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マスター:土屋 右左
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/03/03


みんなの思い出



オープニング

 学園内の一角に、煙突からもくもくと白い煙がたなびく建物がある。貧乏寮に住まう学生向けの銭湯だ。お金はかかるが、場所によっては共同浴場よりも時間に融通が効き、学生以外の利用者もあって客の入りはそこそこである。冬場は体を温めるために通う学生も多い。
 夜空にはだんだん細くなる月の出ている頃、のれんをくぐって女性が一人顔を出す。背の高い女性だ。身長は180cmほどあるだろう。頬は熱気で赤くなり、ほんのりと安らかな表情を浮かべていたがひやりとした外気に触れて身を震わせた。そして彼女は……不意に細いため息をこぼし、あたりを気にしながら家路につく。
 銭湯を出てから小さな商店街を抜けて路地にさしかかった所で、彼女は足を止める。そこには両側が板張りの壁で他に何もない、ただただ、薄暗く人気に乏しい路地が続いている。誰の姿もない。だが、いつもこの路地を通った時から誰かの気配と視線を感じる。けれど、思い切って気配のしたほうを見ても誰もいないのだ。道を変えようにも、ここを通らないと彼女の住む寮に帰るためにはとんでもない遠回りをしなければいけない。幅3mほどの細く狭い路地が600mほども続く、不気味な場所。学園島で建物が乱立したせいで出来た、コの字型の不自由な道。最近、彼女がお風呂に行った帰りはいつも、この妙な気配を感じるのだ。だがはたして……彼女自身より高い所から見下ろしてくるような気配は、あるのだろうか? 彼女にはわからない。気のせいだと思いたいが、ここまで続くと誰かいるのではないかという考えを捨てきれなくなる。それも、帰りが遅い日は、いつもこうだ。かくして今日もそこにいない何かを警戒するような仕草のまま、彼女は路地に足を進めざるをえないのである。
 寮が密集する地域を抜け、ようやく家たどり着いてほっとした彼女は、不意に怯えた様子で背後を振り返った。気配が増えたような気がしたのだ。けれどそこには……やはり、誰もいない。彼女は鍵を開けて、素早く家の中に潜り込む。
 彼女の姿をじっとりとした視線で見つめる2つの影の正体に、彼女は気づかない。ただ、この不穏な気配を三週間前から感じていた彼女の心的負担が大きかった事であろうことは、想像に難くない事であろう。後からやってきた青い全身タイツのストーカーが壁をはいずり、先に張り付いていた赤い全身タイツに話しかける。

「あの子の湯上がり姿、やっぱいいな。ひへ、へへへ……」
「そろそろ、そろそろやろう。そろそろやろう」
「そうだな、そろそろ。月の無い夜に。ひへへ……」

 不気味な声と共に、赤い全身タイツと青い全身タイツの男は立ち去っていく。


「ストーカーを何とかして欲しい」
 依頼の内容はシンプルといえばシンプルだ。言われた場所に言ってみるとそこは銭湯。カラカラと古い引き戸を開ければ、Tシャツに半纏、それにジーンズを履いただけのシンプルな格好をした女性が一人いた。君たちが依頼を受けてきたと言うと、彼女は説明を始める。
「被害にあってるのはわたしじゃないんだ」
 銭湯の番台である女性はまず、そう説明した。疑問符を浮かべる君たちは状況を伝えられる。なんでも、彼女が働く銭湯の常連さんが、銭湯からの帰り道に妙な気配がするとこぼしていたらしいのだ。毎週来てくれる彼女の様子に、不審感を覚えた彼女が問うた所、事態が判明したらしい。
「何処かに相談したらと言ったんだけど、当人お金が無い上忙しいらしくて、ねえ。というわけで、あたしから依頼させてもらう事にしたんだ」
 風呂に来る暇はあるのにねえ、と彼女は笑った。むしろそれこそ不審な気配を増やすだけなのでは? 首をひねる君たちに、彼女は話を続ける。
「いやなに、何もないならそれでいいのさ。過剰に何か心配しているだけかもしれないし、ね。でも何かあった時が問題なんだ」
 彼女が銭湯に来るのは週一度の決まった日。なので今週彼女の来る日に、彼女を護衛して欲しいとのこと。笑ってはいたものの、彼女の表情は真剣だ。
「捕まえたら警察に引き渡してくれていい。あと再発防止等を考えると、不必要に彼女に接触したり、直接護衛するのはあまりよろしくない。相手が出てこなくなって、君たちが護衛から離れた途端、なんてことになったら困るから、ね」
 なるべく影から彼女を守る事が重要になりそうだ。ストーカーは学園に通っているものである可能性は高い。人間であった場合は、殺害するのはやめておいてほしいこと。
「出せる報酬はあまり多くないんだけど、どうか彼女のことを頼むよ。ああ、それと」
 彼女は思い出したように言葉を継ぎ足した。
「あたしからの依頼だってことは、言っても言わなくても構わないよ。そこは依頼とは関係無しに、君たちの判断に任せるから。ただもし彼女に見つかって疑われたら、番台さんに言われたって言えば多分信用してくれる、と思う」
 信用という意味で重要な言葉を最後に、君たちは依頼に臨む事になった。夕方の空に浮かんだ月は、もうそろそろ欠けて無くなりそうな様相を呈していた。



リプレイ本文

●1:調査開始
 依頼を受けた翌日から、撃退士達は行動を開始した。まずは背景の洗い出しと、現地の確認からである。事前に犯人の洗い出しに向かったのは犬乃 さんぽ(ja1272)、ダッシュ・アナザー(jb3147)及び江戸川 騎士(jb5439)、の三人である。
「正体が分かった方が護りやすいかなと思って、念の為ね。ここのお客さんで、急にこなくなった人とかいない?」
「うーん……すまないね。そういうお客は心当たりがないな」
 さんぽは番台の女性に、事件の犯人に心当たりがないか問うたが、反応は芳しくない。その後ダッシュと騎士はいくつか質問をしたり受け答えをしたあと、やがて納得の行く答えが貰えたのだろうか、何かを得た面持ちで銭湯をあとにした。
 
 その後、三人は現地確認に向かい、既に現地にて確認作業をしていた麻生 遊夜(ja1838)、来崎 麻夜(jb0905)、神埼 累(ja8133)、桜榎(jb8884)の四名と合流する。
「罠は夕方以降に仕掛ければいいな」
 桜榎はひと通り通路を確認したあとに、少し離れた場所から路地を眺めた。一応かろうじて一般道なのだ、少ないとはいえ、昼間は多少の人通りがある。事前に確認しておいたのは、正解だったようだ。
「見張ってる場所が分かれば、姿が見えなくたって大丈夫だよね?」
「ああ。推測にしかならんが、ある程度の範囲は絞れるだろう」
 さんぽの案に、遊夜は、犯人の能力の推測及びその行動手順を推測しながら路地の観察を行ったあとらしい。得るものはあったようだ。
「ボクとしては先輩とデートが出来たのは役得だけど……捕まえるまでは油断しないようにしなきゃね」
 どうやら麻夜は遊夜とデートのふりをして観察していたらしい。だがその目は乙女の敵に対する敵意にあふれていた。
「見られてないとも限らんからな、慎重に行って損はない」
「ええ。それについてはわたしも同意ね」
 累は、路地を隠し撮りしたデジタルカメラの画像を確認しながら、遊夜の言葉に同意する。できるだけ秘密裏な行動を主としたため、派手に動かず、見つけた監視場所で皆は話をしている。警戒していて損がない事は間違いない。
「斡旋所や裏ネットには依頼無し、だ。あと番台の人に警察への相談はしておいてもらったぞ」
 騎士は彼個人が行った調査と、銭湯での結果を報告する。彼は番台の女性を説得し、事前に警察に相談を行って貰う事にしたのだ。
「了解。あああと、女性の保護については任せる。手荒でも大丈夫とのことらしいから、強引にでも捕獲させてもらうぞ」
 桜榎の言葉に、遊夜は黙して待機していたダッシュを見た。
「予定通り、マスターの……ご随意に」
 彼女は小さく頷いてからその場をあとにする。主人に与えられた目的を遂行するために。
 遊夜は皆に仔細を説明し……そして彼らは再び、各々の行動に戻っていった。来るべき時に備えて。



●2:月の無い夜には
 そして、あっというまに作戦当日がきた。
「よし、やりましょうか」
「作戦実行、行動を……開始する」
 累とダッシュは各自の行動へ。遊夜、麻夜、桜榎の三名は現場近くで護衛対象が来るまで索敵及び待機。そして、彼女を影から護衛するのはさんぽと騎士の両名。月のない冬空の元、21時を回った頃である。風呂から一人女性の女性が出てきた。彼女を尾行する二人。彼らもストーカーに勘違いされそうなものだが、女性のほうは気づいた様子もない。いや、何処かぎこちなくあたりを気にしているようだが、彼らを見つけられていない様子だ。
「犯人、一体どんな奴なんだろう?」
 女性を追尾しながら、さんぽはそんな言葉を漏らす。まだ見ぬターゲットの姿を想像しつつも女性へときっちり意識を向けている辺りは流石にプロフェッショナルである。
「準備は万全、と。出てきたらどうしてやろうか」
 準備してきた捕縛用のロープがあることを確かめながら、騎士はメールで皆に連絡を行っている。連携が重要だという認識は共通している故だ。襲撃をイメージしつつ、二人はそっと彼女を追う。

 一方その頃の待機組。ストーカーが既に現れている事を想定し、時折場所を変えつつ辛抱強く身を潜める。だが時折、ふわり、ふわりと宵闇の空を動く影もあった。麻夜と遊夜の二人である。
「役得、役得ー♪」
 小さな、しかし楽しそうな声で呟く麻夜。彼女の得意な時間に、愛情を持つ先輩と一緒となればテンションも高くなろうというものである。落ちると危ないという名目の元、ボロ屋の屋根から屋根への移動は、彼を目一杯抱きしめながら。しかし見つからぬよう抜かりはなく、Silent DanceとShadow Stalkerで宵闇に身を潜め、漆黒の翼で飛び移っていた。おかげで、音も気配もほとんどせずに移動できているのだが。遊夜の方はといえば、夜空を飛ぶ間も壁と壁の隙間に注目しながら移動している。
「皆からの連絡は、と……向こうは銭湯を出たみたいだな」
「ん。あとは……やっぱり自宅前だね」
 彼女の自宅前の屋根にふわりと着地した後、遊夜は連絡内容を確認する。遠くの屋根では、トラップを張り終わった桜榎が一息ついていた。あたりの様子を確認しながら、オートマチック拳銃の残弾や調子をチェックしている。
「さて、件の撃退士とやらはどう出て来るかね……」
 弾倉の確認を終え、腰に吊るす。その頃、宵闇の向こうに複数の気配が現れた。一同に、緊張が走る。

 時刻は少し遡る。
「(彼女ね……)」
 一つ会釈した後ついと振り返った累は、聞いていた女性の姿を確認した。路地を確認してきた彼女の耳には、異常は感じられなかった。ということは恐らくまだ、ストーカーは姿を表していなかったのだろう。事前に路地の『音』を聞いておいたおかげで、ほとんど差がない事が確認できたのだ。その後通路を通りぬけ、風呂帰りらしい女性を見つけ……彼女を尾行するチームへと合流する格好になる。女性はまっすぐに商店街を通りぬけ、そして……件の路地の前に辿り着いき、足を止めた。暗い路地が、女性の前に横たわる。撃退士達もそれを確認し……そして女性は足を進めた。



●3:ほそながいみち
 赤タイツと青タイツのストーカーは驚愕していた。確かにこの目で見たのだ。彼女が足早に路地に入っていく様を。いつもどおり路地の外から壁走りで壁をつたい、そして今日は、運がいい事に鍵を落としていった。戻ってきた不安げな彼女の肩に手をかけ、どうもと挨拶し。そして……そして逃げ出した彼女を、二人で挟みこんだまではよかった。そのあとゆっくり、そう目論んでいたはずなのに結果はどうだ。女性は溶けるように姿を変え、全く別人の黒髪の少女の姿になったのだ。その少女……ダッシュは、己が愛用の武器を振るったのだ。
「残念……外れ、だよ?」
 彼らが咄嗟に避けきれたのは、偶然の賜物である。だが、ここは危険だ。彼らはここでようやく気づけたのである。路地の奥深くに入り込んだ、そのタイミングで。
「その姿、へっ、変態だ」
 追いついたさんぽが、口元に手を当てながらドン引きしている。確かにその姿、頭まで同色の全身タイツで、ちょっとばかし闇夜に目立つ上にあやしすぎるのは間違いない。
「くそ、女のくせに」
「ボク、男だもん……」
 何やら不思議なやりとりがなされて、さんぽが赤くなる。そこにまた一つ、彼らを包囲する影が現れた。女性……ダッシュの後ろからついてきた、累である。
「思ったより慎重なのね。路地に入るのを確認してから中に入るなんて」
 何度も確認した結果、中にいないと判断した累は常に連絡を行っていた。結果、待機組が外側への警戒に集中できていたのである。
「逃がさないよー?」
 遊夜の傍らに控えた麻夜は、怜悧で酷薄な微笑を浮かべ、ワイヤーを構える。ひっ、とストーカーの喉が鳴る。瞬間、飛び上がって逃げようとした方が甲高い悲鳴をあげて落下した。
「おう、逃げようとしても無駄だぜ? この辺りには山ほどワイヤートラップを仕掛けてあるからな」
 ハンドガンを構えた桜榎が、屋根の上から彼らを見下ろす。彼らはほぼ完全に包囲されており……そして。


「嘘をついたり、逃げようと思うなよ。全身の毛を毟った後、尻に大根突っ込んで校舎の屋上から吊るすぞ」
 ボコボコにされたストーカー二人は、正座状態で路地に吊るされ尋問されていた。それも、立ち上がると首が絞まる繋ぎ方で。裏を取るための騎士の言葉に、彼らは自分達の趣味でやっていたと自白し、それ以上の事は特別なさそうであった。
 なお、意外と気合が入っていて一度逃げようとした彼らであるが、騎士から魔法書の葉で切られたり蹴られたり突き落とされたり、逃げようとすれば遊夜からは手引きする追跡痕で完全に位置を捕捉され再包囲され……
「ニンジャの力は正義の力、それを悪用するなんて許せない……忍影シャドウ☆バインド! GOシャドー」
「逃げても……無駄」
「ほら、先輩に手間かけさせるんじゃないのー」
 さんぽの忍影シャドウ☆バインド!で伸びた影が絡みつき、更にそこから出てきた無数の腕、麻夜のReject Allが地面に縛り付ける。そこにダッシュの影縛りが敵の影を縫い止め……石火にて高速接近した桜榎の手によって、御用とあいなったのであった。ストーカーの側もさんざんであるが、自業自得である。



●4:お話の結末
 話の顛末としては、散々やられたストーカー達は完璧に改心した……わけではなさそうだが、脅威にびびってもう二度とこんなことはしないと誓った。ともあれ、あとは警察の出番だ。間違いなく現行犯であったため御用、である。
「やれやれ、下衆な奴もいたもんだ。ともあれ皆、おつかれさん」
 警察に二人を引き渡した後、桜榎は皆を労いながら、飴の包み紙を剥がし、くわえる。それをじい、っと見ていたさんぽに、累がひとつ、つつみを手渡す。
「どうぞ、犬乃さん」
「あ。ありがとう、神埼先輩!」
 ころころと口の中でロリポップキャンディを転がすさんぽを、累は穏やかな目で見ていた。兄弟がいたらこんなかんじだったのかしらと、そんな気持ちかもしれない。
「ったく、こういう輩は潰えんから困る」
「ふふ。そういう奴らには念入りにオシオキしないと、ねぇ?」
 くすくすと笑う麻夜と、静かに佇むダッシュに寄り添われながら、遊夜は呻くように呟いた。
「でも、今回は……うまく、いきました」
 番台の女性に、保護対象の女性が帰るのを出来る限り引き延ばして欲しい。その間に、終わらせると伝えたのは彼女である。
「さて……あいつらはいいとして、あっちのほうは今後どうなるか」
 見ものではあるな、と。騎士は依頼人と今回の護衛対象の顔を思い浮かべ夜空をふと見上げる。月のない夜空は暗い。けれど先程よりもほんの少し、静かなような気がした。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 夜闇の眷属・麻生 遊夜(ja1838)
 RockなツンデレDevil・江戸川 騎士(jb5439)
重体: −
面白かった!:4人

俺の屍を越えてゆげふぁ!・
神宮陽人(ja0157)

大学部5年270組 男 インフィルトレイター
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
心を繋ぐ・
神埼 累(ja8133)

卒業 女 インフィルトレイター
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
静かな働き者・
ダッシュ・アナザー(jb3147)

大学部2年270組 女 鬼道忍軍
RockなツンデレDevil・
江戸川 騎士(jb5439)

大学部5年2組 男 ナイトウォーカー
宇宙の神秘!ブラック!・
桜榎(jb8884)

大学部2年72組 男 インフィルトレイター