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マスター:凸一
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/28


みんなの思い出



オープニング


 深い闇夜に昇る赤錆色の月。
 禍々しい光が暗くて重たい雲の中から怪しげに照らし出す。
 鎮守の杜は異様な気配に包まれていた。
 辺りを覆っていた霧が晴れて、目の前には大きな神社の石段が続いているのが見えた。
 夜中にお参りに来た地元に住む初老の男性が息を呑んだ。
 いつもとは様子が異なっていた。この世ではない者が蠢くような気配。
 神社に祀られているのは落ち武者だった。
 大昔に戦に負けて遁れてきた武士はこの地で殺害された。
 以後この村の鎮守神として丁寧に祀られたという言い伝えが残る。
 初老の男性は神社の見回りを担当していた。これまで長年に渡って見守ってきたが、今日のように怪しい雰囲気を感じたことはない。男は唾を呑みこんだ。
 境内の方角から怪しい音が聞こえていた。砂利を蹴る何者かがいる――。
 男性は頭だけだして恐る恐る視線を向けた。
 鬼のような形相をした武者がいた。
 暴れ馬を操りながら弓矢を番えている。よく見ると武者は鬼夜叉の面を被っていた。
 傍には大きな狛犬が大きな牙を開けながら吠えていた。
 武者の言うことを聞くように狛犬が大きな口を開いた。
 一斉に火炎弾を吐きながら境内を暴れまわる。
 まるでそこはこの世ならぬ地獄絵図だった。
 見つかってはいけない、見つかってはいけない――。
 男性が気付かれないようにそっと降りようとした時。
 不意に鬼夜叉がこちらを振り返る。
 その瞬間、鬼と目があったような気がした。
「ああああ、あああああああ――」
 男性は声にならぬ悲鳴を上げて一目散に石段を駆け下りた。



「真夜中の村の神社にディアボロの鬼武者が現れる」
 斡旋所の女性職員がおもむろに口を開いた。
 鬼武者の神像と狛犬の姿をしたディアボロが村の鎮守に現れるのだという。
 地元の住民たちは祟りだとか呪いだとか騒いで神社に近付けなくなってしまった。
 来月には神社の大祭もあり、今のままでは準備や祭りも開けない。
 そこで暴れまわっているディアボロを討伐する依頼が持ち込まれたのである。
「現場には騎馬に乗った武者の他にも狛犬の姿をしたディアボロがいるわ。狛犬たちは武者に付き慕うように動くみたいだからくれぐれも気を付けて」
 女性職員はそう言い残すと足早に部屋を去っていった。


リプレイ本文


 赤錆びた月が雲間から石段を照らし出す。
 永遠に続くかとも思われる地獄の回廊が頂まで伸びている。
 辺りは白い線香のような霧で覆われ、まるで葬式のようだった。
 視界はあまり良く見えないが、鳥肌の立ちそうな不気味な気配が辺りを支配している。
 深い闇の向こうで獣の遠吠えがはっきりと聞こえてきた。
「夜の神社を徘徊する鬼武者と狛犬か……時期が時期なら怪談話になりそうだね」
 冷静な佇まいで日下部 司(jb5638)は頂きを見上げる。
 まだ寒いこの時期に怪談――階段は似合わない。
「変身っ! 天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!!」
 鋭い視線で頭上を睨みつける千葉 真一(ja0070)が叫んだ。
 戦闘服を華麗に纏って吠えた。敵は手ごわいと見えた。
 だが負けるわけにはいかない。撃退士のヒーローの名にかけて。
 真一は拳を叩いて気合を入れてブーストを発動させて一気に現場を目指す。
「奴らにこれ以上のかってはさせない」
 静かな闘志を燃やしたキュリアン・ジョイス(jb9214)が決意を込める。
 リーフナビールを召喚する。戦闘準備を整えて敵の方を凝視した。
「お化け……みたいなもの、なのです……?」
 艶やかな着物姿の華愛(jb6708)は闇夜でも輝いていた。
 いつもよりもその端正な眉を顰めて不安そうに両手を握っている。
 お化けの類が苦手で緊張している。
 落ち着かせるように呼吸を整えてすぐにフェンリルを召喚する。
 頼もしいりるさんに乗ると幾許か安堵することができた。これなら何とか戦える気がする。
「水無瀬の名に懸けて、必ず止めてみせます」
 脚甲をしっかり巻き直した水無瀬 雫(jb9544)が立ち上がる。
 目の前に立ちはだかる階段に足を掛けて登り始める。
 スナイパーライフを肩に担いだ西條 弥彦(jb9624)も足元を滑らせないように慎重に皆の後に続いた。
「……どうせ出るなら、石段の下に出てきて欲しかったよ」
 アサニエル(jb5431)は高い頂の先を見て思わず愚痴を零す。
 流石にこの険しい階段を上るのは撃退士といえども骨が折れそうだ。
「――石段? 俺は修行はご勘弁や。地獄なら見飽きてるしな」
 闇に紛れたゼロ=シュバイツァー(jb7501)は颯爽と黒服を翻す。
 風にはためかせて体が隠れたかと思うと闇夜に颯爽と姿を眩ます。ほな、先に行くで、と言い残して消えた。
 負けじとアサニエルは自力で敢えて踏破する険しい道を選んだ。
 皆の後を追うように勢いよく駆け上りながら敵の待つ境内へと突き進んでいく。



 果てしなく続く石段をフラッシュライトで司が照らし出す。
 灯りを頼りにして撃退士達が勢いよく頂上に向かって突き進んでいく。
 周りは鬱蒼とした杜に囲まれていた。石段の端を登りながら警戒していた時だ。
 不意に林の奥から物音がした。身構えた瞬間に素早い何かが襲いかかる。
 口から大きな牙を零した狛犬だった。口を阿の形に広げて噛みつこうとしてくる。
「さあ、Showtimeだ!」【Contact!】
 キュリアンが風を纏った武器で突入する。到着した真一も仲間の攻撃に合わせる。
「その荒ぶる御霊、俺たちが鎮めてみせる!」
 颯爽と先制攻撃を放つと敵も体に直撃受けてその場を離脱する。
 すぐに方向を変えて今度は司に的を絞った。
 素早い動きで司は肩を狙われた。激しい衝撃ともに司は歯を食いしばる。
 予想以上の速さに司は石段を滑り惜しそうになってしまう。
 敵は一撃で素早く林の中へと隠れた。さらにその反対側から別の一匹が襲う。
 阿吽の呼吸で敵は連携して襲ってきた。
「喰らえ、ゴウライブラスト!」
 真一はライフルを構えて吽をめがけてぶっ放す。
 敵は弾幕から逃れようした。だが、もう片方から弥彦が銃をスナイパーで狙う。
 挟み撃ちにされた吽は行く手を阻まれてしまった。
 前後から真一と弥彦に狙い打たれる。吽はなすすべなくその場で乱れ撃たれた。
 敵は脚を撃たれて石段に躓いた。
 端を掛けあがっていた雫が応対に当たった。
 すぐさま飛びかかって脚を振り上げる。
 グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
 雫の一閃が迸ると獣は咆哮した。
 吽は顔面に強烈な蹴りを叩きこまれると吽は石段を転げ落ちていった。
 撃退士達は次なる敵の攻撃に備えて一斉に警戒を強める。
 敵が隠れた林を凝視していた時だった。
「後ろだ! 気をつけろ」
 キュリアンが声を大きくして叫んだ。
 司が振りむくといつの間にか阿が背後に回っていた。
 一瞬早く気がついたキュリアンがディサイドストライクで仕掛ける。
 阿が襲いかかってきたところを狙って放った。敵は体に強い衝撃を受けた。
 よろめきながらわれ先に林の奥へと逃げ込もうとする。そうはさせないとりるさんに乗った華愛が敵の体に上から覆いかぶさろうとした。
 華愛は上から狙いを澄まして顔面に鎚を叩きつける。
 大きく悲鳴を上げたよろめきながら阿は逃げるように林の奥へと突っ込んだ。
 敵は重傷を負いながらも何とか態勢を整えようとしていた。
 満を持して敵は電光石火の動きで再び牙を向ける。
「悪いけど、逃がさないよ」
 司は今度は敵よりも素早く動く、二度同じ手に乗るわけにはいかない。
 大きく跳躍して敵の背後へと回り込む。体に傷を負っている敵のスピードが落ちていた。司は勝機を見出していた。絶対に敵より早く動いて見せる!
 狙いを澄まして一気に腕を多く振りかぶる。
一瞬の隙をついて裏に回ったウエポンバッシュで仲間の方へ吹き飛ばす。
 キュリアンは待ち構えていた。
 火球を放ってくる阿を避けるようにして身をこなす。
「これで決まってくれるといいんだけど!」【YES!コンタクトストライク!】
 召喚獣が敵の懐を狙って逆に突っ込んだ。
 強烈な体当たりの一撃を叩きこむ。
 敵の額にひびが入って粉々に砕け散った阿は林の中へと落ちて行った。



 鬼のような形相をした武者が刀を抜いていた。
 広い境内の真ん中で騎馬に乗っている。
 異様な重苦しい空気が辺りに立ち込めている。
 刀を赤錆の月に掲げるとまるで赤い血が刃に流れているように見えた。
「……はあ、はあ、まったくやっと着いたわ」
 アサニエルが息を切らしてたどり着くと鬼武者が刀を振り上げる。
 苦労して登ってきたんだ。ここまでして負けていられない。
 ヴァルキリージャベリンで鬼武者騎馬両方とも薙ぎ払う。
 鬼武者は攻撃を受けて後退した。アサニエルに敵意をむき出しにする。
 刀を振り上げて襲いかかろうと一歩づつ迫る。
 敵に意識が向いて一瞬途切れた時だった。
 疲れていたはずのアサニエルが不敵に笑ったと同時に地面から何かが跳び出す。
「さぁ、おねんねの時間やで?」
 ゼロは笑みを浮かべた。
 一気に地面から突き出たゼロはそのまま騎馬のつま先に鎌の一撃を叩きこむ。
 不意を突かれた鬼武者が地面にたたき落とされた。
 鬼武者は激しく怒りを露わにしているようだ。
 高らかに刀の切っ先をゼロにむかって付きつけてくる。
 ゼロは鬼武者と激しい鍔迫り合いを行った。
 刀傷にやれるがすぐに回復を試みて態勢を立て直そうとする。
 鬼武者も攻撃を一気に畳みかけようとして背後に執拗にまわろうとしてきた。
「まともに相手すると思ったか? それに速さ勝負やったら負けへんで」
 ゼロは攻撃を仕掛けながらうまく立ち回って後ろを取らせない。
 次第にいらいらが募ってきた鬼武者は刀さばきが荒くなる。
 騎馬もゼロの後ろに回り込んで突進してきた。
 ゼロが狙われているのを見てアサニエルがすぐに援護に向かう。
 審判の鎖を放って騎馬の体を封じ込めようと狙った。狙われた騎馬は動きを封じられる。
「縛られるのは嫌いかい? あたしは縛るのは大好きだよ」
 虚空から現れた鎖に絡めとられた騎馬はもがきに苦しみ始めていた。
 不意に阿吽を倒した撃退士達が石段を駆け上がってきた。
 ゼロとアサニエルが奮闘しているのを助けようとして二体の間に割って入る。
 司がアサニエルと協力してシールドで敵を封じる。
 騎馬の暴れを抑えている今がチャンスだった。
「………鬼さんのが、もっと怖いのです……」
 恐ろしい騎馬と武者を見た華愛は思わず呟いたが気を取り直した。
 すぐに騎馬の元へ向かってりるさんともに体当たりを仕掛けて薙ぎ倒す。
 騎馬は慟哭した。踏みつぶされそうになって悲鳴にならない雄叫びをあげる。
 何とか後退して敵から逃れようとしていた。
 そうはさせまいとキュリアンが横から不意を突いて攻めに出る。
「魔法使いの戦い方ってやつを、見せてやるよ!」【YES!ディサイドストライク!】
 風の槍を射出し敵の体を射抜いた。貫かれた騎馬が雄叫びをあげる。
 抵抗するまでもなく大きな体を地面に倒して敵は息絶えた。
 騎馬が倒されて慟哭した鬼武者が滅多切りをしてゼロを苦しめ始めた。
 雫と真一はゼロとは別の方向から攻めに出た。
 鬼武者と雫が至近距離で一騎打ちになる。
 激しい刀の切り合いに流石の雫も打ち倒されそうになる。
「幾らこの身を焼かれようと斬られようと絶対に倒れません。
こんな処で立ち止まっている暇はないのです。もっと強くなりませんと!!」
 血を出しながら雫はそれでも負けるわけにはいかなかった。
 仲間に攻撃をさせないように必死に食い止める。
 真一と弥彦がその隙に鬼武者の後ろから激しい銃撃を浴びせて後退させる。
 鬼武者が雫から離れた隙を狙って真一が今度は前に出る。
「ゴウライ、流星閃光キィィィィック!!」
 至近距離から真一の必殺技が炸裂して鬼武者の体がよろめいた。それでもなお、最後の気力をかけて鬼武者はそのまま倒れ込むように刀を振り上げて一気に振りおろしてくる。
 狙われたゼロは正面から受け止めるかのように見えた。
 敵が振りおろそうとしてきた手をわざと邪魔して怒らせる。
 鬼武者がそれでも脚を踏みこんできたところに、わざと脚を蹴りとばして邪魔した。
「あいにく俺は武士道とかないねん。勝ったもん勝ちってやつや!」
 砂利道のよろめいたところを見のがさなかった。
 敵の首元に鋭い一閃を浴びせた。
 電光石火の一撃で敵の首が切り離されて落ちる。
 ゼロは討取った首を高らかに掲げて勝利のかちどきを叫んだ。



 鬱蒼とした霧が晴れ渡って邪悪な気配が消え去った。
 厚い雲の合間から月が再び辺りを明るく照らし始めていた。
 ディアボロは全て倒されて村の鎮守には再び静寂が訪れていた。
 境内のあちらこちらに残骸が散らばっている。
 すでに動きを見せない敵に華愛もようやくほっと一息を吐いた。
 もう怖がらなくてもいいと安堵しながら愛しの可愛い相棒の頭を撫でる。
「……俺、昔から不思議だったんだが……」
 何で祀られると自分が殺された所でも鎮守する神さんになるんだ? 
 仏教的に手厚く葬られたっていうならわかるんだが……。
 弥彦は戦いが終わった今でもよくわからなかった。
 答えがでないまま疑問を口にして残骸を見つめる。
「倒すしかなかったとは言え、何で此処で暴れてたのかは気になるとこだな」
 真一は首を討取られた鬼武者をみて呟いた。
 神社に祭られていた祭神の石像はこの地で非業の死を遂げた武士だった。
「……改めて弔ってやらないか?」
 真一は膝まづきながら残骸を拾い集める。
 厚く葬ることでもしかしたら――非業の死を遂げた武士も安堵するかもしれない。
 もしかしたら地元民は祟りを恐れていたのではないか。
 今となっては真相は闇のままだ。
 真一はそれでも自分のやれることをしようと思って後処理を黙々と行う。
「……帰りもここを下るんだね」
 帰り際にアサニエルが一人ごちる。
 溜息を吐いて登ってきたときの苦労を思い出す。
 石段の上から見える下界は果てしなく遠いところに見えていた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 天拳絶闘ゴウライガ・千葉 真一(ja0070)
 天に抗する輝き・アサニエル(jb5431)
 縛られない風へ・ゼロ=シュバイツァー(jb7501)
重体: −
面白かった!:5人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
天に抗する輝き・
アサニエル(jb5431)

大学部5年307組 女 アストラルヴァンガード
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
竜言の花・
華愛(jb6708)

大学部3年7組 女 バハムートテイマー
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
魔法使い・
キュリアン・ジョイス(jb9214)

大学部6年3組 男 バハムートテイマー
天と繋いだ信の証・
水無瀬 雫(jb9544)

卒業 女 ディバインナイト
撃退士・
西條 弥彦(jb9624)

大学部2年324組 男 インフィルトレイター