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マスター:津山 佑弥
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/11/30


みんなの思い出



オープニング

 故郷。
 正直、あまり好きな場所じゃない。
 特別嫌な思い出とかがあったわけじゃないけれど、何となく田舎の空気が私には合わないのだ。
 いつか出ていこうとは中学生くらいの頃から思っていた。

 アウルの素養があったのは、その意味では都合が良かった。
 大学進学の折に、私はあっさりと故郷を出て久遠ヶ原学園に入り、そして卒業した。
 卒業にあたっても、故郷に戻ろうとはやっぱり思えなかった、けれど。

 それでも思い出したように、親や昔の友達と連絡を取ってしまうのは。
 きっと、あいつの存在を感じて安心したかったからなんだと今なら思う。
 撃退士になったのだって、結局のところは安心安全とはいえない故郷の力になりたかったからなのだと。


 秋田県中部のとある街の並木道に、落葉が舞い始めた。

 紅葉がもうすぐ散ろうか、という季節ではあったが、色は様々だった。
 赤や黄色、茶だけでなく、春を思わせる桜や、夏を思わせる緑。
 そしてその下を横に並び往く、四つの人影。いずれもまだ、子供の背丈で――。

 ――焦茶色のその輪郭に、目鼻口などといったものは存在していなかった。
 そしてもう一つ、決定的な違和感は――並木道を通りすぎ、遠ざかっても、色とりどりの落葉は同じように降り注いでいた。
 何もないところから。

 だが、異様に過ぎたその光景に、かえって人々は違和感も忘れて魅入ってしまう。
 それが天使の仕組んだ罠であることに、最後まで気付かぬ者も、やがて気付く者もいたけれど。
 ――どちらにせよ、落葉に誘われるように意識を混沌の闇へ陥れられることに変わりはなかった。

● 
 湯浅久斗にとってこの街は、はじまりの場所であると同時に安息の場所だった。
 ずっとこの街で生まれ育った彼には、かつて一つの夢があり、一度はそれを実現させていた。
 プロサッカー選手。
 高校選手権で才能を見出され、あるプロサッカークラブにスカウトされたのだ。
 勿論久斗自身はそれを大いに喜んだし、両親もプロの道に入ることに反対をしなかった。
 だが、プロの世界で彼を待ち受けていたのは厳しい現実だった。
 出場機会どころかベンチにも入れず、燻る日々。
 出場機会を求め下部リーグに移籍してそれなりの結果を残しても、本来の所属クラブには認められず。
 ……そして、全治するまで半年もかかった大怪我。これによるブランクが、結果的に事実上の戦力外、契約満了に繋がった。

 リーグが実施されない期間にもリハビリが重なっていたこともあり、彼に声をかけるクラブはなかった。
 失意に暮れ実家に戻った彼を、両親は暖かく迎え入れ――リハビリが終わる頃、彼は決意を固める。
『この街から、今度こそプロで通用するサッカー選手を出したい』
 ――彼が曲がりなりにも元プロサッカー選手という肩書を持っていたこともあり、地元の中学校から臨時コーチとして招聘されるまでにそれほど時間はかからなかった。

 サーバントが街に襲来した時、久斗は地域のコミュニティセンターにいた。
 中学サッカー部の顧問からの依頼で、来年中学に上がってくるであろう小学生のサッカー小僧たちの実力をフットサルの実戦形式で測っていたのだ。
 親からの電話に気づいたのは、その休憩中。
 緊急事態を知り一度外に出た時には既に、周囲に不穏な空気が満ち始めていた。撃退士でなくとも感じる、嫌な予感だった。
 子供たちをセンター内の、窓のない一室へ戻し、彼自身はその部屋の扉の前で座り込んだ。
「……そうだ、あいつは」
 少し考えて、あることを思い出した。久斗がプロの世界に飛び込んだと同時期に、久遠ヶ原学園に入学し撃退士となった幼馴染の存在だ。

「いずれはお前も『プロ』になるんだよな」
「そうだといいね」

 ある時電話で話した際に、そんなやりとりをかわしていたことを思い出す。
 卒業はして、今は単身フリーランスで活動しているらしいということは両親伝いで聴いていた。


 久遠ヶ原学園を昨秋に卒業したばかり。
 フリーランスとしてはまだまだ新人の撃退士、船崎麻乃は、久しぶりに帰った故郷の景色に言い知れぬ不安を覚えた。
(人の気配がない……)
 建物が崩落しているなどといった様子はない。にも関わらず、車を走らせる道中には人影はひとつとして見当たらなかった。
 たまには帰ってこい、と親に電話で言われたのが一昨日のこと。ちょうど昨日から3日間ほど急を要する仕事は入っていなかった為、数年ぶりに帰省してみることにしたのだ。
 ……元気そうだったその親の連絡から、わずかに2日。
 この違和感の正体に、麻乃は嫌というほど心当たりがある。
 外に出ていないだけで、人々は自宅内に篭っているのかもしれない。
 そう考えた麻乃が、一度停めていた車のエンジンを再びふかした直後、携帯が鳴った。

「まさかほんとに天魔が来てるなんてね」
 久しぶりに顔を合わせた両親の話を聴き、麻乃は顔をしかめた。
 連絡を受け麻乃が向かった先は、近くの小学校の体育館である。サーバントの襲来を受け、人々は避難所としても機能する小学校へ集まっていたのだ。
 ところが、地域の人々が首尾よく避難できたかというとそうでもない。
「……そういえば、久斗は?」
 麻乃自身の両親の横には、幼馴染である湯浅久斗の両親もいる。
 我が子であると同時に局面の打開を図る鍵にもなる撃退士と再会出来た麻乃の両親と比べると、久斗の両親の表情は遥かに暗かった。
「それが……」
 その後に続く現況を聴いた麻乃の表情も、また曇った。


「緊急の依頼です」
 時を同じくして、麻乃の到着以前に体育館から入れられていた連絡を許に、久遠ヶ原学園にて斡旋所の職員が撃退士たちに依頼の説明を始めていた。


 はらり、はらり。落葉が舞う。
 舞いて踊る死の切先は、抗う術を持たぬ人々を次々と巻き込みながら――コミュニティセンターへ向かいつつあった。


リプレイ本文

 10秒。
 普段ならば何気なく過ぎてしまうその僅かな時間も、撃退士と天魔の戦いに於いては決して気を抜くことは出来ない。

 誰よりも早くセンター前に到着したのは、麻乃だった。
 狭い公道を走るのであれば、車を使うよりも撃退士としてのスペックを行使した方が断然速い。既に光纏も済ませている。
 両親からは、自身の到着より前に久遠ヶ原に連絡を入れたことを知らされていた。
 直に援軍が来るだろうが、万全の状態で敵を迎え撃つ必要がある。
 阻霊符を使用したところで、到着から5秒。

 次に姿を見せたのは、四本――否、四体の、歩く樹木。
 麻乃はすかさず、アウルで出来た無数の彗星を呼び出した――。


 久遠ヶ原の撃退士たちが現場付近に到達したのは、それから更に5秒後のことだった。

 撃退士たちが転移した先は、センターより少し離れた地区。
 麻乃が放ったコメットは、周辺の建物の背が低いこともあって移動中でも視認出来た。
「もう始まってる……」
 リアナ・アランサバル(jb5555)が呟く。
 いつでも戦場に、自分たちの方が先に到着しているとは限らない。
 ある意味出鼻を挫かれることになったが、今の彼らに出来ることは一刻も早く戦場へ赴き、敵を斃すことだけだ。

 幸いにして、撃退士が到着した時も麻乃は未だ状態異常等にかかっている様子はなかった。
 敵も、情報通り四体。センター内に足を踏み入れ、今は麻乃を狙って木の葉を浴びせている。
「迷子は出てないな」
 道路から一度様子を窺い、キイ・ローランド(jb5908)がひとつ肯く。
 麻乃は盾で防いでいたが、どうやら最初のコメット以降は防戦を強いられているようだ。
「さて、いくか」
「センター内には絶対に入れない様にしないとね」
 何にせよまず、麻乃同様にセンターを背に戦う形を取るべきと撃退士たちは考えていた。
 ライアー・ハングマン(jb2704)と緋野 慎(ja8541)がそれぞれのスキルで自らの気配を殺し、最初にセンターの敷地へ足を踏み入れる。
 戦場には地面に落ちた時点で霧散する幻影の木の葉が舞っていたが、視界が極端に遮られる程でもない。
 だから、分かった。未だ敵の集中は麻乃へと向いている。――隙だらけだ。
「早速だがお土産だぜ、食らってくれや」
 にやり、と気配を殺したまま笑んだライアーが三日月状のアウルの刃を無数に生み出す。そしてそれらは、幻影の葉を切り裂きつつ四体のサーバントのうち二体を次々と切り裂いていく。
 ここに至り、サーバントたちはようやく後背の撃退士の存在を認識した。クレセントサイスの範囲外にいた残りのサーバントたちが振り返る。
 ――ほんの一瞬。もう一瞬だけそれが遅かったら、撃退士たちは無傷に等しい状態でサーバントの横を駆け抜けられたろう。
 けれども現実としては、慎とライアー以外の撃退士は、即座にカウンターの木の葉を浴びることになった。尤も、奇襲がなければもっと早く気づかれていた筈だが。
「危ないわねっ」
 被害が比較的少なく済んだのは、そう毒づいた久原 梓(jb6465)とリアナ。それぞれの種族の持つ翼による飛翔で、自らへ降り注ぐ木の葉の数を減らしていた。
 一方、反撃に転じたサーバントの余裕もそう長くは続かなかった。
「この瞬間を待っていたんだ!」
 ほぼ横一列に並ぶサーバントたち。その更に横に立った慎が叫んだ。
 全身に纏っていた炎を腕に収束させ――振り抜く。鮮やかな緋の閃光が、サーバントたちを切り刻むように一瞬で駆け抜けていった。
 それにより麻痺したサーバントの横を駆け、ようやく撃退士たちは麻乃の前に立つ。麻乃は大分集中攻撃を受けたらしく、いまはヒールで自らを癒していた。
「すいません、遅くなりました」
 オブリオ・M・ファンタズマ(jb7188)がそう麻乃に小さく頭を下げる。
「こっちこそごめん。私ひとりだから高を括られたのか、どれがどの異常を使うのかは割り出せてないわ」
「耐え切ってくれただけで十分よ」
 麻乃の謝罪に、ケイ・リヒャルト(ja0004)はそう返す。
 既に麻乃やケイ、オブリオの前にはキイが盾を構えて立っている。タウント発動により、敵の集中も今はキイに向いていた。
「落ち葉を纏った妖精? 美しいけれど…でも」
 ケイはクロスボウに矢を番える。標的となるサーバントは、いまは完全にケイの存在を見ていなかった。
 というよりも、動こうにも動けないようだ。どうやら先の慎の攻撃で麻痺状態に陥っているらしい。
「此処は貴方達の居て良い場所じゃないの…お帰り願うわ」
 木の葉がざわめく中を貫いたそのアウルは、いともたやすくサーバントを撃ち抜いた。

「では――――行きます」
 オブリオはマントの襟を引き上げつつ、呟く。
 呟きながら、
(あれ……僕、何かが?)
 自分がこれまでとは何かが違う気がして、しかしながらその違和感の正体がはっきりとしないが故に一瞬戸惑った。
 けれども、いまはそんな場合ではない。気を取り直し――獲物を見定める。注目の効果でサーバントの攻撃はキイへ集中していたが、未だオブリオとの距離はあった。遠距離から攻撃を放つことが出来る故、注意を引かれたからといって攻撃の為に接近する必要もない。
 キイのすぐ後ろ、かつ比較的フリーな状況。だからこそ、その変化にいの一番に気がついたのはオブリオだった。
「違う色の葉が来ます…!」
 それまでにキイへ襲いかかっていた葉っぱは全て枯葉の茶色だった。しかし不意に、サーバントの一体の周囲へ降り注ぐ、そしてそれから放たれる葉の色が紅葉の赤へ変わった。
 盾を構えているキイにはギリギリ死角となる角度だったのだろう。攻撃をかわしきれず――盾を取り落とす。
「ぐ……!」
 霊的な力により、キイが動こうにも動けない状況に陥る。キイを倒した勢いで侵攻をしようというのか、サーバントたちはここぞとばかりについに前進を再開した。
 前方や側面、或いは上空から他の撃退士の攻撃を受けつつも、なおもまずはキイを倒さんと茶色の葉を全てキイへと放つ。
 ――だが、その葉の刃がキイの身を切り刻むことはなかった。
「私のことを忘れてもらっては困るしね」
 麻乃がかけたクリアランスで、キイの束縛状態が回復。キイは即座に盾を構え直し、自らへ襲いかかる刃を全て受けきった。
 反攻の時。
 まず動いたのはライアーだ。それまではヒット&アウェイを繰り返していた彼は、ここぞとばかりにサーバントへ最接近する。
「良い感じに纏まったな? …刻まれろ!」
 本日二度目のクレセントサイス。大分キイの方へ集まっていたサーバントたちは無数の三日月状の刃に一網打尽にされた。
 そのライアーの横を、オブリオが駆け抜ける。キイの注目の効果が切れ、接近されたサーバントの注意は確かにオブリオへ向いた。だが、遅い。
「ここで止めます――――雷脈御手」
 サーバントが抵抗に入ろうとした時には、既に肉薄している。帯電した左手で敵の細長い胴体を掴み、電流を流し込んだ。
 サーバントもその掴んできた手を振り払おうとするも、まともに身体を動かすことさえかなわなかった。そこへ、
「よそ見してるのが悪いんだからっ」
 後背――より厳密に言えばその空中から接近してきたのは梓だった。翼を用いて降下する勢いのままに、大太刀を振り下ろす!
 樹木の胴体が次々とひび割れていく。もうあと僅かで、一体を倒すところまではいきそうだった。
 しかしここにきて、サーバントたちが連携を見せ始めた。
「また異常のが来るぞ!」
 キイが叫ぶ。
 先程束縛の効果を与えたサーバントが今度はオブリオに対しそれを浴びせ――別のサーバントが、今度は桜色の葉を梓へ叩き込んだ。
 オブリオは辛うじて回避したが、着地した瞬間に浴びる恰好になった梓はそれを避けることが出来ず――突如として、サーバントに背を向けた。
 彼女の視界に入ったのは、リアナ。見られたリアナは、食い入るように自分を見つめながら接近を開始する梓の異変の正体にすぐに気づいた。
「これは、魅了……? 厄介だね……」
 どうやら桜色の葉が、対象に魅了を与えるものらしい。梓の攻撃を避けるべく、リアナはサイドステップでその場を逃れる。
 その情報は、すぐに他の撃退士たちにも伝播した。
「こいつ! 魅了を掛けて来るわよっ」
 ケイが珍しく声を荒らげ、魅了を扱うサーバントを狙って銃のトリガーを絞る。
 撃ち抜かれたサーバントだが、これまでに受けたダメージが比較的軽微だったことからまだ余裕があるらしく、すぐさまケイの方へ向く。
 周囲に降り注ぐ葉の色が、また桜色へ。
「いかせねえよ!」
 まだ麻乃のクリアランスが梓に届いていないというのに、ケイまで魅了させられるのは拙い。即座に横に回り込んだ慎が、セラフィエルクローでサーバントの胴体を狙った。
 それによりケイが魅了で狙われることはなくなったが、代わりに慎へ攻撃が飛来する。
 葉の刃を、クリーンヒットさせられたように見えたのはほんの一瞬。刃とともに幻と消えた、慎がいた筈だった場所のすぐそばに、本物の慎が立っている。
「今のは惜しかったね」
「――さっきはよくもやってくれたわねっ」
「追い掛けられる身にも……なってほしいね……」
 その場をステップで逃れた慎に代わって、麻乃のクリアランスで魅了から快復した梓と、魅了中の彼女から逃げていたリアナが共に翼を用いて飛来する。
 梓はやや距離があるところからロザリオを構え――無数の光の矢を射出した。CRの関係上お世辞にも高い威力とは言えないが、牽制を行うには十分すぎる。
 次いで襲いかかったのは、リアナが放った蒼い雷。打ち据えられたようにその場から動けなくなったサーバントの胴体を、
「貴方は、少々邪魔です――――ここで枯れ果ててもらいます」
 ルーンブレイドに持ち替えたオブリオの刃が、深々と切り裂く。
 トドメは、一連の攻勢の間に至近距離に潜り込んでいたケイのゼロ距離でのダークショットだった。
 切り裂かれた部分に撃ち込まれたアウルの銃弾により、力を喪ったサーバントの身体がまっ二つに折れ、そして斃れた。

 魅了を用いるサーバントへ撃退士の攻撃が集中している間も、キイはタウントで敵の気を引いていた。サーバントを一体倒すまで他の横槍が殆ど入らなかったのも、ひとえに彼の働きが大きい。
 だがシールドを使い果たすと、流石に無傷とは言えなくなってくる。必然、麻乃がヒールを飛ばす回数も増えた。
 一番厄介だと目されていた魅了を用いるサーバントを倒し、ほんの一瞬の間だけ撃退士の間に安堵が流れた。その隙を見逃さぬかのように他のサーバントのうち一体の周辺を舞う葉の色が緑に変わる。
「葉が舞う…下がれ!」
 タウントの効果がまだ活きているとはいえ、攻撃が他の撃退士へ飛ばないとは限らない。号令をかけ、キイ自身は受けの構えを取った。
 緑の葉たちが彼へと襲いかかる――それを受けた直後、彼は不意に構えを解いてたたらを踏んだ。
 朦朧。
 残るサーバントがすかさず彼を狙おうとするも、既に気を引き締めなおしていた撃退士たちもそうはさせなかった。
「させません、好機を得たとは思わない事です」
 麻乃がクリアランスをキイにかけている間に、オブリオが逆手に持ち替えたルーンブレイドを以てサーバントに斬りかかる。狙いは、まだ唯一異常の葉を放っていないサーバント。
 消去法で麻痺の効果を持つものであることが判明しているが、無視する理由はない。通常の枯葉の色をたたえたままのサーバントの幹を、横薙ぎに一閃する。
 そこから始まった撃退士による一方的な攻撃――だが次の異変は、その間に起こっていた。
「いか…せるか!」
 二体目のサーバントを倒した時、不意にキイが声を上げ、武器を怪異剣に持ち替えた。
 そのまま斬りかかったサーバントは、気づけば最初キイがいた位置よりもセンター側へと接近していた。もう一体も同様だ。
「ハハッ、こっから先は通行止めだぜ」
 次に動いたのはライアー。鎖鞭で、束縛サーバントの足元を削りにかかる。一瞬動きが止まったところを、リアナがスネークファングで更に切り裂いていく。
 一方でよりセンターへ近づいていた朦朧サーバントの方は、
「どこ行くんだ? そっちには行かせねーよ!」
 慎が攻撃を加えつつ、その影を縫い止め、梓がロザリオから放った光の矢が次々とその胴体を射抜いていく。
 ――既に二体とも、それまでに十二分に傷ついていた。センターへ強行しようとしたのも、最後のあがきのようなものだったのだろう。
 だが、センターのすぐ前には――ケイの姿。
 一体はダークショットにより胴体を粉砕され、もう一体もキイの袈裟懸けの一閃で斜めに斬り落とされた。


「ふう…終わったか」
 痛いのをもらわずに済んで良かったぜ、と漏らすライアー。
 他の面子もそれぞれに安堵を示していたが、その中で唯一、自身の中に不安を覚える者がいた。
 オブリオである。
 無意識下で、何かが変わりゆく自分――。
 その意識の正体は、今は自分でも明確には掴めない、けれど。
 ……いずれにせよ、そんな自分と付き合ってでも、戦わなければならないのだ。
 だから、今は。
「とにかく、皆さんが無事ならそれで大丈夫なのです!」
 同じように、無事に事を終えたことに安堵しよう。そう思った。

 その頃、ケイは麻乃の後についてセンター内に足を踏み入れていた。
「……随分無茶したわね、その幼馴染」
 麻乃がこの場にいた理由も含め経緯を聞かされケイが感想を漏らすと、麻乃も肯く。
 幼馴染こと久斗はドアにもたれかかって座り込んでいたが、二人の存在に気付き腰を上げた。
「やっぱり麻乃か、久しぶりだな…。そっちは?」
「久遠ヶ原の学生。外にもいるけど」
「そっか」
 それじゃ早く片付くよなぁ、と安心しきった息を吐く久斗。
 しかし麻乃は硬い表情のまま、彼を見つめていた。
「そっか、じゃないわよ。久斗だって戦う力があるわけじゃないのに何やってるの」
「まー、確かに突っ立ってたってやれることは確かにねーよ。万一のこと考えたらそこは悪かったけど」
 それでも、と久斗は、苦笑いを浮かべながら肩を竦めた。
「ガキどもがいる手前、多少見栄を張ってでも夢を壊すわけにはいかなかったしな」
 地元のサッカー小僧たちにとって、一度はプロになった久斗は憧れの存在でもあるのだ。
 それを知っているから、麻乃は「……まったくもう」呆れた声を上げただけだった。

 少しの間二人の会話を聴いていたケイだったが、やがてゆっくりとその場を離れた。
「二人共…確りとプロなのね…」
 撃退士として人を護る麻乃と、夢を叶えた経験のある人間として子供たちの同じ夢を護る久斗。
 いずれもプロというに相応しいし――ケイ自身の脳裏にも、歌への想いが過ぎり――。

 一時の平穏を取り戻したセンターに、しばしの間、ケイの澄んだ歌声が響き渡った。
 


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 駆けし風・緋野 慎(ja8541)
 災禍塞ぐ白銀の騎士・キイ・ローランド(jb5908)
重体: −
面白かった!:4人

胡蝶の夢・
ケイ・リヒャルト(ja0004)

大学部4年5組 女 インフィルトレイター
駆けし風・
緋野 慎(ja8541)

高等部2年12組 男 鬼道忍軍
絶望の中に光る希望・
ライアー・ハングマン(jb2704)

大学部5年8組 男 ナイトウォーカー
空舞う影・
リアナ・アランサバル(jb5555)

大学部3年276組 女 鬼道忍軍
災禍塞ぐ白銀の騎士・
キイ・ローランド(jb5908)

高等部3年30組 男 ディバインナイト
惨劇阻みし破魔の鋭刃・
久原 梓(jb6465)

大学部4年33組 女 アカシックレコーダー:タイプB
アツアツピッツァで笑顔を・
オブリオ・M・ファンタズマ(jb7188)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプB
撃退士・
Lyuju・Fon・Croitel(jb7976)

大学部4年15組 女 陰陽師