●抗体を求めて! 開戦! A班VSスコーピオンディアボロ!
千葉 真一(
ja0070)をはじめとするA班の面々は別行動を取っているB班と連携して索敵を行っている。今もB班が近くでA班と同じく索敵中のはずだ。
「倒す前に血を採れ、か。助けを待ってる仲間が居る以上やってみせねぇとな……!」
努めて冷静さを保ちながら呟き終えると同時、真一は頭上に何かの気配を感じて素早く後方へと飛び退く。たった一瞬前まで真一が立っていた場所に、樹上から等身大のサソリが落下してきたのだ。しかも、毒針を下に向けて飛び降りたらしく、仰々しい毒針が地面に突き立っている。
「出たな! 強敵相手だ。気合入れて行くぜ! 変身っ! 天・拳・絶・闘、ゴウライガ……見参っ!」
真一は自身のマインドセットと士気向上を兼ねてポーズを決め、名乗りを上げた。
その声に敵が反応し、自分を目視してきたのを感じ取ると同時、真一は土を蹴立てて、一足飛びに敵の至近距離へと肉迫する。
「皆の笑顔を護るため、勇気の拳で悪を討つっ! ゴウライ、パァァァンチッ!」
気合いの入った叫び声と共に真一は渾身の力で正拳突きを繰り出す。敵も果敢に反応し、両手にある大型の鋏を眼前に構え、頭部と胴体を守る姿勢――まるでボクシングのガードのような姿勢を取ると、真一の正拳突きを正面から受け止める。
拳と鋏、その双方に凄まじい衝撃が駆け抜ける。だが、何事も無かったかのように次の動きに移る敵とは違い、真一は拳打の反動で手に感じた僅かな痺れのせいでほんの少しだけ、動作が遅れる。
時間にすればコンマ数秒の差。だが、その数秒が致命的な差となった。敵は鋏のガードを固めたまま、仰々しい毒針を先端に備えた太く長大な尻尾を振り上げ、それを凄まじい速度で真一へと突き込む。
真一が毒針の動きに気付いた瞬間には、まるで瞬間移動したかのような速度で毒針が彼の胴体へと迫っていた。
(マズった……ッ! 避けられねえ……!)
激しい焦燥が真一の胸中を埋め尽くす。だが、彼の予想に反し、次の瞬間に聞こえてきたのは硬い物同士がぶつかり合う甲高く澄んだ音だった。
「何とか、間に合いましたね」
木々の間から飛び出してきた周防 千歳(
ja4989)が真一に声をかける。毒針から彼を救ったのは、盾を構えて飛び出してきた彼女だ。その盾は今も真一を庇うように構えられ、仰々しい毒針を正面から抑えている。
毒針を押さえられている状況に早くも業を煮やしたのか、敵は鋏のガードを解き、両方の鋏を振り上げての攻撃に移る。
「まだまだじっとしてもらうぜっ」
だが、鋏が両サイドから千歳に襲いかかる寸前――敵が鋏のガードを解き、攻撃に移るまでのほんの一刹那の間を狙って放たれた矢が敵の眉間をかすめて飛び去っていく。直撃こそしなかったものの、眉間という部位に炸裂したこともあってか、その射撃のダメージで敵はたたらを踏む。
「礎、礫、千葉と周防をカバーしてくれ!」
樹上に陣取り弓を構えた久遠 栄(
ja2400)はすぐ近くの藪に向かって声を張り上げる。その叫びに呼応するように、付近の藪から続けざまに二つの人影が飛び出した。
先んじて飛び出した人影――櫟 諏訪(
ja1215)は飛び出した勢いのまま敵に向けて、握った拳銃を向けると、躊躇なく引き金を絞る。
真一の渾身の拳打や直撃ではないとはいえ眉間に炸裂した栄の矢にすら耐えてみせた敵の甲殻に、諏訪が扱う小口径の拳銃では有効打を与えることは困難だろう。だが、諏訪は恐れも迷いもなく、ひたすらに引き金を引き続けた。
大口径の重火器よりも威力は小さくとも、絶え間ない連射を前に、敵は鋏を揃えてのガード姿勢を余儀なくされる。それによって敵が動きを封じられている間に、真一と千歳が素早く後退する。
だが、敵も抑え込まれてばかりではない。鋏をクロスさせて防御姿勢を保ったまま、敵は防御力に任せて正面から諏訪の連射を受け止めながら強引に前進してきたのだ。
一気に踏み込んできた敵を前に、後退途中の真一と千歳が追い付かれそうになった直前、落ち葉を踏み鳴らして礎 定俊(
ja1684)が二人を庇うように、敵との間に躍り出る。
「生憎ここはディアボロ通行止めなんですよ、と」
鋏を眼前で構え、ガード姿勢を保ったままの敵を見据えながら、定俊は手にした本を開いた。
「打撃には強そうですが、魔法にも同じことが言えますかね?」
防御を固めて進撃してくる敵に正対する定俊。超硬度の甲殻に覆われた鋏による突撃で吹き飛ばされる瞬間、定俊が手にした本から一抱えはありそうなサイズの光球が迸る。
凄まじい速度で向かってくる敵に向け、絶妙のタイミングで放たれた光球のカウンターが炸裂するが、やはり数々の攻撃を受け止めてきた甲殻だけあって、光球の直撃を受けても破損する様子は見られない。
それでも、至近距離であることに加えてカウンター気味に光球を受けたインパクトは大きいようで、敵は揃えた鋏で光球を正面からガードしつ続けるも強引に押し戻され、足元の土へと引きずられたような跡を刻む。
押し戻されながらも、何とか光球の攻撃に耐えきると、敵は鋏の両腕を大きく開くようにして消えゆく光球の残滓を振り払う。
「マジかよ……」
予想以上を上回る敵の防御力、ひいては戦闘力を目の当たりにして、つい弱気が真一の心をよぎる。
「クソッ……俺は、俺たちは……あの撃退士の子を助けられないのか」
焦燥にも、あるいは慟哭にも聞こえる声を上げる真一が上げた直後――。
「あの子、うわ言でも、『絶対にたすける』って言い続けてるんでしょ。だったら、その声に応えないとねっ――!」
聞く者に勇気を与えるような明るい声が山林に響き渡ると同時、等間隔の銃声と硬い物同士がぶつかり合う甲高い澄んだ音が木々と茂みを震わせた。
●抗体を掴み採れ! 激戦! B班VSスコーピオンディアボロ!
「あの子、うわ言でも、『絶対にたすける』って言い続けてるんでしょ。だったら、その声に応えないとねっ――!」
聞く者に勇気を与えるような明るい声――百瀬 鈴(
ja0579)の声が山林に響くのを合図のように、傍らに立つ常木 黎(
ja0718)が拳銃を取り出しながら口を開いた。
「さて仕事始めだし、報酬分は頑張るとしようか」
黎は慣れた手際で拳銃の安全装置を解除し、腕に力の入り過ぎない、かといって照準のブレや反動の抑制に十分な姿勢で銃口を敵に向けると、等間隔で引き金を引く。
構えから実射に至るまで無駄の無い洗練された動き――まさにプロの所作だ。
「オリオンの二の轍を踏むのは御免だからね。もっとも……彼を殺したのは小さな蠍だけど」
苦笑とともに黎は最小限の射撃で敵を抑えつけながら、冷静に引き金を等間隔で引き続ける。
「頑張るのはもちろんだけどさ……。なんか、コレ……やっぱりコワイぜ」
黎が敵を抑えている間に、花菱 彪臥(
ja4610)はポケットから採血用の真空採血管を取り出して確認するも、注射器等を見て少々青ざめると、触りたくなさそうにポケットに突っ込んだ。どうやら、猫耳のような髪もちょっとへたっている。
「ああ……めんどくせぇ……状況だ」
気だるそうな声で呟いたのは御暁 零斗(
ja0548)。それを聞き、可愛らしく頬を膨らませて鈴が言う。
「だからって、死にかけの子を見捨てたら何の為に撃退士になったかわからないよ! 絶対に、助けようねっ!」
すると零斗は前髪を掻き上げ、微かに笑う。
「まぁいい。ちったぁ気が乗ってきた」
「そうそう。せっかくこんな力があるんなら、世界の危機、もとい大切な仲間の命、救ってみようじゃないっ!」
それに満足したのか、鈴は何度もうんうんと頷きながら零斗に力説する。
「毒の進行速度の事もあるからね……正直、いつまで持つかもわからない……早々に抗体を採取しないと」
各々、敵と向き合う仲間たちを見ながら、鳳 覚羅(
ja0562)は鞘袋から愛用の大太刀を取り出す。そして、一瞬だけ瞑目して精神統一すると、仲間たちを鼓舞しながら鯉口を切る。
「いくよ、みんな」
袋にしまった鞘を背負い直すと、覚羅は両手で塚を握った大太刀を大上段に構え、真正面から敵へと斬りかかる。卓越した足捌きで一呼吸のうちに敵に肉迫すると同時に覚羅は踏み込みの勢いを乗せた上段斬りを叩き込んだ。
尋常ならざる素早さで繰り出された斬撃にも敵は何とか反応し、両鋏のガードで正面から受け止める。超越的な強度を誇る甲殻でさえも、覚羅の上段斬りを受けては軋む音が立つのを禁じえない。だが、それでも敵は四対の足でしっかりとふんばり、耐え凌いだ。
「流石ディアボロといったところか……このサイズになると甲殻の強度も膂力も洒落にならないね……」
ほんの数秒間、大太刀で鋏と鍔迫り合った後、深追いせずに後方へと飛び退くと、覚羅は呼吸と構えを整え直す。それと入れ替わるようにして、今度は鈴と零斗が敵へと飛びかかる。
「行くよっ! 零ちゃん!」
「……零ちゃん言うな」
元気良く声をかけてくる鈴に対し、零斗は苦笑しながらクールに返す。その会話をスタートの合図しにして、二人は同時に接敵した。だが、零斗が即座に攻撃体勢へと入るのに対し、鈴は少しの間考え込んでしまった。
「……あれ、阿修羅の特長ってなんだっけ?」
そんな鈴をカバーするように零斗は自らの持ち味であるスピードを活かし、両の拳で無数のジャブを繰り出す。敵は覚羅の攻撃を受け止めてから解いていなかったガードでそれをガードするも、零斗のラッシュは敵を防御に専念させ、見事に敵の動きを封じていた。 その隙に鈴は授業で習った内容を思い出す。
「近接のプロ。近寄って、悪を叩く、うんっ! まずはレイピア発現――さっ、いくよ!」
鈴はヒヒイロカネからレイピア型の魔具を取り出すと、それの斬っ先を尻尾の根元へと突き立てた。
「甲羅とか硬そうな所は避けて……関節に刺すっ!」
狙い通り、鈴の刺突は関節の合間を縫い、敵の尻尾の根元へ深々と突き刺さる。
「……やるな」
相変わらずぶっきらぼうな口調ながらも賛辞を送ってくれた零斗に、弾けるような笑顔を返すと、鈴はヒヒイロカネからもう一つの魔具である鉤爪を取り出し、それを嵌めた手で尻尾を掴み、全力でホールドする。
(これが一緒に戦うっていう事なんだ。みんな頼もしいし、あたしも頑張らないとって思うよね!)
迅速に彼女の意図を察し、自らも尻尾のホールドに回ってくれた零斗に黎、そして彪臥たちを見ながら鈴は胸中で言う。そして、鈴は覚羅に向けて叫んだ。
「覚羅ちゃん――今だよっ!」
零斗たちと同じく鈴の意図を察していた覚羅は大太刀を構えながらも、身体から余計な力を抜き、来る時に向けて瞑目して精神を統一して待っていた状態から一気に目を見開くと、再び敵の間近へと踏み込み、大太刀を振り上げる。
狙うは一点。等間隔で並ぶ関節の中で根元にほど近い一節――先程、レイピアが突き刺さった場所から数えて一つだけ上の関節だ。刹那のうちに狙いを定めると、静かな呼気と裂帛の気合を放ちながら覚羅は全身全霊の一太刀を振り下ろした。
ひときわ甲高く澄んだ音をたて、幾度となく攻撃を受け止めてきた甲殻に鎧われた筈の尻尾が根元から断ち切られる。その一太刀の激しさたるや凄まじく、振り抜いた衝撃で大地を揺るがすほどだ。
「人の身で天魔を屠るなんて事を言っているんだ。これぐらいの事はやってみせないとね」
周囲から驚愕と称賛の目を一手に集めながらも、覚羅は事も無げに言い放ち、刀身の血糊を払う。
「いよっし! 抗体採取……っと!」
真空採血管をポケットから取り出すと、彪臥は斬り飛ばされて転がった尻尾へと威勢良く駆けより、素早く抗体を採取すると、鈴に渡す。
「ほい! 鈴の得意なランニングを活かす時だぜ!」
採血管を受け取りつつも、鈴は躊躇いを見せる。
「うん……でも――」
だが、悩んでいる鈴の背中を押すように、力強い声が響いた。
「心配すんな! 俺たちが全力で押さえる!」
その声に鈴ははっとなって振り返る。
「真ちゃん……」
振り返った鈴の目をまっすぐ見ながら、真一は握った拳で自分の肩を叩き、頷いた。
「さっきはありがとな。俺なら、もう大丈夫だから――だから……行ってくれ!」
その言葉で迷いを振り切ると、鈴は晴れやかな顔で頷き返す。そして、踵を返すと全力で走り去った。
●激戦決着! 砕け装甲! 破れ防御!
「みんな、行くぜ!」
声を張り上げ、構えを取る真一。そんな折、定俊が彼に話しかける。
「今更説明せずともご存知かもしれませんが……アウルとは氣やオーラのようなもの。身体部位をコーティングするようにそれを纏えば、同じくアウルの産物――魔法に触れることも可能かもしれません」
その言葉で定俊の意図を感じ取った真一は深く頷くと、腰を落として大きく息を吸い込む。
動きを止めた真一は格好の的だ。だが、尻尾を斬られた怒りに任せて両鋏で彼へと襲いかかる敵の前に盾を構えた千歳が立ちはだかる。
「やらせはしませんっ……!」
千歳が敵の突撃を受け止めると同時、諏訪が銃弾を、栄が矢を放つ。二人の射撃はともに敵の頭部へと命中し、その衝撃で敵の動きが一瞬停止した瞬間を逃さず千歳は側方へと飛び退いた。
千歳が飛び退いた瞬間、絶妙のタイミングで定俊が放った光球が敵へと迫る。しかし、丁度、我に返った敵はそれを両鋏でガードする。先刻と同じく光球は敵を押し戻すだけの力はあるものの、やはり敵の防御を破るにはまだ足りない。
だが、定俊は追撃をせずに、迷わず敵の前方から退いた。
「トドメは武器でささないと、なんかサマにならないですしね」
定俊が退いたことで開けた視界の向こうに敵は見た――臍下丹田の辺りに生まれたひときわ大きなアウルの輝きが、腰から脚を伝って足へと流れ込む真一の姿を。
全開のアウルを足に集中した真一は全力疾走から高らかに跳躍すると、金色に輝く足で飛び蹴りを放った。
「ゴウライ、キィィィック!」
気合の叫びとともに放った飛び蹴りで、なんと真一は光球を蹴り込んだ。
光球に真一の蹴りが加わったことで、敵の両鋏が遂に砕け散る。そして、それに留まることなく真一の蹴りは破った防御の向こうにある敵の本体までも蹴り抜いた。
蹴り抜き、敵の背後に着地する真一。その直後、蹴りと光球の輝きが合わさった光が生む特大の輝きとともに、敵の身体は爆破四散したのだった。
●一件落着! 友よ! ありがとう!
「なんとか助かりましたね。ともあれ、皆さんお疲れ様でした」
病院の待合室。退院した撃退士の少女二人がしっかりと握手を交わし、互いの友情を確かめ合うのを見ながら、定俊は仲間たちに言う。全員が満足そうな顔で微笑ましい光景を見つめながら喜び合った後、最後に諏訪が口を開いた。
「これで一件落着ですよー!」