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「久遠駅伝」
No.30 撃退士チーム「久遠ヶ原学園」
出場者
第一区(20km):東正太郎
第二区(25km):六道 鈴音(
ja4192)
第三区(22km):ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
第四区(15km):月乃宮 恋音(
jb1221)
第五区(30Km):黒百合(
ja0422)
監督:雪室 チルル(
ja0220)
スタッフ:雫(
ja1894)
「最後に紹介するのはエントリーナンバー30、撃退士チーム『久遠ヶ原学園』です。初出場ということで何処まで健闘できるか楽しみですね」
「そうですね、他にも将来が楽しみなチームが今年は多いと思います。ですが、今回もやはり久原学院と帝王大学のどちらかが優勝するのではないでしょうか」
アナウンサーと解説者がちょうど全チームの紹介を終えたところだった。
正月の駅伝にふさわしい快晴。
沿道には多くのファンが詰めかけており、各チームの応援旗や華麗なチア達が懸命に母校の校歌や応援歌を歌って盛り上げていた。
「やべえ、緊張してきた……お腹が痛い……」
第一走者の東正太郎が見るからに青ざめて緊張していた。周りを見渡すとどの顔も自信に溢れたツワモノ揃いに思えた。
難病の子供に優勝すると言った約束が大きなプレッシャーとして圧し掛かる。画面の向こうで見ているかと思うとさらに緊張で身体が強張ってしまう。
「優勝するのも大事ですが、それ以上に優勝に向かって頑張り走り抜く姿を見せるのが重要なんだと思いますよ」
雫からアドバイスを受けて頬を何度も叩いて気合を入れる正太郎。
「きいたよ! 病気の男の子に『絶対に優勝する』って約束したんだってね。私、そういうの、良いと思う! 絶対優勝しようね!!」
「あっ、ブルマー神……」
背中を叩かれて後ろを振り返るとブルマー神の鈴音が光臨していた。彼女の白くてムチムチした太股を目の当たりにして正太郎は盛大に鼻血を噴き出して倒れる。
さっそく走ってもいないのに雫に介抱されてしまう始末……。その光景を見た周りのチームから失笑が漏れてしまった。
「やれやれ、棄権だけはとにかく勘弁してくれよ」
ラファルは溜息を吐きながら行く末を案じた。一応、義体の性能を確かめるという趣旨で参加していた。途中で正太郎がへばったら自分の出番が台無しである。
「まあ、それは、ともかく……力を合わせて……がんばりましょう……。
……えっと、む、むねが……その……きついで……す」
サラシをきつく巻きすぎたせいで苦しそうに恋音が言った。だが、サラシを巻いてもその巨大な風船が隠せるはずもなく周囲の注目を一身に浴びていた。
「あれで走れるのか……?」
その場に居たランナーの誰もが疑問に思った。
走ればまさに目に毒である。
「あたいが監督をやるからには、優勝以外ありえないわね!」
監督のチルルが試合前に全員を集めて叫んだ。円陣を組んで「ぜったいゆうしょおお」と叫んで気合を入れた。正太郎はみんなと離れて一区にスタート地点に行こうとする。
「くじけそうになったら、このお守りが君を守ってくれるわ」
鈴音が不意にお守りを持って近寄ってきた。
「これ、鈴音さんが……? 俺、もう死んでもいい」
「それじゃ、私は第二区のスタート地点で正太郎君が来るのを待ってるね」
颯爽と去って行く鈴音に咽びながら正太郎はお礼を叫んだ。
もっともそのお守りは学業成就のものだったが……。
「キャハ、キャハ、楽しそうな追いかけっこねェ……」
一際不気味な笑顔で呟いたのは黒百合だった。一見してひ弱ですぐにダウンしてしまいそうな彼女の体つきに同じ区の山の神・渡辺を始めとして全員が見くびっていた。
だが、この後、黒百合は新伝説を築くことになるとは誰も夢にも思わなかった……。
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スタートのピストルの合図がして一斉にランナーが飛び出す。すぐに外国人留学生を擁した久原学院大学がトップを独走し始めた。
集団が縦長になっていき、次第にトップ集団から脱落していく者が現れる。
撃退士チーム一走の正太郎はすでに最下位争いを演じていた。
くそっ、お腹がいたすぎる……もう息が……
五キロ付近ですでにバテ始めていた。
ひとつ前を走っているチームとの差がどんどん開き始める。
だめだ、苦し、棄権したい……
「気合入れろー! 病院の子供が見ているぞー!」
車に乗った監督チルルがブルマ姿で正太郎に叫んだ。
ああ、ブルマー、じゃなくて……このままでは子供たちが……
不意に沿道に居るはずのない難病の子供が見えた気がした。
実はこれは雫によって創造されたニセモノ。
次の瞬間、正太郎の表情に力が戻ってペースが上がった。ペースを上げ始めた正太郎に沿道からは大きな声援が送られる。
しかし、その効果も長くは続かなかった……。
十キロ付近で彼の体力はすでに限界に達したのである。
もうだめだ、しぬ、しぬ……
フラフラになって倒れ込みそうになった時だった。
「ここで引いたら、格好悪いと思いませんか?」
恋音が車の後部座席から身を乗り出していた。正太郎はそのあり得ない光景を見て一瞬目が釘付けになった。
車窓からおっぽいだけがはみ出している……。
「最後まで走って、私達と楽しく打ち上げしましょう?」
恋音が魅惑の言葉で誘ってきた。正太郎は妄想した。
俺以外は全員、美少女。すなわち、ハーレム……ふふふふふふ
勘違いした正太郎は息を吹き返す。
それから全力で足と手を振ってゴールまで限界を超えた走りを見せた。
ついにゴールが見えてくる。
正太郎の前方にブルマー神がいた。
「がんばれ正太郎君! もう少し! あとちょっとよ!」
よくがんばったわ! あとは任せといて!!」
正太郎は最後の気力を振りしぼってタスキを渡す。
そのまま勢いで鈴音に抱きつこうとしたが、彼女はもう背中を見せて走っていた。
鈴音に華麗に交されて地面に激突する正太郎……。
「さて、力を抜いて下さいね。疲れを残さない為に少し強めに行いますから」
すぐにタオルで体を包んだ。脹脛を中心にマッサージを行いケアを行う。スポーツドリンクを紙コップに入れて淵を少し尖らせて口に流し込み易くして飲ませた。
冷静に雫が介抱するがしばらく彼は起き上がれなかった。
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正太郎からタスキを受け取った鈴音は怒涛の快走を見せた。腕をおおきく振って長いブルマーから伸びた脚を懸命に動かして前に進む。
沿道から「うおおおおおおおおおお、りんねりんねブルマーりんね!!」
……という、大きいお兄さんの野太い声援が展開されていたが。
「その調子、その調子よ! どんどんスピードあげて!」
監督の言葉に乗せられるように鈴音がますますギアを上げて行く。ようやく半分を過ぎた所で最下位集団を捉えた。
そのまま一気に二人を置き去りにしていく。
ゴール地点で手を上げて待っているラファルにようやくタスキを繋ぐことができた。
「駅伝と言うのは初めてやるがうまくつないでやるぜー」
言うが否やラファルは快足を飛ばし始めた。
全身機械された義体特性を持つ彼女。
さらに身体はスレンダーで胸は凹んでいる。
「まるでマラソンをするために生まれてきた理想的な身体ですね」
解説者がそのように評したが、果たして彼女にとってそれは褒め言葉だったのだろうか?
それはともかく、彼女はカーブが多い難所で上手く身体を使って走った。
普通の走者なら躓きそうになる急斜面も涼しい顔をして突っ切っていく。あれよあれよという間にラファルは数人纏めてごぼう抜きをした。
ダントツの最下位を走っていた撃退士チームは二区と三区で十位近く順位を押し上げることに成功したのである。
驚異的なペースに沿道のファンからの声援も増え始めた。
途中で雫が用意した給水も難なくこなす。
「しんちょうにしんちょうに安全策でいこー!」
ラファルは監督の指示通り、それ以降は自分のペースを守ることに終始し、第四区で待ち構えている恋音へとタスキをバトンタッチした。
「凸凹コンビの凹から凸へと今、タスキが渡りました!」
興奮したアナウンサ―が舌をまくしたててそう叫んでいた。
ラファルは疲れて倒れそうになったが、笑顔でタオルを差し出してくる雫の姿を見て――なんとか踏みとどまった。
「…………ちっ」
なぜかタオルの下に鋭利な突起物が見えたが気のせいだろうか……。
その後、二人とも笑顔だったが、お互いに無言だったという。
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「えっ、なんだなんなんだあれは!?」
沿道のファンの歓声が突如として驚きに変わる。
ぼいん、ぼいん、ぼいん、ぼいん
激しく揺れまくっていた……
ぼいん、ぼいん、ぼいん、ぼいん、ぼいん
「……はぁ……はぁ……はぁ……」
規則正しいリズムとフォームで走る恋音。
頬赤らめて懸命に前を追いかける。
彼女が地面に足を付けるたびにそのスイカが上下にバウンドしていた。
「信じられない。なんだあれは!? ……人? いや、胸、巨大な胸が揺れています! 上下に激しくバウンドして顔が見えませえええええええん!!」
アナウンサーが信じられない光景マイクを片手に絶叫していた。
ぼいん、ぼいん、ぼいん、ぼよおおおおおん、びょおおおいおん
ばうんばうん、びょおおおおん、ぼいいいいいん、びょびょびょおおん!
ものすごい勢いで弾けまくっていた……。
恋音はついに前方を走る十数人の集団グループを捉えた。不意に後ろから不気味な気配を感じた一人が後ろを振り返って――その光景を目の当たりにした。
迫ってくるおっぱいの化け物におそれをなしてペースを乱した。彼が動揺している間に恋音はその横をするりとすり抜けて行く。
おっぱいが当って玉突き事故が起きた。
集団は恋音のおっぱいに弾かれるようにして後方へと消えた……。
「おそるべし、おっぱいブルドーザアアア! 最下位を争っていた撃退士チームがいつの間にか四区で十位までに押しあがってきたぞ、いったいどうなるんだ!?」
アナウンサーの絶叫がこだました。
しかし、すでに久原学院や帝王はこの時、すでに最終区にタスキが渡っていた。怒涛の走りを二区から見せたが撃退士チームはさすがに優勝争いは無理に思えた。
ペースを維持した恋音がようやく五区のゴール地点に顔、いや、おっぱいを見せたのは、それからしばらく経ってからのことである。
最終の第五区で待ち受けていたのは黒百合だった。
念入りな準備体操をしている。「きゃは、きゃは」と楽しそうに笑いながら、タスキを貰ったかと思うと――もうそこにはいなかった。
猛烈な走りに沿道のファンの誰もが声を失った。
「ト、ト、トラックとお友達だああああああああああああああああああああ!」
アナウンサー叫び過ぎてそのまま後ろの席にひっくり返った。
前を走っていたトラックとまるで並ぶようにして黒百合は走っていた。
「つ、ついに久学と帝王の背中を捉えたああああ!!」
目の前にトップ争いをしている帝王と久学が見えた。
怒涛の勢いで華黒百合は迫って行く。
帝王の山の神・渡辺はギアを上げて久学を突き放す機会を狙っていた。
今年は絶対に優勝しやる。今がチャンスだ――って、ええええええ!?
不意にその脇を猛スピードで駆け抜けて行く物体。
――ちょ、ちょ、ちょっとまってよ。ええ!?
山の神は茫然とソレを見送った。
「うふふふふゥ、皆ァ、悪いわねェ……たぶん私ィ、学園最速なのよねェ……きゃはァ♪」
彼女は涼しい笑みを浮かべて走っていた。
山登りを苦とせずに、突っ走る。
そのまま勢いを保ったままぶっちぎりでゴールのタスキのテープを切った。
「ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーール!!! 世紀に残る信じられない大逆転!!
撃退士チーム、久遠ヶ原学園の初優勝!! 大会新記録!!」
しかし、黒百合はそこがゴールと知らず、そのままゴールテープを突っ切って山を今度は降りて観光に行ってしまった……。
ゴール地点では車で先回りしていた正太郎が鈴音と抱きあって、さらに恋音と雫が駆け寄り、すぐそばでラファルがドヤ顔で仁王立ちして喜びを分け合った。
各チームのエースはその後、新・山の神黒百合のせいで強烈なトラウマを植え付けられたという……。
ちなみに勇気を貰った難病の少年は手術が成功したとのことだ。
「えっ、勝った要因はチームワーク? いいえ違うわ!
優勝したのは全部あたいのおかげ! あたいさいきょおおおおおー!!」
チルルは監督インタビューで自分を讃えていつまでも絶叫していた……。