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マスター:凸一
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:4人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/04/11


みんなの思い出



オープニング


 筋肉、筋肉、筋肉、筋肉、筋肉……
 上腕二頭筋、広腹筋、腹筋、大腿筋。
 見渡すばかりの美しい筋肉をしたマッチョな漢達。
 ポーズを決めながらこれでもかと自慢の筋肉を見せつける。
 まるで芸術を見ているかのような盛り上がった黒光りする筋肉の群れ。
「ああ、美しい……」
 増田剛三は思わず漢の筋肉に見惚れてしまう。
 オープンしたばかりの筋トレジムには物凄い筋肉の漢達のポスターが貼られていた。
 剛三は筋トレジムの経営者だった。
 長年にわたって筋トレジムを営んできたがこの度、施設の老朽化と若者を新たに取りこむために改築して最新の設備を整えた。
 充実した室内設備には筋トレマシーンが各種配備され、さらには日焼けサウナや室内プールなどを増設して筋肉を鍛えるための設備が整っていた。
 改築するまでは閑古鳥が鳴いていた。
 昨今の若者はあまり筋トレに興味がないらしくほとんど人足がなかった。
 剛三はそんな軟弱な現代の若者を嘆いた。
 もっともっと己を磨いて強くならなければならない。
 日本漢児たるものの自信と誇りを体現するために筋トレジムを営んできたのである。
 オープンにあたって美しい筋肉の漢達のポスターを店に張りまくった。
 だが、やはり若者は興味を示さないのかなかなかやってこない。
 このままではせっかくの投資金が無駄になってしまう。
「どうして、誰も来ないんだ? これでは日本が駄目になってしまう」
 剛三は自分の店と将来の貧弱な日本の未来を描いて嘆き悲しんだ。



「筋トレジムに若者を呼びたいから手伝ってほしいという依頼が来ています」
 斡旋所の女性職員はマッスルな男の写真を持ってきていた。
 何故かいつもより鼻息を荒くしながら説明を始める。
 依頼主は筋トレジムの増田剛三だった。
 筋トレジムを改築したものの、若者が全然やってこないという。
 このままの状況が続けば破綻することも考えられた。
 そこで剛三は筋トレジムを繁盛させるために、この場所が素晴らしいことをアピールするために実験的に誰かにまず使ってもらえないかと思い付いた。
「みんなには、筋トレジムで実際の設備を使用しながら、体を立派に鍛えた成果を若者にアピールすることで店の魅力を伝えてほしい。それではくれぐれもよろしくね」
 鍛えた成果を試す場所としてマッスル品評会を催す予定だった。
 そこで鍛えた筋肉を皆の前に披露する。
 女性職員はうっとりした表情で写真を抱えて部屋を足早に出て行った……。


リプレイ本文


「筋トレジムでーす! 学園の設備で満足できない方にオススメ! トレーナーが親切丁寧に指導します!」
 黒い長い髪にショートパンツの美少女がチラシを配っていた。
 太い眉に意志の強そうな瞳をした六道 鈴音(ja4192)。
 彼女は商店街で増田剛三の主宰するジムのチラシを配っていた。
「へえ、面白うそうじゃん、行ってみようぜ」
 興味を持った若い男たちがチラシを貰って行く。
「ああ、あの娘めっちゃ可愛い。あんな子がいるなら俺もいこうかな……」
 実は大半の男たちは鈴音目当てだったが。
 無理もない。撃退士の中でも鈴音はかなり人気があった。
 端正な顔立ちに愛きょうの良さそうな太い眉。
 本人は気にしているみたいだが、実は結構チャーミングである。
 おまけに性格も良くて仲間思いだった。
「エクササイズ効果もバッチリ! 楽しく身体を鍛えれらまーす!」
 通りかかった女性にも鈴音は笑顔でアピールする。
「ダイエット効果もあるんだ、ちょっとのぞいて行こうかしら」
 鈴音は女性からも人気があった。
 彼女の人脈も相まってチラシはすぐになくなった。
 若い女子が増えれば、男子は勝手に増えていく作戦。
 次々に可愛い女の子がジムに向かって行く。
 それを追うようにして男子が続く。
 鈴音の作戦は功を奏した。
 今度は学園にポスターを張りに鈴音は忙しそうに走り去る。



「うううん……はあ……はあ……ううんっ、はあ……」
 揺れるモヒカン。黒光りする筋肉。
 ジムに木霊する掛け声。滴り落ちる汗。
 ガシャンン、ガシャンンン!!
 猛烈な勢いでマシーンを上下させる魅惑の天使。
 マクセル・オールウェル(jb2672)が目を閉じて唇をかみしめる。
 ガシャアアアアアン、ガシャアアンンン。
 あまりの勢いでマシーンが悲鳴を上げそうになっている。
「誰だ、あの漢は、すごい勢いだぞ!」
 店でトレーニングしていた男たちがあまりの凄さに騒ぎ始める。
 金色のモヒカンに黒いゴツゴツした筋肉。
 けた外れのパワーに見る者が圧倒されていた。
 只者ではなかった。
 鍛え抜かれた筋肉に追随する者は皆無。
 そう、マクセルこそ誰もが知る撃退士の中の漢。
「はあ……はあ……ううんっ、はあ」
「いいぞ、マクセル、その調子だ! 気合入れていけ」
 ジムの経営者の増田剛三が雄叫びを上げた。
 マクセルの傍についてトレーニングのアドバイスをする。
 こんな漢がいたとは剛三は舌を巻く。
 一目見て剛三はマクセルを気に入った。
 盛り上がる隆々とした筋肉はまるで若い頃の自分を見ているようだ。
 嬉しかった。未来の日本を背負う逞しい漢の出現に。
「――ええと、こうでいいのかな?」
 カチャン、カチャン。
 後ろの方で静かにトレーニングをしている男がいた。
 若杉 英斗(ja4230)が隅でマシーンを動かしていた。
 眼鏡の下から既に大量の汗を掻いている。
 どちらかと色白で筋肉はあまり付いていない。
「こら、英斗真面目にやりなさい」
 デジカメを持ちながら近づいてきたのは幼馴染の鈴音だ。
 鈴音の登場に英斗はバツが悪そうに体を竦ませる。
 意志の強そうな太い眉に長い髪に端正な顔立ちをしていた。
 プロポーションもかなりよくて鈴音は間違いなく美人である。
 美女の登場に店内の男たちのテンションがあがった。
 鈴音の宣伝の御蔭で店内はかなり盛況だった。
 良い所を見せようと集まった男たちはあからさまにトレーニングに気合を入れ始める。
 鈴音の登場は皆に効果抜群だった。居るだけでその場が華やかになる。
「やっぱり、華があった方が人目を引くと思いますよ」
 鈴音は剛三にある提案を持ちかけた。
 デジカメでマクセルや英斗の筋トレ姿を激写する。
 そのポスターを町中の至る所に張って仲間を増やす作戦だ。
 剛三も内心ものすごく嬉しかった。
 こんな綺麗で可愛い女の子が来て協力してくれるなんて。
 ズルズルッ――思わず涙と鼻水が込み上げてくる。
「剛三さん、鼻水が我が輩の頭に!!」
 マクセルが叫んだ。剛三のすごい長い鼻水が自分のモヒカンに!
「おっといけない、マクセル次は三角筋だ! 気合入れていけよ」
 剛三は話を反らした。マクセルも三角筋と聞いていつもよりも気合を込める。
 もう少し三角筋を鍛えたいと思っていた所だった。
 肩幅が狭く、逆正三角形には程遠いであるからな……。
「肩幅が狭くなっている。頭が相対的に大きくてカッコ悪い。
三角筋はボディビルで重要な要素だ。
よし、次はフロントレイズ、サイドレイズ、五百本ずつ!」
 剛三に手加減というものは存在しない。
 すぐに厳しいトレーニングが待っていた。
 マクセルはやはりこの男は筋肉のことをよくわかっていると納得した。
 笑顔を作りながらカメラに向かって微笑みかける。
 ニヤリ。
 思わずぞっとするような笑みだった……。
「ふんっ、はぁーっ!」
 マクセルが目に力を入れて雄叫びを上げた。
 見ていた兵の男どもが鳥肌をつくってうろたえた。



 鈴音はマクセルや英斗達のトレーニング姿を激写し始める。
 こんな素敵な幼馴染がいるなんて羨ましいとその場にいた誰もが思ったが、当の英斗は全く気が付いていない。それどころか不謹慎な問いを剛三にする。
「ところで、筋トレで身体を鍛えたら、俺も女の子にモテモテになりますかね?」
 英斗は剛三にいきなり質問した。
「まあ、頑張り次第だな」
「ぃよしっ! モテモテになるために、がんばるぞっ!」
 それまでどこかやる気が感じられなかった英斗の目に火がついた。
 モテる為なら何でもやる。現金な男だった。
 すごくモテたかった。
 可愛い女の子に囲まれてウハウハしたい。
「モッテーモテモテ! モッテーモテモテ!」
 バーベルに変えて英斗はさらに奮起した。
 実はつい先日の依頼の戦いでひどい負け戦をしていた。
 落ち込みが激しくて見るに見かねた鈴音が気分転換に誘ってくれたのである。
 何とか新しい目標を見つけて英斗はようやく生き生きとし始めた。
 モテる男になる為に。英斗はバラ色の人生を思い描きながら励む。
「それじゃ、私はまたポスターとチラシを配ってくるから。英斗はサボるんじゃないわよ」
 鈴音はきっちりと英斗に釘を刺して外に出て行った。
 彼女が出て行ってあからさまに皆のテンションが下がる。
 入れ違いに誰かが店内に入ってきた。
「おおっ、なんだあの娘は? すげえ美女だ……」
 その時、観衆の男の一人がどよめいた。
 振りかえると背の高い美女が点内に入ってくる所だった。
「『久遠ヶ原の毒りんご姉妹』華麗に参上! ですわ」
 美女の正体はクリスティーナ アップルトン(ja9941)だった。
「ミスター増田、今日はよろしくお願いしますわね」
 剛三に挨拶をすると早速上着を華麗にその場に脱ぎ捨てる。
 うおおおおおおおお!
 観衆が思わずどよめいた。
 エアロビクスをするようなレオタードからすらりと伸びた脚。
 まるで青りんごの色の黄緑色をした刺激的な格好。
 長い金髪を縛って艶めかしいうなじが見えていた。
「こうしてマシントレーニングで汗を流すのも、気持ちいいものですわね」
 クリスがダンベルでトレーニングを開始する。
 傍には大勢の男たちが押し寄せてきた。
 笑顔を振りまきながら掛け声をかける。
「マッスル! ハッスル! ですわ」
 ガシャン、ガシャン! 大胸筋を鍛えるマシンがだいぶ気に入ったらしく何度もこなす。
「ううん、はあ……はあ、なかなか、きついですわね」
 クリスは今度はバーベルを持ちあげる。
 流石のクリスも一番重いバーベルはきつかった。
 それでも息を乱しながら気合で持ち上げる。
「はあ……あっ、ぁつ……ううん、はあ……はあ」
 色っぽい声がジム内に木霊する。
 艶めかしい黒子に汗が滴っている。
 店内の男たちは静まり返っていた。
 唾を呑みこみ、クリスの一挙手一動を見守る。
 大きく広げた脚の太ももが緊張で小刻みにプルプルと震えている。
 蕾のような赤い唇から絶え間なく漏れる吐息。
 ゴクリ。誰もが目を離せない状況。
(クリスさん、今何やって……?)
 もはや英斗はそちらが気になって仕方がなかった。
(クリスさん、イイなぁ)ポワ。はあと。
 振りむくと汗を流すクリスがいやに艶めかしい。
 頬が赤くなってしまう。最高の眺めだった。
「さぁ、貴方もレッツ! トレーニングですわ」
 クリスが皆に最高のウィンクをしみせる。
 英斗がドキッとしてよそ見をした瞬間だった。
 ガチャアアンンン!
「いだあああああああああああああああっ!」
 英斗が絶叫した。
 バーベルを持つ手を滑らせてしまった。
 錘を足の指の付根に思いっきり落としてして泣き叫んだ。
「りんねええええ、いたいいたいよおおお、たすけてええええ」
 思わず幼馴染に助けを求めたがそこには誰もいない。



 店内に設置された特設ステージの前に人だかりができていた。
 マッスル品評会。
 ジムで鍛えた筋肉を披露する日がやってきた。
 すでに会場は熱気で彩られていた。
 盛り上がる筋肉と会場。
「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
 始まる前から会場はヒートアップしている。
 短期間ではあるが体を存分に鍛えた猛者達も集まっている。
 お互いに絶対に負けられないと自慢の筋肉を張りあう。
 剛三と鈴音が審査員席に座って男たちの筋肉の講評を行っていた。
「エントリーナンバー一八番、若杉 英斗!」
 申し訳なさそうに出てきたのはひょろひょろした男。
 やっぱりムキムキにはなれなかった。
 それでも周りには大勢の若い女の子が見ている。
「ふん! ふん! ふんぬっ!!」
 身を屈めて腕をまわしてポーズを決めた。
 上目遣いのドヤ顔で白い歯を零す。
 決まった! これで女の子は俺にイチコロだぜ!
 英斗はこの日の為に密かに練習していたポーズを決めつけていた。
 内心自分のあまりのカッコよさにうっとりとしかけた時――
「鈴音ちゃん、彼はどう?」
 剛三が審査席の横に座る鈴音に意見を求める。
「よくこの場に出てこれたかと思う程虚弱な体つき。無意味なポーズがさらに彼の筋肉のなさを強調してしまっている。一言で言うとスルメね。
――あと、その気持ち悪い笑顔はやめて。見苦しいから」
「……えっ……鈴音そんな……」
 幼馴染のあまりに辛辣な言葉に絶句した。
 真っ青な顔をして係員に強制的にその場を退場させられる。
 身内だからといって甘い採点をするつもりはなかった。思わず本音で言ってしまったが、それも英斗を思ってのことである。調子に乗りやすいタイプだけに。
 会場内からは憐みの視線を終始若い女の子から受けていた。
 いてもたっても居られずに英斗は逃げ出す。
「エントリーナンバー十九番、クリスティーナ アップルトン!」
 うおああああああああああああああああああああああああああああああああ!
 この日一番の歓声がこだました。
 ビキニに身を包んでクリスが登場した。
 ステージに現れたのはまさにモデルと見間違わんばかりの美女。
 長い脚にすらりとした体型。長い金髪を掻きあげて前かがみになる。
 豊満な胸がちらりとビキニから見えると会場内がどよめいた。
 クリスのムチムチダイナマイトが炸裂する。
 その時だった。マクセルが負けじと自分の番を待てずに乱入する。
「むうぅぅぅぅんっっ!  はぁーーっっ!!」
 突然男たちの前に立って荒い掛け声を行った。
 見ていた観客達が度肝抜かれる。
 ポーズは魅惑のダブルバイセップス。
このポーズが最も逆三角形を強調する。
 ラットスプレッド(バック)とも迷ったが……やはりこれしかなかった。
「筋肉とは!
我が魂、我が根源!
力強さの象徴にして男の夢、憧れ、命!
筋肉無くして我輩在らず!
我想う、故に我筋肉!!
ノー・マッスル、ノー・ライフ! であるぅーっ!!」
 きゃあああああああああああああああああああああ!!
 会場内は悲鳴があがった。
 あまりの強烈なマクセルの魅力を至近距離から見て誰かが卒倒した。



「日本漢児、私は素晴らしいと思いますわ。
どんどん増えるといいですわね、ミスター増田」
 モデルのような美女のクリスと握手をして剛三はご満悦だった。
 品評会は圧倒的ぶっちぎりでクリスが優勝した。
 全くムキムキではなくムチムチだったが誰も文句はなかった。
 マクセルは増田剛三賞を貰って景品に剛三のブロマイドが贈られた。
「吾輩にこれをどうしろと……」
 ムキムキにポーズを決める剛三の姿。
 とりあえず見なかったことにしてポケットに閉まった。
 我が妹にでもあげよう……
 品評会は成功に終わって人だかりが絶えなかった。
 これならジムの繁盛は間違いないだろう。
 鈴音はほっと一息を吐いた。
「ところで鈴音……俺ってそんなに魅力ない?」
 英斗がおそるおそる聞いてきた。
 さっきの言葉が本気かどうか確かめたくなったのである。
「別に。英斗は英斗で良さがあるんだから、無理しなくてもいいんじゃない」
「鈴音……」
 ぶっきら棒な言葉だったが鈴音の言葉には優しさが込められていた。
 思わず感激して涙が出そうになった時だ。
「――まあ、目的のためには多少の犠牲はやむを得ないし」
「そんな、鈴音!」
 そうだった。仲間思いだがこういう所は実にシビアだった。
 だけど、英斗は幼馴染の鈴音の気持ちに気づいていないわけではなかった。
 おそらく調子に乗りやすい自分を思ってのことだったのだろう。
「今回はありがとう――おかげで気持ちが吹っ切れた」
 素直な英斗の言葉に鈴音もとびきりの笑顔で返した。


依頼結果