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「えっと……。
私の年齢じゃ子供のフリはちょっと厳しいかも……でも!」
コートを着ている六道 鈴音(
ja4192)が何やらもじもじしながら、部屋に入ってきた。中に入るとすぐにバーンと上着を脱ぎ捨ててその場に仁王立ちする。
――ミニスカサンタ、だった。
「こんな美少女なら敵も絶対に見逃すはずはないわよね!」
あまりの迫力の凄さに後光が差していた……。
その白い陶器のように艶めかしくフランス産のミントの香りが漂ってきそうなはちきれんばかりのムチムチの際どすぎるあのツインテールの親友にも負けず劣らずのスーパーギリギリな短すぎるスカートの下から大胆に露わになった太股はこれ以上は言葉を尽くせない程のスーパーエクセレントでアンビリバボーな――(以下略)。
「夢をぶち壊す変態サンタなんてやっつけるですの!
あれ、でも今回参加の皆さんって――エリが最年少?」
周りのメンバーを見渡しながら神谷 愛莉(
jb5345)が呟いた。敵も思わず連れ去りたくなるような幼すぎる危ない容姿をしていた……。
「サンタさんにお願いする物も書いたのー」と早速はしゃぎ回る。
囮を頑張らなくてはならないと少し不安に思いながらも意気込みを見せた。
「子供たちの夢を壊すのは許せない。私は女子レスラーとして彼らを糾弾するよ」
腰まである長い髪をした桜庭愛(
jc1977)も同じく力を込めて語った。なぜか暖かい部屋にも拘わらず足元まで隠れるような長いワンピースを着ている。
プロレスラーっていったい何だ、とその場に居た仲間の誰もが疑問に思ったが、それ以上立ち入ってはいけないような気がしたので質問はできなかった。
部屋の中はすでにクリスマスイルミネーションに彩られていた。
部屋の真ん中には大きなクリスマス・ツリーが飾られており、願い事の書かれた紙の入った大きな靴下や色取り取りのランプで飾られていた。
長いテーブルにはたくさんのクリスマス料理が並べられている。お肉や野菜など色鮮やかな食事が用意されていてパーティの雰囲気が出来上がっていた。
「クリスマスといったらケーキよね! おいしい!」
ミニスカサンタに扮した鈴音はすでに興奮していた。並べられたケーキに真っ先に飛びついて包丁で切り刻んで食べていた。全部食べようとする鈴音に負けじと愛莉と愛も一緒になって自分の分のケーキを大きく取り分ける。
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「えーと……このディアボロは悪い子の所に来ると噂のブラックサンタか?」
一方で、外の木陰に隠れている西條 弥彦(
jb9624)があまりの寒さに震えていた。マスクとコートを着てじっと耐えるようにその場に座っている。
日本ではなまはげが来ることになっているから、来ていただかなくても結構なんだが……。 ……まぁ、冗談はともかく、倒すか、と――肝心の敵はまだ来ない。
「寒いだろう。飲まないか? オススメなんだ」
不意にホットミルクティーを持った薄氷 帝(
jc1947)が声を掛けてきた。
「サンキュー、助かった」
弥彦はマスクをずらしてすぐに封を切って飲んだ。身体の芯まで温まるほど美味しい。二人は仲良く一緒に身を寄せ合いながら敵の出現を待つ。
ずっと一緒に背中を合わせていると相手の体温が暖かく感じられた。なぜかずっとこうやって一緒にいたいような安心感を覚え始めた。
いや――なにを考えているんだ、俺……。
いかん、集中集中だ。
弥彦は必死にイケナイ何かの衝動と戦っていた時だった。
「おい、あれを見ろ――」
帝が夜空の一角を指した方向に怪しいサンタがいた。
ソリに乗ってこちらに向かってやってくる。なぜか大きな白い袋を積んでおり、中には大量の激臭の親父の靴下が入っていた。
「うぅ……うぅっ!?」
マスク越しでも臭うその凄まじさに弥彦は逃げ出したくなった。
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「サンタさん、はやくプレゼント持ってきてー……って、いやああああああ」
鈴音が窓の外を見て叫んでいた。
そこには同じく際どすぎるミニスカを履いたけむくじゃらのすね毛を晒す、ミニスカオジサンサンタが窓に顔をベタッと張り付かせていたのである。
鈴音はその潰れた顔のオジサンと目があって思わず悲鳴をあげてしまったのだった。
同じ衣装なのにどうしてこうも違うのだろう……。
鈴音はあまりの凄まじい敵の格好にしばらく茫然としてしまった。
ディアボロは次々に窓ガラスを叩き割って中に侵入しようとしてくる。ミニスカサンタに続いて男の子たちのヒーローである恵龍シュオン人形も登場した。
すぐに愛莉はストレイシオンを召喚して前線に行かせて防御させる。
敵は得意のビームサーベルを使ってきた。鋭い攻撃の連続に流石の愛莉も防戦一方となるがこのまま押し負けるわけにはいかなかった。
ストレイシオンと挟み打ちするように左右から波状攻撃をしかける。両方からの攻撃を防ぎきれずについに恵龍シュオン人形がサーベルを手放す。
恵龍シュオン人形はすぐにその場を逃げだした。
敵がベランダから飛び出して行った先に現れたのは帝だ。
「4対1は流石にな。相応の覚悟はしよう。だがそう簡単にはやられん。来い、ヒリュウ」
敵の姿を認めて帝は応援をすぐに呼んだ。
「さぁ、これで4対2だ。確実に貴様らの数を減らしていくとしよう」
ヒリュウとともに帝は後ろから敵の隙を狙って攻撃をしかけた。関節をやられた恵龍シュオン人形はついに動けなくなり、ヒリュウによって心臓部を食い破られて倒れた。
その間に愛が何やら衣服をその場で脱ぎ捨ててなぜか水着姿になっていた。
「むっ、私は女子レスラーですから、戦闘のときはプロレスの試合だと思ってこの試合水着になります!」
蒼いワンピース水着にリングシューズの出で立ちに、敵はともかく仲間の撃退士達も茫然とその場に立ち尽くした。
……動きやすさ重視ですし、私の名前を喧伝するにはいいと思うのですが?
愛がフォローを入れようとしたが、もはやだれも聞いている者はいなかった……。
ディアボロ達はすでに集結し始めていた。すぐにプロレスラーの愛がベランダから飛び出して行って、欄干から上にジャンプ――ミニスカサンタに向かってタックルを決めつけた。上からとび蹴りのタックルを食らって敵は悶絶する。
「子供たちの夢を壊すのは見過ごせません。私も子供たちの憧れになりたい女子プロレスの体現者――ここが正義の味方のデビュー戦です♪」
タックルから相手の頭を股に挟みこみ、逆さまに引っこ抜くように後頭部を床 に叩きつけた。脳震盪を起こした敵に愛莉が後ろから突っ込んで行ってトドメを刺す。
ミニスカサンタは悶絶したまま果ててしまった……。
KO勝ちに愛は戦場というリングの上で拳を突き上げた。
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仲間の恨みを晴らそうと今度はトナカイが鋭いエッジを利かせてきたが、そうはさせないと今度は愛莉が前に出る。召喚獣とともに防御しながら隙を見て稲妻を食らわせる。
トナカイは苦しみに雄叫びを上げた。
敵がもがき苦しんでいる所を狙って、弥彦は照準を構えた。
狙い澄ましあかのように射撃を浴びせる。自在に動き回りながらトナカイの行く手を阻み、さらに正面から攻撃されて敵は逃げる場がなかった。
トナカイはもがき苦しみながら地面へと倒れた。
しかし、残った敵もただ黙っているわけではない。
気持ち悪いストッキングを頭に被った赤いお鼻のサンタがついにやってきた。そのままジャンプしてベランダに侵入しようとしてくる。
「行儀の悪いサンタだなっ!」
木陰から飛びだして、後ろから帝がとび蹴りを後頭部に食らわす。
不意を突かれたディボアボロは欄干に頭を打ってそのまま地面へと墜ちた。起き上がると凄まじい怒りを顔に浮かべていた。すぐに臭い靴下を放ってくる。
帝と弥彦は飛んでくる靴下を必死になって避けた。
あんなものにあたったら……マジで危険だ……。
いつもよりもさらに真剣な表情をしながら間一髪の所で攻撃を交わす。
「背中は預ける」
帝と弥彦は背中合わせになって靴下を次々に跳ね返した。
息のあったコンビネーションに二人とも互いに頼もしさを覚えていた。
敵の攻撃が止んだ隙に今度は鈴音が前に出て突っ込んで行く。
「私の魅惑の太ももにつられてのこのこ出てきたわね。
飛んで火にいる冬のヘンタイども!」
鈴音が正気を取り戻すと、自分の太股をみせつけるように前に出た。一瞬、敵が眩しい鈴音の太股に目がくらんだ隙に神拳で赤鼻を弾き飛ばす。
鼻を押さえてもがき苦しみように敵は地面に倒れ込んだ。
最期の抵抗とばかりに臭い靴下を鈴音の目の前に掲げてくる。
「――臭いのは焼却よ! くらえ、六道呪炎煉獄!!」
恐れをなしてその場に動けなくなった赤鼻に容赦なく地獄の業火が襲った。
グォオオオオオオオオオオオオオオオオ――
世にも恐ろしい断末魔をあげてディアボロは地獄の底へと墜ちて行った。
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「――にしてもなんなんだ、この姿は。今時の空き巣でも、怪しまれないようにスーツを着ているというのに」
倒された敵を一瞥して、髪を掻きあげながらクールに帝は呟いた。
「流石に少々不快だな……。
目の保養に暖かい飲み物とおでんでも買って、夜景でも見に行かないか?」
しかし、女性陣は用があるとのことだった。
しかたなく帝は傍に居た弥彦に向かって提案する。
ちょっと迷ったが、弥彦はこくんと頷いた。
「俺も一緒にいきたい」
友情を深めた二人はそうして仲良く夜景を見に行った……とのことである。
一方で残った女性陣の方は――。
「夢を取り戻す為にも、撃退士の皆さんでサンタさんの恰好をしたイベントって出来ませんかね?」
愛莉は全ての戦闘が終わってそう呟いた。
ディアボロ達は臭い靴下をばら撒きながら無残に倒れていた。あまりに悲惨な現場に流石にこれはマズイということで鈴音と愛が居残って掃除していたのだった。
ようやく掃除を終えた愛莉が提案をする。
すでに避難していた子供たちが戻って来ていたのだった。
幸いにも部屋の中には囮用に用意したクリスマスパーティ一式が無事に残っている。
撃退士達はさっそく怖い思いをした子供達を呼んで一緒にパーティをすることにした。
「コレ、本物のサンタさんから。怖がらせてごめんねって」
鈴音はミニスカサンタ姿で訪ねて、男の子にお菓子を渡した。
「ありがとう、りんねお姉ちゃん――いや、ミニスカサンタさん。
僕が大きくなったら結婚してください!!」
まだ小さい男の子があまりの鈴音の可愛らしさにトキメイてしまったようだった。その後、男の子は欲しい物に「りんねさん」と書いたのは言うまでもない……。