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「雫さん……衣装……マネキン型……うっ頭が」
巨大なウサギのぬいぐるみを被った浪風 悠人(
ja3452)が頭を押さえた。
デジャブである――それもかなりトラウマの。
ぎょろぎょろとした目つきのかなり気持ち悪いウサギを見て、思わず子供たちを連れたお母さん達が怖がって「きゃああああヘンタアアアイ!!」と逃げて行った。
「正直に言って、あれらが可愛いとは思えないのですが」
豆腐姿の雫(
ja1894)がぐさりと心に突き刺さるような一言を放つ。悠人はそれが自分に向けられた言葉だと勘違いして「……」と、さらに心の闇が深くなってしまった……。
また、離婚の危機だ……と一抹の不安がよぎる。
しかし、今回集まった撃退士の仲間たちもそれぞれにある意味ヤバイ格好をしていた。
「ねばー♪ ねばばー♪」
奇妙なオブジェから黒百合(
ja0422)が奇怪な声をあげる。
なにか口元からねばねばしたものを垂れ流していた。
全身が茶色で思わず鼻をつまみたくなるような臭いを全身から放っている。あまりの臭さに仲間である撃退士達もうかつに近寄れない。
「お、おえええ……。着ぐるみってのは大変だな、こりゃ」
すでに吐きそうになっている地堂 光(
jb4992)。
無理もなかった。至近距離から黒百合の放つ臭気にやられて彼の中華マンのキャラクターが、なぜか茶色を帯びてしまっていたからである。
姉さんに勧められて安易に中華マンを選んだことに早くも後悔し始めていた。
「酔えば酔うほど強くなる〜」
和装のクマのぬいぐるみを被っているのはミハイル・エッカート(
jb0544)。頬に十字傷がありなぜか任侠仕様。もちろんサングラス着用である。
「よい子の皆をいじめるヤツは、この龍の目が見逃さないぜ」
和装をばっと脱ぐと背中に龍の刺青っぽいTシャツ。
手のひらに、スキル創造で作った桜吹雪をさっと撒き散らした。
「よい子の皆をいじめるヤツは、この龍の目が見逃さないぜ、ひっく」
……大丈夫だろうか。
さらに後ろで怪しい動きをする物体達がいた。
とくに張りぼて組の草薙 タマモ(
jb4234)、藍那湊(
jc0170)。二人とも段ボール箱と紙袋をそれぞれ頭に被っているだけだ。
箱からツインテール、紙袋からアホ毛がとび出ている。
――あまりに酷過ぎる。
「お、おばキュンだきゅん。りっぱなオバケになるために修行中なんだきゅん」
「よいこのみんなー、クオンガハランだよー」
当然のごとく誰も見向きもしない。
もはや、ゆるキャラなのかどうのかさえ怪しかった。
というか、そもそも着ぐるみで戦えるのか――
誰もそんな些細な事は一切気にしていなかったのである。
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ステージ上では突然、奇声を上げ始めたディアボロ達が一斉に降りてきて子供たちに襲いかかろうとしてきた。会場は一瞬でパニックになる。
豆腐の着ぐるみを被った雫が前線へと躍り出る。
格好の攻撃目標になった雫に対してディアボロが凶器の悪臭ブーメランパンツを投げてきたり、ケツから取り出したべとべとした臭い物体を投げつけていた。
「痛いです。止めて下さい、崩れてしまいます」
……冷静にホワイトボードに書きながら喋っている。
シュールな光景だった。
雫は子供達への攻撃を体を張って食い止めていた。
「いくわよ! タマモ忍法・火の鳥!!」
その間に、タマモが絶叫した。
段ボールから火の鳥を突然放った。
「どうよ! すごいでしょ!? ちなみに、クオンガハランも飛べるんだよ!」
タマモ自身も空中に浮かんでみんなに避難を呼びかける。
「よいこのみんな〜、ココは危ないから、一緒に避難しよう〜」
茫然と見上げる子供達。
ひらひらと舞うミニスカ。
あまりに短すぎるスカートの下に大きなお兄さんたちが集まっていた……。
なぜかその場にいた大きなお友達が釣れてしまう。
「きゃあ、何見てるの!? はやくあっち行って!!」
タマモンは声を荒げた。
そうしている間にも子供たちは会場を逃げ惑う。
だが、気持ち悪いウサギの悠人もディアボロと間違われていた……。
「きゃああああああああああああああああ」
逃げ惑う子供たちを追いかける悠人。あまりの気持ち悪さの御蔭で悠人は難なく避難誘導することに成功した。しかし、なぜか心がチクチク痛いのはなぜだろう。
「逃げないと食べちゃうきゅんー」
紙袋を被った湊も避難誘導の為に子供を追いかけ回そうとするが反応はない。こちらは逆に、まったく怖がってくれなかった。
「逃げてくれないと泣いちゃうきゅん」
いじらしく体をくねらせて、アホ毛もしょげる。
あまりに必死な湊を見て、同情した心の優しい子供たちが哀れみの表情を浮かべて、ようやくステージ裏に避難してくれた。
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セクスィー小暮がくねくねした動きでブーメランパンツを投げてきた。
立ちはだかったのは悠人だった。
「皆で敵をやっチャイナ!」
光がなぜか後ろから応援していた。
あまりの気持ち悪さに至近距離で戦いたくなかった。それでもセクスィーが奇妙な動きでパンツでこちらを攻撃してきたので防戦せざるをえない。
斧槍では捉えきれす、ワイヤーに切り替え、射程ギリギリから反撃する。
(中華まんなのか、どっかの仕事人なのか…俺自身よくわからんな)
恐れをしらない悠人は雄叫びをあげながらセクスィー小暮に突進していく。臭いブーメランパンツが途中で降りかかってきた。
あまりに鋭い攻撃でぬいぐるみが裂けてさらに上半身の服も破れる。
顔面に張り付いてきて前が見えなくなった。
その瞬間、セクスィーに抱きつかれて体が動けなくなってしまう。
「ぐごごおごごごご」
ブーメランパンツで口を塞がれて息ができない。
このままでは窒息してしまう!
悠人はこんなやられ方だけは死んでも嫌だ。
その瞬間、執念の炎が出現して敵が火の手に包まれた。セクスィーは逃げようとするが、今度は逆に悠人が抱きついて離さない。
「き……きもちわるすぎる!」
激しく絡みあうその光景に思わず光は容赦なく剣で滅多切りにする。気が付いた時にはセクスィーな格好をした悠人が死んだディアボロに抱きついたまま倒れていた……。
一方でキマモンは突然挙動不審の動きを見せ始めた。釘バッドを振り回して辺りの物を破壊しようとした。
「もごもごもごおおおおお!」
意訳(けど、段ボールが邪魔でちゃんと戦えないよっ!!)
タマモは一体何をやっているのだろうか。
段ボールが邪魔で全く戦闘ができていなかった。
代わりに立ちはだかったのは黒百合が扮する藁の物体。
棒立ちになった黒百合に敵は容赦なく釘バッドを振りまわした。
だが、藁の物体に空いた穴からなにか得体の知れないねばねばしたものが、大量に溢れ出てきたのである。
「ねばねばー♪」
これにはさすがのディアボロも意表を突かれた。
動きを止めた所を黒百合が死角に回り込んで、後ろから特別仕様の藁を巻いた槍でめった刺しにした。
「……角を頭にぶつけて殺します」
ホワイトボードで書きながら雫は怒りを露わにした。
もっともディアボロにその意味は伝わっているのかどうかわからないが。
釘バッド攻撃を剣で受け止めながら雫はさらに書いた。
「豆腐が柔らかいからって甘く見ない事です」
その瞬間、雫は思いっきり剣を振るって敵の釘バッドを吹き飛ばす。
「タマモン参上!! これで身軽になったよ!」
やっとのことで段ボールを脱ぎ捨てたタマモンはミニスカを翻し、上空から攻撃を仕掛けた。一瞬、ディアボロは上空を見てミニスカの中身を――
不意撃ちを食らったキマモンはついに地面に倒れ込んでしまった。
キマモンとタマモンの対決はタマモンに軍配が上がる。
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くさにゃんは相変わらず悪臭を放ちまくっていた。ケツからあれを取り出して投げつけてくるので誰もうかつには近づけない。
……いや、近づきたくなかった。
しかし、湊は立ち上がった。
「オバキュリアン参上。覚悟するキュン」
紙袋で鼻を押さえてあえて特攻する。
べとべとした物をぶっかけられたが、何とか紙袋で防ぐ。
その瞬間、紙袋が脱げてしまった。
子供たちの夢を壊してしまう大ピンチ。
湊は容赦のない攻撃を放った。
「ヒャッハァー! だキュン」
アホ毛を振り回しながら奇怪な動きで敵を撹乱する。
その瞬間、ずごごごと黒が混じった赤く禍々しいオーラを放った奴が現れた。
熊の着ぐるみ、ニヒルに笑ったミハイル。
どっちが悪役か分からなかった……。
すでに敵の悪臭をカラダに浴びていて激オコしていたのである。
湊に追いかけられて上空を逃げようとする敵に狙いを定めて銃をぶっ放す。べとべとした物体を上からばら撒いてきたがそれでも楯で防ぎきった。
ついに敵は体を撃たれて地面に落ちてくる。
ミハイルはトドメを刺すためにくさにゃんを羽交い絞めにしようとした。
しかし、くさにゃんも黙ってはいない。激しく責め立てられながらも、何とかケツからミハイルに向かって臭い攻撃をこれでもかと放ってくる。
もう我慢が出来なった。
私事であるが、去年の末に彼女にフラレていた。
うっぷんが溜まっていたのである。
敵を向こうに四つん這いにさせてケツを突き出させる。
ミハイルは両手を縛って、後ろから跨った。
『逆にどうどうと突き合えるチャンスかも』
脳内で誰かの悪魔のささやきが聞こえてきた。
女にフラれたということは、つまり。
今度は――別の道に突き進む絶好の機会かもしれない。
ブレイクアームドリルのモーターをスイッチオンにする。
「ありがとう、俺様。ケツ堀ドライバー」
脳内で自問自答しながら、ついに敵のケツに熱いモノを突き刺す。
ズガガガガガガッガガッガ!!
「締りがわるいぞ! もっと激しく動いて見せろ、俺の暴れる熱いモノはこんなんじゃ満足できないぜ。もっともっとギアをあげるから覚悟しやがれ」
ヴイイイイイイイイイン!
ぐおおおおおおおおおおおおお!!
ディアボロのこの世ともつかない雄叫びが辺りに響き渡った……。
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会場はひどい惨状になっていた。
撒き散らされた物体によって悪臭が蔓延っていた。
「……」
光やタマモンが無言で掃除をしていた。
しかし、迅速な避難のおかげで子供たちに命の別状はなかった。ただ、その代わりに彼らの夢はぶち壊しになってしまったがそれは仕方がない。
「見られたからには人間界には留まれないキュン」
湊は恥ずかしそうに顔を押さえてすぐに何処かへ去って行った。
もっとも誰も全く気にしていなかったが……。
悠人はなぜか執拗にセクスィーにトドメを刺していた。
念には念を入れていたのだが、そこへ雫がふと通りかかる。
「最後に一つ、貴方はゆるキャラでは無くDVの変態ですから」
その一言を聞いて、悠人は激しく心がポキリと折れてしまった。
「俺の存在っていったい……」
またもや勘違いした悠人がその場に崩れる。
見ていたタマモンが励まそうとしたが、メンドクサクなったのでやめた。
一方で、あらたな道を開拓したミハイル。
彼はどこへ向かおうとしているのか。
それは誰にもわからなかった。
――下人(ゲス)は闇夜に紛れて行方をしらない。