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「いや、うん、えー、……なにこの、なに?」
現場に駆けた笹鳴 十一(
ja0101)が真っ青の顔で戸惑っていた。目の前で繰り広げられるそのあまりの惨状に思わず言葉を失ったのだった。
朝の通学路で公然といちゃつき始める男女のカップル――
そして、あまりに激しく濃厚に絡みあっているホモカップルの姿に。
「変わったディアボロもいるんだな……。
だが、ディアボロは倒さなくてはいけない……」
どこから突っ込んでいいのかわからないという表情で御剣 正宗(
jc1380)が嘆息する。見た目は可憐だがれっきとした男である。先ほどから周りを取り囲む学生たちが怪しい笑みを浮かべて正宗のことを熱い眼差しで見ていた。
いったい彼らは何を想像、期待しているのだろうか?
「うわあ、俺……久しぶりに心が、折れそうだぜ……」
そっと目を反らしたのはミハイル・エッカート(
jb0544)。サングラスを掛けていてもその光景はあまりに強烈。目の奥まで染みてくるようだ。脳裏には以前、異様な女装マッチョホモに迫られたあまりに辛い過去の苦い記憶が蘇ってくる。
なぜか嫌な汗が先ほどから流れている。
果たして俺は今回、無事に依頼をこなせるのだろうか……。
「人前でなんてヘンタイさんです! いけないのです!」
きゃあああ、と慌てて両手で顔を抑えたのはマリー・ゴールド(
jc1045)である。
大人の豊満なわがままボディとは裏腹に彼女は可憐な純情乙女。
“秘め事はベッドの中で”とマナーをしっかり母親から教育されてきたのである。ディアボロだとは言えマナー違反には腹を立てていた。
「破廉恥! 破廉恥です!
おっ、おとっ、男同士なんてっ、不健全! 破廉恥! シネッ!」
先ほどから興奮して叫んでいるのはアルティミシア(
jc1611)。彼女に至ってはもうすでに頭に血が上ってしまい冷静さを失っていた。
ディアボロの行為はだんだんとエスカレートしてきていた。このままではいろんな意味で危なさすぎる。さすがにこれ以上の蛮行は許すわけにはいかない。
ただ一人、冷静に状況を見ていた逢見仙也(
jc1616)が動き出し、まずは大量に周りを取り囲んでいる学生たちを空から乗り越えて行こうと提案する。
野次馬達を傷つけずにいち早く敵の元まで辿りつける素晴らしい作戦のはずだ。
「こんなに周りに人がいたら、危ないよ。なんとかしないと」
しかし、草薙 タマモ(
jb4234)のスカートは――
激ミニスカートだったのである。
彼女がふわりと飛び上がって野次馬達の上を飛んだらどうなるだろうか?
「あっ……あれは――」
星を見る人、いや――パンツを見る人、仁良井 叶伊(
ja0618)が不意に顔をあげた。
そこにはタマモンのスカートの中身が――。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
その瞬間、見上げた野次馬達が一斉に鼻血を噴き出して倒れる。図らずもタマモンが空を無防備に飛んだことによって人を引き付けることに成功したのだ!
「お前達! 彼氏彼女がいないコもいるんだよ!
そんなにみせつけたらかわいそうでしょっ!」
自分でとんでもないものを見せつけておいて何を言っているのだろうかこの人は。
――おそるべし、タマモン。
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「はいはい、ごめんね〜通るよ〜」
あえて何事もなかったかのように野次馬達を掻き分けて避難誘導する十一。こうしていないと心が平生を保てそうになかった。まるで修行僧のように無心になって、必死で歯を食いしばった。正宗と協力して野次馬達をその場から引きはがして行く。
仙也も自分にオーラーを纏って一般人を惹きつけた。直ぐさま正宗達が作った逃げ道に次々に学生たちを誘導させる。
タマモたちのせいでせっかくのギャラリーを取られてしまった男女カップルが二手に分かれて左右から同時攻撃を繰り出してくる。
「はっ!? 俺は――いったい、何をみていたんだ?」
数秒、空を見上げて固まっていた叶伊がようやく我に返る。敵の攻撃から味方を守るように前線に立ちはだかってガードをする。
男が壁ドンをしてきた。だが、あまりに叶伊がでか過ぎた。
叶伊が渾身のジャンプアッパーを叩きつけて男をニライカナイまで吹き飛ばす。
……危ない所だった。叶伊は何かを振り切るように無心で反撃をする。いつものように味方の巨大な壁になりながら煩悩を振り切るように敵に対峙する。
戦場はすでに乱戦に突入していた。その中心にいるのはアルティミシアである。戦闘が始まってすぐに真ん中で銃をもの凄い勢いでぶっ放し始めていた。
「破廉恥! 破廉恥! 穢らわしいものを、ボクに見せるな!」
喚きながらホモカップルに突っ込んで行くアルティミシア。
女の方がまるで挑発するように両手でスカートの裾を持ち上げる。正宗はあまりの光景に必死に誘惑に耐えようとしたが、やはりダメだった……。隙を突かれて攻撃を食らって後ろに後退する。盛大にめくれ上がったその光景を目の当たりにして今度はマリーが怒りくるった。
「ワザと見せようなんてはしたないのです!」
男女カップルに目がけて遠距離から魔法攻撃をしかける。戦闘服は胸の谷間もスカートも短く太ももも顕な為ディアボロより刺激的だった。攻撃を受けた女の方が壁に激しく激突してぶっ倒れた。そこへ叶伊が全速力で飛びこむと、一瞬で魔具に手を掛けて得物を振り下ろしていた。
刹那の攻撃に女が絶叫しながらその場に無残に崩れ落ちる。その光景を見ていたカップルの男の方がフィアンセを失った怒りの声をあげて猛攻をしかけてきた。
男の方が胸をはだけながら迫ってくる。
あまりの濃い胸毛に流石のマリーも背中に怖気が走った。
純情可憐な乙女になんてことを!
「弱いものいじめは許さないです!」
さらに全身全霊を込めて魔法攻撃で敵の顔面に攻撃を炸裂させた。後ろに吹き飛んだ所をすかさず正宗が渾身の一撃で後頭部を殴りつけた。
男は悲鳴を上げながらその場に突っ伏して動けなくなる。
あまりの決死の形相に仲間であるはずのミハイルも若干引き気味になっていた。
そうこうしていると、ホモのキスのハートビームが飛んでくる。
あまりの危なすぎる攻撃にミハイルが決死に跳んで交わした。
あれにあたったら、肉体的にも精神的にも危ないぞ……。
反撃の機会を伺ってミハイルは狙いを定めて撃ち放つ。流石のホモカップルも満足にいちゃいちゃすることが出来なくなって怒りを露わにした。
フルパワーで腰を低くしてタックルをしてくる。
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「なんだこいつら……見た目ギャグテイストなのに微妙に強くね?」
十一が困惑して呟いた。
敵は一心同体の正真正銘のホモカップルである。互いに手を取り合い、呼吸の合った攻撃を繰り出してくる。
さらに困ったことに倒しても倒しても起き上がってくるのだ。
さすがにタフである。どんなハードなセめも慣れているかのようだ。まるで攻撃するたびにもっともっと攻めてほしいばかりに突っ込んでくる。
あまりの敵のタフさに困惑した時だった。不意に足を取られて倒されてしまう。重い体重で上から押しつぶされそうになった。
雁字搦めに体に抱きつかれてしまい、逃げようとするが体が動かない。
「いやいやいやいやいやいやいやいや! いやあああああああああああああああああ!!」
十一が言葉にならない叫びをした。敵の手がぞわぞろわと下から迫って来て危機を感じた十一が必死に抵抗して暴れる。このままでは貞操の危機である。
「俺は、学園の荒行に耐えてきたんだ。ホモの一匹や二匹、怖くないぜぇぇぇぇーー!」
仲間を助けようとミハイルが代わりに突っ込んでいった。
不意にディアボロは十一を離して蹴り飛ばした。代わりに飛び込んできたミハイルの両手をがっちりとホールドしてしまう。
「……えっ?」
どうやらディアボロは、ミハイルの方が好みだったようだ。渋いイケメンサングラスに萌えてしまったホモカップルは舌舐めずりをする。
蹴りを入れて脱出を試みるがそれでもディアボロは手を離さない。
「そんな、ミハイルさんも、そんな趣味だなんて……」
顔を手で覆って指の間からしっかり確認するマリー。顔を赤らめながら何故か木陰から唾を飲み込んでその光景を見守る。実はやっぱりこういう趣味だったのだろうか……?
屈強なホモカップルの合間にミハイルが挟みこまれていた……。
ちがぞ、ちがうぞ、俺はほもじゃなあああああい!!
ミハイルの貞操がホモについに奪われてしまうと思ったその時だった。
「そこまでよ、タマモビィイーーーーーーーム!!」
その瞬間、タマモが攻撃を繰り出していた。まともに攻撃を食らったディアボロがその場に動けなくなってしまう。その隙に、ミハイルは辛くも十一に助けだされた。
人質がいなくなってアルティミシアが再び銃口を敵に向けた。
今度こそ容赦なく敵の心臓目がけて弾丸をぶっ放す。
「はー、はぁー、サーチ、ロック、デストロイ、サーチ、ロック、デストロイ、サーチ、ロック……」
ぶつぶつ呟きながら体力の限界まで攻撃を続けるアルティミシア。彼女の怨念のような攻撃にさすがの敵も落ちた。片方のホモが倒れた味方を置いて逃げようとした。
「石化した相方を見捨てるなんて、本当の愛があるなら不可能なはず!!
さぁ、二人もまとめておしおきよ!!」
逃げようとしたホモの背中にタマモの一撃が炸裂する。地面に無残にも転がって動けなくなった所を回復したミハイルが怒りの形相で至近距離から銃を乱射して粉々に粉砕した……。
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「大丈夫だったですか? 怪我は無かったですか?」
マリーが戦闘後、すぐさま学生の元へ言って手当てをする。幸いにも擦り傷程度で大きなけがをした者は誰も居なかった。
仙也や正宗たちが迅速に避難誘導をした御蔭で一般人に被害はなくて済んだのだった。
倒れたディアボロはなぜか執拗なまでに破壊されていた。
「良いですか? そもそも恋愛とは、愛し合う男女が、健全に愛を育み、然るべき後に段階を踏んで……」
アルティミシアが潰れたディアボロに延々と説教をしている。もうすでにディアボロは聞き耳をまったく持っていなかったが……。
叶伊は無言でその場をすでに去っていた。
戦闘中に空を見あげていたことに関して彼はそれ以後、何も語らなかったらしい。
「そういえば、皆早く学校に行かないと、遅刻しちゃうよ!!」
タマモは時計を見て皆に叫んでいた。
すでに一時間目は始まっていたのだった。
慌ててカバンを持って急いで学生たちが学校に向かっていく。
「なんか……疲れたよ、どっと」
溜息交じりに十一が心の底から声を振り絞る。思いだしただけで体が震えてきた。
だが、それ以上に動揺していたのはミハイルだった。
「ちなみに俺はノーマルだ。そっちの気は無い。
恋人を作らないのであって、出来ないわけじゃない――」
怪しい眼差しで見てくる学生たちに必死に言い訳をするミハイル。
……完全に誤解されていた。
しまいには見ていた男子学生からラブレターまで貰う始末である。男子学生のファンに追いかけられるようにしてミハイルは一目散に逃げ去って行った。