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誰も居ないはずの会議室で怪しい声が木霊していた。
足元には蝋燭やロープが散乱していて足の踏みがないほど荒れている。
バシッと何かを激しく叩く音に混じって男の叫び声がしていた。
こっそりと撃退士達が近づいていくと驚きの光景が目に飛び込んできた。
裸で頭にストッキングを被っていたり、黒のブーメランビキニパンツや白い褌を履いている男達が大声を上げている。
傍らにいる背の高いボンテージの女に鞭で激しく叩かれていた。
「まあ、いたぶられて悦ぶなんて。 信じられませんわね。どういう趣味なんでしょう?」
ブルームーン(
jb7506)が不敵な嗤みを浮かべて呟いた。激しく罵倒され叩かれているM男達を見てテンションがすでに高くなっていた。
腰に手を当ててニーハイブーツの美脚を敵に向かって強調する。
「何ともまぁ、学生に討伐させるには荷が重い相手だねぇ。 どんな天使が作ったのかと…… 。とりま、最初からマゾヒストな男を虐めて喜ぶエセ女王様に、大海を見せてやらねばなるまい。 性の化身、サキュバスとして」
キリッと表情を変えたのは秋桜(
jb4208)だ。
ブルームーンと同じく怪しいオーラーをすでに漂わせている。屈辱に満ちながら敵を地獄へと踏み落とす容赦の無い目つきをしていた。
「褌嫌いのボクの前に褌出してくるなんて良い度胸だね。きなよ豚共!」
飯島 カイリ(
ja3746)は挑発する。大嫌いな褌を見せられて憤っていた。
日頃の鬱憤を晴らすことができるかと思うと背中がゾクゾクする。
「……変体は死すべし」
染井 桜花(
ja4386)はまるで汚物を見るかのように短く吐き捨てた。
無表情で冷たい氷の視線で敵を睨みつける。
「さあ、それじゃあ……愛しあおうか、女王様。ふふふふ」
帯刀 弦(
ja6271)はボンテージの女をうっとりと眺めて嗤った。頭のネジが何本かはじけ飛んでしまったかのように不気味に独り言を呟いている。
「うわぁ……何だよこれマジできもちわりぃ」
幽樂 來鬼(
ja7445)はあまりの光景に引いていた。
敵の変態さ加減に思わず帰りたくなったが、すんでのところで思いとどまる。
変態ならば手加減なく踏み潰してやると逆に意気込んだ。
「お姉ちゃんが言っていた……あんた名前にえむもえすも入ってるんだからどっちもいけるのよ、って!」
恵夢・S・インファネス(
ja8446)は力強く宣言する。
悪魔の義姉にそそのかされ、具体例のない自信を持って参戦していた。あまりよくわかっていないがやる気だけは十分に溢れている。
「……個人の趣味は勝手だが、被害が出てからでは遅いからな。早々に幕を引いてもらおう」
一人冷静に口を開けたのは飛鷹 蓮(
jb3429)だった。先程から仲間であるはずの弦から意味ありげな視線を向けられて若干戸惑いを隠せない。
だが、敵は目の前で痴態を繰り広げていた。
このまま放っていてはいずれ誰かに被害が及び危険性がある。
蓮は光景を見つめてなかなか攻撃をしようとしない仲間を促した。
ようやく撃退士達は敵のいる目の前へと躍り出る。
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「なんでこんな場所でそういうのしてんだよ……っつかそんな敵居てほしくねぇ」
來鬼が愚痴りながら敵に接近した。周囲に明かりを照らしだす。
不意に眩い光に包まれた女王様とM男達はあまりの眩しさに目を細めた。
その隙に蓮が音の気配を殺して死角へと潜り込む。
続いて秋桜も反対側から挟み撃ちぅるようにマゾ男達に迫ると、闇色に染まった逆十字十字を出現させた。両手を広げて一気に十字を落とす。
突然襲われたマゾ男達は悲鳴をあげた。
慌てて現れた敵に対処するために後方に引きながら体勢を立て直す。
女王様も鞭を大きく振り上げて撃退士に襲いかかってきた。
「相手をしてやろう。今度はお前が跪く番だな」
蓮が二丁拳銃を構えて一斉に火を吹いた。
烈火のごとく襲い掛かる弾丸に撃たれて女王様は口から血を吐く。
「良いねそのハイヒール、足首ごと僕にくれないかな。 ホルマリンに漬けてずっと綺麗に保管しておいてあげるよ」
弦も女王様に鞭を放つ。激しい鞭と鞭の叩き合いが始まった。
お互いに叩かれ叩きながら徐々に攻撃が厳しさを増していく。傷だらけになりながら弦は鞭を放り投げてサバイバルナイフに持ち替えた。
すでにアドレナリンが出ていた。快感がダメージを上回っている。
切りつけようとした時、女王様を助けようと黒のビキニパンツが邪魔してきた。
「礼儀を知らない豚だなぁ、女王様は今、僕と遊んでくださってるんだ。 脳に蛆でも湧いてるのかな、それとも考える頭がないから、順番も守れないのかい?」
弦は振り返りざまにビキニパンツと向き合った。
亀甲縛りで身体を巻いて来るが、容赦無く喉元に向かってナイフを突き立てる。
ビキニパンツは雄叫びを上げながらもっとしてほしそうに再び迫る。
恵夢は弦に助太刀するために割り込んで大槌で殴り飛ばした。壁に激突して黒のビキニパンツは苦渋の笑みを浮かべている。
「お姉ちゃんが言っていた……“ごほうび”は、長い長い“おあずけ”の後に与える物だ、って!」
恵夢は蹴りの姿勢を見せて一瞬、黒ビキニパンツは身を縮こまらせた。
だが、それは恵夢のフェイントだった。
おあずけを食らった男はもだえ苦しむように上目遣いで懇願する。ごほうびをおねだりするように亀甲縛りを仕掛けてきた。
「亀甲縛りは所詮飾り物、拘束術としては甘い! ……って!」
恵夢は亀甲縛りされながら叫んだ。力を入れて縄を切り飛ばすと、すぐにビキニパンツ男の下半身に向かって強烈な一撃をお見舞いする。
「豚豚豚豚豚豚ブタブタぁーッ!」
ビキニパンツ男は絶叫しながら泡を吹いて昏倒した。
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「ねぇ、君凄い綺麗な肌してるね! 綺麗な瞳、カサカサな唇! きめ細かな肌! ふふ、何処をとってもボク好み♪」
逃げ回ってばかりいた褌男に喜々としてカイリが前に立ちはだかった。
隠していた武器をいきなり前に取り出して褌男の下半身に銃口を押し付ける。
ゼロ距離射程から弾丸を撃ちこむと褌男は雄叫びをあげた。
「ぎゃああああああああ――――!」
白目を向きながら表情を引き攣らせてぶっ倒れる。
桜花は倒れこんだ褌男の上に大胆にも馬乗りになって顔面をぶっ叩く。
嬉しそうに何度も往復ビンタされる褌男に今度は爪を立てる。
「……変体。……こんなのがいいの?」
桜花が爪を立てれば立てるほどもっとしてほしそうに男は声を荒らげた。
時折手に力を込めて握りつぶすように身体の肉を抉る。
敵の目と口に容赦無く爪を突っ込むと泡を吹いてついに息絶えた。
「……美味しかった?」
勝ち誇った女王様のように妖艶な笑みを浮かべる。
だが、すでに褌男は返事をすることができなかった。
桜花はそれでも馬乗りであれやこの手で全身を切り裂く。
ストッキング男は褌がやられて攻勢に出る。蝋燭の火を両手に持って撃退士達に投げつけてきた。 來鬼が間に入って攻撃を代わりに食い止める。
ブルームーンが横から男の下半身目がけてヒールの足を蹴りこんだ。
不意を突かれたストッキング男が喜ぶとも痛みともつかぬ大声をあげる。
「マジで気持ち悪いんだけどこれが敵とか思いたくねぇ」
ストッキング男に來鬼はその隙にアルニラムで両手両足を縛ることに成功した。
身動きが取れなくなった男を押し倒して顔面を踏みつける。
「踏まれて喜んでるって本当に変態じゃん。嬉しいの? この豚が」
激しく罵倒しながら踏みつけているとそこにブルームーンも加わった。ブーツのハイヒールで体中をぐりぐりと踏みにじられて男もあまりの衝撃に言葉が荒くなる。
ブルームーンがサンダーブレードでごりごり弄ぶと男は痙攣した。
身体が麻痺したように何度も痙攣しながらそれでも耐えしのいでいる。
まるでもっと刺激が欲しいと懇願しているかのような男の動きにブルームーンも力を込めて何度も執拗に踏みつけた。
「この豚!! なんで豚が人様の言葉喋ってるわけ?? ピーしてやるわよ!!」
ブルームーンはヒールでぐりぐりと攻め立てるとついに男は仰け反った。
泡を大量に撒き散らしてまるで失神するかのように地面に突っ伏す。
残ったのは女王様だけだった。M男がいなくなってお楽しみを取り上げられてしまった孤高の女王様はついに撃退士達をMにするべく鞭を振るってくる。
弦も鞭で応対するがなかなか決め手を与えない。
そこへ褌を倒したカイリが横から罵倒しながら切り込んだ。
「寧ろお前が今からMになるんだよ? わかる? ねぇわかる? メスちゃんそこら辺理解できる?」
嬉々としながら女王様を背後からロープで縛り付けようと試みる。
激しく抵抗してきたために猿轡をはめて口封じするために押さえつけた。
「よかったねぇ? お前が最後に泣く番だぉ。Mになるんじゃない? 攻撃すれば」
來鬼が死角から迫ってナイフで背中に突き立てようとして逃げ出そうとする。
そこへ恵夢が横から入って女王様を何とか押さえつけようとした。
女王様は激しく身体を振って恵夢に抵抗する。
「見てないで手伝ってよ〜」
來鬼が言うと秋桜がやれやれと言うように背後から助太刀をする。
逆十字を上から叩きつけて苦しみに表情を歪める。
「……援護する」
桜花も上から覆い被さって再び今度は女王様の上に馬乗りになった。
女王様の美貌の顔面を爪で引っ掻き回す。
それまでMだった女王様が撃退士たちの猛攻を受けてついに押し倒される。
「お前の弱点は何だ? そうだな……女王気取りというのなら、俺がお前を値踏みしてやろう」
猿轡をされて答えることの出来ない女王様に蓮は冷たく言い放った。
容赦無く背中から踏みつけてついでにハイヒールをぶち壊す。
最後の抵抗に屈辱に見舞われた女王様は鞭で反撃を試みようとしてきた。
「俺の女王はただ一人。気安く触れるな!」
蓮は銃を顔面に向けてぶっ放すと踏みにじった。
「ぎゃああああああああああああああああああっーーー―!!」
女王様は踏みつけられ、もがき苦しみながら絶叫の果てについに息絶えた。
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撃退士達に罵られ踏みにじられながら全ての敵は動かなくなった。
現場には鞭に蝋燭にディアボロの液体などが散乱してひどい有様になっている。
「ああ楽しかった!」
褌を倒したカイリはすっきりしたように息を吐いた。
体中に返り血をあびているがそんなことは気にも止めていない。
「アカシックレコードの技がこんなに……あら? ええと……私ったらはしたな……ちっ、誰かに言いふらしでもしたらタダじゃおかないわよ!!」
ブルームーンはふと我に帰って叫んだ。
戦闘中に何やら本性がダダ漏れになっていたような気がしたが時すでに遅い。厳しい視線で睨みつけるブルームーンに怖がって撃退士達は近づけなかった。
「痛みと快楽は紙一重と言うが……どちらにせよ、俺には理解できん行動だな」
蓮はため息を吐いた。心身ともに今日はなぜか疲れていた。
敵を全て倒したのにも関わらず先程から背中に嫌な視線を感じていた。
振り返ってみるとそこには弦が熱いまなざしで見つめている。
「飛鷹君っていい体してるねぇ……今度、怪我をしたら僕の所においでよ」
弦の言葉に蓮は何やら悪寒を感じて身震いした。
取り敢えず傷つけないように冷静に断ってその場をすぐに後にした。