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マスター:燕乃
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/04/19


みんなの思い出



オープニング

●隠れたる核珠


 鮮やかな夕日が焼け落ちていく。
 地平を濡らした、余りにも赤い光。
 その強さに目が眩む。だが、視線をつい引き寄せられる。
 まるで砂上に立てられた楼閣のよう。すぐに壊れると思っているのに、その美しさと危うさに目が離せないのだ。
「そのようなものに、撃退士が引っかかるといいが」
 そう呟き、フードを深く被るのは天使フェッチーノ。
 隠された瞳は複雑な暗さを帯びている。謀略であり、喜びであり、打算と勝機。
 元からフェッチーノは正面から撃退士と衝突する気などなく、欺いて利を得るつもりである。戦って消耗するなど愚ろかしいとさえ。
 支配される側の原住民と、どうして小競り合いなどする必要があるのだろうか。ましてや、後一手でこの街、秋田市が手に入るというのに。
 元より功績を立てられない現状に溜まっていた鬱憤。我慢できないとばかりに、薄闇に包まれ始めた建物の一室で唇を笑みの形へとゆがめた。
 此処に来るかもしれないが、もう遅い。このビルの住民は残らず肉を腐らせるスライムや、強烈な毒霧を纏うサーバントで、文字通り音もなく制圧して支配している。
 ここは、フェッチーノの陣地。調べたあげた、この秋田市のなかでもゲートを開くに適切な場所。
 だが、それだけではダメだと、打ち込んだ一手。街にまずはどよめきが、続いて混乱と焦燥が走り、フェッチーノの身と、ゲート生成を隠すのだ。ゲートを作るための詠唱中は無防備だからこそ、街の外の騒動に視線を向けてもらわなければいけない。
 その為、主戦力は外においてきたのだから。この街を一晩かけて、ゆっくりと襲って貰わなければならない。
「さて、蠢く鬼蜘蛛の群れを、夜の中でどうするかな」
 嘲笑った唇が、言霊を帯びて異界の門、その核を作り上げていく。
 夜か来る。闇が迫る。だが、朝焼けと共に、この街は天界のものになるだろうと、暗い愉悦を覗かせながら。
 


●鬼影の群れ



 夕暮れが合図だったかのように、地平線の向こうから、黒い波が現れる。
 ぞろり、ぞろり。物陰から、森から、山から、或いは地の中から。ゆっくりと這い出していく、巨大な影達。
 潜んで時を待ち、主の告げた刻限をもって胎動を開始した鬼蜘蛛の群れ。
 そして鬼蜘蛛達を照らすのは、燈りを宿す狼の群れ。
 般若の面を数えることは次第に出来なくなっていく。合流し、増えて、あたかも迫る波のように蠢くのだ。
 それこそ以上な数の鬼の影が、ぞろぞろと、ぞろぞろと、人々に絶望を刻むかのようにゆっくりと迫る。
 備えはあった。敵襲だと告げた。だが、どう考えても、敵の数が多すぎる。
 十や二十なら攻め込める。五十までなら牽制と威嚇攻撃を続けただろう。だが、それが百ともなれば防衛を固めるほかにない。ましてやこれから時刻は夜。撃退士達にとって一方的な不利に立たされるだろう。
 異様に過ぎる数。まるで、夢や陽炎で現れたかのような黒い群れ。
 土蜘蛛を照らして影を作りだす狼の燈りが揺れる。
 何処までも遅々として、恐怖を煽る幻のように迫り――夜遅く、戦端が開かれる。
 共に持久戦。街を護るため奮闘する撃退士と、爪と牙で防壁を削る鬼蜘蛛。凄絶なまでの攻防の筈なのに、あり得ない程の静かさと、幾ら押し返し、切り裂いても霧を相手取るかのような手応えのない敵との戦いが始まっていた。
 長い夜になる。
 血の流れは、砂時計のように止まらない。
 

●蜃気楼の狼と蜘蛛



 違和感は誰もが覚えていた。
 いや、こうも長く戦い続ければ嫌でも気づくだろう。
 迫る牙と爪に身を削られ、血を流す。だが返しの刃を送れば、切り裂く手応えはない。
 それに驚き、疑問を抱けるのは余裕あってのことだ。虚を突かれた瞬間、別方向から強襲してきた鬼 蜘蛛の一撃を受けて転倒し、後方へと運び込まれる。
 どれだけ戦っただろう。どれだけ切り捨てだろう。
 終わることのない戦いは撃退士に長時間の消耗戦を強制し。次第に後退を余儀なくされていく。
 だが、そこでようやく違和感と疑問を確信に抱くのだ。確かに倒れた鬼蜘蛛はいる。だが、その数が 余りにも少ない。
 それは撃退士の負傷を見てもそうだ。これだけ長く戦い続けたのに、倒れるものの数はやはり少ない。泥のように身体中にこびり付いた疲れの中、ようやく熱い吐息を吐き出す。
「……まさか幻影、か?」
 全てがそうではないだろう。だが、恐らく半数近くの鬼蜘蛛がそうである可能性がある。
 夜闇での戦闘で視認不可能。更に多数と見せかけての脅しで防衛に専念させつつ、遅々として戦闘のせいで確信を抱かせるのを遅らせる。
 東北のサーバントたちは幻影を扱うものが多い。それは知っていても、目の前に敵がいればそこに反応してしまうのは仕方のないことだ。加えて、これだけの数で見せかけとは言え迫られれば、危機感を強く抱いてしまう。
 つまりは敵の術中。これは、陽動。
「くそっ」
 ならば時間稼ぎが目的の外部からの攻撃だ。
 ならば、この秋田市の内部で何か大掛かりなことが起きている可能性は高い。
「恐らくは、あの天使……だが」
 現場の撃退士が迫る鬼蜘蛛の脚を長剣で弾きながら、苦しげに呻く。
 鬼蜘蛛は決して弱いものでも、無視できるものでもない。加えて幻影で数を増やされ、虚と実を交互に叩き込まれて惑わされている。目の前の敵が本物かどうかを識別する手段がない以上、全てを相手取るしかないのだ。
 無視すれば一般人に被害が出る。だが、もしもこの陽動がゲート生成のためのものであれば……。
「少数を、街の内部の探索にまわせ」
 それは苦渋の決断。下手な戦力分断など愚の骨頂だ。
 判っていても、何もしないわけにはいかない。
 この街を、秋田市を明け渡すわけにはいかないのだから。



●楼閣たるや


 
 街の内部へと向かった撃退士が感じたのは、余りにも薄い魔力の波。
 それは隠れるように紡がれていた上に襲撃の動乱と喧騒で掻き消され、近くにまで寄らなければ感知できないほど。
 が、それは確かに目の前のビルから流れ出している。それも恐らく襲撃から長時間、ほぼ一夜に渡って続けられた何か。街を覆っていく、異界の気配。
 もはや言うまでもない。ゲートと結界を作る気なのだ。
 いけないと逸る気持ちを抑えて見上げたビルには明かりもなければ、中から物音一つさえしない。
 それどころか、生きるモノの気配さえも。
 しんっと静まり返った気配は、けれどまるで待ち受け飲み込むかのよう。
「…………」
 罠と警戒がある。そう認識しながらも、更なる増援を呼ぶなど不可能だ。
 入り口は正面と、非常口の二つだけ。どちらを取っても大差ないだろう。守る側だった撃退士は、このビルを攻め落とす必要があるのだ。
 それも時間との勝負。ゲートが作られる前にたどり着き、阻止しなければ。
 ならばと中にあるのは罠や妨害、そして奇襲に長けるサーバントだと嫌でもわかる。陰湿で暗鬱で、搦め手を好み嘲るようなこの手は、見覚えがある。
 天使フェッチーノ。この秋田市に、因縁ある天使。
 この街をあの天使には渡せない。
 もう避難など間に合わない。全ては自分達に掛かっているという責任とプレッシャー。
「行こう」
 せめて一太刀。ゲートを生成している間は天魔は無防備に近い。
 ならばこそ、撃退士の気迫は甘くないと知らしめる為に。
 この意思、想い、感情。天に奪われるものではなく、天を落すものだと。


リプレイ本文



 僅かに漏れ出し、肌に触れる気配。
 夜戦の喧騒に紛れ、隠れている。が、ここまで近づけば嫌でも気づく。
 違うのだ。場の空気、流れ、気配。人界のものが歪み、天界のそれへと近づいている。
 そして変質の元となる魔力に、オブリオ・M・ファンタズマ(jb7188)は思わずその名を呟く。
「……フェッチーノ」
 秘められたのは誓い。ゆらりと燃え上がる戦意が、オブリオの瞳を白く染める。
 奪うと告げたのはかの翼。だからこそ、まずはその為に地に落とそう。
 天界のゲートを作り、引き篭もらせなどしない。
「このビルにいる敵に、見当は付いているようだな……」
 人の街を奪われる訳にはいかないのは皆同じ。
 アスハ・ロットハール(ja8432)が呟き、オブリオへとフェッチーノの説明を求める。
 違う可能性とてあるが、秋田市を狙っている天使といえばフェッチーノでもあるのだ。その敵の情報や正確を少しでも共有していれば、対策も立てやすい。
「思慮を重ね、慎重を期して、けれど自分は矢面に立たずに嘲け笑うようなやつですよ……丁度、こんな風に街を襲わせて、その中で薄ら笑いを浮かべてゲートを作るような」
 語られるオブリオの言葉に頷く面々。続く性格や能力は端的なものだが、それだけで十分だろう。
「中々、意地の悪そうな奴やね……人の命も眷属の命も何とも思っておらんのやろうな」
 傲慢と慢心。中心にあのは我のみ。
 実際に力も知恵も回るのだろうが、宇田川 千鶴(ja1613)はフェッチーノをそう捉える。
 事実、それは的を得ているだろう。更に数手重ねていれば、ゲート阻止は不可能だったかもしれない。胸の中でざわつく何かを押さえ、宇田川は視線をビルへと向ける。
「どこぞの騎士団の方々を見習って欲しいものです。彼ら並の戦闘力を持たれては困りますが」
 そんな白き伴侶の視線に、石田 神楽(ja4485)は言葉を重ねて同じ方向を向く。
 にこにこと笑いながらも、その奥底ではどうなのだろう。この街を天の幻想に埋もれさなど許しはしない筈。
 自身の力にさえ神楽は嫌悪を抱くのだ。他人を巻き込み、その精神を奪うゲートなど論外である。
「夢と理想に溺れ、散るのは貴方ですよ、フェッチーノ。舞台に夜を選びましたが、ならばその目論見は朝で露と消えなさい」
 ユウ(jb5639)と神谷春樹(jb7335)がハンドサインを示し合わせる中、エルネスタ・ミルドレッド(jb6035)は耳を澄ます。会話と、街の外部での戦闘、そして混乱。まるで夏夜の森のような騒ぎの中。
「……音が、しない」
 ビルの中はまさしく無音。光が一つも付かず、中で何か動く気配もない。
 となれば主要な迎撃は罠か、隠密に長けた者たち。
 白銀の雪のような冷たい光を少しずつ抑えて消し、けれど左目の蠍の紋章はその意思に同調するように強く。
 街を守る。この状況がエルネスタの昔を思い出すようで、心が軋み、手が痛むのだ。
 エルネスタが自らの手を見れは、血塗れて赤く染まった指先が記憶の底から幻覚のように蘇るだろう。
 心を苛む過去を振り払い、現実へと縋るように閃光の名を冠した宝剣の柄を握り締めた。
 今は、あの後と違う。この戦いとて、終わるはず。
 それに、夜明けまでに時間はない。
「速やかにいくとしよう。ゲート展開などさせるワケにはいかんのさ」
 立ち止まる余裕などないと 皇・B・上総(jb9372)が口にする。
「何をする気かは判っている。なら、後はその阻止の方法だねぃ。……このビルの何処にいるか、見当は付くかな、オブリオ」
「恐らく、奴の居場所は――――」
 いよいよ動きだしたのだ。ならば、やることはただ一つだけ。
 陽動を見てきっと笑っていただろう天使。
 そんな性格だから、後一手届かず、翼もがれると知れ、と――。





 散開せずの八名での正面突入。
 戦力の分散のリスクも考えたのだろう。
 非常口から入っても利はなく、屋上は迎撃の可能性が高い、となればそうなる。
 そして、それは結果的に突入の際の罠による負傷を減じていた。
「……っ…!?」
 扉をあけてフロアに入り込む寸前、戦闘を担当するアスハと宇田川の動きが止まる。
 呼吸が苦しい。何かを吸い込んだと共に、身体の自由が奪われる。
 夜闇に紛れた毒の霧。入り口にこそと設置されていたそれを肺の奥まで吸い込んでしまった。拙いと思った瞬間には、更に頭上から酸性の液体が雨粒のように二人の身を打ち据える。
 ダメージは軽微だが、毒、麻痺、腐敗。三種のバッドステータスをいきなり受けている。いや、入り口だからこそ念入りに罠を仕掛けていたのだろう。
「ダンジョンではなく、あくまで迎撃……」
 ならば進入する入り口は丁寧に、そして最大の罠を用意する。
 言ってしまえばここは砦だ。中に入られないようにし、足止めするのは常道か。
 中に入る際が最も危険だったのだろうと神谷は今更ながら歯噛みするが、それ以上は声を漏らさずに落下して来たスライムへと魔弾を放つ。
 その悪質さに反するように、スライムはたった一撃でぐすぐすとただの液体へと変じていく。本物の使いきりの罠。それも性能の低い分、量産できるものだろう。
 となれば、全ての入り口にこのような罠があったはず。二手、三手に分かれていればより被害は大きくなっていただろう。
 そして、ここで声は上げられない。
 上総がケミカルライトを投げ込めば、毒霧の姿が浮かび上がる。奇襲して敵を目視し、オブリオは光の投剣で霧を穿ち、ユウと神楽の放つ銃弾が残るスライムを駆逐していく。
「厄介、ですね……」
 敵の気配を感じなくなり、宇田川とアスハが麻痺から解除されてようやく呟くエルネスタ。
 こちらはビルを登るに連れて少しずつ消耗していくだろう。特に腐敗は厄介。下手をすれば防御という戦闘力を奪われていくのだ。
「エントランスは、これだけか……」
 焼け爛れた肌の痛みを堪え、アスハが向かう先にはビル内の地図がある。
 建物の通電は完全に破壊されているようで、予備電力さえも動かない。が、地図があるだけマシだとスマホで写真に捉え、A班とB班に分かれる面々に渡す。
「オブリオの推測通りなら、陽動を見下ろしつつ、夜を部屋で迎えてゲート作成だ。……翼が蝙蝠だからと、夜目も優れた天使ではないだろう」
 皮肉げに笑うアスハ。つまり、夜になれば陽動が成功したかは判らない。
 夕方に始まった戦闘を見つつ、ゲートを作成できる場所が最有力候補。全てを調べては時間が足りない。
「……西日の差す部屋を1Fから重点捜索だ」
 アスハに対して異論は出ない。
「後は、こっちは広い部屋を探してみるわ。コア作成とその保護の為にある程度の広さはいるやろうしね」
「そして、多分巡回するサーバントもいるでしょうから、先の罠や警戒の密度を最優先に」
 決め討ちは外れれば痛手を受ける。が、確かな推論の元であれば成果を上げるものだ。
「…………」
「酸に、毒。後は、刃物の跡、ですか?」
 瞼を閉じ、床に転がる死体へと黙祷を捧げるユウに対して、冷静にその致命傷となった部分を見るエルネスタ。遺体を前に余裕だか心がないのかと指摘はない。これ以上、被害を出さないためにはしっかりと見る必要がある。
 酸と毒ならば先のだろう。だが、刃物の傷があるとなれば、別の種類もいるはずだ。
 内部の破損は少ない。恐らく、ビルにいた人々は逃げる間もなく殺されていったのだろう。
「……行きましょう、彼らの弔いの為にも」
 今はただ祈るのみ。
 申し訳さと、そしてきっと置いてはいかないとユウは心に刻む。惨状に痛みを覚えても、終わるまでは考えない。
 思考の外に。復讐心も不要。ユウは守る為に戦うのだから。
「……そうだな、弔うためにも、遺族と会わせる為にも、ここにゲートなんて作らせられない」
 悪魔のゲートに巻き込まれた神谷は思う。あれは異界だ。
 全てを飲み込んで、何も返さない異界。不条理と略奪のみで編まれた、人の世にあらざるべきもの。
 精神も魂も、みな餌だと告げる天魔の領域。
「……さて、二階からは別れていきますよ」
 にこにこと、沈んだ場の空気を切り替えるように神楽が告げる。
 心が重く沈殿しているだけでは、決してこの先には進めない。







 
 二階で起きたのは、静寂をもっての見敵必殺。
 足音を忍ばせ、階段や曲がり角、机の下に敵がいればハンドサインで意思を統一し、一気に攻撃を叩き込む。
 二度、スライムにも霧にも負傷を受けてなるものかと宇田川の指輪より放たれる魔の竜巻が毒霧のサーバントを切り裂いていく。
 宇田川の視線は窓、天井、ドアに階段と行き来している。
 それを補佐するように別の方向を常に警戒している神楽に、物音や匂いで識別しようと聴覚と嗅覚を研ぎ澄ませるエルネスタ。
「しかし、精神削られるさねぇ」
 上総が小さく呟いたのも仕方あるまい。ナイトビジョンと肉眼を交互に切り替えて索敵をしているが、文字通り四方八方、何処から敵が襲ってくるのか判らないのだ。
 見つければ確実に、反撃される前に仕留めている。
 毒霧が流れていくようにと窓を開け、換気もしている。
 だが、どれだけ効果があるだろうか。恐らく、最も重要な罠は避けられないように設置しているはずだ。
「……罠は二段構え、という奴やな」
 宇田川も僅かに声を漏らした。
 一つ目を避けたと思った所に、本命の罠をぶつける。
 基礎中の基礎だが、それがある為に動きが鈍るのは仕方がない。
 部屋の扉を開け、まずは上総のケミカルライトを投げ込む。と、同時に机の下から這い出た酸性のスライム達。瞬く間にライトは溶けて消え、代わりにと打ち込まれていく弾丸や魔法、火蛇の飛翔がスライムを掻き消し、焼き尽くしていく。
「ここもはずれ、ですか」
 風塵のリングによって生み出された竜巻を周囲に纏わせながら、エルネスタが呟く。
 二階ははずれ。となれば、後は三階、四階。五階は逆にまずないと思えるからこそ。
「より注意して、上へと行きましょう」
 確実に始末している。だが、この先は更に負傷が高まる可能性とてあった。







 アスハが床すれすれの位置から投擲したのは死体より拝借した携帯電話だ。
 バイブで振動させ、光を点滅させているそれが階段の踊り場に差し掛かった瞬間、毒霧に溶かされた上にスライムに襲われて一気に原型を無くしていく。
「ふむ……どうやら……知能は、ないらしいな」
 光か音か。恐らくはその両方に反応して襲うトラップサーバント。
 だがこんな簡単な餌に釣られるようでは知能の程度も知れる。補充できる携帯の数も限られているが、危険かもしれないと思った所で使えばいい。
「所詮はただの設置罠、ということでしょう。排除が面倒ですが」
 神谷が呟き、銃口から放たれる光の弾丸。スライムを打ち抜いたそれに重ねるよう、アスハは五つ魔法球を紡ぎ合わせ、一つの杭へと形成する。
 そして肯定代わりに霧へと打ち込まれる光穿の一閃。続けてユウの弾丸とオブリオの光のナイフが突き刺さる。
 倒してはいるのだ。確実に。
 上の階へと進むと、神楽たちの班へと連絡を入れる中、ぽつりと呟くユウ。
「……時間が、かかりますね」
 馴れないこともあって、二階の探索には十分ほどを消耗している。ある程度の見切をつけての探索だが、時間が掛かっていることを否定できない。
 罠には掛かっていない以上、大きなタイムロストはしていないが、このサーバントたちが足止めであるならフェッチーノの目的は果たされているといえるだろう。
 もっとも、それ以上は決してさせていない。ミスはしていないが、成功もしていない。
 時間が過ぎて、余裕が削れて、焦りへと変わっていく。






 ここまではというべきだろう。
 二手に分かれて三階まで到達し、入り口での負傷はあれど、トラップを慎重に回避し続ける撃退士。
 スライムも霧も不定形だが、近づかれる前に対処できれば問題はない。
 上総が投擲するケミカルライトの数も限りがあるのだ。早めに見つけなければいけないのだが、と 宇田川が窓を開けて換気をしようとした瞬間、それは起きた。
 ごうっ、と開け放たれた窓から凄まじい音を立てて吹き込む風。
「しまっ……」
 後悔しても既に遅い。可能ならば霧状の相手を外に出せないかとしていたが、あれも不定形の生物でありそう容易く動いたりはしない。
 むしろ逆。今のように風音を立てて、敵を引き寄せることとてある。
 現に、廊下の奥を見ていた神楽が困ったように呟いた。
「おやおや、気づかれてしまいましたか」
 ぼんやりと霞む白い人影。人ではくサーバントだと神楽が認識すると共に苦笑し、即座の発砲。
 頭部に吸い込まれるようにして突き刺さった筈の神楽の弾丸だが、これの実体は霧。頭や胸、手足を撃っても動物のような効果は得られない。不定形であるがために、急所など存在しないのだ。
「……これは」
 更に苦さを増した声に、霧の剣士が迫る。
 疾走と共に霧の細身剣が向かったのはエルネスタ。蠍の紋章の浮かんだ左目が未来を見通したかのように刺突の軌道を予測し、鋭い切っ先が届くよりも先んじてサイドステップを踏んで避ける。
 同時に身を先回させ、宝剣を閃かせるエルネスタ。
「甘いですよ」
 繰り出された斬撃は霧の剣士の腹部を切り裂き、追撃にと宇田川の起こす竜巻に上総の紡いだ幻影の駿馬の突撃。
 だが、それだけでは倒れない。身を霧へと散じさせ、けれど細身剣だけは霧の中に浮かんでいる。
「……形状と、防御体勢を変えましたか」
 神楽の再度放った弾丸が僅かしか霧を削れなかったのを見て、宝剣からリングへと魔具を変えるエルネスタ。風を巻き起こし、繰り出された袈裟斬りを回避した宇田川と共に追い詰め、上総の駿馬の突進でついに掻き消える。
「けど、これは拙いね」
 恐らくは巡回していただろう霧の剣士。一瞬とはいえ、見つけると同時に瞬殺出来なかった為に起きた攻防の物音に気づいて、更なる敵が現れるかもしれない。
 気休め程度と判りながら、フロアへと燃焼を放ち、火柱を上げるエルネスタ。
「火による光と、物音やな……」
 光源と物音で反応するのであれば、知能の低いサーバントならこれに引っかかるだろう。
 ならばと宇田川を先頭に走り出す面々。
 三階も不在。となれば、四階か五階。残すは二つ。








 一方、三階でA班は苦戦を強いられていた。
 所詮はそれらは運の問題だろう。巡回中の霧の剣士に前後を挟まれてしまうなど。
「いい加減、鬱陶しいですね……!」
 接近して来た霧の剣士をランスで薙ぎ払うユウ。身が霧である為、前衛や後衛を無視して突撃して来るのは厄介だ。意識を失った瞬間にと、発射機構を巨大化させたアスハの機甲弓から、杭が飛翔して突き刺さる。
「それも、案外しぶとい……か」
 今だ動こうとする姿に苦笑した瞬間、アスハの肩を貫くもう一体の細身剣。
 鮮血を零しながら、けれどアスハは囮となる為に後退を続ける。ミドルレンジを狙う習性が見えた以上、後は誘導することとて可能だ。
 問題は治癒することが出来るものがいないということ。負傷は積み重なり、フェッチーノとの戦いで響くだろう。
「これ以上、相手をしている暇なんてないんです……!」
 オブリオが波打つ刃を持つナイフで意識を失った剣士の喉を切り払い、神谷のリボルバーが意識を失った一体のトドメとなる。
 物理と魔法の反撃能力が見えた以上、後は冷静に対処するのみ。
「とは、いえ……」
 再び霧の身へと変わりながら、細身剣でアスハを切り裂く剣士。囮とはなったが、その身に負傷が重なっている。
 一撃一撃は浅いが、避けるには早い。その上、アスハの今の装備は決して硬いといえるものではないのだ。
 フェッチーノとの戦いまで、この身は持つか。一瞬過ぎった危機感を振り払い、アスハはグローブより光の魔杭を構築して打ち込む。
 








 四階に、重く響く祈りの文句。
 それは天を謡い、ここに門の核をと続けられる詠唱。
 三階の階段を登りきるまではきこえなかった所を察するに、防音の結界で張っているのだろう。
 もう片方のA班は苦戦したが為に即時の合流は叶わなかった。だが、ここまで詠唱が聞こえるのであれば、連絡を入れた上で天使であるフェッチーノを探したほうが効率はいい。
「神谷、頼む」
「……ええ」
 神谷によってマーキングの施されたペンライトをアスハは仕舞う。
「少々、危険、ですね」
 奇襲の為に更に上の階へと移動するオブリオと神谷を見送るユウ。神楽も同意見ではあるが、正面からの激突では足りないだろう。
 ここまで来て一撃を与えられなければ意味がない。
 そして、フェッチーノがいる場所こそが最大の危険な防衛の布かれている場所。
「巡回している剣士が合流する前にたたきましょう」
 せめてそれが最良と神楽も判断する。囮としても動き回ったアスハの負傷は激しいものの、前へと出なければ恐らくは持つ。
 ゲートのコア練成の詠唱に呼び込まれるように、前へと進む六人。
 人数は減じているが、まずはこれだけで相手の守りを削れるだけ削り落とす。
「ま、言うのは簡単やけれど、休息している暇もないのよさ。ここまで来れば下手な考え休むに似たり……いけるね、アスハさん」
「無論だ。一般の魔術師のように脆くはないさ」
 何処か揶揄するように口にするアスハ。実際、前衛要員として求められるのは無視出来ない攻撃力と耐久力で、彼は耐久力という点においてはやや難がある。
 が、それは戦術において覆せるライン。少なくとも彼はそう信じているし、そうやってきた自負がある。
「それじゃ、行くで。とっとと阻止して、帰ろうや」
 黒鞘から抜き放たれた直刀、白始を構える宇田川。
 探索に調査と自在に動けなかった鬱憤とて溜まっている。
 性格の悪さは極めつけ。罠で精神を削り落として、削り落として、そして恐らくはまだもう一手。
 詠唱の響く部屋の扉を開ける。


 瞬間、床に光によって刻まれた紋様が輝きだす。
「…しま……っ…!?」
 叫びも退避も間に合わず、炸裂したのは魔の爆炎。
 閃光と灼熱が六人の撃退士を包み込み、その肉を焼き嬲る。


――掛かったか。


 轟く爆音を耳にして、詠唱を続けるフェッチーノは内心で呟き、にたりと笑う。
 詠唱を始める前、予め入り口に設置していた魔法陣による罠。
 スライムや毒霧の罠を掻い潜り、それらに注意が向いたところでのこの魔術。
 効果はその陣の中に踏み込んだものがいれば、即座に炸裂する爆焔の陣だ。多種多様な魔術を操るフェッチーノは屋上には落雷の陣を、自分のいる部屋の入り口には爆焔の陣を布いていた。
 片方はどうやら不発に終わり、設置型ということから威力も減じているため、これで終わりとはいかないだろう。
 呻き、肉を焦がしながらも爆風に抗って部屋になだれ込む気配。が、更に待ち受ける三体のミスト・ナイト。
 機先を制され、罠に次ぐ罠で焦り、踊るといい。
 詠唱を続ける顔から、歪んだ笑みは消えない。今は、まだ。







「よく、も……っ…!」
 ミスといえばミス。
 天使のいる部屋にこそ最大の罠と警戒があって然るべきなのに、スライムや霧などにしか注意が向かなかった己を、いいやそれで仲間を負傷させたことに恥じて、何よりも早く飛び出す宇田川。
 慢心があったのでは。それが焦りとなるより早く沸騰して、戦意へと変じる。白始の刀身に纏われる雷撃の如く、強く、強く、そして何より速く駆け抜ける白の煌き。
「先陣、切らせて貰うで!」
 そして横走る稲妻の刃閃。フェッチーノと霧の騎士を纏めて巻き込む雷撃に、霧の身へと変じてフェッチーノを庇い二重に負傷する騎士。
「千鶴さん、余り先走らないように」
 爆裂の痛みに重ね、右腕を長大な銃へと化した激痛に神経を焼かれながら、それでも石田はにこにこと笑う。
「守る盾、騎士。成程、ならば、この業を防ぎきれますか?」
 黒く、禍々しい銃が奏でるのは絶叫の悲歌の三重奏。専門知識で強化した弾丸がフェッチーノへと向かい、三発全てを庇いうける。
 最大効率での連続射撃。庇うのであれば、その業を引きちぎる黒業の銃弾。
「しかし、舐められたものだ」
 元より魔には強いアスハ。深手を負ってもこの程度ならば耐えられると、最大射程より放たれる機甲弓からの杭。これもまた別の一体が庇うが、残る面々も怒涛の攻勢へと入る。
 フラッシュライトを付けたユウが握る拳銃から引き金を絞って紫電の弾丸を放ち、上総もまた幻の駿馬を走らせる。守るというのなら遠距離からの削り殺すとばかりの攻勢。
 が、対する霧の騎士達は、麻痺した一体を残して前へと踏み出す。
 そして放たれる霧の魔刃。部屋の前半分にいる相手ならばフェッチーノを庇いながら遠距離に飛ぶこの一閃を放てるのだろう。ここが広い屋外ならまだしも、遠距離から削り殺す作戦は確実ではなかった。
「……っ…!」
 瞬発力を活かして横手へと転がり、避ける宇田川。迫り来る飛刃の軌道を読みきり、紙一重で逸らして逆に前進するエルネスタ。が、ユウは直撃を受けて鮮血を散らす。
 冥魔と、サーバント。攻める側がどうしても有利となるカオスレートの差。
「なら」
 うち一体へと迫るエルネスタ。宝剣での刺突を受けて、霧の騎士が苦鳴を上げる。
「せめて、一体でも私が抑えます」
 度重なる罠で負傷しているものもいる。その中でも負傷が少ないものが出来るだけ攻撃を引き受けなければならないのだ。
 仲間に降りかかる災禍を祓うという主の意思に応じ、閃光と化す刀身。連閃と化して霧の騎士と切り結ぶ。
「まだ、まだや。いくで! 何時までも悠長にぶつぶつ唱えられると思うな!」
 続く宇田川の一撃は黒の華。凝縮した影の棒手裏剣が裂帛の勢いで無数に飛翔し、周囲一体を埋め尽くす。
 これも先の一撃で麻痺し、足が動かなくなった騎士が庇う。無数の影刃に穿たれながら、それでも倒れない。
 冥魔の気質へと偏ることで反撃の霧刃が宇田川へと飛ぶが、それで構わない。空蝉をもって避け、後ろへと後退する。仲間にこれ以上の負傷を与えなければ、それでいい。
 ようやく身を霧へと変じ、物理攻撃を半減させていく三体。
「だが、その程度は見抜いている」
 ゆえに魔具を持ち帰るアスハ。魔光による杭を紡ごうとした瞬間、胸のポケットに仕込んだ携帯が振動する。オブリオたちの準備が整ったのだ。
 一瞬、止まったアスハの挙動。それは作戦を知る仲間達ならばこそ判る合図。
 隙を作れ。防盾で天使を庇う騎士たちを抉じ開け、吹き飛ばせと。
「さあ、これでどうですか」
 再び激痛を堪えて、微笑む神楽。悲鳴は銃口に任せ三連射の猛撃。先ほどと同じ騎士が全てを庇うが構わない。後何度庇えるというのだろう。打ち込んだ都合六発。更に受けられるとでもと、赤く染まった瞳に乗せて訴える。
「射程外は無理でも、そちらも無視はできないよねぇ」
 飄々と笑い、上総の幻馬が駆け抜ける。フェッチーノを狙ったそれをエルネスタと切り結んでいた騎士が庇う。どれだけの使用回数と耐久力があるのか見えないが、それでも限界が来ている。
 いや、それはこちらも同じかと竜巻で挺身の霧となった騎士を切り裂くエルネスタ。神楽、アスハ、宇田川の三名の負傷が激しい。戦い続けて勝てるかどうかは怪しい上に、ここで決められなければ、長期戦は避けられない。
 だからと、数度に渡る使徒の激戦で目にし、体得した歩法をアスハここに見せる。アウル任せの急加速だが、その速度は瞬きの間に終わっている。騎士達も目視できず、とめられない程の勢いでフェッチーノの眼前に迫るアスハ。
 それでも動揺で詠唱をとめないフェッチーノ。けれどそれは勇気ではなく、執念だ。瞳に広がる動揺。
「僕の、仲間を……舐めないで貰おう」
 模した歩法によって攻撃の手は失われているが、ペンライトを握りつぶすアスハ。それは一つの合図。
 そして、それを完璧とする為、黒き疾風と化すユウ。
「ええ、傲慢に過ぎますよ。私達を前に今だに、ゲートを作れると思うなど」
 あの中では自由に空を泳ぐことは出来ない。
 空の一面を奪われぬ為と、黒艶宿す夜魔の脚具を以って駆けるユウ。狙いはフェッチーノ、と見せて麻痺したままの騎士だ。烈風の勢いを纏った胴廻し蹴りが炸裂し、横手へと吹き飛ばされていく。
「これで、庇える距離ではないでしょう」
 吹き飛ばして稼いだ庇うことの出来ない距離。同時にエルネスタも蜃気楼を発動させてその身を隠す。

――深海に済む巨大な貝こそが蜃。その夢見た気が立ち上り、地に楼閣を成すのであれば。
 その隠れたる珠、此処に作らせてはならない――


 二重、三重と気を逸らす動き。エルネスタのそれなど、目を凝らせばただの誤魔化しだとフェッチーノに判るはずだろう。
 だが、そんな隙さえ与えない。動揺を続けさせ、動きを鈍らせるのだ。
 上階より本命の奇襲を仕掛ける、オブリオのために。

「――フェッチーノ!」


 烈とした気炎を伴い、上部階層より透過して来たオブリオが叫ぶ。
 居場所が見えないならば神谷のマーキングしたペンライトをアスハが所持し、それを壊すことで神谷伝いにオブリオに伝える。
 そして、強襲のための天魔の透過能力。フェッチーノたちも使えるはずのそれを、利用して。掌に凝縮した風珠をフェッチーノの頭上に翳し。
「言った筈です……貴方の翼を奪うと」
 貴方に自由な空など似合わない。
 万感の想いを込めて、炸裂する暴風の一撃。








 周囲にいた者たちが吹き飛ばされ、頭上から烈風を叩きつけられたフェッチーノに至っては両手両膝を付いている。
 圧力に屈し、けれど止まらない詠唱。妄念、執念、この程度のモノタチにと、湧き上がる呪詛がフェッチーノを支える。

 後少し、後少しなのだ。屑のサーバントどもめ、私の弾除けにすらならないのか!?
 
 だが、だからこそ女神の祝福を受けた刃が煌き、その闇を祓い斬る。
「Hochmut kommt vor dem Fall」
 災いを齎す天使を討てと、エルネスタの操る閃光が断ち切る刃となった。
 存在は、知覚していた筈。出来た筈。だが、詠唱の解除をしないようにと精神をそれだけに収束していたため、透明となったエルネスタに気づけない。
 気づいたときに鋭利な一閃に身を刻まれ、鮮血を口から吐いている。呪う言葉も、吐血に遮られて出てこない。
 詠唱が、途切れた。
 瞬間、爆発したのは魔術か、それともフェッチーノの感情そのものか。
「お、おのれっ!!」
 恐らく、現段階で行使できる最大火力かつ最大範囲のフェッチーノの焔嵐が吹き荒れる。
 天炎、かくみよ。業火が乱れて咲き誇り、敵味方の識別もなく吹き荒れる。
 威力も絶大。後先考えぬ一撃なのだろう。最早理性は怒りで振り切れている。
「この虫けら如きが、私の邪魔を、よくも、よくも……!」
 アスハも神楽も宇田川も飲み込まれるように倒れ、ユウとエルネスタ、上総も片膝を付いている。 霧の騎士達は三体共に消滅し、フェッチーノも行動不能だが、負傷が甚大過ぎる。
「死ねよ、虫けらが、原住民が、家畜が……」
 呪う声に咄嗟に反応できたのはオブリオだけ。
「誓いはまだ半分、次は直にその翼を切り落とします」
 だが、逃がすとは行っていない。波打つナイフを片手に、天使へと立ち向かうオブリオ。
 撤退するのではない。させる。勝利したのは、自分達だと誇るためにも。
 このような輩に見せる背など、ないと思うからこそ。
「深手を負っている今、その翼――奪うっ!」
 奔るオブリオの刃。翼を切り落とすべく、繰り出した一閃。
 逃さない。これは己が魂への誓い。真に全てを燃焼させて繰り出した渾身の刃。
 だが、空を切る。オブリオの一太刀は翼を掠めるに留まり、再び戻っていくフェッチーノの魔力。
 先の焔嵐は一瞬とはいえ全ての魔力を使い果たす大技ならばこそ、今こそが唯一の好機で。


「だったら、な。逃がす訳がないだろう」
 

 更なる奇襲。窓硝子を突き破り、束ねられた電気コードを縄として上階から飛び降りてきた神谷。
 リボルバーの銃口から放たれたのは闇の魔弾。天使の身を蝕むに値する一撃に、長時間の詠唱で疲弊し弱体化したフェッチーノはよろめいて。 
「……忘れないぞ」
 ぼそりと。
 ぼそりと、天からの罰を告げるように、余れにも黒く暗い感情の滲んだ声を漏らし。
 自ら硝子窓を突き破り、翼にて空へと逃げていく。
 敗者の捨て台詞と言うには、あまりにも冷たい声。
 だが、夜空が藍に染まる。いずれ、朝日が来る。
 この街に、人の光と笑顔が来ると、信じて。
 翼あるものが空を覆うことなく、空が白き光に開いていく。
 揺れる夢は、隠れたる天珠を産むことなく、露と消えていった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 蒼を継ぐ魔術師・アスハ・A・R(ja8432)
 アツアツピッツァで笑顔を・オブリオ・M・ファンタズマ(jb7188)
 揺れぬ覚悟・神谷春樹(jb7335)
重体: −
面白かった!:7人

黄金の愛娘・
宇田川 千鶴(ja1613)

卒業 女 鬼道忍軍
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
燐光の紅・
エルネスタ・ミルドレッド(jb6035)

大学部5年235組 女 アカシックレコーダー:タイプB
アツアツピッツァで笑顔を・
オブリオ・M・ファンタズマ(jb7188)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプB
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
天啓煌き・
皇・B・上総(jb9372)

高等部3年30組 女 ダアト