●脅威の二刀流! シミターサーバント再び!
「これだけの戦力が投入されてくるなんて……いやな雲行きだね……面倒な事にならなければいいけど――」
「うん……確かにこれだけの戦力相手じゃ勝ち目は薄いけど……でも、人類側にとっては勿論、私にとってもこの戦いはとても大事な一戦――だから、一歩も引きはしないっ!」
同じ武器――大太刀を構えた鳳 覚羅(
ja0562)と八東儀ほのか(
ja0415)は背中合わせに立ち、左右から絶妙のコンビネーションで襲い来る曲刀へと立ち向かい、鍔迫り合いを演じていた。
押され気味の覚羅を援護するべく、グラルス・ガリアクルーズ(
ja0505)と櫟 諏訪(
ja1215)が魔法と銃撃を放つ。
脚甲による蹴りを繰り出す桐生 直哉(
ja3043)と盾を構えて突撃する夏野 雪(
ja6883)も援護へと加わる。
一方、ほのかの援護をは渋谷 那智(
ja0614)、珠真 冬也(
ja4330)、澄野・絣(
ja1044)のスリーマンセルが担い、三人は魔法と銃弾と弓矢の三位一体射撃を繰り出す。
それだけに留まらず、ミーナ テルミット(
ja4760)とマキナ・ベルヴェルク(
ja0067)のコンビによる近接攻撃を組み合わせた突撃も援護に加わり、三位一体の射撃は遠近双方をカバーするオーレンジの複合同時攻撃へと進化する。
圧倒的な物量と絶妙の連携による撃退士たちの攻撃は二本の曲刀に凄まじいダメージを与えた。だが、傷つきながらも二本の曲刀は撃退士たちの攻撃を斬り払い、その末に猛攻を切り抜けたのだ。
撃退士たちの絶対防衛線を遂に突破した二本の曲刀は次々と撃退士たちを斬り伏せていく。一人、また一人と深手を負って倒れていく撃退士たち。
曲刀と交戦していた面々は勿論、本命であるハープを仕留めるチャンスを伺っていた下妻ユーカリ(
ja0593)、鬼燈 しきみ(
ja3040)、月臣 朔羅(
ja0820)の鬼道忍軍トリオも曲刀一対の餌食となる。
二本という編成になった曲刀の強さはまさに達人の介する二刀流のごとく。戦力の増強は単純な二倍に非ず、二刀の力が重なり合うことで生まれる相乗効果によって、二倍を遥かに通り越し、もはや二乗の域に達しているのだ。
その圧倒的な強さを前に、撃退士たちは完膚なきまでに叩きのめされ、心が折れるほどの絶望の底へと叩き落とされた。
だが、撃退士たちはまだ終わっていない――。
それを証明するかのように、愛刀たる大太刀を杖として覚羅が身を起こした。
「我身既鋼……我心既刃……我既天魔屠る剣也……人に仇なす存在であるかぎりボクは君達の存在を許さない。だから……こんなところで、倒れるわけには……いかないッ!」
覚羅の身体は満身創痍。立ち上がれただけでももはや奇跡。ろくに戦うことなどできそうにもない。
それでも凛とした彼の姿は確かに仲間へと勇気を与え、魂に火を灯す。
「絶望的な状況だね……でも――あの絶望より、いくらかマシ……かな」
次に面を上げたのは、覚羅と同じく大太刀を愛刀とする八東儀ほのか(
ja0415)だ。
やはり大太刀を杖とする彼女の姿も、彼女が受け取ったのと同様に仲間への力となっていく。
「左様。確かに私たちの心は折られましたが……まだ砕けてはおりません――!」
今度はマキナ・ベルヴェルクの足裏が、地を踏んだ。
彼女は黒焔の衣のごとしアウルを四肢に纏い、隙間なく包帯が巻かれた右腕を強く握りしめた。
「E新聞としては……一面は吉報じゃない……とねっ!」
マキナの姿に勇気づけられ、奮い立ったのは下妻ユーカリ(
ja0593)。
「そうね……心は折れても……砕けてはいない。なら、まだ私たちは……戦える……わ!」
背を伸ばし、眼前の床に突き立っていた大鎌を引き抜いて蓮華は敵をしっかりと見据える。
彼女の言葉は雪の目にも光を取り戻したようだ。
愛用の盾を掴み、彼女もまた、仲間に続く。
「たとえ折れようとも……私たちは、まだ砕けていないぞ!」
そして、雪の姿は次なる相手――ミーナの心にも火を灯していく。
「ミーナたちの魂……ソウ簡単に砕かれはしないゾ……!」
ミーナに負けじと、冬也もニヤリと笑みを浮かべて立ち上がる。
「生粋の戦闘員で戦闘狂の俺には……刺激が必要だよなー。つーか……コレぐらいが丁度イイぜ。ま、なんにせよ――俺の敵は潰すだけだ」
もう一度ニヤリと不敵に笑う彼に続き、直哉も荒く息をしながら、満身創痍の身体を叱咤して戦意を見せた。
「まったく……元気な奴だ。それと……潰すというのには同感だ。こんな危なっかしい敵を野放しに出来ないし、早く倒さないとな……!」
些かも衰えない眼光で敵を射抜きながら、傍らに倒れている鬼燈 しきみ(
ja3040)へと手を差し伸べる。
しきみはすぐにその手を取ると、ゆっくりと華奢な体を持ち上げる。
「うぇーい……こっからが第二ラウンド……勝負は、まだ……これから……!」
その様は、月臣 朔羅(
ja0820)に戦う勇気を再び与えた。
「私たちが……砕けるより、早く……災いは破壊させてもらうわ。確実に、ね!」
「あの子守唄を歌ってる子……天使サンの系統だけあって随分綺麗なことで。でもなぁ……キレイすぎてゾッとする――だから、悪いけど……ブッ壊させて……もらうよ!」
那智とグラルスはと互いに肩を貸し合うようにして、ともにその身を起こす。
「ああ……ここで……倒れるわけには……いかない……からね!」
互いに支え合って立つ二人の姿に諏訪も負けてはいない。傍らに倒れる絣を助け起こし、ともにすっくと立った。
「敵を倒して……皆さんを起こして……あげないと……ですね……多くの人が……待っているん……ですから!」
力尽きる寸前だとは到底思えないほどの覇気を纏う諏訪。
彼に支えられながら絣も仲間を、そして他ならぬ自分自身を鼓舞するべく、唇に言葉を登らせる。
「大丈夫ですよ……私たち……撃退士は……既に一度、あの曲刀に勝っています……決して、越えられない壁なんかじゃ……ありません!」
こうして、十五人の撃退士たちは再び立ち上がった。戦いはもう一度、始まったのだ――!
●超えよ絶望! 砕け曲刀! 血戦! 第二ラウンド!
「これで止めて見せる。灰簾(かいれん)よ弾けろ、タンザナイト・ダスト!」
アウルの最後の一滴までも絞り出して魔力に変え、それを更に冷気へと変えて、グラルスが青紫に輝く多数のひし形の氷の結晶を、石つぶてのように左の曲刀へとぶつける。
ことごとくが切り払われる氷のつぶて。だが、着実に曲刀の回転力は削がれている。
「隙あり、ですよー!」
更に諏訪が氷のつぶての対処に追われている曲刀へと愛銃を向け、力の限りトリガーを引き絞り続けた。
氷だけでなく銃弾までもが弾幕に混ざり合う。しかも、この弾幕はただ両者が混ざり合っただけに非ず。
なんと、切り払ったはずの銃弾が再び曲刀の刀身や柄に炸裂したのだ。
それもそのはず、氷のつぶてが密集する中に向けて放たれた銃弾の数々は、それらすべてが氷のつぶてに衝突し、跳弾となって曲刀の予測不能な角度から襲い掛かったのだから。
一度切り払われた銃弾も、斬り飛ばされた先でつぶてに激突し、跳ね返って再び曲刀を襲う。
「例え目が無くとも私を見ろ! たとえ盾は斬られようとも……私の盾と、貴様の剣。どちらが先に砕けるか、勝負!」
氷のつぶてと銃弾の嵐を曲刀がやっと切り抜けた先、今度は雪が盾を構えて立ちふさがる。
正面からぶつかり、再び雪の盾を難なく両断する曲刀。しかし、先ほどとは違い、雪はそれでも立ち止まらない!
雪が今手にしているのは、更に半分に斬られて持ち手の先に盾の一部が申し訳程度についているだけの鉄塊。
それはもはや盾とは呼べぬ代物。それでも、雪は一歩たりとも退きはせず、正面から全力をもって曲刀へとぶつかった。
すべてのアウルを込めた体当たりは、あの曲刀にも斬れず、曲刀を派手に吹っ飛ばす。
「私は盾! 全てを征する、盾! 私の盾はこの盾だけではない! 私の誇り! 私の命! ――他ならぬ私自身こそが盾だ!」
吹っ飛ばされた曲刀に先回りした蓮華は曲刀を挑発するように動き回り、追いつかれる刹那、素早く床を滑って身をかわした。
蓮華の意図した通り、怒りに任せて彼女を斬ろうと追いかけてきた曲刀は、斬撃が空振りした勢い余ってその直線状にいた彫像を斬りつけてしまう。だが、彫像だけあって、曲刀の刃が深くめり込んでも、まだ両断されてはいない。
「あら、本当に斬っちゃったわ――今よ! 桐生ちゃん!」
その合図を受け、直哉は曲刀を脚甲で蹴り込み、更に彫像へとめり込ませる。
「頼んだぜ! 覚羅さん!」
阿吽の呼吸で覚羅は一気に曲刀へと距離を詰める。
「……魔法ですら斬り払うか……まともに受けたら洒落にならないね……でも、その刃だって折れないとは限らない――!」
身体に残った力のすべてをかき集め、覚羅が大太刀を曲刀へと振り下ろす。
さしもの魔具とはいえども曲刀の刃との激突には耐えられず、覚羅の愛刀は半ばからへし折れる。
それでも、覚羅の心までは折れてはいない。
「たとえ折れても……それで勝負は終わりじゃない……! 最後のひとかけらが砕け散るまで……何度だって立ち上がれるんだ!」
まるで覚羅の言葉を示すかのように次の瞬間、済んだ音とともに曲刀は根本からへし折れ、急速に錆びつき、柄ともども灰のようになって崩れ落ちた。
一方、残る面々は右の曲刀と戦っていた。
冬也がリボルバーで狙いをつけ、絣が弓を引き、那智が魔力を練り上げる――。
だが、彼等三人の攻撃よりも一瞬早く、曲刀が彼等三人へと肉薄する。
「ミーナ、京都の人たちガッチリ守るようニ、一生懸命ガンバル次第ダゾ! 正直シミター怖いケドナ!」
勇気で恐怖を払い、ミーナは曲刀の峰にあたる部分を狙って盾を突き出し、見事に曲刀を弾き飛ばし、三人を守る。
「助かったぜ! ミーナ!」
思わず口笛を吹きながら冬也は上機嫌でリボルバーの撃鉄を起こすと、間髪入れずにトリガーを引き絞りまくる。
たちまち曲刀へと襲い掛かる無数の銃弾。そして、刹那の間も置かずに矢までもが混じり出す。
「既に倒した相手なら、倒せないことはないはずですよー」
冬也に負けじと弓を引き、矢を放ち続ける絣に続くようにして、那智も練り上げた魔力を一斉に放出した。
ただでさえ激しい矢弾の嵐に閃光の一撃までもが加わり、こちらの弾幕もより一層激しさを増していく。
銃弾を切り払えば矢を受け、矢を切り払えば銃弾を受ける。
それらを諸共にを切り払ったとしても、今度は閃光の一撃を受ける。
矢弾を切り払った隙を突かれるように閃光の一撃の炸裂を許した曲刀に、那智はもうひと押しとばかり更なる閃光の一撃を撃ち込んでいく。
「もう一発……ぶち込むっ!」
クリーンヒットする閃光の一撃。だがそれでも曲刀は弾幕を強引に正面から切り開き、遂に撃退士たちへと近距離まで迫った。
まるで嬉々として撃退士たちに斬りかかろうとする曲刀。そうはさせまいと、ほのかが敵正面へと歩み出る。
刀身の鍔元に皮紐を巻いて握れるようにし、『中巻野太刀』の形に細工した愛刀を構え、曲刀に正対するほのか。
全力で突っ込んでくる曲刀に、ほのかは正面から立ち向かうように愛刀で斬りかかる。
――一合目。軍配は曲刀に上がった。ほのかの愛刀は切っ先を切り落とされ、まるで鉈のような形となる。
ほのかは決して怯まず、間髪入れずにもう一度愛刀を振り下ろした。
――二合目。軍配はまたも曲刀に上がる。ほのかの大太刀は半ばからへし折れ、もはや脇差のような長さとなる。
それでもほのかを止まらず、三度愛刀を振り下ろす。
――三合目。軍配はなおも曲刀に上がった。遂にほのかの愛刀は根本からへし折られ、柄だけの存在となる。
しかしながら、ほのかはまだ屈せず、曲刀から一瞬たりとも目を離さずに正対し続ける。
そんなほのかを嘲笑うように彼女へと迫る曲刀。今まさに曲刀によってほのかが完全に断ち切られようという、まさにその瞬間――。
「これを! ほのかさん!」
絣の声とともにほのかの背後から何かが飛んでくる。
それは、絣がヒヒイロカネから取り出した大太刀――他ならぬ、彼女の愛刀だった。
「私の刃、ほのかさんに託します!」
絶妙のタイミングで絣の愛刀を受け取ったほのかは、眼前まで迫った曲刀が自らを断ち切るよりも一瞬早く、刃を振り下ろす。
ぶつかり合う刃と刃。
四合目。そして、軍配はほのかの方に上がる。
曲刀は根本からへし折れ、柄は床へと転がり、錆びて朽ち果てていく。
ことごとく破られた三合の斬撃。だが、それらは決して無駄ではなかった。
何度も同じ場所に打ち込み続け、更にはとどめとなる四合目の斬撃をカウンター気味に叩き込まれたことで、さしもの曲刀も耐えきれずれにへし折れたのだ。
「何度へし折られても……その度に私たちは何度だってそれを乗り越える! それが……私たち撃退士だから――それが私たち……人間だからっ!」
とどめの一太刀を振り抜き、ほのかは絶叫する。
折れて落ちた曲刀の刃の方は柄とは違い、またも浮遊を始めるが、その動きにもはや精彩はない。
柄を失い、バランスが取れないのか、ふわふわと漂うように力なく蛇行しながら飛ぶ曲刀。それでも、曲刀は執念でマキナへと襲い掛かり、彼女の腹部へと突き刺さった。
半死半生のマキナには致命的な一撃だ。にも関わらず、彼女はしっかりと二本の足で踏みとどまったばかりか、刺さった刃を抜かないことで、そのまま自らの身体で敵をしっかりと押さえ込むと、黒焔を右腕に収束する。
「天界の眷属め……人間を――舐めるな……!」
そして、マキナは全身全霊のアウルを込めた右の拳で曲刀を殴りつけ、最後のひとかけらに至るまで粉々に砕いたのだった。
「下妻さん、鬼燈さん。こちらは何時でもOKよ」
「うぇーいボクも突撃ーいえーい!」
「鬼道忍軍三人による三位一体のトライアングルアタックを今こそ見せるときっ!」
朔羅、しきみ、ユーカリの三人は阿吽の呼吸で床を蹴り、彫像へと一足飛びに肉薄する。
もう彼女たち三人を阻む敵はいない。
朔羅の苦無が左胸を、しきみのダガーが右胸を、そしてユーカリの苦無が眉間へと全くの同時に突き立つ。
そして、次の瞬間――彫像はまるで舞い散るダイヤモンドダストのごとく木端微塵に砕け散った。
「敵の増援が来るまでに間に合ったね。これにて任務、完了! だね♪」
●
心折る絶望すら乗り越えて、再起の果てに遂に掴みとった勝利。
満身創痍の撃退士たちを癒すように、春の朝日が窓ガラスから差し込んでフロアを眩しく照らすのだった。