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「――天魔も暖かくなると変なのが湧くのかな?」
名門女子高のブレザーを着こんだ神凪 景(
ja0078)が呟いた。
舞台はお嬢様学校で有名な女子校の寮。
男子禁制の桃源郷に不埒な変態ディアボロが出るというのだ。
「こういう変態には死あるのみ、だね」
桐原 雅(
ja1822)がきっぱりと答える。
雅はド派手な下着を密かに懐に忍ばせていた。
万が一の餌用であるが、もし落としてしまって自分が履いていたものだと思われたら恥ずかしい。
落とさないようにしっかりと握りしめて雅は寮へと急ぐ。
「変態さんは滅殺すべしって習ったのだ♪」
雅と違って焔・楓(
ja7214)は天真爛漫な笑顔を見せる。
実はあまり変態のことをわかっていないのではないかと仲間は不安になった。
どこか変態に逢えるのを楽しみにしているかのようにも見える。
「中身より布のほうが好きだなんてね」
不敵に笑う藤白 朔耶(
jb0612)は、実は内心少し緊張していた。
依頼に出るのが相当久しぶりである。一体最後はいつだったか――
たしか女子高生のはずが――いつの間にか年を取って大学生になっていた。
時間とはとても恐ろしいものであると思わずにいられない。
しかも今回の敵は変態である。何か変なことが起こりそうな予感。
自分のあられもない想像をして変な感じの汗が流れる。
「女性の敵……許しません……!」
秋姫・フローズン(
jb1390)はしっかりと声音を張り上げる。
見た目はか弱そうだが、女の敵だけは絶対に許すわけにはいかなかった。
どこか女王様のような冷徹な双眸が妖しく光っている。
「――さて、乙女の花園にたかるハエは叩き潰さないとね」
やれやれ、といった感じでアサニエル(
jb5431)が髪を掻き上げる。変態や変な敵に何故か縁のあるアサニエルは慣れた足取りで堂々と寮に向かう。
「下着泥棒とは不埒な……! 女性の敵、ですね。
必ずや天誅を与えてやりましょう。もう2度と日の目は見られないと思いなさい」
水城 要(
ja0355)は堂々と女性を代弁して怒る。
見た目は紛れもない美少女に誰もが納得しそうになった。
だが、要は実は男だった。撃退士にもうっかり間違えられるが、男である。
男子禁制の場所に現れた要は全く気にせず女性陣の後を追う。
さらにもう一人、もじもじとした胸の大きい妖しい女子生徒がいた。
そこへ不審に思った警備員が声をかける。
「ちょっと君、見かけない顔だね」
「………」
神谷春樹(
jb7335)だった。すでに変身の術で完璧な美少女になっている。
胸が大きくてはちきれそうになっている。
ツインテールの童顔の美少女でその体は見る者にとって毒だった。
どうやら警備員は胸の大きさに違和感を抱いたようだ。
ずっと興味深そうに凝視してくる。
何故か美少女は口をかたくなに結んで喋らない。
通りかかった学園の警備員に呼び止められそうになるが、慌てて景が春樹の腕を引っ張って強引に寮の方へと連れ出した。
危ないところだった――と春樹は冷や汗を書きながら現場へ急行する。
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綺麗な真新しい寮の周りは鬱蒼とした木々が生い茂っていた。
外から死角になっており、ヘンタイ達が姿を隠すには絶好の場所でもある。
秋姫は寮の二階の部屋から木の上に器用に飛び移って待機する。
敵に悟られないように身を隠してヘンタイ達が来るのをひそかに待つ。
雅も秋姫が隠れた木々の下陰に潜んだ。
二階寝室の窓を見張るのに適した場所に身を潜めて待機し敵が動くのを静かに待つ。
屋根裏に向かったアサニエルも物質透過して緊急時に備えた。
不意に気配がするとレスラーのマッチョな女子高生が堂々とやってきた。
まったく気にするそぶりも見せずに玄関から入ってくる。
あまりの堂々ぶりに玄関の掃除をしていた要も言葉にならなかった。
なんて……醜悪なんだ、まさしくこれがザ・ヘンタイ!
目をぎらつかせて何かを物色している。
「自分は男だ!」とこちらから宣言した時だった。
不意に要と目が合ってレスラーは不敵な笑みを浮かべた。
下着を奪うべく猛烈なタックルをこちらに向けて仕掛けてくる。
跳躍しながら何とかかわした要は寮内の食堂へとおびき寄せる。
レスラーは下着を奪うべく要を標的にしていた。
要は交わしながら背後から強烈な一撃を腰に叩きこんだ。
不意を突かれたレスラーが苦悶の表情を浮かべたが、体重に任せて上から組み敷いて床に押し倒れてきた。レスラーのごつごつした手が下半身に伸びてきた……。
「スカート短っ! これじゃ天魔じゃなくとも……」
景達は寮内早速侵入した。水着の上にパッションインナーを付けて入念に準備を進めるがやはりものすごくスカートが短い。かなり恥ずかしかった。
夜まではか弱そうな女子の演技をして、いつもの眼鏡で読書や勉強と大人しく過ごす。
時間がそろそろなので一行は脱衣所に向かった。
シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――
風呂場に入った春樹はすぐにシャワーを浴び始める。
湯気が蔓延して姿はよく見えないが、美少女が艶めかしい姿で水を浴びているように遠目からは映った。近くで見ていた景も思わずスタイルの良さに見惚れる。
「ねえ、ねえ最近変な変態がでるらしいよ」
二人はまるで本当の学生のように噂話を始めた。
その時だった。不意に変な予感がして春樹は後ろを振り返る。
「ヒッ」と息をのむ様な音を立て、バスタオルを巻きつけて蹲り、怯えた様に震える。
後ろから侵入してきたのはオッサンのマネキン。
片手には金属バッドを手にしている。一目見て「ヘンタイ☆」だった。
あまりの醜悪さに景の判断が一瞬遅れた。ヘンタイの魔手が素早く動いていた。
景が脱いで置いていた下着を頭から被ってしまう。そのまま金属バッドを振り上げて春樹のも奪おうと迫ってきた。春樹は乙女のように体をくねらせたまま動かない。
「さて、案の定引っかかったみたいだね。このまま一網打尽にさせてもらうよ」
絶体絶命の危機を救うべく、アサニエル降りてきて、ド派手なパンツを見せつける。
「今日の勝負下着だよ! 受け取りな!」
アサニエルはピンクのすけすけの面積のすごい小さい下着を放り投げた。
オッサンはそちらに飛びかかる。
その瞬間、春樹は電光石火に動いていた。
素早く身を起こすと刀を思いっきり突き付けて牙突を繰り出す。
「はい、残念。それにしても面白いように簡単に釣れたね」
オッサンの脇腹に命中してうなり声を上げた。
ゼロ距離射程からの牙突に撃たれてオッサンはよろめいた。何とか風呂場から脱出しようと試みるがその隙を狙っていたのは秋姫だ。
「……一撃……必中!」
絶体絶命の最中に秋姫が狙撃した。
見事にオッサンの目にあたって苦しみにもがいた。
オッサンが逃げようとして空かさずそうはさせないと回り込んだ秋姫は、巻きつけた「布槍」を引き寄せて阻止することに成功する。
女の敵は絶対に許すわけにはいかない。今がチャンスだった――
「手に持ってるモノを降ろして、しばらく大人しくしてもらうさね」
アサニエルがオッサンの体に一撃を食らわせる。オッサンは呻き叫んだ。
秋姫はかかと落としを食らわせて首を折り、さらに顔面を床にめり込ませた所を狙ってさらに高く上に蹴り上げた。墜ちてくるレスラーに冷たい一言を放つ。
「……遺言は……もう……いいですか……?」
馬乗りになって体重を掛けて一気に双斧で頭を派手に叩く。
秋姫の華麗な技が派手に決まった。
金属バットを手放したすきに下着を奪われて怒った景も迫ってくる。
「バットというのはね……こう使うのよ!」
思いっきりバットを振りかぶると敵の頭を叩きつける。
その瞬間に、オッサンの頭は粉々に破壊されて風呂場に散った。
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「話だと直ぐに盗みに来るみたいだけど、来るまでは待機だねー。
寝ちゃう前に来て欲しいのだー」
服を全て脱いで寝巻に着替えた楓が呟く。
大きなあくびをしながら寝室のベッドにもぐりこむ。
お子様は寝る時間だった……。
思わず見ていた朔耶が大丈夫か、と突っ込みを入れたくなる。
「こんなナリだから、乙女な反応は出来ないけどそれっぽっくしなきゃね」
寝間着に着替える動作をしつつ、朔耶が脱いだ衣服で携行品と武器を隠す。
全身に艶めかしいタトゥが現れ色気を誘う。
その時だった。窓の外からヘンながした。恐る恐る近づくと、窓の外からまるでジャンプするように画びょうを持ったイケメンのマネキンが現れた。
「こ、この変態っ!」
自然な形で短く叫んだ。すぐに足元を防御するシューズに履きかえる。
イケメンはすぐに下着を物色し始めた。押入れの方へと金属バッドを叩きつけて中からいい匂いのする下着を取り出して頭から被ろうとする。
「ふやああああああああ!!」
今まさに寝ていた所を叩き起こされた楓が叫ぶ。
イケメンはすぐに部屋から逃げ出そうと廊下に出る。
あまりの醜悪ぶりにどうしていいかわからない。
だが、すぐに気を取りなおして撒かれた画びょうを全力で跳躍しながら追いかける。
「あっちへいったよ!」
朔耶と楓は手分けてして部屋の脇へとイケメンを追い詰める。
同じ部屋の窓から雅も飛びこんで来てイケメンをついに包囲することに成功する。
だが、イケメンも負けていない。
頭に被っていた悪臭のブーメランパンツを雅に向かって投げつける。
ものすごく臭い悪臭のブーメランが跳んできて髪を掠めた。
危機一髪だった。あれに当たるかと思うとゾッとする。
そう油断していた時に、ブーメランパンツが文字通りブーメランのように戻ってきて、楓の後頭部にヒットしてしまった。
「ぎゃあああああああああああああ」
楓がもがくほどブーメランパンツが張り付いて離れない。
「異臭の放つ下着で攻撃とかやめてよね」
朔耶がグルカナイフを片手にブーメランを切り裂く。続いて傍に迫っていたイケメンの顔目がけてわざと傷つけるように切り裂いた。
自慢の顔をひどく斬りつけられたイケメンは狼狽する。
「この外道が……貴様には死すらなまぬるい」
怒り狂った雅がついに奥の手を出す。
懐に忍ばせていた下着をディアボロに投げつけた。
目隠し押されて身動きがとれないディアボロは苦しんで――ではなくて何故かとても興奮したように喜んでいた。思わずその光景に雅も背筋が凍る。
だが、気を取り戻して雅が気のオーラで叩きこん で敵を封じた。
「あたしの足技をしかと見るのだ♪踵落とし、食らうのだー!」
ベッドの上から無邪気に飛び降りたのは楓。
思いっきり跳躍して全体重を載せて脚を振り上げる。
一瞬、イケメンは上を見上げた。
白のくまさんだった。
「これでお終いなのだ! 必殺のトンファーキーック!!」
その瞬間、イケメンは顔を潰されて息絶えた。
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要はレスラーに馬乗りにされて耐えていた。
絶対絶命の危機に景とバスタオルを巻いた春樹が救援にやってくる。
敵の不意を突いて景がバッドで殴りとばして、その隙に春樹が景を助け出すことに成功した。ずっと馬乗りにされていた要は怒っていた。
「絶対に乙女――ではなく男の敵を許しません」
全力 跳躍で 垂直に飛び、上から渾身の力と降下重力を込めた重い一撃をお見舞する。
その瞬間にレスラーは仰向けになって首をもがれて動かなくなった。
ディアボロ達を全て倒して撃退士達はほっと息を撫で下ろす。
寮内への被害も最小限に食い止めることができていた。
「使う予定の無い下着でも役に立つもんだね」
普段履いてないし、とぼそりとアサニエルは重大な発言をする。
特に気にした素振りもなく堂々としている。
アサニエルはミニスカートをはためかせて颯爽と去って行った。
「……下着なしで帰るのは……」
対照的に下着がディアボロによってべとべとにされてしまった景は困惑していた。
あれはもうは絶対に履きたくない――だからといって。
「まあ、いいじゃん、みんなノーパンで帰ろう」
朔耶がげらげらと笑いながら答える。
横にいた美少女に同意を求めようとした時だ。
ふと辺りを見渡すとなんちゃって男の娘の姿はない。
もうすでに美少女の春樹の姿は帰途について影も形も見えなかった。