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マスター:凸一
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:5人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2015/06/16


みんなの思い出



オープニング


「――今日も子供たちは来ないのか。何だかさびしいな」
 公民館の館長の山田輝義が独り言のように呟いた。
 町の公民館はすっかり寂れていた。いぜんは子供たちが、集まって一緒に遊んでいたが、今やその見る影もない。今日も開館はしているが誰も遊びにこなかった。
 最近子供たちが少なくなっていた。それに伴って小学校でも段々、クラスの数が減っているらしい。とくに田舎の町ほど少子化は深刻だ。
 だが、原因はそれだけではない。
 子供たちは外で遊ばなくなってきていた。家に籠って一人でゲームをして遊ぶことが増えてきているという。さらに昔と比べて子供達は忙しくなっている。塾や習い事で友達と遊ぶ時間が全く取れない子もいると聞いた。
 最近は子供による犯罪も増えている。
 他人の気持ちを考える想像力が欠如しているのではないか。
 輝義は嘆いた。どうしたら元のように子供たちが遊びに来てくれるのか。
 何もない壁に何もないテーブル、何もないステージ……。
 なにか華やかなものが欲しいな。
 そうだ!
 殺風景な公民館の壁を見ていてふと思いついた。
 この壁を子供たちの絵で埋め尽くすのはどうだろうか。
 公民館で美術を親しむ講座を開いて子供たちに遊んで貰う。そうしてこの公民館に子供たちの作品を展示すれば皆で交流を深める場になるかもしれない。
「――それに、子供たちの感性や想像力を養ういい機会になるだろう。美術を一緒に体験して子供たちの交流を深めてついでに感性を磨けば一石二鳥だ。それに感性豊かな子供が増えればきっと将来この町も活性化するかもしれない。善は急げだ」
 館長は早速学校の美術の先生やその他この企画を手伝って貰えそうな人に、企画の趣旨を伝えるために行動を開始した。



「子供達と一緒に町の公民館で開かれる美術を楽しむ講座に参加して、企画を手伝ってもらいたいという依頼が来ています」
 斡旋所の女性職員が資料を片手に説明を開始した。
 依頼主は田舎のある町の公民館の館長をしている山田輝義だった。子供たちのために美術講座を開くことになったが、いかんせん人出がたりないのだという。
 撃退士にはぜひ、美術講座の運営を手伝ってもらって、ぜひ一緒に子供達と一緒に美術を教え学びながら楽しんでほしいとのことだった。
「みんなには、子供達と一緒に学び、教え合いながらぜひ美術をとおして、感性や想像力を磨いて楽しんでほしい。それではよろしくお願いね」


リプレイ本文


 町の小学校の入り口に人だかりが出来ていた。
 ランドセルを背負った小学生の子供たちが何やら目を輝かせながら最前列に行こうともがいている。それを見た大人たちも何だろうと興味深そうに遠巻きに覗いていた。
 騒ぎの中心にいるのはタキシードにカボチャマスクを身に付けたエイルズレトラ マステリオ(ja2224)。
「みんなで美術を楽みませんか? ぜひ友達を誘って来てください」
 紐をつけて首から下げたラジカセでチンドン屋の音楽を流しながら、 エイルズたちが街中を練り歩いてパンフレットを配布していたのである。
 派手ないでたちが功を奏して子供たちが次々にパンフレットを取っていく。傍らでは大量の紙束を持った僅(jb8838)と藍那湊(jc0170)が協力して子供たちに笑顔で配る。色とりどりに刷られて作られた4つ折り8ページのパンフレットは気合が入っていた。
「子供の感性を豊かに!」と売り文句で飾られた渾身の作品。
 水彩で描かれた山や公民館の絵は何を隠そう僅たち撃退士協同の作品である。あまり美術はしたことはなく、少々滲んで失敗していることもあり僅はちょっと不安だった。
 それでも丹念に塗られた作品は子供たちに受けがよくて「これ、お兄ちゃんが描いたの? 上手いねー」と小学生の男の子に褒められた。
 まんざらでもなくて少々僅も照れ臭く思ってしまう。湊も昨晩遅くまで頑張っていたため、少々眠たかったがそれでも僅に負けじとパンフレットを頑張って配る。
「きっと楽しいよ。お兄さんも一緒にやるから、来てみてねっ」
 笑顔を振りまきながら湊は一枚ずつ丁寧に手渡しした。湊が切って作った黄色の星型やおちゃめな猫の顔の形につくられたパンフレットは特に女の子に好評だった。町を移動しながら配っているとあっという間に用意したパンフレットは底をついてしまった。
 増刷をするために湊は急いで小学校の印刷室を借りに走っていく。
 小学校の廊下ではすでに六道 鈴音(ja4192)が先生たちにお願いをして、丁寧にパンフレットを張らせて貰っている所だった。
「公民館で開催する企画なんです。ご協力をお願いします」
 今日の鈴音は後ろで髪を括って動きやすいようにポニーにしていた。白い項が少し露わになっていて妙に艶めかしい。暑いから汗を拭くために手の甲でさするしぐさがとても可愛いらしかった。それに輪郭が出ていて彼女の端正な表情や眉毛がいつもよりもより強調されているように感じられる。応対に当った先生は一目見てそのあまりの鈴音のキュートさに心を撃たれてしまい、首を直ぐに縦に振った次第である。
 みんなが一生懸命に持ち場でパンフレットを配り終えた時だった。無意味に煌びやかな光線を発しながら優雅な足取りで――ある若者がやってきた。
「ほう……美術を子供達に教え、また自らも楽しむ、か……。
なかなか良い依頼ではないか!
この! ボクが!! 美術に精通していないワケなかろう。
美術と言えば、貴族の嗜みの1つ……」
 フフフ、と不敵な笑みを浮かべながら光臨したのはカミーユ・バルト(jb9931)。意味もなく何処からか風が吹いてきて――颯爽と髪を掻きあげる。そう、その光景はまるでうつくしき絵画のように……。白い歯を零してドヤ顔で振り向きかける。観衆に向かって一輪の薔薇でアピールしようとした時だった。
「そこ行く美しいマダム達……良ければこれを――って、誰も居ない!? ボクはまた一人で喋っていたのか……」
 あまりにお約束すぎる展開にカミーユは言葉を失う。すでにそこら辺にいた子供や母親たちは美術教室が開かれる公民館へと移動しておりもぬけの殻だった。
 豪華なドレスの服を捲ってみるとすでに開始時刻がとうに過ぎていた。
 青ざめる貴公子――ボクとしたことが遅刻するなんて!
 猛ダッシュで慌てながらカミーユは校庭の砂塵を巻き上げて去っていく。



 会場では多くの子供たちが床にシートを広げてにらめっこをしていた。美術の先生の話を一生懸命に聞きながら自分の筆を動かしていく。美術が好きなのか普段から描いている子は上手に描くことが出来ていた。
「おねーちゃんと一緒にやってみようか? ほら、こうしてみて?」
鈴音が小さなおさげ髪の女の子の横に座って一緒に筆をとる。楽しそうに描いている女の子の様子を見て鈴音もなんだか楽しくなってきた。
「上手にできたねー」
「ありがとう! おねえちゃんせんせい!」
 褒められて嬉しかったのか女の子も笑顔を零す。
 その一方でなかなかうまく描けずに苦労している子もいた。模型を見ながらそれを真似て描こうとするがなかなか思い通りにいかない男の子。カボチャマスクをつけたエイルズがそのままの姿でその男の子の横に行ってさりげなくアドバイスをする。
 代わりに筆をとってわざとへたくそに、しかし大胆に絵を描くことを実演して見せる。それを見た男の子が思わず感嘆した。何か吹っ切れたように、それから大胆に絵を描いてノリ始めたのだった。
 難しそうに手鏡で自分とにらめっこしている眼鏡の女の子がいた。どうやって自分を描いたらいいかわからずにさっきから全く描けていない。慣れない場所で緊張している様子だった。それを見かねた湊が傍らに行って女の子に声をかける。
「描いてみると、身近な自分の顔なのに難しいよね。
こういう顔をしてたんだーって……。いつも見てるのに新しい発見があって、おもしろいでしょう?」
 まずは優しく語りかけることから始めた。緊張している女の子の心の中をほぐそうと他愛もない話題を話す。
 すると今まで緊張でガチガチだった女の子も次第に言葉を出すようになった。おもむろに筆をとって自分の顔を鏡でみながら描きはじめる。湊はお昼休憩してから今度は粘土遊びをしている子供たちのところへ行った。
 そこではみんなが大きなものを作ろうと一生懸命に頑張っている。ある男の子が恐竜を作ろうとしていた。だが、形が大きすぎてすぐに首が崩れてしまう。
「そういうときは発泡スチロールを芯にするといいよ。
全部粘土でやってしまうと乾きにくいし重くなるけど、これを使う大きさに切って、
粘土を貼りつけていけばほら、楽ちんでしょうー」
 湊が言うと男の子がはっと驚くように頷いた。すぐに言われたとおりに、材料を持ってきてすぐに試してみようする。
「針金で形を作っておけば、形も崩れにくいよ」
 みんなにアドバイスにしながら自分が作るのはケセランのモワルーくん。召喚してモデルに。毛の質感は爪楊枝で粘土の表面を毛羽立たせてつくる。
あまりの上手さに子供たちが見にやってきた。それを見た子供たちが「自分もがんばるぞー」と発奮して自分の持ち場に戻って熱心に作業を再開する。
黙々と作業する真剣な表情を見ながら僅は一人ずつその様子を覗き込んで見ていた。
「なるほど……そうか……。なかなかに興味深いな……」
 なにかヒントを得たというようにぶつぶつと独り言を喋っている。自分の創作に生かすつもりであるようだった。子供たちの作品だからと言って馬鹿にしたりせず、僅はしきりに頷きながら良いところは取り入れようと熱心に視線を向けていたのである。



 創作活動がひと段落して退屈を持て余した子供たちが公民館の外にやってきた。午後からの部をどうするか迷っている所へ現れたのは奇術師のエイルズ。
 マントを華麗に翻してその場で即席のマジックショーを開いた。ステッキから色取り取りの万国旗を取り出して見せ、すぐにそれをマントで隠して消滅させる。
「ワン、ツー、スリー!」
 何もないシルクハットに杖を翳すとそこから大量の白い鳩が飛び出した。
その瞬間に、退屈していた子供たちの表情が一斉に輝いた。
エイルズにとっては何でもない初歩中の初歩の奇術で会ったが、初めて見る生のマジックショーに子供たちは興奮したのである。
一通り簡単なショーを見せ終わって、カボチャマスクのエイルズは、「せっかくの機会だから」と簡単なマジックをみんなに教えることにした。
 トランプのカード当てである。一枚のカードを当てる前に一番下のカードの番号を覚えおくのがコツであるとエイルズは解説する。
 つぎに引いてもらったカードをさりげなくその上に載せて――そのペアになったカード同士をバラさないように丁寧にシャッフルする。
 子供たちは見よう見まねでシャッフルするがこれがなかなかできそうで難しい。ようやく出来た男の子が得意げに「できた、やったあ!」と嬉しそうに笑った。エイルズは出来た子供に拍手を送って讃え、出来ない子には手本を見せる。こうしてエイルズはお絵かきで退屈していた子供たちを巻きこんで盛大な拍手を送られたのだった。

「――ツチノコを見た事はある、か?」
 外に出て風景画を描いていた子供たちに突然、僅はそう語りかけた。そう、彼が真剣に先ほどから考えていたこととはこのことだったのである。
 あまりに突拍子もない発言に憐みの視線を子供たちから受けてしまう。知らないと言われてしまってがっかりするが仕方がない。
 自分は自分で思いのままに筆を走らせることにしよう――。
 池の畔に腰をおろして風景を眺める。こうして見るがままに筆を走らせていると何だか穏やか過ぎて別の世界に入ってしまいそうだった。
 ――いかん、すこし寝てしまったようだ。
 僅は昨晩のパンフレット作りで睡眠を削っていたのである。顔をパチパチと叩いて起き上がると、不意に他の子供たちが何を描いているのかふと気になった。
「何処を描く事にした、か?」
 僅がそう思ってある男の子の元へ近寄った。そこには、なにか小さな太い蛇のようなものが土の穴から出てきている所が描かれてあった。
「ふぁっ!? これはいったいどこでみたんだ!?」
 不意に目が覚めて興奮気味に巻くしたてる僅。ぼうっとした男の子は黙って林の奥をすっと指した。僅は「あっちだな? よし絶対に今度こそ捕まえて見せるぞ!」と張り切って林の奥に向かって入って行ってしまった……。
 果たして彼が本当に見たのは絵の通りのものだったのか定かではない……。
 男の子は思い出したようにその絵をぐしゃぐしゃに丸めて直ぐに捨ててしまった。

 手を繋ぎながら鈴音は無邪気になって子供達と遊んでいた。縄跳びやおいかけっこをしてお絵描きに疲れた子供たちと遊んでいる。その光景はまるで幼稚園の先生のようだった。
「ほら皆、ここらで絵も描いてみよ」
 程なくして再び子供達はまたそれぞれ自分の決めたモチーフに取り組み始める。その時不意に顔を赤らめた小学五年生位の端正な男の子が鈴音の元へやってきた。
「――俺、鈴音ねえちゃんが、描きたい」
 もじもじしながらやっとのことでその男の子が口にした。
 どうやらそういうことらしい……。
 鈴音は驚いてその男の子の顔を正面からまじまじと見る。あまりに破壊力抜群の天使の顔がまじかに迫ってきたので、男の子は恥ずかしさにどうにかなりそうだった。
「私なんてその――描く程じゃないと思うし、別のものにしたら?」
「お姉ちゃんじゃダメなんだ。鈴音ねえちゃんって、そのすっげえ、美人だし、それに可優しくて俺の理想の人にぴったりなんだ。だから俺のモデルに――」
 男の子が必死になって喋る姿を見て鈴音もにこりと笑う。
「ちゃんと美人に描いてくれなきゃダメだからね」
「うん、ぜったいに美人に描く!」
 男の子はそれから猛烈な勢いで何枚も描きはじめた。次々に鈴音にポーズを取らせてそのたびに何かに取りつかれたように描いて行く。
 お世辞にもその絵は上手とはいえなかった。けれども、男の子が描くその鈴音の表情はどれも優しい笑顔で満ち溢れていた。
「うわぁ、これすっごい上手に描けてるね」
 鈴音は心の奥の底から素直にそう思ってそう発言した。だが、男の子は反対に納得できなかったのかくやしそうに唇をかみしめる。
「ありがとう、俺自身も下手だって分かってるんだ。けど、いつかぜったいにおねえちゃんのこと美人に描いて見せるから――その時はまた会ってくれる?」
 別れの時が迫っていて男の子は泣きそうになっていた。鈴音は「うん、いいよ。そういえば、きみ名前は」と尋ねた。
「真一って言うんだ。それじゃ俺もう行くから」
 涙を見せるのは男としてのプライドが許さなかったのか。
 男の子――真一はもう二度と後ろを振り返らなかったが、鈴音は彼が見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。

 すでに夕日が差してきていた。子供たちが満足したように自分の作品を大事そうに掲げて保護者や友達と一緒にまた一人、帰っていく。
 黄昏の夕日をバックにしてカミーユは自分の作品を眺めてうっとりしていた。早速その作品をバックにして突如校庭にステージを作り始める。
 普段家で使用している赤のクッションに金の骨組の豪奢な 椅子を台座として、その周りには色とりどりの薔薇を見目良く配置した。あとは件のスーツを着たボクがその台座に座って、ステージに上がるだけ、だ。
「そうだな……星の輝きで周囲を…いや、ボクを照らしても良いかもしれない」
 カミーユは熱心に一人でなにかを作業していた。薄気味悪い独り言を呟きながらついに完成して雄叫びをあげる。
「そう……この作品はボク自身。
幾ら美しいモノが周囲に在っても、それ以上に輝くボクだ!!」
 両手を広げて目映いばかりの光線が彼を照らし出す。もはや彼は星の王子様ではなく、まるで太陽そのものの輝きを放っているとばかりに自己主張する。
「ああ……うつくしすぎる。なんて罪なボクなんだ。この世に生れてきたこと事態がすでに罪なのではないだろうか? ああ、芸術的までに美しいボク」
前に設置した巨大な鏡でうっとりと自分の姿をさりげなくチェックする。
「さぁ、皆……堪能してくれたまえ――ってやっぱり誰もいない!?」
 すでに辺りは暗くなっていた。誰もおらず冷たい風が棚引いてくる。そこへ警備員がやってきて「君、片づけるよ、いいかね?」とステージの全てを撤去させられた。
 それでもカミーユは意地でずっと一晩中作品として立ち続けたらしい……。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・僅(jb8838)
 蒼色の情熱・大空 湊(jc0170)
重体: −
面白かった!:1人

奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
撃退士・
僅(jb8838)

大学部5年303組 男 アストラルヴァンガード
孤高の薔薇の帝王・
カミーユ・バルト(jb9931)

大学部3年63組 男 アストラルヴァンガード
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA