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マスター:漆原カイナ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:12人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/08/11


みんなの思い出



オープニング

●水面下の恐怖! オルカディアボロの猛威!
 
 ――真夏の某日 正午 横浜港沖合――
 
 真夏の日差しがさんさんと照りつけ、水面をきらきらと輝かせる中、また一隻の大型船が沈没した。
 間一髪、全員脱出に成功した乗組員たちは救命ボートを漕いで蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
 沈没したのは鋼鉄製の大型輸送船。
 高速かつ長距離の巡航が可能だけの巨大な内燃機関を備え、内部には大量の自動車を収容可能な正真正銘の大型船だ。
 多少どころか少々強力な嵐に直面しても耐え抜いてしまうように思える堅牢な船体。
 だがそれは、今や見るも無残に破壊されていた。
 船体のそこかしこに開いた大穴の数々が生々しい破壊の痕となって被害の甚大さを物語る。
 その酷さたるや、まるで軍用兵器による攻撃を受けたかのようだ。
 今にも転覆しかねない勢いで傾き、もはや直立に近い状態にまでなった件の大型船は、半ば屹立した姿のまま少しずつ沈んでいく。
 しかしながら、船体を沈没させた原因である『何か』はまだ執拗に攻撃を加えていた。
 やはり軍用兵器で攻撃されているかのように激しく揺れ、部品を飛び散らせながら、船体は沈没する速度を更に加速させていく。
 遂には沈む前に船体は半ばからへし折れ、真っ二つとなって海底へと沈没していった。

 ――同時刻 沈没現場より陸地に数キロの地点――

「また一隻。随分と頑張るわねぇ」
 
 横浜港の埠頭。
 そこに積み上げられたコンテナの上に腰を下ろした一人の少女は双眼鏡を覗き込みながらそう呟いた。
 髪の毛を顎のラインでセミショートに切り揃え、前髪は中心部の一束だけ上げて、頭頂部にてヘアピンで留めているという特徴的な髪型。
 季節は真夏、時刻も一番暑い頃とあって、チュニックにホットパンツという格好の彼女は斜めの肩紐で腰辺りにぶら下げている薄桃色のポシェットに双眼鏡を戻しながら、再び呟いた。

「しっかし暑っいわぁ。それに遥か遠くまで見えないし、人間の身体って色々と面倒ねぇ……でも、おかげでこういう面白い物を発明するんだから、あながち悪いことばかりじゃないのかもぉ」

 コンテナの淵から下に下ろした脚をぶらぶらとさせながら彼女は、ともすれば少女らしからぬ妖艶な口調で一人呟いた。
 そして、ややあって彼女が再び取り出した双眼鏡を向けた先には、無事に岸へと辿り着いた救命ボートから先刻沈没した大型船の乗組員が降りてくる光景があったのだった。

「さて、人間たち――そしてあの子はどう出るかしらぁ」

 妖艶に呟きながら彼女は薄桃色のポシェットから一枚の写真を取り出す。
 それに写っていたのは、他ならぬ佳耶の姿だった。


●大船団出撃! 倒せ! オルカディアボロ!

「緊急事態っス!」

 休み時間の教室にて教卓を叩き、注意を引いてから如月佳耶(jz0057)は、休み時間の教室にいた撃退士たちに叫んだ。

「ここ最近、沖合で舟を襲ってたディアボロが海水浴場に向かってるっスよ!」

 叫びながら教室内を見回す佳耶の視界で、教室の撃退士たちが大きくざわめく。

「とにかくこれを見てくださいっス!」

 叫びながら佳耶は教卓の上にラップトップPCを置くと、動画ファイルを再生する。
 すぐにメディアを再生するアプリケーションが立ち上がり、映し出されたのは鋼鉄製の大型船がどこからか攻撃を受けて幾度となく激しい揺れを起こした後、転覆して沈んでいく映像の数々だった。

「このディアボロが出現して以来、関東各所の沖合から舟が少なくなっちゃって……遂に殆どいなくなってしまったっス。でも、そうしたら今度は例のディアボロが海水浴場に向かったらしくて――このまま放っておいたら間違いなく大変な事になるっス!」

 今は真夏。
 当然、海水浴場は海水浴客で賑わっている。
 そんな場所に、大型船舶を沈めるほどの凶暴なディアボロが乱入すればどうなるか――。
 危機的状況に、撃退士たちの顔も自然と引き締まる。

「敵は現在、横浜港沖合の辺りを徘徊しながら、じょじょに『海の公園』へと向かっているっス。今のところ、ずっと同じ場所を周回してて、気が向いた時だけ海水浴場に向かうっていう行動を敵が繰り返してるおかげで時間は稼げてるっスけど……いつ敵が一目散に海水浴場に行くか判らないっス!」

 そう語りながら佳耶はラップトップPCを操作して、今度は海図を表示する。

「どうやら舟、それも大きいのを優先的に狙う特性があるみたいで。だから、それを利用して討伐作戦が計画されたっス!」

 その一言に、教室中の撃退士たちの顔がより一層引き締まる。
 更に引き締まった表情の撃退士一人一人の目を見据えながら、佳耶は続けた。

「敵は沖合から出てこなくて、もし出てきた時には海岸線に甚大な被害が出るっス。この状況だと選択肢は沖合でこの敵を倒す――その一択っス。でも、敵は凄い速度で海中を自由自在に泳ぎ回れるっス。その一方であたしたち撃退士は沖合じゃ自由に動けないっス」

 その事実を改めて聞かされ、教室内が騒然となる。
 教室の騒がしさが最高潮に達した時、それを静めるように佳耶がよく通る声で告げた。

「だけど……あたしたち撃退士はこの敵を倒しに沖合に行かなきゃいけないっス――だから、その為に撃退庁が今すぐ動ける舟をありったけ手配してくれたっス! 他ならぬ沖合で……あたしたち撃退士がこの敵と互角に戦う為にッ!」

 力強く叫びながら、佳耶はラップトップPCのキーを凄まじい速さで叩いていく。
 するとディスプレイの海図に新たなマーカーが表示される。
 先端が尖った台形――舟のマーカーだろうか。
 マーカーはサイズに違いがあるようで、大中小の三種が見て取れる。

「大型船が五隻、中型船が十隻、小型船が十五隻――合計三十隻の舟を沖合に浮かべて、あたしたち撃退士はその上を飛び移りながら戦うっス!」

 佳耶が作戦内容を告げたことで、教室に集まった撃退士たちの視線が海図とマーカーに釘付けになる。

「無茶な作戦だっていうのは解ってるっス……でも、戦いたくても戦えない人たちの代わりに――あたしたち撃退士がいるっスよ! だから、みんなの力を貸してくださいっス!」

 そう言うと、佳耶は撃退士たちに向かって深々と頭を下げた。


リプレイ本文

●勝利条件:俊敏なる兎の如く! 洋上の大勝負!

 ――八月某日 神奈川県 横浜市 沖合――

「3、2、1……戦闘開始! 行っくよー!」
 大型船舶の甲板に立ち、ダイバーウォッチのデジタル表示に目を落としていた與那城 麻耶(ja0250)はカウントダウンを刻んだ後、ストップウォッチを始動させた。
 0:00のデジタル表示が動き出すと同時、麻耶は甲板から勢い良く跳び下り、水面へと『着地』する。
 水上を歩行する術の持続時間は最大で15分。
 それが麻耶にとってのタイムリミットだ。
 真っ先に海原へと降り立った麻耶を察知したのか、あるいは麻耶の背後に佇む大型船を察知したのか定かではないが、敵は麻耶に向けて一目散に突っ込んでくる。
 だが、麻耶は憶すことなく真正面から跳躍し、敵を飛び越すとともに、眼下を通り過ぎる敵へと鎖鎌を投げつける。
 ただの鎖鎌ではない。
 水中での位置をある程度把握できる様にシグナルフロートを用意して繋げる工夫がなされているのだ。
 麻耶が投じた鎖鎌は狙い通り敵へと突き刺さる。
 これだけの船が動いててシャチまで暴れていれば、水面はかなり荒れている。
 シグナルフロートを付け終えた麻耶は海面を見やり、仲間たちに声をかけた。
「これだけの船が動いててシャチまで暴れてる……水面はかなり荒れてるんじゃないかな。みんな! 揺れにも気を付けてね!」
 
 麻耶からの声に頷き、ついさっきまで麻耶が乗っていた大型船の内部から遠距離攻撃組――蒼波セツナ(ja1159)とユイ・J・オルフェウス(ja5137)、そしてカーディス=キャットフィールド(ja7927)が甲板へと飛び出す。
「この時期に海を荒らされるのは困るわね……ふふ、消し飛ばしてあげるわ」
 自分の乗る船に向けて突進してくる敵を油断なく見据えながら、セツナは唇を小さく開き、呪文の詠唱を開始する。
「大変そう、ですけど、がんばる、です」
 ユイはシャチの見た目を少しばかり怖がっているようで、察するに怖いから早く終わらせたいようだ。
「た、食べられちゃったりしない、ですよね」
 そんなユイの心境とは裏腹に、敵は銛のような鋭い歯が並ぶ大口を開け、速度を更に上げて大型船へと襲いかかってくる。
「海水浴場へオルカ型のディアボロなんて洒落になりませんね。被害者が増える前に一刻も早く討伐しなければ……」
 真剣な面持ちで呟き、カーディスは愛用するリボルバーM88の弾倉を開き、残弾を確認する。
 敵は凄まじい速度で瞬く間に距離を詰めていくるが、それよりもセツナとユイ、そしてカーディスの術が準備完了する方が早い。
 ――Ihnen wird nicht ausgewichen(汝、逃れることかなわず)。
 呪文の形に唇だけを動かした直後、セツナはもう一つの呪文を声に出して詠唱する。
「Geb Ihnen ein Verbrecher einen Freund(罪人よ、汝に友を与えん)」
 セツナが詠唱完了するのに合わせ、ユイも術を発動した。
「おとなしくする、です」
 二人に続き、カーディスも敵を捕縛するべく、術を発動する。
「影縛りの術使用いたします! ……影よ呼びかけに応えかの者を縛れ!」
 セツナとユイが放った術によって呼び出された『無数の何者かの手』が突如として洋上に出現し、高速で泳ぎ進む敵を絡め取ろうとする。
 しかしながら敵の泳ぐスピードはそれより速く、『無数の手』はことごとくすり抜けられ、空を掴むだけに終わった。
 その後にはカーディスによる『影縛りの術』も控えているが、敵は凄まじき泳力でそれすらもすり抜けていく。
 敵が『無数の手』と『影縛りの術』による波状攻撃をくぐり抜けるのとほぼ同時、三人の乗る大型船が大音響とともに激しく揺れる。
 まさに魚雷が炸裂したかのような衝撃にセツナとユイは吹っ飛ばされて空中へと打ち上げられ、そのまま船外へと放り出された。
 残るカーディスは手すりに激突したことで肋骨に大打撃を負ったものの、そのおかげで船外に吹っ飛ばされずに済んだものの、吹っ飛ばされていくセツナとユイを目の当たりにして焦燥する。
「いけない……っ!」
 空中への打ち上げられ方が上方向ではなく斜め方向、それもどちらかといえば横方向に近い軌道で放り出されたセツナとユイは既に船からかなり離れた所まで吹っ飛ばされており、今から飛び出して二人を掴もうにも距離が離れ過ぎていた。
 だがカーディスは躊躇なく手すりに飛び乗ると、そこから跳躍せずに、ただ真下に向かって自由落下する。
「間に合えっ!」
 気合いとともに全身の力を脚に込めるカーディス。
 着水する直前、カーディスは全力を結集した脚力で船体側面を蹴り、横方向の軌道で跳躍する。
 砲弾のように飛んでいくカーディスは今まさに着水寸前のセツナとユイへと必死に両手を伸ばす。
 その甲斐あって着水まで後十数センチというところで左手にセツナの腕、右手にユイの腕を掴み取ることに成功したカーディスは、力の限り二人の身体を引き寄せ、左右それぞれの腕に抱きかかえると同時に水上歩行の術を発動、水面に『着地』する。
 三人はまるで地面を転がるように水面を転がり続けた末、やっとのことで止まった。
「随分と遠くまで来てしまいましたね。さて、効果時間中に走破できるでしょうか……?」
 見れば船団は彼方だ。
 術の効果が切れて身体が水面下に沈み込むまでの間に、セツナとユイの二人を抱えたまま船まで戻らなくてはならない。
 残時間と自分の速度を計算し、カーディスは緊張の色を表情に滲ませる。
 成功確率は五分五分だ。
 意を決してカーディスが一歩を踏み出そうとした時だった。
 駆動音を響かせながら二隻のモーターボートが接近してくる。
 二隻のうち一隻に一人で乗った相羽 守矢(ja9372)は飄々とした口ぶりでカーディスに言う。
「あんた等が吹っ飛ばされたのが見えて良かったよ。その二人は俺に任せな。で、あんた自身はあっちの船だ」
 守矢はカーディスに手を差し出しながら、もう一隻のモーターボート――雫(ja1894)が乗った船を目線で示す。
「相羽さん、それに雫さん、助かりました……!」
 カーディスがセツナとユイを守矢の船に乗せようとした時だった。
 水面を転がったカーディスを追ってきた敵が、守矢の乗る船に標的を変えて襲ってきたのだ。
 二人を船に乗せようとしているところに攻撃を仕掛けられようとした瞬間、凄まじいスピードで突っ込んできたモーターボートがカーディスたちと敵の間に割って入る。
 更にはその船に乗っていた礼野 智美(ja3600)が全長2mにも及ぶ長槍――パルチザンを突き出して敵を正面から抑え込む。
「早く乗ってっ!」
 鋼鉄の船に正面から突進するのを常としているだけあり、敵はパルチザンを正面から受けても平然とした様子で、逆に智美を押し戻そうとする。
「助かります!」 
 それでも智美が必死に敵を押さえている間に、礼を言ってカーディスは雫の船に乗り込む。
「やれやれ、お仲間のフォローも楽じゃないねえ」
 一旦離脱していく雫たちの船を見送りながら飄々と呟くと、守矢は自分の乗る船をスタートさせる。
 智美一人だけよりも、三人が乗る船の方が標的としての優先度は高いのだろうか。
 敵は守矢の船へと標的を変えた。
 素早く船をスタートさせたものの、追ってくる敵の速度は到底振り切れない。
 あっという間に守矢たちの船は距離を詰められ、もはや数センチ後方まで接近される。
「本当に無茶苦茶だなあ……あんなデカい敵を相手にこんな海原でやりあわなきゃなんないなんてさ」
 飄々とした口ぶりでぼやくと、守矢はセツナとユイを小脇に抱え、船上を蹴って全力で跳躍する。
 それと同時に突進を受けたモータボートが大破し、水面下へと沈んでいく。
 間一髪、危機を脱した守矢たちだが、安堵の息をつくにはまだ早い。
 遠くに見えていた小型船までは何とか距離が届いたものの、守矢が着地した瞬間とほぼ同時、追い付いてきた敵が突進によってまたも船を破壊する。
 再び間一髪での全力跳躍。そして、着地と同時に破壊される船から再度の跳躍。
 一連の流れを繰り返しながら何とか切り抜けていた守矢は流石に焦ったように呟く。
「もうこっち側には船が残ってないねえ……」
 跳躍したはいいものの、着地する船が無いのを空中から目の当たりにする守矢。
 だがその時、丁度良いタイミングで先程まで遠距離攻撃組が乗っていた大型船が最大船速で進んでくる。
「乗ってくださいですの」
 大型船のブリッジから月音テトラ(ja9331)が声を上げる。
 遠距離攻撃組の搭乗する大型船を操舵していたテトラが抜群のタイミングで船を回してくれたのだ。
 守矢たちは三人は大型船上に着地し、何とか事無きを得る。

 一方、雫とカーディスは別方向から敵へと迫っていた。
「操舵、頼みます」
 カーディスに操舵を譲ると、雫は船上に立ち、ハンドフリーの通信機で新井司(ja6034)と連絡を取る。
「タイミングは了解です」
 短い打ち合わせの後、雫は静かな闘志とともに呟いた。
「義経の様に八艘飛びをする事になるとは……」
 
 雫からの通信を受け、司も船上に立つ。
「水上戦、か。相手の土俵で戦うのも骨が折れるけれど……まあ、やるしかないわよね」
 既に幾隻もの船が破壊されているが、幸いにしてまだ何隻かは残っている。
 ――戦場は敵の土俵。
 ――自軍に残された戦力はもうあまりない。
 明らかに不利なこの状況。
 だが、たとえ明らかに不利な状況であっても、征かねばならない時もある。
 司はそう自分に言い聞かせながら、ふと思う。
(これも英雄たる資格の一つ、なのかもしれないわね)
 その時、仕掛ける時を待つ司に龍崎海(ja0565)からの通信が入る。
『最終防衛線、迎撃用意。何としてもここで倒すぞ。これを突破されれば、各個撃破されるだけだ』
 通信とともに海の乗ったモーターボートが戦域へと突っ込んでくる。
 そのまま突撃してくる海の船を返り討ちにせんと、敵は大顎を開けて噛み砕きにかかる。
 鋼鉄の大型船すら噛み砕く敵の大顎が海の船を挟み込んだ。
 だが、俄かには信じがたいことに、敵は海の乗る船を噛み砕けずに動きが止まったのだ。
 その光景に驚くも、司はすぐに理由を理解する。
 見れば、船の一部――噛みつかれた部分が淡く発光していた。
「なるほど。自分ではなく船に『アウルの鎧』をかけたのね。恐れ入ったわ――」
 海の作戦に舌を巻き、司は船上から跳躍し、周囲に残った小型船を飛び石のように伝いながら敵へと肉迫する。
 司とタイミングを同じくして雫も反対側から、残った小型船を飛び移りながら敵へと距離を詰めていく。
「雫」
「新井さん」
 一瞬で息を合わせると、司と雫は左右から同時に渾身の一撃を敵へと叩き込む。
 左から司のトンファーが、そして、右からは雫のフランベルジェが渾身の力で敵へと叩きつけられる。
 この攻撃には凄まじいタフネスを見せつけてきた敵も大きく怯み、その隙を逃さず海が再び全員に合図を出した。
『今のうちに遠距離攻撃組は一斉攻撃。敵の動きを何としても封じるんだ』
 合図が飛んだ直後、テトラの操舵によって仲間たちを全員回収し終えた大型船から次々と遠距離攻撃が放たれる。
 セツナとユイによる『無数の何者かの手』。
 カーディスによる『影縛りの術』。
 智美による銃撃。
 更にはテトラ自ら甲板に飛び出して影の槍を放つ。
 圧倒的な泳力を持つ敵とはいえ、その全てを無傷で避けきれはしない。
 今や敵が完全な動きを封じられているのを見計らい、守矢がジャック・ロランド(ja1045)に合図する。
「どんなにタフでも、弱点さえ狙えば!」
「ああ……次で奴の上に乗る」
 ジャックは守矢に返事をした後、今度は自分に結び付けたロープを背後で持っていてくれる麻耶へと静かな声音で語りかける。
「すまん、面倒をかける」
 すると麻耶は真剣な面持ちから一転して笑顔を浮かべ、ジャックに言う。
「いいのいいの! 無事に帰ってきてね! 絶対だよ!」
 麻耶に向けて深く頷き、ジャックは眼下を泳ぎ回る敵を見据える。
 敵の最高速度は200ノット以上、時速に換算すれば約400キロだ。
 いかに完全な動きは封じられているとはいえ、その背に跳び乗ろうなど無茶もいい所だ。
 だが、ジャックは冷静にタイミングを合わせると、甲板を蹴って敵の背へ向け跳び下りた。
 着地は見事成功し、狙い過たずジャックは敵の背中に跳び移り、拳を敵へと叩きつける。
「……ハッ!」
 狙うは頭部――メロン器官だ。
 頭部への痛烈な打撃を受けたからだろうか。
 敵は怒りと危機感から凄まじい力を発揮し、驚異的な泳力で降り注ぐ遠距離攻撃をことごとく回避するとともに、爆発的加速で最高速度に達し急発進する。
 振り落とされまいとジャックも必死で敵にしがみつくが、その爆発力のあまりの強さになんとロープが切れてしまう。
 ロープを切ったことで自由になった敵は、ジャックを背に乗せたまま猛スピードで沖合に向けて泳ぎ出した。
 しかしジャックも負けてはいない。
 その間にも拳を叩きつけ続け、敵の頑丈な外皮と骨格を力任せに叩き壊しにかかる。
 痛みと怒りで興奮した敵はジャックを振り落とすべく、泳ぎの軌道を蛇行に変え、更にはあちこちに散らばる鋼鉄船の残骸へと凄まじい速度で身体をぶつけ、あるいは擦りつける。
 それでも何度目かの攻撃の末、ジャックは外皮と骨格を砕き、遂にメロン器官を叩き潰す。
 メロン器官を破壊された上、泡を喰って方向を完全に見失い、敵は今度は岸に向かって高速で泳ぎ出した。
 その後、敵は埠頭に乗り上げ、コンテナに激突してやっとのことで止まる。
 埠頭に放り出されたジャックはむくりと起き上がると、陸に打ち上げられて動けなくなった敵にとどめの一撃を叩き込んだ。
 仲間たちの乗る大型船が港に向かってくるのを遠目に見て一息つきながら、ジャックはふとある可能性に思い至った。
(海水浴場を襲撃するなら、それまでディアボロを潜伏させるべきだ。何故、そうせず自由に襲わせていた? 何かあるはずだ……そう、自由に襲わせていた理由が何か……!)
 咄嗟にジャックは埠頭を見回し、不審な人物がいないか探していた。
「……俺の考え過ぎだったか?」
 呟き、ジャックは防水ケースから携帯電話を出すと、如月 佳那(jz0057)に電話をかける。
「……考え過ぎだと思うがこの件、お前にも関係あるんじゃないかと思ってな……何故、そう思ったのかは俺にもわからん。もしかしたら、俺がお前の銃を整備したのに関係があるのかもしれない。……最後のは冗談だ。気にするな」
 通話を終え、ジャックは大型船から降りてきた仲間たちの元へと歩いて行く。
「海で生計立てている人もやっと安心できる」
 港に降り立ちしみじみと呟く智美。
「――これで、いつもの海に戻るかな。やっぱ海は楽しむモノ!」
 そして、真夏の太陽のように明るく言う麻耶であった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: バカとゲームと・與那城 麻耶(ja0250)
 歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
 ラピッドラビット・ジャック・ロランド(ja1045)
 撃退士・新井司(ja6034)
重体: −
面白かった!:4人

バカとゲームと・
與那城 麻耶(ja0250)

大学部3年2組 女 鬼道忍軍
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
ラピッドラビット・
ジャック・ロランド(ja1045)

大学部4年138組 男 ルインズブレイド
憐憫穿ちし真理の魔女・
蒼波セツナ(ja1159)

大学部4年327組 女 ダアト
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
ブレイヴ・ドライヴ!・
大神 直人(ja2693)

大学部4年256組 男 インフィルトレイター
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
Le premier ami d'Alice・
ユイ・J・オルフェウス(ja5137)

高等部3年31組 女 ダアト
撃退士・
新井司(ja6034)

大学部4年282組 女 アカシックレコーダー:タイプA
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
ラピッドラビット・
月音テトラ(ja9331)

大学部6年176組 女 ルインズブレイド
撃退士・
相羽 守矢(ja9372)

大学部5年39組 男 ルインズブレイド