●依頼開始! 撃退士VS漢シリーズ!
「まさか、塗装前提でABS樹脂なんてことはないと思ったけど、M仕様だからって素材までM仕様じゃなくて安心したぜ」
最終塗装が乾くまでの間、大城・博志(
ja0179)たち撃退士は、オブザーバーに呼んだヲタク三人組とディープな談義に興じていた。
博志が作ったキットは【F−108ディアブロ】。
孤児、つまりお子様向けを考慮し、 振り回したりぶつけたり落したりしても大丈夫な様に美観を損ねぬようにしつつ補強し、両肩部と頭をアクスディア時代のそれ――大張風に改修。
また、左腕部に真スラスターライフル、右手に真ツインブレイド、主翼を真テラーウィングに変更し、更に両肩部にも設置するなど武装面でも改修している。
カラーパターンはデフォルトのままだが、使用するのはメタリックカラーで関節部はメタリックアイアンを使用した力作である。
「ふむ、CTSのプラモ、漢シリーズ――まさに地獄だ。一度手を染めたら満足行くほどの完成まで一週間かかっても完成しない場合もある」
すかさず相槌を打ったのは新田原 護(
ja0410)だ。
選択したキットは【フェイルノート2、ナイトゴールドカスタム】。
現在塗装乾燥中のこの機体は、予めCTSを予習してきた面々も見覚えがないようだ。
それを見て取り、すかさず護は立て板に水の調子で解説を始めた。
「この機体は伯しゃ……もとい、覆面の騎士ナイトゴールドが乗る機体だからな。原作でなかったが、ゲーム版の隠し機体として存在する物だ。機体の色は金メッキ、背中のマントと翼には伯爵の紋章をつけた重武装攻撃機、マルチロックミサイルパックに30ミリ重機関砲、近接戦闘用にはヒートサーベル、翼にはソードウィングというのが特徴だ」
更に護はメタルカラーの塗料を手に取って解説を続ける。
「全体的なパーツは金メッキ。ド派手なカラーで押し通し、エンブレムはカッティングシートで保護して塗装が乗らないようにした。武装は別で作り、銃身にはブルーイング、ミサイルと機関砲弾は弾頭の種類ごとに塗装変更。そして、機関砲弾は通通曳徹の順番に装填してある。実際にミサイルや砲弾は種類ごとに色違いがあるから、そのように合わせることがリアリティに繋がるわけだ」
護に負けず劣らずの熱意に満ちた口調で、【アヌビス】を組上げた羽山 昴(
ja0580)も語り出す。
「アヌビスは二足歩行型のKVにも関らず犬型の頭部をした変わったKVなんだぜ。主に格闘戦を主体とする為に色々と簡略化を行なったKVだな。組み立て自体もほかのKVと比べてパーツも少なくこのシリーズでは作り易いと言えるだろう」
そこでふと仲間たちから、疑問符付きの視線を感じ、昴はすぐにそれに答える。
「え、なんでそんなKVを選んだかって? モデラーならもっと複雑なのを選べば良いじゃ無いかって言うのか。甘いな。死ぬほど甘いぜ。作り易いからこそ色々と出来るってもんだろ」
語り口の熱っぽさを増しながら昴はそっと作業台を引き寄せ、塗装乾燥中のキットを仲間に見せる。
「とは言え外見を変えたり変な着色で驚かそうってわけじゃない。子供達へのプレゼントだしな。完成度を上げようって寸法さ。主に関節の部分なんかの可動部を増やしたり壊れないように強化して色々なポーズをとらせる事が出来るようにした。武装は手の部分の巨大な爪のみシンプルにして完成度の高さを狙ってみたぜ。子供達が喜んでくれると良いんだがな」
「犬型の頭部! いいですよね! 犬って!」
真っ先に『犬』という単語に合川カタリ(
ja5724)が反応する。
筋金入りの犬好きとして知られる彼女は、選んだキットも犬型……もとい狼型の【EF−007フェンリル】。
彼女をはじめとする女性陣と北島 瑞鳳(
ja3365)はヲタク三人組からプラモ指導を受けている。
ヲタク三人組にしてみれば、年頃の女性と自分の得意な話題で話せる願ってもないチャンスだ。
しかも、女性陣は全員が美人。
実に役得である。
「こういう小さい部品見るとニヤニヤしちゃいますね……」
並んだキットを見てワクワクするカタリ。
オタクの血が騒ぐようだ。
「可愛い感じのも要りますよね」
機体は可愛いイコール犬という固定観念に基づきビーグル柄に塗装されていた。
作業台を引き寄せ、自分のキットを見せるカタリ。
そのまま彼女は何かに憑りつかれたように語り続ける。
「実家に連絡し、急きょ録音した犬の鳴き声入り自前のレコーダーは内部の組立中に組み込みました――可愛いは正義! 可愛いは犬! 犬だけは譲れんとですよ!!」
その後も、熱に浮かされたように犬の魅力を語り続けるカタリだが、しばらくして我に返ってふと呟く。
「犬好きな子……居ますよね?」
犬の話題で暴走状態の時の事は覚えていないようで、カタリは照れたように話題を変えた。
「『キャッチザスカイ』面白そうです。今度観てみよう……」
その一言に今度はヲタク三人組が間髪入れず反応する。
「合川氏、何なら今すぐDVD貸すお! 丁度、資料として持ってきたのがあるでせうよ!」
瞬く間に六枚ものDVDがカタリに手渡される。
「現在放送中なのは宇宙編だけど、まずは1期――名古屋防衛戦までの12話を見てくれお!」
「……細かい作業は割と得意な方なんだが、プラモなんて今まで触る機会もなかったのだよな、これが。だが、やってみると思った以上に楽しいものだ。この【阿修羅(ツインドリル装備)】という代物、この無骨なフォルムがなかなかいい」
疲れの中に清々しさを感じさせる顔で、既に仕上がったキットを手に取り瑞鳳も言う。
「初めてとかウソだお。北島氏はもはや野生のプロだろ常考」
前回の依頼からの馴染みに加え、クリエイター同士ということもあって瑞鳳はヲタク三人組と最も親しげだった。
もっとも、それを抜きにしても瑞鳳は凄い。
作業に入る前に軽く座禅を組んで精神統一し、完全に集中して一切休憩も取らず組立に没入。
一気呵成に自分のキット仕上げただけでなく、射撃型は弾薬等の組立もあるゆえに手が足りないと判断、他の面々の手伝いも精力的に行うなど大活躍だった。
「銃の分解組み立てなら慣れてるけれど、こういうのは私も初めてだったわぁ……」
今度は雨宮アカリ(
ja4010)が話に乗ってくる。
アカリにとって今回の依頼は『仮想の兵器等の仕組みを理解し、製作を通してより正確で迅速な銃砲等の整備技術の習得を目指すことをもってその目的とする』という意味があった。
彼女はヲタク三人組を『プラモデルのスペシャリスト』としてある程度敬意を払い、基礎やコツ等を指導してもらいながら組み上げた為、すっかり彼等に気に入られていた。
「スペシャリストの技って本当に凄いわねぇ。マエストロの技だわぁ」
目の当たりにした数々の技法を思い出しながら、彼女も自分の作業台と、それに乗った『MBT−012ゼカリア改』を引き寄せた。
戦場で実際に見てきた兵器を思い出しながら改造した為、プラ板を切り出し、砲塔の前面装甲を大きく傾斜させて追加してある。
「確か装甲を傾斜させて、徹甲弾を弾くのよねぇ。避弾経始って言うらしいわぁ♪」
真鍮線とプラ板で砲塔後部にラックを追加。
マスキングテープで積載物を覆うシートを表現。
TANカラーで塗装し、細部の塗りや汚しも忘れない。
「なんかこれ、すっかり見慣れた感じになっちゃったわねぇ……」
苦笑するアカリ。
その横でヲタク三人組は絶句していた。
アカリの作品は『実際に戦場を見てきた者』こそのリアリティに満ちていた。
「細部の隅々まで、魂が宿ってるお……」
ようやく我に返った三人組が口にできたのは、そのたった一言だけだった。
「氷雨氏のキットもすごいでせうよ!」
三人組が次に目をつけたのは氷雨 静(
ja4221)の作品。
静が選んだのは闘型KV『プリンセス』。
機体性能を出来るだけ落とさず、極限まで美とアメニティを追求した機体。
その為能力は他のKVと比べ一段劣るも、女性ファンが多い。
流線型のデザインで、女性らしさを感じさせる美麗なフォルムと美しい翼。
柔らかい音楽が流れる、オルゴールギミック内蔵。
武器は美麗なレイピア。
カラーリングは地色とピュアホワイトと所々にアクセントとしてスカーレット。
そうした仕様を実現する為、webでプラモのコツを熟読した静。
完璧なゲート処理は勿論、成分の違う塗料の使い分けやコンパウンドを使用しての表面磨き。
更にはギミック内蔵という、上級者顔負けの技術を静はやってのけたのだ。
(ヲタク様方の思いやり、無駄には致しません。孤児の中には女の子だっていますよね。絶対に作って見せます……そう、決心しておりましたから)
静の作品を見て興奮する三人組を微笑ましげに見つめながら、静は胸中で静かに呟いた。
「今回は貴重な経験が出来ました。プラモデルも良いものですね」
しばらくして落ち着いた三人組に、今度は権現堂 桜弥(
ja4461) が話しかける。
プラモ初心者を自覚する彼女は、とりわけ三人組に対して謙虚な姿勢で接していた。
それに加え、三人組にしてみれば、動画投稿サイトで噂の『サヤ』と一緒にプラモデルが作れるのだから、始終大はしゃぎ。
指導への熱意と丁寧さも凄まじいものがあった。
(人徳に目覚めたヲタクさんの為に頑張って良かった)
自分の作った【アッシェンプッツェル】のキットに感心しきりの三人組を見つめながら、心の中で一人ごちる桜弥。
(こんなに良い人たちなのに、見た目のせいで偏見を受けているなんて……。私もヲタクですが、容姿のお陰かそういう目で見られません……見た目で判断するなんて最低ですね)
自分の視線に気づいて振り返る三人組に気付き、桜弥はそっと彼等に耳打ちした。
「何かあったら連絡してください。ヲタク仲間ですしね。でも、私があの『サヤ』というのは内緒ですよ。それと……私は貴方達の様なヲタクさんをこれからもずっと応援します」
その横で殺村 凶子(
ja5776)は作り上げた【XF−08D雷電(機槍グングニル装備)】のキットを感慨深げに見つめていた。
カラーリングは全身イエロー、先端やワンポイントがオレンジ。飛行形態はヒヨコのよう。
頭部、眉にあたる部分に太っい眉毛のペイント。
シールドのような手持ち武器に『PIYO−CHAN』と文字シール。
凶子独特の改造を施した力作だ。
それを見つめながら、凶子は製作時のことをしみじみと回想していた。
「……とりあえず、説明書通りに進めれば良いのだろう?」
しばらく説明書を眺め、一つ一つ丁寧にニッパーでパーツを切り外して行くが……。
「……同じような部品がいっぱいだな。……嫌がらせか? ……そもそも、何故最初から切れてないのだ?」
と意味不明な事を言い出したり。
「……すまん、私が悪かった。だから、お前達、切り落とされたいヤツから順次、手を上げろ」
と謎な独り言をぶつぶつと言いはじめる始末。
組立後は塗装である。
「……色をつけるのか。……スプレーか。……頭からか?」
とりあえず、無事完成させたら意外と満足感。
「……お前の名前は『ピヨちゃん』だ。……さぁ、そのグングニルで存分につっつくが良い。」
とか、つい言い出したり。
気が付けば、すっかり愛着がわいていた。
「……良い人に貰われろよ?」
そう呟き、一人別れを惜しむ凶子であった。
一方、品評会はまだ続いている。
「ただのプラモじゃつまらないよ! だから……ね?」
数多の砲台を全身に取り付けたKV、機動力が異常に低いが火力と射程はダントツ――【超火力型KV】を見せながら風見 巧樹(
ja6234)は胸を張って言った。
LEDなどで全身のエンジン出力や砲撃を演出。
モーターと輪ゴムを使用し砲撃時に反動のように振動させる。
電池パックはバックパックに収納、スイッチをバックパック下に設置。
用意されているであろうカッターと電動消しゴム(回転式)の消しゴム円柱状にした紙やすりを交換したものでパテ盛。
カラーは実用的な暗い色。
塗装の際も最善の注意、艶消しから汚しまで完璧。
見栄えは勿論、動かしても素晴らしいという技巧派作品にして傑作だ。
「このプラモ作り甲斐があって楽しかったよ!」
「プラモデルを作るだけでお仕事になるなんて夢のような依頼でしたね」
きらきらした目でそう語るのはカーディス=キャットフィールド(
ja7927)。
彼の作ったキットは、本体は華奢、脚部がハイヒールのような足、ランチャーの反対の手は大きな盾を装備。
装甲は半透明で下の機構がうっすら見える。
バスターランチャーはとにかく巨大で本体の2.5倍程という、他の機体に負けず個性的な機体だ。
多層型装甲と関節の塗装は三度塗り下地にパール、上に明るいピンク、仕上げに細筆で金の縁取りと小花模様という職人技で半透明装甲を華やかに仕上げた、達人級の仕上がりである。
「製作中は集中し過ぎて息をするのを忘れておりました。可愛らしいので女の子も喜んでくれると思います」
「私はシュテルンを組んだ。スペックを見る限り万能型の様だし、相性も良さそうだ。まぁ、実際に乗るわけではないけどね」
そう言ってキットを見せながら、御巫 黎那(
ja6230)がプラモの箱を片づけていると小さな紙がひらりと落ちる。
「……ん? なんだこれ。……限定、KV少女【シュテルン】引換券?」
黎那が拾い上げた券には『シュテルンを擬人化させたフル稼働フィギュア。クールな雰囲気の孤高な少女をイメージさせます。もちろん、下着まで精巧に拘りました!』と書かれている。
三人組が物欲しそうな目で見ているのに気付いた黎那は、無言で差し出しつつ、豚でも見るかの様な視線になる。
一方の三人組は券を受け取ると、真面目な顔になり、姿勢を正して頭を下げた。
「この前は助けてくれてありがとうございました! これ……お礼です!」
その言葉とともに差し出されたのは、前回の依頼の後に作られたもので、黎那の1/10スケールフィギュアだった。
「前回も今回もお前達の為に依頼を受けた訳ではないので勘違いしない様に」
それだけ言ってフィギュアを受け取りながら、黎那は胸中で感慨深げに呟いた。
(しかし、こいつらが馬鹿を注意するとは。いや、人は変わるものだね)
●エピローグ
二日間徹夜、食料は用意したものの時間がなくて結局飲まず食わず、不眠不休の果てに仕上げたキットの数々は撃退士たちによって無事、孤児院に届けられた。
キットと引き換えに撃退士たちが手に入れたものは孤児たちの弾けるような笑顔と喜びの声。
そして、後日、孤児たち全員からの手紙、イラストや折り紙にパッチワーク、中には冬に備えてミトン型の手袋を編んだ子もいたようで、そうした諸々のお礼の品々が久遠ヶ原学園に届いたという。