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マスター:ウドン・コナー
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/09/17


みんなの思い出



オープニング

●一世一代の……
 東京郊外に聳える、中規模の電波塔。名を、東京バベルエッジという。
 全長200メートルという高さも、今となっては都心のビル群に埋もれかねないほど心もとないが、建設当初は多くの人々の関心を集めたという。
 現在はローカルのラジオやTV番組を電波放送しているだけで、都心から離れた郊外のオアシスとしてひっそりと経営している。
 注目すべきは、地上150メートルに位置する展望スペースだ。電波塔に直接設けられた録音スタジオを、展望デッキへと改修したものである。
 高所から見渡す景色は、時と季節を問わず人を惹きつける。特に都心にはない緑豊かな自然を一望できるので、足を運ぶ客には困らないようだ。
 今日訪れた男もまた、その魅力を知り、またその恩恵にあやかろうと目論んでいる者の一人だった。
 男は今日、付き合って3年になる彼女を連れて展望デッキにやってきた。事前の下調べは彼女に内緒で行い、計画も一人で練ってきた。おかげで、少し寝不足だったが、展望デッキから臨むパノラマの風景は、そんな眠気も一瞬で吹き飛ばすほど壮大なものだった。
「すごーい!」
 彼女もはしゃいでいる。男は気づかれないように小さくガッツポーズした。休日ということもあり、展望デッキの中はかなり混んでいた。男は彼女を連れて、順路を辿りながら機会をうかがった。
「あ、あそこに双眼鏡があるよ」
 男はわざとらしく、デッキ内に備えつけられている双眼鏡を指さした。幸い、利用者はいない。
「せ、折角だから使おうぜ」
 声を上ずらせながら、男は硬貨投入口に100円玉を入れた。
「まず、俺からな」
 不満そうにする彼女に、心の中で弁解する。これも計画には必要なのだと。そして、それを悟られる鵜わけにはいかないのだと。
 30秒ほど双眼鏡を覗き込んでいたが、緊張で全く景色を楽しむ余裕がなかった。男は目を離して、彼女へと促す。
「すごいよこれ。未来が見えるんだ」
「えー? なにそれー」
 男の言ったことを冗談だと思ったのか、彼女は苦笑した。
 その時が、きた。
 彼女が双眼鏡を覗き込んだ瞬間、男はポケットから小さなケースを取り出し、双眼鏡の前にかざした。素早くその蓋を開ける。
 中には、コツコツと貯めてきた貯金をはたいて購入した婚約指輪が入っていた。レンズとの距離は事前に計算済みだった。恐らく彼女が双眼鏡越しに見れば、何かがキラキラしているようにしか見えないだろう。
「あれ……」
 彼女が気づいた! あとは双眼鏡から目を離した彼女に、プロポーズの言葉を告げるだけだ。
「何か、真っ暗」
「えっ…………」
 予想外の言葉に男は思わず聞き返した。
 ほぼ同時にその場にいた誰かの悲鳴が聞こえた。反射的に声のした方を向くと、そこにいた子連れの母親は丁度男の方を――正確にはその向こうを見て凍りついたように固まっていた。
 男もつられて振り返ると、そこには闇があった。
 ガラスの向こう側に巨大な黒いトカゲのような生物が貼りついていた。トカゲにしてはあまりに大きすぎる。口は人間を丸ごと呑み込めるくらいだ。
「う、うわああああああああああ!?」
 彼女も同時に悲鳴を上げていた。慌てて逃げ出そうとするが、展望デッキを覆うガラスには他にも3匹、合わせて4匹のトカゲが貼っていた。
 それが人類を脅かす天魔であることは、誰もが容易に想像できることだった。
 人々は慌てて下へ降りるエレベーターへと逃げていく。だが、どういうわけかエレベーターは機能していなかった。昼間だからよくわからないが、電気系統も完全にダウンしているらしく、電灯が沈黙している。
 男は咄嗟に携帯を手に取った。撃退士を呼ばなくては!
 だが、携帯は圏外の表示が出ていた。
「そ、そんな!?」
 エレベーターも動かない。携帯も繋がらない。
 展望デッキに閉じ込められた人々がパニックに陥るのは、当然の帰結といえた。

●黒い蜥蜴
 トカゲは、餌を欲していた。
 何かに惹かれるようにして向かった先には、人間がたくさんいた。
 餌だ。しかし、透明な壁がトカゲ達を阻んだ。尻尾で叩いてみたが、中々壊れそうにない壁だった。
 まずは、力を蓄えなくては。
 トカゲ達は、本能の赴くままにさらに上へと昇っていく。

●依頼
「依頼だ。通報があったのは武蔵野市近辺だが、現場はバベルエッジに移っている。どうやら、ディアボロ達がそこまで移動したらしい。ああ、バベルエッジってのは電波塔のことな。俺が子供の頃は有名だったんだがなあ」
 久遠ヶ原学園の一室で、中年の男は頭を掻きながら言った。この部屋にはプロジェクターとスクリーンが備え付けられており、今回の依頼には、事前に映像による情報が寄せられている。
「トカゲのような姿をしたディアボロが4匹、現在は東京バベルエッジの展望デッキの外側を這い回っている。通報の直後に、バベルエッジを中心に大規模な電波障害が発生しているが、恐らくはこいつらが原因だろう。これを見てくれ」
 中年の男はプロジェクターを起動させた。プロジェクターに接続されたパソコンには、報道機関から送られてきた映像データが入っている。
 それが、スクリーンに映し出された。
 映像は上空からの撮影によるものだった。ヘリコプターで、バベルエッジの周囲を衛星のようにゆっくりと周回しているらしい。距離は遠かったが、時折カメラがズームし、ディアボロの姿を捉える。女性の声が混じっているのは、隣にリポーターがいるためだろう。
 そこに、もう一台のヘリが近付いてきた。別の報道機関だろう。不注意にも、バベルエッジに大きく接近している。
「危ない!」
 と叫んだのは恐らくカメラマンだ。カメラは、ヘリに気づいたらしいディアボロに向けられている。
 そのディアボロの背中が、バチバチと青白い閃光を発した。ほぼ同時に、ディアボロの口から何かが飛び出し、近くまで飛んでいたヘリにぶつけられた。
 直撃したヘリに、異変が起こった。まるで勝手にネジが外れていくかのように、ヘリが独りでに解体されていく。
 一瞬のうちに、ヘリは爆発も炎も起こさずにバラバラになって墜落した。映像は、そこで終わった。
「ご覧のとおり、ディアボロの攻撃は少々厄介なものだ。見解では、対象を分解する力を持っているとのことだ。アウルは分解されないだろうが、スキルや攻撃がアウルへと分解される可能性はある。気をつけろ。気になるのは、地上にいた時点ではそんな攻撃を使っていなかったことだな……。
 ついでに言うと、現場が現場だ。全員を一気に連れていくことはできん。各自方法を考えておけ。その場につく間にも、ディアボロの攻撃にはくれぐれも注意することだ。いいな?」


リプレイ本文

●挟撃の進撃
 ディアボロの攻撃が電力もしくは電波に依存している可能性は高い。ならば、バベルエッジへの電力供給を一時的に絶てばディアボロの弱体化が見込めるはずだ。
 電力供給の一時停止は、即座に申請が通った。しかし、多少時間がかかるのは致し方ないことであった。
 かといって、それまでじっと待っていれば展望デッキ内に取り残された人々に危険が及びかねない。
 撃退士達は、即座に作戦行動に移った。
 部隊を二つに分け、一方はバベルエッジに外付けされている非常兼作業用階段から。もう一方は展望デッキより上空五〇メートルに待機させたヘリからの降下によって、現場へと向かう。
「皆で力を合わせて、何としても事態の打開を図らなくてはいませんね」
 非常階段組の楊 玲花(ja0249)が、階段を駆け上りながら口を開く。万が一のためにと、命綱となるロープを肩に通している。
「はちゅうるいのくせに、高いところが好きなのか……」
 その後に続くエルレーン・バルハザード(ja0889)が、独り言のように呟いた。彼女は、命綱の他に対害鳥用のトリモチつきネットを背負っている。
「ディアボロの頭悪いだけじゃないのかねぇ? 今のところ透過能力も使ってないみたいだし」
 そう答えたのは九十九(ja1149)だ。白い刺繍入りの黒い長袍(パオ)に身を包んだ、細い目をした少年である。彼は、事前に警察へ連絡し、バベルエッジ周囲の封鎖を頼んでおいた。
 階段を昇る者は、他に三人いた。そのうちの一人である神崎 咲(jb5028)は、まともな実戦はこれが初めてになる。今回の戦いで、自分の力を深く理解しようという意気込みはあるものの、不安がないというわけではない。
「お嬢ちゃん、失敗しても指詰める必要はねえんだぜ。気楽にとまでは言わないが、肩の力ぐらい抜いとけ」
 彼女の微かな緊張を察したのか、黒田 京也(jb2030)が語りかける。皺一つないスーツの胸元に六枚花弁の桜を象ったバッジが輝いている。
「は、はい。でも緊張してるのは、ちょっとわくわくしてるからだと思います」
「ほう、肝が据わってるねえ。安心したよ」
 一行は展望デッキまで直線距離で五〇メートルというところまで辿り着いた。ここから、一人だけ別行動をとる。カイン 大澤 (ja8514)だ。
「そっちは任せた」
 カインはぶっきらぼうな口調で言い残すと、展望デッキ内へと続く非常用ハッチの方へ走り去っていった。面倒くさい仕事だと思いながらも、その挙動に緩みは一切ない。
「では、私達も。降下組を守るために急ぎましょう」
 玲花の言葉に全員が頷く。そして、ディアボロの射程圏内へと足を踏み入れた。

●DIVE!
 展望デッキより、上空五〇メートル。ヘリはその位置で高度を保っている。真下にはバベルエッジの先端があるが、ここを伝って降りていくのは危険が伴う。
「ったく、折角の観光地だってのにのこのこ来やがって!」
 ヘリのスライド式ドアを開き、降下用のロープを垂らしながら獅堂 武(jb0906)は悪態をつく。下に臨む展望デッキに、何人もの人々が取り残されている。困っている人を放っておけない性格の彼は、危険の伴う降下の方が階段よりも早くたどり着けると判断したのだ。無論、敵の攻撃に備えた符の用意も怠ってはいない。
「じゃ、私も〜」
 と、何故か制服とブラウスのボタンを手早く外しているのは百瀬 莉凛(jb6004)である。かけていた丸眼鏡もパイロットに預ける。しかも、武のように降下用のロープも用意していない。
「さ、スカイダイビングと行きますか!」
「は?」
 武が聞き返すのとほぼ同時に、莉凛は飛び降りた。更に光纏を発動させる。
 すると、ボタンが外れて緩んでいた制服が、内側から膨れ上がっていく。光纏により、彼女の姿――主にスタイル――が元の妖艶なものへと戻っているのだ。それまでの地味な容貌が一転し、艶やかな色気を放つナイスバディへと変貌を遂げる。
 背中からは闇の翼が現れ、落下の勢いを利用し滑空する。莉凛はバベルエッジを大きく周回するようにして、ディアボロの位置を確かめていく。
「あっちに一匹、こっちにも、確か裏側にも一匹いたから――ありゃ?」
 ぐるりと一周終えた時点で、ディアボロの数が一匹足りない。
 その謎は、更にもう半周したところで解けた。
「やばっ、もう中にいるじゃん!」
 ディアボロのうちの一匹が、既に透過能力で展望デッキ内に侵入している!
 一方武は、ロープを伝っての降下を始めていた。目視で確認できるディアボロは二匹。それぞれ展望デッキの上部からこちらを警戒している。
 ディアボロのうちの一匹の背中が、バリッと青い閃光を発する。そしてその口から、紫色の球体を武目がけて発射した。
 降下しながら、武は符を構えた。
「相殺、相殺っと――?」
 敵の攻撃に向けて投げつけたはずの符が、手元に戻って来る。風が符を押し戻しているのだ。
(やべっ、降下しながらじゃ符は投げられねえ!)
 一旦降下を中断するも、紫色の球体は目前まで迫っていた。武は慌てて符を投げる。
 球体と符は、触れ合った瞬間に小規模な爆発を起こし、互いに消滅した。間近での爆発の余波は、避けきれるものではない。
「くそっ、これじゃあいつになっても……」
 武が舌打ちした直後に、二匹のディアボロが一斉に下方を向いた。
 階段組が到着したのだ。

●混乱
 カインがハッチから展望デッキ内に侵入した頃には、既に内部はパニック状態に陥っていた。
(なんだ、めんどくさい……)
 見れば、一匹のディアボロが既に内部にいるではないか。人々は、ディアボロとは対極の位置へ逃げようと右往左往している。
「お前ら、さっさとここから逃げろ」
 我先にと押し寄せる人々。誰も周囲のことなど考えていない。
「子供、老人が優先だ、まさか押しのけて行こうって恥さらしはいないよな?」
 カインが一括して、ようやく事態はスムーズに進んでいった。
 そして、エレベーターを内蔵している柱の陰から、ディアボロが現れた。カインを見つけた途端に、紫色の球体を飛ばしてくる。
 カインはそれを、蹴り落とすかのように足で受け止める。アウルの力を込めた蹴撃が、球体を破裂させた。
「こういうやり方も出来るか」
 だが、攻撃の余波までは防ぎきれない。だが、勝つためには不可欠なことだと思えば、関係ない。
 カインはそのまま弧を描くような軌道でディアボロに接近する。ディアボロの動き自体は、それほど早くない。
 あっという間に回り込んだカインは、130センチはあろうかという大剣をディアボロ目がけて振り下ろした。だが一撃でというわけにはいかない。
 ディアボロは首を柔軟に動かしながら、球体を飛ばし続ける。建物や人々を守るために、カインはアウルの力を込めた足でそれらを全て受け止めた。
 攻撃は、受け止める度に威力が強まっていた――否、アウルを相殺されたが故に、カインの防御力が下がっているのだ。
「報酬分は、働くさ――!」
 なるべく敵の正面に立たないようにしながら、カインは己が得物をディアボロに幾度となく叩きつける。互いに攻撃を避けない、削り合いの戦いだった。

●階段組
 京也がヒリュウを召喚した。いち早く展望デッキの上部へと向かわせ、共有した視界で敵の位置を確認する。
「おいおい、降下組の一人が早速手こずってるぜ」
 ワンテンポ遅れて上部へ到着し、二丁の銃でディアボロを牽制する。速射性と命中精度を高めた黒色の双銃が唸りを上げる。
 その後ろから、咲が巨大な和弓を構えた。
「記念すべき第一射です。この力でどこまで出来るのか、試させてもらいます」
 放たれた矢は、天翔ける翼の如く飛んでいき、ディアボロに突き刺さった。
 二人に向けて、ディアボロの内の一匹が反撃する。
 その紫色の球体に、九十九の放った矢が突き刺さり、空中で霧散した。その間に、九十九は阻霊符を発動させる。
「遠距離戦なら、安全に戦えますねえ」
 更にもう一匹、展望デッキを覆うガラスの壁を這っていたディアボロが、三人に向かっていく。
 そのディアボロを、玲花が同じく壁を走りながら追いかける。念のための命綱も、忘れてはいない。その手には、火遁忍術が記された巻物が握られている。
「喰らいなさい!」
 巻物を広げると同時に、幾つもの炎の刃が生まれた。それらがまっすぐに、ディアボロへと飛んでいく。ディアボロも反撃に出るが、互いの攻撃は擦れ違うようにしてぶつかった――クロスカウンターだ。
 がくん、と玲花は足場を失った。落下するかに思えたが、命綱がそれを留める。
(っ――補助系も相殺するのね?)
 再びスキルを発動したものの、迂闊には近づけなかった。
 展望デッキの上部に、エルレーンが到着する。命綱を支柱に括り付け、彼女は戦場のど真ん中に躍り出た。
「このっ! ぷりてぃーかわいいえるれーんちゃんがあいてだあっ、こいッ!」
 そこには、忍ぶことを捨てたニンジャの姿が燦然と輝いていた。三匹のディアボロが、一斉にエルレーンに狙いを定める。
 彼女の元に、空を飛んでいた莉凛がやって来る。
「既に一匹、展望デッキの中に入っちゃってるわよ!」
 莉凛が報告するも、エルレーンの目は彼女の胸元に釘付けになっていた。打ち合わせの段階では、莉凛はこんなにナイスバディではなかったはずだ。貧乳仲間だと思っていたのに……
「う、うらぎりものっ!」
「はぁ! 私なんもしてないんですけど!」
「おいおい、ディアボロ来てんぞ!」
 ロープを伝って降りてきた武が仲裁に入る。早速飛んできたディアボロの攻撃を、符を飛ばして相殺させる。
 更にもう一発、二発。立て続けに迫る攻撃。それらに向けて莉凛が数珠を振るうと、白銀の刃が真っ直ぐに飛んでいき、相殺する。
 エルレーンは、空蝉を用いて攻撃を回避する。
「もー、埒があかないよー!」
 エルレーンの弱音とは無関係なことだが、この瞬間、バベルエッジへの電力供給が一時的にストップした。

●削り合い
 神速のスキルは、あと一回しか使えない。カインはショットガンでハッチとは反対方向へ敵を惹きつけたところで、動きを止めた。
 人々の避難は完了した。あとは、目の前のディアボロを倒すだけだった。
 カインは、ディアボロの正面に立っていた。ダメージを受けすぎて、余計な身動きも取れない。
 ディアボロが、容赦なく球体を飛ばしてくる――が、一向にカインに衝突してこない。
 ディアボロの攻撃は、ゆっくりと近づいてきていた。先ほどまでの速度が、完全に失われている。電力供給がストップした影響なのだが、彼が知る由もない。
 カインは力を振り絞って、横へと逃げる。そのまま敵の側面へと回り込む――が、ディアボロが振るった尻尾に吹き飛ばされてしまう。
「がっ……」
 今のカインに、ディアボロが反応できないほどのスピードで動くことはできない。
 ディアボロも近接戦闘へと切り替えたのか、カインへゆっくりと近づいていく。
 しかし、動こうとしたディアボロの足元に、一本の矢が突き立てられた。
「うちが足止めするんで、とどめはお願いできませんかねぇ」
「……お前がやればいい」
「接近戦は、苦手なもんでね」
 九十九はそう言って、弓を構え直した。彼はハッチの近くにいたので、いち早く応援に駆けつけることができた。
 カインはそれ以上言葉を返さずに、武器を持ちかえた。鎖で繋がれた、一対の斧だ。
 ヌンチャクのようにそれを振り回し、アウルを込めた一撃をディアボロに向けて叩き込む。ディアボロの反撃は、九十九が尻尾を弓で射ることで封じ込めた。
「潰れてろ」
 ディアボロの脳天に、狼を模した斧が突き刺さった。ディアボロはYの字の形にぱっくりと裂けて、絶命した。
 ディアボロの近くに、小さな小箱が落ちているのを、カインは拾った。
 中には、指輪が入っていた。

●一斉攻撃
 展望デッキ上部では、異変が起こっていた。
 ディアボロは、自身の攻撃の速度が遅くなったと知るや三匹で寄り固まった。敵の攻撃は、乗っ取った電波によって加速させていたらしい。
 三匹が、上空に向けて同時に攻撃を発した。それらは即座にぶつかり合うと、とてつもない衝撃を伴い、爆発した。
「きゃっ!」
 その場にいた全員を、衝撃波が呑み込む。その勢いで、咲がバランスを崩した。
「おおっと、危ねぇぞ嬢ちゃん。スカイダイビングにゃぁ、少しばかり高さが足りないぜ?」
 近くにいた京也が、彼女の手を掴んで引き寄せる。命綱のおかげで、難なく落下を避けることができた。
「あんなの、連続されたら一たまりもないっての!」
 翼をはためかせ、莉凛が数珠を振るった。壁に貼りついた三匹のディアボロを、まとめて上部へと炙り出す。
 玲花が壁を伝いながら接近し、そのうちの一匹に狙いを定めた。攻撃はもう回避できると考え、接近戦に持ち込む。
 武器をフォトンクローへと持ち替え、アウルによる三本の爪と足技で応酬する。
 弾き飛ばされたディアボロを、武が待ち構えていた。柄に鬼の顔が彫られた片刃の剣を構え、刀印をきる。
 武の刀印に呼応し、数多の剣が彼の周囲に顕現する。それらは意思を持っているかのように舞い踊り、ディアボロを切り刻んでいく。
 そこに京也の嵐のような銃弾が降り注ぎ、ディアボロは木端微塵となった。
「決まったぜ!」
 武がビシッとポーズを決めているのを他所に、エルレーンが残る二匹へと向かっていく。
 トリモチを使い、一匹の動きを封じる――だが、もう一匹の尻尾が振るわれる。
「痛っ!」
 先ほどの時点で空蝉を使い切ったエルレーンは、まともにそれを浴びてしまう。追撃は、咲の放った矢がフォローに回ることで回避する。
「うう、後は任せたの、うらぎりもの……」
「だから裏切ってないし!」
 莉凛が(その大きな胸を揺らしながら)白夜珠から白銀の刃を出して応戦する。エルレーンも、トリモチと薙刀の二刀流でディアボロを圧倒した。意外と悪くないコンビネーションである。
「あと一匹か、鉛玉でも喰らっとけ……アウルか」
 トリモチで身動きの取れないディアボロに向けて京也が銃弾を見舞う。
 援護を受けて、双剣に持ち替えた咲がディアボロに斬撃を放った。少しずつだが、咲は己の力の使い方がわかってきたような気がした。
 よろめいたディアボロの下顎に、玲花のフォトンクローが突き刺さった。
 四匹のディアボロは、全て絶命した。

●仲直り?
 カインは頭痛と吐き気に襲われながらも、避難した人々を掻き分けて目当ての人物を見つけた。
「無事に脱出できてよかったな、連中」
 女性と手をつないだ男に、指輪のケースを差し出した。
 戦いが終わり、莉凛は光纏を解除した。眼鏡をかけて、地味な姿へと戻る。
「わたし、信じてたんだよ、ずっと」
 打って変わって笑顔になったエルレーンが、彼女に言った。その目は、控えめになった胸元へと向けられている。
「なんか……複雑!」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 無傷のドラゴンスレイヤー・カイン=A=アルタイル(ja8514)
重体: −
面白かった!:17人

『九魔侵攻』参加撃退士・
楊 玲花(ja0249)

大学部6年110組 女 鬼道忍軍
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
無傷のドラゴンスレイヤー・
カイン=A=アルタイル(ja8514)

高等部1年16組 男 ルインズブレイド
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師
月の雫を護りし六枚桜・
黒田 京也(jb2030)

卒業 男 ディバインナイト
銀槍の舞闘姫・
セレスティア・メイビス(jb5028)

大学部7年309組 女 ルインズブレイド
V兵器探究者・
百瀬 莉凛(jb6004)

大学部3年88組 女 アカシックレコーダー:タイプB