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マスター:卯堂 成隆
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/03/05


みんなの思い出



オープニング

●雪山の実験場
 鳥取県……山陰地方の独立峰として名高い霊峰・大山。
 その麓に広がるスキー場『だいせんホワイトリゾート』のその向こうに、V兵器の実験場があった。
 V兵器と言っても、ここは主にアウルのエネルギーを車両系の機動エネルギー源として使用する技術の開発が行われており、今日はその技術の運用テストが行われる日である。
 数日前にネットでその姿と性能の概略を違法に公開されたその乗り物の名は、雪上戦闘用バイク『BOREAS(ボレアス)』。
 ギリシャ神話における北風の神の名を持ち、スノーモービルにも変形可能なこの乗り物は、その身にジェットエンジンを搭載しており、その最高時速は雪上においてもおそらく400km/hを超えると予想されている。
 ただ、その分反動が激しすぎて撃退師以外には乗りこなせないと言うのがネットでの大まかな意見だ。
 目の前ではその推測を裏付けるが如く、猛禽の嘴に似たフォルムの鉛色の機体が耳鳴りのようなジェット音を立てて荒れ狂っている。
 雪を巻き上げ、目で追いかけるのにも苦労するそのスピードはまさに暴風。

 スピード狂を自認する人間ならば、ぜひとも触れてみたい逸品なのだが、いかんせん機密事項の試作品。
 本来ならば、こうして駆けつけたとしても見ることさえ適わない代物なのだ。
 今回は撃退師としての立場ゆえに、特別に許可されたに過ぎない。

 だが、その時誰かが叫んだ。

「おい、演習場の中に人がいるぞ!?」
 見れば、演習場の隅に防寒具を着込み、カメラを構えた男女がテスト走行の様子を撮影している。
 おそらくは情報誌の記者なのだろうが、無論そんな取材許可が出ているはずもない。

「えぇい、どこの連中だあいつら! とっとと捕まえろ!」
 この実験場の責任者らしき髪の薄い中年男が他のスタッフに怒鳴り散らし、警備スタッフがあわただしく駆け出してゆく。

 だが、事態はさらに変化を見せた。

「なに? 撃ち漏らしたディアボロがこっちに向かっているだとぉっ!?」
 突然鳴り響いた携帯電話を取った責任者が、目を見開いて絶叫を上げる。
 遠くの景色に目をやると、遥か彼方から白い雪煙が3つ、木々をへし折りつつ向かってくるのが見て取れた。
 その進行上には、先ほどの記者らしき男女の姿が……

「えぇい、警備の撃退師は全員あのディアボロをなんとかしろ! この施設に何かあったら、私の責任になるんだぞっ!?」
 喚き散らす責任者を尻目に、警備の撃退師たちが武器を構えて飛び出してゆく。
 そして施設の一角で派手な戦闘音が響き始め、それに気付いた取材の二人もようやく避難を開始した。

 だが――
「キシャアァァ」
 出現したディアボロ三匹のうちの一体が、撃退師達の隙をついてその包囲網をすり抜けた。
 その行く先は、悲鳴を上げて逃げ回る二人の記者。
「あれは……ミシキヌビクか!?」
 その時になって初めて敵の姿がはっきりと確認できた。
 全長50m近い巨体は漆黒の体毛に覆われ、額には太い角が一本。
 それは北米インディアンの伝承に登場し、人食い――特に好んで女性を喰らう魔物である。
 毒などは無いが、特筆すべきはその移動スピード。
 雪上においては最大移動スピード時速100km/hをたたき出すといわれ、また巨体から繰り出される体当たり攻撃も馬鹿にならない。
 本来はかなり北の方に生息しているが、冬になると縄張りを離れ、エサを求めて南下する性質がある。
 おそらく海を泳いでロシアあたりからやってきたのだろう。
 
 もう、間に合わない。
 誰もがそう確信し、ミシキヌビクが二人をその顎に捕らえようとしたその瞬間……

 ズドン!
 横から鉛色の風がミシキヌビクに体当たりをかけて弾き飛ばし、そして呆然とする二人をその背中へと引き上げた。

「本部聞こえるか? こちらは民間人を二名確保した! だが、お荷物抱えたまんまじゃ反撃できないし、敵を引き離すにも一般人じゃマシンの機動に耐えられない! この毛虫野郎を引っ張ったまま走るから、誰か応援をよこしてくれ!」
 彼らを救ったのは、『BOREAS(ボレアス)』にまたがったテストパイロットだった。
 すんでのところで一般人を回収した彼は、怒りの咆哮を上げる魔物から距離をとるべき疾走を開始する。
 だが、責任者の答えはひどく醒めたものだった。

「余計な事をするな馬鹿者が。 そいつらを捨てて魔物を始末しろ!」
「な、何を言ってるんだアンタは!」
「そうよ、あんた撃退師の関係者でしょ! 一般人が襲われてるのよ!? さっさと助けなさいよっ!!」
 慌てるパイロットの後ろから、耳がキンキンするような女性の声が響く。
 おそらく彼の助けた女性記者の台詞だろう。

「君にはわからんかもしれんが、優先すべきは一般人の命ではない。 この施設の技術は人類の宝であるが、そいつら二人が死んでも人類にどれほどの損失があると言うの……」
 責任者がその言葉を最後までつむぐ事はできなかった。
 ごすっ!
 振り下ろされた拳の痛みに、責任者が涙目で蹲る。

●繰り返す。 これは訓練ではない
「この小便タレが、何をふざけたこと抜かしてやがるっ!」
 いつの間にか責任者の後ろに立っていたのは、およそ60歳ぐらいだろうか? えらく体格のいい白髪頭の男性だった。
 細い目とキツく結んだ口元、そして眉間には深い皺。
 "職人"と言う言葉がよく似合うその人物は、不機嫌を隠そうともしないまま、懐から出してきたものを投げつけてきた。

 ――鍵?

「そいつはBOREASの鍵だ。 何台かガレージに置いてある。 ガキ共、お前ら天魔を倒すのが仕事なんだろ? だったらとっとと働いて来い。 まさか嫌だなんて言わないよな?」
 それだけを告げると男は背を向ける。

「しゅ、主任! ダメですよ! 部外者にあんなものを貸して問題が発生したらどうするんですか!」
「知るか! グダグダ抜かすともう一発殴るぞ」
 責任者と主任と呼ばれた男のやり取りを聞きながら、君たちは一路ガレージを目指した。
 その背中を太い怒鳴り声が叩く。
「行って来い。 ……お前らなら出来る!」

 ガレージにたどり着くと、そこには鋼の神獣が轡を並べて待機していた。
 整備員らしきスタッフは無言で君たちを迎え入れると、薄いマニュアルらしきものを押し付ける。
「エンジンをかけて。 あと30秒でマニュアルを理解してください。 基本はバイクと同じです」
 その言葉に従いエンジンをかけると、キィィィンとジェットエンジン独特の音が空気震わせる。
 アウルの力を解放すると、その光はシートやハンドルを通って、やがて機体全体を覆い……まるでマシンが体の一部になったような感覚に、心地よすぎて思わず溜息がこぼれる。

 ――そして君は魔を討つ荒々しき風となった。


リプレイ本文

●戦いのプレリュード
 扉が開くと、そこは目が痛いほどの銀世界だった。
「責任重大だね。気張っていくよ!」
 風の冷たさと雪のまぶしさに、高峰 彩香(ja5000)が目を細めながら振り返ると、背後の仲間が力強く頷く。
「初依頼だから緊張するけど、僕と同じような思いをさせないためにも、大切な仲間のためにも頑張って撃退してみせる!」
 真後ろの席で手にした武器を強く握り締める四条 和國(ja5072)。
 その力の入り具合に軽く笑みを浮かべると、彩香はゆっくりとBOREASを前に出した。
 猪狩 みなと(ja0595)とフローラ・ローゼンハイン(ja6633)が運転する後続機もそれに続いてガレージを出る。
 そして十分距離をとったところで運転を担当する三人は頷きあってから加速を開始した。
 瞬間……

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 そのすさまじい加速度に、ほぼ全員が悲鳴を上げる。
 舞う雪の破片は刃物の雨となって頬をを打ち付け、体にかかるGが全員の体をシートに縛り付けた。
「な、なんて加速だよ! こりゃ人間が乗る代物じゃねぇだろ!」
「……現在の走行速度、299km/h。 ……まだ加速します」
 涼やかな優男――神楽坂 紫苑(ja0526)が全員の気持ちを代弁するような台詞を吐くと、加速度を計測していたフローラが冷静に状況を口にしながら横をすり抜ける。
 その後ろの席では月原 アティア(ja5409)がただ一人歌うような声で「風が気持ち良いわ」と呟いていた。
 ……そりゃ、あんただけだ!
 心の中で神楽坂がそんな台詞を呟いていたのは言うまでも無い。

「しかし……アウルを吸われすぎて、さっき意識が飛びそうになったんだけど」
 猪狩みなとがそんな台詞を口にすると、
「そっちもですか。 どうも、10秒ほど動かすたびに意識が持ってゆかれそうになりますね」
 隣につけた彩香が、風の音に邪魔されないように声を張り上げる。
「わうぅ……だいたい5秒ぐらい意識がなかったっぽいよ。 戦闘中なら致命的だね!」
 明るい口調でそう分析するのは、ドラグレイ・ミストダスト(ja0664)。
 愛らしい少女にしか見えないが、れっきとした男性である。
「10秒後に5秒間制御不能…。致命的な欠陥だと思いますけど…」
 情報マニアの報告を、さらに冷静なフローラが無機質な声で纏めた。

「そういえば、試しておきたい事があったのでは?」
 ドラグレイの後ろから口を挟んできた長いダークブロンドの髪の少年は、魔術師ネコノミロクン(ja0229)。
「えっと、気になってるのは、このバイクのジャンピング機能ってやつ。 この調子だときっととんでもない代物だよ!」
 彩香の懸念に全員が無言で頷く。
「ま、とりあえずやってみなよ子猫ちゃん。 ケガしたら、自分が優しく手当てしてやるからさ」
「真面目にやれよ! 人の命がかかってるんだぞ!」
「真面目だよ。 恋する時と戦いに赴くときは特にね」
「そうは見えないんだよ!」
 軟派な台詞を吐きながらウインクを放つ神楽坂に、四条が噛み付く。
「やれやれ見苦しい。 魔術の基本はリラックスから。 気合を入れすぎても失敗するというものだ。 少しはアティアさんを見習いたまえ」
 横からカードを切りつつネコノミロクンが横から口を出すと、男三人の間でなんとも微妙な空気が流れる。
「ごちゃごちゃ言ってないでジャンプするよ! 余計なお喋りしていると舌を噛むからね!」
「わぅ。 彩香さん男前ぇ〜♪」
 ドラグレイの軽口を無言で流すと、彩香はアウルの流れを制御して付属のロケットブースターにエネルギーを充填させる。
 このマシンの機能制御の大半はアウルの流れによる、ほとんど精神感応式に近いシステムだ。
「にゅほほ〜♪ なんて面白いシステム! 秘密の試作品が見れただけじゃなくて試乗まで出来るとは今日は運が良いで……」
 ズドン!
 ドラグレイの台詞を遮って、彩香の操るBOREASが雪面を蹴った。
「いけない! 彩香ちゃん! やめるんだ!」
 カードを切っていたネコノミロクンが慌てて制止をかける。
 手にしたカードは、【戦車】の逆位置。
 彼がカードから読み取ったその意味は「交通事故」
 その警告も空しく、彩香の操るBOREASは10mの高みへと舞い上がった。

「い、生きてるよね僕」
「じ、自分は生きた心地はしなかったがな」
「い、いい加減にしてよ、このジャジャ馬! 雪の上じゃなかったら怪我するところだわ!」
 10mの高みから落ちても傷一つ無い機体の上で三人が冷や汗を流す傍ら、アティアはただ一人平然と、
「落ちたら大変ね」
 と呟いていた。
 なかなかに大物である。

●それはまるで壁のように
「……そろそろ作戦に移ります。 我々二人の目的は攻撃ではなく保護と誘導。 よろしいですか?」
「大丈夫ですわ。 それにしても……まぁ大きいわね」
 フローラに促されて前を向いた月原の目に映るのは、悪夢のような大きさをした黒いディアボロ。
 その魔物の目の前をテストプレイヤーが一般人を抱えたまま疾走している。
 雪煙が邪魔で確認できないが一般人二人はそろそろ限界だ。
「あまり……時間はありませんね」
 そう一人呟くと、フローラはBOREASの速度をさらに加速させた。

「攻撃に専念できるように、こっちは運転に集中しないと、ね!」
 ディアボロの姿が近くなると、撒き散らされる雪にも警戒を払いながら彩香は目を細めて距離を縮めてゆく。
 魔物は目の前のエサに夢中でまだこちらには気付いていない。
 その背後では、神楽坂が手袋をはめながら銃を取り出し、
「援護してやるが、威力当てにするなよ?」
 四条を横目で見ながら唇を吊り上げる。
「ヘマしてボクに当てないでくださいよね!」
「誰に向かって言っている、そこの中坊!」
 憎まれ口を叩きながら、四条はBOREASの車体を蹴って宙を舞い、抜き放った刃で長い毛で覆われたディアボロの体を切り刻んだ。
 ――パシュッ! そして真っ赤な血を噴出したディアボロの体を蹴りつけてBOREASの座席に舞い戻る。
 その姿はまるで牛若丸。
 そして四条の退却と同時に、ディアボロの追撃を阻むが如く神楽坂の銃が火を吹き、ディアボロの体に更なる傷を増やす。
「ギアァァァァァァァァ!」
 魔物の悲鳴が雪原を震わせ、そしてこの戦いの火蓋が切られた。

「ふふふ♪ 目かな!耳かな!鼻かな! 物理と魔法を織り交ぜて、弱点を丸裸にしてあげますですよ♪」
「それは別にいいけど、意識を失いそうになったら距離を取るからね! 飛び乗ってそのまま置き去りなんて事には注意してよね!」
 銃を撃ちながら今にも歌いだしそうなドラグレイに、みなとが注意を促す。
「なら、いっそディアボロの上に飛び乗ってしまうですよ! それとも運転代わるですか?」
「いえ、運転ならむしろ俺が。 さすがに年下の女性に運転を任せるというのも気が引け……」
 イギリス紳士(?)らしく自ら役目を買って出たネコノミロクンだが、その台詞が飛び出た瞬間、みなとの顔がピシリと固まった。
「私……26歳なんだけどっ!」
 血を吐くような叫びと共に、みなとの振るうブロードアックスがミシキヌビクの体を深く切り裂く。
「そ、それは……!? 来る。衝撃に備えて!」
 みなとに謝罪の言葉を述べようとした瞬間、ネコノミロクンは魔物がうねりながら巨体を叩きつけようとする兆候を見とがめて警告を放った。
 ジャンプを……慌てて回避を試みるみなとだが、それよりも早く魔物の巨体が壁のように押し寄せる。
「くっ……デカい! 支えきれるか!?」
 ネコノミロクンはタロットカードを懐に仕舞うと、みなと前に立ちはだかって青銅の盾を構えた。
 ――ドンッ
「うわぁぁぁっ」
「きゃあぁぁぁっ!」
 雪崩にでも襲われたかのような衝撃が盾を構えたネコノミロクンに襲い掛かり、そのまま同乗するほかの二人をも容赦なく弾き飛ばす。
「くそっ、盾で受けてこれかよっ!」
 唇から血を流しながら、ネコノミロクンが怨嗟をあげる中、魔物の体は再びうねり、反対側の面子にもその一撃を与え、まるで噴火のような雪煙を巻き上げた。

「よくも……やってくれたわねぇっ!」
 転倒しそうになったBOREASを立て直すと、みなとは斧を構えて再び魔物との距離を縮め始める。
「これでも、くらいなさいっ!」
 みなとが斧を振るうたびに、派手に血を撒き散らせながら、魔物が苦悶の声をあげる。
 同時にその目が一瞬みなとを捕らえた。
「こ、こっちみんなっ!」

 その頃、ドラグレイの姿はBOREASの上ではなく……魔物の背中の上にあった。
「わうう!その体の大きさなら小回りは利かないはずです♪ さくさくですよ♪」
 小悪魔のような台詞だが、目が笑っていない。
 それもそのはず。 人前では決して脱ぐことの無いゴスロリ衣装の一部が破け、肌を露出したからだ。
「私ね、人に肌を見られるのが大っ嫌いなんですけど、知ってました? 知らなかったですよネェ! でも、許さないですよ? うふふ……この屈辱……1億倍にして返してやるデス!! あははは! 目は透明な鱗があって硬そうですネェ! 耳はどこにあるかわからないです! では、その大きなお口はいかがですか! ねぇ、アティアのお姉さん!」
 黒い霧を全身に纏いながら、苦無で魔物の体を刻みつつ、前方に向かって声をかける。
「了解ですわぁ。 さぁ、たんとおあがりなさい!」
 魔物の前に陣取っていたフローラの操るBOREASの上で、アティアは後ろ向きで立ち上がり、その両腕を大きく広げた。
 その周囲に次々と生まれるは、まるで星が降りてきたような無数の光。
 だが、見るものが溜息をつくほど美しいソレは死をもたらす破滅の流れ星であった。
「アスキ=カタスキ=ハイクス=テトラクス=ダムナメネウス=アイシオン(闇よ、光よ、大地よ、太陽よ、真実よ)」その艶やかなる唇からこぼれる呪句と共に、光の矢が魔物の口めがけて襲いかかる。

「……グアアァァ!」
 柔らかな口の中を破壊され、怒りの声をあげる魔物がフローラの操るBOREASに牙を剥く。
 だが……
「あなたの攻撃範囲と最大速度は……すでに把握済みです」
 魔物の移動速度をさらに超えるスピードで動く彼女に、その牙は決して届かない。
 自らに攻撃が向いたことを悟ったフローラは、そのまま無言で進路をわずかに斜めに反らす。
「キシャアァァァァッ!」
 フローラ達に釣られたミシキヌビクは、怒りの声をあげて彼女の後を追いはじめた。

 ……よし。
 心の中で頷いた二人組みがふと何かを感じて横を見ると、テストパイロットが親指を立ててこちらに合図を送っている。
 やがて二人が見守る中、テストパイロットの姿が雪煙の向こうに消えていった。
「まったく。 早く逃げてください。邪魔…です」
「さぁ、これで時間制限はなくなりましたわねぇ。 でも、油断は禁物ですわよ?」
「問題ありません……さぁ、宴にご案内しましょう」
 BOREASのかき鳴らす爆音の中、二人はそう囁き合うと、決戦の場所を選び始めた。

●あたかも北風の如く荒々しく
 そして数分後……戦場は総力戦を迎えていた。

「クッ、さすが、頑丈だせ。逃がしゃしねえよ。オレ達が頑張らないと、被害拡大するし、目覚め悪いしさ」と神楽坂が呟けば、
「うおぉぉぉぉぉ」雄叫びをあげて四条が巨大な魔物に切りかかり、
「いい加減倒れてよね! ほんとしつこいんだから!」切り裂かれた傷をみなとの斧がさらに切り開く。
「だいぶ弱ってきた。もう少しだ。一気に畳みかけよう! でもその前に傷を癒すぞ! レス・ラー・ペム・サー・イー・イー……」
 だが、BOREASのジャンプ機能を使わなくては回避もままならない、押し寄せる壁のような攻撃に、撃退師たちはほぼ全員が深い傷を負っていた。
 けど、それは敵も同じ。
「わふっ! 右側は動きが鈍いのです! 左側に回った人に攻撃が集中しそうですよっ!」
「ふふふ、隙だらけですわ。 ここで全弾射出致します。 たーまやぁー あら、綺麗」
「私は自分の役目を……果たすのみ。 その攻撃は届きません」
 やがてこの戦いが終わりを迎えることを感じた彩香が、最後の攻撃を行うべく四条に声をかけた。
「そろそろ終わりにするよ! 四条さん、乗って! 最大速度で突っ込むから一撃で決めて!」
「ありがとう。頼むよ!」
 そしてBOREASが最後の加速を開始する。
「ちょっと大人しくしてなさい!」「今すぐ天国か地獄に連れて行ってあげますわ!」
 攻撃のタイミングを作るため、みなとは自らの操るBOREASの衝角を魔物の喉元近くに深くに突き刺し、さらにそのエンジンをふかして動きを押さえ込んだ。
 さらにドラグレイが無言で魔物の目を指差すと、月原の魔法、神楽坂の弓とフローラの銃が固い鱗に覆われた目に集中砲火を浴びせる。
 そして対魔兵器BOREASの、その性能の全てをかけた一撃、そしてそれは四条の魂の叫びと共に解き放たれた。

「守るんだ!今度こそ絶対に!!」

 振るわれるは、まさに暴風の如き一閃!
 その刃の通り過ぎた後、ミキシヌビクの巨体がゆっくりと雪原に落ちて地響きを立てた。

●そして日常へ
 戦いが終わった後、研究所で機体を返却した面々。
「ありがとうございます。助かりました。そして……すみません。 機体に傷をつけてしまって」
「でもさ、これから改良するならいいんだけど、こうも頻繁にエネルギー不足になるなら複座式とかにした方が良い気がする」
「乗り心地はなかなかの物でしたけど流石にじゃじゃ馬すぎだと思うのですよ♪」
 腰の低いネコノミロクンと対照的に、彩香とドラグレイの意見は実に率直だ。
「ところでさっき鍵を渡してくれたお爺ちゃんはどこですか?是非とも取材したいのですよ♪」
 戦いが終わって着替えを済ませたドラグレイは、辺りを見回して取材を開始する。
 その横を担架に担がれた記者二人が通り過ぎると、ネコノミロクンは心の中で呟いた。
 無事助かって自分達は運が良いとでも思った?
 ……運が良かったのは彼(テストパイロット)の方だ。
 あなた方さえ居なければ、もっと危険の少ない、効率の良い方法で片付けられたのだから。

「…まったくですね。 …ほどほどにしないと、死んじゃいますよ?」
「うわぁっ、人の心読まないでください」
 フローラの突然の台詞にネコノミロクンが飛び上がると、その反対側でアティアがカラカラと笑う。
「顔に出す方が悪いですよ?」
「まぁ、ボクも同意見ではありますけどね」
 溜息をつき、飴を舐めながら四条がぼやくように同意を示す。
「あ〜疲れた。なんとか退治出来たが、今度は、のんびりと走りたいぜ」
「あら。 じゃあ、帰りの車の運転は神楽坂さんにお願いね」
「わぅ! 猪狩さん、帰り道にいい温泉があるのですよ!」

 戦いが終わり、平常に戻った撃退師達は、賑やかに笑いながら研究所を後にした。
 ほんのつかの間の、次の戦いとの合間を楽しむために。

(2012年3月9日 修正)


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 堅忍不抜・猪狩 みなと(ja0595)
 北風の狩人・月原 アティア(ja5409)
 百火亮乱・フローラ・フェルミ(ja6633)
重体: −
面白かった!:4人

くず鉄ブレイカー・
ネコノミロクン(ja0229)

大学部4年6組 男 アストラルヴァンガード
命繋ぐ者・
神楽坂 紫苑(ja0526)

大学部9年41組 男 アストラルヴァンガード
堅忍不抜・
猪狩 みなと(ja0595)

大学部7年296組 女 阿修羅
知りて記して日々軒昂・
ドラグレイ・ミストダスト(ja0664)

大学部8年24組 男 鬼道忍軍
SneakAttack!・
高峰 彩香(ja5000)

大学部5年216組 女 ルインズブレイド
真冬の怪談・
四条 和國(ja5072)

大学部1年89組 男 鬼道忍軍
北風の狩人・
月原 アティア(ja5409)

大学部9年291組 女 ダアト
百火亮乱・
フローラ・フェルミ(ja6633)

高等部1年20組 女 インフィルトレイター