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マスター:漆原カイナ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:12人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/06/12


みんなの思い出



オープニング

●動き出す陰謀! 甘美なるは欲望の味!
 関東のとある町。
 夜も更けてすっかり暗くなった住宅街を一人の男が歩いている。
 彼は優れた芸術家であった。
 それと同時に、狂気の殺人鬼でもあった。
 
 
 
 まるで本物と見まがうほど精巧な蝋人形を作る芸術家。
 だが、それほどまでに高い完成度を求めたゆえか、やがて彼は一つの結論に達する。
 ――自分の作り出した『作品』こそが『オリジナル』。
 ――ゆえに、この世に『オリジナル』は二つといらない。
 その考えに至った彼は特定の誰か、主に若くて綺麗な女性をモデルに選び、拉致した末に監禁。
 蝋人形を作り上げた後、『オリジナル』を殺害するという行為を繰り返してきたのだ。
 
 
 
 彼が住むこの町は最寄駅周辺に大学やオフィスがあるという立地の関係で、一人暮らしの女子大生やOLが多いのだ。
 既に彼は何人かのモデルを選出し、作品制作を終えている。
 そうして彼は今日も、新たなモデルを探しに夜更けの住宅街へと繰り出したのだった。
 
 
 
 しばらく夜の住宅街を徘徊した末、彼は一人の少女を発見する。
 最初は夜更けだというのに独り歩きしているという理由だけで気に留めたが、よくよく見てみればなかなかの美人だ。
 髪の毛を顎のラインでセミショートに切り揃え、前髪は中心部の一束だけ上げて、頭頂部にてヘアピンで留めているという特徴的な髪型。
 ハイネックのセーターにロングスカートのワンピース、黒タイツにストラップパンプスという服装に、薄桃色のポシェットを斜めの肩紐で腰辺りにぶら下げている姿を見るに、年齢は少女に分類されるほどだろうか。
 
 
 
 彼はその少女をモデルにすることを即決し、背後からそっと忍び寄った。
 ついでにポケットから注射器を出すことも忘れない。
 極力、モデルを傷つけないよう、彼が即効性の麻酔薬を封入した注射器を背後から少女に振り下ろした瞬間――。
 少女は咄嗟に振り返ると鮮やかに身をかわし、そればかりか振り下ろされた男の手をしっかりと掴み、押さえつけた。
 予想外の事態に焦る彼に対し、少女は落ち着き払った様子で、笑みすら浮かべている。
 形の良い唇で微笑すると、少女は見た目によりもはるかに艶やかな声で彼に囁きかけた。

「この辺りで芳醇な香りがすると思ったら、あなただったのね。ふふ、歪んでいてドス黒いとっても芳醇な欲望の香り――」

 熱に浮かされたようにそう言うと、少女は掴んだままだった彼の手を引っ張り、強引に彼の身体を引き寄せる。
 そして、おもむろに唇を重ねた。

「んっ……!」

 たっぷり十数秒間はキスをしただろうか。
 ようやく少女が彼を解放すると、その直後に彼は『まるで魂が抜けてしまったかのように』その場に崩れ落ちるように倒れ、ぴくりとも動かない。

「んっ……はぁっ……やっぱり、魂はこうして直接味あわないとねぇ。効率がどうとか言ってる味オンチには一生わからない楽しみだわぁ」

 息を止めるのを止め、気持ちよさそうに熱い息を吐き出して、涼しい空気を胸一杯に吸い込んだ少女は、細くしなやかな人差し指を立て、その指先で唇を拭う。
 彼女のぽってりとした唇はパールピンクのリップで塗っているのか、鮮やかな色とツヤが外灯の光を反射していた。
 たっぷり外気を吸った後、少女は何かを感じ取るように、自分の胸に手を当て、しばらくそうした後に、再び熱に浮かされたように一人ごちる。

「私と一つになってもそう簡単には薄れないこの甘美な味……このままにしておくのは勿体ないわね」

 そして、伸ばした人差し指を今度は顎に当てて考え込んだ後、少女は微笑とともに呟いた。

「いいわぁ……その衝動、解放なさい――あなたには、その資格がある」

 呟いた彼女は、すっかり生命力を抜かれてもはや完全に抜け殻となった彼の身体へと歩み寄ると、肩を掴んで軽々と持ち上げる。
 持ち上げた彼の身体に、少女は再び唇を重ねた。
 今度は先ほどと違い、ほんの二、三秒の間唇を重ねるだけに留め、唇を放した後は手も離し、彼の身体はまるで放り捨てられたように道路に転がる。



 異変はそれからすぐに起こった。
 倒れた彼の身体が次第に鈍く妙な音をたてはじめたのだ。
 その音は次第に大きく連続したものとなっていき、遂には大音響となる。
 そして、大音響とともに彼の背中がぱっくりと割れ、まるで脱皮するように中からは別の生物が現れた。



 姿形はキツネに似ているだろうか。
 ただし、毛並は無く、平坦で滑らかな淡い白色の外皮が全身を覆っている。
 何より目を引くのは尻尾の先端に炎が灯っていることだ。
「行きなさい。後はあなたの好きにするといいわぁ。汝、欲望の侭にあれ――だったかしらぁ?」
 少女がそう告げると、キツネのような生物はどこかへと去って行った。
 
●脅威の蝋攻撃! 倒せ、キャンドルヴィクセンディアボロ!
「厄介なディアボロが出現したっスよ!」

 休み時間の教室にて教卓を叩き、注意を引いてから如月佳耶(jz0057)は、休み時間の教室にいた撃退士たちに叫んだ。

「今回の敵はロウソクみたいな身体をしてて、溶けた蝋や火炎を飛ばしてくる強敵っスよ!」

 叫びながら教室内を見回す佳耶の視界で、教室の撃退士たちが大きくざわめく。

「とにかくこれを見てくださいっス!」

 叫びながら佳耶は教卓の上にラップトップPCを置くと、動画ファイルを再生する。
 すぐにメディアを再生するアプリケーションが立ち上がり、ビルの中腹に付着した巨大な蝋塊に乗った『ロウソクかつキツネのような生物』が映し出される。

「一般人の消防隊の人たちが出動したっスけど……蝋をくらって動けなくなったり、火炎攻撃で負傷したりして、全員が撤退を余儀なくされたっス! 敵は現在、都内のビルに陣取ってるっス。たまたま近くにいた撃退士が急行してこの周辺を封鎖してるっスけど、数も少ないし消耗も激しくて劣勢っス……いつこの敵が封鎖をやぶって一般人のいる所に行くかわからないっス」

 そう語りながら佳耶はラップトップPCを操作して、今度は市街地の地図を表示する。

「既に周辺の市街地は避難を始めてるそうっスけど、もしかしたら今すぐにでも敵が市街地に出るかもしれないっス。だから、一秒でも早く止めないといけないっスよ! 動ける撃退士はすぐに交代要員として現場に急行してくださいっス!」

 その一言に、教室中の撃退士たちが一斉に戦慄した。ややあって更に黙りこむ者がいる一方、焦りや激情から思わず声を上げるものや、席から立ち上がる者もいる。だが、誰一人として諦めの目をしている者はいない。
 引き締まった表情の撃退士一人一人の目を見据えながら、佳耶は続けた。

「とてつもなく厄介な敵なのは重々承知っス。でも、何の罪も無い人を守る為にも、みんなの力を貸して欲しいっス!」

 そう言うと、佳耶は撃退士たちに向かって深々と頭を下げた。


リプレイ本文

●一階:筑波 やませ(ja2455)&御子柴 天花(ja7025)
「正に攻防一体、と言ったところですね。うかつに近寄ることもままなりませんか……」
 既に市民が避難し、もぬけの殻となった一帯。
 事件現場に建つビルの入り口に立ち、蝋狐と睨み合いながら、やませは冷静に口にした。
「でも、向こうは近づいてくる気マンマンみたいだよー!」
 天花がそう言うとともに、大太刀を抜き放った瞬間、蝋狐は獣ならではの身のこなしで突っ込んでくる。
 全力疾走で突撃しながら蝋狐は蝋弾を次々に生成し、二人に向けて矢継ぎ早に放つ。
 やませと天花の二人ともが横に飛び退き、まずは第一射を危なげなく回避する。
 この辺りは流石は撃退士と言ったところだが、蝋狐も負けてはいない。
 二人が横に飛び退いた隙を突いてビルの中へと進入したのだ。
 激しい動きで戦闘を繰り広げるには少しばかりこのビルの室内は窮屈。
 それでも蝋狐は獣特有の体さばきで自在に室内を走り回り、蝋弾を再び連射する。
 やませには、蝋狐が一射目と同じようにただ蝋弾を連射するとは到底思えなかった。
 だからこそ、二射目が室内という状況を利用した跳弾狙いだといち早く見抜けたのだ。
 敵の真意に気づいたやませは、壁や天井に当たって破裂し、飛び散る蝋弾を何とか回避する。
 しかし、天花はそうはいかなかった。
 天花が敵の真意に気づいた時には既に蝋弾の一発が彼女へと肉薄していた。
「おっと……! そうは……させませんよ!」
 やませが投擲した苦無が空中で蝋弾を撃ち落とし、危機一髪で天花を救う。
「この隙に敵に一撃を!」
 頷き、天花はジャンプから大上段の一撃を蝋狐へと叩き込む。
 その一撃は相当効いたらしい。
 それでも蝋狐は咄嗟に蝋弾を生成し、それを即座に放つことで天花を拘束する。
 蝋狐はまだ大太刀のダメージが尾を引いているのか、一目散に部屋の奥へと走り、上階へと逃げて行った。
「逃げられちゃったよ!」
 固まった蝋弾を振りほどこうともがく天花に、やませは冷静な調子で告げた。
「問題ありませんよ。自分たちの役割は果たされましたからね――」

●二階:月隠 紫苑(ja0991)&松永 聖(ja4988)
「蝋弾面倒ですねー、厄介ですねー。でも、逃げるわけにはいきません――行きますよ」
「えっと……その、よ、宜しくねっ!」
 紫苑からの声かけに照れたように聖が応じると、ちょうどタイミングよく階段から蝋狐が上がってくる。
「蝋弾が来るよ! 紫苑センパイ!」
 蝋弾がとりあえず一番厄介と考えた聖は、敵の体表の蝋が溶ける具合を見計らって兆候としてみることにしていた。
 発射前に敵の足や首、尾の向きから発射位置を暫定、発射に備えて、早くから回避の準備をしておく。
 その作戦は功を奏し、蝋狐が蝋弾を生成するのと同時に、紫苑は予め用意しておいたアンブレラを開きにかかれている。
 絶妙のタイミングで紫苑が開いたアンブレラは狙い過たず蝋弾を受け止め、粘土状の蝋の飛沫を周囲に撒き散らす。
 そして、敵の攻撃を防ぎ切った好機に合わせ、聖が動いた。
 アンブレラを広げた紫苑を背後から飛び越えるようにして跳躍し、靴裏で天井を蹴って加速。
 頭上から蝋狐に向けて急降下しながら鉤爪を嵌めた拳を突きだす。
 だが、蝋狐も黙ってその攻撃を受けるわけにはいかない。
 すぐさま新たな蝋弾を生成し、急降下してくる聖を迎撃する。
「賭けになっちゃうけれど……やるなら今ッ!」
 聖は蝋弾を撃ってきたのをヒーローマントでわざと受けながら体内でアウルを燃焼させて更に加速する。
 そのままマントを敵の頭に被せるようにして敵の喉元に勢いの乗った強烈な一撃を叩き込んだ後、ダメ押しで更に首筋にももう片方の鉤爪を突き立てる。
「ゴー、リビングワンドー!」
 背後からの紫苑の声を合図に聖は再び跳躍し、その場から即座に飛び退く。
 聖が飛び退いた次の瞬間、紫苑が跳躍。
 未だマントを振り払えず右往左往している蝋狐めがけて、リビングワンドを振り下ろす。
 炸裂、打撃音。紫苑の攻撃は攻撃はそれだけに留まらない。
 投擲した武投扇も同じく直撃し、蝋狐は必死でマントを振りほどきながら上階へと逃走した。
「センパイっ!」
 逃げる蝋狐を見て聖が声を上げるも、紫苑はそれを穏やかにたしなめた。
「良いんです、これで。それにスペースの限られた室内で大勢がひしめいてもかえって動きにくいだけですから」

●三階:風鳥 暦(ja1672)&ミリアム・ビアス(ja7593)
「……行くよ」
「むぅ……中々いいセンスしてるなぁ。まー破壊するんだけどもね」
 三階で待つ暦とミリアムは、上がってきた蝋狐を前に呟く。
 この階にも敵が待っていたこともあって、蝋狐は相当気が立っているようだ。
 二人の姿を目にした瞬間、有無を言わさず蝋弾を乱射する。
 苛烈な蝋弾乱射はある程度予想していたのか、暦とミリアムは即座に散開して各々が対処に当たる。
「……甘い」
 両腕を交差させる形で二挺拳銃を構えると、暦は凄まじい速度でトリガーを繰り返し引き絞る。
 発射された無数の銃弾は、ろくに狙いをつけていないように見えるが、暦に迫る蝋弾の一発一発を欠かさず撃ち落とした。
 一方のミリアムは迎撃という方法は採らず、ただひたすら身体能力に頼って回避を続けていた。
 しかし、あらかたかわしたものの、乱射されたうちの一発が壁へと炸裂し、跳弾となってミリアムの胴体に炸裂する。
「あちゃ……当たっちゃったよぉ。まー織り込み済みなんだけどもね」
 この時とばかりにミリアムに追撃を加えようと向き直ってきた蝋狐に見せつけるように、ミリアムは予め服の上に着用しておいたレインコートにレインパンツ脱ぎ捨て、蝋弾による拘束を脱する。
 レインウェアを放り投げると同時に自分も跳躍し、ミリアムは蝋狐へと上方から襲い掛かった。
 蝋狐は炎の灯った尻尾を持ち上げると、今度は蝋弾ではなく火炎弾を放つ。
 それに対しミリアムは超人的な速度で蹴りを放ち、その蹴りで生じたソニックブームをぶつけ、なんと火炎弾を相殺したのだ。
 更にミリアムは敵の頭上からギロチンがごとく脚を振り下ろす。
 銀の脚甲を鎧う脚での踵落としが炸裂し、さしもの蝋狐も朦朧とした様子でたたらを踏む。
 しかし炸裂の直前、蝋狐は咄嗟に蝋弾を生成、発射未遂の蝋弾を間に挟むことで踵落としを叩き込んだミリアムの脚を自分の身体と接着していた。
 ミリアムの攻撃にタイミングを合わせる形で、自分のの背後を取るように高速移動してきた暦に向けて蝋狐は身をよじり、接着したミリアムの身体を向ける。
 暦は既に全身全霊のアウルを込めた双剣を振りかぶっている。
 蝋狐はミリアムを盾にするつもりのようだ。
「むぅ……中々いい作戦だなぁ。まー私たちはその更に上を行くんだけどもね」
 ミリアムは一旦レガースをヒヒイロカネに格納して脚を解放すると、即座にその場から離脱した。
「……食らえ!!」
 驚く蝋狐に、全身全霊を込めた暦の一撃が直撃する。
 そのダメージは大きいようで、蝋狐はまたも上階へと逃げ去った。
 
●四階:字見 与一(ja6541)&フローラ・ローゼンハイン(ja6633)
「……いわゆる狐火、でしょうか。身体が蝋でできているとは初耳ですが」
「このディアボロを作ったデビルは、いったいどのような意図でこのような個体を作ったのでしょう」
 言葉を交わしながら、与一とフローラは四階に上がってきた蝋狐を油断なく見据えていた。
 蝋狐はというと、今までの教訓があるからなのか、すぐに蝋弾の連射を始めるようなことはしない。
 撃退士と蝋狐。
 互いにじっと見据え合った後、先に動いたのは蝋狐だ。
 やはり蝋弾を立て続けに放つものの、今度の標的は撃退士たちではなく、周囲の壁という壁だった。
 壁に撃ち込んだ蝋弾で瞬く間に足場を作ると、蝋狐はそれに飛び乗る。
 撃退士に対し、頭上という有利なポジションからの攻撃を加えるつもりのようだ。
 対するフローラはアサルトライフルの三点バースト射撃で蝋狐の乗った足場を破壊しにかかった。
 ライフル弾の三連射を受けて蝋の足場は粉々に砕け散る。
 一方、与一も魔法書を開き、直線移動する雷の玉を放つが、存外に硬い蝋に手こずっているようだ。
「本好きとしては、できることならこの魔具で戦いたかったんですが……致し方ありませんね」
 与一は新たに召炎霊札を取り出すと、それに持ち替える。
「蝋ならこの魔具が有効でしょう――っ、まさか……!?」
 持ち替えた召炎霊札を構えた瞬間、与一は何かに気づいたようだ。
 足場を殆ど破壊され、いよいよ追い詰められた蝋狐を更に追撃すべく、フローラが一歩踏み出した時だった。
「いけないっ!」
 何かに気づいた与一が大切な本をヒヒイロカネに格納しながらフローラへと飛びかかって彼女へと覆いかぶさるのと、蝋狐が床に向けて火炎弾を放ったのはほぼ同時。
 部屋中に散らばった蝋の破片のおかげで、まんべんなく燃料が撒き散らされた状態となった部屋は火炎弾の一発で容易に炎上する。 それに伴って爆炎も発生したが、咄嗟に与一が庇ったおかげでフローラは無事だった。
「庇ってくれて、ありがとうございます」
 蝋狐が上階へと去った後、作動したスプリンクラーの放水に濡れながら、フローラは与一に言った。
「礼には及びませんよ。ボクはただ、本と仲間が傷つくのが嫌なだけです」
 事もなげに言ってメガネを直す与一に、フローラはごく僅かだが笑みを浮かべる。
「煤、付いてますよ」
 そう告げ、取り出したハンカチで与一の顔を拭いてやりながら、フローラは小声で一人呟いた。
「仲良きことは美しきかな、ですね」

●五階:ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)&ファリス・フルフラット(ja7831)
「気休め程度になれば、いいのだけどね」
 飛び散る蝋を体に付着させないために、ファリスは予め用意していた大きめの布を腕に巻き付けながら傍らのファティナに言う。
「ちゃんと護って下さいね、ナイト様♪」
 ファリスの一言にファティナがそう応じると、ファリスは真面目な面持ちで更に応じる。
「無論だ」
 二人の会話がひと段落するのを見計らったかのように、二人が待つ五階にも蝋狐が現れる。
「来たぞ!」
「ええ!」
 出会い頭に一発、まず手始めに蝋弾がファティナに向けて放たれる。
 だが、それがファティナに直撃するよりも早く、射線上へと割って入ったファリスがヒヒイロカネから即座に脚甲を顕現させ、身を挺して蝋弾からファティナを守る。
 べったりと蝋が付着した上にしっかりと固まってしまった脚甲は武器としては使えそうにないが、もとよりファリスに脚甲を武器として使うつもりはない。
 躊躇なく脚甲をヒヒイロカネに格納すると、ファリスは双剣を構えて蝋狐へと突撃する。
「ファティナ!」
 ファリスの意図を察したファティナは後方からスキルによって生み出した雷を放ってファリスを援護する。
 ファティナの放つ雷が、発射された蝋弾や作成された足場を次々と撃ち抜いていくのを横目に見ながら蝋狐へと突撃したファリスは双剣で斬りかかった。
 尻尾を狙うも、敵もなかなか切らせてはくれない。
 何度かの攻防の末、ファリスの右腕を蝋弾がかすめ、彼女の右腕は拘束されてしまう。
 一度距離を取ってファティナに蝋を破壊してもらおうとした時だった。
 蝋狐は部屋中に飛び散った蝋に着火しようとする。
「させるかぁっ!」
 それを察知したファリスは右腕に引火するのも構わず、蝋狐の尻尾を取り押さえたのだ。
 燃え盛る腕を我慢し、空いてる左の剣にて相手に突き刺し楔とし、離させない。
「っつ! ……自分も持って……いきなさい!」
 そしてファリスはそのまま前進し、蝋狐を押さえたまま窓へと体当たりし、外へと飛び出したのだ。
 ――勝利のため、自分の犠牲は全く厭わない。
 ――そも、命を賭けぬ者に勝利はないと想っている。
 ファリス・フルフラットとはそういう人物なのだ。
 たまらず蝋狐は尻尾の炎で癒着を溶かすとファリスを蹴飛ばし、隣のビルに足場を作って上方へと逃げていく。
 幸い、蹴飛ばされたおかげでファリスは元来た道を戻る形となり、窓に近づいた所でファティナに無事な左手を掴んでもらえた。
「もぅ……無茶し過ぎです」
 ファリスを無事引き上げたファティナは、安堵の表情を浮かべて応急処置を始めたのだった。
 
●屋上:八東儀ほのか(ja0415)&与那覇 アリサ(ja0057)
 蝋狐はほくそ笑んでいた。
 ほどよく戦った末に逃げたと見せかけ、追ってくる人間たちを各個撃破していく。
 その作戦は順調のようだった。
 ――『天狗落』。跳躍力を強化するほのかの技。
 ほのかがその技で、蝋狐が作った足場を次々と飛び移り、追ってくるのを確認しながら蝋狐は再びほくそ笑む。
 上方へ向けて増設していく足場を飛び移り、蝋狐は遂に屋上に到達する。
 すぐにほのかも追いつき、屋上に着地するも、その瞬間を狙って蝋狐は蝋弾を当てた。
 いかに跳躍力に優れようと、着地の瞬間は動けまい――勝ち誇ったような声で鳴く蝋狐。
 だが、身体を拘束されたにも関わらず、ほのかこそが勝ち誇った顔をしていたのだ。
「準備完了! アリサ、あとよろしく!」
 障害物の全くない、まるで地平線のような屋上にはただ一人、アリサが立っていた。
「テメーの火とおれの炎、どっちが強いか勝負さ!」
 金、橙、黒の三色が入り混じる太陽の炎の様なオーラを身体中に纏いながら、アリサは蝋狐へと攻撃をしかける。
 ここで蝋狐は自らの迂闊さに気づかされた。
 このビルは周囲のビルよりも頭一つ分以上飛び抜けて高く、しかもここは開けた屋上。
 閉所戦闘も、壁や天井に足場を設置しての空中殺法も使えない。
 開けた屋上は撃退士の動きを阻害することもなく、蝋弾の跳弾も使えない。
 狐狩り、ひいては狩りとは『獲物を追い込む技術の集合体』としての一面を持つ。
 確実に狩ることのできる場所まで追い込まれていたのは、実は自分だったことを蝋狐は今さらながらに理解した。
 野生児のような嗅覚と勘、そして日常的に獣と接している経験も相まって、的確に動きを先読みしてくるアリサを前に、もはや蝋狐にとって戦況は一方的だった。
 攻撃を全て避け、その上で的確に叩き込まれる蹴り技の数々で、蝋狐はもはや満身創痍だ。
 それでも蝋狐はダメージ覚悟でアリサに蝋弾を当て、そのまま着火に成功する。
 だが、再び勝ち誇った声で鳴く蝋狐の眼前で、アリサは空気をたっぷり吸って息を止め、着火後に火を吸いこまないよう備え、更には身を焼く炎に耐えながら火の玉のようになってドロップキックで突撃してきたのだ。
 着火の炎とオーラの炎が入り混じり、眩く輝く火の玉となったアリサの突撃を受けて蝋狐は粉々に砕け、飛び散った破片の一つ一つに至るまで全て跡形もなく燃え去ったのであった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 野生の爪牙・与那覇 アリサ(ja0057)
 天狗狩・八東儀ほのか(ja0415)
 空挺天襲・ミリアム・ビアス(ja7593)
 戦乙女見習い・ファリス・フルフラット(ja7831)
重体: −
面白かった!:3人

野生の爪牙・
与那覇 アリサ(ja0057)

大学部4年277組 女 阿修羅
天狗狩・
八東儀ほのか(ja0415)

大学部4年176組 女 ルインズブレイド
Silver fairy・
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)

卒業 女 ダアト
翻弄の新月・
月隠 紫苑(ja0991)

大学部5年308組 女 阿修羅
撃退士・
風鳥 暦(ja1672)

大学部6年317組 女 阿修羅
風の向くまま気の向くまま・
筑波 やませ(ja2455)

大学部7年271組 男 鬼道忍軍
闇に差す光輝・
松永 聖(ja4988)

大学部4年231組 女 阿修羅
撃退士・
字見 与一(ja6541)

大学部5年98組 男 ダアト
百火亮乱・
フローラ・フェルミ(ja6633)

高等部1年20組 女 インフィルトレイター
光の刃・
御子柴 天花(ja7025)

大学部3年220組 女 阿修羅
空挺天襲・
ミリアム・ビアス(ja7593)

大学部7年144組 女 ルインズブレイド
戦乙女見習い・
ファリス・フルフラット(ja7831)

大学部5年184組 女 ルインズブレイド