●
「福笑い男さん〜。はやく出てこないとりんご飴二本目食べちゃうよ?」
草薙 タマモ(
jb4234)は舌を出して太くて固いリンゴ飴を食べていた。
周りの参拝客は着物姿が多かったが、当然の如くタマモンはいつも通りの服装である。
すなわち――激ミニスカートである。
「きゃああああああああああああああああ」
不意に境内で女性の悲鳴が起きた。
タマモンがそちらを見ると、福笑いの面をつけた男と目があった。何やら嬉しそうに笑いながら腰を突き出して突然、猛ダッシュしてくる。
どうやら物凄くタイプだったらしい……。
「正月早々面倒な騒ぎを起こしているわねェ……まァ、いいわァ、とりあえず徹底的に叩き潰してあげるわァ♪」
黒百合(
ja0422)は彼のアレを見て不敵な笑みを浮かべた。
キャハ、と嗤いながら早速何処かに紛れこんで行った……。
「――なんだ今の声は、って、冗談じゃねえぞ……」
参拝にやってきていた鐘田将太郎(
ja0114)が振り返る。悲鳴の先に居たのは突然包丁を振り回し始めたナマハゲだった。おまけに子供に牙をむける獅子舞もいる。
さらに思わず目をそむけたくなる福笑い男……。
間違いない、ディアボロだった。
新年早々ついてなかった。思わぬ遭遇に溜息がこぼれる。
「撃退士です! 心配しないで下さい!
落ち着いて前の人に続いて避難をして下さい!」
参拝を終えたばかりの鈴代 征治(
ja1305)はすぐに大声を上げて現場に向かう。しかし、混乱した人々が押し寄せてきてなかなか思うように前に進めない。それでも身振り手振りでパニックに陥った参拝客達を何とか境内の外へ移動させようと努力する。
「皆さん、すぐに避難して下さい」
避難を促しながら、黒井 明斗(
jb0525)もディボロが追撃してこないように、一般人の最後尾を護っていた。
暴れているディアボロ達からの攻撃を最前線で食い止める。
無理に攻撃には出ずに、一般人の防壁として最後の一人が境内から避難が完了するまで最後尾を守り続ける。
「――巫女が誘惑? それだけ魅力的なのかしら」
妖艶な笑みを浮かべながら瑞朔 琴葉(
jb9336)がアフロが目立つ甲斐 銀仁朗(
jc1862)と共に現れる。舞殿の向こうで巫女が矢を構えて暴れ回っていた。
ワザとらしく着物を肌けながら近寄った男どもに襲いかかっている。
「新年早々、こんなにも面白い敵が居るなんて……今日は良い日なのかしら」
その言葉を聞いて流石の銀仁郎もどう答えてよいかわからなかった。
●
獅子舞が人に襲いかかろうと空中に舞い上がった。猛烈なスピードで上空を飛びまわって標的を見定めようとしている。
「物は試しだ、この程度の敵ならお前だけで倒してみせろよ」
影野 恭弥(
ja0018)は鳳凰の召喚獣を敵に向かわせた。
空中で獅子舞と鳳凰が互いに牙を剥きながら争いを始める。鋭い牙で鳳凰が獅子舞の背中を掻き斬るや否や敵も負けじと鳳凰に噛みついてくる。
「俺と同じ強さの飛行可能な召喚獣。
……これで戦果を出せれば今後の戦闘に活かせるかもしれないな」
恭弥が見守る中で激しい空中での攻防戦が繰り広げられていた。鳳凰が嘴と爪を上手に使って態勢を有利に取るとそのまま上に覆いかぶさって目隠しする。
「そうだ、敵をこっちに誘導しろ、そして……」
不意に獅子舞の目の前から召喚獣が消えた。
その瞬間、恭弥の一斉射撃が炸裂する。
罠にかかった獅子舞が乱れ撃ちを受けて地上に落ちてくる。
参拝客を避難誘導させて征治が戻ってきた。
無数の星の鎖を放って獅子舞を絡め取って人のいない地面へと撃墜させる。
獅子舞は最後の抵抗とばかり大きな口を開けて突っ込んできた。
征治は十字架を持って獅子舞に突入した。その瞬間に、光の爪が現れ、獅子舞の頭部をぐちゃぐちゃに切り裂いた。恭弥もトドメに無数の弾丸を浴びせる。
「充分だな……あと数回試せば完璧に仕上がるか」
言うや否や獅子舞は無残にも頭部を撃ち抜かれて地面に崩れ墜ちた。
獅子舞が倒されて今度は巫女が扇を振りかぶる。消耗する味方に癒しの風を送ろうと舞殿から折り立とうとしていた。そうはさせまいと琴葉と銀仁朗が突入する。
「神聖な服で誘惑なんて……なんて哀れなの?」
だが、巫女はお構いなく大胆にも着物をはだけて誘惑してきた。それを見て銀仁朗が一瞬誘惑されかかったが、何とか琴葉の尻をガン見して思いとどまった。
「んー、確かにスタイル抜群みたいだが、揉み甲斐とかの『生』の部分がねぇのは何ともな――というか、琴葉以外の女に興味ねぇし!」
銀仁朗はスナイパーライフルで威嚇しながら接近していく。
間合いを見て巫女に飛びかかって羽交い絞めにしようとした。
「人を傷つける舞など、やらせるわけには!」
その瞬間に、征治も手助けしようとワイヤーを放って動きを封じようする。腕を絡め取られてさらに後ろから銀仁朗に抱きかかえられて巫女は身動きがとれなくなった。
「あたしがあなたに似合う格好にしてあげる」
妖艶に唇に手を当てながら延焼攻撃で火あぶりにした。
巫女の服だけが黒い煙を上げて燃え盛っていく。
「この時期はまだ乾燥するからよく燃えるわねぇ」
四方竹弓で腹部と顔を突きまくられた巫女は絶叫した。強烈な攻撃に耐えかねてついに巫女が膝からその場に無残にも崩れ墜ちる。
●
「お前、来るとこ間違ってるぜ。秋田に帰んな」
将太郎が挑発するとナマハゲが目を吊り上げて突進してきた。
猛烈な勢いで出刃包丁の二刀流で斬りかかってくる。咄嗟に将太朗は大鎌を振り抜く。
二つの出刃包丁の攻撃を大鎌で食い止めた。
刃同士が歯ぎしりの嫌な音を出す。
力では負けるつもりはなかった。
敵の猛烈な力にも負けずに大鎌で押し返す。
明斗は星の鎖を放った。無数の鎖がナマハゲの腕を絡め取る。
必死にもがいて抵抗するが接近してきた明斗の槍に付かれて弾き飛ばされた。
負傷してもなお立ちあがってくるナマハゲ。
流石に敵の中でもタフな方だった。
ナマハゲは今度は横に出刃包丁を寝かせて両サイドから斬り込んできた。将太郎は敵の攻撃を読んで上に跳んで交わした。隙が出来た所に烈風突を叩き込む。
敵は突き飛ばされて御神木に激突した。
それでもすぐに身体を起して出刃包丁を投げてきた。
「悪い子はお前だ、ナマハゲ! 正義の撃退士が懲らしめてやる」
飛んできた出刃包丁を大鎌で薙ぎ払った。
その瞬間に明斗が隙を見てサンダ―ブレードで斬りかかる。攻撃を受けてナマハゲは再び御神木に激突して動きを止めた。
丸腰になった敵の頭めがけて将太郎が斜め上から振り被る。
ナマハゲが絶叫しながら血を吹いて真っ二つに裂かれて地面に崩れ墜ちた。
「ちょっと! 実物をみてみたらやっぱりアウトだった! なんなのその恰好! バカじゃないの! バカじゃないの!」
タマモは突っ込んできた敵を見て軽いパニックになった。
福笑い男はタマモンを見るなり、社会の窓を全開にさせた。露わになった鞍馬天狗から臭いべとべとした液体をスプラッシュしてきたのである……。
「ちょっと! 変なのかけないでよ!!」
タマモンは背筋が震えた。
「うわあああああああ、やめろ、こっちにふりかけるな馬鹿!」
これには思わず将太郎や征治も仰け反った。あまりにもひどい攻撃にうかつに近づくことが――いや、近づきたくもなかった。
福笑いはタマモン目がけて抱きついてきた。
しきりに太股に鞍馬天狗をなすりつけようとしてくる。
「放して! この変態!!」
今生の危機を感じたタマモは福笑いを見つめてほほ笑んだ。
「福笑い男さん、放して。タマモのお☆ね☆が☆い」
福笑いが見惚れて動きを止めた。
その瞬間、隠れて潜んでいた黒百合が後ろから奇襲する。尻を突かれて福笑いは絶叫して振り返った。そこには不気味な笑みを浮かべる悪魔がいた。
「……小さいわねェ、鍛えてないじゃないのォ」
黒百合は思いっきり鞍馬天狗を蹴りあげた。
敵は悶絶した表情を浮かべて吹きとんだ。けれども容赦のない黒百合はなぜか鞍馬天狗に照準を合わせて集中攻撃をした。敵の顔が段々青ざめて行く……。
ついに福笑いはネビロスの糸で下半身を串刺しにされてしまった。
黒百合に散々踏みつぶされてなすがままに弄ばれる。後ろから銀仁朗が羽交い絞めにしたところに激ミニスカ天使がハサミを持ってやってきた。
「ジャキーン☆ お仕置きよ!」
タマモンはついに敵のアレを取って勝ち時を上げたのだった……。
●
「みんな怪我は大丈夫でしたか……?」
明斗が救急箱を持って仲間の元へと駆け寄った。
撃退士達はみんな多少の傷はあったものの大きな負傷はなかった。
境内の損害も最小限に食い止め、参拝客への被害もなかった。
すべて撃退士たちのおかげだった。
しかし、なぜかみんな放心したような顔をしていた。
どうやら精神的に来ていたようだった……。
「………」
「………」
将太郎や征治は無言で福笑いの遺した液体を綺麗に拭き掃除をしていた。
まるで何かを振り切るように黙々と作業している。
タマモに至ってはガビガビになったミニスカートに沈痛な顔をしていた。
「うっ、くさい……これ、落ちるんだろうか……?」
お気に入りの服を汚されてしまってどうしようかと途方に暮れている。
それでもようやく取りなおして参拝の続きを済ませた。
早く帰って風呂にでも入ろうとリンゴ飴を食べながら飛んで帰っていった。
「誘惑するならまだ娼婦の方が上手なものよね」
琴葉はそれだけを言い残して銀仁朗と共に帰って行った。二人は気を取り直して正月デートに行ったとのことである。
「キャハ、キャハ♪」
黒百合は戦利品のソレを摘まんでいた。
いったい何をするのだろうか――と誰もが思ったが結局怖くて聞けなかった。
彼女は楽しそうにソレを持って何処かへと消えて行った。