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「さあ、日本のエース、いよいよ最後のジャンパーの登場です!」
日の丸の旗が揺れている。
スキーのジャンプ台には大勢の観客が詰めかけていた。
水色に薄桃色の花柄がワンポイントのジャンプスーツを纏って現れたのは賦 艶華(
jc1317)。スキー板が大きすぎて肝心の彼女がまったく目立っていない。
見た目は小学生だった……。
あまりにも幼すぎる。
果たして大丈夫なのだろうか。
しかし、艶華の目は真剣そのものだった。
一回目のジャンプはなぜか棄権。
他の選手が軒並み飛距離を伸ばす中で彼女だけが記録なし。
全くの実力未知数だった。
もっとも彼女がまともに飛べるはずがないと他の国の選手やメディアは鼻で笑っていた。あんな小学生が飛べるはずがないと余裕の表情だ。
すでに最後のジャンプを終えて首位に立っている選手は優勝したと思いこんでシャンパンを掛けて喜びあっていた。
だが、この後信じられない出来事が起きた。
艶華がゴーグルを付ける。
発射台に腰を掛けて遥か下に目をやった。
とてもではないが小学生が飛べるような代物ではない。
誰もがそう思った時だった。
信号が青になってコーチが発射のサインを送った。
その瞬間、勢いよくバーを押して前に向かって滑りだした。
ものすごいスピードに誰もが唖然となる。
目にもとまらぬ速さで台を蹴って真上に飛びだした。
V字開脚で姿勢を取った。その瞬間、後方に宙返りした。
気が付いた時には翅を広げて――成長していた。
ありえなかった。これはいったい何の競技なのだろうか?
まるでロケットのように直角に進んで行く。
「何だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああこのジャンプはあああああ!
いきなり真上に向かってロケット噴射の如く飛び出たアアアアア!!
何処まで行くんだ! そっちは宇宙だあああああああああああああああぞ」
解説者が絶叫した。
アンビリバボー!
インクレディブル!
各国のメディアも茫然として見送った。
彼女はついにはるか上空へと何処かへと飛んで行ってしまった……。
――それから数時間後。
「あ、あれは何だ!?」
大会が終わってすでに片づけていた時だった。
すっかり彼女の存在を忘れていた。
反対の方角からV字ジャンプで艶華が飛んできた。
そのまま華麗にM字開脚で着地を決める。
「あの……それで優勝はどなたが……?」
その問いに答えられる者は誰もいなかった……。
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「さあ、次は気を取り直してアルペンスキーです!!」
解説者はまるで何事もなかったように次の競技に強引に映った。いまだに誰が優勝したのか分からずにもめ事が続いているジャンプからアルペンに中継が映る。
アルペンなら期待が持てそうだと視聴者が思った時だった。
画面の向こうにラッコが映った。
鳳 静矢(
ja3856)だった。これでも代表選手である。
ラッコの着ぐるみの上から黒いサングラスをつけていた。
この姿を見た瞬間に、視聴者の誰もがずっこけた。
――と思ったらラッコもズッコケた。
キュゥキュゥ鳴きながら高速で滑走してくる。
ラッコのくせになぜかテクニックがすごかった。
前傾姿勢でコーナーを攻めまくる。
華麗にステッキを交互に使い分けながら最短距離を駆け抜けた。
最初は華麗に滑っていたが、途中で転倒してなぜか転がり落ちるように下ってくる。
だが、なぜかタイムは一位。
ありえなかった。
ゴールした瞬間、彼は踊りだす。
まるでサッカーのなんとかダンスのように。
締めに宣伝文句を書いた白板を持った。
『君もスキー場に来て雪ラッコと一緒に滑ろう!』
ありえなかった。
ラッコが優勝してしまった。
見ている誰もが口を開けたま彼の踊る姿を見ていた。それでも何とか本来の役割を思い出したインタビュアーが早速お立ち台に上ったラッコにマイクを向ける。
「優勝した気分はどうですか?」
「キュ? キュキュ!」
「え? 何をおっしゃってるんですか?」
「キュッキュキュキュ、きゅっ、キュキュ」
「えっともう一度お願いします」
「●〒☆※★」
「えー最後に皆さんに向かって」
「クキュクキュキュッキュッ」
何を言っているのか意味不明のまま、彼は突然興奮したのか絶叫して、そのままスキーを履いたままどこかへ滑って行ってしまった……。
「もしこのPVが好評だったら、マスコットキャラとして雪ラッコを設定してみてはどうかな?」
ラッコの姿で大会本部長の前で直訴していた。
何処に行ったのかと思えば、しきりにラッコをアピールしていた。
さすがの本部長もこれには困った顔を見せた。
「子供達の興味を引くには可愛い物も十分有効だと思う。ラッコでなくても良いが、マスコットキャラを作るのは有効ではないかと思うのだよ。
スキーが上手いスタッフが着ぐるみに入って一緒に滑れば、子供達も楽しんで滑れると思うしな――」
それからもラッコの説得は永遠に続いたという……。
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「……あーそれではおまたせしました、フィギュアスケートです!」
解説者はハンカチで汗を拭きながら話を反らした。
カメラが突然切り変わって場所はアリーナ会場である。
大勢のフィギュアファンの歓声に包まれていた。固唾を呑んで見守る中、最後のトリで現れたのはミハイル・エッカート(
jb0544)&真里谷 沙羅(
jc1995)組。
ミハイルは黒をベースに金と赤のラメの衣装だ。
なぜか上半身が無意味に肌けている……。
まるで何十年か前のアイドルのようだ。
観客の黄色い声援に応えるようにサングラスを放り投げた。
沙羅の方は赤のスリットが入ったワンピースに黒と金のスパンコールを使った衣装。
可愛らしくて同時に大胆な衣装でもある。
怪しい淑女の雰囲気が漂っている。
二人が背中合わせになると蝶が羽を広げた姿に見えた。
不意に会場にモンスターに扮したスケーター達が侵入してくる。不敵な笑みを浮かべて手に持った剣や楯を突きつけてきた。
重厚な音楽が流れると同時に二人は演技を始める。
流れるように滑って敵が次々に剣で襲いかかってきた。二人は手を取り合いながらそのまま沙羅を上に持ち上げてリフトした。
思いっ切り上にスローイング!
敵が投げた剣を華麗に交すことに成功。
ミハイルが落ちてきた沙羅を空中でしっかりとキャッチした。
お互いに濡れた瞳で見つめ合う。
「なんだこのすばらしいいい演技はあまりの美しさに感動の涙があああああああああああああああああああああああ! まるで愛し合う禁断の二人のように甘いアクロバアアーツ!」
解説者も思わず興奮の絶叫。本当の愛人のように燃え上がる演技。
そういえば、ミハイルには好きな人がいたはずだが、大丈夫だろうか……。
不倫は絶対に駄目だぞ!
敵もこのままでは終われないと連続攻撃を仕掛けてきた。
流れるように次々と剣で突っ込んでくる。
二人は息の合った高速スピンで敵を交わす。
敵の剣先をギリギリの所で交す。
瞬間に敵の脇腹を狙って曼珠双刀で沙羅が打つ。
敵は腰をやられて転がって壁に激突した。敵の武器も突然炎の火が付いた。
二人は息の合ったコンビネーションジャンプを見せる。
敵が足元を狙った瞬間に、ジャンプ。そのまま連続4回転サルコー。
さらに締めは高速ビールマンスピンからの7回転アクセル!
「きゃああああああああああああああああああああああああああああ」
観客が興奮で絶叫した。
敵がさらに背後を狙ってきたが、今度は上体を反らした。
二人そろったイナバウアーで敵の剣先を華麗に交す。おかえしとばかりに今度はミハイルが水泡を飛ばしながらの演舞。
途中、水鏡旋棍や緋の太刀に切り替え、美しい蝶の演技に会場から溜息が洩れる。
さらに高速ビールマンスピンからの7回転アクセル!
大きな龍が出現して、ミハイルが高速スピンで足を垂直に伸ばした。
そのま竜巻の如く光輝くエッジで敵を切り刻む。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
観客が興奮で絶叫した。
演技が終わって二人は抱き合っていた。
しかし、ミハイルは完全に上半身が肌けてしまっていた。先ほどの激しい演技でついに衣装が破けてしまったのである。
これには会場の女子が鼻血で卒倒した。
会場には多くのくまのぬいぐるみが投げ込まれた。
氷上の貴公子。今季世界最高得点。
ミハイルはそれでも熱い濡れた瞳で沙羅をじっと見つめる。
「俺の愛の結晶を受け取ってくれないか?」
彼は突然何処からか薔薇の花束を相方に差しだした。
あまりの恥ずかしさに沙羅は目を反らす。
「綺麗な花束をありがとうございます。とてもかっこよかったです」
なんとか受け取ると、その中から薔薇の一本を抜き取った。
沙羅はその一本を彼のパンツに差しこんだ。
上半身裸をバックに咲いた一輪の薔薇……。
「さて、よい子の子猫ちゃんたち、楽しんでくれたか?
俺のカラダを存分に味わってくれ。今宵は最後までお前を寝かせはしない」
ミハイルはまるでゲスのような一言を呟いた。
沙羅や観客の熱い視線をカラダに浴びてすでに恍惚としている。
――熱い夜の本番はまだまだこれからだった。