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マスター:凸一
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/01/18


みんなの思い出



オープニング


 ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――
 リングに上がった修羅の面を被った増田銀次郎。
 詰めかけた歓声に叫び声で答えながらウオーミングアップをする。隆々とした筋肉に二メートルを超すガタイは敵を圧倒する迫力を持っていた。
 会場はすでに熱気に包まれている。
 試合が始まるや否や、繰り出すドロップキック!
 激しい攻防に誰もが固唾を呑んで見守る。
 いけえええええええ! そこだあああああああ!!
 銀次郎は声援に後押しされるように次々に敵に向かって技を放つ。
 ポールの上からジャンプして強烈な頭突きで敵をノックダウンさせる。
 強烈な攻撃を受けて敵は全く身動きできない。
 傷だらけの身体を仲間に支えながら銀次郎は勝利の雄叫びを上げた。

「あの頃は、あんなに盛り上がったのに……最近の若者ときたら――」
 銀次郎は昔を思い出して溜息を吐いた。
 プロレス会場に観客がほとんどいなかった。試合当日にも拘わらず、来ているのは昔馴染みのファンだけで若者の姿は見当たらなかった。
 プロレスをする選手自身もあまりの観客の少なさに覇気が感じられない。
 無理もなかった。最近プロレスはほとんど若者に人気がない。
 銀次郎は元選手で現在はプロレスジムのオーナーだった。最近新しくジムを改装したのだが、肝心の新規メンバーが入らず、廃業の危機に陥っていた。
「このままではプロレスが存続できない――そうだ、面白い試合を若者に見せて、プロレスの魅力を伝えよう。そうとなればメンバー集めだ」
 名案を思いついた銀次郎はすぐに人を探しにジムを出て走って行った。



「プロレスの試合をするので、ぜひ協力してほしいという依頼が来ています」
 斡旋所の女性職員は資料を広げながら説明を始めた。
 依頼主は、プロレスジムのオーナーの増田銀次郎である。彼は地元チームで活躍した伝説のプロレスラーだった。現在は後進の育成の為に日々努力をしている。
 ジムの改装記念に入会者を募集したが、まったく入ってくれる人がいなかった。このままでは改装にかかった資金が回収できずに潰れてしまう。
 それにプロレスの未来も危ぶまれた。
「撃退士の皆さんには、実際に二チームに分かれてプロレスをしてもらいます。
魅力ある試合をしてぜひプロレスの面白さを若者に伝えてください。
それではよろしくお願いします」
 斡旋所の女性職員はそれだけを言い残して、「フアアアアア!」と突然、ドアをドロップキックで蹴り壊して、そのまま何処かへと去って行った……。


リプレイ本文


「あ・た・しを見に来て」
 駅前で際どいハイレグ姿で藍 星露(ja5127)がビラを配っていた。
 思わず通行人が二度見して立ち止まる。
 こんな寒いのになんて格好だ……。
 あまりのその格好に写真を取る人も続出していた。
 無理もなかった。あまりにも際どすぎて一度見たら忘れられない格好である。
 ビラには特典券も付いていた。
 ウェブにアクセスして投票すると、自分の考えたネームがプロレスラ―に付けることができるというものである。
「ねえ、お姉ちゃんのお名前は何?
――よかったら僕が特別に『萌える闘魂』とか付けてあげようか」
 油ギッシュな禿げ親父にしつこく聞かれて星露は終始困惑していた……。



「レディースアンドジェントルマン! 今宵は美少女だらけの新久遠プロレスだ! 
みんな盛り上がっているかあああああ!!」
 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
 地鳴りのような響きが会場に轟いた。
 プロレス会場は満員だった。美少女同士の激しい試合を見ようと熱狂的なファンが詰めかけていたのである。
 そこへ現れたのはラウンドガール『萌える闘魂』の星露。
 超ギリギリの際どいハイレグビキニ。ムチムチのボンキュッボンのスーパーパーフェクトナイスバディのお姉さんの登場に場内がどよめいた。
「みんなラウンドガールのお姉さんはすきかあああああ!!」
 好きだああああああああああああああああああああああああああ!
 ……いったいどっちを見に来たのかわからない声援だった。
 それはともかく「極悪チーム」と「正義チーム」が爆音の登場曲と共に現れた。
 真っ先に会場に乗り込んできたのは第一試合を戦う桜庭愛(jc1977)と彼女に付き従うセコンドの雪ノ下・正太郎(ja0343)だった。
「愛ちゃんがんばれえええええええええ!!」
ラウンドガールに負けず劣らずのハイレグ水着にオジサンたちも声援を送った。それに対する染井 桜花(ja4386)は堂々した足取りでリングにあがる。
 黒いレオタードにマントに身を包んだ妖艶な姿。
 まさしくヒール役だ。
 まるでSMの女王様になったように鞭を叩きまくってパフォーマンスする。
 傍にいたファンの一人の顔に当って彼は担架で運ばれていった。なぜかうっとりと至福の笑みを浮かべていたが……。
 それに対して緊張気味の愛は正太郎に試合前に声を掛けられていた。
「これまでの練習を思い出せ!
いつも通りの実力をだせば大丈夫だ。さあ、しまっていこう!」
「はい、コーチ! わかりました!
相手がどんな強敵であろうとゴングが鳴ったら立ち向かうだけです」
 愛がコーチに背中を叩かれてはいると、すでに待機していた桜花がマントを投げ捨ててその妖艶な巨乳をこれでもかと見せつけた。
「……今宵もまた……修羅の宴の幕が上がる……心の準備は万全か?」
 愛は歯を食いしばって構えた。緊張の一瞬。
 ゴングの鐘が鳴る。
「絶対に貴女には負けません!」
「……見届ける覚悟は万全か? 
……刮目してみよ! ……今宵の宴を!」
 桜花は観衆に向かって煽った。
 開始と同時に愛は真っ直ぐに突っ込むと勢いよくチョップチョップチョップの連打を浴びせた。防戦一方の桜花はそのまま押し込まれるようにリングの脇に追いやられる。
「チョップチョップチョップの嵐だあああああ! なんという凄まじいチョップだ! まるで台風のような嵐のチョップに桜花選手も全く手が出せない!」
 しかし、桜花は隙を見て愛の首元にラリアット!
「……吹っ飛びなさい」
 朦朧とした瞬間に、今度は桜花が髪を掴んでそのままジャイアントスイング!
 愛はリングの端に激突して顔面から崩れた。さらにカウンター攻撃で再びラリアットを食らい、ストンピングに苦悶のあえぎをもらした。
 それでも愛は歯を食いしばっては何度も立ち上がって攻撃した。
 しかし、愛はついに力尽きてリングに倒れる。
 審判がやってきてもう駄目だと判断しようとした。
「立つんだああああ! 立つんだああああああいいいい!!」
 正太郎が傍によった声を掛けた。続け様の攻撃を食らって愛もふらふらして相当のダメージを負っていた。しかし、コーチの声に起き上がる。
「……もっと泣きなさい……もっと楽しませなさい」
 そうはさせまいと上空から桜花はとび蹴りをお見舞いする。いためつける事に快感を覚える女王様の微笑を浮かべていた……。そのまま踏みにじられてもうだめかと誰もが思った瞬間、愛はかろうじて側転して交す。
 反対側に回り込み、ロープを使って飛びだすと相手の股に入り込む。
 そのまま持ち上げてスプラッシュマウンテン!!
 一瞬空中に浮いた桜花は激しくリングに叩きつけられた。
 動かなくなったままカウントが3つ数えられた。
「――勝者! 正義チーム、愛&正太郎!」
 その瞬間、盛大な歓声が場内に木魂した。



(同人誌ネタに良さげだから受けてみたはいいものの、皆体格いいなぁ……。
ボク生き残れるだろうか……)
 悪魔のコスプレ衣装で入ってきたのは、プリティデビル・アス(jc0467)。
 敵チームの六道 鈴音(ja4192)を見て思わず息を呑んだ。自分より体格がよくて勝負になるだろうかと内心心配していたのである。
「増田さん、今日は任せておいて! プロレス人気大爆発よ!!」
 対して鈴音の方は審判員の増田に声を掛ける程気合が入っていた。黒と紫基調のリングコスチュームを身にまとったその名も「ダイナマイト・鈴音」。
 確かにいろんな所がダイナマイトだった……。
「あなた! 自分が世界で一番カワイイとか思ってるみたいだけど、久遠ヶ原学園No1……、いや3番、いやいやベスト10ぐらいには入っていたいこの私を差し置いて、絶対許されないわよ!」
 バッチコーイとカモンベイベーの手つきをしてアスを挑発する。
「なーに謙遜してんの、狙うならトップでしょ! そーいうのちょっと気に入らないカナ。
 いいや、世界一可愛いボクが手とり足とり教えてア・ゲ・ル!」
 すでに両者とも火花を散らしていた。
 ゴングの鐘とともに両者が突進して激しい掴み合いになる。アスは早速尻尾で足をひっかけたり小狡い技も容赦なく使った。
 鈴音も早速試合前に増田に教えて貰った体当たりチョップ&ウエスタン・ラリアートの連続技で小さな身体のアスをリングの端へと弾き飛ばした。
 さらにトップロープからのフライング・ボディプレス!
 続け様の容赦のない怒涛の攻撃にアスは倒れ込んだ。
しかし、アスも負けてはいない。ダウンを取られる前に立ちあがった。
 小刻みにリングを周回してロープの側面を駆けのぼる。そのまま飛翔して一瞬、鈴音の視界から消えた。次の瞬間、鈴音の後ろに現れてそのまま飯綱落とし!
 鈴音は何が何だかわからないままリングに突っ伏した。綺麗に大技が決まって観客に投げキッスアピールする。その瞬間に大歓声が起きた。気を良くしたアスはさらに鈴音の髪を掴んで引っ張り上げてバックドロップ! そして、ムーンサルトプレス!!
 鈴音はもうふらふらだった。
 さらにドロップキックで続け様の攻撃に鈴音はロープに叩きつけられた。
 鈴音はそのままアスの方へと跳ねる。
 無防備な鈴音の首元に向かってラリアットを食らわそうとしてきた。
「このまま……負けてなるものか!」
 朦朧とした意識の中で鈴音は態勢を低くした。
 次の瞬間、アスのラリアットが空振りした。鈴音は反対側のロープを蹴り込んでそのまま増田銀次郎直伝のドロップキックを繰り出す。
 アスの背中に見事に決まって倒れた。しかし、鈴音も体力を消耗しており、そのまま動けずに両者の対決は引き分けになった。
 互いに全力を出し切ったアスと鈴音に場内から盛大な拍手が送られる。



「未来ちゃん! お互い手加減無しで行くよ!
どっちが勝っても恨みっこ無し!」
 青と黒の可愛らしいコスチュームのスカートで與那城 麻耶(ja0250)が登場した。真久遠プロレスの部長として絶対に今宵の試合は負けるわけにはいかない。
 対戦相手はこれまで何度も凌ぎを削った黒神 未来(jb9907)だった。
 お互いに手の内は知りつくしていた。今回は時間がないために最初の大技で勝負が決することになるだろう。試合前からファンもただならぬ空気に息を呑んでいた。
「メデューサ黒神や、ぜったい負けへんで。かかってきいや!」
 ゴングが鳴ると同時に未来が渾身のドロップキックをかました。まさか初っ端からドロップキックが来ると思っていなかった麻耶は受け止めきれない。
 二人は場外へと一緒に吹き飛んだ。
 しかし、起き上がると何と二人はリングに戻らず、そこで取っ組み合いを始めた。未来がパイルドライバーでもって麻耶を床に叩きつける。
 そこにあったテーブルが激しく割れて散乱した。
 これにはそこで見ていたファンも堪らない。
 場外乱闘を目の当たりにしてファンも興奮した。
「これはなんということだあああああ! 場外で激しい乱闘が繰り広げられています! もうどっちがどっちがわかりません! ぎゃあああああああああああ!」
 突然、アナウンサーの声が途切れた。
 傍で実況中継していて巻き添えを食らってしまったようだった……。
 何とか騒動を止めさせようと、他の鈴音やアスなどが止めにはいるが、全て麻耶と未来が蹴散らしてしまった。
「うちらの戦いを邪魔すんなー!」
 もう目の前の敵しか未来には見えていなかった。
 ふと、そこへファンも乱入してくる。
 頭になぜか「MS」と書かれたアラサ―と思しきファンが入り込んできた。
 怒り狂った未来はその瞬間、ラリアットを繰り出してノックダウンさせた……。そのままファンは担架でどこかへと運ばれていった。
「大迫力の音とともに部長さんを流血に追い込んだろか」
 持ち上げられた未来は天上の蛍光灯を掴んで、逆に激しく麻耶を殴りかかる。さすがの部長もこれにはどうすることもできずにリングへと逃げた。
 追いかける未来はリングに椅子を持ち込むと、そのままジャンプして、シャイニングウィザードして会場を驚かせた。麻耶はすでに激しく流血して傷だらけだった。
 もう残り時間が少なくなっていた。
 再び未来がドロップキックをかましてきたところを掴んだ。
「うおおおおおおおおおおお! 渾身のQBボムだぁ! っしゃおら!」
 その瞬間、麻耶の必殺技が火を噴いた。
 未来の腕と股を取ってそのまま空中からリングへとダイブ!
 決まったかに見えたが――未来は決死の形相を見せた。執念でそのまま麻耶の体を離さず、もう一度立ち上がり、なんとその態勢から逆転のバックドロップを決めつけた! 
「勝者――メデューサ黒神いい!」
 鮮やかな逆転劇に会場の誰もが盛り上がった。



「いったあ……それにしても最後のは、よくやるわ」
 傷の手当てを正太郎にしてもらいながら麻耶は呟いた。
 流血につぐ流血だったが、これもプロレスならではの日常茶飯事である。
 勝敗よりも自分の試合を楽しんだ結果だ。
 そのためか、負けたはずなのになぜか試合後のサイン会で麻耶が一番人気だった。一緒に写真を取ってほしいとのファンが続出したのである。
 女王様の桜花と共にファンの長い列の握手に答えていた。なぜかラウンドガールの星露にも熱狂的なファンがしつこくまとわりついていたが……。
「今度はちゃんとプロレス形式で興行しましょうね! 増田さん!」
 傍に居た増田銀次郎にも注文を付けた。
 あと少し時間があったら麻耶が勝っていただろう。復帰戦で身体が鈍って限界に来ていた未来はもう体力が残されていなかったからである。
 正太郎は仲間の介抱をした後に、今回の試合のDVD化について提案した。すでにスポンサーと掛け合って内諾を取りに行く所まで綿密に計画を立てていた。試合中にとったPVについての権利などを交渉しにいくという。
 アスと鈴音もその提案を聞いて賛成した。
 今度は絶対にお互いに負けないと――意地の火花を散らしながら。
「あたしからもお願いです。
今度はもっと腕を磨いて皆に楽しんでもらいたいです」
 今日のような熱い試合をもっといろんな人に届けたい――愛も一緒になってお願いした。
「麻耶くんや愛ちゃんの言うとおりだな。今度はちゃんと長い試合形式にして、チームプレーなどできるようにしようか。また機会があればぜひ協力してくれ」
 増田銀次郎はそう言って全員に握手を求める。
 今宵のプロレスの試合は大盛況とともに幕を閉じたのだった。


依頼結果