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闇に輝く金属バッド。
怪しい月の光が凶器を照らし出す。辺りは深い森に包まれていた。時折、獣の遠吠えが何処からか聞こえてくる。道案内の為に先に洋館の前で待っていた役人が震えあがる。
黒い大きな薄気味悪いシルエット。
握り締めたバッドを手に深い森の奥から藪を掻き分ける物音。
あまりの恐怖で役人達が悲鳴をあげた時だった。
「蝋人形なんて、私の金属バッドでぐちゃぐちゃにしてやるわよ」
金属バッドを片手に登場したのは六道 鈴音(
ja4192)。
いつもの可憐な美少女じゃなかった……。金属バッドを持って目をギラつかせているその姿はまさに女番長。夜風が吹いてきて鈴音は勇ましく長い髪を掻き上げる。
仁王立ちして洋館の玄関を睨みつけていた。あまりの威圧感に出迎えた役人たちがその場で立ちすくむ。その後ろから複数人の影のシルエットが現れた。
同じく金属バッドを肩に乗せたエルム(
ja6475)。ショートカットより少し長い銀髪に褐色の肌が魅力的な美少女である。
二人の金属バッド少女に役人たちは震えあがる。
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「いったい何だ、この人たちは……ふ、不良か?」
その光景はあまりに物騒だった。
もちろん、二人とも他意はない。ただ鏡を割りにきただけである。
「合わせ鏡の部屋ですか。
私の美貌が辺り一面に映し出される様は、さぞ神秘的で美しい光景でしょうね」
不意に横から不敵な笑みを浮かべたクリスティーナ アップルトン(
ja9941)が神の光臨のごとく月の光をバックに登場する。
役人たちは一転して感嘆の声をあげた。
あまりにも美しい。まるでこの世に光臨した女神。
今までの一生で見たことのない美女が目の前にいたから無理もない。
「合わせ鏡の間って、床も鏡なのかなぁ。
スカートで来ちゃったよぉ。暗いから、平気かな?」
甘い声音で眉毛を顰めて口元に手をあてるのは天使の草薙 タマモ(
jb4234)だった。物凄く短いスカートである。
大事なことなのでもう一度強調しよう。ものすごく、である。
思わず役人たちも唾を飲み込んだ。
言葉で言うがちっとも困った様子は見せず何故かその場をくるくると回る。そのたびにスカートの裾がぎりぎりの角度で翻って目に毒だった。
鈴音&ゆかいな仲間達はなぜか円陣を組んでいた。互いに肩に手をまわして鈴音が声をかけると皆で一斉に「喝!」と気合を入れる。なんでこんなに仲がいいんだろう……?
「夜の廃墟で、蝋人形に騎士鎧って、もう完全に肝試し状態ですよね……。
うぅー、ちょっと怖いですが、大丈夫。
相手は幽霊じゃなくてディアボロなんですから。
でも、さっさと倒してみんなで早くかえりましょう」
背が高くて髪が長い、泣きぼくろが印象的なRehni Nam(
ja5283)が口を開ける。傍にいた役人たちを見つけてニコリと笑顔を見せた。
優しい言葉を掛けられて役人たちも安心する。会釈を澄ませてようやく一行は豪奢な洋館建の玄関の中へと入っていった。
「頑張れ〜タマモン!!!」
後ろから熱狂的な応援が聞こえてきたが、タマモは困惑しながら頭を抱えた。
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豪奢なシャンデリアが天井からぶら下がっている。床には赤い絨毯が敷かれていた。部屋には長年溜まった埃やゴミが散乱している。大きな螺旋階段が二階へと続いていた。上を見上げると吹き抜けになっていて高い二階の天井が覗いている。
鈴音&ゆかいな仲間たちが慎重に辺りを伺いながら前へと進んで行く。壁の箪笥の上にはいくつも船来賓の貴重品が置かれていた。
それと並ぶようにして怪しい蝋人形がいくつもうつろな目を見せている。
「なんかお化けがでそうだよねぇ」
思わず、タマモは身震いしたが、周りの仲間を見て安堵した。
仲の良い友達が一緒でいつもの依頼以上に心強かった。
だが、短いスカートは全くもって心もとなかったが……。
「あれ、じゃない? Rehniも準備は大丈夫?」
鈴音が真正面に大きな扉を見つけた。どうやらあれが噂の部屋らしい。ゆかいな仲間達はいつになく真剣な表情で戦闘態勢に入っている。もちろん、歴戦のRehniも先ほどまでとは顔つきがまるで変わっていた。
「いくわよ!」と同時に一行が中になだれ込む。
四方八方が鏡張りの間だった。その中央で怪しい蝋人形の集団と鎧兜を被った騎士が凶器の剣を持ってすでに待ち構えていた。
「きゃああ、スカートの中がみえちゃう!」
思わず、タマモがスカートを抑えたその時だった。
口を大きく開けて大量の炎を撒き散らしてくる。逃げる撃退士を追いかけるように蝋人形達は集団で攻撃を一気にしかけてきたのだった。
どうやら敵はタマモの短いスカートを狙っているらしかった……。
動きながら鏡の力を使って敵をかく乱させようとする。
だが、撃退士達は惑わされなかった。
「その手には乗らないわよ」
鈴音とエルムは咄嗟に攻撃すると見せかけて鏡に向かって金属バッドを振りかぶる。立て続けに鈍い音がして鏡にひびが入った。
これでは本物と偽物の区別が容易になってしまう。蝋人形達は明らかに眉間に皺を寄せて厳しい表情をした。おまけに夜であるため、鏡が思った以上に効果を出せない。
仕方なく敵は一気に攻撃を仕掛けた。
急襲を受けたエルムに鈴音が庇って入る。鞭攻撃を仕掛けられたが、鈴音が必死に頑張って耐えたのでエルムは無事だった。
タマモがやってきてすぐに棘鞭をフラーウムで切断する。
助け出された鈴音は大切な仲間を狙ってきた敵が許せなかった。
「タイミング合わせて……いくわよ。くらえ、六道赤龍覇!!」
「ディアボロども、切り刻んであげるわ」
エルムと鈴音は一斉に声を張り上げた。猛スピードで突っ込んでくるエルムの刃に流石に敵は悲鳴をあげた。さらに鈴音の炎が敵を容赦なく巻きこむ。
同時に攻撃を食らった蝋人形はなすすべもなくその場に崩れ墜ちた。
生き残った別の敵がついに棘の付いた鞭を出して反撃をしようと方向転換してきた。狙いは短いスカートをたなびかせているタマモである。
床すれすれに顔を近づけたオジサン蝋人形がにやにやして迫ってきた。
「きゃあああ! どこ見てるのエッチ!!!!!」
タマモはおぞましい鞭を持った敵に悲鳴をあげた。
「Rehniさん、いきますわよ!」
道が出来た隙にクリスとRehniは鎧騎士に向かって一気に迫っていく。スピードを生かして鎧騎士は素早く天井を移動しながら楯で器用に攻撃を防いだ。
クリスの猛攻に楯で受け止めるが防戦一方でなかなか動くことが出来ない。おまけに背後からは挟み打ちをしてRehniがいた。
二人は天井を素早く動く敵に必死に付いていく。両手を広げて舞い上がる気の砂塵で鎧騎士を攻撃した。楯で防ぎきれずに騎士は壁に激突した。
ついに騎士は部屋の四隅へと追い込まれる。
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「そんな攻撃、私には当たりませーん!」
気持ち悪い顔に目がけてタマモは強烈なキックをお見舞いする。その瞬間に盛大に短いスカートが翻ったが、気にしない。
「蝋にムチって……なんかエッチじゃない?」
タマモはもう一発食らわせようと敵に向かって迫る。敵は思わず後退しようとしたが、敵の背後に回り込んでエルムが逃げることを許さない。
タマモとエルムのコンビは非常に呼吸が合っていた。
お互いがしたいことが手に取るようにわかる。
不意に二人が目を合わせたその時だ。
「蝋人形さん、コンバンワー。私のお願い、きいてくれるかな?」
タマモが怪しい魔性の笑みを浮かべた。それを見た蝋人形たちが急におかしくなって互いに攻撃を繰り出し始めた。一体が倒されて動かなくなる。
同志討ちで、仲間を倒して立っていた片方の敵をエルムが見逃さない。
「いきます。秘剣・翡翠!!」
一瞬の早業だった。
エルムが剣を振り抜いて鮮やかに振るった時――
ディアボロは胸を貫かれていた。
壁に激突した蝋人形は体を真っ二つに裂かれてそのまま息絶えた。
蝋人形がすべてやられてしまった鎧騎士は攻勢を強めてきた。
剣を素早く振り回しながらそれ以上、撃退士達を近づけさえない。鎧騎士は反撃して四隅からなんとか脱出を試みようとしてきた。
「まずは機動力を削ぐのですわ」
クリスは鎧騎士の脚の関節を狙った。
両足を鋭く抉られた敵はうめきをあげながらその場に崩れる。
Rehniは、敵の腕を攻撃して楯を落とすことに成功した。さらに他の味方を攻撃させないように全力で前に詰めて敵の動きを完全に封じ込める。
敵を倒した鈴音やタマモ、エルムが合流して一気に火力を投じた。
「私の剣、受けてみるがいい。我流・燕返し!!」
斬られた鎧騎士が宙に舞って地面に叩きつけられる。
「お待たせ、クリスさん。私が来たからにはもう大丈夫よ!」
終わりよ! 六道呪炎煉獄!!」
そこに容赦なく鈴音の灼熱の次号の業火が燃え広がった。
「悪いナイトには、真っ黒なバラがお似合いよ!」
防御が高くても、毒だったら!」
タマモたちの怒涛の攻撃についに敵が音を上げた。
固かった鎧に罅が割れて敵の防御力が弱体化した瞬間。
「そろそろ本気で行きますわ!
星屑の海に沈みなさい。スターダスト・イリュージョン!!」
クリスの武器に込められた渾身のエネルギーが一閃した。
鎧騎士は華麗なるクリスの一瞬の斬撃に切り刻まれて首を落とした。
そのまま足元の割れた鏡の間に伏して動かなくなった。
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「――みんな、怪我は?」
残敵がいないことを確認したエルムがすぐに救急箱を持って走る。
鈴音が少し怪我をしていたようだったが、すぐに処置をした御蔭で無事だった。
怪しい鏡の間には二度と動かなくなったディアボロ達が無残に横たわっている。
廃屋の洋館での戦いは撃退士達の勝利で幕を閉じたのだった。
洋館は激しい戦闘で鏡の間もかなり荒廃してしまった。
しかし、もともと取り壊す予定であったために特に問題はなかった。
強い敵は恐れるに足りない。
おそるべし、鈴音&ゆかいな仲間たち。
でも、なんでこんなにも仲よしなのだろう……?
任務を終えた撃退士達は安堵の顔をして洋館から出てくる。
「今度さーみんなでミラーハウスにいきたいよね」
タマモは楽しそうに隣にいたクリスやRehniに問いかけた時だ。待っていた役人たちが気持ち悪い笑みを浮かべてタマモの周りを取り囲む。
「俺と一緒に行こうぜ、タマモン!」
熱い眼差しでタマモの履いているミニスカートを見てくる。
どうやらそれが目的らしかった……。
「どうでもいいけど、そのタマモンって、どっかのゆるキャラみたいね……」
鈴音が冷静に突っ込みを入れる。
必死に何とか断りを入れるが、役人たちはすでにタマモをかなり気に入ってしまったようだった。無理もない。それだけタマモが激ミニの魅力的な天使だったのである。
しかたなく逃げ出すが、揺れるツインテールを掴もうと、必死に役人たちは追いかける……。
タマモのスカートの中が何色なのか必死に論議しながら。
「それじゃあ、早く帰りましょうか」とRehniはみんなに声をかけて、鈴音&ゆかいな仲間達はタマモンを置いて先に洋館を後にして行った……。