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マスター:燕乃
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/03/18


みんなの思い出



オープニング

●夕暮れの音楽室

 今日も、筑城 菫はピアノを奏でる。
 たった一人の少女の演奏者と、たった一人の少年の聴き手。
 少女である筑城は優しい音色を響かせている。
 少年である日田は夕焼けで橙に染まった音楽室で、椅子に座って聞いている。
 優しくて、温かくて、柔らかな空間と時間。
 透明な、ぬくもり。
 けれど、それはたった二人の空間だった。
「筑城さん」
 少しだけ笑うようになってきた少女へと、日田は声をかける。
 噂は少しずつだが、止まり始めていた。そして、噂が本物ではないと日田が知った事で、筑城は彼を拒絶しなくなっていた。
 する理由がなくなってしまったから、それともする必要がなくなったからか。どちらかは、解らないけれども。
 確かに、二人だけの時間と空間はある。
 それでも、此処はきっと狭いと日田は思うのだ。
 二人しかいない世界は狭かった。人がいない空間が、二人を押し潰そうとしているのかと、錯覚するほどに。
「一人でいる意味はないじゃないですか。あの噂は本当じゃなくて、嘘で、筑城さんが一人でいる必要なんてない」
 それこそ、友達は離れてしまっている。
 噂も完全に途絶えた訳ではない。時間の流れはゆったりとしか流れず、また、噂というのは時の流れに任せて風化するしかない側面もあるのだから。
 でも、だからと言って。
「私はね、日田君。失ったものは沢山あるけれど、今あるものが大事だと、そう思うの。今目の前にいる男の子、とかね」
 微かな笑みに、日田の顔が赤くなる。
 そう言って貰えるのは確かに嬉しい。けれど、やはり。
「二人だけは、寂しいですよ」
「…………」
「噂は、教師や他の友達たちに頼んで、あれは嘘だって証明して貰っています。だけど、筑城さんが行動しないと、変わりません」
「…………」
「この音楽室は優しくて暖かい。ですけれど、ここにいるだけじゃあ、ダメです。湖の底で、溺れている……このままだと、筑城さんは、友達がいない。だから」
「だから、例えば噂が嘘で、それを流した人がいたとして、『嘘は止めて』というのかしら?」
「……?」
 その筑城の声は、何処か憂いと悲しさと、そして優しさを混ぜたような響きだった。
 何かを案じているような。
 それは、とても彼女らしい、危うい純粋さを感じさせて。
「いえ。違います。けれど、行動しましょう」
 感じたものを振り切り、日田は提案する。
「筑城さん、僕と、梅を見に行きませんか? そこで『不運』が起きなければ、きっとまた友達が顕れてくれます。或いは、そこで新しい友達が出来るかもしれません」
 少し遅くなった梅見の散歩。
 筑城の心という蕾の硬さを考えれば、確かになんだか相応しいように思えて。
 そして、花開くように心を打ち明けてくれたらと、そう願わずにはいられなくて。
 今だ彼女は、この音楽室以外では、独りなのだ。
「そう、ね。良いわ、行きましょう。けれど、ね。日田君」
 釘を刺すように、さらりと筑城は言葉に出した。
「出来れば、噂を突き止めたお友達も、一緒に連れてきてね?」
 協力してくれた人がいただろうと、筑城は淡々と、さらりと告げた。



●とある部室


「どうしよう」
 その少女の声は震えていた。
 そして、そこにいた全員の気持ちの代弁だった。
 筑城 菫へとかけた『不幸』の噂は、本当に少しずつだが解かれていっている。
 嘘だったのだと周りに思われ始めていた。
 それはつまり、誰かが嘘をついて、周りに漏らしていたという事。
 それがバレてしまえば、顔を隠しながらの加害者だった自分達が、もしかすると、今度は嘘吐きであると知られ、糾弾されるかもしれない。
 もしかすると、憧れの先輩である宮野にすら、その声は届くかもしれなくて。
「どう、しよう」
 半ば固まりつつある思考。
 そう。『不幸』が本当に起きてしまえば、誰もが認めてしまうようなものが起きてしえば、自分達と宮野先輩は疑われずにすむ。
 ちょうど良い少年も、近くにいるのだから。
 それでも。
「どう、しよう」
 決行を迷う、水泳部の一年生達。
 そもそも、何をすればいいのか。部室に火を付けるという、あれ以上過激な事をする必要があるのだろか。
 直接、人を傷つけるような事を。けれど、それをしなければ自分達が……。
 恐怖に苛まれながら、少女たちはひそひそと、相談を練り始めた。
 どうなるかは、今だ見えず。


●久遠ヶ原・教室


「というわけで、みなさんには一緒に梅の花を見に行って欲しくてお願いに来ました」
 再び、以前と同じ依頼者。日田が口にする。
 出来れば、前回の参加者と同じメンバーが望ましいのだが、そうも言ってはいられないだろう。都合やスケジュールというものがある。
「出来れば、筑城さんには多くの人と関わって欲しくて、また多くの友人を作って欲しいと俺は考えているんです。そうすれば、少しずつでしょうけれど……筑城さんの対応も変わっていくでしょうから」
 人と触れる事で、人は変わる。
 なら、その場を積極的に作っていこうと、日田という少年は考えるのだ。
 だから。
 閉じた心を開くためにも、どうかと日田は言葉を紡いだ。


リプレイ本文

遅咲きの梅が辺り咲いている。
赤と、白。二色が交互に並んでいる道。まだ肌寒いが、その感触が梅をより美しく思わせていた。
冬の終わりを、眼と肌で感じるのだ。
それは、もしかすると筑城 菫という少女によく似ているのかもしれない。
 紫ノ宮 莉音(ja6473)は楽しそうに笑顔を浮かべながら、何度も梅の花へとカメラを向け、シャッターを切っていた。
「柊一くん、誘ってくれて、ありがとーございます♪」
 にこやかに告げると、再びカメラを構える彼。寒いですけれど、綺麗ですねーと口にしながら、皆で輪となるきっかけを作ろうとしている。
 そんな無邪気な姿に、筑城も薄く笑みを浮かべていた。そこへ。
「ピアノ、好きなんですか?」
 そう聞いたのは、浅間・咲耶(ja0247)だ。
 彼も音楽が好きで、自分がヴァイオリンを弾いているのだと告げる。ただの趣味かもしれない。それでも、糸口になればいいと思って。
「ええ。小さい頃から、少しずつ、ね。習慣になってしまうと、辞められなくて」
 筑城は笑みを仕舞うと、そう応えた。
 まだ笑いながら話す程には、その心は開いていないのかもしれない。
 なら、と。
「何時も夕暮れで弾いているピアノは、誰かに聞いて貰いたい、心、だったりしますか?」
 言葉に出来ない想いがあって、けれどそれを確かに形にしたい。誰かに伝えたいと思う時、浅間はヴァイオリンの音に想いを乗せる。
 楽譜に、音階に、響きに、想い連ねるように。
 言葉に出来ない感情は、とても多いから。
「ボクがそうなだけ、だけどね」
 そう苦笑して、浅間は言った。
「どうかしら。私は違うかもね」
「それでも構いません。……今度、ボクにも貴女のピアノ、聴かせて貰えますか?」
 少しずつで、ゆっくりでいいから、触れる人が多くなれば……。
「と言うわけです。忘れないようにして下さいね」
「え、ええ」
 そしてこの梅見の発端となった日田 柊一へと、重箱を持っていた道明寺 詩愛(ja3388)が何やらこそこそと話している。
 が、それは暗いものや物騒なものではなく、明るく、些細な仕掛けを楽しむようなものだ。
 三月の風はまだ肌寒いけれど、此処は確かに暖かかった。
「……本当に、どうして呪いなんて信じられたのでしょうね」
 そんなものはないのだと、詩愛は素直に思ってしまう。この暖かい、散策の中で。
 雪が解けたように、もうすぐ、噂も消えるのだと信じて。
「会いたいっていってくれて、ありがとうね」
 雀原 麦子(ja1553)は普段通りに、明るく朗らかに筑城と日田へと笑いかける。
 腫物に触るような態度など、したくない。それは筑城という少女を傷つけるだろう。
 なら、花見らしく、楽しく明るく。
「いえ、私の方こそ付き合って貰って有難う御座います。ただ、そう、ですね。本当は『もしかしたら』という鎌かけのつもりだったのですけれど、こんなに来てもらえるとは」
 微かに笑ったのだろうか。それにしては、筑城には少し陰りがあって。
「重ねて、有難う」
 それを危うく感じるのは、何故だろう。
「白い梅と紅い梅と、どっちが好きですか?」
 それを解きほぐすように、紫ノ宮がカメラのシャッター音と楽しそうな声を上げる。



 一方。
 伊那 璃音(ja0686)と、月臣 朔羅(ja0820)は、筑城が前に所属していた部活の部員の居場所を調べ、彼女たちの元へと訪れていた。
 本来なら当日ではなく前日に調べておきたかった事のだが、そんな時間の余裕は、今回はなかった。顧問の教師は兎も角として、相手の時間の都合もある。
 水泳部を覗くにしても、その口実がなければ怪しまれるだけで、下手をすれば相手を刺激する事になるだろう。見るという事は、見られるという事。過激な行動は止めたいのが、璃音の心情でもあった。
 新しい仲間と環境があれば、やり直す事も出来る。そう璃音は信じていた。
 その為のきっかけを、掴む為にも。
「音楽関係の、結構好きにしている部活だったんですね」
 どちらかというと、クラシック寄りな音楽活動を好きにするという、同好会に近いものだったらしい。
 クラブが容認され易いこの学園ならではの、という事だろうか。
 ピアノ、ヴァイオリン、チェロにフルート。楽器を好むメンバーが集まって出来た、昔あった部活。
 噂が緩和されているせいもあったのだろう。
 昔の雰囲気や出来事を聞けば、他愛もない、けれど、楽しかった日々の事を語ってくる。別段コンクールや発表はなくとも、自分達だけで、自分達の友人を招いて演奏会をした事。昔いた先輩の歌が上手かったなど。
けれど、どんなに楽しそうに語っていても、それは過去の事。
「良いなぁ…また機会があったら復活はしないんですか?」
 璃音のその一言で、空気は凍り付いた。
 気まずそうに視線を逸らす、元部員達。一人の視線が一瞬、持っていたチェロの側面へと流れた。そこには、今は塞がれているけれど、確かに傷跡のようなものがあって。
「い、いや、ほらさ。今は、別の部活を立ち上げてしまったわけだし、ね。当時のメンバーが全員残っているわけでもないんだ」
 自分自身に言い訳をするような声色。
 否定、拒否。それより、恐怖と不安の方が強く残っていた。
 それは不幸の噂の為か、それともその背後にいる存在のせいか。
 でも、ですねと。
「都城さん今もピアノを弾いているみたいですけど 聞きに来た人は、何も起こってないですよ? 当たり前ですよね」
 さらりと噂を流す璃音。
 苦しそうに顔をゆがませる、元部活仲間。
 やがてぽつりと、声が漏れた。
「私たちは、また『誰か』に、『何か』をされたくないから……」
「……」
 恐らく、部活仲間達は不幸の元凶者達を知らないのだろう。
 筑城自身は知っていたのだろうか。そう思った所に、言葉が続けられた。
「筑城さんも『誰か』がいるとは、言ってくれなかったから……」
――これは、私の起こしている不幸だ、とだけ。
 免罪符のような、言葉。
 月臣は唇を硬く結ぶ。
 


 それ以上を聞く事は出来ずに、璃音と月臣は外へと出る。
 まだするべき事、出来る事はあるのだと。
 璃音は『何か』をされる前にと音楽室へ、月臣は水泳部の後輩を尾行しようと。
 


 そしてその音楽室では、鈴代 征治(ja1305)と宮野の二人が向かいあっていた。
「ここ、知っていますか?」
 なるべく穏便にと鈴代が口を開く。
 問い詰めるのでも怒らせるのでもなく、自分はお願いをする立場なのだと、丁寧に。
 知らない教室に唐突に呼び出されて、宮野は不審がっている。
 きっと知らないのだろう。ここで一人、筑城がピアノを弾いていたという事も。その音がどれだけ孤独だったのかも。
「貴女はきっと知らない、でも少しだけ関係があるお話です」
 そう前置きをして、鈴代はゆっくりと説明を始める。
諦めるつもりなんて、なかった。
救うのだと心に決めている。もう一度心の底から笑って欲しいと願っている。だから宮野の眉が何度か吊り上り、息が止まりかけても、続けるのだ。
日田という少年から依頼を受けて、調査を始めた事。
その内容であった、不幸を呼び込む筑城という少女の事。
けれど、その不幸を呼び込むという噂は嘘で、裏で手を引いている人間がいる。
そして、それが宮野と、その部活の後輩達に関連があるのだと。
そこに差し掛かると、我慢が切れたように宮野が熱い息を吐いた。
「気分を害したらすみません。けれど、最後まで聞いて下さい。……この一連の騒動で、貴女の後輩が事件の後ろに見え隠れしているんです」
「…………」
「完全に証拠がなくて、それで断罪しろ、なんていいません。けれど、出来ればお願いしたいんです。筑城さんと、日田という少年の為にも、後輩達に目を光らせて貰えませんか?」
 張りつめた空気の中で、鈴代は言葉を紡ぎ切った。
 触れれば切れるような。壊れて、激しさをまき散らすような、そんな無言の圧力。
 その中で、けれど絶対に折れない意思を胸に秘め、鈴代は宮野を見つめる。
 ぽつりと。
「じゃあ、確実な証拠もなしに、私に、私を慕って信じてくれている後輩を『裏切れ』と、鈴代クンだったけ、貴方はそういうの?」
 呟きは、堪えきれない怒りに満ちていた。
「確実な証拠があれば、私も含めて全員に筑城さんに謝るわ。いえ、謝ってすむ問題ではない。でも償えるだけは償ってみせる。けれど、私を慕って信じてくれている後輩達へ、貴女達が『こんな陰惨な事を』やったのねと、疑いの目を向けるのは裏切りよ」
 自分を信じてくれている存在へ疑いを向ける。
 それは裏切りであり、やってはいけない事だと、静かな怒りをもって宮野は告げる。
「そして、確実な証拠もなく、私の後輩をそんな陰湿な行為をする生徒だと、鈴代クン、君は侮辱している」
「…………」
 証拠を前にしたからといって、決定的な何かを掴めている訳ではない。
 この証拠は生徒が集まって調べた、いわば素人のものだ。確実性なんて、ない。
「……でも、それを確かめないで拒絶するのも、癪ね。出来る限りだけれど、私も後輩の事は見ておくわ」
「……っ」
 怒りを表しながら、それでも鈴代の願いを聞いた宮野。ただし、調べた結果が間違いであれば、と言外に、目で訴えている。
「なら、もう一つお願いがあります。筑城さんと、交流を持って貰えませんか」
 そうすれば、不幸の噂は、完全に消える筈だと。
「いいわ」
 そう思う願いも、即答で。
 どう転ぶか解らない天秤が揺れる。


 そして、それは珠真 緑(ja2428)の行動もそう。
 不幸になるだなんて、子供の信じる噂だと珠真は断て、純粋そのものの笑みを浮かべ、周りに否と言い触らしていた。
 確かに子供の噂と言えばそうだ。
 けれど、それで被害が出たのも確実。不審火が上がって廃部になったものもあったのでは?
 沈静化し始めていた噂は、それで一気に燃え上がる。
 天魔という異界の存在を間近で見る事の多い撃退士にとって、それは受け入れやすい事であり。
 天魔の仕業であれば、解決しなければと、動き出そうとするものもいた。
 そして、月臣の追っていた水泳部の少女たちも、焦りを強くしていた。
 波紋が波打つ。





「さ、休憩にしましょう?」
 詩愛の提案で、ベンチでの休憩を取る事となった面々。
 水筒に入れていた紫ノ宮が紅茶を、浅間が緑茶を配り、詩愛は持ってきていた重箱の包みを広げ始める。
 にこやかに笑い、和菓子を作ってきたと詩愛。言葉通りに、三色の花見団子と、二種類の桜餅が重箱から取り出されていく。
「梅…ではないですけど春の和菓子ということで桜餅も作ってきました」
 私の姓はこれからなんですよ、と筑城に桜餅を渡す詩愛。和菓子職人の娘というだけあって、繊細で綺麗な形。そして、舌の上で溶けていく甘い味。
 見とれ、そして口にするみなの中で、詩愛はこっそりと筑城に耳打ちする。
「日田くんって良い人ですね。あんなに、貴女だけを見ていて羨ましいです」
「…………」
「私は友人として、彼の願いをかなえてあげたい。あなたも少しだけ協力してくれませんか?」
 桜餅を小さく口に含み、しばらく沈黙する筑城。
 詩愛の言葉は真剣で、嬉しそうで。それでいて筑城を心配していると解っているから。
「私は、何をすればいいの?」
 問い返してしまう筑城。本当に、何をすればいいのか、解らなかったから。
「簡単です、とても簡単。今、彼が望んでいるのは、貴女に沢山の人と触れあって欲しいという事だから」
 そう口にすると、自分の携帯の番号とメールアドレスの書いた紙を、詩愛は筑城に渡す。
「私と、友達になって下さい」
 優しく笑う、詩愛に、釣られるように筑城を微かに微笑んで紙を渡す。
 ただの紙なのに、まるで宝石のように、硝子細工の宝物のように。表情はまだ硬くとも、その指の動きは確かだった。
 ピアノを弾くと時と同じで、ありのままの心。
「じゃあ、友人として、ピアノの演奏を聞かせて貰っても良いでしょうか?」
 それが聞こえたのか、浅間も入ってくる。
 釣られるように紫ノ宮も近寄り、携帯を差し出した。
「此処にこれなかった人達からも、伝言があるんです」
 そうやって、メールの内容を見せる紫ノ宮。


『助けが必要ならいくらでも。でもその扉はいつだって内側からしか開けられないんだ』
『汝、思うままを告げよ』

 そういったものに始まる、激励、応援の言葉。
 想いは連ねられて、ここにあった。
 受け止め、瞼を閉じる筑城。そして、宣言するように、彼女は口にした。
 優しさがあった。
 嬉しかった。
 傷ついた人を放っておけない温もりが、傷に沁みたから。
 一滴の涙と共に、彼女の願いを。


「仮に、私の不幸が人が起こしたものなら、その人達の仕業だと暴かないで」


「……え?」
 訳が分からない。そんな顔を浮かべる皆を置いて、続ける筑城。
「『例えば』私の不幸が誰かが起こしていたとして、その嘘と噂を広げた人がいる。許されない事をしたかもしれないわね。でも、今、その噂が嘘だったと知れ渡ったら?」
「……」
「人に意思を持って不幸と被害を与えていたと知られ、暴露されたら、今度はその人達が、いえ、その人達は二度とこの学校に来られなくなるじゃないかしら」
 それが正しいかどうかは解らない。
 けれど、罪を暴くというのは、罰する事である。そして、当然のように、それは他人を傷つける事。
――それは、不幸を与えるという事なのでは、と。
 傷つけるという、不幸。
「誰も傷つけないで。それが、私の願い。聞き届けて貰う必要は、ないけれど」
 今更、過去にやった事を暴いて、断罪して欲しい訳ではないのだと。
「…………」
「…………」
 沈黙。
 だが、それを破ったのは雀原だった。
 突然、ぷにぷにと筑城の頬を突くと、にししと明るく笑う。
「おねーさんとしては、動き出して、手探りでももう一度掴もうとしてくれると、嬉しいよ」
 それは、きっと全員の想いで。

 
「何をしているの?」
 夕暮れの音楽室に、隠れていた璃音の声が響く。
 尾行していた月臣が出口を固め、ピアノに触ろうとして『水泳部』の女子へと警告を発する。
「何をするつもりだったんですか?」
「……何も」
「良いでしょう、いきなさい。何もしなければ、私たちも何もしませんから」
 きっ、と逆上したように璃音を睨む少女。そのまま、月臣の横をすり抜けて消えていく。
「……良いのですか?」
「ええ、ピアノに細工しようとした写真は取れたので」
 そういうと、隠し持っていたカメラを月臣に見せる。完全な証拠にはならないが、それでもピアノに何かしようとしたのは取れていた。
「本当に大事なのは、『お帰りなさい』と言ってくれる人達のいる場所、ですよね」
 呟き、夕焼けの空を見上げる。
 澄んだ橙色の空は、綺麗で、そしてよく音が響き渡りそうだった。
 そっとピアノへ触れる璃音と月臣。
 もう、独りではないよと。今まで一人で弾いてきた少女に語りかけるように。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: Orz/天の華は星と戯る・伊那 璃音(ja0686)
 最強の『普通』・鈴代 征治(ja1305)
重体: −
面白かった!:9人

La benedizione del mare・
浅間・咲耶(ja0247)

大学部4年303組 男 ディバインナイト
Orz/天の華は星と戯る・
伊那 璃音(ja0686)

大学部4年25組 女 ダアト
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
水神の加護・
珠真 緑(ja2428)

大学部6年40組 女 ダアト
悪戯☆ホラーシスターズ・
道明寺 詩愛(ja3388)

大学部5年169組 女 アストラルヴァンガード
夜の帳をほどく先・
紫ノ宮莉音(ja6473)

大学部1年1組 男 アストラルヴァンガード