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マスター:燕乃
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2013/04/16


みんなの思い出



オープニング

――月明かりが、青白く部屋を照らしている。


 何故、此処にいるのか思い出せない。
 きっと此処は城。
 装飾や調度品など全くない。けれど壁にも床にも磨き上げられた大理石の気品があった。
 だが静まり返ったこの部屋、この空間が異質であると、肌は感じ取っていたのだ。
 五感が捉えるのはただ、ただ静寂。無音。そして、死の気配。
 何の音もない。何の匂いもない。そう、生命の気配がなく――己の鼓動の音さえ聞こえない。
 胸に、喉に、手を伸ばす。だがある筈の脈はなかった。まるで、死んでいるかのように。
 そこで気づくのはこの部屋には複数の存在がいるという事。
だというのに、呼吸の音一つ、ないのだ。
 此処にいるのは、動く死者ばかり。自分さえもそうだと、気付くのに時間はかからず。


「……何百年生きただろうか」


 部屋を震わせた壮年の男性の声に、皆がそちらへと向いた。
 いわば此処は王の間。玉座に座り、両手剣を大理石の床に突き立てる男性が、ひっそりと、そして軋むような声を上げた。
「不死者の王として、何百年生きただろうか。もう数えるのは飽きた。生きるのも厭いた」
 それは砕けた心の残響。
 虚ろに、けれど恐ろしい程の重圧を以て流れる声。
「だが、どうしてだろうか。不死者の王となったものは、自分から死ねない。誰か別の不死の者に殺されるまで、生きるしかないのだ」
 そして、鈍い嘆息。剣の切っ先を抜くと、玉座から月明かりの中へと歩き出す。
「故にお前達を殺して、不死者とした。ああ、逃がしはしない。殺し合って貰おう。私を殺して貰おう。何、私を殺せば不死王の呪いという祝福は得られる。数多の命と心を吸い上げ、無限に生きる王に、独りだけなれる」
 故にと、言葉は紡がれる。
「王に相応しいものは、私を殺せ。王に相応しくないものは、私に殺されるが良い。王となれば、命を蹂躙する死の力を授けろう。王となれば、無限の孤独がお前を迎えるだろう」
 そして切っ先は向けられる。
「だから私からの慈悲だ。誰も殺したくないというものは、此処で私が殺してやろう。居るだけで命をうばう不死者が嫌だというのなら」
 そう。感じるのは渇き。命という真っ赤な水を飲み干したいという衝動。
 無機質なこの部屋は、僅かに漂う生気をも自分達が無意識に吸い上げているというのを理解してしまう。
 そして、現代の不死の王は、笑った。
「私を殺せ。殺して、王となって無限に孤独に、殺されるまで殺して、死に続けろ」
 死を希う王の声は、狂気に見ている。最早まともな精神状態を維持出来ない程、『死に続けて』いたのだろう。
 幾ら殺しても、奪っても飢えと渇きの癒えない不死者。
 きっとそういうもの。ああ、でもならば、何故、彼は不死者の王となったのだろう?
「――そして一つだけ、教えてやろう」
 それが、この男が王となった理由。
「不死者になれば、されれば、もう二度と戻る事は出来ない。だが、王は一度だけ、たった一人だけ、不死者をただの人間に戻す事が出来る。お前達も、周りに人に戻したいものがいるなら、私を殺して、たった一人を助けると良い」
 そこまで言うと男はくつくつと笑った。自己への嘲笑と自傷めいた、身を裂くような声色で。
 けれど、そこに人としての誇りがあったのだと、万感の想いを込めて。

「私が、愛した彼女だけは人であって欲しいと、王を殺してその座を得たように!」

 そして振り上げられた大剣に、影を纏わせて、彼は、孤独な王は疾走した。
 血の色はない。体温もない。心臓はとうに止まっている。死んでいる身体で命を欲して、生きている心が時共に腐り続けた存在が、月明かりの中で滅びを求めて走った。
 何処までも真っ直ぐに。それこそ、堕ちるように。


「私に、終りをくれ!」 

 月夜から堕ちるように、死の王は走る。
 闇夜の終焉という黎明の光を求めて。


リプレイ本文


――気付いたら死んでいたとは、なんとも酷い話でありますね……。


 呟く暇もあればこそ。一気に後ろへと跳躍する綾川 沙都梨(ja7877)は銃口を王へと向ける。
 狂いかけの想いは、鼓動が止まっても終わりはしない。
「何はともあれ、自分の『意志』は未だ健在……誰にも、もう二度と」
 軋む心。罅割れて行く感情。狂騒寸前に、ただ『在る』事へと執着する綾川が口にする。
「誰にも、二度と殺されるつもりはないであります……!」
 そして轟く銃声。閃光と共に放たれた銃弾は王の胸を、腹を穿って貫く。
 王は避けるつもりも守るつもりもなかった。身を削られながらも、止まる事なく、影を纏う大剣を振り翳す。
「ならば、俺を殺してみせろ!」
 そして繰り出される剛の斬撃。飛び出して迎え撃つ久遠 仁刀(ja2464)へと放たれる。
 裂帛の気合。そして感じる力。どれも恐怖を抱かずにはいられない程のもの。
だが。
「上等だ。終わりたいとほざくなら、その王座、奪わせて貰うぞ……!」
 弧を描く斬馬刀にて大剣を受ける久遠が吼える。たった一撃の重さで骨が軋み、筋肉が千切れていく。あまりの圧に、大理石の床が砕けて割れた。
 これが不死の王。
 生命の簒奪者の力だ。

――惜しい、欲しい。

 力への飢えと渇きを瞳に宿し、絶対の力へと眼差しを向ける。
「奪ってやる」
 敗北を飲み続けた喉に、無力さの満ちた胸に、死の力を希う久遠。
 要らないのだろう。死にたいのだろう。終わりたいのだろう。
 なら、後は簡単だ。
「終わりを救いとし、最後を求める、か。なら俺があなたを射抜いて終わりを刻むよ」
 何も迷う事はないと、各務 与一(jb2342)の指が流れた。
 その動きは迅速そのもの。アウルの矢を紡ぎ、弦に番えての一閃。淀みない動きは王に反応させる時間も挟ませない程だ。
 言葉の儘に肩口を貫く。飛び散る血の少なさは、やはり死んでいるからなのだろう。
「死んだものが動くだなんて、世界の理と条理を捻じ曲げているから……」
 与一の呟きは誇りと憎悪が均等に混ざっている。
 生きていたからの矜持がある。死んだら終わりだと知っているから。
 何より、心が死んで、愛しい人の魂さえ解らくなるだろう自分を許せない。
 矢を抜く為、久遠と鍔競りをしていた王が後ろへと飛ぶ。そこへ突き進むのは桝本 侑吾(ja8758)。
 槍のような切っ先の大剣を携え、突き付けるように王の心臓へと痛烈なる刺突を繰り出していた。
「敬意は表するよ。だからこそ、終らせてやる」
 自己犠牲の満足の儘に消えろと、烈と化して切っ先が迫る。
 受けた王の大剣が悲鳴を上げ、後方へと弾き飛ばされる王。
 追撃は久遠の刃閃と、常塚 咲月(ja0156)の寂しげで悲しい声。
 冷たい響きを持って、剣を構える王へと訴える。
「ずっと、独りだったんだ」
 こんなにも広い場所で。綺麗かもしれないけれど、何もない場所で。
 ああ、常塚だって死にたくはない。けれど、心を殺す孤独の辛さを知るからこそ、言葉を投げたいのだ。
「―─誰かを殺す事に、迷いはない…。けど、今までずっと独りでいる事に耐えて来たなんて、凄いよね……」

 それは、ダレかを思い続けたから?

 心臓は止まっても、その願いだけは動き続けたの?

 
「ねぇ。今、死にたいというのは――その人を」
 忘れたくないから?
 愛した心の欠片だけは、失いたくないから?
 常塚の問う言葉は間に合わず、白刃の一点に気を収束させた久遠の刃が奔る。 
「真っ向、正面からだ。想う事あれば、遺言として刃で語れ!」
 全ての闇を払うかのような、朝焼けの如き閃光と共に振われる剣閃。
 ただ、胸にある闇と不安と欲望は拭えずに。ただ、静かに、静かに、息すら殺し盾を構えて、カエリー(jb4315)はその瞬間を待つ。
「――僕の概念、それは空」
 死も絶望も狂気も殺意も全て。
「全てを受け入れ、飲み込むモノ。世界を受け止めるモノとして」
 その在り方を護り続けながら、この玉座で、この世界にいる為に。
方法など選ばない。
 カエリーの細められた眼の奥で、冷たくも鋭利な光が瞬いた。







 一瞬でも刃を合わせた時に感じた王の力量。
 その彼我の差は計り知れなかった。何故一太刀目で斬り捨てられなかったのかと、疑問が浮かぶ程に。
 繰り返される斬撃と刺突の応酬は徐々に激しく、そして身を打ち据える気を迸らせていた。
「自分が間合いに入り込むのは危険過ぎますね、これは」
 横手へと回り、綾川が連続でトリガーを弾いて銃弾を浴びせる。
 肉に食い込み、或いは爆ぜされている弾丸たちだが、決して王は怯まない。
――これは壊せるのか?
 綾川が持つ破壊衝動が、鎌首をもたげた。試してみたいと、そう強く思う程に。
 首筋を削られ、肩口から肺を切り裂かれて、胴を切り裂かれている王。それでも、暗鬱な影を纏って大剣を振るっている。
 これは止まらない。物理的に動けなくなるまで、消え果るその瞬間まで。
「……お前の愛している人は、どんな人だった」
 だからこそ、これほどの武を、意志を持った『元人間』の事を、せめて消える前に。
 桝本は、今の今まで王を支えていた強い感情へと、意識が向いた。
 返答は黒の剣風。影が鎌鼬となって走り、桝本の胸部を横一文字に斬り裂いた。
 人であれば死んでいたであろう深手。けれど、未だ立つ桝本へと言葉が送られる。
「もう――覚えていない」
 それは錆びた言葉。
 時と共に朽ち果ててしまった記憶の残骸を探るよう、眼が細められた。
 これを隙と見た久遠の斬馬刀が走り、王の左腕を斬り飛ばす。吹き上がる血は余りにも少なく、王の身体はからっぽであるかのようだった。
 がらんどうの身体に、空虚な魂。だが、それでも力を求める久遠は止まらない。
 返しの刃に斬り飛ばされ、後方へと飛んでも瞳の奥の熱は褪めなかった。貪欲さと、暗い戦意の炎が踊っている。
「――それが、どうした?」
 それだけの力があれば、満足だろう。
 その力で、愛する人だって救えたのだろう?


――それが出来ない俺は、どうすれば良いというのだ!?


 追撃を桝本が大剣を打ちあい、受けて止める間に常塚の言葉は綴られる。
「王……今は、寂しい……? 今は独りじゃないよ……?」
 銃声と剣戟。王を包むのはそういうもの。それでも、今は独りではない筈。
 常塚は、少しの躊躇いと共に、続ける。
「王……もう一度、生きてみる気ない……? 独りより2人の方が色々ときっと楽しいよ……?」
 そして、今まで、この日まで続いた事へと、届と。

「王が愛していた人は、王を死ぬ事を望むの……?」


「ああ……」
 瞬間、奔ったのは何だろうか。
 悲嘆、絶望。呻き声のような、泣き声のような。
 ただ、負の感情が武威となって吹き荒れる。影と闇が踊り、六人を打ちのめす。


「もう、彼女の声を思い出せない」


 それは、王が消えたいと願う程の絶望。


「彼女の顏を、瞳と髪の色を。肌の温もりを……っ…!」

 
 これが抑えていた哀しみの叫び。

 誰かに殺されていても、留めて胸に留めておきたいものだった。

「これ以上、彼女を忘れる前に。これ以上、彼女と離れる前に。俺を殺してくれ……!」
 

 でなければ、殺してくれる者を探すのだと、隻腕にて大剣が振わる。
 だが、そこに最早技術は欠片もありはしない。感情に任せて振われた、子供の我儘のような一振り。
擦り抜けて、王の胸へと切っ先を向けた桝本。
「ああ、良かったな……お前は愛に生きて、愛に死んで、愛で消えられるんだ」
 そして、渾身の武威を持って貫き通す一閃。槍のように真っ直ぐに心臓を貫き通して、後方の壁へと吹き飛ばす。
 それでも死ねない王。
 心臓は止まっている。ただ、泣くような、笑うような、複雑な表情を浮かべて。
「愛の為に、消えられるか?」
 羨ましいと、そう僅かに思う。そんなに一途に、誰かを想う事が、愛なのだろうか。
 だから、常塚は呟いた。王を眠らせる為に。
「王が愛した彼女のもとに行ける様に願ってる……。今までお疲れ様……ゆっくりと眠って」
 そして、放たれる一矢。これが終焉だと、王の額へと突き刺さる与一の矢。
「あなたは安らかに眠ってください。不死の王の地位と呪いは……俺が受け継ぎます」
 ざらり、と砂へと化していく王。
 そして王が纏っていた影が与一へと移り、手にする弓を覆っていく。

 かくして。

「皆、赦してくれとは言わないよ」

 地を転がっていた久遠が立ち上がるのを見て、人へと戻れるのかと綾川が視線を向けるのを感じて。

「不死者は俺一人でいいから。みんなは人として死ぬんだ」

 この世界の条理に従わぬものは全て殺すと、狂気と悪意が踊り出す。
 番えられた矢が、桝本の胸を射抜いた。

 殺し合い、消し合う、想いの果てへと、今転がり始める。






 王の力を得た与一は、城を閉ざすつもりだった。
 この世界が大好きで、あの空の下で笑う彼女が大好きだから。
 妹の住む世界を侵す異物になりたくないと、我儘を貫こうとしていた。
 誰かが蘇る事も、この世界を歪めるのだと――
「でも、自分は生きたいのでありますな」
 ――その想いは清冽故に、狂気の乱舞へと投じられた。

 綾川が放つ弾丸が五月雨の如く身を打ち据え、久遠の斬馬刀が胸を割き、桝本の大剣が首筋を削っていく。
 死にたくない常塚すら拳銃で積極的に迎撃を行い、カエリーは常に背後へと回って隙を伺っている。
 五対一――それも手にしたばかりの王の力を自在に扱える訳がない。
 暁のような白き閃光と共に、斬首を狙った久遠の斬撃が与一に放たれた。
「お前も、どうせその力、使わずに終わるんだろう?」
 急所を逸らそうと身を捻るが、肩から胸の半分までを切り裂かれる。
「――お前の意志は俺に似ているよ。俺も王となれば、新たな王が此処にありと、全てを打ち倒そう」
 負傷の大きさの割に僅かな与一の流血と、久遠の黒い衝動の炎。
「……っ……」
 怖気振うとはこの事か。闇色の情動、飢えは危険だと、鉄扇に持ち変え、久遠の肩へと与一は打ちかかる。
 砕けた筈の骨。感触も音も確かに。
 だが、それで止まらないから、不死者なのだ。
 故に、桝本は大剣を構える。止まって要られない。横に並び戦う久遠を王にしてはならないと、本能が告げていた。
 実力云々ではない。
――果たして蘇った後、その人間はこの部屋から出られるか?
 蘇らせてはくれるだろう。だが、久遠を王とするには危険だと感じるのだ。
 だから、謝罪は呟くように。
「俺も自己満足の後に、死ぬからさ」
 不死者はこの場に要らない。この世界に不要だ。
 そして、せめて最後位は――満足して終りたいのだから。
 繰り出された斬撃は与一の首を切り落とし、桝本を次の王へと変じさせる。
 もう言葉はなかった。
 滑る刃と動きだけが、全てを決する。
 最初から、正気な人間などいなかったという事だろうか。
 






 桝本の首を描き切ったのは、鋭利な斬糸だった。
 何時の間に居たのだろう。何時、そう狙ったのだろう。 
 背後へと回り込んだカイリーが指で手繰り寄せ、桝本の首に絡めたのだ。
「……ぁ……な……」
 最初から狙いはこれ。王を狙う者達が疲弊するのを待っていたのだから。
 カイリーのせいで、ダレかが消えても。
「どんな代償を払っても、『存在』し続けたいんだ」
 そして奔る、鈍色の斬糸。首を切り通す、鋭利な刃。
――抵抗は、一瞬しか出来なかった。
 それはただの走馬灯。もしかしたら、頭と胴体が離れている間に思ったのかもしれない。

――なんで、俺は戦って来たのだろう?

 どんな願いが桝本にはあったのだろうか。
 命が潰える瞬間、存在が砂となる刹那に。



――ああ、俺はただ生きたかったんだ。


 では、どうやったら生き残れるだろう。そんな悪あがきを、首から離れた頭で考える。
 無理だと解っていながら、最後の最後まで思考するその顏には、自嘲に塗れた笑みが浮かんでいた。

 殺す側も、殺された側、ただ『存在』したくて、『生きたくて』。
 
 何処までも、何処までも、純粋に存在したいという祈りを込めた瞳が久遠を射抜く。
王を狙うのは、この二人。
だが、この時点で決着はついていた。
「奪わせて貰うぞ」
 奪われ、踏みにじられ、足りないと力への飢餓を刃に落とす久遠に、カイリーは子供のように笑った。
 残酷に、無慈悲に。
 希望を踏みにじる、冷たい声で。


「こう言う方法も、アリだよね?」


 カイリーの指が、久遠を向いた。
 途端、噴出した鮮血。今までの戦いで付けられた傷口から、一気にこぼれ出して流れ出す。
「……がっ……」
 膝を付く。砕けた肩の骨の激痛を感じて。そして、胸の心臓が脈打ち始めたのを知って。
「不死者の儘なら簡単に死なないだろうけれど、人だと、違うでしょう?」
 屠る為に、生き返らせる。矛盾だと知りつつ、ナイフを指で操るカイリー。
「ふ、ざけ……るな……!」
 重なった傷は既に致命傷。それでもと久遠が吼え、片手で剣を握り締める。
 足りないのだ。力も心も。
 奪われるものすらありはしなかった。何もかもが足りず、届かないなら、その為なら。
「狂気だろうと、死だろうと飲んでやる……!」
 そのからっぽの身を満たしてくれ。
 孤独で心が死んでも、何も出来ぬ己など許せなくて。


「嘆く事さえ出来ない無力な命など、要らないから……!」


 けれど、煌めいたカイリーのナイフが久遠の喉を裂いて、言葉を止める。
 永遠に足りないと求めた少年は、最後の言葉さえ残せず。
 ただ、存在したいカイリーはそれへと微笑みを浮かべて――銃声。
 
 



 それはきっと咄嗟の判断だったのだろう。
 思考のない反射だっただろう。
 常塚が引き金を引き、弾丸がカイリーの頭部を打ち抜いていた。
 油断であり、或いは意識しなかった存在だからかもしれない。
 敵対と認識するより早く、放たれたた殺傷の銃弾にこめかみを貫かれ、カイリーもまた砂となる。
 敵意はなかった。殺意もなかった。
 ただの、反射だった。人が殺されようとしているから、助けようとして放たれた弾丸。
 狂気ではない、人のそれ。
「……私、が」
 殺して、王となったもの。
 助けようとして、王となったもの。
 それこそ、愛する人を助けたくて、王となった『彼』のように。
 

 拳銃を取り落として、常塚は奥へと進む。
 
 そこには、冷たい玉座があった。

 誰かが求めた、けれど常塚は求めていなかった、永遠の孤独の椅子が。


「冷たいね。王座ってこんな感じなんだ……」
「さて、どうします? 自分達の『女王』? 天魔や悪人から命を奪っていきますか?」
 唯一残った臣下のように、綾川が口にする。
「私を人に戻してくれれば、久遠ヶ原などの組織に助けを求めにいきますが」
「そうだね……」
 血も砂も遺体も全て、何時の間にか消えていた。
 ただ、虚ろな月光が満ちる部屋だった。
 何れ、誰かに明け渡す、玉座。
 今はまだ狂っていない女王が、悲しみの雫を、落としていく。



依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

双眸に咲く蝶の花・
常塚 咲月(ja0156)

大学部7年3組 女 インフィルトレイター
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
暴走という名のテスト・
綾川 沙都梨(ja7877)

大学部4年3組 女 阿修羅
我が身不退転・
桝本 侑吾(ja8758)

卒業 男 ルインズブレイド
撃退士・
各務 与一(jb2342)

大学部4年236組 男 インフィルトレイター
繋がるは概念、存在は認識・
カエリー(jb4315)

大学部2年326組 女 インフィルトレイター