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男女カップルがイチャイチャしていた時だった。
ホラー館に入って、腕を組みながら「うわーこわーい」とか、「きゃあ」とか、可愛らしい悲鳴を彼女があげて、「大丈夫だよ、俺がついてるから」とかキザな台詞を吐いて、おまけにさりげなく腰に手を回し、「だれもみてないだろ」と強引に彼女の顔に唇を彼が寄せようとしていた時に、ソレは起きた。
「……みい……つけ……たああ」
目の前に女の幽霊。おまけに顔が全部髪で隠れている。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
染井 桜花(
ja4386)のその姿を見た瞬間、カップルは恐怖の雄叫びを上げた。彼は彼女を置いて、その場から猛烈な勢いで逃走して行った……。
だが、彼は壁の行き止まりに別のモノに遭遇した。
先ほどよりなぜか、体が幾分小さいが、間違いなくさっきと同じ、ぼさぼさの髪に白い服、髪が顔で全部隠れている、女の幽霊。
ぎょろっとした白い目と合った。
「うわあああああああああああああああああああああああああ」
彼はまたしても、黒百合(
ja0422)が扮した幽霊を見て駆けだして行ったのである。
「ははははははははははは」
金属バッドを振り回しながら暴れている小宮 雅春(
jc2177)に至ってはもはや正気ではなかった。不吉に嗤いながら客を追いかけ回す。
ホラー館は撃退士のお化けによって阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
「おぅ、お嬢ちゃん早く帰んにゃ帰んにゃ。悪い猫さんが食っちまうぜェ?」
なぜかどさくさに紛れて、逃げ遅れた彼女の肩を抱いて誘導しようとする不届者の赭々 燈戴(
jc0703)も中にはいたが――。それでもレディーファーストが第一のカミーユ・バルト(
jb9931)がなんとか彼から引き離して出口へと誘導させた。
「そちらは危険……こっち……。…後ろからやつらが来る……早く逃げて……」
藍那湊(
jc0170)が逃げ惑う客を誘導する。白い紋付羽織袴をアレンジして着用した、冷気のアウルを放つ雪男に扮していた。どちらかというと客には雪女に思われていたが、彼はれきっとした男である……。
「ココは危険ですよ。ほら、アッチへ逃げて!」
草薙 タマモ(
jb4234)がさりげなく客を出口の方へ誘導する。なぜか、雪女の姿をして金属バッドを持っていた。褐色の肌の雪女って……一体。
「タマモに顔をよくみせて!」
だが、なぜか客の目線はタマモンの短いスカートへ……。
気が付いて、とっさに金属バッドを振りかぶる。
その凶器を目にした客は殴られると勘違いして、逃げ出して行った……。
肩に、烏の剥製、手に、は、髑髏を持つ、青白い顔をした魔女に扮装した仄(
jb4785)が追い打ちを掛けるように後から追いかけていた。
フードをかぶり、目を隠し気味に、目から流れる血が、目立っている。
いきなり髑髏の中のペンライトが客を照らし出して恐怖に慄かせていた。
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合わせ鏡の間には奇妙な姿形をしたディアボロ達で埋め尽くされていた。マッド医者が注射針を持って嬉々として嗤い、さらに妙なマスクをした美女が部屋の傍に座っている。
あまりに怪しかったが、それでも「よお、そこのくうわい姉ちゃん、俺といいことしようぜ!!!!!!!!!」と果敢に燈戴がナンパして行った。
美女はこれでも――と言わんばかりに、大きなマスクを外して見せた。
耳元まで裂けた口に、大きな牙が覗いていた。
いきなり金属バッドで殴りつけて、危機一髪で交した。
「アブね、金属バットかよ!」
それでも燈戴は態勢を立て直して、桜花から貰った水風船を貰い、鉄槌をバットのように使い鏡に向かってぶち当てた。
「ヒャッハァー血祭りだぜェー!」
はっちゃけてる爺の活躍?を片目で見ながら、湊も合わせ鏡をペンキで汚して行く。そうはさせまいと間にバラバラ美少女が入って邪魔してきたが、とっさに弓に持ち替えて、思いっ切り放って攻撃した。
後ろから撃たれてバラバラ美少女は文字通りバラバラに散った。
なぜかやられたのにもかかわらず首や手足が空中を飛んで、撃退士に向かって襲いかかってくる。タマモンは前線に躍り出て魔笑した。
すると、なぜか魅せられたバラバラ美少女がマッド医者に向かって攻撃を始めて、敵は混乱に陥ってしまった。その隙にタマモンがフラーウムによる魔法攻撃を放つ。
「あるときは雪女。またあるときはゆるキャラ・クオンガハラン。
その正体は、タマモン参上!」
飛んで行った胴体目がけて強烈な一発を放つと、胴体が吹き飛んだ。急に力を失ったバラバラ美少女がさらにバラバラになってそのまま動かなくなった。
マッド医者は反撃に転じようとしたが、後ろに灰に回られていた。背後から魔法攻撃を畳みかけられて深いダメージを負ってしまう。
何とか手術ナイフを投げて攻撃をしようとしたが、今度は反対側から猛烈な勢いで迫ってきた黒百合にいきなり鋭い一撃を胸元に受けてしまった。
敵の顔めがけておもいっきりフルボッコする。
「ひゃは♪ ひゃは♪」
楽しそうに、グシャ! グシャ!
容赦なく武器を殴りつけていく。
いつもよりなぜか……激しかった。
顔面をこれでもかと殴打しまくり、気が付いた時にはかなりスプラッターな光景になってしまってそれを見た撃退士の誰もが思わず顔を背ける程だった……。
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戦っている最中になぜか嫌な臭いが漂ってきた……。
もっとも醜悪な姿をしたソイツがいきなり現れてベタベタしたものをぶっかけてきたのである。その場にいたカミーユは血相な顔をして避けた。
まるで、自分の大事な服が汚されたら堪らないという風にである。
審判の鎖を放って危険なそいつの動きを封じる。
これ以上の悪行は許さないとばかりに大剣で斬りつけた。
ぐしゃああと嫌な感触がしてトイレの神はその場に倒れる。
思わず、嫌な物を斬ってしまったという後悔の念を覚えたが、しかし、トイレの神は至近距離からさらにベタベタのアレをぶっかけてきた。
これには流石のカミーユも溜まらずその場を離脱せざるをえない。
「またこういうのか……こういうのかー……。
ちょ、やっ やめ……やめろ!
それは食べ物じゃない、近付けるな!」
今度は、湊の方に飛ばしてきた。
あまりの臭さに湊はついに激怒した。
「……あなたを氷像にしてあげましょうか?」
このまま醜悪なこいつを放っておくわけにはいかない。湊は敵を何とか追い詰めようとし懸命に反撃に転じて攻撃した。幸い先ほどのペンキ作戦で敵の行動は筒抜けになっていた。敵も思ったように自在に行動できない。
「ここは天国ですか? 地獄ですか? いいや地獄ですね!」
そこへ、金属バッドを持った雅春がついに暴れ出してしまった。
容赦なく振りかぶってトイレの神に斬りつける。燈戴が「おいちょやめ――」と言いかけたが、構わずブシャアアアアアアアアアアアと斬りつけた。さらに背後からも、黒百合も「ひゃは♪」とダブルコンボで敵に襲いかかった。
その瞬間、四方八方へと臭いモノが飛んでいく。
「きゃあああああああああああああああああああああ」
思わず、ツインテールを振りみだしながら、避けまくるタマモン。あまりに短いソレの中身が全開になっていたが――残念なことに誰もソレを見ている余裕が、なかった。
臭いモノを避けるのに必死だったのである。
口裂け女もまさかの事態に困惑した。タマモンの魔笑によって、トイレの神は仲間であるはずの口裂け女まで攻撃し始めたのである。
これは幸いとばかりに、湊がさらに弓で攻撃して、口裂け女を追い詰めるが、「この先、特殊撮影中につき立ち入り禁止」と札を掲げた燈戴が文字通りビデオカメラで孫の様子を激写しながら「がんばれえええええええ、そこだあああ」と、孫馬鹿を炸裂させていた。
ついに口裂け女が倒れて、トイレの神だけになると、勝ち目がないとみたのか、土壇場で逃亡を始めた。しかし、そこに現れたのは髪の長い幽霊――桜花である。
不意に、髪の間から覗くぎょろっとした目玉と目があった。
「……円舞・雀蜂」
高速に動きながら一気に口や胸元や足がめった刺しにされていく。
気が付いたときには、トイレの神は悲惨な状態になっていた。あらゆる汚物を壁一面にぶちまけながら息絶えていたのである。
「……完了」
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ホラー館から怪しいディアボロの姿は消え去った。逃げ惑っていた客たちに命の別状はなく最小限の被害に食い止めることができていた。
怪我をした者はカミーユが熱心に看病して癒したのである。
「さあ、みんな、僕の家のようにくつろいでくれたまえ」
もちろん、レディーファーストだったが……。
タマモンや湊は任務が終わって早速汚した鏡を拭いて綺麗にしていた。綺麗にしおわるとなぜか燈戴の笑みがあまりに怪しかった。
ふいに気が付くつと、床のガラスにタマモンのアレが――。
「きゃああああ、エッチ! ヘンタイ!!!!」
爺のヘンタイぶりに、さすがに見ていられない孫の湊が強引に部屋から引っ張り出して退場させて何処かへと去って行った。
遠くから「ちょとやめてたすけてあああああああああああああああああ」という悲鳴が聞こえてきたが、もはや誰もそんなことは気にしていなかった。
「お客様の安全が確保されてこそのエンターテイメントでしょう?
いけない子ですね、ははははははは」
攻撃が足りなかったのかまだトドメを刺している雅春。
不意に墜ちていた敵の道具を装備できないかと考えたが、どうしてもあまりに臭くてそれはできそうになかった……。
金属バッドを担いで彼はようやく納得したかのように、彼は意気揚々と何処かへと去って行った――。