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マスター:つまみー
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/03/19


みんなの思い出



オープニング

●某神社境内
 炎が燈る。
 音の無い中、それは石畳を悠然と歩く。
 その様は荘厳で美しく、悠然とした様は凛々しく。
 ――クオォン。
 不意にその存在が小さく鳴き声を零した。
 獣と言うには落ち着きを持ち、何かを命ずる様な王者の如き威厳を持ち。
 その声に合わせ――炎が燈る。
 まるで炎を従えている様だ。その求めに応じて現れた炎はやがて大蛇の如き威容を形作り、闇の中を疾駆した。
 炎が走り、それはその存在の周囲へと燃え移り、やがてそこを煉獄へと変える。
 ――クオォォォォォォォォォンッ
 静かな、だが高く強く響く咆哮。
 それに応じる様に炎が燃え広がる。
 眠りの中から人々がその異常事態に気付くのに、時間は必要なかった。

●教室
「真夜中ですが、緊急事態です」
 夜中の12時を過ぎた頃。警報に叩き起こされた面々の中、淡々と声が響く。
「つい1時間ほど前、サーバントの出現が確認されました。当該サーバントは街の郊外山中にある神社を中心に山火事を発生。恐らく炎を操る術を持っており、既に消防や自衛隊なども火事鎮圧に動いていますが、一向に鎮圧できる気配がありません。速やかにサーバントを排除してください。
 尚、今回の目標は火事の鎮圧に入った消防士の証言によれば、5本の尻尾を持つ大型の狐との事。サイズに関しては分かりかねます。
 サーバントは神社境内中央に陣取っており、炎の中心部へ突入して貰う事になりますが、こちらで装備等を用意している暇が既に無い為、十分なサポートができません。また相談をしている時間も既になく目的地に到着と同時にサーバントの元へと向って貰います。
 ルートは神社へ直通の石段のみです。また炎の広がりが酷いため、周囲の炎からの影響にも注意してください。
 既に時間が無い上、非常に危険な任務です。心して事に当たってください。
 御武運を」


リプレイ本文

●石段から神社へ
 炎が燃え盛る中、彼等はその石段を駆け上っていた。
 まるで、誘われている様だ。神月熾弦(ja0358)はそんな風に感じていた。
 それは石段の状態から感じる違和に起因する物だった。石段の周囲ではごうごうと炎が燃えているのに、石段の周りはまるで意図して炎が寄らぬ様にしているかの如く、炎の手が回っていない。
「………なんか誘われているみたい。嫌な感じっ」
 そんな風に感じていたのはどうやら彼女だけはなかった様だ。そう声を上げたのは砥上ゆいか(ja0230)だった。
「同感。………中々余裕じゃない。腹が立つわ」
 ゆいかの叫びに応じたのは、鈴碕優莉(ja0462)。その声音には多少なり苛立ちの様な物が滲んでいる。
「でもこの石段以外に進める場所はないんよね? なら進むだけ進むしかないんと思います」
 そう言ったのは亀山淳紅(ja2261)だった。彼は石段を登る直前に持参した水を頭から被っており、その髪はまだじんわりと湿っていた。
「まぁ、そんな事言ってても仕方ないでござろう。それに既に目的地は見えてござる」
 虎綱・ガーフィールド(ja3547)が言う。その言葉の通り、既に石段の終わりは目と鼻の先だ。彼らの視線の先。その場所だけが炎に照らされぬ夜闇を空に映している。 
 全員がその場所に駆け込んだのはほぼ同時の事。
 そこでは神社の本殿だけが残され、周囲の物は悉くが燃え尽きていた。周囲の炎もその場は大した事無く、そして――その場にいるはずのサーバントの姿もない。
「これはまた面妖な………」
 ぽつりと鷺谷明(ja0776)が呟く。その姿勢は忍の姿に相応しく既に敵の存在を見出そうと緊張している。
 他の面々もそうだった。サーバントの姿がないという事は、どこかに潜んでいると言う事。奇襲に動じぬように、既に彼らの構えは完成していた。
 なんとも形容しがたい張り詰めた緊張が満ちる。
 ――くおぉん。
 不意に響く獣の鳴き声。全員がその正体を求め視線を巡らせた。
「――いたっ!」
 いち早くその存在の位置に気付いたのは沖田隼人(ja2215)だった。武人の眼光は鋭く、真っ直ぐにその異形の姿を射止めている。
 その狐の姿をした異形が姿を現したのは、本殿の上だった。
「っ………あ………」
 淳紅がわずかに呻いてその姿に目を奪われた。
 その姿は美しかった。まるで闇を照らす様な美しい琥珀色の毛並みをし、その五本の尾は仏の後光が如くその背を飾り揺れる。それは人の造詣では辿り着けない、天上の美術だ。
 ――くおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!
 五つ尾の狐が咆哮する。
 それと同時――周辺が爆ぜた。
 丁度、神社の境内を中心にして周りを囲み、炎の檻を作り出す。
 それに続く様に、五尾の元で本殿が炎上する。琥珀色の威容がその炎に飲み込まれたとほぼ同時、炎から五尾の姿が皆の前に立った。大型の猛獣と殆ど変わらない大きさである。
 刹那。五尾の元へその背で燃える炎が群がった。
「――まさか………炎を喰ってる?」
 その事にいち早く気付いたのは神喰朔桜(ja2099)だ。天真爛漫な様でいてその目が見ているのは、目の前の獣の変容その物。
「そうか………。あいつは成長の途中なんだ。だから――とっても栄養のある獲物が必要だったんだ。危険を冒してでも」
 朔桜が言う。栄養と言うのは――言わずとも皆分かったのだろう。それならば此処までの道中が余りに手隙だったのが納得いく。
「だからって、大人しく食べられてなんてやらないよ!」
 ゆいかが叫んだと同時。その場の全員が己の手にある武具を構えた。

●炎狐猛攻
「まだ成長しきっていないのなら、つけ入る隙はいくらでもあるだろう」
 一番に前に出たのは明だった。その手にあるのは細くも凶悪な爪だ。
「毒婦セミラミス。貴様の毒を見せてやれ」
 速攻の一撃が走る。それを避け様と五尾の姿が揺れるが、実の猛獣よりも遥かに鋭利な刃がその首筋を抉った。
「くっ!」
 だが彼もただでは済まない。五尾の纏う炎はその意思を持って明を襲う。幸い彼を襲った炎は彼を皮膚を舐める程度でその勢いを失せる。彼が先に浴びた水が邪魔をし、炎が彼を襲う前にその火力は失せてしまった。
 それが五尾の癪に障ったのか、炎が五尾の周りで隆起する。形成するのはこの山の木々を焼き払った三匹の大蛇の様なうねる炎の姿。その一つが下がった明を襲う。
「やはり水では気休めにしかならないか………!」
 今度は諸に彼を焼いた。炎の奔流が一斉に爆ぜる。光纏がなければおそらく一瞬で燃え尽くされてしまう様な炎の中を耐え、彼は一歩後ろに下がる。
「ほら! こっちだ!」
 正面に立った淳紅が声を上げた。それに誘われる様に炎の蛇の一つが彼の身を襲う。ダァトである彼を炎が襲う。炎その物は魔術的な物で容易に防げるがそれに付随した爆風とそれに巻き上げられた地面が彼に飛び掛った。
「………っ! これくらい!」
 決して少なくないダメージだが、まだ立てる。彼はそれを確認し、そのまま五尾を睨み付ける。
 残った炎が襲ったのは熾弦だった。
 彼女は眼前に迫る炎を見詰め、次の瞬間、その手にある盾を構える。彼女の持つシールドのスキルが盾を活性化させ、正面からそれを受け止めた。
「はっ………!」
 呼気と同時、炎の奔流を受け止めた盾を振り払った。ほぼ炎を防ぐことに成功するが、爆風の生む圧力が彼女を苛む。
 その中。淳紅がスクロールの詠唱を完成させていた。
 光球が走り、五尾を襲う。それを避け様と狐は身を捻るが、次の瞬間、がくりと膝が落ち、咄嗟に炎を盾にしたが光球を諸に受けた。
 明の毒の影響が出たのだ。毒が苛む痛苦が五尾を苛み、その行動を阻害した。
「好機か。ならば………炎諸共、切り裂くのみ!」
 その狐を隼人が手にした剣が襲い掛かる。狐はそれを避け様とするが、彼の振り切った刀がその身体を薙ぐのが早かった。鮮血が琥珀の毛並みを汚し、だがその眼光は隼人をしっかりと見据え、彼の許にある炎を活性化させる。
 炎が彼の身を焼く。僅かに皮膚を焼くが、運よく炎の責め苦はそれだけだった。
「ASSERT CREATION――HASTA-GLACIES」
 その側面。隼人への攻撃に夢中になっている中、 朔桜の声が朗々と響く。直後、彼女の周りで僅かな大気中の水分が凝縮を始める。
「オティヌスの弩――射抜け」
 生み出したのは黒い氷柱だ。それは彼女の命令に応じ、次の瞬間、宙を走った。
 五尾がそれに気付く。だがその時には避けるには遅すぎた。炎が壁となり、それを受け止めんとするが氷柱を消滅させるには至らない。無慈悲な槍が五尾の毛皮を貫き、鮮血が迸った。
 大きく怯むその五尾から離れた所で、ゆいかが大上段に構えた刃を構えた。
「はぁっ!」
 気合一閃。同時、刃は振り下ろされる。
 ――砥上流剣戟術辰乃型・蛟。
 それが彼女の大上段から放たれる一撃の正体だ。刀身が目に映らぬほどの速さで振り下ろされた一撃が衝撃となって大気を引き裂き、飛翔する。
 五尾がその一撃に気付いたのは速かった。何度も一撃を受け、美しい毛並みを汚しつつ、だがその戦意は一切衰えていない。その衝撃を炎の爆風で相殺し、打ち消す荒業を見せ付けた。
「そんな事って………!」
 恨めしげにゆいかが声を上げるが、その横で走る影があった。優莉である。
 更にその動きを見ていた虎綱がその手に黒い刃を生み出す。
「行くわよっ!」
「お主の相手はこちらで御座る!」
 優莉が槍を突き出し、ほぼ同時、虎綱が手に生み出した影手裏剣を投じた。五尾が先に気付いたのは手裏剣。それを身を翻しかわすが、アウルの輝きを纏った切っ先からは逃れがたく、大きく毛皮を引き裂かれる。
 それに続いて熾弦が槍を構えたが、彼女が一撃を放つ直前に五尾が大きく跳躍した。爆風を利用したその跳躍と、その際に生まれた炎が熾弦と優莉を襲う。
 だんっ、と爪を立て、五尾が皆から少し離れた所に降りる。既に五尾の姿は血にまみれ、満身創痍だ。だがその目が持っている輝きは失せておらず、いまだに王者の如き威風を漂わせている。
 その様に明が影手裏剣を投じるが、それは炎に阻まれ届く事はなかった。
 そのまま炎が活性化し、燃え上がる。再び生み出されたのは、うねる炎の大蛇の姿が三つ。それが今度は、淳紅、ゆいか、虎綱を狙って迸った。
 淳紅とゆいかの光纏がそれを受け止める。だが先程よりも火力が高くなり、ただでは済まず、二人とも姿勢を崩し膝を落とした。
「成長途中でござったか………それでこの火力とは」
 その二人の姿を横目に見つつ、虎綱は軽業じみた芸当を見せつけそれを回避。うねり追尾するそれを見事に避け切って見せた。
 そんな中、淳紅が立ち上がる。
 諸に炎を受けたが、まだその姿に余裕が残っていた。彼はスクロールをしまうと、手を掲げ、その手の中にアウルを収束させる。
 ダァトのスキル――エナジーアローである。
「いっけえぇ!」
 それを投擲した。それを炎を壁として防ごうと五尾が炎を顕現させるが、それを貫き、光の鏃が毛皮を貫通する。その怯んだ姿に乗じ、隼人とゆいかが駆ける。
 二振りの刃が横薙ぎに走った。それをどうにか避け様と五尾が炎を爆ぜさせようとするが、爆ぜる直前の炎をゆいかの刃が切り捨て、隼人の刃が更に痛手を与える。
 更に熾弦が槍を手に前に出る。
「今度は!」
 先ほどは避けられたが、今度は逃さない。その気概の篭った一閃が真っ直ぐ五尾の毛皮を薙ぎ、払う。まとう炎が彼女を焼くが、それ以上の物を彼女は五尾に叩き付けた。
 既に五尾の姿はぼろぼろだ。後一歩でけりをつけられるだろう。その中で、神喰と虎綱が攻撃を放つが、双方共にまさしく次が必死となる五尾にとっては当たる事は許されない。最後の抵抗とばかりに炎を加速的に燃焼させ、それを相殺する。
 そんな中で走ったのは優莉の一撃だった。炎の合間を縫うように駆けた彼女の一撃が、がら空きとなっていた五尾の胴を正面から捉えた。
「終わりよっ!」
 心臓を的確に抉った一撃となった。
 次の瞬間、五尾が動きを止める。優莉がよろける様に槍を引き、下がると、五尾は一度大きく夜空を仰ぎ、絶命した。
 それと同時に、まるで嘘の様に周囲で燃え盛っていた炎が消える。
 後に残ったのは、煤と燃え尽きた神社の境内の姿だけだった。

●戦い終わって。
「皆さん。ご苦労様です」
 煤まみれで学園に戻った面々を迎えたのは任務の伝達をした事務担当の生徒だった。いつものように淡々とした口調で話し始める。
「今朝からご苦労様でした。尚、皆さんの今日の授業は公欠が認められるので、この後はお住まいに戻ってもらって大丈夫です。なお、山火事に関しては貴方達が戻ってくる少し前に鎮火したとの報告がありました」
 おぉ、と僅かに彼らの声に活力が戻った。
「被害も市街地にまでは出ていない様子です。山の中の被害で済んだ事を喜ぶべきでしょう。ただ向こう一年ほどは山への立ち入りが禁止されてしまいましたが、皆さんはよくやりました。では、この報告をもって、今回の作戦報告は終了です。
 何か美味しい物でも食べてゆっくりと休んでください。お疲れ様でした」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・鈴碕 優莉(ja0462)
 歌謡い・亀山 淳紅(ja2261)
重体: −
面白かった!:4人

Unstoppable Rush・
砥上 ゆいか(ja0230)

大学部3年80組 女 阿修羅
撃退士・
神月 熾弦(ja0358)

大学部4年134組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
鈴碕 優莉(ja0462)

大学部7年228組 女 ルインズブレイド
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
愛すべからざる光・
神喰 朔桜(ja2099)

卒業 女 ダアト
撃退士・
沖田 隼人(ja2215)

大学部4年27組 男 ルインズブレイド
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
世紀末愚か者伝説・
虎綱・ガーフィールド(ja3547)

大学部4年193組 男 鬼道忍軍