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深夜の住宅街に「怪しい女」が歩いていた。
近辺をしきりにうろうろしているのは六道 鈴音(
ja4192)。彼女は無言で歩きながら何か大きい物を携えていた。
手に持つそれは大量の水の入ったバケツ。
「……………」
いったい彼女は何をしているのだろうか……?
何度も狭い道を往復するその姿はまるで不審者その者だった。
しかし、今宵の人気のない深夜に現れた不審者は彼女だけではなかったのである。
「魔法少女まじかるきのこだの★」
きのこ柄の魔法少女姿で突然、現れたのは橘 樹(
jb3833)。足元やスカートにあしらわれたリボンとフリル姿はまさに異様である。
両手に何故か毒キノコを持ちながら決めポーズで絶叫する。
ちなみに、樹はこう見えてもれっきとした男である……。
「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ! ボクを呼ぶ声がする!
そう、ボク参上!」
同じく決めポーズをして登場したのはイリス・レイバルド(
jb0442)。一見して身目麗しいまともそうな雰囲気を持っていたが次の台詞でぶち壊れた。
「ボクのハンマーがフルスイングだぜ!」
とても美少女が口にして言うような台詞ではなかった。
「こんにちわんこそば。蒔絵さん参上☆ 天使が光纏しますよー」
黒過ぎる天使、天願寺 蒔絵(
jc1646)が初っ端からアクセル全開で登場する。最初からテンションが高すぎる気がするが果たして最後までもつのだろうか……。
「ああ、やっぱりそなたは美しい……」
自分の姿にうっとりして恍惚の笑みを浮かべるのはミハイル・エッカート(
jb0544)。愛しい想いを密かに寄せるあの彼女の姿に変化の術で成り切っていた。
ブロンドの髪に端正な容姿をしたスタイル抜群の美女。
彼は今すぐこの場で全ての服を脱ぎ捨てて自由になりたい、という欲望と必死になって戦っていた。「さ、触るのは……別に、いいよな? 自分の身体だし……」
もじもじしながら頬あからめる女体男は――まさしくヘンタイである。
「キャハア、キャハア、キャハア♪」
そのすぐ傍を黒百合(
ja0422)が不気味すぎる笑みを浮かべて通り過ぎる。肩から大きなスピーカーを担ぎながら何やら楽しそうに飛び跳ねていた。
「おやじギャグ……苦手だけど、やるしかない……?」
Spica=Virgia=Azlight(
ja8786)は思わずため息をついた。敵であるディアボロよりももしかしたら変態度が高い仲間たちの危なすぎる姿に――。
自分がこの人たちと仲間だと思われたら嫌だという気持ちと、依頼の為に頑張って親父ギャグを連発しなければならないという究極のジレンマに悩まされていたのだった……。
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きゃあああああああああああ!!
不意に暗闇の何処からか叫び声がした。マンホールの中から怪しい笑みを浮かべた頭からストッキングを被った親父が飛び出してきたのである。
塀の上から蛍光色タイツが颯爽と飛び出し、さらには電柱の陰から赤タイツ親父、さらには雑木林の向こうから緑の太ったタヌキ親父が登場した。
脛からはみ出した剛毛に思わず、スピカも叫ばざるを得なかったのである。
ニヤリと三日月形に口元を歪ませる蛍光色タイツが迫ってきた。
黒百合が怪しい笑みを浮かべてスピカ―から爆音を流す。
「缶汁飲んだら何か感じる……●行為が☆×▽、う●ちのうんちく」
あまりに下品すぎるギャグを冒頭からスピーカで大音量でぶっ放す。危険すぎるのですぐに自主規制が入った……。これにはディアボロではなく、逆に、仲間が参ってしまって動けなくなる……始末だった、ギャグだけに。
「ミハイルさん、敵が来ました! はやくアレを!」
蒔絵が気を取り直して、すぐにミハイルを呼ぶ。
まってましたとばかりに、携帯品を取り出して蒔絵とイリスに渡そうとする。
「はい、約束していたきのこ☆……って、なわけねええええええええ!!」
ミハイルは開始早々、渾身のギャグをかましていた。
入れたはずなのに入っていなかった……。
よい子の皆は、忘れ物しないようにちゃんと確かめてね、てへ☆
何故か樹に代わりに差し出されたきのこを持って叫ぶ。
一方で、ブロンド美女のウィンクに蛍光色親父は悶絶していた。
実は、ギャグではなくて本気で忘れたとは口が裂けてもいえなかった……。
ミハイルのギャグによって敵を足止めをしている隙に他の仲間たちが到着してくる。ディアボロもずっこけていたが、すぐに身体を起して立ち直った。
「猫が寝転んだー! コタツから出るのがコタァツらい!
いつまでもトマットないで落ち着きなよー。 スキーはおスキーですかー」
仲間の危機にギャグを連発して応戦するイリス。怒涛の寒い親父ギャグに敵も一瞬、動きを止めた。あまりに寒過ぎて苦しみ悶えているのだろうか。
しかし、ディアボロは何事もなかったようにイリスの脇を通り過ぎる。
「えっ、そこはスル―!? あえてスル―なの!?」
どうやら黒タイツは笑いに厳しいらしかった……。なぜか同情の憐みの視線を送ってきたように見えたが、気のせいだろうか。
しかし、不意をついてディアボロは攻撃してきた。
「隣の家に囲いが出来たってね。
防壁陣(ブロック)! ……あれ、これは小話だっけ?」
自分のギャグが受けなかったことが許せないイリスは今度は小話で対抗し、怒りにまかせて、上空から思いっきり頭から叩きこんで地面にめり込ませた。
「出たわねヘンタイ!」
赤タイツ親父の姿を見た瞬間、彼女はなんとバケツを上に翳す。
バシャアアアアアア、と思いっきり頭から冷水を被った。
「美少女が、ビッショビショ!!」
仁王立ちになりながら鈴音は真剣な表情で言い放つ。
身体を張った渾身の親父ギャグにその場にいた誰もが瞬間、凍りついた。
「そんな真っ赤っかの格好して、カッカしないでよね」
蒔絵が鈴音を手助けするためにすかさずフォローを入れたが、やはり空気は凍りついたままだった。
寒い、あまりに寒すぎる……。しかもこんなに寒いのに冷水を頭から被っている。誰もが鈴音の行為に呆れかえってしまった時だ。
ディアボロは崩れ墜ちるようにその場にしゃがみ込んだ。鈴音の身体を張った渾身のギャグが効果を発揮した――と誰もがそう思った。
赤タイツ親父は喜んで鈴音の被った水を掬って美味しそうに飲んでいた。
「……………」
あまりの奇怪な光景に思わず鈴音も怖気が走った。そのまま赤いタイツが水を飲んでいる隙に上から思いっきり炎の呪符を叩きつける。
「ビショビショ美少女の私に萌え死になさい! 炎だけに!! 萌え〜」
赤タイツ親父は鈴音の炎にまるで萌えるようにして消し炭になってしまった。
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赤タイツが登場早々にやられたのを見て緑のタヌキ親父が躍り出す。
ダルマのような太っ腹で樹にタックルをしてくる。肉厚の腹に囲まれてドーマセンマン押しつぶされそうになった。
「ぬおおお近寄るんじゃないの! わしそんなシュミはないんだのおおおお!」
必死に抵抗するが、緑親父もなかなか手放さそうとしない。
気持ち悪い親父に押しつぶされるのは御免だとその瞬間、ギャグを絶叫した。
「マグロのまっくろな目ってま〜グロいんだの!」
のこのこきのこ生きのこったんだの!」
きのこを振りかざしながら絶叫すると、緑親父が悶え苦しみ始めた。その隙に樹は足をからめとって敵を盛大に転ばすことに成功する。
「いいヅラ買ったの……言いづらかったの……?」
緑親父のストッキングを被った頭に向かってスピカも親父ギャグを言い放つ。あまりの寒いギャグの連発に、緑親父は青い顔をして蹲るのだった……。
「緑……厄介者は消して、クリーンにする……」
スピカは気持ち悪い緑タイツ男を狙撃で蜂の巣にして倒した。
不意に蛍光色がもじゃ毛を毟り始めてミハイルに投げつける。
あまりの最悪な攻撃にミハイルは動けなかった、いや動かなかった。
凄まじい針の攻撃の美女に変身していたミハイルの服装はびりびりにやぶけた。そのまま壁の向こうに大の字に磔にされてしまう。
なぜか攻撃を受けたミハイルはきのこを持ったままうっとりしている。
まるでこのまま身ぐるみ剥がしてくれといわんばかりだった。しかし、肌に突き刺さって痛みを覚えたミハイルはようやく我に返る。
「いいかよく聞ケープタウン。この服はどいつんだ? おらんだ!」
見た目は美女、中身はアラサー親父の本領発揮だった。寒すぎるギャグを発して、ミハイルは危機を乗り越えようとしたが――。
蛍光色親父は頭に被ったストッキングをミハイルの頭に被せた。
親父ギャグに親父ギャグで返す、ディアボロ親父……。
「コーディネートは、こーでねーとって……?」
思わず、スピカが呟いた。
だれが上手いこといえと言った!?
絶妙のタイミングでギャグを放ったスピカに、ミハイルは大声でツッコもうとしたが、あいにくストッキングで口を塞がれ喋れない。
必死に身体をもがいて逃れようとするが、ミハイルは頭にストッキングを被ったまま動けなかった……。
「誰か助けローマ!」
ミハイルの心の悲痛な叫び声が通じたのか、蒔絵が間に割って入る。蛍光色の背後からそっと近づいて渾身の一撃を後頭部に食らわした。
「もう! 変なとこ攻撃するから、ラブレターがやぶれたー。
後頭部に攻撃。高等部生だからね! ディアボロがボロボロー」
蒔絵が蛍光色を怒涛の攻撃で完全に薙ぎ倒した。
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「はっくしょん!!」
鈴音がくちゃみを連発していた。無理もない。真冬に冷水を頭から被る美少女が一体どこにいるというのだろうか……。
早く帰らないと風邪を引いてしまうとばかりに美少女……ビショ女は戦場を後にする。
全てのディアボロが倒されたと誰もが思っていた。
しかし、不意に倒れていたはずの黒タイツ男が立ちあがる。あろうことか磔にされているミハイルの上に乗っかって襲いかかった。
黒タイツは気絶していただけだった……。
突然のことに前が見えず恐怖に陥るミハイル。ディアボロは美女だと勘違いしていた。襲われたミハイルは貞操の危機に絶叫する。
もみくちゃになるストッキング女体きのこ男とヘンタイ親父ディアボロ。
敵はしきりに自慢のケツでミハイルを攻撃しようとしてきた。
この姿をもし「彼女」に見られたら夢でなくとも現実でフラれしてしまうだろう……。
「――痛いって言いたいの?」
蒔絵が突っ込んだ。
「ミハイル殿と戦うとわしも身入るの!」
樹もミハイルの憐れな姿にうっとりしていた。
「モザイクが怖くて平和は守れないんだの!」
見惚れてしまって、すでに仲間達は助けにいくことを忘れてしまっている。樹に至っては興奮してしまって自分でも何をしゃべっているのかわからない。
ミハイルはようやく服を破り捨てて壁から脱出した。
「この野郎! てめぇだけは絶対に許せん!
俺の暴れるマグナムをお前のケツにぶち込んでやる!!」
迫りくる貞操の危機にミハイルは怒りを爆発させた。上から覆いかぶさってくるディアボロのケツに怒りの波状攻撃をぶちまける。
その瞬間、ディアボロはケツを裂かれて爆発した。
「ミハイルさん、そいつは蛍光色じゃなくて黒タイツ!!」
スピカが気づいて叫んだ。
目隠しされさらに怒りで我を忘れたミハイルは蛍光色と黒タイツを間違えていた。
臭い屁を放つ黒タイツのケツにマグナムを至近距離からぶち込めばどうなるか――
うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ
誰かの悲痛な絶叫が夜の町に響き渡る。その悪夢から逃れるように彼はストッキングを頭に被ったまま何処か深い暗闇の彼方へと姿を消した。
「もう知らん」
あまりの酷さにイリスは鼻を押さえてその場をすぐに去る。
「……ウ●チかい? うん、近い……」
キャハア♪……と、楽しそうに黒百合だけが彼の後を追いかけて行った。