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マスター:燕乃
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/01/25


みんなの思い出



オープニング

●久遠ヶ原学園・道場


 依頼が久遠ヶ原の学生に来たという。
 けれど、集められたのは道場にて。覚悟がある者のみと、ミリサ・ラングナーはその場で説明を始める。
「この世に完璧なんてないと私は思う」
 それは何を指すのか。
 云われる必要もないだろう。
 それは今回の依頼のターゲットであるとある使徒の事。
 ただし、倒す事が目的ではない。その前の準備段階となるものだ。
「正直言って、報告書を纏めてもはっきり言って強すぎる。使徒としては有り得ない程ではないけれど、それでも強すぎるんだよ、あの前田・走矢という存在は」
 京都で左腕を斬り落とした。
一撃は与えた。深手も与えた事もある。
 けれど、と。
「普通の使徒なら――あの状況で倒せていて可笑しくないんだよね。けれど、現に今も四国で活動している。報告書を読む限り、使徒というよりは天使を相手にしているような強さだよね」
 接近戦闘を得意とするものが幾ら挑んでも、届かない。
 いや、それは前田・走矢が接近戦に特化している使徒だからか。そういう推測は成り立つ。
 けれど、それにしても強すぎるのだとミリサは言う。
「基本的に何かを尖らせれば、別の何かが脆くなる。剣を得意とするモノは魔に弱くなるようにね。現に前田は接近戦では恐ろしく強いけれど、反面、遠距離攻撃を一切した事がない」
 それを以て出来ないとは言えない。けれど、こういう推測が成り立つと。
「前田は接近戦にて特化させた技術を身に付けたからこそ、遠距離に弱い。だけじゃなくて、元からあの使徒は遠距離攻撃さえ出来ないのではないのかなって。あの使徒の才能や技術は剣を振るう事に特化しすぎていて、接近戦では無類の強さを誇っても、他が脆い……特に距離を放されてしまった時の対応手段を持たない。……勿論、これは推論に過ぎないけれどね。例外もある事だし」
 だからこそと。
「推論であるけれど、前田走矢……その力を、今の内に調べないといけないだろうね」
 恐らくは天使に匹敵する使徒。けれど、その力は必ずしも万能な筈はないと、ミリサは告げる。
「もしも弱点を知る事が出来れば、これからの対応も楽になる筈だしね」
 現在、前田走矢は四国の川沿いでサーバントを率い、ディアボロの群れと交戦しているという。
 その程度で消耗する相手ではないだろう。そして事実、現時点で既に勝敗は決してサーバントが敗走しているディアボロを追撃している。
 つまり、率いていたとしても前田の守りが薄くなっている。
 このような機会は早々ないだろう。
「長時間の交戦は不可能、だろうけれどね。相手が何を考え、何を得意とし、何を不得意とするか。その技、技の性質。そういったものを可能な限り集めてきて調べて欲しい。現段階で解っているのは、前田は高速の一閃を得意としていて、非常に高い攻撃力を持っているという事……理合いとしては、『先の先』、一撃で斬り倒す事を重視しているんだろうけれど、それだけではないだろうしね」
ただし、今回は以前の時間稼ぎとは逆だ。
 時間との勝負。
可能な限り迅速に情報を手にしなければならず、時間がかかり過ぎては周囲に点在しているサーバントが駆け付けて来るだろう。
「撤退の際は、そちらの合図に合わせて後方から発煙弾を撃ち込む予定だから、気休めではあっても多少は楽な筈だね。前田も殺す事より、戦う事に関心があるのが救いであり、付け込む隙になっている筈だね」
 そしてミリサは息を深く吸い。 
「……あくまでアウルの話になるけれど、一点に集束させれば強い威力は出る。でも、それを飛ばすとなると別の技術。前田はどうも、一点に力を集約させる技を得意とし、高威力の斬撃を繰り出している。文字通り一撃必殺の、ね。でも、そういう一点に集中させる技というのは、遠方に飛ばすのに相性が悪い筈……」
 無論、それは推論だ。違っていた場合、致命的なものとなる。
「兎に角、あの前田の弱点を探る為に、天刃と声高々に挙げるも人間を辞めた存在に挑もう」
 戦火は流れ、広がり、けれど終わらせる為には。
「前田・走矢を討つ。その為に、負けを覚悟で」

 



●四国・戦場跡


 戦場となった、打ち捨てられた火力発電章はその傷跡を晒していた。
 放置され、ボロボロとなっている状態に、天魔の戦いだ。
 草木に浸食されている瓦礫の山のような有様を晒している。
 悪魔の遊びとして集められたデイアボロ達。けれど、それらを駆逐し、殲滅するべしと追撃に走るサーバントの群れ。
 小さくとも、戦場は此処にあった。


 戦いの熱が褪めていく。
 色褪せていく激情。揺らめく戦意。
 刀身が纏っていた紅光もうっすらと消えていく。鞘へとするりと収まる刃。
「足りないな」
 斬り捨てていったのはディアボロの群れ。悪魔の遊びで四国を、天界の領域と誇りを穢す者達。
 だが、所詮は眷属だ。魂の欠片もなく、感情もない。
 実力で言えばまさしく相手にならないの一言。
 その上で意志がないのだ。燃え上がる想いと信念、誇りがない。
 文字通りの死体を相手にして、どうして闘争の輝きを得られるというのか。斬り捨てたとしても、そご得られるものは何もない。
 悪魔の一人でも、使徒が斬り捨てたとなればそれこそ誉れとなるだろうが――
「……だが、奴ら違ったな」
 どんなに地力で劣っても、不屈の意志で立ち向かって撃退士を思い出してしまう。
 切っ先に懸ける魂。その真摯さ、清冽さ、そして強さ。
 この左腕を斬り落とした者達だ。無構えを得ても、それを打ち破った者達だ。
 胸の奥が乾く。彼らと再び切り結びたい。鋭い想いを刃に注ぎ、共に衝突したいのだ。
 この剣で斬る価値のある相手。敵手として、倒したと誇れる相手。
 闘争の果てに渇望を抱くからこそ、前田は静かにその時を待つ。
「さあ、何時来る?」
 何時訪れる。この身を捧げ、願う栄光は。
 天刃の真価は戦場でこそだ。前田は己の全身全霊を以て戦う相手を求めていた。
 全力で戦い、倒す相手でなければ、意味がないのだ。
「共に魂を、矜持を、剣を以て戦おう……」
 ゆったりと凪いだ瞳は、配下として控える二体の狐の獣人を捉えつつ、空を見上げる。
 真昼の月が覗いている。


リプレイ本文






 そこは戦場の終わった地だった。
 破壊の爪跡も、燻る火も。何もかもがまだ生々しい。
 そして怒号を上げるサーバントとディアボロ達。古き火力発電所は、血と命を燃やして戦場を作り上げていた。
 戦の流れは天界による冥魔への追撃戦へと雪崩込み、四方へと散っていくディアボロ。
 慈悲など不要。
 死と制裁を持って終わらせよ。

――天刃の意志ぞ、此処にあり。

 混戦と混乱。その様を晒すが故に、接近は容易だった。
 けれど。
「此処で倒してしまえば、というのは甘い考えでしたか……」
 呟く鈴代 征治(ja1305)。斧槍を持ち、周囲へと目を配らせる。
 天界の勢力は追撃の為に戦力を裂いた。その為、布陣と守りが薄い。侵入は容易だ。
 けれど、何か事を起こせばどうだろう?
 彼らの将たる前田・走矢の身に事が起きれば?
「……時間との勝負、やな」
 集まり、群がり、蹂躪されて終る。
 周囲を警戒している宇田川 千鶴(ja1613)も応じるように。
 何を持ち帰り、何を渡せるだろう。
 信頼と庇護、そして銃で詠う彼に、舞う剣の刃毀れを伝えられるだろうか。
「待っといてや」
 それは、誰に向けての言葉だったのだろう。

――ボクは、欲張りですので。

 ただ情報を得るだけではない。
 橋場 アトリアーナ(ja1403)はそれだけでは足りないのだと。
 此処に集まった十人、一人たりとも零しはしない。
 無事に連れて帰るのだ。天刃に斬り捨てられて良いものだとは思わない
 だからと胸に手を当て、目を細める。信じるモノ、手にしたい未来を青い瞳に映すべく。
 戦いは近い。
 あの気配がする。何度も刃を交わした、隻腕の使徒の。
 宇田川もまた、本陣となる場所が近いと知らせるが為に。
「未だ天刃に届かなくても、何時の日にか必ず届かせて見せます」
 己に誓い、巨大な剣を握り締める雫(ja1894)。
 胸に在りし、その願い。天を裂く剣の強さを求めて。
「今回は前田走矢への威力偵察が目的……。勝ちは無くとも、必ず目的は果たしましょう」
 巫 聖羅(ja3916)は全員へと問いかける。
 視線は肯定。意志は勝利を求めて熱を上げている。
「俺だって撃退士ですよ、先輩達の足は引っ張らねえすよ」
 これが初陣となる鷺ノ宮 亜輝(jb3738)。
 どれほどの困難な戦場だろうと、既に覚悟の上。自分は憧れだった撃退士になったのだから。
「今は届かなねぇ。今は。でも、未来はどうっすか」
 その未来の為に。
「未来の俺がどうなっているか、誰も決める事は出来ない。いや、俺達は、俺達で決めて行く」
 だから臆す筈などない。己の道往くならば、どうして恐怖などあろうか。
 何れ、必ず。
 夢見物語ではなく、現実として。









 開けた丘に、それはいた。
 隠れる事は不可能。これ以上の接敵は確実に発見される。
 ならばと正面から挑む撃退士。待ち構えるのは、隻腕の使徒。
 左腕を失ったにも関わらず、鞘から引き抜かれる刃の音は滑らかだ。
 燃えるように赤い瞳は、現れた十人を歓迎するかのように。驚きは浮かべど、一瞬だった。
「……丁度いい。退屈していた所だ」
 喉の奥で笑う前田・走矢。 
 敵地に乗り込んで来た雄姿そのものを称え、故に敵手と見做している。
「戦いに来たのだろう? 相手をしよう」
 そして撃退士へと叩きつけられる鋭い武威。
 変わりがない。己が倒されると、前田の胸の中にそんな不安などなかった。
 自負と誇り。そしてそれを支えて実現させる強さ。剣士として、前田は揺るがない。
「……俺が弱いのは解っている、さ」
 失ったもの。敗北の激痛。
 久遠 仁刀(ja2464)の胸に蘇ったのはそういうもの。
思わず俯き、だが手にした斬馬刀を構え直す。無様は晒せない。自分よりも大事な者があるから。
「成程、隻腕の剣士か。それも、全く揺れがない」
 叩き付けられる圧力に蘇芳 更紗(ja8374)は苦々しく呟いた。
 難敵である。強敵である。ただ強いのではなく、恐らく、この剣士は隻腕である不利を覆す力量を誇っている。肌で感じる。視線が突き刺さるのだ。
 自尊の塊であれば隙があるだろう。だが、これは一種の剣そのものだ。
「……そして、無構え」
 許してしまったのではなく、共に機と間合いを計っている裡に準備が整ったというべきだろう。
 闘争心を解き放ち、或いは瞳へとアウルを収束させる。己の気配を更に薄めて、召喚獣であるスレイプニルもその姿を現した。
――これが仁刀先輩の執着する相手。
 一気に間合いを詰めるべく、縮地の姿勢を取る桐原 雅(ja1822)
 形は違う。交わす言葉も想いも。だが、僅かに妬ける。
 何処までも戦い続けるような、そんな存在。
 確かに妬ける。それは戦士の繋がりだが、なんて熱くて、強いものか。
 その想い、抱く自分さえも焼き尽くしてしまいそうな戦意の炎。
 

「さあ、来ないのか?」


 右手に握る刀に、煌々と紅の光を纏わせる前田。
「言われずとも。その在り方、私は認めない。手にした天刃と共に、地に堕ち、砕けて散れ!」
 最大の戦意の発露。雫の咆哮と共に、戦いは始まる。
 互いの真価を問い合う、命を懸けた剣戟の応酬が。





「前田は任せた。だから、あの獣人やサーバントは任せろ」
 先駆けとなったのは斧槍を持ったマキナ(ja7016)。一陣の風となって走り、前田の左側に立とうとしていた狐の獣人を、交差法で叩き込んだ掌底で吹き飛ばす。
「左側は相変わらず死角、か」
 故に部下のサーバントに庇わせる。京都での戦いでも、サーバントを遮蔽物としていたように。
「卑怯とは言わなねぇけれど、そう易々と事が通ると思わないで欲しいすね」
 そして上空から吹き飛ばされた獣人へと強襲する鷺ノ宮のスレイプニル。
 この二体、そして増援は防ぎ切る。だから、前田は任せる。
 存分に暴れ、乱れ、武を振るおう。
「好き勝手にさせる訳にはいかないからな!」
 マキナの頭上で旋回させられる斧槍。
 少しでも、己の力が仲間を助けられるのならば。青い炎の如きアウルを纏い、二体の狐の獣人を睨み付ける。



 思えば、これは初手から賭けだった。
 前田を攻略するのであれば、確かに遠距離対策として身に付けた光幕を破らなければならない。
「機を合わせて下さい」
 左目に紅の燐光を纏わせた儘、告げるアトリアーナ。
 前田の挙動の一つ見逃す訳にはいかない。
 前衛として飛び込んだ四人の身を守る事になるが為に。
「一点を、狙う……」
 左側へはアトリアーナと宇田川が走り込み、前田の正面には後衛として巫と雫。
 合計四手。引き絞られた矢と魔の二重の烈風、そして閃光が前田へと放たれる。避けるという手は、この瞬間にはなかった。左と正面から同時の射撃だ。避ける方向がない。
「……ちっ」
 だからこそ、刀身から広がった光が前田を包み込む。物理も魔も等しく減衰させる光幕の守護。
 アウルの矢は途中で勢いを失い、魔術はその力を失っていく。届いた負傷は掠り傷だ。
 だが、それで良い。その瞬間にこそと。
「狙い通り、だね」
 俊足。地を駆け抜けた桐原が、地煙を巻き上げ、前田の斜め左後ろへと回り込んだ。
 間髪を挟まぬ連撃。迅速さと連携が全てだ。
 懐に入り込んで繰り出す膝蹴りは前田の左脇腹へと直撃する。桐原達の武が決して届かない相手ではない。
 加え、光幕は武器を通じての攻撃を減衰させる能力を持たない。
 そして続くのは、桐原が戦場では信頼を、日々では恋を捧げる大切な剣士。
 愚直に、それこそ一途に。続かなくてはどうするのだと、久遠の剣気が吼える。
「正面から行かせて貰う」
 爆発的な加速を持って、下段から地擦りで放たれる久遠の斬撃。白き光纏の花びらを名残とし、神速の刃が駆ける。
 けれど、空を切る。当らない。半歩下がった前田に、久遠の刃が空を切る。
「何度戦ったと思っている。もう、その技も見飽きたぞ」
 切り結んだ数だけ、お前の事は知っていると訴える前田の赤い瞳。
「良い加減、正面以外から挑んでみたらどうだ?」
 そして放たれるは反撃の刃。無構えから放たれるそれは起こりが見えない。
 加え、前田の太刀筋の速度は常識を超えている。

 だが、それでも――弧を描く久遠の剣閃が、前田の刃を受け止める。

 完全には防げない。守った上から刻まれ、久遠からして後二撃、いや、三撃が耐える限界。
 見えない。感じられない。放たれた後に、ようやく反応出来る。それでも。
「どうした。何時もより鋭さも速さもないぞ?」
 先の言を皮肉とし、苦痛を堪えて睨み付ける。
 刃に光を収束させる光刃斬。その速度と威力があってこそ、あの前田の無構えは無双の剣足りえる。
「良い加減、そろそろ俺一人位、斬り殺してみたらどうだ?」
「……面白い!」
 弾き合う二人の剣戟。火花とアウル、武気が衝突して壊れて散り行く。
 そこに突き出されたのは鈴代の斧槍だ。追撃は許さないと、二人の空隙を貫いて、距離を取らせる。
「確かに怖い人ですね。でも、負けられないんですよ。倒せるなら、此処で倒させて貰います」
 長柄を活かして刺突を放ち、距離を詰められる前に払って引き戻す鈴代。自分は穂先を当て、けれど、相手の刀は届かぬ位置。剣士にとって重要な間合いを精密に見据えて調整する。
「そして、幾ら天刃と名乗りを上げても、相手に届かなければ意味がないでしょう?」
 少なくとも、光幕を張っている今、光刃斬は放たれない。使えない。それは、久遠が身を持って証明した。
 久遠は防御の上から深く切り裂かれた。結果だけ見れば今の応酬は前田の完勝だ。
 それでも、前田にとっては不覚である――少なくとも、雫はそう感じている。
 あの剣が狙うのは一撃必殺。何度も受けた。何度も交わした。そして見たからこそ解る。
 前田は神速の初太刀で相手を斬り捨てる事を術理としている。敵とみれば、何か成す前に斬り捨てる。同時に、その武を見せて周囲の敵の士気を下げるのだ。

――だからこそ、幾ら斬れど、立ち上がる不断の撃退士との闘争を喜びとしている。

 己が真価、試させて貰うと。







 光の幕。一度纏うそれは、一瞬では消えずに一定時間纏い続けるのだろう。
「けれど――させないわ」
 大した防御力ね、と唇を噛み締める巫。己が未熟で、まだ力が足りないというのは解っている。魔力の量、起こせる規模。限界は、感じているけれど。
「無双も無窮もあり得ない。得れば失う。無尽蔵な能力なんて……ない!」
 再び吹き付ける魔の烈風。光幕を維持する前田には掠り傷しか与えられない。だが、逆に確信する。
「その守りを得る為に、どれだけの力を消耗しているのかしら?」
 猫のような目を細め、その光量の増減を計る巫。少なくとも、これを維持している間、刃に光が集束する事はあり得ないだろう。加えて、維持出来る時間、耐久力は?
「故に、貫く一点を」
 続け様、アトリアーナの放つ一矢。狙いは胴。光幕に衝突し、ぼろぼろと崩れて行く力。
 だが、それはお互い様だと確信する。
 幕であれば、力を収束すれば破れる筈。確かに、それは道理だ。光を纏い続けるなら、それを貫けば良い。
「けれど、その為の適任が居ない……」
 いや、一人いればいいというものではない。だが、動く相手へと精密な一点への射撃を重ねる――それはアトリアーナや宇田川、巫の得意とする分野ではない。
「……化け物は化け物やな」
 繰り出した影縛りの技。前田の影を縫い付ける刃は、けれど、直前で回避されてしまった。
 左から攻められた故、前田とてギリギリの回避ではある。いや、避けられた事を指して、化け物と言っているのではない。
「何だ、あれは」
 前田走矢という使徒の真価――接近戦におけるその異常さが、人の形をした天刃が荒れ狂う。
 蘇芳とて化け物と理解している。
 だが、四方を久遠、桐原、雫、鈴代に包囲されながら、前田はその剣を振るっている。
 吹き上がる血潮。激突する鋼の轟音。大気の断末魔に、裂帛の気勢。それらを纏い、楽しみ舞うか如く前田は応じていた。
 四人で包囲し、かつ、二人は背後と隻腕の弱点である左側を取り続けられながら、戦いの天秤を成立させている。しかも、これで得意の技と術理を封じているというのだ。
 光幕の防御を、光刃の攻めと転じられた時、どうなるか。
「……だが、私は、私達は止まらないし、譲らない」
 蘇芳は引かない。巫の直衛として正面に立ち、楯を構える。
 足捌き。太刀筋の流れ。呼吸。後ろから見える全てを伝えるべく。
「守りは支援する、全力で攻め懸れ!」
 守れば斬られる。堅実なる防御の指示を出し、蘇芳もまた血の熱さを感じていた。






 故に――増援などあってはならない。
「一気に殲滅するぞ!」
「先輩の云う事には従わないと、な!」
 薙ぎ払うマキナの斧槍に続いて、鷺ノ宮のスレイプニルが上空から降下して一撃を繰り出す。
 薙ぎ払う剛撃に、体重を乗せた撃。元より物理に防御として適性のない狐では耐えられない。
 毛皮を己の血で染め、地面へと転がる一体目。回復の間を与えない速攻戦だ。
 だが、狐の獣人として易々と終わらない。
 薙刀の霊刃が、マキナの脇腹をごっそりと削る。
「…っ……ぐ……!」
 冥寄りの気質と、魔に弱い体質。与える一撃が重いなら、こちらが受けるものも重い。
 だが、怯んではいられない。もしも、こんな獣人ではなく、シュラキ相当の強敵が来れば戦況は落下して終る。
「そんな事、させるか……!」
 故に怒号を上げるマキナ。が、視界として警戒している鷺ノ宮は、ゆらりと動く、亡霊のような娘の姿を捉えた。
「……報告では、範囲魔法を使うサーバントでしたね」
 危険だと、直感が知らせる。 




 血飛沫が舞い続ける。
 四人の前衛はその負傷を意にせず、荒れ狂う斬撃の嵐に抗っていた。
 いや、一度斬りつけられ傷口が広がったとしても、動きを鈍らせればそこで倒れる。
 有り得ぬ機、有り得ぬ角度。予期せぬ方向とタイミングから強襲してくる前田の刃は、ただの技術として恐ろしい。意と起こりを読めぬ全方位攻撃。それは、ただの才能や力任せで成り立っているものではない。
 故に、雫の怒りはより沸騰する。
「これ程の剣技を持って……何故だ、前田!」
 踏み込み、左側面から背後へと抜けるように巨剣を薙ぎ払う。
 鉄塊のような無骨で重厚な刃。大気が押し潰され、炸裂する音を置き去りに。
「何故そんなに血を、戦火を求める! その刃は、こんな血で濡れる為にあったというのか!?」
 共に傷口から血潮を散らし、交じり合う。雫は激昂を向け、けれど前田は笑う。
 これぞ愉快。これぞ敵手だと。
 己が剣であるならばこそ。
「敵を斬る事こそ、剣士の本懐だ。……今の人の道は腐っている。戦いさえ恐れ、ただの数の理と論という暴力で誇りを穢すだけだ。腐敗したものは、斬り捨てねばならないだろう?」
「腐っているのは、前田、お前の魂だ!」
 鈴代が学園で見た笑顔は忘れない。瞼を閉じずとも溢れて来る、楽しさ、悲しさ。嬉しさと、苦さ。
 何一つ忘れる気はない。ただ、ただ普通の出来事。普通の日々。
 それを、腐っているだと。
 挑発だ。解っている。失った腕、左側を其の儘にしている筈がない。撒餌として、必殺の何かがある筈。
「否定するなら、この槍、越えて見せろ!」
 故にそれを見出すべく奔る鈴代の斧槍の刺突。狙いは左側面、左の脇の付け根。
 声とは裏腹に、涼やかで、怜悧な一閃。鈴代の顔の如く、無の感情の刃。
 故に。
「では、越えようか。――穿鉄」
 此処にて前田の秘剣が放たれる。刺突と重ねるように放たれた前田の刺突。
 何を狙ったのか鈴代は瞬時に理解するも、遅い。武器を一点で交差させるなど、他に考えようがない。――この槍の破壊を狙ったのだ。
 緻密かつ精密な太刀筋こそ剣鬼の証拠。槍の突き出す機を読まれ、制され、次の瞬間、砕け散る武器を垣間見る。

「させへん!」

 故に剣鬼に狂いが生じたのならば、それは他者の介入だ。
「……っ…!」
 二人して息を飲む。噛み合うように交差した切っ先同士がぶつかり、擦れ違って互いの肩を削っていく。
 それは前田の自由を奪った技。咄嗟の瞬間に、その動きを縛る、影。
「生憎やけれど、鈴代さんは頼りになる人やからね。私も頼りにして欲しいんよ」
 やっと当てた宇田川の影縛。が、感じる手応えに反して、束縛の気配は僅かの均衡で崩れそうだった。
 まず当てる事が至難。左側や背面を取りたくとも、間合いを維持しつつでは大きく迂回する事となる。結果、左側や背面を完全に捉え続けられない。
 その上で、恐らく五割程度で無力化されるだろう。
 けれど、それまでは動きの自由を奪える。
「剣士は自在に剣を振るえんと、辛いやろ?」
 一振りの剣に生きれば、その在り方として搦め手を嫌う。少なくとも、宇田川は自分ならそうだと確信している。
 そして我道を貫く者は、己の力を信じて走るからこそ、それと道が異なるものを嫌って学ぶ事もない。
「くっ……ははは……はははっ……!」
 秘剣であっただろう武器破壊を凌がれ、自由に動かない身体。 
 だが、前田は笑う。堪えきれない。何と輝かしいのだと、煌めく宝物を見るかの如く。
「その魂を、切っ先に懸けろ」
 一撃を加え、後退する鈴代と雫。代わりに前へと躍り出る、久遠と桐原。
「自分の全てを、他者への想いを、夢への願いを。そうして交わす闘争にこそ、意味がある。意志なき刃に、往き場などない」
「当たり前だよ」
 何を言うのだろうか、この前田という使徒は。
 淡々としていた桐原の言葉も、徐々に熱を帯びている。
 それは凄く当たり前の事だ。
「ボクは……自分だけの命や思いで戦っている訳じゃないよ」
 久遠と交差した視線は、一瞬だけ。それで万の言葉を交わすのだ。
 一人で戦って、強くなれるものか。
 背負うものなしに、どうして不屈の意志を奮わせられるか。
「そうだ」
 狂い咲く剣戟と蹴撃の嵐。魔炎と閃光、そして疾風と矢が放たれ、受けて、けれど前田は加速していく。
「鎬を削る好敵手。それがいなくて、何が剣士だ。何が戦いだ。がらんどうな相手と戦うのであれば、人形を相手に剣を振っていろ」
「空っぽな相手と戦うのなら――」
「――絶対に勝てる戦いしかしないのなら」
 それは奇しくも重なり、綴られた三重奏。
 全ては命を削る戦場故に。衝突して壊れ、崩れて散り、滴となって混ざり合う。

「負けない戦いだけして、何が魂だ! そんなもの勇猛さでも雄々しさでも、誇りでも矜持でも何でもない!」

 恐怖も痛みも堪え、乗り越えて守るのだと、久遠が叫ぶ。
 桐原と意見が重なった事は嬉しくて、それに前田が乗ったのは癪だ。
 喪失の激痛と恐れ。それを乗り越えずして。
「ああ、お前を、前田を倒せない!」
 無構えにして振るわれる剣閃――そこに目を凝らしても、型などない。
 桐原が見つめるのは、そこではない。
 繰り出され、手繰られる太刀筋の数々。光幕の防御に力を裂いた今、目で負える。これは才能や力で作られたものではない。
 先立に師事し、剣を収め、術理を得たものだ。
 天才ではあるだろう。だが、それは血の滲むような反復の果て。無頼ではなく、鍛錬の果てならば。
 そして。
「仁刀先輩!」
 瞬間、剣鬼の剣が始めて虚空を斬った。
 叫ぶより早く、声より早く、桐原が視線にして訴えたもの。
 一瞬のそれは、伝達というよりは共有。
「見えたぞ……」
 返す刃に乗せるアウルをもう久遠は持っていない。だが、肩口を裂いた刃。
「『先の先』……こっちの呼吸に合わせて振っているか」
 そして再び後退する久遠と桐原。
 振るわれる巨剣。刺突が払い行く斧槍が踏み込んでくる。
 避けられない前田。続く魔も、確かに受けて。
「私にも判ったぞ……成程」
 息を吸う瞬間、こちらが次の動作を行う直前。動き出しの前に前田の剣は奔る。
 拍子の取り方を見て、感じて、覚えて放っている。成程、動き出そうとした瞬間は、別のもの……攻撃に入ろうとした瞬間、いきなり防御には転じられない。
「これで剣鬼の正体を見たとは言いませんが」
 それこそ、影縛りの効果も大きい。
「大分、苦しい筈ですよ?」
 既に四人の限界は近く、だが、倒れないからこそ。






「私は……」
 噛み締めた奥歯。ああ、成程。
 未熟だと思う巫の力。己の魔力。だが、紅空我瞳を発動したアトリアーナの矢と、巫の放つ炎弾で前田に与える威力がほぼ同等など、可笑しい。
 自分の足りなさを知るからこそ、ああ、と実感する。
 今もそう。光幕を張り、アトリアーナの矢は避けたものの、巫の攻撃は直撃している。
「余程、魔術に対してのセンスがないみたいね」
 最早、これは才能のレベルだ。
 剣、物理は怪物じみている。恐らく、それで攻め懸って勝利を得られる可能性は低い。
 だが、これは致命的だ。
「魔力の息を、発生を感じられない? どうやって抵抗したらいいか、解らない?」
 何かを得れば、何かを失う。それをこの前田は、持ちえた才能という時点から。
 物理には異様に鋭く、けれど、魔には反応も鈍い。
「これは感性の問題でしょうけれど――前田、貴方、極端すぎるわ。始めから失っている。その腕みたいに、誰かに斬り落とされた訳ではないでしょう?」
 物理という右腕はあれど、魔という左腕がない。
 だから攻撃力を極端に捨ててまで光幕を張り続けるのだ。魔を攻撃とし繰り出すのは、巫と宇田川、そして後退した際の雫。
 その三人だけでも危険視しているという事。
 そこを突けて、それで五分の戦いの成立とは異常極まるが。
「だったら、最後の最後の一滴まで、私の魔力で燃やしてあげるわ」
 瞳の色と同じく、真紅のオーラを纏う。その身、その光纏、魔力、練り上げて一つの技にすべく。
 巻き上がり、炎のように揺れ踊る巫の髪。
 だが。


「そろそろ、か」


 光幕が、閉じる。







 
 狐の獣人二体を倒し、更に赤狼と灰色狼三体を倒したマキナと鷺ノ宮はボロボロだった。
 亡霊の娘は、ゆらゆらと後方からこちらを見ている。間合いに踏み込む気はないらしい。
 だが、口は言葉を紡がずとも動いている――念話。それで、仲間を集めているのだろう。
「放っておけば、シュラキも来るすね」
「それは避けたいな」
 マキナは満身創痍ながらも斧槍を構え直し、鷺ノ宮はスレイプニルを再び上昇させようとする。
 この二人の戦いは希望がなかった。幾ら倒しても沸いてくる。終わりが見えない。倒して、倒して、倒しても。
「腕試し、というのも悪くはなか――」
「鷺ノ宮、ストレイシオンだ!」
 そんな二人を酷使する叫びが、蘇芳から上がる。
 悲鳴だった。それしかないという祈りだった。
 光幕が消える。なくなる。そして、刀身へと集束していく光。
 その量、未だ消えず、失せず。防御を攻撃に注ぎ込んだものが、放たれる。
 全員に備えろと指示を出す蘇芳。場合によっては、巫を一撃の元に倒そうとするかもしれない。それだけの火力が、前田にはある。
 だが――脈動が、走る。







 光刃乱舞――もっとも警戒すべきとしたのは、それだった。
 故に四人の前衛を二人ずつ交互に入れ替わる戦術を取る。一撃で潰されない為に。
 高速で攪乱するように回り、攻め、退く。その流れに停滞はなかった。
 信頼し、肩を並べ、剣鬼へと切っ先を向ける仲間達。


たからこそ、噴き上がるこの血潮は、何処、何時?


「……っ…ぁ…」
 斬られた雫の方が理解出来ない。
 一撃を与えて、再び離脱しようとしていたのだ。
 だが、逆に斬り捨てられたのは雫。見えず、予測出来なかった斬撃の衝撃に膝が震え、剣を振るう所か、動く事も出来ない。
 見れば鈴代もそうだ。反対側にいた筈なのに、鮮血を吹き散らして動きを止めている。
――先の先、動き出す瞬間。
「……こちらの攻撃に、完全なカウンターを……!」
 斬られた方が気づかぬ程の神速で。カウンターというよりは、動き出す前に斬撃を当てて、動きを止めている。
 動きだそうとした瞬間、攻撃に意識が向いた時を見抜いての一刀。いや、二連閃。
 術としては、ディバインナイトのシールドバッシュに似ている。あれと違うのは斬撃によるダメージが入る事と、移動も行動も出来なくなるという事。
「中々、楽しかったぞ」
 いけない。拙い。そう思っても遅い。
 流れは加速していた。交互に出て入ってでは前田に抜けられる恐れがある為、片方が抜けると同時、或いはそれより早くペアの変更はしている。
 故に、こうなる。
 前田の刀の届く範囲に、四人収まるという死地を。
「技に名はない。ただ、初太刀――俺の全てだ」
 そして、この急激な流れを止める事は出来ない。
「……っ…!」
 ならばと――久遠と桐原は攻勢に走った。
 引き返せないのならば踏破するまで。横薙ぎの斬馬刀にて腹部を斬り、右腕を背後から蹴り上げて動きを制するのだと。
 血に塗れ、負傷しきった身体。だが、前田の笑みを消す事は出来ず。
 光刃が乱舞し、四人を切り裂いて行く。
 青い燐光が鷺ノ宮のストレイシオンから放たれ、蘇芳の指示で防御姿勢が間に合った。
 それでも噴き出る血は紅蓮の有様を地に描き、牡丹のように散る――けれど。
「ほう?」
 四人の誰一人として、意識を手放さない。
「神に祈らない。悪魔に魂を売らない。ボクは、ボクの儘で……!」
 お前を超えて見せる。自分の意志で、強くなり貫くのだと桐原は不撓不屈の意志を。
「願うなら、祈るなら、そしてボクの魂の在り場所は、皆の所だ!」
 同じく、不撓不屈にて立つ雫。言葉は出ない。負傷が大きすぎる。それでも。
「――認めない、と言った、筈だ」
 握り締める剣に、雫は何を思う?
 そうだ。前田もこうやって意志をもって剣を握る。
 だが、先の言葉も何もかもが許せない。認められない。それだけの修練、才能、そして信念のようなもの。
 似ているのだ。自分に優しくてくれる撃退士の仲間に。似たような言葉を吐き、忠や義、そして信念を持って剣を振り翳すな。
「天刃……? 聞いて、呆れる。最後は、自分の力を振り絞らなかった、鬼の分際で……!」
「…………」
 穢れるのだ。お前のような人種を見ているだけで。
 あの学園で暮らし、修練をする、本当の魂と心と輝きを持った仲間が。
 故に抱く敵愾心。燃え盛る怒りの感情。
 親切さを、優しさを、守る為に剣を握る彼らと、似たような。それでいて、中身は全く違う怪物。
「だから、前田、お前を認めない!」
 お前は不倶戴天の敵だと、鈴代も確信したのだ。 


 
「久遠さん!」
 アトリアーナの矢が飛ぶ。左側を取り、肩口に刺さる一矢。
 よろめく姿。
 そして、飛び込む影。
「撤退や、これ以上はアカン!」
 ふらふらと近寄ってくる亡霊の娘。範囲魔法を此処に打ち込まれれば、そうでなくともマキナも鷺ノ宮も既に限界を超えている。
 だが、どうしても、後一つだけ確かめる必要があった。
 放つ久遠の刺突――それが放たれる直前の意識の空隙に、識外から放たれた斬が久遠を切り落とした。二度目の根性。
 そして。
「――雫!」
 願うし、信じるし、我儘も云う。
 命を懸けて、この剣鬼の最後の切札を暴いてくれと。
 大地に刺さった巨剣に宿る紫焔。圧縮、燃焼、そして爆裂と化す鬼神の剣。地に刺さっていた儘、力付くで大地を割って跳ね上がる。
 天刃を裂けと、渇望を胸に。
 文字通りの切札。前田の右足を斬り裂いた。膝をつき、動きが止まる。
「仁刀先輩……」
 今ので判っただろうと。無銘の技は、三度しか使えない。使えていたら、今の技に対応した筈。カオスレートを変動させた瞬間に応じて、あれはあった筈なのだから。
――それで深手を与えた久遠だから、解る。無銘は、あの時を再現させない為の技。
そこまでを暴いて。
 乱れ狂う、光刃の舞。
 既に限界を越え、雫と久遠が倒れる。撤退条件は四人だったが、後一太刀でそうなるものが四名。
「……っ…アカン!」
 故に迅雷と化して宇田川は前田の間合いへと入り、忍刀を一閃させるや否や、久遠と雫を抱えて離脱する。――先の無銘で迎撃されていれば宇田川もまた転がっていただろうと思うと、ぞっとする。
 それを迎えるべく、起死回生を宿した桐原が間に立ち、前田との間に蘇芳が立つ。
「前田ァッ!」
 そして接近を許さぬと、鈴代の黒光の飛翔刃。足に受けた負傷のせいで耐えきれず、後ろへと吹き飛ばされる前田。
 蘇芳の吹き鳴らす笛――撤退の合図で、発煙弾が次々と打ち込まれた。
「まだ相手をするなら、ボクが」
「いいや、サーバントだけで足りていない俺が」 
「というより、これ以上、やらせる気はないのだが」
 三者三様で前田の前に立つ。
 そもそも、帰れるだろうか?
 そんな不安を桐原は吹き飛ばして。
「ねぇ、そんなに強い相手と戦いたいなら――正々堂々、檜舞台という奴で舞ったらどうかな?」
「……」
「此処は相応しくない。こんな戦場跡で? 意味もなく? うん、ボクと仁刀先輩が命を懸ける価値は、この戦いにはない!」
 それは前田、キミも同じ筈。
 不愉快だと思ったのは本当。妬けたのも事実。
 だが、共感と楽しみを覚えたのも、やはり同様で。
「魂を切っ先に懸ける理由を、言ってみてよ!」
「……成程」
 頷き、けれど、前田は応えられない。
 命を懸けるだけの戦場。それは、何処だろう。こんな場所?
 いや、場所ではなく相手ではないか。ならば不足はない。ただ、相手が時と場所が足りぬという。
 つまり――。


「成程、背負えと。そういう事か」


 声が響いた時、既に発煙の煙で視界は覆われていた。
 血がぼたり、ぼたりと落ちて行く。
 ただ、敗北感が前田の胸の中にはあった。秘剣と奥義、その二つを出した。
 それよりもなお、自分自身への失望があった。
 覚悟が、撃退士達より足りなかったと。故に、己への失望が、追撃への動きを止めた。
 勝利は求め、けれど、敗北で失うのが己の魂だけでは、彼らに真の意味では勝てない。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
   <光刃にて甚大な負傷を負う>という理由により『重体』となる
 撃退士・久遠 仁刀(ja2464)
   <光刃にて甚大な負傷を負う>という理由により『重体』となる
面白かった!:12人

最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
黄金の愛娘・
宇田川 千鶴(ja1613)

卒業 女 鬼道忍軍
戦場を駆けし光翼の戦乙女・
桐原 雅(ja1822)

大学部3年286組 女 阿修羅
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
新たなる平和な世界で・
巫 聖羅(ja3916)

大学部4年6組 女 ダアト
BlueFire・
マキナ(ja7016)

卒業 男 阿修羅
屍人を憎悪する者・
蘇芳 更紗(ja8374)

大学部7年163組 女 ディバインナイト
能力者・
鷺ノ宮 亜輝(jb3738)

大学部4年145組 男 バハムートテイマー