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マスター:月路 麻人
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/09/18


みんなの思い出



オープニング

「逆バンジーだ!」
 ホワイトボードの前で息巻く、部長の国立小百合。
 ぼり、ぼり、とかりんと頬張る、部員AとB。
 ここは久遠ヶ原学園部室棟、にある『ともにキャンプ部』の部室である。
「こら、聞いてたのか。お前たち」
「はんかいいまひはは」
 部員Aが小百合の方へと向き直り、もごもごと口を動かす。
 当人は「何か言いましたか」と訊いたつもりなのだろうが、残念ながら言葉になっていない。
 部員Bはお茶を啜り「部長もおひとついかがですか」と暢気な様子。
 部員Cに至っては、目の前のかりんとをただ黙々とやっつけている有様だ。
「これ、この間の団体さんの差し入れなんですよね。いいのかな、こんなお高いもの頂いちゃって」
「役得ですよ。これくらいなきゃ、やってられませんて」
 と部員B。それに対して部員Aが「ですよねー」と間延びした調子で相槌を打つ。
「なんでも主催者の実家が有名店らしいですよ」
「へえー。それじゃ、これからも宜しくしなきゃだ。人質ならぬ、かりんと質になって貰わないと」
「いいですね、それ。特別優待券送って、来年もお願いしときましょう」
「しっかし、暑さも和らいだ途端、暇になってきましたねー。まあ盆明けの明けなんて言ったら、毎年こんなもんです‥‥」
 ガタリ、とそこで突然、部員Cが席を立った。
 右手にアンブレラの柄を握り、バッと広げたその中に、膝を折り曲げ身を隠す。
「‥‥ここ室内ですよ。何やってるんですか」
「あはは、なんかおかしい。その格好」
 部員Cを指さし笑う、AとB。その背後で空気がゆらり、と。
 火気を孕んだ小百合の右拳が、振り上げられる。


「と言う訳でだ。売り上げが落ちてきてる事態で現実で真実は、到底楽観視できない」
 こんがりと焼き色のついた部員AとB。床に正座する二人の前で仕切り直し、と小百合がホワイトボードを叩く。
「だがうちは知っての通り商品が場所であるだけに、直接切ったり張ったり付けたりで価値を上げる、というのが難しい」
「それで逆バンジー、という訳ですか」
 一人だけ難を逃れた部員Cが、ちょっと溶けたアンブレラを閉じ、ヒヒイロカネに収納する。
 シールドしやがったな、と部員A。アスヴァンずるい、と部員B。
「でもいんですか、部長。逆バンジーって結構過激なアトラクションだって聞いてますよ。法律とか、大丈夫なんですか」
「アトラクションじゃない。精神を鍛える修業の一環、逆バンジーはその道具に過ぎない」
 それは苦しくないか、と部員一同。だが小百合はお構いなしに言葉を続ける。
「事実、私たちブレイカーは高いところに登ったり落っこちたりしてるだろう。だからこれは修業の一環だ。わかったら募集の見出し文考えるの手伝え」
「手伝えと言われましても‥」
 頭を捻り、唸る部員C。
「バンジーって確か元は、某民族さんたちの成人の儀なんですよね」
「詳しくは知らんが、どうもそうらしいな」
「じゃあ」

 程なくして依頼斡旋所、その掲示板に、一枚の用紙が張り出される。
「逆バンジーで未成年の儀!
 約30m×3Gの高みで、永遠の?歳を誓いませんか。詳細はともにキャンプ部部長国立小百合まで」


リプレイ本文


 季節は残暑厳しく。場所はともにキャンプ部が第二キャンプ場、はそこから下った場所にある小川である。
「冷たくて気持ちいー!!」
 藤咲千尋(ja8564)が膝丈まで小川の水に浸かって、元気いっぱい水遊びを楽しんでいる。
 千尋が掬った水を高く散らす度、彼女の赤い紐で結い上げた黒髪のポニテが揺れる。
「水着もってきてよかったの」
 神埼 律(ja8118)はその言葉通り、持参してきた水着姿で千尋との水遊びを楽しんでいた。背中が大きく開いたそれは、スピードを追求したフィット性の高い造りに改造されているものの、縫い付けられた『高等部1年77組神埼』のゼッケンがあくまで学園指定水着を主張してやまない。
 千尋の傍にいた犬乃 さんぽ(ja1272)もまた小川に半身を埋めて水遊びを楽しんでいるのだが、彼の場合その理由がちょと違う。
 逆バンジーは東洋の修行儀式。つまりこれは、水で身を清める行為に他ならない。
「ねーねーさんぽちゃん、水切りって知ってる?」
 千尋はそう言うと、手の中の平たい石を滑らせるようにして水面の上に放つ。放った石がタッタッと水を蹴り、跳ねていく。
「そういう技ならニンジャにお任せ‥シュリケーン!」
 そうしてさんぽが放った石は千尋の予想通り、幾重にも水を蹴って跳ねていく。
 岸辺に体操服、そしてブルマ姿のアルレット・デュ・ノー(ja8805)を見つけた律が、ちょっとふざけてその背後から忍び寄り、彼女の背中を抱きしめる。
「神埼先輩!?」
「水遊びも今年最後なの・・・っ」
 だから一緒に遊ぶの、と律が誘う。アルレットは己の背中に当たる柔らかいものの感触を噛みしめつつ、至福の表情を浮かべながら律のこれまた柔らかいほっぺにすりすり、一発「OKですよぉ」とデレる。

「逆バンジーで修業‥‥ねえ」
 小川へと辿りついた桝本 侑吾(ja8758)が、遠くに見える集合場所を振り返ってぽつり。まあ、いいけど、と再び視線を小川に戻したところで、千尋に見つかり誘いを受ける。あ、藤咲さんだ、と
「俺はのんびりするから大丈夫、楽しんでー」
 と手を振り答えながら、だが怪我しないようにと傍まで歩み寄り、彼女たちの水遊びを見守る。
 同じ場所に姿を現したアラン・カートライト(ja8773)もまた、千尋に「怪我しねえよう気付けろよ」と保護者顔で注意を促しながら、傍で見守っていた。

 その頃川の上流では、影野 恭弥 (ja0018)がその岸辺に腰を落ち着け、釣り糸を垂らしていた。隣には恭弥を釣りに誘った七種 戒(ja1267)が、彼と同じく腰を落ち着け、釣り糸を垂らしている。
 釣りは得意のこの二人。仕掛けに獲物が引っかかっても焦ることなく、鮮やかに魚をゲットしていく。
「へぇ‥意外と釣れるもんだな」
 と無表情のまま恭弥。彼が獲ったヤマメがボックスの中で、他のと一緒にぴちりと跳ねる。
「ここら辺穴場っぽくね?」
 よし釣れたー! と戒も、釣った何匹目かのヤマメをボックス内へと放る。
「さって」
 釣りは十分堪能した、と戒はすっくと立ち上がると、釣り用具を片付け靴を脱ぐ。
 彼女がそのまま小川の中へとダイブしても、何も言わず釣りを続ける恭弥。
 だがフ、という笑みを浮かべた戒に「隙ありィ!」と水をかけられれば、彼はやはり無言のまましかし容赦なく、活性化させたクロスファイアはその引き金に指をかける。
「あれ、ちょっと」
 戒の足元に撃ち込まれた弾丸が、バシュッ! と白い水柱を上げたのを皮切りに
「ぎゃああちょとしたお茶目じゃないかねええ!?」
叫び全力で逃げ出す戒を追い立てるようにして、次々に水柱が上がっていく。

 物陰で恭弥が起こしたたき火、その火で濡れた服を乾かす戒。岩の陰から「‥こっち見んなよ?」とちょっぴり赤らんだ顔を覗かせる。
 それに対し、背を向けていた恭弥が
「無計画っつうか‥ほんとバカだよなお前。見る気もないし興味もない」
 としれっと言い放つのだった。


 ところ変わってここは、一行の集合場所の第二キャンプ場である。
 巨大な逆バンジー装置を眺めることの出来る長テーブル席。何名かの参加者たちが、かりんととお茶を囲むようにして席についている。
「あら、このかりんとうおいしい」
 長く伸びた金髪をサラッと揺らし、クリスティーナ アップルトン(ja9941)がかりんとをひとつまみ。それを
「アンジェも食べてごらんなさいよ」
 と隣にいた双子の妹、アンジェラ・アップルトン(ja9940)の前に差し出し勧める。
「私は結構だ、お姉様」
 涼しい顔であくまでも甘いのはダメ、のポーズを貫くアンジェラ。だがその実彼女は超がつくほどの甘党で、甘く香ばしい匂いを放つそれを片目でチラ見せずにはいれぬほど、内心では興味津々だったりする。
「あ、アンジェラ嬢、クリス嬢…貴方たちも来ていたのか」
 その声にクリスティーナとアンジェラが後ろを振り返ると、そこには緑髪の青年ラグナ・グラウシード(ja3538)の姿があった。
「ラグナ様」と席を立ち丁寧に挨拶を済ませるアンジェラ。クリスティーナはそんな彼女とは対照的に、席こそ立ったものの「あら、ラグナさん、ごきげんようですわ」とフレンドリー。
 並んだ魅惑の谷間に、ラグナの視線が吸い込まれる。
「このかりんとうおいしいですわ。ほら、ラグナさんも、あ〜ん」
 クリスティーナが他意なく差し出したかりんと。頂いてしまいたいところだが、ラグナには騎士としての矜持がある。
 顔を真っ赤にしながらも、必死に視線を逸らそうと努めるラグナ。そんな彼の様子に首を傾げるばかりのクリスティーナの横で、アンジェラは胸の内で自分に向けてこう呟くのだった。
 成長は遅かったが最終的に大きく育ってくれて有難う、と‥。
 そんな3人の様子を離れたところから見守り、いや監視していたエルレーン・バルハザード(ja0889)が、アップルトン姉妹の間に挟まれデレるラグナに
「ううっ‥!」
 いらいらを募らせ嫉妬の炎を燃やすが、飛び出していくまでには至れない。
「うぐぐっ‥ば、ばくはつしろッ、ボインばくはつしろッ!」
 悔しさと切なさでこみ上げてくる涙が、はらりはらりと両の目から零れ落ちる。
 そして平たい己の胸を見て、またさらに滝のような涙を流すのである。


「ぐんしどの」
 装置の前に立つ見知った顔の男、その男の前で足を止め、ニオ・ハスラー(ja9093)が声をかける。
「おお、ニオさんか」
 彼、つまり鳳 静矢(ja3856)もまた彼女の姿を確認するなり、その呼び掛けに応えた。
「今日はおひとりなんっすねー。いっしょにしゅぎょー、よろしくっすー」
「ああ。‥‥ん? 修行?」
 何の話かと静矢が首を傾げると、ニオも釣られて首を傾げる。
「あれ? しゅぎょーじゃなかったっすか?」
「ふむ」
 まあそれでニオさんが納得しているなら、と静矢が小さく笑う。
「しかし、以前キャンプした時の部活の催し。また何か変わった事をするのか、と参加してみたのだが、肝心の国立さんは何処へ行ったのやら」
「そう言われてみればっすねー」
 だが噂をすればなんとやら。
 森の奥からひょっこりと姿を現した国立が「バンジー始めるぞー」と大きな声で集合をかける。
「おや、今までどこへ?」
 装置の前で鉢合わせた国立に向かって、疑問を投げかける静矢。
「すまん、すまん。変なのが紛れ込んでて、ソイツを追い払ってたんだ。あー、いや」
 気にしなくて良い、と国立。続けて「一番はー」と言葉を投げると、地味目の眼鏡少年クイン・V・リヒテンシュタイン(ja8087)が、彼女の前へと進み出たのだった。


 装置を前にして、クインは思う。
 これが永遠の若さを手に入れる儀式か、と。
 いや若さはどうでも良いけど「永遠の」と聞くと僕の中の血が騒ぐね、と。
「ふふふ、僕に怖いものなどないのだよ」
 安全ベルトに身を固定されても、クインは余裕の表情を浮かべていた。そんな彼だが、他人の悲鳴を聞いてから飛ぶのは怖いから、という理由で一番に飛ぶことを申し出たのは、ここだけの話である。
 その横の離れたところで装置の周りをぐるりと一周、大がかりな仕掛けを前にし「実に興味深い」と下妻笹緒(ja0544)。
 彼は思う。
 ただ重力にその身を任せ、落下するだけであったのが従来のバンジージャンプ。
 だが、それだけでは人は満足しなかった。
 ここでもまた人類は、空を目指してしまったのだ。
 超人的な身体能力を持つ撃退士ですら未だ到達し得ぬ、飛行という行為への渇望。
 その身を縛る鎖を解き放ち、彼方に見える雲海へと辿り着くために。
 装置の仕掛けに、ただただ感心の笹緒。だが彼にはひとつ、気になることがあった。
 この装置、どこにも安全マークが見当たらない。

「そもそもバンジーというの‥‥」
 クインが何かを語り始めようとしたところで、国立が「よし行くぞー」という掛け声と共に発射のレバーを引く。グガォンという鈍い機械音が響き渡り
「あ、あれ‥‥ちょお」
 おおおおおおお!!!? という叫び声を引きずりながら、クインは上空に引っ張り上げられた。
 逆バンジーの魅力は何かと聞かれれば、それは「空に吸い込まれる気がした」である。
 無性に大地が恋しいような、そんな感覚の中でクインは何を思う。
「あきかぜに あさきゆめみし わがめがね(訳:秋風にのって何処までも飛んでいける、そんな風に夢を描いたのか僕の眼鏡よ どこまでも飛んでいく君が着地する場所はやわらかい場所であったらいいなぁ)」
 数回に渡って重力と無重力のいたちごっこを体験させられた後、ようやく地面に解放されたクインは「僕の眼鏡がぁ‥」とうわ言のように繰り返しながら、ふらふらとその場を去って行く。
 その後ろ姿を見守りながら国立が
「眼鏡外しとけって言わなかったっけ」
 とぼそり。だがすぐにまあいっか、と「次は‥‥」と辺りを見渡せば、笹緒の円らな瞳と目が合う。
「‥‥‥‥‥」
 何か思うことがあったのか、国立は装備していたガイドブックを広げると『安全規約』はその項目の最後に『パンダを乗せてはいけません』と明記されていることを確認し、再び視線を戻す。
 笹緒が安全装置に繋がれるまで、1分と半。その間、笹緒と国立との間で壮絶なアイトークが交わされていたことなど、誰も知る由がない。

 飛ぶしかない。
 フライングパンダとなって、飛ぶしかないのだ。地平線の、彼方まで(飛べない)
 そう覚悟を決めたパンダが、あいや笹緒がレッツ発射。空に打ち出される。
「轟轟とこの身を運ぶ野分かな」
 下妻笹緒、である。


「ぐんしどのー! ポテチたべるっすか? お弁当もあるっすよー!」
「ありがとう、では代わりにこれをあげよう」
 長テーブルで順番待ちをしていたニオが静矢にポテチを、静矢がニオにチョコバーを差し出す。しばらくの歓談の後、国立に呼ばれて2人は、装置の前へと足を運ぶ。
「行ってくるっす」
 安全装置に繋がれながら、静矢に手を振り振り。ニオは遠く空の真上へと、吹っ飛んでいく。
「うぎゃーーー!!! ちょーーー楽しーーーっすーーーー!!」
 見る間に離れていく大地。ニオはその時確かに、風切音とそしてカチリ、という不自然な音を耳にした。ぐいんぐいんと上下に揺さぶられるうち、彼女の緩んだ安全ベルトが完全に外れ、ニオの身体はあっという間に中空に投げ出される。
 安全装置が下がり切ったところで、そこに落ちてきた彼女の足が装置の天井を蹴り、ニオはくるりと弧を描いて大地に降り立った。
 そうして見事な3回転半と鮮やかに着地を決めた彼女は「これがしゅぎょーっすね!!」と、晴れやかな笑顔を見せるのだった。
 危ないなー、と国立がベルトをきつく締め「次ー」と静矢を手招く。
「ぐんしどの、がんばるっすよー」
 ニオの声援を受け、安全装置につながれる静矢。国立がレバーを引こうとしたところで、前からその様子を興味深げに見ていた艾原 小夜(ja8944)が、国立に声をかける。
「傍で見ててもいいですかー?」
 だってだってこんな装置、滅多にお目に掛かれないもん、と。お疲れ様ですー、そう言って小夜が国立にチョコバーを差し出す。
 それをお礼とともに受け取り、小夜に操作の仕方を簡単に説明していく国立。その傍らで静矢がちょっときついな‥と自身の身体を締め上げていたベルトを緩めたことなど知る由なく、小夜にレバーを握らせる。
「えーっ いんですかー。じゃ、行きますよー」
 嬉しそうな小夜がえいーっとレバーを引くと、やはりグガォンと鈍い機械音が辺りに響き渡ったのち、静矢の身体が空の真上へと打ち上げられる。
「わ、すごーい」
「ぐんしどのーっ! 笑顔っすよー!!!」
 カメラはファインダー越しに、静矢を捉えるニオ。手を振りながら、順調にシャッターを切っていく。あれ? あの黒いのなに?
 己の身に危機が迫ってることにも気づかず、またベルトが外れて中空に投げ出されたことにも気づかず、静矢は「結構高く上がるな‥」と暢気な様子で呟いてみせる。
 だが視界に無人の安全装置を捉えた瞬間、自分が外に投げ出されたことを知り「ふむ」と柳一文字を活性化させる。着地の際に紫鳳翔を放ち衝撃を緩めれば容易い、そう考えたのだ。
 だが下で何かを叫ぶニオに向かって大丈夫、そう応えようとしたところで、空の彼方より飛来した大鷹型のサーバントはその巨大な爪に、静矢の身体が文字通り鷲掴まれる。
「ぐ、ぐんしどのーっ!!!」
 はわわわ、とシャッターを切る指を戻すのも忘れて、ニオは攫われいく静矢のあとを目で追う。
「‥‥また出たか、あの大鷲。しつこい奴だなー。んじゃ」
 次ー、と国立。えええええ?
「ぐんしどのーーーっ!!!」
 静矢のあとを追いかけて行くニオ。
 別な意味で、開いた口が塞がらない。そんな小夜の肩を、国立がぽんっと叩く。
 だがまあ飛んでしまえば「やーっ! たっかーいっ」と嬉しそうな声を上げる、そんな小夜だった。


「逆バンジー…ってどんなんやろうねぇ。ロケット発射ー! みたいなっ?」
 恋人Rehni Nam(ja5283)との森の散策を終え、彼女と共に戻ってきた亀山 淳紅(ja2261)が、装置の前に進み出る。
「2人一緒は無理ですか?」
 とのレフニーの問いにすまん、と国立が
「あ、じゃあ。これ預かって貰ってええかな」
 と淳紅がレフニーに使い捨てカメラを手渡す、とそこまでは良かった。
 身がすくむ、とはこういうことを言うのか。
 体を固定された途端、淳紅は内側から何か恐ろしいものが込み上げてくるのを感じ、ゴクリと喉を鳴らす。でもでも、彼女が見てるし。だけど
「や、やっぱやめよーかな‥」
 はは、と額に汗を浮かべる淳紅。国立が行ってら、とレバーを引く。
「くぁwせdrftgyふじこlp!??」
 解読不能な言葉を残し、淳紅は単身快適な空の旅へ。
 そうして彼が永遠の10代を誓うのは、次の機会に委ねられたのだった。でも多分、もう飛ばない。一生‥
 地面に四肢をつきがくりと項垂れる淳紅の背中を摩りながら、レフニーは
「ふにゅ‥‥私は『永遠の16歳』と叫ぶですか」
 その、つまり。永遠の15歳では困る、ということだ。今の日本においては。
 ぽわわ、と頬を赤く染めながら、レフニーは立ち直った淳紅に荷物を手渡すと、装置の前へと進み出る。
「うにゃぁ〜〜〜っ?!」
 と悲鳴を上げながら、だが天辺では頑張って『永遠の16歳』を誓うレフニー。
 その姿をカメラに収める淳紅が待つ大地へと向かって、彼女はまた悲鳴を上げながら勢いよく下降していく。


 さてお次はボイ‥じゃなくてアップルトン姉妹の、そしてラグナの番、である。
 しかし間近で見るとすごい高さ、そして迫力だ。
「こうしてみると‥逆バンジーって怖そうですわね」
 とクリスティーナ。続けざまアンジェラに向かって
「ねぇ、アンジェ。私の代わりに2回やってみない?」
 だが国立が「すまんが、お一人様一回な。精神衛生上の問題で」と答えると「あら残念だわ」とクリスティーナは本当に残念そうな表情を浮かべる。
 そんな彼女を主催者の意向に背くこともできまい、となだめつつ、アンジェラは装置に繋がれる。その間際に国立が何か大変だな、と声をかければ
「気にしないでくれ‥」
 と、だがそれでも何か思うことがあったのか。アンジェラは空の高いところで
「人がゴミのようだ!」
 と叫んだ後
「クリス姉様のお守り役はもう嫌だーーー!!!」
 ひとしきり振り絞ったような声を上げながら、勢いよく落下して行くのであった。

 装置に繋がれラグナが、アップルトン姉妹に手を振る。
「未体験ゾーンに突入してくるのですわ」
 とクリスティーナ。
 発射と同時に2人の姿が見る間に小さくなり、空の高いところまできたラグナは
「リア充死ねええええええッ!」」
 と普段から思い詰めるほどに詰め込んでいた思いの丈をぶちまける。
 だがそれと同時に、やはり離れたところからラグナの動向を探っていたエルレーンが
「しねええーっ!ボインちゃん好き、しんじゃええええーーっ!!」
 との罵声を投げつけた。
 その声に「ん?」とラグナ。そしてクリスティーナがぼいんちゃんってなんですの? と首を傾げ、アンジェラが一人胸の内でこう呟くのだった。
 諦めなければ私のようなスタイルを得られるかもしれないぞ‥! と。


 一方の順番待ち、わいわいと賑やかな長テーブル席で、かりんとを楽しむ二階堂 かざね(ja0536)。
「こういうお菓子も大好きー」
 と苦いお茶は脇に退けツインテを揺らす、否かりんとをつまんでいく。
 その横では同じく順番待ちの千葉 真一(ja0070)が、空いた時間を遣っていっちに、と準備運動の真っ最中。
 とそこへ自分の愛犬かけると良く似た豆柴犬が一匹、はふはふと息を荒げて彼の元へと駆け寄ってきた。
「よしよし、ん?」
 犬の頭を撫でながらに、口に咥えていた黒縁の伊達眼鏡を受け取る真一。
「誰の眼鏡だ?」
「わー、可愛いー」
 かざねも犬の背を撫でる。
「それ、リヒテンシュタインのじゃないかなぁ」
 席に腰を落ち着け、気だるげにチョコバーを食んでいた雨宮 歩(ja3810)がぽそり。
「ま、確証はないけどねぇ」
 と皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「じゃあ返してやらないとな」
 だが辺りを見渡しても、クインの姿はどこにもない。
 真一がちょっと困っていたところで、国立がそんな3人を一度に呼び寄せる。
「落っことしたら、マズイもんな」
 で眼鏡をテーブルの上へと置き、真一は先に行った2人のあとを追いかける。

「んー、怖いって気はしませんよねー」
 装置を見上げながらもむしろ楽しそう、という表情を浮かべてみせるかざね。
「あ、なんとかと煙は高い所が好き理論ではありませんよ。ここ大事。ところで‥」
 バンジーこぷたーなんて、だめ? こう回転も加えて、とかざねは体全部を遣ってそれを表現する。
 面白そうだけど危ないからダメ、との国立の言葉を受けて「んー、しかたないっ」とかざねは残念そうに装置に繋がれていく。
 ヒトが永遠の、と叫ぶ時それは、その大抵が加齢への抗い、である。だがかざねは違う。
 彼女がグガォンッと飛び出し孤空で言い放ったのは
「私は永遠の17さいぃぃぃっ」
 つまり普段から幼く見られることへの抗い、なのだ。
 見晴の良いところで、わーいと手を広げるかざね。このままかざねこぷたーで飛んでいけたらな、と
「高所でも お菓子が食べたい お年頃!」
 それとは無関係の句を読み終えたところで、直下していく。

「うーん」
 他人が飛んだ様子を見終えた歩。
「とりあえず一度普通に試してみるけど、天魔との殺し合いと同等のスリルは味わえそうにないねぇ」
 とやはり皮肉っぽい笑みを浮かべ、装置に繋がれる。
 そしてアトラクションとしての逆バンジーを普通に体験したのち、すたすたと去って行く。
 だが途中でふと何かを思い立ち、足を止め手帳を取り出すと
「自分以外の参加者の面白い一句や行動を手帳にメモし、帰ったら新聞部とかにネタとして提供しようかなぁ」
 どんな結果になってもボクには被害がないし、なにより愉しい事になりそうだしねぇ、と呟きながらペンの先をカチリ、と押し出す。
「でもこれって探偵がやる事じゃないかなぁ? ‥‥ま、細かい事を気にしてもしょうがないかぁ」
 と今度こそ、去って行くのだった。

「30mか。これは結構やり応えありそうだな」
「危ないのは禁止な」
 装置の前へと勇み出た真一に、何かを感じたのか国立が即座にツッコミを入れる。
「大丈夫、準備OK」
 カウントダウンは任せるぜ、と真一にGOサインを出され、国立は「ほんとかな」と疑心を抱きつつも3、2、1‥発射! のタイミングでレバーを引く。
「とぉぉぉぉうっ!!」
 地面から吹っ飛び最高地点に到達したその直後、真一は光纏。真紅のヒーロー、ゴウライガの姿へと変身を遂げる。
 風を斬り地面へと近づいて行く真一。そこで何処からか「CHARGE UP!」というカッコいい言葉が響き渡ったかと思えば、それと同時にアウルの黄金の輝きが真一の頭、胸、肩、腕、脚の各部に追加アーマーの様な形で装着されていく。
 安全ベルトがはじけ飛び、宙に放り出され‥いや出たところでムーンサルト。カッコよく着地を決めたところで真一はポーズを取り「天・拳・絶・闘……ゴウライガぁっ!!」と名乗りを上げる。
「くぉらっ」
 と国立が、だがこんなこともあろうかと準備しておいた予備のベルトを取り付けている間に、仮面の下で満足げな真一は一人去って行く。

「なかなか面白そうなのさねぇ」
 その様子を近くで伺っていた九十九(ja1149)が、国立に声をかける。最初こそ逆バンジーって何さね? な彼だったのだが、どうやら心の内で惹かれるものが出来たらしい。
 国立が二胡を預かり、準備万端。
 装置に繋がれ、九十九が空を飛ぶ。

 それを見上げながら、そしてかりんとをつまみながら、御手洗 紘人(ja2549)は思う。
 逆バンジーですか…まぁ、僕には関係ないことなのです、と。
 皆さん物好きなのですね、と。
 そうして自分が列に並んでいる扱いになってるなどとは夢にも思わず、彼はお茶を啜る。
 九十九が降りてきたところでバトンタッチ、と装置に繋がれてもまだ気が付かない。
「この花林糖美味しいのです! お土産に少し持って帰ろうかな」
 だがそこで手の中のかりんとと湯呑を奪われ、やっと
「何なのです?このベルト‥‥え? 魔法の言葉?」
 国立がコクリ、と頷きレバーを引く。
「えーっと、テクマクマヤk」
 ゥオーーーーンッ!!?
 地面から強制離脱、否逆バンジー。
「いやゃぁあぁー何で、何でっ僕もバンジーさせられてるのですかぁあぁぁ」
 だが泣いても笑っても、装置は止まらない。
「ひ‥‥酷いのです!! 僕はラインに並んでなん‥か‥‥あれ?」
 上がったかと思ったところで、下がってくる。これぞ逆バンジーの、醍醐味。
 そんな断末魔の悲鳴を背に地上では、九十九が
「中々良い体験だったのさぁねぃ。ん…なんか曲が思いつきそうだねぇ」
 と二胡を片手にヴァイオリンとはまた違った、だが人が咽び泣くような声に近い、そんな弦楽器特有の音の調べを奏でていく。


 場所は変わって再び小川。
 淳紅とレフニーがお互いに水を掛け合いながら、2人きりの時間を楽しんでいる。

「この季節でも水冷たくて気持ちええなぁ♪」
 岸辺のシートの上に、腰を落ち着ける淳紅。その傍らで先に水から上がっていたレフニーが、持参した手作りのお弁当を広げる。
 おにぎりの具は、梅と明太子と鮭の3種類。海苔を別に用意しているところに、彼女のさりげない気遣いを感じる。
 お弁当の中はアスパラのベーコン巻き焼きに、卵焼き。それからお新香等のおかずが彩良く、美味しそうに並んでいる。
 熱い湯を注ぎいれ出来た味噌汁をレフニーが差し出せば、淳紅はちょっと照れくさそうに、だが嬉しそうに受け取り。
 そんな幸せいっぱいの恋人たちのランチタイムは、時間が許す限りいつまでも続いていくのだった。


「遅いぞ」
 川から戻ってきた律とアルレットを捕まえるなり、国立がしれっとそんな一言を言い放つ。
 遅刻してきたのは貴方なの、と心では思いつつも言葉にはしない律。
 そしてそんな律が装置に繋がれていくのを、傍らで見守るアルレット。
 気を取り直し、律は思いを馳せる。
 今月で17歳なの。これはなんていいタイミングなの、と。
 だがその後で
「律はまだ16だから‥」
 とぼそり。
 こういうアクロバティックなマシンは大好き、の律だ。打ち上げられ、空高くなるにつれテンションも最高潮に達していく。
「少し早いけど‥永遠の、17歳なの‥!!」
 そうして地面に落ちていきながらに、律は再び思いを馳せるのだ。
 今より積極的になって人前で自己紹介し『神埼律、17歳なの☆‥オイオイ! と突っ込ませれば、勝ちなの』と理想の未来予想図を頭に描きながら。

「えへへっ、バンジーって一度やってみたかったんだよねっ」
 とアルレット。
 彼女もまた誰かと同様、逆バンジーって何? だったのだが、律が楽しそうにしてる姿を見て興味を引かれたようだ。
 ああ、それにしても水着姿の神埼先輩、超可愛かった。
 瞳からハートマークが飛び出しそうなアルレットを装置に繋ぎ、国立がレバーに手をかける。
「あ、神埼先輩。早めですけどお誕生日おめでとうございま‥」
 すぅーーーーーーと声を引きずりゴー・トゥー・ザ・スカイ
 空の一番高いところでアルレットが「ずっと女の子大好きぃっ!!!」と声を張り上げる。
 一方の長テーブル席では順番待ちの戒と千尋が、それから侑吾とアランの4人が、かりんととお茶を囲んで和気藹々。
「楽しみだねー!! どんな感じだろうーわくわく!!」
 と胸を躍らせる千尋。それに対し戒が「なー!!」と相槌を打つ。
 その隣ではアランが侑吾に向けて
「そのレディの長所を褒めろ、褒めまくれ。基本的にレディは全員可愛い生き物だ、そしてか弱い。気遣えよ、砂糖菓子なんだからな」
 と何かを熱く、だが実際にはあくまでもクールに語りかけている。
 だが当の侑吾はイマイチ、の様子。
「いいか、見てろよ」
 アランが振り向きざま戒に声をかけようとしたところで、千尋と戒の2人が国立に呼ばれて席を立つ。
「焦りは禁物だからな」
 とアランは悠然と構える。

「誕生日の抱負をだな‥!」
 装置に繋がれる戒。打ち出され、空の高いところで
「今年から もうトシとらない 乙女仕様☆」
 そう、OTHU女でもなく落女でもなく、乙女。その力強い抱負を、一句の中に忍ばせる。
 充分に逆バンジーを堪能したところで千尋にバトンを、それを受け取った千尋が
「レッツ逆バンジー!!」
 とやはり持ち前の空を突き抜けるような明るさで、わーいっ!! とはしゃぐのだった。
 そんな2人が落ち着いたところで、侑吾と共に歩みよってきたアランが、戒の頭をくしゃりと撫でる。何事かという態度を見せる戒に、アランがさらに言葉を続ける
「お疲れさん、レディなのに良く頑張ったじゃねえか。お前のそういう度胸は魅力だと思うぜ、美人なのに親しみ易いしな」
 思わずうぇええっと後ずさる戒。
だがその傍では侑吾が、よくそんなに語彙があるもんだな、流石紳士、と感心した様子を見せる。
「つうか可愛いなー、お前。よしよし、飛んだ御褒美に何か奢ってやろうか?」
「‥かりんとにでもアタったんかね‥?」
 と心配そうに、だが奢りという言葉を耳にした戒は
「あ、じゃあ回らない寿司で☆」
 よろしく! とそこは笑顔で反応せざるを得ない。
 彼女は彼女で中々のもんだ、とさらに感心する侑吾。その後でアランが
「桝本も紳士になれば良い。まあ、俺には敵わないがな」
 と場を締める。

「流石東洋の神秘日本、普通飛び降りるのに打ち上げちゃうなんて、凄い」
 服を乾かして戻ってきたさんぽが、瞳を輝かせながら国立の前へと進み出る。
「さんぽちゃん、頑張ってー!!」
 と千尋の声援を受けながら、さんぽは空を飛んだ。

 美しい。世界はこんなにも、美しい。
 澄み切った青空を瞳に映し、さんぽはそこに向かって手を伸ばす。
 伸ばしたところで

「ニンジャー!」
 と。落ちていくのであった。


 落ち着きを取り戻した長テーブル席で、無事に帰還を果たした静矢、そしてニオが仲良くサンドイッチを食んでいる。
「着地に難有り‥このアトラクションは改良が必要だな」
 装置の前で手を振る国立に、苦笑う静矢。
「でもあのオオタカをいっとりょーだんしちゃうなんて、さすが」
 ぐんしどのっすーとニオ。
 その傍らにこれまた当てのない旅からの帰還を果たしたクインが、ため息を吐きながら着席したところで、自分の眼鏡を発見し「あああれえええ?」と声を上げる。
「うわ、なんかベタベタしてるしっ」
 何事かと空に眼鏡を向けると、そこに2つの青が映り込む。

 そんなふうにして今日も1日が、過ぎていく。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:13人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
お菓子は命の源ですし!・
二階堂 かざね(ja0536)

大学部5年233組 女 阿修羅
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
あんまんマイスター・
七種 戒(ja1267)

大学部3年1組 女 インフィルトレイター
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
雄っぱいマイスター・
御手洗 紘人(ja2549)

大学部3年109組 男 ダアト
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
撃退士・
雨宮 歩(ja3810)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
クオングレープ・
cicero・catfield(ja6953)

大学部4年229組 男 インフィルトレイター
眼鏡は世界を救う・
クインV・リヒテンシュタイン(ja8087)

大学部3年165組 男 ダアト
京想う、紅葉舞う・
神埼 律(ja8118)

大学部4年284組 女 鬼道忍軍
輝く未来の訪れ願う・
櫟 千尋(ja8564)

大学部4年228組 女 インフィルトレイター
我が身不退転・
桝本 侑吾(ja8758)

卒業 男 ルインズブレイド
微笑むジョーカー・
アラン・カートライト(ja8773)

卒業 男 阿修羅
永久なるガールラヴ・
アルレット・デュ・ノー(ja8805)

大学部2年316組 女 インフィルトレイター
撃退士・
艾原 小夜(ja8944)

大学部2年213組 女 鬼道忍軍
闇鍋に身を捧げし者・
ニオ・ハスラー(ja9093)

大学部1年74組 女 アストラルヴァンガード
華麗に参上!・
アンジェラ・アップルトン(ja9940)

卒業 女 ルインズブレイド
華麗に参上!・
クリスティーナ アップルトン(ja9941)

卒業 女 ルインズブレイド