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ファッション街で大勢の若者たちが賑わっている。ゴスロリショップ、ロリータショップ、さらに婦人服売り場に紳士服の店も建ち並んでいた。
目当ての服を探し求めて人々はショッピングを友達や家族と楽しんでいる。
しかし、彼らはまだ知らなかった。
十数年前に一世を風靡したガングロ・ヤマンバギャル。
そして、ライトに照らされた美白の魔女が密かに狙っていることを――。
「美白にライト、鈴木のあの人か。
ずいぶん前に亡くなったと聞いているが――」
ミハイル・エッカート(
jb0544)は思わそう呟いた。手にはすでに買い物袋を手にしており、紳士服売り場で見つけたスタイリッシュなスーツを購入していた。
買い物袋を提げたサラリーマンに扮装してディアボロを密かに探していたのである。
「見た目は大人、頭脳は子供の――」
思わず、超絶美少女撃退士(自称)の六道 鈴音(
ja4192)が目を開いて問い返す。
「いや、それは全然違う。別人だ……」
何でもない独り言だから気にするな、とミハイルはズレたサングラスを直す。あまり突っ込み過ぎると年齢がバレテしまいそうだから自重することにした。
「自分の顔にコンプレックスがあって白くしたり、アイドルに憧れて黒くし始めたりするのって可愛いけど、限度が過ぎると本人が真面目でも悪いけど笑えるよな」
ホワイトワンピにフリフリエプロン、白いパンプス。猫耳つきタクティカルヘッドセットを纏っている江戸川 騎士(
jb5439)が感想を述べる。
断じて言うが男である。見た目に惑わされてはいけない。100均の基礎化粧品でお手入れと食事、洗顔しか気を使っていない、女の敵なのである。
「この服は騎士さんに似合いそうですわね。
早く終わらせてしっかりお洋服とか見たいですね。撃退士も買い物に来る商店街ならディアボロが出ても安心とかイメージアップとかなりませんですかね」
まるで騎士にくっつくようにしてMaha Kali Ma(
jb6317)が、彼の着る服装を熱心に店先で品定めしていた。肌が黒くナイスバディである。
遠目から見たらディアボロのガングロに見えないこともない……。
「このままだと、仲良くなったおじさんおばさん達が、困ってしまいます。ボク、頑張って、役に立って、見せます」
周りに注意を巡らせながらアルティミシア(
jc1611)が決意を込める。争い事は嫌いだが、それ以上に人々が巻き込まれて犠牲になるのを見るのは嫌だ。ユウ(
jb5639)も警戒しながら交差点の方へと慎重に向かっていく。不意にその時だった。
悲鳴が前から聞こえてきた。
ユウはミハイルとともに、すぐに周りに向かって避難を呼びかける。
「皆さん、私達が相手をしますので落ち着いてゆっくりとここを離れてください!」
木嶋香里(
jb7748)も買い物客を装って避難を呼びかけた。客たちがやってきた方向へ引き返すようにと、自らが楯になって急いで人々を退避させる。
「ワタクシを差し置いて魔女を名乗ろうなど、100万年早いのですわ!」
不意に、怒りを顕わにして、マグノリア=アンヴァー(
jc0740)が敵に突っ込んでいた。
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この世にも奇妙な肌の黒いギャル――ガングロとヤマンバ。
さらに付き人の強烈なライト光線に照らされた美白魔女が嗤っている。異様に肌が白く、さらに唇が真っ赤で目が大きい。
魔女の格好をしたマグノリアが前に出て行くと美白魔女が目を吊り上げる。自分こそが美白魔女であるのにも拘らず、目の前にもう一人の魔女がいたからだ。
すぐにマグノリアを目の敵にして攻撃を仕掛けてくる。
強烈なライトを付き人達が光らせて目つぶししてきた。
「俺は化粧の必要が無い天然美白だ。オマケに美肌だ!」
ミハイルはサングラスを下ろした。そんな眩しい攻撃は通用しない!
おまけに美白だ! そんな厚化粧で誤魔化している限りお前に勝ち目はない!
怒り狂った美白魔女鈴木が突進してきて、ミハイルはスタイリッシュに舞って、攻撃を避ける。ガラ空きの背中に向かってまずは銃を乱射した。
振り向いた顔に容赦なく銃弾が当って鈴木はぶちぎれた。
よくも私の顔に傷をつけたなという鬼のような顔を睨みつける。すぐに付き人達が一斉に魔女を援護しようと再びライトを照らしてくる。
しかし、Mahaと騎士はそれをものともせずに二手に分かれた。
どちらを攻撃して良いかわからずに一瞬迷った所に、まずは騎士が横から影の手を繰り出して拘束しようと試みた。不意を突かれて付き人はその場に動けない。
騎士は攻撃を畳みかけた。敵の攻撃をギリギリの所で交わしながら、隙を見て一気に上から刀で振りかかった。美白ライトと共に付き人が身体を引き裂かれて倒れる。
美白魔女は口から吹雪を出して攻撃を仕掛けてくる。
「そのようなチャチな攻撃でワタクシが傷つけられるとおもいで?」
マグノリアはマジックシールドで防御しながら、それ以上前に敵が出ないように足止めを食らわした。
Mahaはその隙を狙って魔女に散弾銃を浴びせる。見た目が若くなさそうなMahaから攻撃を受けて魔女も一層抵抗を強めた。口が裂けそうなくらい吹雪を吐き出す。
「若く見えない女性と男性を襲う……そうですか」
美白魔女が来たので、にっこりを崩さず無言で激オコ。
「ええ……この中では一番年上ですしね。肌が白い訳でもありませんから」
どうやらMahaは怒りが頂点に達したようだった。隣で一緒に戦っている騎士も「これはさすがにまずい……」とディアボロに同情する。
不意に、キレたMahaが大剣で一気に斬り込んでいった。あまりの鬼のような形相に思わず魔女も後ろを向いて逃げようとする。
「おう、どこにも行かせないぜ。俺よりも魅力的なやつがいるってのかい?」
ミハイルは後ろから声をかけた。
美白魔女鈴木はナンパされて振り返る。
サングラスを上げて、ミハイルは端正な顔付きである。金髪に色白の端正な紳士に美白魔女は気持ち悪い笑みを浮かべた。
美白魔女はどうやらミハイルがすごい好みのようだった。
ミハイルを我が物にしようと美白魔女が突進してきた。吹雪を口から吐き出しながら、美白顔の真っ赤な唇を突きつけてくる。マグノリアは間に入って援護する。
「ワタクシが、ワタクシこそがオンリーワン魔女ですのよ!」
弓を構えて光の矢が飛び、3つ首の光のケルベロスが襲いかかる。
魔女は吠えて崩れた。それでも最後の抵抗を見せる。ドス黒い執念を見せて嗤う。
あまりの気持ち悪さに流石のミハイルも引きそうになる。ヘンな女をナンパしたのを後悔したものの、それも仕事だと気持ちを強くする。
銃を構えて突進してくる美白魔女に照準を当てて撃った。
美白魔女の顔に銃弾が蜂の巣のようになってついに化粧が崩れた。化けの皮がはがれた魔女はそのまま苦しむように地獄へ突っ伏した。
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「美少女だったら、別におしとやかじゃなくてもいいのよね?
ほら、コッチよ、ヤマンバさん!」
鈴音が肌の真っ黒のヤマンババを挑発する。ルーズソックスを履いて、メッシュ髪をぼうぼうに生やしたパンダメイクのヤマンババが鈴音を見てキレる。
あまりに美白で肌がつるつるしていたからだ。美肌とは無縁のヤマンバが、お前も黒くしてやると手榴弾を投げつけてくる。
鈴音は上手く裂けたつもりだったが、断片が飛んできて墨を少し被ってしまう。肌が黒くなってしまってせっかくの美肌が台無しだ。
「ちょっと! これクリーニングどうするのよっ。
あったまきた! 消し炭にしてやる!」
鈴音は怒鳴り散らしながら仁王立ちになる。攻撃が来ると思って、ヤマンバは一瞬、その場で防御の姿勢をとったが、鈴音は瞬間移動していた。
懐に飛び込んだ鈴音が電撃を繰り出す。ヤマンバは唸り声をあげたところで、その後ろから飛び込んできたのはアルティミシアだった。
「好きな人達を、困らせる、悪い子は、許しません。めっ!」
夜の氷が攻撃が繰り出されてヤマンバは膝から崩れ墜ちた。仲間が倒れたのを見てガングロも抵抗を強める。しかし、ユウが立ちふさがってそれ以上進撃を許さない。
常に接近して行く手を阻みながら部位を狙って攻撃する。
足や腕を攻撃して爪を破壊する。ガングロはそれでも折れた爪を振り回してくる。香里はユウをサポートしながら交代でガングロを攻め立てた。
「綺麗になりたい女性の邪魔をするのは許せません!」
徐々に削られてついに自慢の爪が全て折られてしまう。仕方なくガングロは口から大量の炎を撒き散らしてきた。猛烈な勢いに押されて香里が後退する。
しかし、口を開けた瞬間をユウが狙っていた。
大きく腕を振りかぶってその口目がけて武器を振りかぶる。
狙い定めた一撃がガングロの顎を撃ち砕いて強制的に口を閉じさせた。攻撃できなくなったガングロは逃げ出そうとした。
ユウは上空から追撃してさらに一撃を背中に食らわす。
転んだ所をその前に立ちはだかった鈴音がニヤリ笑って振りかぶった。
「そんなに黒いのが好きなら、まっくろこげにしてあげるわよ!
六道呪炎煉獄!!」
鈴音が呪符から大量の炎を撒き散らす。肌を黒くした罰だった。地獄の業火がガングロの肌をさらに黒く炭に燃やしつくした。
ガングロは容赦なく鈴音に消し炭にされてしまった。
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ディアボロ達は撃退士の猛攻にあって全て倒された。ショッピング街には再び、避難していた買い物客達が戻ってきた。
「お役に、立てた様で、何よりです」
アルティミシアは客達にお礼を言われて嬉しく思った。
客達は香里たちが協力して避難活動をした御蔭で無事だった。周りの商店街も素早く敵を倒したために最小限の被害で済んでいた。
怪我をした者もいたが、戦闘後すぐにミハイルが治療した。
「ナンパも仕事……モテる男はつらいぜ」
ミハイルはとう呟いて再びグラサンを被る。美白魔女のあの美肌に対する執念を思い出して身震いした。仕事とはいえナンパも楽じゃない。
忘れていた買い物袋を取りに行く。中身は何とか無事だった。
笑みを浮かべてよかったとつぶやく。
置いておいた買い物袋を提げて、雑踏の中へスタイリッシュに消えて行った。
「皆でお風呂に行きませんか?」
ユウは皆に提案した。墨を浴びて肌が黒くなっていた鈴音が賛成する。他にもマグノリアや香里も一緒に行きたいと言って皆で連れたって行った。
騎士はそういえば――と振りかえる。
そこには怪しいうすら笑みを浮かべる女がいた。
「大体、ディアボロの分際で外見で人を判断するなんて失礼ですわね。
私は、まだ五百(ぴー)歳ですわ」
Mahaは、ヤマンバの頭をヒールでぐりぐりしながら仁王立ちしていた。怒りを全て込めながらしつこく何時までもぐりぐりしていた。