●
周辺には人の住む家一つない森は、いまは静けさを保っている。
ただ、それは仮初の閑静であることを、撃退士たちは知っていた。
一歩近づけば、悪魔が仕掛けた罠が幾つも待ち構えていることを。
「正直な所かなりめんどくせーな、こいつら」
その言葉通り、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)は若干うんざりした様子で森を眺める。
「なかなか嫌らしい防衛網ですね。性格が知れますね」
黒井 明斗(
jb0525)が言う。
ここまである意味『わかりやすい』と、いっそ冗談交じりに賞賛せざるを得なかった。
今はまだ森までに少し距離がある。
撃退士たちがいるのは、奇しくもレジスタンスたちが最初に撃退士同士の戦闘を目撃してしまったポイントだった。
「今回もリザベルの影が見え隠れ、ですか」
Rehni Nam(
ja5283)もまた一つ、小さく溜息を吐く。
彼女にとってはリザベルには返すべきモノがあるのも勿論のこと、今回かの悪魔が仕掛けたと思われる『罠』にも、思うところがあった。
(悪夢……ですか)
脳裏に思い描くのは、かつての苦い経験だ。
追い詰められ倒れた仲間。
急ぎ癒しを施そうとした自分へも、蛸の頭を持つ戦士が二体襲いかかる。
自分もここで倒れるわけにはいかない。白銀の槍を構えようとするも――。
そこから先のことは、自身に刻まれた記憶としてはっきりとは残っていない。
ただそこで倒れたことと、しかる後に多数の一般人が犠牲になったということは、此度の『罠』の材料に足りえるだろう。
もっとも、相手の思う壺に嵌まるつもりなど当然無い。
敵が搦手で攻めてくるというのなら、撃退士たちも色々と考えるのだ。
「詰将棋もたまには悪くない」
普段は爆破魔スタイルであるラファルがそう宣うほどに綿密に計画を練っているのが、その象徴とも言えるかもしれない。
「――――ッ!!!!」
雫(
ja1894)の咆哮が周囲に響き渡る。
冬を越え、地上での活動を再開してそれほど間もなかった動物たちにとって、その叫び声は動揺を誘うもの以外の何物でもない。少し遠くからでも、森がざわめくのが分かった。
その頃にはすでに、撃退士たちも移動を開始していた。
「これはどうかな……」
単純に殴りかかってくる布陣でないだけでも厄介なのだが、この場にいる誰しもが一番『嫌らしい』と思う敵は、空にいる。
森田良助(
ja9460)はヨルムンガンドを構え、ひらひらと舞う蝶を照準に入れる。
不規則ではあるものの、その動きはそれほど速くはない。放たれる銃弾の速度を考えると、単に当てるだけならそう難しくはなかった。
現にどちらかというとスナイパーライフルに近い小銃の引き金を絞ると、一匹の蝶へと簡単に命中したかのように見えた。
が、その直前、ディアボロの周囲に薄紫色の結界が広がり、それが消失した頃には銃弾の痕跡は蝶自体も含めどこにもなかった。
「まだ遠い、ということでしょうか」
前衛に立つ明斗が、仲間に聖なる刻印を施しながらそう分析する。良助にしても明斗にしても、かの蝶のバリアがどれだけの距離なら働くものなのか測りたかったのだから、この段階での命中というのはあまり期待していなかった。
「では、こちらは」
言って、雫は星の鎖を発動する。
アウルで紡がれた鎖は、またしても蝶の一匹を的確に捉えた。
先ほどとやや異なるのは、展開されたバリアの色が赤だったことと――。
結果的に防がれはしたものの、何故かその不規則な移動が止まり、虚空で羽をぱたつかせるに留まったことだろうか。
「……?」
その様を見ていた撃退士たちは思考する。
良助の銃撃と雫のスキル。違いは。
「魔法?」
天魔に通用するようアウルが込められているといっても、銃撃は基本的には物理的な攻撃である。レジスタンスが放った弓にしても同様だ。
一方で、星の鎖はアウルで創りだしたもので、攻撃でこそないが言ってみれば魔法に属するスキルである。
「……とはいえ、まだ無効化出来る、と決まったわけではありませんし」
気を取り直すように明斗は周囲へと告げる。挙動が違うだけかもしれない、と。
ただひとつの足がかりを得た、と同時に、星の鎖が効かなかったことで撃退士の次なる行動が始まっていた。
撃退士の中で唯一飛行能力を持つラファルは、周囲の風景と同化し蝶の群れへと接近していた。
するとちょうど目の前の蝶が、雫のスキルを受けバリアを張った後に移動を止める。
好機。
潜行状態を保ったままディアボロの直上に到達したラファルは、移動を再開しかけた蝶の許へと急降下し――その間に振り上げていた両の拳を合わせ、羽の付け根に叩き込む!
完全に死角を突いた。また近距離攻撃だと流石にバリアも働かないらしく、防御すらままならなかった蝶はそのまま地面に叩き落とされた。
一方のラファルはヒット&アウェイを心がけている為、自身の居場所を察知される前にその場を一旦離脱し蝶の群れから距離を取る。
しかしながら地上・空中両面から攻められたことは、ディアボロにとっても『本気』を出さざるを得ない状況とも言えた。
●
「撃退士に同士討ちをさせ、無傷で勝利を掴むつもりか。だが……」
敵は蝶だけではない。
森へ徐々に近づきながら、エカテリーナ・コドロワ(
jc0366)は道ではなく森の中の様子を注意深く観察する。
最初の雫の咆哮により動物が逃げている為、明斗が行った生命探知で検知した反応は大分少なくなっていた。その殆どが、ディアボロ――森の中にいるのは、眠りを誘う人形たちである筈だ。
森内の気配は一ヶ所に固まってはいないが、それでも道を真っ直ぐ進む分には十分に『重ねがけ』が出来そうではある。
「……見つけたぞ」
エカテリーナは小さく呟き、スナイパーライフルの銃口を森の中へ向ける。
「隠れるだけは天下一品か……だが逃しはせん」
生命探知の反応に、自らの索敵。それらが導いた先の木陰に、人形の影がうっすらと見えた。
引き金を引く。
凝縮されたアウルが人形の体を穿つと、そこを中心に人形の身体に爆発が起きた。
人形がよろめき、木々の間にその姿がはっきりと捉えられるようになる。
しかし追撃を仕掛けることは、少なくともエカテリーナには出来なかった。
急に、周囲の景色が靄に包まれる。
その後視界はすぐに開けたが、目の前の光景は様変わりしていた。
否、実際の光景は何も変わっては居ない。
ただ彼女だけが、『様変わりしたこと』を感知出来ずに居る。
軍に所属してた頃の、戦場。
敵軍に占拠された都市の中で、彼女は多数の敵兵を『自らを狙う敵』として考えざるを得ない状況に陥っていた。
極秘作戦を専門にしていた彼女にとって、それはある意味作戦の失敗を意味する。
この窮地を脱しなければいけない。
――だが、無闇に銃を敵に向けてはならない気がした。
それはここで発砲しては余計に敵に気づかれる、という咄嗟の判断もあったかもしれないし、『撃ったら本当の光景にいる仲間に当たってしまう』という、最早無自覚に近い精一杯の理性の賜物かも知れない。
兎にも角にも彼女は銃は抜かずに、その場から離れようとした。
但し身を潜めようとした路地裏は、実際には森の中への入口で。
かつ、一歩踏み出した刹那に猛烈に嫌な予感を感じた直後、彼女の身体は爆風に巻き込まれていた。
「……く」
軽く数メートル真上へ吹っ飛ばされた後に墜落し、その衝撃で彼女は我に返る。
視界に広がる景色は、元に戻っていた。
攻撃をしなかったのは良かったものの、理性で抗う、というのは予想以上に難しいようだった。
ならばどうすればいいか、と、考える暇もなかった。
今の戦場は既に大きく動き出しており、明らかに『罠』にかかった仲間が自分以外にも居ることに、すぐに気づいたからだ。
遠石 一千風(
jb3845)はエカテリーナが最初に攻撃を仕掛けたディアボロに対し、まだ距離があったので弓で牽制射撃を行っていた。
再度身を潜めようとする人形の足を縫い止めることには成功したものの、直後に異変が起こる。
いきなり目の前に、縦にしたら人の丈ほどはありそうな大きさのケーキが現れたのだ。見た目の大きさからして文字通りお化けだ。
なお彼女、甘いモノは大の苦手である。苦手とは別問題で、高カロリーは長身モデルのようなスタイルの敵でもあるかもしれないが。
「こんな幻覚、」
……幻覚だと信じ込みたいが、一方で『これは現実なのだ』『今ここで何とかしなければ』という強迫観念が彼女を襲う。
まもなくそれに囚われた彼女は、いっそここで甘いモノを克服すべきかと険しい表情で考えて剣を抜く。
そうだ。この大きさだと流石に噛みつくわけにもいかないが、少し剣で刻んでしまえば――。
「うわぁぁあ! 丸太が! 岩が! 僕を殺しにくるぅ! 誰か助けてー!」
一千風が切り刻むべきケーキだと思い込んでいるモノの正体、であるところの良助は良助で、全く別の悪夢に苛まれていた。
どこからともなく飛来した丸太や岩が、彼めがけて襲いかかる。
なお実際は、ケーキを切り刻まんとしている一千風の剣戟が彼に襲いかかっていたのだが、「まだ来るのー!?」などと若干情けない声を上げながら必死に良助は逃げ惑う。
そのうち眼前には岩壁――本当は森である――が彼の逃げ場を奪う。
それでも父親から課せられた修行と題した飛来物は容赦なく良助へと迫った。
「こ、こうなったら」
咄嗟に槍を握った良助は飛んで来るモノを払いのけようと必死だった。
ぶつかっているのは剣と槍なのだから金属音は当然鳴るのだが、幻覚に苛まれている二人は気付けない。
だが、状況はそれほど長続きしなかった。
「あれ……」
不意に良助を脱力感が襲う。
何だか疲れてきた、眠い……。
意識が混濁するのを感じ始めてから間もなく、良助の視界は闇に閉ざされ――。
いきなり反撃をしてくるようになった『お化け』がまた突然静かになり、床の上に鎮座した。
何故か突然ケーキを載せる為の皿まで出現したのだが、それを不思議に思う精神的余裕すら一千風にはなかった。
これでやっと、切り刻める……。
「落ち着け!」
ゆらりと剣を振り上げたところを、背後から羽交い締めにされたかと思うとそのまま地面に投げ出された。
「……私は……」
明斗のクリアランスの光を浴びながら、一千風は起き上がる。
「あいつを斬ろうとしていた」
彼女を止めたエカテリーナが、人形に眠らされた良助を指し示す。
次の瞬間、その良助の倒れ伏したあたりで爆発が起こった。
向坂 玲治(
ja6214)は、鱗粉を浴びても幻惑には惑わされなかった。
一瞬恋人が襲われている状況を幻視しかけた辺り結構ぎりぎりなのだとは考えたが、さておき、戦線には常に立っていられた。
地雷を模したディアボロは、先程エカテリーナや良助を爆発に巻き込んだもの以外はまだ姿を潜めている。
ただ明斗が最初に察知していた気配のうち、道に潜むものはほぼそれと考えていいだろう。
だから味方を巻き込まないよう範囲に気をつけつつ、自分の周囲を影の刃で攻撃し、爆発前にその息の根を止めることに腐心していたのだが――。
不意に感じた猛烈な敵意に、玲治は思わず攻撃を止めそちらを見る。
自らへ向けられた視線の主は、雫だった。
「どうしたもんかね……」
取り押さえようにも、今は他のメンバーも我を失ってたりそれを何とかしている。
一応レフニーと空にいるラファルは自由に動けているのだが、レフニーは先程ラファルが叩き落とした蝶がまた空へ舞い上がる前に倒そうとしているし、ラファルは次なる獲物を空で狙っている。
ならば距離を置くか――?
追ってくる可能性は高いし、そうなると地雷を踏む可能性もゼロではなくなるが。
と考えたところで、自分に向けて太陽剣を構えていた雫が、思わぬ行動を取った。
鱗粉の効果に巻き込まれた雫が見たものは、二本足で立つ黒い狼だった。
取っている行動は正体であるところの玲治に近く、見えぬ程の速さで繰り出す刃で周囲の地面を薙ぎ払っている。
今はまだ自分と距離があるが、これに襲われたら防ぐ手段は――?
いや、待て。
今自分は、何をしにこの場へ来ていたのだ?
……このような敵は、情報の中にあっただろうか?
そういった違和感を抱くに至ったのは、戦闘直前に聖なる刻印を受けていたことで異常に対する抵抗が増していたからだろう。
違和感の正体を突き詰めるべく、彼女は構えていた剣を滑らせて自らの指先を斬った。
「……ッ」
「大丈夫か」
一瞬面食らった玲治だったが、指先から血を滴らせながらも漂わせる気配は元に戻っている雫へとそう声をかける。
えぇ、と雫は苦い表情で肯く。
「分かってはいましたが、嫌な手を使って来る……早く突破しないと危険ですね」
●
ラファルが叩き落とした蝶に対し、レフニーは最初に魔法陣による封印を試みた。
(効きませんか)
態勢を立ち直そうとする蝶の様子を見ながらレフニーは分析した。
星の鎖に対する反応はそれ自体が『効いた』というよりも、やはり魔法的性質だった故の挙動なのだろう。また今度は、レフニー自身を中心とした範囲射程だった故か、件のバリアの反応もなかった。
一方で、森の中でどさり、と何かが倒れた音がした。レフニー的には『一緒に巻き込めたら儲けもの』レベルの期待だったのだが、ちょうど近くの木の陰に隠れていたハッピードールは巻き込めたようだった。
まだ蝶は上には上がれそうにない。羽撃きをし鱗粉を拡散しようとはしているが、如何せん地面に近い故に少し距離が空いている今は届かなかった。
ここで畳み掛ける。
レフニー自身を中心とする魔法には反応しないならば、やりようは色々ある。
「これで、どうですか……!」
彼女の心の赴くままに周囲に解き放たれた様々な色彩を持つアウルが、次々と大爆発を起こす。
目論見通り爆発には蝶も巻き込まれ、地上では初めてまともに蝶へのダメージが通った。爆風でふわりと浮き上がっては少し離れた地面へ墜落する。
それからなかなか起き上がらない。ラファルの攻撃もあった為か、蝶は大分弱ったようだ。
だから爆発が収まった直後、そのまま追撃をかけられればすぐ仕留めることもできたろう。
「……ッ!」
ほんの少しの邪魔さえ入らなければ、だが。
不意に意識を手放しかけて、レフニーは何とか片足で地面を踏みしめてそれを抑える。
眠気を誘う匂い。
気付けば視界に入れられるだけでも複数、人形の姿があった。睡眠重ねがけを行う相手が、異常に対する抵抗に於いてはこの場にいる撃退士の中でも特段優れているレフニーでなければ耐え切れなかっただろう。
だが視界に入れられる距離ならば、逆に自分の攻撃も届くということ。
レフニーは蝶へとトドメを刺す前に、再度魔法陣を描き出し人形たちの罠を封じにかかった。
空中戦を続けるラファルは、一匹目と同じ要領で死角から攻撃を叩き込んだ。
今度はそれが明斗や良助の近くに墜ちたことを見届け、例によって一旦離脱した。
蝶たちの目をごまかしていた迷彩が切れた時には、既にラファルは三体目の許へ接近し――その左手は、鋼鉄の拳打機へと変化していた。
「おらァ!!」
気合とともに抜き手を放つ。
至近距離とはいえ攻撃状態に入っていたラファルを視認した為か、咄嗟にバリアを張る蝶。
しかし、ラファルの左手はバリアとのインパクトの瞬間に周囲にナノマシンを散布し、それにより蝶のバリアをも強制的に打ち消した。
ダメージ自体はそれほど入らなかったが、思いもよらぬ事態に蝶が多少距離を取る。
しかもその時になり、ラファルは自らの身の危険を察知した。
残る二体の蝶から放たれたと思われる鱗粉が、ちらりと視界に入る。
「やっべ」
話を聴いた時から自身が悪夢として思い描くだろうと想定していた光景――機械化の原因となった出来事が一瞬脳裏をちらつく。
だが、更にその先――悪魔により四肢を引きちぎられることまでを思い出すことは、なかった。
下から巻き起こった爆風が、ラファルの周りの鱗粉を吹き飛ばしたからである。
「サンキュー!!」
蝶の挟撃態勢から逃れるべく更に上空へ移動しながら、ラファルは地上を見下ろす。
上を見上げていた、アウルによる爆発を引き起こした当事者であるところの雫と目が合ったのも一瞬のこと。次の刹那には互いに『敵』の居場所を見据えていた。
ラファルに落とされた二体目は、今度は地面に墜落し切るよりも前に追撃を受けた。
「まずは動きを止めましょう」
落下地点近くにいた明斗が、星の鎖を放ったのである。
視認できる故バリアを張るも、先ほどの雫の時と同様に、その代償として蝶は中途半端な位置で静止してしまう。
そこを狙ったのは良助だった。
「これでどうかな!」
距離の問題ではないのは、先ほどのラファルの抜き手で分かった。
だが硬直している今なら――?
果たして、小銃の一撃は蝶の羽を貫き、ついでに蝶を地面へと叩き落とした。
その直後、再び撃退士たちを眠気が襲う。
良助、雫、エカテリーナがそれで眠りに落ちてしまい、更に雫は崩れ落ちたところにちょうど地雷が潜んでいた。
「あいつら邪魔だな……」
爆発で上空に突き上げられた雫を墜落間際に受け止めた後、玲治はすぐに態勢を立て直す。
森の中を素早く見渡し――ちょうど手頃な距離にいた人形へ、渾身の一撃を叩き込んだ。
人形がよろめき、道の方へ倒れてくる。
それを見逃さなかったのは一千風だった。
人形に肉薄しながらも手にトンファーの棒の片方のみを掴んだ腕を振り上げると、紫焔を纏わせたもう片方の棒を目にも留まらぬ速さで振り下ろす!
最高に勢いの乗った一撃は人形の脳天へ直撃。そのまま頭から地面に叩きつけられた人形は、多少地面にも衝撃痕を残しつつ動かなくなった。
「もう一度、生命探知をお願いします」
爆発で強制的に目が覚めるかたちになった雫は、状況を鑑みて明斗へそう打診する。
地雷となるディアボロは低いながらも移動力を持っていた為、悪夢や睡眠といった前提がなくとも撃退士たちを巻き込んで爆発を繰り返していた。
とはいえ、爆発を繰り返せば勝手に自滅する性質故か、現状かなり数は減っている。
ついでにいえば視界の中では、既に最初にラファルに叩き落とされた二匹の蝶を処理し終えた撃退士たちが、次にはやはりラファルにバリアを削がれた二匹を星の鎖で動きを止めては攻撃している。
目標は、あくまで防衛網の突破。
全滅させる必要はないし、そろそろ『道』は見えてくる。
「分かりました」
明斗は一つ肯くと、再び気配を探る。
撃退士たちへの包囲網こそできていたが、やはり最初に比べると、特に道の上の反応は明らかに減っていた。
明斗から情報を受けた雫は、ガラティンを一閃する。
大地を這う三日月のような軌道を残しながら、雫のアウルが未だ地中に潜む鼠を地表に叩き出した。そうして包囲網に、一つの穴が開く。
「このルートで突破します」
雫の言葉の意図を真っ先に理解したのは一千風だった。地表に出されたディアボロのうち一体を、烈風突で森の中へ吹っ飛ばす。
「なら、そろそろ外の連中にも少し黙ってもらわないとな」
言って、エカテリーナは森へとライフルを構えた。
見据える先には、ここに来て北へと移動を開始した人形たちの姿がある。それらを狙い撃ちするかのように銃撃を連射した。
「やーっと全部落としたぜ」
言葉通り最後の蝶も地表へ落下させたラファルが、ここに至り空中に居たまま地上へ参戦。此方もスナイパーライフルで、邪魔になりそうな鼠や人形を狙い撃ちしていく。
その最後の蝶は、まず明斗の星の鎖で動きを拘束されると、良助のイカロスバレットで地面に叩き落とされ、レフニーによるアウルの爆発で周りの人形ごと吹っ飛ばされた。
悪夢を誘う蝶は全て葬られ。
鼠は追いすがるものの撃退士たちの足には及ばず、人形たちの眠りへの誘いは効く者には効いたが、突破を阻むところまではいかなかった。
森の間の道を抜けて、撃退士たちは静かな場所へと辿り着く。
「……そういえば、リザベルは結局出てこなかったですね」
「二度目の生命探知の時には既にいなさそうでした」
落ち着いたところで放たれたレフニーの言葉に、明斗はそう答える。
「大方、悪夢を見せてもどうにも止まらない、って分かったからじゃねーの」
「或いは、こちらが危なくなるようなら止めを刺しに来たかもしれんが……な」
ラファルとエカテリーナが立てた推測は、根拠はともあれ当たっている可能性は結構高そうだった。
「とにかく、これでまた一つ道が出来たってわけだ」
玲治が通ってきた道を振り返る。
北海道に残った雪ももうなくなるだろう。
春を越え、夏が近づく頃には、撃退士たちの足取りはもっと先に――。