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「……たまに出てくる変態な敵だけど、本当に何を考えてるのかな」
冷や汗を掻きながら猫野・宮子(
ja0024)は深い溜息を吐いた。白いワンピースにとても短い丈のスカートを履いている。傍らで一緒に歩くアサニエル(
jb5431)も頷く。
「やれやれ、あんまり関わり合いたくない手合いだね……」
嘆息しつつ髪をかき上げる。
地上に降りてからこの手の敵に幾度遭遇してきたのか。
宮子ともに何故かヘンタイディアボロとの遭遇率が高いアサニエル。
見かけるたびに何故か自分の寿命が縮まっていっている気がしないでもない。
「なんと! そんな変態さんがいるのですか!!」
話を聞いたキアラ・アリギエーリ(
jc1131)が吃驚して叫んだ。これまでに撃退士を苦しめた数々のヘンタイ達との武勇伝に思わず感嘆の声を上げる。
憤慨する堕天使保安官(自称)。人類の平和が変態によって脅かされている。
「保安官として、野放しにしておくわけにはいきません!」
伊達眼鏡に胸にバッジを付けた女子高生の制服姿で得意気に意気込みを語る。
「まあ囮とはいえ、私に必ず来るとは限らないのよねー」
間延びした声音で加賀崎 アンジュ(
jc1276)が辺りを見回す。巫女服の裾が物凄いミニ丈になっており、おまけにニーソックスを履いている。
途中で美味しそうな菓子を見つけて思わず買い食いする緊張感のなさである。
「たかが小娘相手に痴漢とは……悪魔陣営もよほど暇なんだな」
鉄の仮面に嘲笑を込めるエカテリーナ・コドロワ(
jc0366)。外資系のキャリアウーマン風のスーツを身に付けた彼女は近くのベンチに座って新聞を広げた。
「奴らの目的は不明だが、いずれにせよ街中にディアボロをのさばらせておくのは危険だ。事が大きくなる前にさっさとカタをつけるぞ」
黒いサングラスを光らせて新聞の隙間から辺りの様子をこっそりと伺う。
その時に不意に坂の向こうから長身の美少女が現れた。
(……本当、丈が短いな)
お嬢様女子高の制服に身を纏った縁木 辛(
ja5385)だった。
彼はれきっとした男である。
身目麗しい容姿に通りすがりの男性の誰もが振り返ってみてくる。あまりのミニスカの丈に困惑しながら辛は通りを歩いてくる。
「絶対に許せないわね……問答無用で滅さないと」
ぶつぶつと呟きながら敵意を静かに燃やすメフィス・ロットハール(
ja7041)。
何故か鋭い目つきで睨んでくるので辛は肝を煮やした。
まさかヘンタイって俺のことじゃないだろうな……。
「――てか、縁木の下着も女性用なのかしら」
坂下の家の屋上に寝そべりながらあんぱんを頬張る咲・ギネヴィア・マックスウェル(
jb2817)は緊張感の欠片もなかった。興味はすでに別の方向に向いていた。
変なことを妄想しつつ、さらに買い置きの菓子パンを平らげていく。ふと、その時、坂下の向こう側にトレンチコートを着た見るからに怪しい男がやってきた……。
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「いませんねぇ………変態さん」
その頃、坂下の本屋にてキアラが見張り担当していた。
立ち読みしたり本を探すふりをしてカメラ小僧を捜索するが見当たらない。
アンジュもミニスカートで店内の本を読みふけっている。
不意に何か光る物が地面に見えた。
なにか落としものかなと――不意に身を屈めたとき。
「きゃあああああああああ」
本棚の隙間からカメラを光らせた男が覗いていた。
細い隙間に体をねじ込ませていた。まさしくその姿はヘンタイである。
下から斜め四五度の角度でレンズを向けていた。
スカートの中を撃写しようと猛烈なシャッターフラッシュを浴びせる。
アンジュの叫び声を聞いてキアラが急いで駆け付ける。愛用のリボルバーを取り出して問答無用に撃ちまくった。怯んだように腰を引いてカメラ小僧が逃げ出す。
「非力な小娘相手じゃつまらんだろう。
代わりに我々が相手をしてやる、存分に楽しむがいい!」
カメラ小僧を待ち伏せていたのはエカテリーナだった。小僧のビルの死角から気づかれないようにアサルトライフルWD3をぶっ放す。
敵に攻撃されないように距離をとりつつ急所を的確に付く。
火を噴いた雨あられの弾丸に撃たれてカメラが無残にも砕かれた。
「四の五の言わずに黙ってやられなさい。そして私の報酬になりなさい」
やる前から報酬の話を始めるミニスカ不良巫女。
護符を片手に突き出してカメラ小僧に一撃を背中に食らわせる。
「まぁ、護符使えば何とかなるでしょう!」
悲鳴を上げながら地面に転がるディアボロ。
怒涛の攻撃を浴びせられてカメラ小僧はついに仰向けに倒れた。
アンジュは何度も何度もカメラを踏みつぶして報酬の話を持ち出す。
果たしてディアボロに報酬の話をして意味があるのだろうかとキアラは思った。
坂下の信号機ではアサニエルと宮子が突っ立っていた。不意に嫌な予感がして振り向くとなんと測溝の中から異臭を撒き散らしてディアボロが出てくる。
思わずのけ反ったアサニエルだったが、敵は宮子にむかって猛烈な扇風機をこれでもかと浴びせかけてきた。その瞬間に、盛大に宮子にスカートがめくれ上がる。
「ま、まえがみえないにゃああああああー!!」
スカートがめくれ上がって顔面に張り付いて前が見えない。
あまりの盛大な光景に周りにいた誰もが目を釘づけにしてしまう。
可愛らしいピンクの猫さんだった……。
悲鳴を聞いて加勢にやってきたのはメフィス。
だが、扇風機男は全くメフィスには興味なさそうだった。
年増には興味がないというようにあからさまに無視をする。怒ったメフィスが横から攻撃を仕掛けてきたので仕方なく扇風機をそちらに向ける。
盛大に翻るメフィスのミニスカ。
「いちいち戦うのに中なんか気にしてねーよ!」
普段から見せパンを履いているため気にも留めない。
だが、ディアボロは気持ち悪そうに吐く真似をした。
視覚的惨劇を見せられたとでもいうように酔った男はふらつく。
あまりのディアボロの失礼さについにぶち切れたメフィスは怒りの鉄拳を食らわす。
扇風機を吹き飛ばされて地面にたたきつけられる男。
すぐ傍には目の保養になる美脚があって思わず覗きこんだ。
「あんまり足に見とれてると、足元掬われるよ」
ディアボロがうっとりと美脚を眺めているとアサニエルが忠告した。魔法陣を展開してまずは敵の攻撃を封じた。しまっとという顔の扇風機男。
彼女がニヤリとした時はすでに遅い。
足元から現れた鎖の束に雁字搦めにされる。
呻きながら何故か頬を紅潮させて体をけいれんさせている。きつく縛れば縛るほど何故かディアボロは憂いを帯びた声をもらし続ける。
「何か微妙に喜んでいる気がするのは何でにゃ?(汗)
ともかく、さっさと倒してしまうのにゃ!」
宮子は戸惑いつつも冷刀マグロを取り出して振りかぶる。アサニエルも横から攻撃に参加して二人でボコボコに再起不能まで追い込んだ。
何度も何度も気持ち悪いその頭に向かって振りおろす。
「そろそろ止めにゃ! 必殺のムーンライト・マグロにゃー!」
乙女の恥をさらした怨みを込めて渾身の一撃を大事な急所に叩き込んだ。
ぎゃあああああああああああああああ
ディアボロは声にならぬ雄叫びを上げながら地面に崩れた。
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トレンチコートの男は前を歩いている辛の後ろをぴったりと追いかけていた。坂下の所までやってきた所で不意にトレンチコートが猛ダッシュする。
後ろからのただならぬ気配に気がついた辛が不意に振り返った時――。
バサア。
「きゃあああああああああああああああああああああ」
辺り一帯に女子高生の悲鳴が沸き起こった。
トレンチコートを脱いだ男は裸に際どい女性用下着を身に着けていた。
胸板の筋肉にブラジャーがめり込んでおり、ハイレグの下着の下からはまるで太い大根のような脚がすね毛ボウボウにはみ出している。
「くっ……これは、流石にき、きつい」
実は男性である女装をした辛でも流石にこれは辛かった。
視覚的惨劇に必死に耐える美少女の辛。
思わず吐き気を催すがぐっと口を押さえて堪える。不敵な笑みを浮かべつつ、にじり寄ってくる下着男に一歩も引かずに辛は囮としてその場に踏ん張る。
「こちらへの精神攻撃のつもりか? ……だが無意味だ」
下着男は金属バットを振りかぶってニヤリと嗤う。
身目麗しい美少女の辛を我が物にしようとバッドを下ろした時だった。
「んなもん見せられても、気持ち悪いだけだってんだよ!」
突然後ろから猛スピードでメフィスが突っ込んだ。目から炎の怒りを燃やした彼女の怒りの一撃が下着男の背中に突き刺さる。
激しい攻撃をくらって下着男は前のめりになって膝を付いた。
先制攻撃を食らって口から血を撒き散らす。下着男はメフィスに向かってコートをさらに全開にしようとたくらんできた。思わずぎゃああとメフィスは叫ぶ。
絶対にさせるものかとワイヤーを投げて巻き付けた。
絡まって身動きが取りずらくなった所でようやく咲が出てくる。ガヂラの鳴き真似で辺りにいる一般人にむけて吠えた。それを聞いた一般人がその場から避難する。
「なんてゆーか。下着つけてるから露出じゃなくて女の下着つける変態と露出が半端に混じってわけわかんないものになんなのこれ嫌悪感より疲労感が強いんですけどお腹すいた」
囮にかかった所を見計らって咲が地面に華麗に飛んで着地を決める。
俯きつつ、首のうしろからにゅーっとブリアレオスを引き抜いて、「うん、早く済まそ」と短くぶんと振りまわす。
ようやく我に返った下着男が咲に金属バットを向けた。
「ふっ、かわいい棒ね。ところで釘付き金属バッドってツッコミどころが二ヶ所あるんですけどバッドにはあえてツッコまないとしても金属バットに釘?
あほなの? あほなんでしょ!」
咲は叫びながら敵の金属バット攻撃を飛んで交わす。上空に逃げた咲は敵が隙を見せた瞬間にそのまま真っ直ぐに頭のてっぺんに叩き落とす。
頭をたたき割られながらも何とかその場を逃げようともがいた。
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坂を登ろうとした所で不意にエカテリーナがライフルを乱射させる。
「ぬけぬけと敵前逃亡するとは、貴様らの上官もよほど甘いんだな。
代わりに私が処刑してやる!」
乱れ撃ちを正面から受けて下着男はコートが吹き飛び、下着がぼろぼろになった。
人通りの多い道で仰向けに横たわる女性下着男。
「しまった……これではさらにひどくしてしまったではないか……うっ!」
エカテリーナは吐き気を催して何処かへと走り去る。
もったいないなあと思いつつ、ディアボロの傍で咲は黙とうする。
ちーん、と両手を合わせて目をつぶって冥福を祈った。
「お前たちも気を付けろ。街中にはどんな奴が潜んでいるか分からん。
自分の身は、自分で守ることだ」と仲間に注意を促してエカテリーナは去った。
これ以上あの場所に居るのは流石の鉄仮面でも無理だったようだ。
「まったく、たまには目の保養になる敵が出て来て欲しいさね」
地獄的なその後の片付けを経てアサニエルが愚痴を零す。イケメンディアボロとぜいたくは言えないが、もっとましな敵と相手したいと嘆息する。
「終わったか……俺は戻る」
辛は惨劇の後を見て静かにそう呟いた。
討伐が完了したら、着替えるために立ち去る。
あくまで仕事に貢献するための女装だった。
果たして彼は女性用下着を履いていたのか、いなかったのか?
真相は暗い闇の彼のミニスカの中。
彼はミニスカートを翻し、華麗にその場を後にする。
二度と後ろは振り返らずに――。