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マスター:ウドン・コナー
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/17


みんなの思い出



オープニング

●雷鳴
 新宿から少し離れたところに、巨大な自然公園が広がっている。
 名を、新海御苑という。
 元は有名な資産家が私財を投じて作った個人所有の庭園だが、昭和初期には都に所有権が譲渡された。それ以降は、国民公園として一般開放されている。
 都会のど真ん中に作られた――というより、この庭を避けて都心化が進んだ――自然のオアシスである。
 古きよき日本庭園から、フランス式整形庭園、イギリスの風景を模した庭園などが広がっており、すぐ隣に建っている高層ビル群とは対照的に鮮やかな彩りに包まれている。
 だが、天気は生憎の大雨であった。黒雲が立ち込めた空から、大粒の雨がノイズのような音を立てながら降り注いでいる。
 とはいえ、人がいないわけではない。最近、とあるアニメーション映画の舞台になったこともあり、むしろ平日の昼間だというのにぽつぽつと人影が見受けられる。
 特に学生服姿の者が多く、いわゆる聖地となった日本庭園付近を談笑しながら歩いている。
「ここだここ、主人公とヒロインが出会った休憩スポット」
「写真撮っとこうぜ」
「っつーか学校サボって聖地巡礼とか、何やってんだ俺たち」
 と言いつつも、男子生徒達の顔は朗らかだ。
「ま、あの映画の主人公もサボってたわけだし、いいんじゃね?」
 カメラ機能を持った携帯を構えながら、彼らは映画に登場した際のアングルを再現しようと奮闘し始める。
 雨足はどんどん強まっていく。生徒達の膝下はずぶ濡れになっているが、気にも留めていないようだった。むしろ、映画においても雨のシーンが多かった故に、喜んでいるくらいだった。
 絶え間ない雨のリズムは、他の全ての音を掻き消していた。
 だが――
「……今揺れなかったか?」
「地震? マジで?」
「マジでマジで――あ、また揺れた!」
「ってか、さっきからずっと揺れてね?」
 更に言うなら、揺れているのは地面だけではなかった。空気そのものが振動し、その場にいた男子生徒四人の皮膚を震わせている。
 その時――まばゆい閃光が彼らの目を襲った。
 同時に、紙を破った音を何倍も酷くしたような轟音が、耳をつんざく。
 雷だ。
 光と音がほぼ同時に聞こえた。ごく至近距離で、落雷が発生したのだ。
 しかし、彼らには落雷に驚く暇も与えられなかった。
 それどころか、命を奪われていた。
「バオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!」
 獣の嘶きが、雨の御苑内に響き渡った。牛を何倍も大きくしたような体躯。それを支える四本の足は、一本一本が人間大の大きさを有している。
 何より際立つのが、額から伸びる一本の角であった。獣は巨体だが、それでも身に余るほどの、丸太のような角だ。
 その角に、先ほどまではしゃいでいた四人の男子生徒が串刺しになっていた。胸部にぽっかりと穴を穿たれ、全身が真っ黒に焦げている。苦しむ間もなく絶命したのが、せめてもの救いか。
 獣は鬱陶しそうに首を振って、四つの死体を放り投げた。
 既に御苑内には、同じような死体が幾つも転がっている……。

●情報収集
「ったく……こんな酷い天気だってのに空から偵察だなんてよ」
 嵐のような空模様の中、撃退士として現場に派遣された堕天使はひとりごちた。土砂降りの雨は透過できるものの、風は防げないし、視界も悪い。先ほどから雷も五月蝿い。
 一羽の鳥も飛んでいない空を、わざわざどうして天使が飛ばねばならないのだろうか。

 都心にある御苑に、巨大な獣型ディアボロが出現したとの情報が入ってきたのは、先ほどのことだ。
 既に御苑内にいた生存者は避難が完了している。
 ただ、ディアボロの詳細が未だに掴めていない。わかっているのは、御苑の中をひたすら走り回っているということだけだ。
 そこで、たまたま久遠ヶ原学園で暇を持て余していた彼が、情報収集のために駆り出されたというわけである。敵が御苑内から出ないというのであれば、できるだけ情報を集めてから討伐に向かった方が効率がいい。
 しかし、都会のオアシスとも言うべき場所がディアボロに蹂躙されている事態は、早めに対処しなければならない。
「急ぐのかじっくりなのか、どっちなんだかねえ……っと、此処か」
 ぶつぶつと文句を垂れている間に、撃退士は御苑の上空にたどり着いた。
 御苑内の自然は、見渡す限りで半分以上は破壊されていた。自然も、建物も、人も。
 何人もの犠牲者が血を流して横たわったまま、雨に濡れている。
 大半は体の一部を貫かれている焼死体だが、中には人間の尊厳ごと踏み潰されて原型を留めていないものもあった。
 天使である彼からすれば、人間の死など取るに足らないことではある。だが、幾つもの死体を眺めていて、全く感情が動かないわけではない。ただひたすら、胸糞悪い。
 と、例のディアボロが姿を現した。御苑のほぼ中心に位置する、イギリス風景式庭園の中を駆け回っていた。
 上空五〇メートルから見下ろしているというのに、雨音を遮るほどの足音が響き渡ってくる。角を含めなければ、全長は十メートルほどといったところか。まるで暴走した巨大なトレーラーだと、彼は思った。
 ディアボロが丸太のような角を持った頭を振り回しながら、吼える。思わず耳を塞ぎたくなるほどの轟音に、撃退士は顔を顰めた。
「うるせぇなあ……」
 とはいえ、近づいてみないことには情報収集もできない。ディアボロの視界に入らないように、追いかけるようにして背後につく。
 その時、ディアボロの角が一瞬、眩い光を発した。
「がっ――!?」
 同時に、撃退士の背後から雷の槍が襲い掛かった。透過能力が通用しない――魔法攻撃だ。
(やべえっ、このままじゃ……)
 撃退士がそう思ったときには、既に落下が始まっていた。
 ディアボロが方向転換をしているのが目に入る。明らかに、墜落中の撃退士を狙っていた。
「くそっ――たれ!」
 撃退士は、残った力を振り絞って身をよじった。ディアボロの巨大な角の先端を、寸前のところでかわす。
 だが、ディアボロそのものの突進は回避できなかった。スピードと重量の乗った一撃に、撃退士は人形のように跳ね飛ばされる。
 日本庭園付近の茂みへ突っ込んでも勢いは止まらず、そのまま御苑の西端にある上の池に落下した。
「――っぶはぁ!」
 なんとか岸まで辿りついたものの、もう彼には戦うどころか歩く力も残っていなかった。持ち歩いている携帯が防水機能付きでよかったと、彼は心底ほっとした。
 情けないことだが、応援を要請するしかない。

●緊急出動
「すまないが諸君にはすぐにでも新海御苑へと向かってもらいたい」
 そう告げる壮年の講師の表情は暗い。
「御苑内に巨大な四足歩行のディアボロが出現したという事態は、既に知っての通りだ。だが、情報収集のために先行させた撃退士が、そのディアボロの奇襲を受けて動けない状態になってしまった」
 講師は机の上に、SDカードを置いた。市販されている一般的なものだ。
「ここに、その撃退士からの最後の通信が記録されている。僅かだが、ディアボロに対する情報も含まれているから、移動中に耳にしておくといい。
 ディアボロの討伐は勿論だが、先行した撃退士の安否も心配だ。すぐにでもその場から避難させてやってくれ」


リプレイ本文

●索敵
 新海御苑は、相変わらず周辺一帯を飲み込む豪雨の真っ只中にあった。雨風ともに強く、傘など役に立たない勢いだ。
 嵐に見舞われる御苑の中を、一角獣にしてはずんぐりとした猛牛のように巨大なディアボロが駆け回っていた。木の幹のような四肢で大地を叩きながら、イギリス風景式庭園ぁら北口へと向かっている。
 だが、決して庭園の外には出なかった。庭園の中で暴れる闘牛さながらに、ディアボロは東口方面へと進路を変える。
 その様子を空中から窺っていた天音 響(jb6433)は、すかさず仲間の撃退士達に連絡を入れた。地上五十メートル以上からではあったが、撃退士が見逃す距離ではない。
「あ、今ディアボロが東口に向かっているでござる!」
「了解しました。負傷した撃退士を救助した後、イギリス風景式庭園で合流しましょう」
「は、はいわかりました!」
 彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)からの返事に、響は緊張気味に応じた。おかげで、口調が敬語調になっている。
 高度を下げて、日本庭園へと向かう。ディアボロは丁度正反対の方向にいるので、雷攻撃の心配はないはずだ。
 無事、庭園内へと降り立つ。おそらく、味方の撃退士も作戦通り着いている頃だろう。
 目当ての負傷した撃退士は意外にもすぐに見つかった。地図でいうところの"上の池"の縁に聳えた樹木に凭れた状態で、目を閉じている。
「大丈夫でござるか!?」
 肩を揺すりながら、ダンディな色気に満ちたバリトンボイスで、呼びかける。
 幸い、撃退士は気を失っていただけのようだ。が、声の主と顔のギャップに大声を上げた。
「ど、どうもありがとうお嬢さ――って腹筋! ふんどし! 巨乳! うっ……」
 再び気を失いかける撃退士を、響は慌てて担いだ。
「あわわ……ど、どうしましょう! とりあえず運ばないと!」
 筋力の成せる技か、撃退士を抱えたまま、響は軽々と飛び立った。庭園を囲う木々を超えると、天羽 伊都(jb2199)が手配しておいた救急車がすぐ手前で待機していた。
「此方の方の治療をおねがいしますね。あ、危険ですので、早急にここから離れてくださいね」
 救急隊員の用意した担架に撃退士を乗せ、響は恥ずかしそうに身をクネクネとさせる。
 揺れる巨乳、盛り上がる腹筋、翻るふんどし。
 救急隊員達は、色んな意味で目のやり場に困った。

●ファースト・コンタクト
「……こちらに向かって来るようだ」
 鋭敏な聴覚を持ったリーガン エマーソン(jb5029)が告げた。声は冷静そのものだが、それは戦闘開始の合図に他ならない。
 彼の扱う銃はオルプニノスH17。射程距離を犠牲にし銃そのものの強度を高めるようなカスタマイズが施された、ダブルアクションの自動式拳銃だ。消炭色の銃身が、雨に打たれて鈍く光る。
「では、作戦通りにいきましょう」
 作戦立案者のギネヴィアが促す。響からの連絡どおり、ディアボロは東口方面からやって来た。
 イギリス風景式庭園には、響を除く全撃退士が待機している。
「うーあー、凄い雨だねーっ」
 氷月 はくあ(ja0811)は、左右に留めた前髪を気にしながら空を見上げた。この風と雨では、いつ髪留めが取れてしまうかわかったものではない。
 彼女よりも一歩前に出ていた伊都は、迫ってくる敵影に目を凝らしていた。
「ん、ユニコーンみたいなディアボロっすかね? にしてはでか過ぎる印象が……」
 彼自身、自然保護などという大義名分には全く興味がない。だが、明らかに図体のでかいディアボロがいずれ野放しになるなどという事態は避けたかった。
「あの角、すっごくほしいのー♪」
 同様に、敵影を発見した香奈沢 風禰(jb2286)は、ディアボロを指差しながらはしゃぐ。
「いやさすがにあの大きさだと……」
 隣にいた私市 琥珀(jb5268)は苦笑した。およそ戦いに赴く戦士達とは思えないやり取りではあるが、彼の手には既に洋弓が構えてあった。明るい性格の裏で天魔に対する闘志を静かに燃やしている。
「それにしても、どこからやって来たんでしょうね」
 ギネヴィアは隣にいた撃退士に尋ねたつもりだったが、返事はなかった。
 彼女の隣にいたヴォルガ(jb3968)は、もはや戦闘に集中しているようだ。元々、あまり喋る方ではない。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
 ディアボロもこちらに気づいたのか、耳を劈くほどの雄叫びを上げた。
「っしゃーいくぞー!」
 全長二百センチを超える大剣を担いだ伊都が先陣を切った。マーキングのスキルを持ったはくあを守るのが、初回遭遇時の役目である。
 同じようにエマーソンとヴォルガも、はくあの援護に向かう。
 ディアボロとの距離が一気に縮まり、互いの射程距離に入る。四人は回りこむようにして、ディアボロの側面から接近戦に持ち込む。
 回りこんだ彼らよりも早く、ギネヴィアがディアボロの前に躍り出た。すれ違いざまに、敵の前足めがけて右文左武を走らせる。が、ディアボロの皮膚は硬く、通常攻撃ではかすり傷を作るのがやっとだった。
「……!」
 ギネヴィアは前方に振るわれた左足を紙一重で回避し、後ろ足にもう一撃を加える。ディアボロの足を、まるで闘牛士のようにかわしながら。
 その間にディアボロが自らの角に雷を落とした。電波塔の役割を果たしているのか、一度角に落ちた雷は、側面から迫っていた伊都達に襲い掛かる。
「うおぉおっ!?」
 回避できない攻撃ではなかったが、伊都は避けなかった。大剣を盾にするように構えながら、自ら雷へと飛び込んでいく。
「今っスよ!」
 攻撃後の隙に乗じて、伊都の背後からはくあが飛び出す。アウルを特殊な形で練りこんだ弾を、ディアボロに向けて投げつける。その拍子に、髪留めが風に吹かれて飛んでいった。
 アウルの弾は、ディアボロに命中するとペイントボールの如く弾けて溶け込む。
「これで、わたしの手の上……」
 ほぼ同時に、ヴォルガのデュラハンブレイドが、ディアボロの足を切りつけた。ギネヴィアと同じ箇所を狙うことまでは、さすがにできない。
「フィーも行くなのなのー♪」
 後衛で控えていた風禰も続く。手の中に生まれた札を迷いなく投擲する。札はディアボロの顔面に命中し爆発した。だが爆煙の中から姿を現したディアボロには、些かの勢いの衰えも見られなかった。
 エマーソンが角に向けて発砲するが、射程を犠牲にした銃と天候が災いし、弾丸は逸れてしまう。
 敵の進行方向は、日本庭園へと向かっていた。
「おい、あっちには!」
 伊都が叫ぶ。庭園の西側は、彼が救急車を手配した――正確には、負傷した撃退士がいる場所である。
「いいえ、もう救助は済んでいるはずです。ですが、響さん一人では――」
「僕が行きます!」
 ギネヴィアの言葉を制した琥珀が全力疾走し、ディアボロを追いかけていく。

●響のファースト・コンタクト
 背の低い木々が茂る日本庭園に、けたたましい咆哮と蹄の音が響き渡る。
 響が、ちょうど樹木の壁を飛び越えて御苑内にいる仲間達に合流しようとしていた頃であった。
 翼を広げ、樹木の向こう側に臨む嵐と大自然の風景を切り裂くかのように、ディアボロがこちらに向かってきているではないか!
「ひゃあ!」
 響は突然の事態に危うく高度を――そこに、ディアボロの雷撃が飛んできた。上空からではない、額から生えた巨大な一本角から直接放たれたのだ。
「あぅっ! ふんどしが焦げちゃう!」
 ふんどしは無事だったが、高度を保っていることはできなかった。落下した先に、ディアボロの角が迫ってきている。
「危ない!」
 全力でディアボロを追いかけてきていた琥珀が叫ぶ。だがマーキングを行ったはくあから進行方向を聞きそびれていたため、先回りはできていない。
 武器もスキルも、使用している暇などなかった。琥珀は全力疾走した状態から低く跳び、響とディアボロとの間に割って入る。
(これ以上、誰も……!)
 直撃は回避しなければと、琥珀は身を捻る。
 ディアボロの前足の関節が、膝蹴りのように琥珀を打った。
 響の高度が低かったことが幸いし、直撃は避けることができたが、そのまま地面を何度か跳ねる羽目になった。
 ディアボロは琥珀を撥ね飛ばした後、そのまま樹木の壁に沿って走っていった。琥珀も響も、その様子を確認する余裕はなかった。
「だ、大丈夫ですか!?」
 琥珀の元に響が駆けつける。色々と揺れているが、それどころではない。
「響さんこそ、平気?」
 顔を見られ、響は思わず両手でそれを制してしまう。
「は、はい! と、とにかく一旦中央まで戻りましょう!」

●先回り
 マーキングを行ったはくあが、ディアボロの進行方向を掴んだ。
「皆さん、ディアボロは南口に向かってます」
「ここからなら間に合うはずです。作戦通りにいきましょう」
 地図を頭に叩き込んだギネヴィアが告げる。
「よっしゃー南口だな!」
 先ほどダメージを受けたというのに、またも伊都は率先して先陣を切った。それに、ヴォルガやエマーソンが続く。
「フィーは私市さんが心配なのー」
 風禰は日本庭園の方面に目を向けていた。
「先ほど響さんから連絡がありました。ディアボロの攻撃を受けたようですが、なんとか無事のようですよ」
 ギネヴィアは淡々と答えた。
「……ですが、さすがに二人でディアボロを相手にする事態は避けたいですね。風禰さんはここで待機していてください」
「了解なの!」
 風禰は元気よく答えた。もし響と琥珀が襲われそうになったら、自分が注意を惹きつけるつもりだった。

●南口
 伊都は迫りくるディアボロを前にして、光纏を発動させた。瞳は金色に輝き、両腕には、疼きに呼応したかのように黒い焔が渦巻く。
「っし! 先回り成功ッスね!」
 伊都は隣に立つヴォルガに言ったのだが、やはり返事はない。代わりに、闘志が剣を構える姿から伝わってくる。
「今度は外さん」
 エマーソンは二人から少し離れた位置で銃を構えた。何を根拠に此処が聖地と呼ばれているのかは知らないが、守らなければならない土地なのだろう。ならば撃退士の仕事は、一つしかない。
 少し遅れて、はくあとギネヴィアも合流する。この場は、五人で戦う。
 ディアボロが己の角に雷を湛えた。攻撃の合図だ。
 だが、はくあの方が速い。自らのアウルを雷の矢の如き形状に変化させる。
「雷なら、わたしも負けないのです……」
 マーキングのおかげで、進行方向は文字通り手に取るようにわかっていた。後は、風を読み、胴を目掛け――
「削り、穿て、ヴァジュラ!」
 放つ!
 はくあの射た金剛雷は、彼女の読み通りディアボロの胴に斜めから突き刺さった。
「オオオオオオオオオオ!」
 突然の衝撃に、ディアボロが後ろ足のみで立ち上がり、嘶く。
 その間に、木々の幹を蹴りながら接近していたギネヴィアが、一際高い跳躍でディアボロの頭上に降り立った。
 そのまま、剣を突き立てるようにして兜割りを叩き込む。頭部は脚部ほど、筋肉の鎧に覆われてはいなかった。
 鋭い衝撃が走り、ディアボロは振り上げていた前足を強く地面に打ち付ける格好となった。
 間髪を入れず、もう一撃。確実に効いているのは、明らかだった。
「今です!」
「待ってたッスよ!」
 ギネヴィアの合図に真っ先に応じたのは伊都だ。己が得物にありったけの力を込めて振りかぶる。狙う歯ディアボロの角だ。
「っらぁ!」
 曇天よりもどす黒く、それでいて光り輝く衝撃波が、伊都の持つ大剣から放たれる。一直線にディアボロの角に向かい、弾ける。
 続けて、エマーソンの弾丸が今度こそ角に炸裂した。既に伊都の一撃を受けていた角に、罅が入る。
 最後にヴォルガが、闇を纏ったデュラハンブレイドで前足に斬撃を与える。狙ったとおりの箇所に命中し、ディアボロは大きく体勢を崩した。ギネヴィアは振り落とされる前に、ディアボロから離れる。
 そしてその衝撃で、角に入った亀裂が広がり――そして砕けた。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
 ディアボロが、一際大きい咆哮を上げる。根元の近くで折れた角の先から、突如電撃が拡散した。
「何っ!?」
 今まで雷攻撃を放っていた他に、体内に電撃を溜めていたのだろう。角が砕け、栓の抜けた状態になったのだ。
 電撃は四方八方に広がり、その場にいた全員は回避できなかった。足元にいたヴォルガが、一番その被害を受ける形となった。
 ディアボロは体勢が崩れたまま、ほとんど三本の足で再び走り出した。だが、その動きは目に見えて遅くなっている。
「なるほど、雷はいわばあのディアボロにとってのバッテリーのようですね」
「え、そうだったんスか?」
「いえ、ただの勘です」
「勘!?」
「おいおい、戦いは終わってないぞ」
 ギネヴィアと伊都のやりとりを、エマーソンが冷静に咎めた。
「ディアボロはまた中央に向かってるよ!」
 はくあがマーキングを頼りに進行方向を導き出す。
「では、行きましょう。あれならすぐに追いつけます」
 ヴォルガが、黙って頷いた。

●最後の爆炎
「あ、ディアボロなのー!」
 風禰が指差した先から、ディアボロが迫っていた――が、
「角がなくなってるし、勢いも弱い……仲間達が頑張ってくれたみたいだね」
 琥珀は少しだけほっとした。だが、まだ油断はできない。
「わ、私も頑張ります!」
 響のふんどしは強風にあおられて、モロにめくれていた。だが全く気にしていない。
「猛獣には鎖が基本ですね! 効果があるといいんですが……」
 響が先行する。聖なる鎖を発生させたが、響がそれを振りかざしている姿は、何かのプレイのようにしか見えない。
 だが、鎖はアウルによってもたらされた力そのものだ。勢いを失っているディアボロに難なく絡みつき、その動きを封じる。
 琥珀の洋弓が射た弓が、続けてディアボロに突き刺さっていく。
「みんなの後からどっかんなのなのー!」
 トドメと言わんばかりに、風禰が炸裂符を次々と放っていく。
 連鎖的な爆撃によって煙が生じたが、その向こうからディアボロが姿を見せることはなかった。
 ディアボロは、完全に沈黙した。

●雨上がり
「うわー、すごいい天気、だ、ねー……」
 体力的にも頭脳的にも疲れ果てていたはくあは、晴れ渡った空を仰ぎながらぱったりと眠り込んでしまった。
 その横で倒れ伏しているディアボロの首を、ヴォルガが無言で切り落としている。無慈悲なディアボロに対する、当然の報いだった。
「角はないのー?」
「さっきエマーソンさんに聞いたけど、ディアボロが踏み潰して粉々なんだってさ」
 琥珀の返事に、風禰は残念そうに顔を伏せる。そのエマーソンは、御苑の片隅で犠牲者への祈りを捧げていた。
「ところでこのディアボロ、どっから出てきたんスかね?」
「恐らくは、地中からゲリラ豪雨に反応したのでしょう」
 伊都の問いに、ギネヴィアが答える。
「マジすか?」
「いえ、ただの勘です」
「また勘!?」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 黒焔の牙爪・天羽 伊都(jb2199)
 種子島・伝説のカマ(緑)・私市 琥珀(jb5268)
重体: −
面白かった!:3人

撃退士・
彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)

大学部6年319組 女 鬼道忍軍
ヴァニタスも三舎を避ける・
氷月 はくあ(ja0811)

大学部2年2組 女 インフィルトレイター
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
種子島・伝説のカマ(白)・
香奈沢 風禰(jb2286)

卒業 女 陰陽師
遥かな高みを目指す者・
ヴォルガ(jb3968)

大学部8年1組 男 ルインズブレイド
徒花の記憶・
リーガン エマーソン(jb5029)

大学部8年150組 男 インフィルトレイター
種子島・伝説のカマ(緑)・
私市 琥珀(jb5268)

卒業 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
天音 響(jb6433)

大学部3年244組 男 アストラルヴァンガード