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「アムルッ! わたくしに衣装を……って、何ですの此れはぁっ!?」
ダイナマイトな体を揺らしながら颯爽と登場した桜井・L・瑞穂(
ja0027)は目の前の惨状を見て度肝抜かれた。血の色を変えたヲタクたちが咆哮している。
視線の先にはアニメの等身大フィギュアまゆみんたちがナイスバディを晒していた。ヲタク達は等身大フィギュアに触ろうと押し合いをして混乱している。中にはカメラを持ち出して姿勢を低くして中を激写しようとしている不届者もいた。
「瑞穂ちゃんも一緒にねぇ♪
目立って気を引いて、ヲタクさん達の安全確保頑張ろぉ♪」
アムル・アムリタ・アールマティ(
jb2503)が困惑している瑞穂の袖を引っ張って、何やら得体のしれないうすら笑いをうかべる。「きゃあ」と黄色い声を出す瑞穂を強引に急かして控室の方へ連れて行った。
「正気の沙汰では居られない狂宴ですか此処は……」
ブリブリのロリータ服を纏った雫(
ja1894)が溜息を吐く。あまりに自分の性格とあっていないので神経が……。それでも依頼成功の為と割り切って気を持ち直す。
「こいつらここで死んだ方が世のためだし、むしろ本望なんじゃねーか?」
雫と同じように呆れた顔をしていたのはラファル A ユーティライネン(
jb4620)だった。機械が体の大部分を覆っている彼女がそれを見せればヲタク達は狂喜乱舞するかもしれない……だが、想像してやめた。あまりにバカバカしくてやれない。
その傍らに軍人の姿をしたエカテリーナ・コドロワ(
jc0366)が仏頂面で立っていた。あまりに完成度の高いコスプレに何人かが写真を撮らせてくれと頼んできた。
「好きにしろ」
エカテリーナは冷たく言い放った。ヲタクたちが嬉々として写真を撮っているが、実はこの軍服は本物の戦闘服だった。その横で全く目立たないアルティミシア(
jc1611)が密かに辺りの様子を伺って警戒していた。瓶底丸メガネと地味ワンピース、まるで休日のイベントに出てきた地味なヲタ少女である。
「うわぁ、あっつい……。しかもなんか霧が発生してるんじゃないの!?」
怪しい姿をした六道 鈴音(
ja4192)が挙動不審に入ってくる。髪はポニーテイル、眼鏡をかけて服装はシャツにGパン、リュックにポスターを挿した典型的なヲタ。
いつもの可愛い鈴音じゃなかった……。あまりに怪しすぎる。
会場内はヲタク達の汗が霧のように充満していたのである。傍らで美貌のアンジェラ・アップルトン(
ja9940)も可愛らしい顔の眉間に皺を寄せていた。
鈴音とは対照的に可愛らしい流行りのアイドルのコスプレをしている。
実は彼女は鈴音の親友クリスの妹である。
ちょっと日本に対して偏った趣味嗜好を持っていたが――。
さすがあのクリスの妹だけあって見た目は絶世の美女である。すぐにアンジェラを見つけた月城が警戒心を露にしてこちらに近づいてくる。
「六道さま、ここは私に任せてまゆみんの方へいってください」
アンジェラは鈴音に耳打ちする。実は先ほどからアンジェラに巻いて貰ったサラシがきつくて苦しかった。それは鈴音の胸がいささか大きすぎるのが原因だったが――。
敵はすでに目の前に迫っていたのでそんなことを言っている場合ではなかった。鈴音はまゆみんのほうに向かってポスターの剣を振り抜いて突っ込んで行く……。
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青色のサマードレスを着た瑞穂とノースリーブ姿のアムルが突然入口から登場する。ちょうどまゆみんを撮ろうと必死になっているヲタクの肩を叩いた。
「おい、何すんだ! 今いいところなんだ、邪魔するな……って、ええ!?」
邪魔するなと振り返ったヲタは目を疑うように唸り声をあげた。
はちきれんばかりに膨れ上がったアムルの胸。まるでロケットが発射寸前五秒前のカウントダウン中のような形状をしている。
臍出しノースリーブにミニスカのセットにヲタクは泡を吹いて倒れそうになる。
「おーっほっほっほ♪ さぁ、此方においでなさいな!」
その横では同じくダイナマイトな体をしている瑞穂が顔をむっつりして立っている。あまりに短いスカートから艶めかしい太ももが覗いていた。
尻肉が見えそうになっており、横から見るとノーパンのように見えなくもない。それもそのはず、今日は極小の紐Tバックを履いていたのである。
さらに爆乳であるが故に、下乳も布の合間から見えそうになっている状態。
「みんなぁ〜♪ ボク達とも一緒に盛り上がってイこ〜よぉ♪」
アムルと瑞穂は爆乳を揺らしながら激しいヒップホップを繰り出す。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
ヲタク達がアムルと瑞穂に殺到してきた。あまりに物凄い光景を目の当たりにした獣たちが一斉に方向転換してこちらの方へと向かってきたのである。
まゆみんたちは舌打ちをした。
流れが得体のしれない女たちの方へ傾いていってしまっている。
なんとかヲタクを取り戻そうとミニスカートをさらにたくしあげて誘う。会場のあちこちで混乱が起き始めた。激しいまゆみんたちと瑞穂&アムルの駆け引きが始まる。
「お、おねえたま、あそんでくんなきゃヤ、ヤだよぉ――って、ううっ! 我ながらキャラにあってない……ストレスが溜まります」
雫は甘い声を出して天ケ瀬に近づいた。自分の心の中の声と格闘しながら、何とか我慢してろり少女を演じきってみせる。天ケ瀬は好みのろり少女をみつけた。後ろから不敵な笑みを見つけて密着してくる。雫は(我慢……我慢です。安全圏まで逃がすまでは――)と耐えていたが、さらに男ヲタ達もやってきた。さらにぎゅうぎゅう詰めになる。
マナーの悪いお客に対しては、敵を応援したくなりそうな気持ちになった。
過度に密着してきそうになる大きいお兄さんの脂ぎった手と汗がおぞましい。汗だらけの頬を密着させようとしてくるヲタについに雫がぶち切れる。
「いい加減にしなさい!
いい年をした大人がやって良い事と悪い事の区別がつかないのですか!?」
いきなり毒舌キャラに変身した雫に誰もが戦慄した。慌ててヲタ達は一目散に会場の出口へと恐れをなして逃げて行ってしまう。
客達をいつの間にか敵から引き離すことに成功していた……。それでも何とか餌のヲタクを取り戻そうと天ケ瀬達が襲いかかってくる。
「いい気になるなよ小娘共、ここが貴様らの墓場となる!」
反撃開始だと軍服のエカテリーナがライフルを持って前線に躍り出た。そのまま銃口を敵に向けて容赦なく弾丸の雨を降らせる。
天ケ瀬は一歩もその場から動くことが出来なかった。
一歩でも動いたら蜂の巣にされてしまう。
「歌い踊れ小娘、豚のような悲鳴をあげろ!」
凄まじい勢いで撃ちながら突っ込んでくるエカテリーナについに、その場を逃げようとした時に後ろから雫がにんまりと怖い笑顔で立ちふさがった。
「貴方達に責任は……まあ、ありますが、兎に角討滅されなさい」
怒り狂った雫は怨念を込めて剣を敵の急所に突き刺す。その瞬間、豚のように悲鳴を上げながらついに天ケ瀬はぼろぼろの布切れのように地面に倒れた。
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「フォーーーーーーーーーーーーーーー!!」
突然、会場内にじゃいけるの音楽が爆音で流される。会場がどよめいたところに、白スーツに身を包んだラファルが後ろ向きにムーンサルトをしながら登場。
あまりの怪しすぎる動きに会場のヲタクの誰もが釘付けになってしまう。どんどんボリュームが大きくなってきてパフォーマンスが派手になっていく。
高いステージの上から跳躍したかと思うと、一気にバーンと跳んだ。
渡瀬礼亜の後ろに跳んだじゃいける――ラファルは彼女のスカートをめくりあげる。
「ふむふむクマパンかー案外かわいいの履いてるじゃん」
ラファルは中を検分しながら難しい顔をしてつぶやいた。
怒り狂った礼亜はスカートを押さえて回し蹴りを繰り出してきた。ラファルはムーンサルトをして華麗に攻撃をかわして着地する。
「フーッ!!」と挑発しながら出口の混雑した場所から逃走した。
そのあとから入れ違いになったのはエカテリーナ。追いかけてきた渡瀬を睨みつけて「問答無用!」と頭に向けてライフルを連発する。
逃げる暇すら全くなかった。
程なくして渡瀬は頭をぐちゃぐちゃにされてその場に潰れた……。
「地味オタクに、なりきって、みせます。
あ、なりきる、必要はない、です、ね。これが地ですし」
ぶつぶつ独り言を呟きながらアルティミシアは早速ターゲットの月城に向かっていく。そこにはアンジェラが先に可憐な上目づかいで敵を惹きつけている所だった。
空に浮かびながら見下ろすように敵を見つめる。
(今日はスカートでした恥ずかしい…! 見ないでください…っ)
だが、気が付いてしまった。ヲタク達が一斉に自分のことを注目していたことを。恥ずかしくなって一気に降りてくる。そのままの勢いで槍を手に突っ込んで行く。不意を突かれた月城はあまりに激しい形相をしたアンジェラに恐れを抱いて逃げ出した。
出口の方へ逃げようとするがそこにはアルティミシアが待ち構えていた。
「すみませんが、ここを、通すわけには、いかないのです、よ」
両手を広げて行く手を阻むが月城は攻撃をすかさず攻撃を仕掛けてくる。
アルティミシアはそれでも歯を食いしばった。攻撃を受けて倒れ込みそうになったが、そこへアムルと瑞穂が助けにやってきて回復を施さされる。アムルは敵を惹きつけているうちに、瑞穂はアルティミシアを前線へと復帰させることに成功した。
そこへアンジェラが後ろから槍で突く。
攻撃された月城はそれでも逃げようとした。
槍を払いのけてさらに逃走しようとしたとき、目の前に再度姿を現したのはアルティミシアだ。
「――気配を殺すのは、貴方達の専売特許では、ありません、よ」
目に見えないアウルの弾丸に容赦なく胸を撃たれた。
力なく月城はもがくようにその場に倒れ込んで動かなくなった。
「うわぁ! まゆみんカワイイ☆まゆみん目線ちょうだーい」
鈴音は気持ち悪い男の声で真由香を挑発する。
デジカメのフラッシュをたきまくって思いっきり手を振りながら誘導する。
「まゆみーん! コッチコッチ!」
頑張って敵を隅に追い込むことに成功した。鈴音はそこで立ち止って目をつむる。
不意に真由香に向かって唇を突き出したのだった。
「まゆみん! チュウして! チュウ〜!」
鈴音の櫻色の蕾のような艶めかしい唇が濡れている。
思わずディアボロだけでなく――遠くから様子を伺っていた誰もが息を呑んだ。
真由香はその瞬間に、にやりとした。直ぐさまナイフを取り出して突き刺そうとする。
不意に鈴音が飛び跳ねて攻撃をかわした。薄眼をあけて攻撃を予期したのだった。
攻撃を交わされてプライドを傷つけられた真由香はさらにナイフを繰り出す。
だが、鈴音は風の障壁を作って見事に剣先を紙一重で交わす。
急所目がけて敵が前のめりになった時だった。
鈴音が華麗に交わして、逆に真由香が態勢を崩してしまう。
「その手には乗らないわよ!
燃え尽きなさい、まゆみん! 六道呪炎煉獄!!」
呪符を持った手をクロスさせて一気に両腕を振り放つ。
地獄の業火の雄叫びが真由香を襲う。焼かれながら絶叫を辺りに木霊させる。ディアボロは断末魔を上げながら燃え盛る地獄の底へと崩れ墜ちて行った。
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美少女フィギュアの姿をしたディアボロは全て倒された。
怪我をした者もいたが、すぐに瑞穂たちが回復させた御蔭で何とか軽傷で済んでいた。
もちろん、同人誌やレアグッズも無事である。
「アンジェラさん、お宝があるかもですよ。ちょっとみて回りませんか?」
鈴音が隣にいる友人の妹に問いかけた。先ほどから物欲しそうにキラキラと目を輝かせていたのである。先日の種子島の出来事でアンジェラは落ち込んでいた。
いつものクールな女王様キャラではなくなっていた。気晴らしに誘うつもりだったが、すでにそこにはアンジェラはいない。
遠くの方で熱心にまゆみんの本物のフィギュアを物色していた……。
同人即売会場には再び平和が訪れた。しかし、目玉の等身大フィギュアがいなくなって怒ったファンが帰ってしまいそうになっていた。
「――わたくし達が、貴方達に素敵なライブを魅せてさしあげてよ♪」
落ち込んでいるヲタ達の前に現れたお嬢様と爆乳天使。その登場に帰ろうとしていたヲタ達が一斉に足をとめた。実は二人は避難誘導中に「続きはあとでね♪」とメアドをばら撒いていたのである。アムルも「約束通り、いっぱいサービスしちゃうよぉ〜♪」と彼女達は大量のヲタを引き連れて隣の会場に連れたって行った……。
「ほほー、なるほど〜うーん、いやはや」
潰れたディアボロ人形の服を剥いだラファルはとても怪しいことをしていた。思いっきり足を広げながら中を実況見分している……。
「なにがそんなに面白いんだか――」
呆れた顔でエカテリーナが帰ろうとする。その後ろでぶつぶつと雫が「はあ、キャラがまた迷走してしまいました、どうしょう……」と三角座りしている。
「大丈夫ですよ、キャラを変えればいいんです」
アルティミシアが全くフォローになっていないフォローをする。とにかく皆無事でよかったと心の底から思った。「ボク、役に立てたでしょうか?」と問いかける。
楽しそうにフィギュアを楽しんでいるアンジェラやラファルをみて、これでよかったんだと思いなおして自分も皆の元へ走って行った。