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マスター:上村 夏樹
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/01/19


みんなの思い出



オープニング

●とあるトンネル

「なぁ、知ってるか? この近くって、出るらしいぜ……」
 赤い車を運転する若い男は、神妙な面持ちで、助手席に座る同年代の女に話しかけた。
「な、何が出るの?」
 女がその先を促す。男の話は怪談話を想起させるような語り出しだったため、正直なところ、女は怖がっていた。
 しかし、女の心に芽生えた恐怖を好奇心が凌駕したため、続きを聴かずにはいられなかった。
「漆黒の化物だよ。闇にまぎれて、人を襲うらしい」
 男の話を聴き、女は思わず喉を鳴らす。男は真剣な表情を崩さず、話を続けた。
「その化物の上半身は、褐色の肌をした裸体の男なんだそうだ。ただし――黒い山羊の耳と、小さな角を生やしているんだとか。屈強な体をしている怪力の持ち主で、人を喰らう悪趣味な化物さ」
「な、なにそれ……」
 女は自分の手にうっすらと汗が滲んでいることに気がついた。背筋が凍るような寒気が女を襲う。
 トンネルを走る車のエンジン音が、やけに大きく聞こえて、女の耳に纏わりつく。
「それだけでも十分に化物なんだが――そいつの下半身は黒山羊そっくりなんだ。黒く、しなやかな脚は、闇に隠れて視認できない……だから、漆黒の化物なんて呼ばれてるのさ」
「ちょ、そんな危険な化物が、この付近に出没するっていうの?」
 震える声で、女は尋ねる。その瞳は恐怖に染まり、女の顔は、いつの間にか土気色になっていた。
「ああ。なんでもその化物は、若い女の生き血が好物らしい。そうだな……お前くらいの年頃の女が、よく被害に遭っているそうだ。ちょうど、今日みたいな満天の夜空が見えるような――うわぁぁぁぁぁぁ!」
「きゃああああぁぁぁ!」
 男の悲鳴に被さるように、耳をつんざく女の絶叫が車内に反響する。女は目を瞑り、耳をふさいだ。
「…………え?」
 車は何事もなかったかのように、トンネルを走る。
 女は呆けるしかなかった。化物が現われて無傷でいられると考えるほど、女は楽観的ではなかった。
 いったい何が起きたのか、どうして助かったのか、女はまったく理解できなかった。
「化物……え? なに? ちょっ、ええっ?」
 状況が掴めず、困ったように男の顔を見る。何故か半笑いだった。
「ぷくく……はははははっ! 嘘だよ、嘘。お前、怖がりすぎだろ。あー、超面白かったわ」
「な――からかったのね!」
 顔を真っ赤にして、女は怒る。怒りによって顔が熱くなったのも多少はあるが、下らない話に耳を貸して、怖がっていた自分を恥ずかしく思い、顔が赤くなったのだ。
「はははっ。悪かったよ、もう怖がらせたりしないから、機嫌直せよ。な?」
「もう、知らない!」
 ぷいっとそっぽを向く女。そのまま窓の外に視線を移す。
 女の視界には、一歩でも足を踏み込めば吸い込まれてしまいそうな闇が広がる。トンネルを抜けたのだ。
 道路の両側には、鬱蒼とした林が広がっている。
 女の脳裏には漆黒の化物がちらつき、少しだけ恐怖を感じた。
 目の前の信号が赤に変わる。車は徐々に減速し、やがて動きを止めた。
 
 ――ドンッ!

 重たい衝撃が、車のボンネットに叩きこまれた。
 あまりに突然だったため、二人は絶句する。
 慌てて前方を確認すると――化物がボンネットに拳をぶち込んでいた。ボンネットは、ものの見事にひしゃげている。
 女は形の歪んだボンネットから視線を外し、怯えた瞳で化物を見つめる。
 褐色の肌。
 小さな角。
 黒山羊を想起させる下半身。
 漆黒の化物は闇に溶け込むようにして身を潜め、赤い車を急襲したのだ。
「ウゴォォォォォォ!」
 化物の裂けた口から溢れた、この世のものとは思えないけたたましい咆哮が、夜空の下で不気味に響く。
「うわぁぁぁぁぁ!」
「きゃあああああ!」
 男女の悲鳴が共鳴したかのように混ざり合ったとき、化物はボンネットの上に乗ってきた。
「じょ、冗談じゃねえぞ!」
 男がアクセルを力強く踏み込むと、車は急発進する。化物も咄嗟には反応できずに、ボンネットから振り落とされた。
「た、助かった……」
 男は安堵のため息を漏らす。信号を無視したが、幸いにも事故に遭うこともなかった。
 しかし、絶望的な状況は決して好転したわけではなかった。
「――は? ちょ、何で速度が落ちてるんだよ!」
 時速を示すメーターの針が、0に向かって動いている。
「まさか……さっきくらった打撃で、車がイっちまったのか?」
 焦燥感に襲われた男は、アクセルを何度も踏み込む。だが、アクセルを荒々しく踏み込む音だけが車内に虚しく響き、車が加速することは二度となかった。
「ねえっ! 化物がこっちに来るよぉ!」
 怯えた女の視線の先には、こちらに向かって走ってきている化物がいる。
「くそっ! 車は捨てて、林に逃げ込むぞ! 林の中は視界が悪いし、あの化物とは100M以上は確実に離れているから、隠れる時間もあるはずだ!」
「う、うん」
 二人は急いで車から降りた。
「よし、行くぞ!」
 そう言って、男は女の白い手を握りしめ、闇の中に消えていった。


●撃退士への依頼

「依頼です」
 斡旋所の女性職員は、集まった撃退士達の前で口を開いた。
「最近、とあるトンネル付近に出没するディアボロの被害が多発しています。上半身は小さな角と黒山羊の耳を持ち、褐色の肌をした人の姿で、下半身はおよそ黒山羊のような姿です」
 そこで一呼吸を置き、彼女は続けた。
「依頼人の話によると、依頼人が車でトンネル付近を走行していたところ、ディアボロに襲われる男女を目撃したとのことです。もちろん、依頼は、そのディアボロと遭遇した若い男女を救出することです。男女は赤い車に乗っていましたが、どうやら車から降りて逃げた模様です」
 女性はそこまで言って、資料に視線を落とす。
「えっと、トンネル付近は林に囲まれていて、トンネル以外は視界が悪いです。しかも、今は夜。暗闇での捜索となります。ディアボロの特徴はさっき申し上げた通りですが、おそらく闇にまぎれて襲ってくるでしょう」
 夜の捜索と聞いて、撃退士達は顔を渋らせた。
 一刻も早く救出しなければならないため、朝まで待っている余裕がない。必然的に暗がりでの捜索になる。
「ディアボロの数ですが……確認されているのは三体です。数は多くないと思いますが、闇にまぎれているディアボロもまだいるかもしれません。ただし、最優先事項は、あくまでも男女の救出ですので、必ずしもディアボロを撃退する必要はありません」
 女性が一枚の資料を手に取る。
「救出対象の特徴をまとめました」
 女性は撃退士達に資料を見せた。
 救出対象の男は、金髪で眼鏡をかけた若者。女も若く、黒髪ストレートで、身長が178センチもある特徴的な女性だ。
「以上が依頼内容となります。一刻も早く現場へ急行してください」
 その言葉が引き金となり、撃退士達は弾かれたように走り出した。


リプレイ本文

「これか。救助対象が乗ってたっちゅう赤い車は」
 赤いバンダナがトレードマークの古島 忠人(ja0071)は、神妙な面持ちで呟いた。
「お二人はどこに行ったんでしょうか……」
 青い瞳で車を見つめる紅葉 公(ja2931)は、優しい声で二人の身を案じる。
 そう――救助対象は、今も命の危険にさらされているのだ。
 しかし、一刻を争う現状でも、クレール・ボージェ(jb2756)は冷静だった。蠱惑的な微笑を浮かべて、
「林側とトンネル側、どちらに逃げたかわからないわね。二つの班を作るというのはどうかしら? 林側を捜索する班と、トンネル側を捜索する班に分かれましょう」
「賛成ですぅ!」
 クレールの声に元気よく返事をしたのは、三善 千種(jb0872)だ。彼女の吸い込まれるように大きな瞳は、どこか希望の象徴のようにも見える。
「うむうむ、私も異議なしだよ。別行動だし、連絡はこまめに取り合うようにしようか」
 アリッサ・ホリデイ(jb3662)は、千種の隣で大きく首を縦に振ると、おどけた口調で賛同し、新たな提案をする。
「よし、それで行こう! えっと……班決めどうする?」
 闇夜の下、一 晴(jb3195)の明るい声が響いた。黄金に輝く彼女の細い髪が、夜風に吹かれてなびいている。
「そうですね……やはり戦力のバランス重視でしょうか?」
「せやな、紅葉の言うとおりや。林側を捜索するA班は千種、クレールさん、アリッサ。トンネル側を捜索するB班はワイ、紅葉、一でどうや?」
「私は結構よ。みんなもそれでいいかしら?」
 忠人の意見を肯定したクレールが、残りの四人の顔を見る。皆一様に頷いた。
「よしっ! じゃあ、作戦開始ですぅ!」
 千種の掛け声とともに、撃退士達は闇の中に消えていった。


 A班――千種、クレール、アリッサの三人は、鬱蒼と生い茂る林を捜索中だ。一行は車の進行方向に歩いている。
 ナイトビジョンを装備している千種が先導し、二人は後についていく。千種は現地に着く前に、地図アプリで地理を確認済みだったので、林を楽々進んでいる。
「いらっしゃったら返事くださいー、救助に来ましたよぉ!」
 千種は弾むような明るい声で、周囲に自分の存在を知らせながら歩く。
「おーい、いたら返事しておくれー」
 こちらはアリッサの声。だが返事はなく、彼女の声は誰もいない木々の隙間をすり抜けていった。
 捜索開始から数分後、アリッサが何かを閃いた。
「空から探せないのかねぇ。駄目もとでやってみようか……よっ」
 悪魔であるアリッサの背中から、不可視化されていた漆黒の翼が姿を現す。大きく翼をはばたかせ、天高く飛んだ。しかし、周囲を見渡したアリッサは、すぐに地上に降り立った。
「どう? 何か見えたかしら」
「駄目だよ、クレール。道路は街灯で照らされているから見えたけど、林の中は見えないや……」
 そう言って、アリッサは黙ってしまった。
「ほら、落ち込んでるヒマなんてないですよ! こうしてる間にも……どうしたの、アリッサ?」
 千種はアリッサを奮い立たせようと言葉をかけたが、当人は落ち込んでなどいなかった。
「み、見つけた!」
 アリッサの指さした先には、救助対象である二人がいた。体勢を低くして、木の下に身を潜めている。
 A班の三人は嬉々として二人に駆けよった。怯える二人を見て、
「アイドルが来たから、もう大丈夫ですっ☆」
 千種は満面の笑みで二人に接する。彼女の笑顔を見て、恐怖に塗り潰された二人の表情は、すぐに破顔した。
 座っていた二人は立ち上がる。どうやら怪我はないらしい。
「それじゃあ、私とアリッサで二人をトンネルの方に運ぶわね」
 クレールは男の後ろに立った。手を伸ばし、男の腰をがっしりと抱く。
「安心なさい、こう見えて撃退士よ。じっとしててね」
 そう言ったクレールの背中に、先ほどアリッサが見せたものと酷似している翼が顕現した。アリッサのそれよりも一回り大きい。
 アリッサも翼を出して、女性の体を抱きしめる。
「千種ー、B班に救助に成功したって連絡しておいてね」
「よろしく頼むわね」
 二人はそう言い残して、トンネルに向かって飛び立った。
「さーて、じゃあ連絡し――」
 言いかけた千種の動きが止まる。
 背後から、草をかき分けて進む足音が聞こえてきたからだ。背中に感じるこの殺気は、ディアボロ特有のものだと千種は経験から悟る。
 素早く後ろを振り返ったとき、千種は驚愕した。
「え――」


 今夜は月が出ていない。世界中の闇を集めて、思いっきり零したような曇天の空を飛ぶクレールとアリッサ。二人はそれぞれ男と女を連れて、ゆっくりと飛行する。
「ちょっとあんた。鼻の下伸ばしてんじゃないわよ」
 アリッサに連れられた女が男のことを、嫉妬を込めた目で睨みつける。
「いや、これはだな……」
 男は慌てて自己弁護しようとするが、彼の言葉を遮るように、
「あら、喧嘩かしら? ま、私達には関係ないけど――ねぇ、お嬢さん。大丈夫、もっと良い男なんてすぐに見つかるわよ」
 クレールは「うふふ」と扇情的に微笑み、女を見つめた。同性であるはずの女だが、照れているのか俯いて黙ってしまった。
「……ねぇ、クレール。あれ見てよ」
 アリッサの真剣な声が、その場に緊張感を漂わせた。
 クレールはアリッサの視線の先に顔を向ける。
「あら……うふふ、楽しくなってきたわね」
 

 一方、B班はトンネルに向かいながら捜索を続けている。どうやら、千種から連絡は届いていないらしい。
「トンネルの中に避難してくれとったらええんやけどな。怪我してないことを願うわ」
 忠人はメンバーを先導するように真ん中を歩く。カンテラタイプのライトがゆらゆらと揺れている。忠人はディアボロがいた痕跡を注意深く探しつつ、道路を進む。
「忠人さんはお優しいんですね」
 紅葉は笑みを零し、おっとりした口調で言った。会話を楽しんでいるように見えるが、彼女は常に周囲の警戒を怠ったりはしない。
「なはは、女の子が大怪我でもしたら一大事やろ?」
 照れ隠しのためか、誤魔化すみたいにおちゃらける忠人。ほんのり頬が紅潮している。
「あはっ、忠人くん照れてるのぉ?」
 ニヤニヤしながら、晴は忠人のことをからかった。彼女が着ている水玉模様のワンピースが、夜風に吹かれて散りゆく花弁のようにふわりと舞った。
「おいおい、勘弁して……なぁ、何か聞こえへん?」
「えっと……女性の声です!」
 忠人の疑問に、紅葉が答える。
「助けに行かなきゃ!」
「待ってくれー」
 今にも走り出しそうな晴を呼び止めたのは、飛行を止めて道路を走るアリッサだった。
「あっ、アリッサ! あれ? その女の子は救助対象の! それにクレールさんと男の子まで……じゃあ、さっきの悲鳴は誰?」
 晴は眉をひそめて、首を傾げた。
「説明は後よ。とりあえず、あのトンネルまで急ぎましょう!」
 クレールはそう言い残し、100メートルほど先に見えるトンネルを目指して走り出す。アリッサも彼女に続いた。
「ど、どういうことでしょうか――ああっ!」
 ナイトビジョンを装着しているため、周囲を見渡せる紅葉が突然大声をあげた。
「な、なんや、驚かすなや……ってあれは!」
 忠人が見たのは道路を疾駆する千種。
 問題なのは――彼女を追いかける化物が三体もいるということ。
「あはははっ! アイドルだけど、さすがに三体は無理ぃ!」
 千種は非常に危険な状況に立たされているはずなのだが、こんなときでも明るく前向きだった。
「明るいトンネルでヤツらを迎え撃つってことかぁ。みんな、トンネルに行こう!」
 晴の言葉を聞いて、A班は弾けたように走り出し、トンネルに向かう。千種も思いっきり大地を蹴り、全速力であとを追った。


 千種を除いた五人は、すでにトンネル内で迎撃の準備をしていた。
「救助されたお二人の護衛は、晴さんとクレールさんにお任せしますね」
 紅葉の言葉に晴とクレールは力強く頷く。二人の表情は自信に満ちていて、安心して攻撃に専念できると残りの三人に思わせた。
「来た!」
 晴の表情が険しくなる。千種とディアボロがやってきたのだ。
 ディアボロは情報どおり、小さな角が頭部に生えており、肌の色は褐色だった。黒山羊のような下半身を持ち、上半身は筋肉質で、ディアボロの放つ打撃が強力であることは容易に想像できる。
「みんな、行くで!」
 千種と入れ替わるようにして、忠人が勢いよく前に出る――が、三体のディアボロは忠人をすり抜けて、救助対象に接近する。
「あかん! 狙いはあの男女や! 紅葉!」
「はい!」
 忠人の声に反応した紅葉の周りに、淡い光が宿る。
「異界の呼び手!」
 紅葉が叫ぶと、ディアボロの前に異界の者と思しきおびただしい数の手が出現した。
「ウゴォォォ!」
 一体のディアボロに、その手が絡みつく。ディアボロは強引に動こうとするが、無数の手によって束縛されており、身動きが取れない状況だった。
「残りの二体はそっちに向かいました!」
 紅葉の双眸が捉えた先には、絶望の色を浮かべる男女がいた。
 ディアボロは大地を揺らし、男女がいる場所まで大股で向かう。
 晴は怯える男女に、
「大丈夫だよ、あたし達が来たんだもん。絶対無事に帰してみせるから」
 そう言って、晴は一体のディアボロの前に立ちはだかる。
「ガァァ!」
 ディアブロが勢いに任せて、晴に殴りかかってきた。漆黒の大きな拳が、晴を襲う。
「あたし、怒ったからね!」
 怒気を孕んだ言葉とは裏腹に、晴は涼しい顔で大剣を振り回す。まるで新体操のバトンを扱うように軽々しく、そして鮮やかに振るった。
 華麗に踊る大剣は、ディアボロの腕に食い込んだ。晴はそのまま左に受け流す。ディアボロは勢いを殺すことができず、トンネルの壁に激突した。
「もう一体いるで!」
 忠人が叫ぶ。
 男女を狙うもう一体のディアボロは、確実に男に近づいていた。
 ――間に合わない!
 誰もがそう思ったとき、
「うふふ、あなたの相手は私よ」
 ディアボロの前に、クレールが飛び出した。
 黒山羊の化物は、構わずクレールに殴りかかる。クレールはシールドでそれを防いだ。衝撃がシールドを伝い、クレールに到達するのだが、
「あら、そんなものなの? もっと激しく来なさいよ。物足りないわ」
 妖艶に嗤うクレール。手が痺れるほどのダメージは受けているはずなのだが、その痛みさえも楽しんでいるように見える。戦いの緊張が、麻薬のように作用しているのかもしれない。
「はあっ!」
 クレールはシールドを解き、愛用のキメリアスハルバートを振り下ろす。ディアボロは横っ跳びをして回避するが、膝を地面について体勢を崩した。
「スキありっ! 八卦石縛風!」
 千種がスキルを発動する。刹那、澱んだ気のオーラが、よろめいたディアボロを包みこんだ。舞い上がる砂塵が、ディアボロを切り刻む。
「はあっ! はあっ!」
 さらに二回連続でスキルを発動する千種。砂塵はやがて嵐に変わり、ディアボロはとうとう石化した。
「グォォォォ!」
 先ほど壁に叩きつけられたディアボロが、けたたましい雄叫びを上げる。その不気味な咆哮は、トンネル内に反響した。
「おうおう、そろそろ私の出番だな」
 待ってましたと言わんばかりに、アリッサが前に出た。
「援護しますよ!」
「助かるよ、紅葉。同族とはいえ、悪さをするヤツはこらしめないとなー。くらえ、炸裂符!」
 アリッサの手の中には、小さな札が生み出された。札はふわりと浮遊したかと思いきや、手の内から飛び出し、ディアボロを急襲する。
 続けて紅葉は召炎霊符を取り出した。直後に発生した燃えさかる火の玉が、ディアブロめがけて、一直線に飛んでいく。
「ウゴォォォォォ!」
 アリッサの札がディアボロに付着し、小爆発を起こした。そこに火の玉が追い打ちをかける。
 二人は攻撃の手を緩めない。
 たとえ小爆発でも、それが積もれば大爆発になる。二人が力を出し切ったときには、ディアボロは薄汚れた肉片と化していた。
「ふっふっふ。このアリッサさんにかかれば、これくらい朝飯前だよ!」
「わりと本気で暴れちゃいましたけどね……」
 アリッサの言葉を受けて、紅葉が苦笑いする。
 
 ――ダンッ! バシィ!

 拳が交わる鈍い音。
 紅葉が音のする方に目を向ける。
「忠人さん!」
 忠人が、異界の呼び手から脱したディアブロと肉弾戦を繰り広げている。
 ディアブロの体当たりを紙一重でかわす忠人。回避行動とともに、忍刀で右脚に一撃を決める。この職人芸とも呼べる一連の流れを、忠人は何度も繰り返していた。
「おらぁ! はよ倒れんかい、このアホ羊!」
 ディアボロは挑発が効いたのか、目を充血させた。
「グガァァァァ!」
 山羊とは到底思えない獣の咆哮が、トンネル内に轟き渡った。激昂したディアボロが、忠人に殴りかかる。
「うおっ!」
 忠人がギリギリでこれを回避する。拳はトンネルの壁に叩きつけられた。大きな音が、忠人の耳をつんざく。
「シャレにならんな……壁、壊れとるやないか」
 忠人は穴の開いたトンネルを見つめて呟いた。
「ガァァァァァ!」
 拳を振り上げるディアボロ。絶体絶命の状況だったが、忠人は余裕の笑みを浮かべている。
「――もうそろそろ効いてくる頃やろ」
 ディアボロは体勢を崩し、片膝を地面についた。右脚ばかり狙っていたのにはわけがあった。ダメージを一か所に蓄積させて、眼前のディアボロのように体勢を崩すのを忠人は待っていたのだ。
「あとは任せたで、晴っ!」
「まっかせなさーい」
 後ろに控えていた晴が、前衛に躍り出る。
「やあっ!」
 晴は体勢を崩したディアボロの真横を駆け抜けると同時に、剣で素早く薙ぎ払った。ディアブロはよろめき、後ずさりする。
 続けて石火――体内でアウルを燃焼させて、加速した体で剣を振るい、ディアボロの胸を切り裂いた。
「ゴガァァァァ!」
 悶えるディアボロに、晴は容赦なく攻撃をしかける。薙ぎ払い、そして石火の一撃。今度は腹部を切りつける。
「成敗っ!」
 晴が最後に放った石火は、ディアボロの胴体を両断した。悪魔の血が、夏の夜空に咲く花火のように、鮮やかに飛び散った。
 晴が剣を収めたとき、
「うふふ、これで一件落着ね」
 クレールの声がきっかけで、撃退士達の表情にようやく安堵の色が浮かぶ。
「一時はどうなることかと思いましたよぅ」
「千種さん、かなりの距離を敵に追われてましたからね」
 紅葉が苦笑する。
 千種と紅葉の隣では、クレールとアリッサが談笑している。どうやらお互いの翼を褒め合っているようだ。
「怪我はないっ?」
 晴は救助対象の男女に向かって、柔和に微笑んだ。その明るい笑顔につられて、男女も目を細めて笑った。
「ほな、帰りますか!」
 忠人がそう言うと、撃退士六人と一組の男女は、トンネルの出口に向かって歩き出した。
 こうして化物の宴は、今宵を境にお開きとなった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

オモロイにーちゃん・
古島 忠人(ja0071)

大学部5年312組 男 鬼道忍軍
優しき魔法使い・
紅葉 公(ja2931)

大学部4年159組 女 ダアト
目指せアイドル始球式☆・
三善 千種(jb0872)

大学部2年63組 女 陰陽師
Rote Hexe ・
クレール・ボージェ(jb2756)

大学部7年241組 女 ルインズブレイド
仲良し撃退士・
一 晴(jb3195)

大学部4年286組 女 阿修羅
撃退士・
アリッサ・ホリデイ(jb3662)

大学部6年250組 女 陰陽師