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「白亜紀はもうとっくに終わったさね。
――往生際が悪いよ」
暗闇の向こうへ厳しい視線を向けてアサニエル(
jb5431)が呟いた。
暗い森の中は藪の茂みで覆われていた。時折獣の遠吠えが聞こえてくる。
月は出ておらず辺りは殆ど視界が閉ざされていた。地面から生えた草木が邪魔をして中々前に進むことができない。地図を頼りに先頭に立ったのは龍崎海(
ja0565)。
ソーラーランタンの灯りで研究所までの獣道を照らし出す。上空を警戒しながら直ぐ後ろから只野黒子(
ja0049)と千葉 真一(
ja0070)が言葉少なげに続く。海は仲間たちがきちんと後ろから付いてきていることを確認して藪の中を足早に突き進んでいく。
「気を付けるんだ。奴はいつ襲ってくるかわからない」
茂みで覆われた林の何処に獣が隠れている。黒子はすでに双銃を構えていつでも撃てる態勢を整えていた。対して真一の方もわずかな物音も逃さないというように神経を尖らせて味方の前方に立って見張り行う。
「なーんか、こういうの映画で観たことあるなぁ」
黒い長い髪を押さえながら六道 鈴音(
ja4192)も仲間に遅れないように続いていた。周りの異様な気配を感じ取って言葉を漏らす。夜間は目立たないように光纏のオーラは抑えていたが、彼女の可愛らしい容姿は闇の中でも十分にキュートで目立っていた。
研究所は森の奥に静かに佇んでいた。玄関の扉を開けようと、ユウ(
jb5639)と廣幡 庚(
jb7208)が急いで壁に身を寄せて武器を片手に中の様子を伺う。
二人が顔を見合わせて一気に両足で玄関の扉を蹴破った。その瞬間に、真正面に立った黒子が研究所の中へ双銃をぶっ放しながら中へ突っ込んだ。
大きな赤い目をした肉食獣が吠えていた。ラプトルが鋭い鉤爪を伸ばしながら飛び掛かってきたところを横に避けながら黒子は物陰に隠れた。
ラプトル達は撃退士が来ることを鋭い五感で持って察知していた。玄関扉の後ろに潜んで戸が開くと同時に奇襲攻撃を仕掛けようとしていたのである。だが、ユウや庚達も敵の奇襲を警戒していたのだった。慎重に中の様子を外から伺っていたのである。
黒子が乱射してラプトルをけん制している間に、ユウが空中を横っ跳びになりながら敵の火球を交わして前線に転がり出る。
その瞬間に、ラプトルの鉤爪が上から襲ってきたが、さらに側転して間一髪で交わす。そこへ黒子がラプトルの頭部目がけて弾丸の雨を降らす。ラプトルは咆哮した。別の一匹が現れて後ろから襲いかかってくる。
「リアルナイトミュージアムといったところか。だが――」
誰の仕業か知らないが、これ以上の暴挙は許さん!
「変身っ!」
真一は両手を大きく広げて仁王立ちになり叫んだ。
「天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!!」
驚いて怯んだ的に向かってすぐに跳躍して突っ込んだ。
「ゴウライ、ハウルストライクっ!」
叫んだ真一が敵の横腹めがけて強烈なパンチを放つ。
奇襲を受けたラプトルは吹き飛ばされて研究所の壁に激突して崩れ落ちる。息も絶え絶えになっている所に馬乗りになってさらに連続でストレートを叩き込んだ。
鍵爪と自慢の牙を砕かれてもラプトルは火球を放って真一に反撃をした。
炎に巻かれて真一は顔をしかめながら後退せざるをえない。その隙にラプトルは階段を上って二階へと狭い隙間を逃げて行こうとする。
ユウがそうはさせまいと階段を上っていてラプトルを追撃する。
火球を放ってくるが、翼を使用したユウは壁と天井を蹴りながら縦横無尽に追いかけた。
隅に追いやられて逃げ場を失ったとみるや、今度は淡い闇を放つ。ラプトル達はまるで助けを求めるように咆哮した。凍てつく容赦ない攻撃に敵は苦しみもがく。追走してきた黒子が不敵な笑みを浮かべて銃口を突きつけて放つ。
ラプトルは動けないまま断末魔を上げて次々に地面に突っ伏して動かなくなった。
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「上から来るぞ! 早く中へはいるんだ!」
不意に海が仲間に向かって叫んだ。
仲間が研究所に侵入した直後の出来事だった。
上空に大きな黒い影が現れた。恐ろしい嘴をもったプテラノドンが急降下して撃退士の背中に向かって襲いかかってくる。
中に入らず、ずっと外で辺りを見張っていた海が先に敵の動向に気が付いた。まるで自分が身代りに成るかのように両手を広げてカバーに入る。
瞬間、嘴で突かれて海は研究所の壁に激突してうめき声を上げた。寸前のところで急所を外して逃げることができたがそれでも体に傷を負ってしまう。だが、海の体を張った守りの御蔭で仲間たちは無事に研究所の中へ侵入することができた。
海は立ち上がろうとしたが、不意に森の奥から遠吠えが聞こえてきた。巨大な足音が近づいてくる。辺りの木々をなぎ倒しながら猛スピードで突っ込んできた。
大きな牙と獰猛な爪を持った巨大な肉食獣だった。
「さすがに迫力あるわね」
鈴音があまりの大きさに思わず呟いた。
レックスはまさに撃退士が一番大変な時を狙って襲いかかってきたのである。すぐに海は中にいる撃退士達に連絡を試みた。そして扉をすぐに閉めて侵入を妨害する。
だが、レックスも負けじと体当たりを試みてきた。激しい揺れに建物が悲鳴をあげる。足止めを食らっている最中に鈴音が背後に回っていた。
「火葬してやるわ! くらえ、六道呪炎煉獄!!」
強烈な業火の炎を後ろから浴びせた。さすがのレックスもこれには遠吠えをあげる。背中をおおきく焼かれて苦しんだ。
だが、すぐに長い尻尾を突然振りまわして鈴音を横に払いのける。
短い悲鳴をあげて鈴音は地面に吹き飛ばされて大木に叩きつけられる。その隙に怒り狂ったレックスはついに体当たりで扉を蹴破って中に侵入して行った。
プテラノドンも援軍が到着して喜ぶように舞いあがる。
一撃をして離脱しようと空へと再び上昇していく敵に向かってそうはさせまいとアサニエルが立ちはだかる。
翼で夜空に舞いあがりながらぴったりと後ろに追尾した。尻尾でしつこく付き纏うアサニエルを振り払おうとするが、巧みにかわしながら攻撃の隙を伺う。
「そんな短小な鞭じゃ、このあたしを虐めることはできないさね!」
速度を飛ばして突然、敵の前に回り込んだアサニエルは無数の星の鎖を放つ。闇夜に踊り狂う鎖の束がプテラノドンの翼を雁字搦めに纏った。
「偶には地面に降りてゆっくりしたらどうだい?」
強引に鎖を引っ張りながらアサニエルは地面に急降下する。
寸前の所でアサニエルは鎖を離して迫る地面から離れた。だが、プテラノドンは回避できずにそのまま地面へと突っ込んでしまう。
首を地面に叩きつけられてすでに満身創痍の状態に陥った。ふらふらとした足取りで迫ってくるが 今度は自信に満ちた表情の鈴音が前に行く手に立ちはだかる。無数の何者かの魔法の手が鈴音から伸びて行ってプテラノドンを拘束する。
綺麗な太い眉を尖がらせて口元を真一文字に結んで、敵の目を容赦なく睨みつけた。
「焼き鳥にしてやるわ!」
その瞬間に、放たれた地獄の業火が真っ直ぐに突き進んでプテラノドンを包み込んだ。燃え盛る激しい炎に包まれてこの世とおも思えない怪物の叫びが轟く。
大きな爬虫類のトカゲが地獄の底へと沈みこんで行った。
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激しい物音がして振り返るとそこには獰猛で巨大な爬虫類がいた。扉を蹴破ってやってきたレックスはすでに背中を焼かれて苛立っていた。辺り構わずに口から火炎球を容赦なく手当たり次第に浴びせてくる。
「さすがにデカイな――だが倒してみせるぜ!」
真一たちは何とかラプトルを倒した直後だった。しかし、さらなる強敵の出現に気持ちをもう一度引き締めてかかる。すぐに物陰に隠れて敵からの攻撃をますは交わす。
黒子は一瞬確保した射線を利用して双銃をぶっ放す。弾丸はレックスには命中しなかった。だが、それは敵を警戒させて後退させるには十分だった。
逃げ場のない隅に追いやってついに弾丸がレクッスの足にあたる。
集中的に足を狙って動きを止める作戦だった。レックスが来るしでいる隙を狙って真一は敵の懐に果敢に飛び込んで行って吠える。
「ゴウライ、ブレイドカッター!」
抜刀して鮮やかに敵の懐を切り裂いた。その瞬間に、血が噴き出した。
レックスは苦痛にもがくように暴れ出す。不意に大きな口を開いてすぐ傍にいた真一を被りつこうとしてきた。逃げようと頭を動かしたが肩を噛みつかれてしまう。
「大丈夫ですか! しっかりしてください」
ユウが心配で叫んだ。攻撃をして何とか真一からレックスの気をそらそうとする。
鋭い牙が食い込んできて真一はあまりの苦痛で絶叫しかけたその時だった。
白眼を剥いたのはレックスの方だった。
急いで真一を離す。舌を出しながらもだえ苦しんでいた。その隙に庚が勇敢にも真一の所へ行って、傷ついた彼を助け起こして癒す。
実は真一は上半身にマスタードスプレーを予め噴射していたのである。慌てて離したが、レクッスは辛さで戦闘どころではなかった。
大きく口を開いてもがき苦しんでいるレックスに庚が近づいて魂のルーンを放り込む。その瞬間に目映い光が漏れた。その瞬間、爆発が起きて敵は咆哮する。
「今よ!」
苦しむ敵の姿を見て庚が短く叫んだ時だった。
「ゴウライ、インパルスアタァァァック!!」
目にも止まらぬ速さで敵の腹に目がけて突っ込んだ。ねじ込みながら猛烈なスピードで突き進んで気がついた時には敵が吹き飛んでいた。
真一の渾身の一撃が炸裂する。
扉の向こうに飛ばされて外の大木へとレックスは激突する。
力なく体が引きちぎられてそのまま崩れて二度と動かなくなった。
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研究所に現れた古代生物はついに姿を消した。黒子は残党がいないか見回りを行ったが、それらしきものはすでに存在しなかった。
海も検分を行って敵がすでに息絶えていることを皆に伝えて健闘を讃えた。
「みんな無事でしたか――?」
心配そうに声を上げたのは庚である。
中に激しい戦闘で傷を負ったのもいた。
庚やアサニエルが協力してすぐに怪我人を治療したのでなんとか無事だった。
建物も恐竜が暴れて玄関が壊れはしたがなんとか最小限の被害に食い止めることができていた。
「今度はもっと前の恐竜が出て来たりしないことを祈ってるよ」
やれやれ、と呟くようにアサニエルは呟く。
とりあえず、誰もひどい怪我を負わなくてよかったと安堵した。黒焦げになった恐竜を見て鈴音がその太い眉を縮めて指先で興味深そうに突いていた。
「あまり美味しそうじゃないわね、これ」
鈴音は、苦笑いを浮かべて何処か楽しそうに焼き鳥になった怪物を何時までも見つめていた。