●一日目 午前
獅子堂虎鉄(
ja1375)は合宿所に集まった仲間に目を向け、その後に佑介へと目を向けると、張りのある声を上げる。
「よろしく頼む、新田殿! おいらは獅子堂虎てちゅっ……虎鉄だぞ」
自分の名前を噛んで赤面する虎鉄。だが彼は涙目で必死に平静を装うのだった。
血筋によって生まれつきアウル制御が出来ていた虎鉄は、鍛錬を積み重ねてアウルの出力を増大させていった経験から熱血指導をしようと決めていた。
虎鉄に続き、今度は千葉 真一(
ja0070)が佑介に名乗る。
「高等部1年の千葉真一だ。宜しく頼むぜ! 事情は聞いてる。ま、焦らず慌てず確実に行こう。真面目で努力家でも、取り組み方が上手く行かなけりゃ泥沼にはまる事もあるさ。ここは仕切り直して心機一転取り組もう。及ばずながら俺も手を貸すぜ」
真一が言い終えるのを待って、御堂・玲獅(
ja0388)も口を開いた。
「大学部一年の御堂玲獅です。どうぞよろしくお願いしますね」
次に名乗ったのは神楽坂 紫苑(
ja0526)だ。
「神楽坂 紫苑(
ja0526)だ。とりあえず焦り過ぎるのはやめとけよ? 真面目だから一生懸命なのは分かるが、自分のぺースでやれよ。できなくても、誰も責めやしねえから」
横向きに順番が進んでいるのを察したリョウ(
ja0563)は、自分の番が回ってきたのに気づいて口を開く。
「リョウだ。少年。君は力を得て何を求める? 倒したいのか? 護りたいのか? 強く在りたいだけか? 存分に悩むといい。少年自身の答えを」
リョウからの問いかけに佑介は黙り込むとともに深く考え込んでしまう。それを察し、ヴィーヴィル V アイゼンブルク(
ja1097)が今度は口を開く。
「ヴィーヴィル V アイゼンブルクです。コンプレックス、誰にでもありますよね。でも、それを解き放ったとき、大きな前進が期待できるはずですよ」
楽しい合宿で負の方向に向かい勝ちな心を解きほぐせれば――佑介を思いやる彼女は内心でそう考えていた。
一方、次に自己紹介を始めたのは楠 侑紗(
ja3231)だ。
「アイゼンブルクさんと同じ中等部の楠 侑紗(
ja3231)です。新田さんのお手伝いをしたいと思います――私で、お役に立てるのならば」
続いて東間 誠司(
ja3877)が佑介へと話しかける。
「高等部二年の東間 誠司だ。よろしくな」
誠司が自己紹介を終えて少しした後、望月 忍(
ja3942)の自己紹介が始まった。
「望月忍よ〜。新田さん、つらい思いをしてるのね〜……。力になってあげたいの〜」
忍がまるで自分の事のように辛そうな顔で、心から心配そうに言い終えると、姫宮 うらら(
ja4932)が口を開いた。
「お初にお目にかかります。姫宮うららです」
うららによる、おしとやかで上品な物腰の自己紹介が終わると、今度は加倉 一臣(
ja5823)による陽気な自己紹介だ。
「あるねぇ、やらかしちまって大後悔。自分を責める気持ちはよくわかる……が、後悔して俯いたままじゃ自分の足下しか見えないんだよな――おっと、申し遅れたな。加倉 一臣(
ja5823)だ。一緒に頑張ろうぜ」
自己紹介が進んでいく中、リゼット・エトワール(
ja6638)は自問自答していた。
(力の制御が上手くいかないと、どんなにしっかりした方でも心に負担がかかりますよね。少しでもその負担を取り除くことが出来るといいのですが……私にそれが出来るのでしょうか……あぁ……っダメですね。相談に乗る方がこんな事では……)
自分を叱咤するように彼女は頬をペチペチと叩く。
(ん、これで大丈夫。きちんと向き合って頑張ります……っ)
全員の自己紹介が終わると、直立不動の姿勢――所謂、『気を付け』の姿勢を取った佑介が気合の入った声を張り上げる。
「押忍ッ! 新田佑介です! 皆さん! 今回はよろしくお願いしますッ!」
こうして、彼等の合宿が始まった。
●一日目 午後
「……努力すんのはいいが、間違った方向むいてんじゃないのか。イメージするのは常に最強の自分、とかどっかの誰かみたいには言わんけど、イメージは大事さ。まーとりあえず、オーラ纏う感じでイメージしてみ?」
難しい顔をして考え込みながら、誠司は問いかけるように言った。
初日は合宿所のレクリエーションルームに集まり、皆で佑介に話を聞きながら、アウル制御のイメージトレーニングをすることになっていたのだ。
「俺の見立てでは間違いなく素質がある。問題点はアウルの認識の甘さと制御力不足の可能性が高いな。現段階ではアウルの制御が出来ないのならばイメージしろ。想い描くのは常に理想の自分だ」
リョウは佑介に座禅を組ませて内面に没入させ、自身の中のアウルを感じとれるか試すつもりだった。
「自分の中のアウルのイメージが曖昧な様であれば『カタチ』を与えてみろ。色、形、音、言葉、他の何でも良いので一つづつ思い浮かべてみるんだ」
それに従って佑介は努力するも、ほんの少し身体が光るだけだ。
「アウルは、考えるのではなく、感じるのです」
リョウの指示に従って、侑紗がレジスト・ポイズンを佑介に使用する。
「……どんな感じ、でしょうか?」
「なんか、あったかい感じが、します……」
アウルの力を感じ取ることはできたものの、佑介はまだ制御には至らないようだ。
ただでさえ肩身が狭そうな佑介が、更に申し訳なさそうな顔をしたのを見かねて、リゼットが彼に声をかける。
「佑介さんは力に目覚めた時、どんな感じがしましたか? 私はとても怖い夢を見て……その夢から逃れるように必死に手を伸ばしていたら何かを掴んだ……という感覚でしたが……佑介さんはどうでしたか?」
すると佑介は申し訳なさそうな顔から一転して難しい顔になる。
どうやら、力に目覚めた時のことを思い出しているようだ。
「押忍……俺は、自分の住んでいた町が天魔に襲われた時、無我夢中で力が発現したんです。だから、未だに力の出し方がわからなくて……」
すぐ近くで聞いていた一臣は、佑介の肩に手を置きながら言った。
「アウルの制御法を習得してもらうことが第一。欲を言えば人を守ることが出来る力に自信を持ってくれりゃいい」
それに同調するように真一も佑介に声をかける。
「信じろ。この力は人々を護るものだ。それと、撃退士になってやりたい事って何だ?」
そう問いかけ、真一は佑介の前へと歩み出ると、身体にアウルを纏う。
「俺の場合はヒーローへの憧れと、自分がなりたいと思うヒーロー像が原動力だな。あくまで一例だが、それを踏まえて実演もしてみよう――変身! 天・拳・絶・闘、ゴウライガっ!!」
アウルを纏いながら真一は更に佑介に問いかけた。
「撃退士になった目的や目標。それが君の心にはっきりとあるのなら、その為に自分がどうなりたいのかを強くイメージしろ。そしてアウルの光を纏って変身するんだ!」
真一に向けて頷き、佑介は座禅の姿勢から立ち上がると、真一の光纏を真似るように熟考しながら気合を入れる。
しかし、幾度か身体の表面でアウルと思しき光が明滅するも、まだ佑介は光纏に至らない。
「私の場合ですと、制御のコツは――」
しばらく佑介の様子を見ていたヴィーヴィルは、ゆっくりと口を開くと、訥々と語り始める。
「――大切なお姉さまの側にいたい、助けになりたいという気持ちと思います。新田様の光纏がどんな色で、どんな形をとるのか……想像してみてください。想像してみれば、きっと楽しいと思うのです」
そう言いながら彼女は自分も光纏してみせた。
白い光のなかに僅かな赤い揺らぎが見える現象が彼女の間近で起こる。
「怖がりで、戦いに向いていない私にとって、お姉さまの存在は大きな励ましなのです。だから、少しでもお姉さまの助けになりたい……そう強く願うことが、危地にあっても力を制御する役割を果たしているのだと思います」
おとなしくおしとやかな普段の彼女とは違い、今の彼女はどこか興奮したように熱弁している。
それだけ、『お姉さま』への想いが強いのだろう。
「まあ、色々な形が有るよな。う〜ん、あまり見られるのは、苦手なんだが」
今度は紫苑がアウル――白い光を手の平に集まり球の形にし、やがてそれを黒い光に変え、更に今度はそれを消してみせ、再び出現させるのを自在に繰り返してみせる。
その見本の通りに佑介も意識を集中し、再びアウルと思しき光が微かに現れては消えるを繰り返していると、レクリエーションルームに玲獅が入ってくる。
「夕食の準備ができましたよ。皆さん、お集まりくださいな」
その言葉に促されて各々が食堂に向かっていく中、しょげたように俯いている佑介に玲獅は優しく歩み寄ると、声をかける。
「まだまだ時間はたくさんありますから。焦らず、ゆっくりいきましょうね」
その励ましで、佑介の顔に微かだが笑顔が戻ったのだった。
●一日目 夕方
夕食は豪勢だった。
キャベツの千切りに薄切りウィンナーの炒め物。
ミックススクランブルエッグに洋風ちらし。
すべて、料理を得意とする玲獅の手によるものだ。
「さ、遠慮なさらずどんどん召し上がってくださいね」
そして、彼女にとっては嬉しいことに、一番喜んでくれたのは佑介だった。
「押忍ッ! いただきますッ!」
気合十分に叫ぶや否や、ものの数秒で皿を空にした。
その光景に玲獅も嬉しそうにおかわりを盛ってやる。
「おかわり、よろしいでしょうか」
上品にご飯を平らげ、うららもお椀を差し出す。
健啖家たちの旺盛な食欲を見つめながら微笑みを浮かべ、忍が囁いた。
「今日はみんな疲れたでしょうから〜ご飯を食べたら休んでてね〜。お部屋やお風呂の掃除、流しの片付けなんかは私がやっておくから〜」
●一日目 夜
食事を終え、部屋に戻った佑介のもとを侑紗が訪ねた。
「こんばんは。新田さんと遊びたくて来てしまいました」
そう言う彼女の手にはゲーム機が握られている。
佑介が学園内で『浮いた存在』になっている場合、友達として彼の支えとなれるように尽力する――それが侑紗の目的であり気遣いだ。
「押忍! 俺もゲームは大好きです!」
何か佑介の好きそうな物をと思ってゲーム機を用意した侑紗だが、佑介の好みに合っているのを知ってほっと胸を撫で下ろす。
慣れた手つきでゲーム機を準備すると、侑紗と佑介は格闘ゲームでの対戦を始めた。
コマンドを入力しながら、佑介は侑紗へと語りかける。
「先輩は……どうして俺に……ここまで親切にしてくれるんですか?」
すると侑紗は優しい声で答えた。
「撃退士は一人で戦うものではありませんし、何より私も器用な性格ではないので、他人事には思えないのです」
そして、佑介の瞳を見つめながら、再び優しい声で侑紗は告げる。
「何かあったら、今回みたいに私達を頼って下さい。私はあなたの先生ではないので、上手に教えることはできません――でも、お友達なので、一緒に考えるくらいはできます」
こうして、合宿の夜はふけていく。
●二日目 午前
二日目は虎鉄主導によるメンタルトレーニングだ。
「いくぞ新田殿! そして、姫宮殿にも付き合ってもらうぞ!」
朝から気合十分の虎鉄。そんな彼が選んだのは太極拳――その中でも制定拳と呼ばれる型だ。
全身のアウルの流れに気が付いてもらうという目的にも適っており、また緩慢な動きを継続するため、かなり集中力を要する。
体幹も鍛えられるため、見た目よりもかなりハードである。
「アウルを出そうと考えるんじゃない、全身に漲らせるイメージを抱くんだぞ」
「押忍!」
一方のうららも、その時の気分でアウルが増減する気分屋の彼女にとってアウルを制御し安定させる訓練には興味津々だ。
佑介に負けじと真剣に取り組みつつ、時折彼に助言を与えていた。
「こう、ほかほかする感じが致しませんか?」
光纏してみせながら、うららは佑介になおも語る。
「私の光纏は、感情のままにアウルをぶち撒けるイメージですかね?」
昨日と同じく、先輩たちのアドバイスを受けながら、佑介の修行は続いていく。
「腹式呼吸を心掛けろ! アウルも活力も腹からだ!」
「押忍!」
無我夢中での修行の末、気が付けば夕方を迎えていた頃、遂にその時は訪れた。
「一気に外へ出そうとすると駄目だぞ。細く長く、水道の蛇口を少しずつ緩めるように開放!」
「押忍!」
未だ気力の衰えぬ佑介が威勢の良い返事とともに気合を入れた瞬間、彼の身体からまとまった量のアウルが放出され、更にはそれが彼の身体に定着する。
「で……できた……!」
黄金に輝く光を纏い、金色に光る全身を見下ろしながら佑介が呟くと、その直後に歓声が上がる。
遂に光纏に至った彼を、その場の全員が祝福していた。
●最終日
最終日は修行の最終段階として虎鉄との組手である。
全員が見守る中、浜辺で虎鉄と佑介が相対していた。
「行くぞ、王虎雷纏ッ!」
虎鉄が光纏するのに呼応し、佑介も習いたての光纏をみせる。
「押忍! 師範! お願いします!」
光纏の完了を合図として、双方が正面からぶつかり合う。
いかに光纏を習得したとはいえ、やはり総合的な経験では何倍も勝る虎鉄が終始優勢だ。
一方、佑介は虎鉄の猛攻を耐えきった後、起死回生の一撃を放とうとアウルを全開にする。
だが、またも佑介は制御不能な量のアウルを放出し、暴走を引き起こしかけてしまう。
(……やっぱり俺は……ダメ……なのかよ……)
全てのアウルを放出し、意識を失う寸前、佑介の耳に届いたのは仲間たちからの声援だった。
「頑張れ! 諦めるにはまだ早いぜ!」
「何が起こっても大丈夫です。だから、最後の瞬間まで諦めないで」
「何度だって皆、相談乗ると思うから、頼りにしていいぜ。だから頑張れよ」
「あの時の答えを聞かせてもらおう、新田祐介――何を求める? 答えが出ているなら、一歩を踏み出せ」
「綺麗な光纏ができたんです。きっと上手く使いこなせると思いますよ」
「お友達として応援しています――だから、自分に負けないで」
「お前の努力はもう間違った方向むいてなんかいない」
「新田さんなら大丈夫〜信じてるのね〜」
「今までの特訓を思い出して下さい……!」
「例の事件で周囲に煙たがられてるという話だけど……心配した友人だっている。俺だってそうだ。お前さんが戻ってくるのを待ってる奴のため、これから救えるかもしれない誰かのため、いっちょ、やったろうじゃん?」
「力の引き出し方は様々です。だから自信を持ってください
その声に助けられ、佑介の身体から溢れた金色の光が一カ所に集まって固まると、それは次第に鬼神の形となる。
そして、佑介の拳打に合わせて彼が背負う鬼神も拳打を放つ。
その一撃は水面に巨大な水柱を立て飛沫が舞い、それによって辺りには虹がかかった。
それを見て虎鉄は嬉しそうに笑う。
遂に佑介はアウルの制御をマスターしたのだ。
「うむ、将来有望だな! かははは!」