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マスター:卯堂 成隆
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:10人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/03/16


みんなの思い出



オープニング

●ある日の授業風景
「……さて、三月三日は雛祭りとされ女の子の節句と言われているが、古来から三月三日や五月五日といった奇数の重なる日は凶とされ、穢れをはらう事で長寿延命を願う習慣があった。 雛人形とは、人が触れる事で災厄を吸収させる儀式的な人形だったのだ」
 伝統的な退魔の授業を受け持つ老人が、蚊の鳴き声のような細い声で古い呪術の話を生徒に語る。
 見れば、大半の生徒は外を見ているか早弁をしているか……真面目にノートを取っている生徒は少数派だ。

「故に平安時代の雛祭りは、流し雛といって人形に自らの厄を移して川に流すというものであり、雛飾りとして毎年同じ人形を使うようになったのは江戸時代から。 つまりそれほど古い話ではない」
 そんな生徒たちに背を向け、老人は癖の強い字で授業の内容を黒板に書き記す。
 天使や悪魔が実際に地上を歩き回り、V兵器を携えた撃退師が天魔を打つべく駆けずれ回る時代――このようなものは時代遅れの退魔の技術、そう言ってしまえばそれまでなのかも知れないが、時としてこの手の知識が撃退師の生死を分ける事もあるのだ。
 それを知る老人は、無駄とは知りつつも自らの知る限りの知識を若者たちに語り続ける。

「……穢れをはらう儀式の名残はいまでも色濃く残っていて、たとえば飾りに使われる桃は古来より瘴気を祓う武器であり、白酒は神酒であるから清めという意味がある」
 今ある技術が、古来より綿々と受け継がれてきた呪術の上に成り立っていることを、この生徒たちのどれだけが理解しているだろうか?
 理解しているならばそれでよし。

 もしも理解していなければ……来年、どれだけの生徒と再び顔を合わせる事が出来るだろうか。
 老人はやる気の無い生徒たちを眺め、今日も溜息をつく。

●さげもんストラップ
 2月も終わりになろうという頃、購買の一部で季節限定のストラップが毎年発売される。
 『さげもんストラップ』と呼ばれるその商品は、九州地方に伝わる雛祭りの飾り付け『さげもん』を小型化して携帯のストラップにしたものだ。

 実際の『さげもん』は51個の鞠や人形を連ねたものだが、『さげもんストラップ』は7個の鞠の先端に雛人形をデコレートした至ってシンプルな和風アクセサリーである。
 『親王×2』『官女×3』『五人囃子×5』『随身×2』『仕丁×3』の15種類があり、全て集めると恋がかなうと言うジンクスから毎年発売されるたびに女子生徒が群がるため、この時期だけは購買の昼休みのバトルも色あせてしまうとかしないとか。

 ただ、今年はこの季節の風物詩が少々違う意味で注目を浴びていた。

 さげもん泥棒……今年に入ってから、さげもんストラップをつけていた携帯やキーホルダーが立て続けに盗まれるという事件が学園の中で発生している。
 しかも盗まれた品物はすぐ近くに打ち捨てられていて、その品物についていた『さげもんストラップ』だけがなくなっているのだ。

 恋する乙女を妬んだモテない男子の仕業。
 噂の大まかなところはそんな感じのものが多いが、そんな噂話の中にはこんな話も存在してた。

 『15個のさげもんストラップに封印された悪魔を、誰かが回収している』
 誰しもがこじつけだと笑った後で言い知れぬ不安を覚え、また他の誰かに否定してもらうためにその噂話を口にする。
 そして気付いたとき、その噂は真実味を帯びて独り歩きを始めていた。

●天王寺 佳理奈
 ねぇ、聞いてくれる?
 いつも血で血を洗うような争いが起きる『さげもんストラップ』が、今年はまったく売れないの。
 先輩たちが不要になったストラップを回収してきて、リサイクルしてまで用意したって言うのに。
 これ、毎年美術部が作ったフィギュアを手芸部の人たちが手作業で加工していて、手間も材料費もそれなりにかかっているのよ。
 それが在庫が余るとなると、はっきり言って困るのよね。
 原因は今学園を騒がせている『さげもん泥棒』なんだけど、誰か捕まえてくれないかな?
 報酬はちゃんと前払いで用意してあるわよ。
 ……現物支給こみでね。

 彼女の差し出した箱には、大量のさげもんストラップが詰まっていた。

●撫で物――今回の舞台から、およそ一年前
 太陽が南の空にありながらも、まるで日没後のように翳る空の下。
 風が梢をザワザワと激しく揺らし、東に流れ行く雲は大地を夜の如き暗渠で包む。
 眼下には死の臭いが立ち込め、河原の石のように転がる無数の死体。
 その中央で、傷だらけの女生徒が異形と向き合っていた。
 
「おのれ……人の分際で蠱毒の鎧に守られた余に傷をつけるとは!」
 憎悪の篭った台詞を吐くのは、疫病の力をもつヴァニタス。
 かつては人であったものの、悪魔の恩恵によって彼は牛のような姿に変わり果てていた。
 その言葉どおり体は漆黒の結界に守られていたが、その足元からは真っ黒な血が滴っている。

「そんなことを言っているから、お前は負けるのさ」
 血の滴る唇で魔物を嘲笑った少女は、手にした袋から中身を一掴みすると、その魔物に投げつけた。
 その中身は――なんとも頼りない薄紅の花びら。
 だが、その花弁が魔物の体に触れるなり、虫の鎧がバチバチと音を立てて剥がれ落ちる。
「だが私も限界だ……そろそろこの戦いも終わりにしよう」
 無防備となった魔物に、少女は刀の切っ先を向けた。
 ――だが。
「……ただでは滅びぬ! 主もまた滅びよ!! 我が身の全てを呪いと化し、汝を蝕んでくれる!」
 そう言い放つなり魔物の体は無数の羽虫となって少女の体を覆いつくした。

 だが、少女は無傷の帰還を果たした。
 この激戦生き残ったわずかな仲間に向かい、虫の死骸に埋もれたまま彼女は苦笑いと共にこう語ったという。
「意図したものとは違う思わぬご利益が合ったよ。 そういえば、これは元々そう言うものだったらしいな」
 彼女の手には、恋愛のお守りとして買い求めた購買の人気商品が握られていた。

●目覚めし疫病神
 とある昼下がり、その事件は何の前触れも無く発生した。
「なんだ、アレは!?」
 突如公園の奥から立ち上がる漆黒の霧……否!
「うぇえぇっ! 虫だ! 奥に真っ白な牛がいて、その周囲から気持ちの悪い虫の群れが沸いているぞ!!」
 正体を確認しようとした者の口から、吐き気を堪えるような悲鳴が上がる。
 不気味な虫達を引き連れたソレの名は、『蜚』。
 害をもたらす羽虫、もしくは台所に生息する害虫を示す名であり、同時に疫病を撒き散らすとされる魔性の名を持つ存在だ。
 そして見るものを戦慄させる眷属と共に、それは割れ鐘のような声で怒りの声を上げる。
「……ウォ……ウオォォォォォ」
 平和な街に突如として現れた災いの化身。
 その撒き散らすエネルギーからヴェニタスに匹敵する魔物と判断した地元の撃退署側は、撃退局の指示を仰ぐと同時に公園を封鎖した。


リプレイ本文

「東風吹かば匂ひをこせよ桃の花、やっけ?」
 いや、それは梅の花だ。
 紫ノ宮 莉音(ja6473)の間違いに、目の前の老教師は思わず苦笑を顔に浮かべる。
「先生にお伺いしたいのは、今回私たちの引き受けた事件に関して、授業にあった伝統的な退魔の方法が効果があるか? という話です」
 ノートを片手にそう尋ねるのは、笠縫 枸杞(ja4168)。
 彼女達は、今回おこった事件について、事前調査を行っているところだった。
「結論から言えば、今回に関しては効果がある」
「今回に関しては?」
「全ての天魔に対して効果は無いということじゃ。 ただ、今回の敵に関しては、思い込みが激しくてなぁ」
「どういうことでしょうか?」
「催眠術のようなものじゃよ。 目を閉じた相手に煙草の火を押し付けるぞといって何かを押し付けたときに、本当に火傷を負ってしまうのと同じじゃ」
「思い込みで自爆するってことなん?」
 莉音の疑問に老教師はゆっくりと頷いた。
「一年前にも、同じ天魔が現れてなぁ。 ワシは同じことを聞かれたよ」

「先生、色々と参考になりました。 じゃあ、莉音くん、次は購買に行こうか」
 老教師の言葉をノートに書きとめると、枸杞は莉音を伴ってその部屋を退出した。

 老教師の部屋を出て、購買に向かった枸杞と莉音を待っていたのは餐場 海斗(ja5782) だった。
「よぉ、なんか収穫はあったかい?」
「あ、海斗さんやないですか」 
「なかなか重要な事が判明しましたので、あとでみなさんにもご報告します」
「こっちでも一年前の類似事件を調べてみたが、あの天魔、前の事件でさげもんストラップに吸収・封印されたやつで間違いなさそうだ。 少し前にさげもんストラップのリサイクルあっただろ。 あれに例の事件の時に使われたさげもんストラップを、同居人が何も知らずに出しちまったらしい」
 海斗の報告に、枸杞と莉音は思わず溜息をつく。
「でだ。 一年前の事件で鍵となったストラップだが、どうもただ持っているだけではダメみたいなんだ」
「えぇ? どないしたらええのん?」
「わからん。 なにせ、封印した本人が他の事件に関わっていて連絡が取れない」
「現場で色々と試さなくてはならないようですね」
 そこまで話が終わると、三人は軽く情報収集を済ませてその場を後にした。

●現場
「なんてかさぁ〜食欲なくなる風景だよねぇ〜」
 その頃、現場では黒雲の如き羽虫を見ながらリスティア・シェイド(ja0496)が草餅を頬張っていた。
「あの授業の話が本当だとしたら、これらがあいつに効いたりするのかな?」
 リスティアの隣で眉間に皺を寄せ、桃の花や白酒を手に思案しているのは、グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)。
「試してみるのも…いいですか」
 グラルスの台詞を聞きながら、機嶋 結(ja0725)は愛用の大太刀に事前に購入した白酒を垂らして清め始める。
 冷静さを装いながらも、今にも一人で飛び出してゆきそうな結の不安定さに、マキナ・ベルヴェルク(ja0067)は己の武器である拳の具合を確かめながらひそかに眉をしかめ、心の中で呟く。
 ――いかなる理不尽も不条理も、ただこの拳で粉砕するのみ。
「気合入ってはるなぁ。 こんな厄介そうな相手、もっと楽しまんと損やと思うけど」
 マキナや結の様子を見ながら、穏やかな関西弁で語るのは、宇田川 千鶴(ja1613)。
「なぁ、そこの人もそう思いひん?」
 千鶴からそう問いかけられたのは、珠真 緑(ja2428)。
「さぁ、どうだか。 それにしても鬱陶しい虫共ね……。 さっさと終わらせましょ」
 長い銀髪を掻きあげて気の無い返事をするものの、その口元は好戦的な笑みでVの字に吊りあがっている。
「終わらせるのはいいけど、邪魔はしないでよね! あたいが一番槍を頂くわ!」
 そろって好戦的な仲間を見やり、鼻息も荒くそう宣言するのは雪室 チルル(ja0220)。
「あぁ、もぅ! 敵は目の前に居るってのに!」
 ここには居ない仲間の調査結果を待ちわびたチルルが結界の中の敵を見やると、羽虫の雲の狭間から敵の姿がちらりと覗いた。
 その足元には色鮮やかなストラップが散乱している。
「あの足元にあるのは…きっとあれがさげもん泥棒ね!」
「正しくは、そのなれの果てかな。 待たせてすまん」
 ようやく転移陣によって現場に到着した海斗がチルルに声をかけた。
 その後ろに枸杞と莉音が続き、ようやく今回の依頼の面子が一堂に会する。

●突入
 神経を逆撫でするような羽音、何かが腐ったかのような異臭、全身があわ立つような瘴気。
「牛さん、といえば天神さんだけど…あれは、なでたら祟られそやなあ…」
「・・・こいつ、この前のヴァンパイアほどじゃないけどかなり嫌な感じだね。だけどここで倒しておかないと・・・、か」
 結界に中に入るなり、グラルスは思わず顔を顰めた。
「虫沸かせてるとか、背筋寒くなるくらい嫌いなんですが( 天魔となりゃ、話は別だ。その中の本体までしっかり掃除してやろうか!」
「不本意ながら同意見ね。 群れないと何も出来ないなんて哀れで仕方ないわ。……見てていらいらする」」
 全身に鳥肌を立てる綺麗好きな海斗に、頷きもせずに緑が同意を示す。
「とりあえず、周りの迷惑だからさぁ〜退治するよ?」
 そしてウンザリとしたリスティアの言葉をきっかけに、それぞれが動き出した。

「……では、作戦通りに」
 言葉少なくマキナがそう告げると、リスティア、グラルス、千鶴、枸杞、海斗の5人は敵の背後にまわるべく移動を開始する。
 そして枸杞と莉音が持ち帰った情報元に、各自がその使い方を模索しはじめる。
「少しは効果あるのかしら?」
「桃も酒も蓬も厄除けとか、どっかで聞いた話だしな。命に過ぎたる宝なし。迷信験担ぎドンと来い」
 緑は結界を作るが如く周囲に白酒の円を描き、海斗は頭から白酒を豪快にかぶった。
「虫の癖に殺虫剤効かないのは…卑怯モノめ!!」
 一人憤慨するのは、風上から殺虫剤を撒いていたリスティア。
「敵は虫と言うより瘴気の化身と見るべきかもしれません。 ただの殺虫剤では効果が無いかと」
 そういいながら、枸杞が蓬をアルコールに漬け込んだ殺虫剤を霧吹きで噴霧すると、バチバチバチと、火花が散るような音を立てて羽虫の一部が灰となった。
 それを宣戦布告の合図と見て取ったのだろう。 羽虫の雲の奥底から、明確な殺意が漂い始める。
「先手必勝! でも、体を覆ってる虫が邪魔で攻撃できないんだっけ? 早くなんとかしてよ!」
 体を低くして飛び出す準備をしたチルルだが、いつものように闇雲に飛び出したところで、何も出来る事は理解している。
「やっかいな取り巻きやね。どいてもらおか!」
 物騒な笑顔を貼り付けたまま最初に動いたのは千鶴だった。
 その手から雷光のように放たれたのは、切りそろえられた桃の枝。
 パァン!
 敵を捕らえたその一撃は、ダメージこそないものの蟲の結界を弾き飛ばす。
「……まずは」
 その直後、桃の枝の効果を疑わなかったかのようなタイミングで飛び出したのはマキナだった。
 洗練された動きから苦無が飛び出すが、わずから逸れる。
「……早い。 けど、甘い」
 蜚が自らの間合いの外に逃げた事を確認すると、マキナは突然真横に飛んだ。
「醜い…さっさと、消え去りなさい…よ。私の前から…!」
 マキナの後ろから飛び出したのは、まばゆい銀色の光を刀に纏った結の姿。
「ちょっと! 一番槍はあたいのモノだって…!」
 チルルの叫びを無視し、容赦の無い一撃が蜚の体を断ち切る…だが。
「硬い!?」
 切り裂いた敵の体の思わぬ硬さに、結は眉を跳ね上げた。
 さすがに無傷とはゆかないようだが…。
 結が敵の間合いから離脱しようとした瞬間、敵の口から結めがけて真紅の毒々しい煙が放たれる。
「…結!?」
 おそらく、報告にあった腐敗の吐息。 身を守る防具をどんどん侵食してゆく猛毒だ。
 だが。
「どうやら、白酒の効果が判明したようですね」
 グラルスがそう呟く中、結が無事に霧の中から飛び出してくる。
 しかし、刀をぬらしていた神酒は綺麗サッパリ消え去っていた。
「うわ、つまり使い捨てっちゅう事? えげつないわぁ」
 その様子を見ていた莉音は、ポーチを開いて買い溜めた白酒や蓬餅を取り出す。
 もしもそれらのアイテムを持ってこなかった仲間がいたらカバーに入るつもりのようだ。
 背後に回った班でも、枸杞が同じようにカバーに入る準備を始める。
「それにしてもジャッポーネの退魔法は面白いのねぇ」
「こんな手が通じるのは今回限りですよ」
 好奇心を隠そうともしない緑に、魔術師たるグラルスがそう釘を刺す。
「しかし……長引きそうやな。 みんな弾薬は十分なん?」
 再び羽虫の結界に覆われつつある蜚を尻目に、千鶴は桃の枝の数を確かめた。
 それに応えるように、それぞれが懐から桃の枝や草餅を取り出す。
 緑に至っては、桃の枝の先端を削って尖らせている念の入れようだ。
「上等や!」
 嬉しげにそう叫ぶと、千鶴は嬉しげに叫んで桃の枝を投擲し、蜚の体を守る羽虫を散らす。
「鬱陶しいわ、雑魚の分際で」
 緑が魔力の矢を飛ばして敵の注意を引いた敵に、
「歯ー食いしばれぇ!なかせちゃるからさ!!」
 リスティアがすかさず接近して拳を叩き込む。
「うん、美少女に殴られるんだ、変な趣味に目覚めるなよぉ?」
 そして蜚が反撃のために背中を向ければ、
「とっとと倒れなさーぃっ!」
 チルルが勢い良く槍を構えて突撃し、マキナと結が無言で追撃を加えてゆく。
 撃退師達のコンビネーションは、時間を経るにつれて息があってきている。 だが。
「いけない! 何か来るよ!」
 敵の様子を注意深く観察していたリスティアが警告を放つ中、蜚の体から黒い霧が噴火の如く吹き上がる。
「こ、こっちにこんといて!」
 蜚の視線が自分に向いた事に気付いた莉音が悲鳴を上げる。
「――お前の相手はこっちです!」
 蜚の注意を引きなおそうと、結が肉薄した瞬間……
「ブオアァァァァァ!」
 蜚は突然叫びと共に踵を返し、結に向かってその身を黒い霧の塊に変えて襲い掛かった。
 その姿は、黒い疫病の神が舞い踊るが如し。
「きゃあ!」
 隣に居たチルルが巻き込まれて悲鳴を上げる。
 ポタポタ。 毒素を吸収した草餅が、真っ黒に変色して懐から零れ落ちた。
 その瞬間、突如としてマキナが絶叫を上げる。
「――屑が、貴様は誰を傷付けているッ!」
 右腕から現れた黒焔が、衣を纏う様に全身を覆った。
「良いだろう、それが望みか。ならば望み通り、終焉(おわり)をくれてやる――!」
 まるで鬼神……否、破壊神と化したマキナは、蜚へと一瞬で駆け寄り、その拳を叩き込む。
「草餅の効果は毒素の吸収。 でも、これは……」
 蟲と瘴気による多重攻撃。
 枸杞が効果を分析する中、霧の中から出てきた結の体には、蟲に噛み付かれたような傷が無数に付いていた。

 そして海斗はこの光景を見ながら、頭を悩ませていた。
 チルルが懐に入れたさげもんストラップが変色している辺りを見ると、ダメージを軽減しているようだが、完全ではないようだ……
 話が違う。 このストラップの意味は?

「べ、別に後退しなくても大丈夫よ!」
「ようやく本気っちゅーことかい。 舐めるのも大概にしぃやっ!」
「あは! いいわ、お前、もっと私を楽しませなさい! さぁ、ダンスマカブルを踊るのよ!」
 この恐るべき攻撃を見ても怯む者はいなかった。
 むしろ一部はさらにテンションを上げ、より激しい戦いを求め、狂喜に打ち震える。
 その要望に応えるが如く、蜚はその移動力を生かして戦場を跳ね回り、黒い霧へと変じながら死の舞を踊り続けた。

「そろそろ物資がやばいです!」
 枸杞が鞄の中を見て悲鳴を上げる。
 どれほどの時間戦いが続いただろうか?
 みなズタボロで、傷の無い者など独りも居ない。
 そして、一方の蜚はあれほどの攻撃に晒されながらも、まだ倒れる様子が無い。
「あなた、しつこいのよ!」
 業を煮やした緑が前に出ようとする。
「あかん! 緑さん、落ち着いて!」
 その肩を莉音が掴んで留め様とした瞬間……どてっ。
 転んだ緑に巻き込まれるようにして、二人は地面に倒れた。
「……!」
 すかさず倒れた二人に攻撃を加えようとした蜚だが、突然その足を止め、何かに怯えるように身を翻す。
「それだ! そいつはそのストラップを嫌がってる!!」
 叫んだ海斗の視線の先には、緑の懐から転がったストラップ。
 その応えに真っ先に反応したのはマキナだった。
 懐からストラップを取り出すと、拳を固めて蜚に肉薄する。
「ここまで頑張ったご褒美に、あたしのもあげるよ!」
 その反対側からは、リスティアが同じくストラップを取り出して蜚に向かって叩き付けた。
「プギャアァァァ」
 哀れを誘うような声で絶叫すると、蜚の体がみるみる小さくなってゆく。
「ここで仕留めて見せる…! 氷塊よ穿て、クリスタルダスト!」
 それを好機と見、すかさずグラルスが氷結の魔法を放つと、蜚の体は見事に凍りついた。
 そして……
「――滅びを」
「受け取るがいい!!」
 すかさずマキナの拳と結の太刀が、敵の体を粉々に打ち砕く。
 かくして、一連の戦いは幕を引いた。

●エンディング
「お疲れ様でした」
 死亡を確認した後、草餅を手に、結はマキナに声をかけた。
「あまり……心配させないでください。 あなたの戦い方は無謀すぎる」
「心配しなくても、死にはしません。 この世から悪魔共を消し去るまでは」
 その直向さが心配なのです。
 マキナの心の声は結に届かない。
 ――今は。

「…結局、楽しませてくれないのね。 くだらないわ」
 戦いの終わった後、砕け散った蜚の残骸の中に一枚の手紙があった。
 ハート型のシールで封をされたその中身を全員で一瞥し、その全てを頭の中に記録すると、緑はそれに桜の枝を突き刺す。
「さようなら、お馬鹿さん。 あなた騙されたのよ」
「あぁっ、ちょっと何すんのさ!」
「せっかくの証拠が!」
 ストラップ盗難の犯人を捜すチルルと莉音の前で、瘴気を帯びた手紙は桜の枝の霊性に焼かれて黒く炭化してゆく。
「たぶん、これはこうするのが一番なのよ」
 憤慨するチルルを千鶴が後ろから羽交い絞めにして不機嫌そうに言い放つ。
 魔に取り付かれて死んだ人間の想いなど、誰にとっても有害でしかない。
 その光景を見ながら、グラルス、枸杞、海斗はこの事件の黒幕について考えていた。
 ――ディアボロの封印されたストラップを集めるようにこの男をそそのかしたヤツがいるはずだ。

 この事件は終わったのではなく、もしかしたら始まりなのかもしれない。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:12人

撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
撃退士・
リスティア・シェイド(ja0496)

大学部5年262組 女 阿修羅
雷よりも速い風・
グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)

大学部5年101組 男 ダアト
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
黄金の愛娘・
宇田川 千鶴(ja1613)

卒業 女 鬼道忍軍
水神の加護・
珠真 緑(ja2428)

大学部6年40組 女 ダアト
ウイッチドクター・
笠縫 枸杞(ja4168)

大学部5年22組 女 アストラルヴァンガード
不撓不屈・
餐場 海斗(ja5782)

大学部9年78組 男 ディバインナイト
夜の帳をほどく先・
紫ノ宮莉音(ja6473)

大学部1年1組 男 アストラルヴァンガード