●第一の難関! 国・境・突・破!
「諸君!あーれい隊長に従ってみさと城を落城させるのだ!……ああ、一応建前は訓練施設でしたか、皆訓練頑張って下さい」
アーレイ・バーグ(
ja0276)は豊満な胸をぷるんと張って隊員に訓示すると、出撃前のお約束も忘れない。
「この修行が終わったらステイツの恋人と結婚するんです……」
アーレイの恋人は日本で入院中だが、決してツッコんではいけない。
「あの番組やってみたいって思ってたんだよね〜」
余裕の様子で先陣を切るのは要 忍(
ja7795)だ。
持ち込みは禁止されてないという点に気付いた忍はフック付きロープを持参していた。
壁に助走をつけてダッシュで近付き、跳躍して壁を蹴る様にして一気に登ると、忍はロープ引っ掛けて強度確認して壁から吊るしておく。
その後には控える池の方は一気に駆け抜けるのみだ。
「あれは板に体重かけると沈むだけだから。地面を踏み込んで飛ぶのではなく股関節を動かして駆け抜ける感じで……一気に駆け抜ける!」
後に続く仲間にアドバイスするかのように気合の入った声を出しながら忍は難なく第一の難関を超えていく。
そして、ロープの端を置いて置くことも忘れない。
一方、攻撃隊長アーレイは池を見ておもむろに一言。
「困りましたね……ブラ付けてないので落ちたら透け透けで大変なことに……」
真顔で冗談をいうアーレイ。
そもそもブラ体操着の下に見えてないかというのは禁句である。
とかなんとか言いながらアーレイは得意分野ではないといえ正攻法で乗り切ろうと、苦心しつつロープを伝って垂直壁をよじ登り、危なっかしいながらも池に浮いた板を跳んでいく。
「何か面白そうなことやってたから参加してみたけど……え〜と、結構ハードな内容ね〜。美里さんがケーブルTVで見たという番組を見て予習をしてきたけど……コレって確か、海外にこのノウハウを売り出して各国で同じようなのやってるって聞いたわね〜」
そう言いながら大曽根香流(
ja0082)もスタートを切る。
香流自身はパワー重視の能力適正を持つが、『できるだけ特徴のある色合いを見極めて登ったり飛んだりする』という攻略法を用意してきたこともあり、スピード重視の能力適正が求められるこの難関を何とかクリアしていく。
香流の一言に同調するように呟くと、隣に立っていたフィール・シャンブロウ(
ja5883)もスタートを切った。
「まーた古いネタね。ピッチピチのナウなヤング発案とは思えないレベルなんだけど」
フィールは20代欧米人だが、やはりこれも決してツッコんではいけない。
「ダアトに運動神経を求めるとは。ここは少しでも突破確率が上がるようにしたいところね」
そう呟くフィールには一つの策があった。
(板の浮いた池なんか、先に行った得意な人の進んだ道を見て、明らかに沈みやすい板とかわからないかしら?)
そう考えたフィールは、自ら用意した攻略法で見事難関をクリアした香流の辿ったルートを見逃さず、そっくりそのままそれを通る。
能力適正の関係から垂直壁をよじ登る際に苦戦はしたものの、何とか池の板渡りはクリアしたようだ。
一方、彼女たちと違い、この難関に適した能力適正を持つ挑戦者は易々とクリアしていく。
たとえばcicero・catfield(
ja6953)はまるで遊び半分でやっているかのように余裕で垂直壁の上に垂直跳びで乗り、池の板渡りに至ってはまるで整地された歩道上のように安定と速度で歩いていく。
「なんだか面白そうだな。よっし、気合い入れて頑張るとしますか♪」
その一言とともにスタートしたciceroはあっという間に第一の難関をクリアしてしまった。
スピード重視の能力適正ではないが、全体的にバランスの取れた能力適正を持つ皇 夜空(
ja7624)も中々の好成績だ。
忍によるロープ設置というサポートがあるおかげか、垂直壁もそれほど時間をかからず超え、池の板も割と速いペースで超えていく。
だがそれら以上に特筆すべき参加者がいた。
「……」
防護マスクを着用し、脚部の視認性を低下させる術――端的に言えば足が無いように見える術に、壁走りの術、そして水上歩行の術を使用し、幽霊の如くふよふよと浮いていく。
どこからどう見ても怪しい。
しかし、そのクリアタイムは全員の中で文句なしに最速だ。
その挑戦者こそが鷺谷 明(
ja0776)である。
「せっかくだから、クリアはしたいねぇ。出来れば皆が満足できるといいな☆」
続いてジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)もスタートを切った。
能力適正はパワー重視だが、ロープを掴んだ際はそのパワーを活かして自らの身体を滞りなく押し上げていく。
垂直壁の上に登ったジェラルド。
池へと進もうとした彼は、あることに気付くと、咄嗟の反応で下に向けて手を伸ばした。
「……ッとォ!」
ジェラルドは伸ばした手で自分の後に続く挑戦者――フィン・スターニス(
ja9308)の腕を掴む。
魔力重視の能力適正であるフィンはロープを登りきるまで握力がもたず、途中でずり落ちかけていたのだ。
「……ありがとう、助かるわ」
礼を言われながらジェラルドは、そのままフィンを持ち上げる。
「別に気にしなくていいよ。さっき言った通りだし」
するとフィンも微笑みながら手足に力を入れて壁を登りきる。
「そうね……やるからには徹底的に。勝ちたいわ」
何とか無事に登り切った二人だが、制限時間はタイトだ。
すぐに壁を超えると、二人は池の板を渡りだす。
「目標は当然クリアだけど、その為に元ネタの動画を見て復習してきたの。少しはヒントがあるかもしれないし」
と、池を渡りながらフィン。
「んで、何かわかった?」
ジェラルドが問い返すと、フィンは苦笑とも微笑ともつかない微笑みを浮かべる。
「わかったことは、元ネタでは、アウルでもないのに…凄いことをやっていたのね――ということかしら」
それがおかしかったのか、ジェラルドはくすくすと笑い出す。
「違いないねぇ」
忍のアドバイスや香流の攻略法を参考に、二人も何とか難関を突破する。
「足は引っ張らねーよーにしないと、ですよ」
次々スタートを切っていく仲間たちの背を見ながら、逆城 鈴音(
ja9725)もスタートを切る。
撃退士として半端な自分でも出来る事があると証明する――鈴音はその為にみさと城攻略に全力を尽くすつもりだった。
小さな体を目一杯動かして臨む鈴音だが、服装がいつもの着物なので、激しい動きがしづらいようだ。
焦った鈴音は必要以上に力んだ歩調で池の板へと足をかけ、その結果、ゴール寸前で危うく沈みそうになる。
だが、絶妙のタイミングで横から伸びた手によって沈みかけた所を救われた。
鈴音を救ったのは、一足先にスタートを切り、ゴール地点に到達していた更科 雪(
ja0636)だ。
【大丈夫?】
スピード重視の能力適正を持つ雪にとってはここは得意な場所なのだろう。
右手で鈴音を掴みつつ、左手でプラカードを出す余裕さえある。
「助かりました。ありがとうごぜーます」
雪は鈴音を完全に引っ張り上げると、やはり余裕の様子でプラカードを出しながらスキップして次の難関へと進んでいく。
【ごーごーごー!】
「面白そうというか危険そうというか、な、なんでしょうね? でも協力して何かを成す……いいことです、頑張りましょう!」
次々とクリアしていく仲間たちを見送った成宮 雫雲(
ja8474)は、ようやく自分も動き出す。
雫雲は基本団体の崩れがないかどうか確かめながら行動し、助けられる所は自ら助けにいくことを念頭に置いていた。
特に、鬼道忍軍が得意とするこの難関では皆を見送ってから最後に自分がいくと決めている。
得意なタイプの難関だけあって、雫雲は容易く垂直壁や池の板渡りを超えていく。
こうして一人の脱落者も出さず、第一の難関は突破された。
●第二の難関! 巨・岩・登・攀!
「あーれい箸より重い物持ったことがないんです〜♪」
巨岩を前に女子力を無意味にアピールしてみる攻撃隊長アーレイ。
とはいえ、ただ媚態を晒すだけではなく、修行は正攻法だけでは厳しそうなので力の入れ方を工夫してみるなど、実は真面目に修行に取り組んでいるのだった。
「力の入れ方次第では一般人でも一人で冷蔵庫持てたりしますしね」
その隣では雪が淡々と巨岩を押し上げていく。
流石に両手を使わないと無理なのか、この時ばかりはプラカードは襟首から差し込んで立てている。
【うんしょうんしょ】
「個人的には余り力があるとは思えないんだけど、コレも修行だしね〜上手く動かしてと」
見た目とは裏腹に頼もしいパワーを発揮したのは香流だ。
自分の身体よりも大きな巨岩をそれほど苦も無く転がしていく。
余りにもスムーズなそのプレーは、まるで巨岩が発泡スチロール製ではないかと疑ってしまうほどだった。
「……!」
特筆すべき参加者――明はここでも凄まじいプレーを見せていた。
嬉々としてウォーハンマーという名の鉄塊を振るい、巨岩をゴール地点まで打ち上げている。
攻略法自体は荒っぽいものの正攻法だが、やはり傍目は非常に怪しい。
「ここは任せてよ☆」
ここに来て大活躍なのがジェラルドだ。
常人には視認できないほどの速度で放たれる蹴りを巨岩をリズム良く蹴り上げている。
彼の蹴りはスピードだけでなくパワーも一級品のようで、巨岩を一気にゴール地点まで蹴り上げるほどの威力を発揮していた。
それを活かし、彼は自分の分はもとより、パワー重視の難関に苦戦している仲間の分まで次々と巨岩を蹴り上げていく。
こうして、ジェラルドの大活躍により、またも攻撃軍は全員突破を果たしたのだった。
●第三の難関! 光・球・運・搬!
「ここは……流石に……」
新入生一……かどうかはともかく屈指の魔法攻撃と防御を誇るアーレイにとってこの訓練はクリアできないと恥ずかしい。
少なくとも、魔力面で優秀なアーレイならば、油断さえしなければ何とかなるはずだ。
それを自分でも理解しているアーレイはかなりの速さで光球を生成すると、安定した光球保持を見せつけ、難なくクリアしてみせる。
「さっきのお礼。ここは得意分野だから」
フィンは自分と同じタイミングでスタートしたジェラルドを庇いながら進んでいた。
魔力防御に関して高い力を持つフィンは自分だけでなく、ジェラルドに向けて飛んでくる光球も併せて受け止めながらゴールまで進む。
「こちらこそありがとう。今度はこっちが助かったよ☆」
そして、特筆すべき参加者である明はまたも凄まじいプレーを見せる。
「……!?」
光球はを胸中に抱え込み落とさないよう注意しながら、壁走りの術で橋の側面、背面を駆け抜け敵を撹乱する明。
プレー自体は絶技だが、やっぱり傍目の印象は怪しかった。
「やっと本領発揮かしらね」
相変わらず気だるげな雰囲気は変わらないが、心なしかやる気になっているのはフィールだ。
自分の分の光球を生成した後、フィールはまだ残っている仲間――魔力の面で苦戦している者たちを先に行かせ、しんがりを務める。
その足取りもやはり気だるげだが、それとは裏腹にフィールの術は冴えわたっていた。
先を行く仲間に迫る光球を魔力による緊急障壁でことごとくガードしていく。
残る仲間たちを全て行かせたフィールは、やがて自分の番とばかりに動き出す。
先程と同様に緊急障壁を駆使したフィールは難なく第三の難関を突破したのだった。
遂に誰一人脱落することなく最終難関まで辿り着いた攻撃軍。
果たして最終難関の行方は――。
●最後の難関! 城・主・決・戦!
「よくぞ生き残った我が精鋭たちよ!」
天守閣に到達した攻撃軍の先頭に立ち、アーレイは仲間たちに向けて高らかに言う。
「ここまで着たら何も言うことはありません。全軍突撃!」
アーレイの号令で攻撃軍が一斉に動き出す。
対するは陣羽織を着た城主――来栖美里(jz0075)。
そして、同じく陣羽織を着た重臣――如月佳耶(jz0057)である。
「一人も脱落しなかったのはちょっと予想外っス……でも、そう簡単にはクリアさせないっスよ!」
元気の良い声で言うと佳耶は愛銃を抜くが、それより早く攻撃軍が一斉に動き出す。
佳耶が攻撃する前に畳みかける――全員の意思は一致していた。
最初に攻撃を開始したのは忍だ。
狙いを下半身に集中させて文字通りの足止めを狙う。
「足腰立たなくなるまでヒイヒイ言わせてあげるよ〜!」
やたらとエロ物騒な台詞で攻め込んでいく忍に負けじと、フィンも佳耶に向けて光の矢を放つ。
二人からの牽制に佳耶が気を取られた一瞬の隙をつき、夜空が放った鋼糸が佳耶の愛銃に巻き付き、その動きを封じる。
「蒼と知り合っているか……同じ存在と……」
自分にだけ聞こえるような小さな声で、夜空は佳耶に向けて何事かを呟く。
その横で特筆すべき参加者の明が動いた。
「……蒸れた」
遂にガスマスクを脱いだ明は、ウォーハンマーを大きく振りかぶる。
「実を言うとこれが私の武器のお披露目でねえ。盛大に吹っ飛んでくれたまえ」
放たれる大ぶりな一撃。
愛銃を捕縛されながらも佳耶はできる限りの体捌きで必死に避け、ウォーハンマーの直撃だけは避ける。
だが、かすっただけでもかなりのダメージがあったようだ。
そして、雫雲はその機を見逃さなかった。
雫雲はすかさず放った成宮流九方手裏剣で動けなくなった佳耶に、二挺の銃を突きつけながら雫雲は降参するよう勧告する。
「降参してください」
佳耶のピンチに美里が動こうとした時、鈴音が美里の前に立ちはだかった。
「おめーの相手は自分ですよ! うぐぉば!?」
だが、着物の裾を踏んでしまい盛大に転倒する鈴音。
しかしそれが、結果的に効果的な奇襲の布石となった。
鈴音の身体の陰にいた雪は、射線が開けた瞬間にアサルトライフルを連射する。
予想外のタイミングで射線が開き、銃撃がきた美里はそれを避けられずクリーンヒットを許した。
そして、その攻撃が決め手となって美里はダウンし、攻撃軍の勝利が確定したのだ。
次々と上がる歓声の中、佳耶に助け起こされた美里によって、アーレイにA4サイズの御祝儀袋が手渡される。
「……クリア……おめで……とう……みんなに……賞金……」
受け取った賞金を掲げるアーレイの横でフィンは皆の健闘を讃えて、アシストに感謝する。
「……バラエティって、こんなに辛く厳しい物だったなんて……いい経験にはなったわ」
そして、フィールは相変わらず気だるそうに、だがどこか楽しそうに、美里の座っていた場所を見ながら呟いた。
「……城主、やってみたいわねぇ。 スペシャルだと現城主が追い落とされることもあったし、一度どう?」
こうして、みさと城は攻略された。
この勝利は、撃退士たちの結束の勝利だったことに疑いの余地はなかった。