼の窮地を救った相手である酒井・瑞樹(
ja0375)は愛刀の血振りをしながら事もなげに答える。
血振りを終えた愛刀を構えながら、瑞樹は注意深く『白犬』を見据えていたが、観察している最中に何かに気付いたのかふと呟いた。
「こやつらはもしかして兄弟であるとか……いや、ディアボロにその様な産まれは無いな」
仲良い敵二匹を見て、ディアボロにも情という物があるのだろうか。と疑問を持つ瑞樹だったが、すぐにその疑問を打ち消すと、彼女は戦いに集中する。
「まー、仲良き事は美しきかなってのも他所様に迷惑がかからない時限定だよね。仲を壊されたくないのなら、さ」
瑞樹の疑問に相槌を打つと、因幡 良子(
ja8039)は彼女の左隣に並び立つ。
そして、良子とは反対に瑞樹の右隣に並び立った與那城 麻耶(
ja0250)も同じく瑞樹の呟きに相槌を打った。
「確かに凄い連携だね。よっぽどお互いを信頼してるんだろうな……ちょっと羨ましいかな」
そう言って苦笑するも、麻耶はすぐに表情を引き締めた。
麻耶は決意を新たにするように、『白犬』へ向けて言い放つ。
「とはいえディアボロは放置出来ないしね。事情は判らないけど……ごめんね! 倒すよ!」
並び立った三人は互いに目配せし、その後に頷き合うと、タイミングを合わせて地面を蹴った。
「援護します」
一言そう告げながらレイヴンはトリガーを引いた。
三人が走り出すのに合わせて銃弾が発射される。
銃弾は横方向に跳んで逃げようとしていた『白犬』の機先を制するように地面へと着弾し、砂と土くれを巻き上げる。
レイヴンの援護射撃に牽制された『白犬』は180度ターンすると、後方へと全力で駆け出した。
その先にあるのはジャングルジム。
透過能力を活かして障害物を通り過ぎ、『白犬』は麻耶たち三人と距離を取るつもりのようだ。
ジャングルジムのすぐ前まで走り込んだ『白犬』は飛びかかるように跳躍して一気に障害物を通り抜けようとする。
だが、その思惑とは裏腹に、『白犬』の身体は障害物を透過せず、正面から激突した勢いで『白犬』は逆に吹っ飛ばされた。
「こんなこともあろうかと用意しておいて正解でした」
ジャングルジムに激突した『白犬』を見ながら呟く声が響く。
呟いたのは、森田良助(
ja9460)だ。
良助は少し離れた場所から『黒犬』と『白犬』の動きや立ち回りなどをじっくりと観察していた。
予め阻霊符を使い、透過能力を阻止するという作戦を立て、それに必要な準備をしていたのも良助だ。
無論、たった今『白犬』が障害物を透過できなかったのも、良助が立てた作戦によるものである。
無理に攻撃行動はせず、敵の動きを見ることだけに集中していたおかげで、良助はある程度ではあるが、二匹の動きのクセを見抜きつつあった。
「白い方がそちらに向かいます! 良子さんと瑞樹さんはそれに対応、麻耶さんは二人の側方で待機してください!」
確信に満ちた良助の声。
迷いなく言い切る良助に頷く良子と瑞樹。
良子は剣を、瑞樹は刀を構えて『白犬』へと視線を合わせる。
「レイヴンちゃんは三秒後に援護射撃――1、2、3……今です!」
良子たち三人に支持を出し終えた良助は今度はレイヴンに向き直ると、すぐさま彼にも指示を出す。
良助からの指示を受け、レイヴンは素早く銃の狙いをつけてトリガーを引いた。
しかし、高らかに跳躍した『白犬』に銃撃は回避されてしまう。
そればかりか、『白犬』はそのままレイヴンへと跳びかかった。
「良子さん! 瑞樹さん! レイヴンちゃんをガードしてください!」
良子と瑞樹はそれぞれ手にした刃を振るい、『白犬』に斬撃を叩き込もうとする。
だが、そうはさせまいと黒色の影が舞った。
相棒である『白犬』の危機を察知した黒犬が横合いから良子たちに向けて跳びかかったのだ。
「麻耶さん! 黒い方が来ます! 迎撃してください!」
予め良子と瑞樹の側方で待機していたおかげで即応できた麻耶は、布状のV兵器――ブレットバンドを巻いた右腕の拳を握ると、左手を右肩に添える。
そして麻耶は右腕を何度も大きく回転させていく。
「っしゃ、行きますか!」
跳びかかってくる『黒犬』の牙を回避した麻耶は、横薙ぎに振るった右腕で渾身のラリアットを叩き込む。
放物線を描いて『黒犬』が豪快に吹っ飛ぶのに合わせ、良助は次なる指示を出した。
「今までの動きから考えて、着地後すぐに体勢を立て直して機動力を取り戻す可能性が高いです。可能な限り滞空している状態で攻撃を加えてください!」
直後、まずは戦輪が、続いて曳光弾のように光る銃弾が『黒犬』へと直撃する。
「了解。ボクたちに任せてよ」
「ほら、こいつも仲間に入れてやってくれよっと♪ 本能の牙……殲滅の強襲猟犬!」
ジェラルドと鴉の攻撃を受け、『黒犬』は悲鳴のような鳴き声を上げる。
今度は魔法で生み出された『影の槍』と鋼糸が『黒犬』の身体に傷を刻んでいく。
「剣技はもとより、汝は魔法も介するのか。素晴らしい」
「恐れ入ります」
レイルとアレクシアの攻撃も受け、ダメージがなおも蓄積していく『黒犬』。
だが、『黒犬』はなんとか一連の攻撃に耐えきると、着地すると同時に体勢を立て直す。
一方、跳びかかってくる『白犬』に瑞樹は果敢に立ち向かう。
「武士は敵に後ろを見せてはならない!」
瑞樹は刀を振るい、敵を斬りつける。
それだけではない。良子が『白犬』に向けて刺突を繰り出し、噛みつこうと口を開けた所に口内目がけて突きを見舞った。
良子と瑞樹による斬撃のクリーンヒットで『白犬』の動きが止まったのを良助は見逃さない。
「動きが止まる瞬間が必ず来る……そう確信していたよ!」
良助は練り上げたアウルを注ぎ込んだ鋭い銃撃で『白犬』の前両脚と後右脚を撃ち抜いて機動力を奪う。
「白い方は、大分弱っているようです! これ以上攻撃すると倒れて、復活するかもしれません!」
良助の警告を合図としてシャルロットと良子が動いた。
特に良子は敵が相棒へ意図的に攻撃する事で再生を発動させることは阻止できるよう、いつでも二匹の間に割って入れるように立ち位置を調整する。
「ボクの愛を受け止めておくれ……!」
シャルロットがアウルで聖なる鎖を生成し、『白犬』を縛り上げる。
それに呼応するように、良子も同じ技で傷だらけの『黒犬』を縛りにかかる。
だが、満身創痍のはずの『黒犬』は凄まじい底力を発揮し、聖なる鎖による捕縛を避けた。
良子は次々と聖なる鎖を生成して捕縛にかかり、シャルロットもそれに参加するが、それらは『黒犬』に次々と避けられてしまう。
「はぁ……はぁ……あと一回……おとなしくしなさいっての!」
「受け止めておくれよ……ボクの愛を……」
何本もの鎖を生成して枯渇しかけたアウルを振り絞り、良子とシャルロットはなんとか『黒犬』を縛ることに成功する。
しかし、アウルの量が少なかったのか、『黒犬』に鎖を引きちぎられてしまう。
「うそ……」
焦る良子。もう二人には聖なる鎖を生成するだけのアウルは残っていないのだ。
しかも、『黒犬』を捕縛するのに手間取った間に『白犬』にも、鎖を引きちぎられかけている。
「どうしよう……」
そう呟く良子の前に麻耶が歩み出る。
「私が……やるよ!」
力強く言うと、麻耶はアレクシアに向き直った。
「アレクシアちゃんの技なら二体同時に焼き払えるよね。今から私が二匹をくっつけるから、その瞬間に合わせて技を発動して」
麻耶に向け、アレクシアは頷く。
「心得た」
頷き返し、麻耶は『黒犬』に向けてダッシュする。
それに気付いて跳びかかってくる『黒犬』に対し、麻耶も跳び上がった。
「輝け! 必殺のぉー……しゃぁあいにんぐぅ! めーごーさー!」
空中で激突する寸前、麻耶はアウルの光に輝く拳で『黒犬』の頭部を強打する。
更にそのまま拳を解くと、麻耶は即座に空中で相手の首、腕、脚を極めて完全にホールドした。
敵をホールドしたまま麻耶は近くにあったブランコの支柱を蹴って空中で方向転換するとともに急加速する。
「っしゃ! 次で決めるっ!」
そして、麻耶は『白犬』の頭上に到達した瞬間を狙い、ホールドした『黒犬』をその上に叩きつけたのだ。
麻耶、そして『黒犬』の全体重を叩きつけられ、今まさに縛めを引きちぎろうとしていた『白犬』は動きを止めた。
無論、叩きつけられた『黒犬』も一瞬動きを止める。
敵同士をぶつけると同時に麻耶はその場から飛び退いた。
「憂いな……共に眠るが良い。果てまで共に――それが恐らく、望んだ事なのだろうから」
静かに言い放ち、アウルの炎を放つアレクシア。
炎は二匹を焼き払い、遂にとどめを刺したのだった。
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「亡骸二つを傍に寄せる位の事はしてあげようか、仲良さそうだったもんね」
戦いの後、良子の提案で撃退士たちは二匹の亡骸を傍に寄せていた。
「おやすみなさい、ユメの中でも仲良くね」
良子が言葉をかける横でレイルとレイヴンが言葉を交わす。
「やれやれ、二匹だから何とかなりましたが……これが量産されたら勝ち目はなさそうです」
「ええ。しかし、一体彼等はどこから現れたのでしょう……?」
仲間たちの手当てを終え、シャルロットは亡骸の前で十字を切った。
「主よ、彼らが迷わぬようお導き下さい」
しばらくした後、アレクシアがふと口を開く。
「こう言う解釈は如何かな。これは“倒れた相方を蘇らせる能力”ではなく、“相方を孤独にさせない為の能力”だったと。つまりは自力による蘇生だ」
自分に向き直る仲間たちに向けて、アレクシアはこうも言った。
「その方が華もあるし、何より愛もあるだろう?」