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「レディース&ジェントルマン! 今日はお待ちかねのかくし芸! まず最初の先陣を切るのは学園の奇術師によるエイルズのマジックショーだ!」
テンションの高いサングラスを掛けた司会者の男が観衆に叫んだ。
会場のステージには撃退士達が程良く集まって来ている。
クラッカーと色取り取りの紙テープが舞いあがり、タラリラリラリラ〜と音楽とともに最初に現れたのは奇術師のエイルズレトラ マステリオ(
ja2224)。
シルクハットにタキシードを纏った姿で一堂にお辞儀。
手を袖にやると可愛らしい子供のドラゴンのヌイグルミが現れた。
何処からともなく取りだしたぬいぐるみに観衆が拍手を送る。
チャックを開けて中の綿を丁寧に取りだしていく。空っぽになったことを観衆の方へ向けてアピールすると、エイルズは息を大きく吹き込む。
綿が一杯に入ったかのように再び膨らんだぬいぐるみ。
観衆が次に何が起きるのかと固唾を呑んでエイルズの手元を凝視したその時。
何も入っていないはずのぬいぐるみの脚が動いた。
どよめきの歓声がステージ内に巻き起こる。
ぬいぐるみはつたない動きでその場を飛んだり跳ねたりした。
何がどうなっているのか分からない。
中身がからっぽのぬいぐるみが突然に動き出したのだった。
可愛らしい動きにいつしか観衆も目を細めていた。一しきりぬいぐるみが動いた後、再びぺちゃんこになる。中に綿を詰めてエイルズが頭を下げた。
ステージが割れんばかりの拍手が起きてエイルズが華麗にステージを去る。
弁財天風の衣装を纏って現れたのは月乃宮 恋音(
jb1221)。艶やかで優雅な雰囲気を纏いながら裾を摘んで恭しく皆にお辞儀をする。
両手に抱えるようにして幽玄に満ちた琵琶を携えている。
ステージの椅子に腰を掛けると目を閉じて恋音は集中した。
観衆もその瞬間に静まりかえる。
「……ぎおんしょうじゃあの……かねの……こえぇ……」
ベベンッ
透き通るような声音が高らかにステージに響く。
思いの外にしっかりとした音程と声調に誰もが驚いていた。
琵琶を鋭く掻きならす低い音が曲を優雅に彩る。
「しょぎょう……むじょう……のぉ……ひびきぃ……あ……ありぃ……」
ベベン、ベンベンベンベン、ベベンッ
恋音の奏でる『平家物語』は高音と重低音が混ざり合う鮮やかなハーモニーだった。まるで京の都の宮廷で雅楽を聞いているかのような一時に誰もが拍手を送った。
「どうもお二人共素敵な演技をありがとう! 今日のかくし芸大会はとても楽しかったです。またの機会に、ではさようなら〜」
司会者の男が総括をしてステージの幕を引こうとしたその時。
「ちょっとまった! まだ私達がいる!」
ステージの脇から決死の形相で現れたのは雫(
ja1894)、黒神 未来(
jb9907)、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)だった。
途中で切られそうになってしまって慌てて出てきたのである。
「いやだって、今日は素晴らしい演技だったでしょ」
司会者の男はすっとぼけた。素人を越えたプロとも遜色のない演技をしてくれたエイルズと恋音の二人の演技の他に「今日は他に見るものがあるのか?」という表情をする。
ふんと、雫は澄ました顔で頷くとステージに昇って行く。
自信満々の顔に会場の誰もがただならぬ雰囲気を感じ取る。
何故か其処にはいつのまにか準備万端の麻雀台。
真剣な表情で椅子に座る雫。
さいころを華麗に振りながら次々と出す目を言い当てる。
「もし、アウルに目覚めて無ければ病院で教えて貰った人の元で技を磨いて女流雀士になっていたと思いますよ」
徐に手を伸ばしてカチャカチャと牌を並べ始める。
静けさに満ちるステージに響く牌の音……。
「学園に来る前でしたが、身寄りの無い私に生きる術として教えて貰いました」
憂いを帯びた悲しげな表情で次々に連続天和、連続役満、八連荘等を出す。
あまりの早業に一部のコアな観衆だけが驚きの声をあげた。
華麗に技を決めつけて雫はステージを降りようとする。その瞬間に、怪しい観衆のオジサンたちが取り囲んできてどうやったのかと質問を浴びせてきた。
「すみません、師事した方が容易に人には教えるなと言われたので」
まるで芸能人のようにリポーターをあしらって得意気にステージを去っていく……。
「俺のかくし芸は何と言ってもこれだな。『隠し毛』なんちゃって」
登場とともにいきなり寒いジョークを放つラファル。
一瞬でその場のステージが凍りついた。
嫌な予感がする……。そう誰もが思った時。
フェイクマスクをつけてラフアァルは恋音のものまねを始めた。
「おっぱいいみるくビームむうううう!! 貴方のハートをズキャン、ズキャンンン!!」
自分のないソレを掴むようにすると観衆に向けて叫ぶ。
顔は間違いなく恋音そっくりに変身していたが、ソレはあまりにも貧弱だった。
「ふぉおおおおおおお、恋音サイコオオ、もふもふもふっ!!」
変顔男に変身して今度は怪しい手つきを繰り返す。かと思うと、すかさず「気持ち悪いです、消えてください」とクールな表情で毒舌を放つ雫顔になる。
「エイルズのマジックショー! このトランプが鳩に」
続いて奇術師になったラファルはトランプを空に放り投げたが――取りきれずに地面に全て落としてしまった。あまりの観衆の静けさに思わず、「なんでそこで笑わへんやん、うちのギターでもしばいたろか」とヘンな大阪弁でギターを弾き始める。
ギュインンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン――
耳をつんざく音に会場の誰もが逃げだす。
司会者に強制的にラファルは退場させられていった……。
「え〜と、ギターに何かをプラスしてかくし芸にしようと思うで!
せっかくやさかい、抽選で何をするか選ぼうか。
用意した封筒から一個選んでな! その中に書いてあることやるで!」
気を取り直してステージに出てきたのは未来だった。ざわつく会場内を鎮めようと大きな声で叫んでみんなにアピールする。
まともなギター演奏が聴けるのではと少し期待が持てた。
事前に袋の中に用意していた封筒は、きわものばかりが入っており――ここで内容は明かすことはできなかったが―未来は勢いよくある一つの封筒を引き当てた。
未来は神妙な顔で封筒を破って内容を読み上げる。
『服を脱ぎながら「私の味噌汁に昆布をいれてえ」と叫びつつ僕をスクラッチしてほしい』
内容をみて困惑する未来――その目線の先には司会者の男。
もじもじしながら未来の方を熱心に見詰めている。
封筒の内容は司会者の男の完全な趣味だった。
「こんな変なもん、できるかああああ――!」
未来は司会者にタックルをくらわしてその場に組み敷いた。
卍固めを思いっきりしてギターをギュインンンンンンンンンンと掻きならす。
固められてなぜか嬉しそうな司会者が叫んだ。
「あっ、あっあっ、未来ちゃん、もっともっと激しくサいこオオオオオオオオオオ!!!」
その場で絶叫しながら歓喜の笑みをこぼしてついに果てる。
司会者の男が退場してかくし芸大会はお開きになったはずだった。
「えっ、だれかワスレテルアルヨ、ワタシアルヨ」
司会者のマイクを持ってステージに現れたのはチャイナドレスのツインテール美少女。
胸元が大きく開いていてスリットもかなり際どい。
似非美少女中国人の正体は――袋井 雅人(
jb1469)。
「私もこの学園に来たばかりの頃は完全に非リア充でした。
女にもてたい人は女になりきって、男にもてたい人は男になりきって、相手のことを勉強して下さい。男が望むもの女が望むものそれが分かれば……!」
非リア充の方々に向けて「非リア充のためのモテモテ講座」の熱弁を振るう。
彼女の一挙手一同に観衆は聞くどころじゃなかった。
一人、また一人と観客は席を立つ。
「ダカラ、ワタシとラブコメスルアルヨ!!」
雅人がついに切れた。
ステージを降りてきて叫びながら男を追いかける。
どこからどう見ても美少女にしか見えない雅人のヘンタイぶりにいゃあああと悲鳴がとどろいていた。きゃああああああとつぎつぎに観衆が逃げていく。
そして、会場は誰も居なくなった――。