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マスター:ウドン・コナー
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/10/17


みんなの思い出



オープニング

●閉じこもった娘
「――――」
 遠山美月は、ある一軒家の部屋に引きこもっていた。
 ベッド、勉強机、クローゼット、本棚。それだけで部屋の半分が埋まってしまっている。中高生の自室としては、十分なものだ。
 それらの家具は全て壁際に置かれており、中心はスペースに余裕があった。
 美月はそこに立ち、詠唱を行っていた。ゲートを生成するためだ。
 彼女は天使と契約を交わし、シュトラッサーとなった少女だ。
 詠唱を始めてから、もう丸三日経っている。今の彼女の力なら、これで周囲の住宅街一帯を巻き込めるほどの規模の結界を発生させられるだろう。
 彼女の詠唱を邪魔する者は、誰もいない。
(これも全て、天使様のため……)
 自分以外誰もいない部屋で、美月は笑みを浮かべた。
 この家に住んでいた家族は、全員殺した。彼らには申し訳ないことをしたが、運が悪かったと思ってもらうしかない。もっとも、彼らは既に死んでしまっているのだが。今頃一家仲良くバスタブの中で永遠の眠りについている。
 私の力には、決してなりえなかった親戚達。彼らを殺すことで、美月は完全に人間としての自分を捨て去ったと実感していた。
 彼らが悔やむとすれば、天使様の力の糧にすらなれないことだろうか。
(天使様、もうすぐです。もうすぐで、ゲートが……)
 恐らく、ゲートが生まれれば撃退士が来るだろう。
 それでも、ゲートが蓄えたエネルギーが天使様の力になるまでの間は何としてでも守らなければならない。
 天使様はそのために、二匹のサーバントも生み出してくれた。
 美月のいる部屋――二階の一室の窓から、そのサーバントを窺うことができる。
 巨大な、蛇とも龍ともとれる細長いサーバントだ。
(あの二匹も、私と同じ……)
 蛇から龍へと生まれ変わる途中――美月はそんなサーバントを横目で見据えながら、それを自分の姿と重ねていた。
 人間からシュトラッサーへと生まれ変わった、自分と…………。

●なぜ俺がこんなことを
「ちーっす。お前ら、緊急の出動要請だ。ゲートが出たぞ」
 病室で開口一番、ライラー・アーク・シン(jz0233)はそう切り出した。
「場所は都心から少し離れたところにある住宅街。結界の規模はそうでもないが、住宅街一帯と付近の幼稚園を覆っちまった。人数にしてざっと百人ってところだな」
 シンは手に持ったタブレットを操作して、ゲートの位置を示す地図を表示させた。
「厄介なことに、このゲートは一軒家の中にある。正確には、一軒家の中の一部屋だな。恐らくゲートを作ったシュトラッサーは、そこを根城にしている。
 ――おっと、どうして相手がシュトラッサーだとわかったって? そこは俺の情報収集能力の賜物だな。おかげで入院中の身なのにこんな役回りをさせられてるんだが……」
 シンはベッドの上で半身を起こした姿勢のまま、包帯が巻かれた両手を左右に広げてみせた。彼は以前、ディアボロによる攻撃で重傷を負っているのだ。
 それで入院しているのだが、その高い情報収集能力は身動きができないだけで衰えるものではない。だからこうして、撃退士への依頼説明まで任されてしまっているのだ。
「シュトラッサーの名は遠山美月。近くの高校に通う女子高生……だったと言うべきかな。彼女には一週間前に親戚から捜索願が出されていて、幾らかの目撃情報もあった。
 それらを照らし合わせた結果、天使と契約しシュトラッサーになった可能性が高いと判断された。そして今回の事件ってわけだ。どういう経路で俺が情報を入手したかは聞かないでくれよ?」
 シンはへらへらと笑ってみせたが、目つきは真剣そのものだ。
「恐らく彼女はシュトラッサーになって間もない。身の危険を感じれば撤退する可能性もある。だがお前らの目的はあくまでゲートの破壊だ。
 こんな言い方するとお前ら人間は怒るかもしれないが、シュトラッサーはそう何度もゲートを作れない。今回倒せなくても、またゲートを作られる可能性は低いわけ」
 最後に、とシンは付け加える。
「ゲートが生成される直前に、空を飛ぶ蛇のような化け物を見たという目撃者がいた。恐らくはサーバントだ。戦闘力的には、こっちのが厄介かもしれねえな」

●理不尽な世の中
 美月の両親は、二週間ほど前に交通事故で亡くなった。
 それだけで既に彼女の心を深い絶望が襲ったが、悲劇の勢いは止まらなかった。
 両親を轢いた車の運転手は、いわゆる"裏社会"に身を置く重鎮の息子だったのだ。
 一般人にはどうしようもない圧力や金が働いて、裁判の結果その息子に下された判決は、ほとんど無罪同然のものであった。
 後になって、美月の側の弁護士まで相手側に買収されていたのだと知った。
 美月はもう、親戚や友人達の力では決して立ち直れない深みに突き落とされてしまったのだ。
 絶望の後には、行き場のない怒りが込み上げてきた。結局その感情は、行き場がない故に心の中で燻り続け、彼女を内側から黒く染め上げていくだけだった。
 そんな美月に、手を差し伸べた人物がいた。
 否、それが"人"であったなら、美月は見向きもしなかっただろう。怒りの矛先を向けて、殺していたかもしれない。
 しかし差しのべられた手は、人のものではなかった。
「悲しいかい? 苦しいかい?」
 その者は、天使だった。白い羽を背中宿し、眩しいほどの光を纏った、天使だった。
 美月も、天魔について常識程度のことは知っている。
 天魔からは、逃げなければいけない。
 だが、天使が発する言葉には、親戚や友人達にはない引力があった。力なき星が、より巨大な星に吸い寄せられるかのように、美月は天使に近づいて行った。
「感情を殺し、苦痛から解放されたいかい? それとも怒りの矛先に報いることのできる、有り余るほどの力が欲しいかい?」
 天使は、無表情だった。なのに美月には、それが微笑んでいるかのように見えた。
「私は、そのどちらでも君に与えてあげよう」
 美月は、その手を取った。引力によってではなく、自ら天使へと手を伸ばした。
「力が欲しい。絶望から這い上がるための、絶対的な力が」
 そして美月は天使と契約を交わし、シュトラッサーへと生まれ変わった。
 その時点で人間である遠山美月はこの世から去った。
 絶望の底で嘆き苦しんでいた美月の代わりにその場に立っていたのは、もはや一人のシュトラッサーであった。
 しかし、彼女の口元は少しだけ歪んでいた。歪んでいるとしか例えられないような、笑みを浮かべていた。


リプレイ本文

●手のなる方へ
 二匹のミズチが、美月のいる家を中心に空を舞っている。
 その内の一匹に向けて、短剣が飛来した。首筋に浅く突き刺さった短剣に、ミズチの一方は飛んできた方向へと哨戒を始める。
 と、今度はそこに真正面から人影が向かっていく。光翼で飛翔する佐藤 七佳(ja0030)だ。淡い純白の光を四肢に纏い、身につけた緋色の儀礼服は、裾丈が長くマントのように翻っている。
 手にした長刀、建御雷の刀身を、幾重もの魔方陣が輪のように包み込む。ミズチの頭部へと、自らの勢いをも利用した斬撃を叩き込む。
 ミズチは弾き飛ばされるかのように空中で体を反り、美月の家から大きく引き剥がされた。
 その瞬間、視界の隅に美月の姿が映った。彼女の行動を、悪いことだとは思わない。かといって、境遇に同情しているわけではない。
 七佳にとって戦いとは、人間や天魔の数だけ存在するそれぞれの独善がぶつかり合っている状態のことだ。
「この戦場に、本当の正義はあるのかしら……」
 弾き飛ばされたミズチに向けて、更なる別の独善が飛びかかっていた。
 まるで骨のシルエットのような三対の翼を持ったはぐれ悪魔の撃退士、ライアー・ハングマン(jb2704)である。
 黒い風が、ライアーに影のように纏わりついている。その周囲に、三日月の形をしたアウルの刃が発生した。
「出血大サービスだ。存分に喰らえや!」
 三日月の刃が一斉に牙を剥く。その瞬間、ミズチは鎌首をもたげるように空中で身を起こした。
 刃はミズチを覆う鱗を削り取り、突き刺さる。絶叫とも雄叫びともつかぬ声を上げながら、ミズチの長い体がライアーに巻きついた。
「うおおっ!?」
 ミズチはライアーを絞めつけながら、ウォーターカッターの如き勢いでレイピアのように水を飛ばし、七佳を牽制する。
 そのレーザー光線のような局地的水圧が、七佳の光の翼を一閃した。
 一瞬飛行能力を失った七佳は、近くの住宅の屋根に不時着する。
 ミズチが、ライアーに狙いを定めた。

●迎えの無い家
 堂々と玄関から侵入したフィオナ・ボールドウィン(ja2611)は、間取りを確かめるかのように家の中を歩いて回った。
 腐臭は、洗面所から漂っていた。浴室への扉が開け放されており、廊下からでもバスタブが窺える。
 そのバスタブから、この家に住んでいた者の二倍の数だけ、手足が生えている。
 否、狭いバスタブの中に、三つの死体が無理矢理詰め込まれているのだ。
 フィオナは軽く目を伏せた後、二階へと続く階段を睨みつけた。家に入った直後から感じる気配は、二階から動く様子はない。
 階段を上った先の短い廊下には、二つの扉が設けてあった。一つは開いていて、中には誰もいない。
 フィオナが感じる気配は、閉じられている方から漂っていた。
 しかし彼女は、臆せず扉を開いた。
 目当ての人物が、目当てのものを背にして、そこに立っていた。
 遠山美月だ。その背後には、小規模なゲートが佇んでいる。
部屋は狭く、壁に沿ってクローゼットや勉強机などが置かれている。ゲートはまるで、置く場所に困った挙句放置されたオブジェのようだった。
ゲートの他に、美月とフィオナがいるおかげで、部屋全体が息苦しくなっている。あと一人でも入れば、互いにほとんど動けなくなってしまうだろう。
「……お前が、撃退――」
「力無き者は実に上手く殺すな。しかし、少々葬り方がまずかった」
 美月の言葉に、フィオナは高圧的な口調で遮った。そのまま向こうの反応も待たずに剣を抜き、切っ先を美月へ向ける。
「貴様は、我を怒らせた」
「――勝手に怒ってろ!」
 フィオナの完全に見下した口ぶりに、美月が吼える。勢いに任せて殴りつけようとするが、美月の拳はしかし、空を切った。
 銀色の光を纏わせた剣で、一瞬のうちに美月の打撃を切り払ったのだ。
 すかさずフィオナは踏み込む。狭い部屋の中では、距離を詰められれば逃れる術はない。ましてや美月は、ゲートを背にして戦っているのだ。
 美月が咄嗟に腕を動かすのと、フィオナの反撃はほぼ同じタイミングだった。部屋の周囲に、小さな魔方陣が幾つも浮かび上がる。
「うぐっ!」
 呻いたのは、美月だ。一瞬の斬撃に防御を崩され、気がつけば周囲の魔方陣から伸びた黄金の鎖が全身に絡みついている。
「……ほう」
 だが、美月の攻撃もまたフィオナに届いていた。黄金の鎖が動きを封じる直前に、彼女の拳がフィオナの脇腹を打ち据えていたのだ。咄嗟に動かした腕は、防御ではなく攻撃のためだった。
「ってぇい!」
 黄金の鎖に体を引っ張られながらも、美月はフィオナに突進した。フィオナはよろめく。が、倒れはしない。
「こんなもんで、私を倒せると思うな。お前も殺してやる」
 そう言う美月の顔には既に汗が滲んでいた。
 フィオナは、面白がるかのように笑みを浮かべる。
「確かに、人を殺せるほどの力はありそうだ。だが、貴様は戦を知らぬであろう?」
 突如、美月の背後――ゲートの更に後ろに面した窓ガラスが、割れた。背後を見なくても美月にはわかった。もう一人、ゲートの破壊を狙っている者がいるのだ。
「なんて……卑怯な奴ら!」
「戦を知らぬ輩が喚くな。人に未練がないのなら、貴様も我が剣の錆となれ!」

●隣家
 美月とフィオナのいる家の一つ隣の家屋から、牙撃鉄鳴(jb5667)はショットガンを発砲した。反動で、長く伸びた後ろ髪が微かに揺れる。白銀と黒が混じったアウルに包まれた鉄鳴の瞳には、朱が混じっていた。
 窓ガラスを割りつつ、距離感を確かめる。ショットガンの通常発砲では、ゲートまでは届きそうにない。だが、無防備に晒されているゲートは、鉄鳴の射程距離内に収まっている。
 美月がこちらの存在に気づいたが、鉄鳴は無視して銃を構えた。フィオナが美月の注意を逸らしている隙に、今度こそゲートを狙う。
 鉄鳴は、フィオナの言葉を思い出す。
「我が踏み込んだら行動開始だ。誇りにかけても抑え込む……ゲートは任せるぞ」と、彼女は言っていた。
 ゲートの破壊という任務は責任重大ではある。だが、単独での行動は他人と接触する心配がなく、彼にとってはむしろ冷静になれる環境であった。
 しかし、鉄鳴が隠れている家屋を、突如衝撃が襲った。彼の正面を、高速で何かが通過していった。
(ミズチの攻撃か。向こうも始まったようだな)
 衝撃の通った跡は、まるで巨大な鋸が通過したかのような切れ目になっていた。家の一部が、まるでケーキのように切断されてしまっている。
 鉄鳴も腕に傷を負ったが、彼は何事もなかったかのように銃を構え直した。美月が何を思ってゲートを守っているのかなど、興味はない。
(人類と報酬のためだ。悪く思うな)
 そして、鉄鳴は引き鉄を絞った。

●ミズチだけに
 七佳とライアーが一方のミズチを引きつけている間に、もう一方のミズチにはロジー・ビィ(jb6232)が接近していた。
 光の翼を羽ばたかせ、花に誘われた蝶のようにミズチの周囲を舞った。彼女の光纏である青いオーラもまた、翼のように背中で揺らめいている。
 剣の腹で、ミズチの吐くウォーターカッターを受け流しつつ、ゲートのある家から徐々に遠ざけていく。
 十分にミズチを引きつけたところで、ロジーはロザリオを突き付けるかのようにして翳した。
「こちらですわよっ!」
 ロザリオから無数の羽根が発生し、ナイフのように空を裂きながらミズチに襲い掛かる。完全にロジーへと狙いを定めたミズチが、再び水を吐こうと口を開く。
「空也、今ですのっ!」
「任せろォ!」
 赤槻 空也(ja0813)が、ミズチの死角から全速力で駆け出す。白い鉢巻を靡かせながら、顔の左半分から胸にかけてを覆う黒い班から、炎のような赤い光纏を発現させる。
 空也の心は、真っ直ぐすぎる怒りと憎悪に満ちていた。ゲートの生成だけではない。その過程で奪われた命がある。件の家の中にいるであろうシュトラッサーにも、目の前にいるサーバントにも、一切の容赦はしない。
 ミズチがロジーに水を吐く――ウォーターカッターではない。間欠泉を軽く凌駕するほどの質量を持った水が、砲弾のように飛んでくる。
 受け止めることも、切り裂くこともできない水圧に、ロジーは押し流されるようにして吹き飛ばされた。
「テメェッ――!」
 ロジーのことは心配だが、折角生まれた隙を逃すわけにはいかない。
 振り上げた戦槌は、その小さな槌頭から燃え盛る炎の如き巨大な槌頭を発生させている。それがさらに、空也のスキルによって黒く塗り潰される。
 戦槌はミズチの脳天を強打したが、一発で仕留めることはできない。すぐさまウォーターカッターによる反撃が来る。
「ちっ……ミズチだけに水ってか!」
「お、おやじギャグですの!?」
 無論、空也にとっては真剣そのものなので、その自覚はない。
 ミズチは、今度は空也に狙いを定める。ミズチの攻撃を見極めつつ、両手に嵌めた篭手で防御していく。
 次はロジーが攻撃する番だった。空也の対角線上に陣取り、ロザリオによる羽根の攻撃でミズチを挑発する。ダメージそのものは期待できない。だが、長期戦に持ち込めばそれだけゲートの破壊を邪魔させずに済ませられるのだ。

●間一髪
「ぐああああっ!」
 天界の魔物であるサーバントの攻撃は、ライアーにとっては通常の撃退士以上に痛みを伴う。
 ライアーを絞めつけるミズチが、とどめと言わんばかりに口を大きく開け、間欠泉を吐こうとする。
 そこに、七佳が間に合った。先手の一撃と同様に、幾重もの魔方陣を纏った建御雷でミズチの頭を弾き飛ばす。
 今度こそミズチは大きく仰け反り、一瞬動きを止めた。七佳はすかさず追撃に入る。
 剣を包む魔方陣が、一層輝きを増した。怯んだミズチの根源――意志と肉体との繋がりを断つ斬撃が迸り、空を飛んでいたミズチを住宅街の道路へと叩き落とした。
 その間に、ライアーもようやく束縛から解放される。
「本当の正義を探すためにも、まだあなたには付き合ってもらうわね」
「付き合う? いや、俺には心に決めた人が……」
「そういう意味じゃないわ。とどめ、お願いできるかしら」
「任せとけ!」
 ライアーは骨格のような黒い翼を広げ、起き上がろうとするミズチに回り込む。
 手には、水のようなアウルを発する鎖鞭が握られている。
 限りなく魔界寄りの、黒く重たい一撃が、ミズチの頭を粉砕した。
「一丁上がり! 鉄鳴さんに連絡しますか!」

●圧倒
 フィオナと美月の力の差は、歴然としていた。
「ま、まだだ……」
 美月にはもう、反撃する力は残っていない。ただ、フィオナの前に立っているのがやっとであった。
「しぶとさだけは褒めてやろう。だが、貴様では我には勝てん」
 散々美月の攻撃を躱し、防御してきたフィオナはほぼ無傷だ。美月の動きに合わせて、もう十回以上は全力の斬撃を叩き込んでいる。
 それでも尚倒れない美月が、声を振り絞る。
「この力は、お前たちと戦うために手に入れたんじゃない……私が、人間だった頃に味わった絶望から這い上がるために、天使様から授かった力なんだ!」
「面白い。初めから戦うつもりなどなかったということか。ならば、大人しく負けを認めるがいい」
 何度目かの銃声が響く。
 窓の向こうから、鉄鳴の銃弾がゲート内のコアへと確実にダメージを与えている。途中、サーバントの攻撃の余波が何度か襲ってきたが、鉄鳴はゲートの破壊という目的から一切目を逸らさなかった。
 今ので長距離射撃用のスキルを使い果たしたので、更に接近する。窓から飛び降りて、家と家の間に聳える塀の上で銃を構えた。
 一方で、美月がフィオナに対し虚しい反撃に出ようとしたその時、彼女の心に直接語りかけてくる声があった。それは彼女以外の誰にも聞こえない、彼女のためだけの声だった。
「……はい、わかりました」
「やけに聞き分けがいいではないか!」
 美月の言葉はフィオナに対してのものではなかったが、彼女は容赦なく黄金の鎖を発現させる。
 だが、美月はこちらに向かっては来なかった。バックステップで、ゲート内へと逃げ込んでいった。
 これには、鉄鳴も一瞬引き鉄を引く指を止めた。美月がコアの盾となる位置に来てしまった。
 だから鉄鳴は、容赦なく美月を撃った。しかし、彼女は止まらなかった。さすがに、しぶとい。
 破壊寸前のゲート内のコアを通って、美月は姿を消してしまった。
 鉄鳴のショットガンがゲートのコアを破壊したのは、その後のことだった。
 窓の外から、フィオナが身を乗り出す。
「シュトラッサーは?」
 鉄鳴は口を開かず、ただ首を横に振った。
 そこに、ライアーからの連絡が入った。
「こっちは片付いている。問題ない」
 鉄鳴は、事務的に答えた。

●加勢
 ロジーがミズチの注意を逸らし、その隙に空也が攻撃を食らわせる。
 少しずつミズチの体力を削ぎ、攻撃にも慣れてきたところだが、二人もまた同じくらい消耗していた。
 ミズチが怒り狂ったように、空也を狙う。躱すか、カウンターを狙うか。一瞬の迷いが、空也の動きを止めてしまった。
 ロジーがロザリオで注意を引こうとするが、それも間に合いそうにない。
 が、急にミズチの動きが鈍った。見れば、ミズチの頭上から逆さまになった黒い十字架が圧し掛かっている。
「ちっと沈んでもらおうか」
 加勢に来たライアーのスキルだ。彼の後ろから、七佳も続いている。
 我に返った空也は、迷わずカウンターを選んだ。
 跳躍し、重力によって閉ざされたミズチの顎を強引にこじ開ける。
「ドタマに来たってか……? 違ェだろ、ドタマに喰らうんだろうがッッ!」
 怒号と共に、ミズチの口内目がけて渾身の一発を見舞う。
 ミズチの喉が衝撃で大きく膨らみ、弾けた。
 二匹のミズチは、完全に沈黙した。

●余韻?
「観月さん……俺、やりましたよ」
 ライアーが勝利の余韻に浸っている。
「美月? 貴様、シュトラッサーに言いたいことでもあったのか?」
 そこに、ゲートの破壊を終えたフィオナと鉄鳴も合流した。
「あ、いや、そっちじゃなくて……」
「わかりましたわっ! ミズチだけに美月、ですのねっ?」
「一文字しかかかってないな」
 意味深な天然を突如発揮するロジーに、鉄鳴が静かにツッコミを入れた。
「ところで、シュトラッサーは?」
 空也が訪ねると、フィオナは苦虫を噛み潰したかのような表情をした。空也も、それだけで大方察することができた。
「……ペ天使の薄汚ねえキレー事に引っかかりやがって……」
「でも、ゲートは破壊したんでしょう?」
「ふふ、当然だ」
 七佳の問いに、何故かフィオナが腕を組みながら堂々と答えた。
 比較的早い段階でゲートを破壊できたこともあり、結界内に閉じ込められた人々のほとんどを無傷で生還させることができた。
 シュトラッサーとなった遠山美月だけは倒し損ねたが、彼女にはもうゲートを生成する力は残っていない。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
緋焔を征く者・
赤槻 空也(ja0813)

大学部4年314組 男 ルインズブレイド
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
絶望の中に光る希望・
ライアー・ハングマン(jb2704)

大学部5年8組 男 ナイトウォーカー
総てを焼き尽くす、黒・
牙撃鉄鳴(jb5667)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
ロジー・ビィ(jb6232)

大学部8年6組 女 ルインズブレイド